説明

超音波診断装置、超音波診断システムおよびこれらに用いる検査用治具

【課題】有機圧電素子の感度低下等の機能劣化が生じても高精細な超音波画像を得ることができる超音波診断装置、超音波診断システムおよび検査用治具を提供する。
【解決手段】有機圧電素子21が第2超音波信号を受信電気信号に変換する受信感度の低下度合いを予め検出しておき、受信感度の低下度合いを補正して超音波画像を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子によって被検体へ送信され反射された超音波信号を受信する超音波信号を基に被検体内部の超音波画像を生成する超音波診断装置、超音波診断装置システムおよびこれらに用いる検査用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を無侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等、多くの特長を有し、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿器科系(腎臓、膀胱)、および産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波診断装置に使用される超音波探触子は、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、圧電素子の圧電効果が一般的に利用される。さらに、画像の分解能や高精細さ、或いは、スペックルノイズの低減、アーチファクトの低減等には、圧電素子の広帯域化が有用であり、そのような特性を持つ圧電素子が望まれていた。
【0004】
高調波信号を用いた組織ハーモニックイメージング(THI)診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから、標準的な診断モダリティとなりつつある。ハーモニックイメージングは、基本波に比較して、サイドローブレベルが小さいことで、S/Nが良く、コントラスト分解能が良くなること、周波数が高くなることでビーム幅が細くなり横方向分解能が良くなること、近距離では音圧が小さく、さらに音圧の変動が少ないので多重反射が起こらないこと、焦点以遠の減衰は基本波並みであり、高調波の超音波は基本波の超音波に比べ深速度を大きく取れること、という多くの利点を有している。
【0005】
しかし、前記のような従来の超音波探触子は、使用中心周波数foが予め設定されてしまうので、その周波数によって生体の診断深さが決まってしまい、診断深さに自由度がなく、制限を受けるという問題がある。このため、1〜5MHzの低周波の超音波探触子は深部を、6〜10MHzの周波数の超音波探触子は中程度の深さを、11〜25MHzの高周波の超音波探触子は生体の表面に近い部位を診断するという具合に、超音波探触子を使い分けるのが定法となっていた。このような超音波探触子の使い分けは、超音波診断の現場において、使用者の診断速度向上を妨げるものであり、改善が望まれていた。
【0006】
そこで、新規な取り組みとして、送信用にはPZTのようなセラミック圧電素子を低周波に使用し、受信用にPVDFのような広帯域の有機圧電素子を高周波に利用する方法が提案された(非特許文献1,2)。有機圧電素子の広帯域性により、超音波探触子を使い分ける必要がなくなった。
【0007】
しかしながら、有機圧電素子の受信感度は、長期の使用によって低下し、超音波画像を劣化させるという不具合が生じる。
【0008】
このような超音波探触子の問題を解決するための提案がなされている。例えば、超音波探触子から超音波信号を、大気に暴露した超音波探触子の音響窓に向かって送信させ、音響窓と空気との界面において反射して戻るエコーを受信し、受信したエコーを解析して、超音波探触子の動作を確認するというものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−238243号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】The Journal of the Acoustic Society of America −−May 1998 Volume103、Issue 5, p.3041 「Study of compund structured ultrasonic tranducer made of PZT/PVDF」 Moor Joon Kim et. al.
【非特許文献2】「PZT/PVDF多層構造の超音波複合圧電素子の研究」(中国南京大学音響学研究所の南京大学報:数学半年刊1999年5期頁636ー638)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術を用いれば、
超音波探触子における受信用の圧電素子の動作を確認することはできるが、各圧電素子が受信感度低下などの動作不良を生じている場合に、超音波診断の結果物である超音波画像を改善することはできない。
【0012】
本発明は、有機圧電素子の感度低下等の機能劣化が生じても高精細な超音波画像を得ることができる超音波診断装置、超音波診断システムおよび検査用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的は、下記に記載する発明により達成される。
【0014】
1.被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、前記第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、前記第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、前記高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段とを有し、
前記検査用高調波発生手段で発生させた高調波を前記受信用素子で受信することで、該受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、該検出結果を前記画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が前記受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させていることを特徴とする超音波診断システム。
【0015】
2.前記送信用素子を形成する圧電材料は無機圧電材料であり、前記受信用素子を形成する圧電材料は有機圧電材料であることを特徴とする前記1に記載の超音波診断システム。
【0016】
3.前記有機圧電材料は、フッ化ビニリデンの重合体、または、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体であることを特徴とする前記2に記載の超音波診断システム。
【0017】
4.前記高調波周波数成分は3次高調波成分であることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【0018】
5.前記検査用高調波発生手段は、前記送信用素子、前記受信用素子とは別に設けられており、無機圧電材料からなる無機圧電素子であることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【0019】
6.前記送信用素子と前記受信用素子とを備えた超音波探触子を有し、
前記検査用高調波発生手段は、前記送信用素子から送信される第1超音波信号を高調波周波数成分の周波数に変換させる機能を有し、前記超音波探触子に着脱できる構造であることを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【0020】
7.前記超音波診断システムは、少なくともコンピュータ断層撮影装置、核磁気共鳴画像法装置、ポジトロン断層法装置、または、画像サーバのいずれか一つを有することを特徴とする前記1から6のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【0021】
8.操作入力部と、該操作入力部の操作に応じて操作信号を発生する制御部と、通信回線を介して前記制御部が外部と通信する通信部と、を有することを特徴とする前記1から7のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【0022】
9.被検体内に超音波信号を送信する送信用素子から送信される前記超音波信号を、高調波周波数成分の周波数に変換させることを特徴とする検査用治具。
【0023】
10.被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、前記第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、前記第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部とを有し、
前記高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段で発生させた高調波を前記受信用素子で受信することで、該受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、該検出結果を前記画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が前記受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させていることを特徴とする超音波診断装置。
【0024】
11.前記検査用高調波発生手段を内蔵していることを特徴とする前記10に記載の超音波診断装置。
【0025】
12.前記検査用高調波発生手段は、治具であり、前記受信用素子の受信感度補正時に取り付けて使用することを特徴とする前記10または11記載の超音波診断装置。
【発明の効果】
【0026】
有機圧電素子の感度低下等の機能劣化が生じても高精細な超音波画像を得ることができる超音波診断装置、超音波診断システムおよび検査用治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態における超音波診断装置Sの外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態における超音波診断装置Sにおける超音波探触子2のデバイス構成を示す模式図である。
【図4】実施形態における補正係数取得処理のフローを表すフローチャートである。
【図5】実施形態における合成回路の一例である。
【図6】実施形態における所定の振幅を有する基本波、第2高調波、第3高調波と、基本波、第2高調波、第3高調波を合成した合成波の模式図である。
【図7】実施形態における受信感度の低下度合いの算出方法を示す概要図である。
【図8】実施形態における受信信号基準データ記憶部に記憶させてある受信信号基準データ記憶テーブルの一例である。
【図9】実施形態における受信感度補正データ記憶部に記憶させてある受信感度補正データ記憶テーブルの一例である。
【図10】実施形態における使用者が補正画像生成処理を実施する際のフローチャートである。
【図11】実施形態における受信信号補正回路174を用いた場合の超音波診断装置Sの電気的なブロック図である。
【図12】受信信号補正回路を用いた場合の補正画像生成処理のフローチャートである。
【図13】実施形態における超音波診断装置Sの他の電気的な構成を示すブロック図である。
【図14】実施形態における検査用圧電素子を有する超音波探触子2の構成例を示す模式図である。
【図15】実施形態における。検査用圧電素子を有する超音波探触子2の構成例を示す模式図である。
【図16】検査用圧電素子を超音波探触子2に備えた検査用治具の一例の概略構成を示すものである。
【図17】超音波診断装置本体1に設けた保持治具86に検査用治具80を保持、すなわち超音波診断装置本体1に内蔵させる状態を示す概略図である。
【図18】人体と同様な超音波特性を有する材料を含んだ検査用治具の一例の概略構成を示すものである。
【図19】実施形態における超音波診断システムSYの電気的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を図面により説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られるものではない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0029】
図1は、実施形態における超音波診断装置Sの外観構成を示す図である。図2は、実施形態における超音波診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。図3は、実施形態の超音波診断装置Sにおける超音波探触子2のデバイス構成を示す模式図である。
【0030】
超音波診断装置Sは、図1に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信すると供に、被検体で反射した超音波の反射波(エコー、超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して超音波を送信させると供に、超音波探触子2で受信された被検体内からの超音波の反射波に応じて超音波探触子2で生成された受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0031】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力する操作入力部11と、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給することで超音波探触子2に超音波を発生させるよう駆動する送信部12と、超音波探触子2からケーブル3を介して受信信号を受信する受信部13と、受信部13で受信した受信信号に基づいて被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成する画像処理部14と、画像処理部14で生成された被検体内の超音波画像を表示する表示部15と、超音波画像等を記憶させる記憶部18と、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14、表示部15、および記憶部18を該機能に応じて制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う制御部16と、を備えて構成される。
【0032】
超音波探触子2の電気的な構成としては、超音波の送信用素子7と、超音波の受信用素子6と、受信信号比較回路171と、受信信号基準データ記憶部172と、受信感度補正データ記憶部173等とを備えている。
【0033】
送信用素子7には無機圧電素子22を採用し、受信用素子6には有機圧電素子21を採用する。受信信号比較回路171と、受信信号基準データ記憶部172と、受信感度補正データ記憶部173との機能は後述する。
【0034】
超音波探触子2にはケーブル3が備えられ、ケーブル3の超音波診断装置本体1側にはコネクタ8が備えられ、超音波診断装置本体1と電気接続されている。コネクタ8は超音波診断装置本体1と着脱可能である。
【0035】
無機圧電素子22は無機圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって受信信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる。有機圧電素子21は有機圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間で相互に信号を変換することができる。
【0036】
有機圧電材料は、例えば、フッ化ビニリデンの重合体を用いることができる。また例えば、有機圧電材料は、フッ化ビニリデン(VDF)系コポリマ、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体を用いることができる。
【0037】
このような構成の超音波探触子2のデバイス構成として、例えば、図3に示すデバイス構成を例示することができる。以下に説明する。
【0038】
超音波探触子2のデバイス構成としては、平板状の音響制動部材23と、この音響制動部材23の上に積層された音響整合層31と、この音響制動部材23の一方主面上に支持されて積層された複数の無機圧電素子22を備えた無機圧電素子アレイ4と、これら複数の無機圧電素子22同士の隙間に音響分離材を充填して作製される音響分離部24と、これら複数の無機圧電素子22上に積層された共通接地電極25と、この共通接地電極25上に積層される音響整合層26と、この音響整合層26上に積層される有機圧電素子21を備えた有機圧電素子アレイ5と、この有機圧電素子21上に積層される音響整合層27と、外部からの電気信号を受ける導電パッド28と無機圧電素子22の電極とを接続する第1信号線29と、外部からの電気信号を受ける導電パッド28と有機圧電素子21の電極とを接続する第2信号線30などが積層された構成となっている。
【0039】
音響制動部材23は、超音波を吸収する材料から構成され、複数の無機圧電素子22から音響制動部材23方向へ放射される超音波を吸収するものである。
【0040】
音響整合層31は、音響制動部材23と無機圧電素子22の各々の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、音響制動部材23と無機圧電素子22の音響インピーダンスの整合を図る。
【0041】
各無機圧電素子22は、無機圧電材料から構成される圧電素子101における互いに対向する両面にそれぞれ電極102、103を備えて構成される。複数の無機圧電素子22は、互いに所定の間隔を空けて平面視にて2次元状に配列され、音響制動部材23上に配置されている。
【0042】
複数の無機圧電素子22は、超音波を送信するように構成されている。より具体的には、複数の無機圧電素子22には、送信部12からケーブル3と導電パッド28、第1信号線29を介して電気信号が入力される。この電気信号は、無機圧電素子22の電極102と電極103との間に入力される。複数の無機圧電素子22は、この電気信号を超音波信号に変換することによって超音波信号(第1超音波信号とも称す)を送信する。
【0043】
音響分離部24は、無機圧電素子22の音響インピーダンスに比して値が大きく異なる低音響インピーダンス樹脂から構成され、音響インピーダンスが大きく異なることにより、音響分離材として働き、これら複数の無機圧電素子22の相互干渉を低減する機能を有する。音響分離部24によって各無機圧電素子22間におけるクロストークの低減が可能となる。
【0044】
共通接地電極25は、導電性の材料から構成され、図略の配線によって接地されており、そして、複数の無機圧電素子22上にまたがって直線状に積層されることによってこれら無機圧電素子22における各電極103を電気的に接地している。
【0045】
音響整合層26は、有機圧電素子21と無機圧電素子22の各々の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、有機圧電素子21と無機圧電素子22の音響インピーダンスの整合を図る。
【0046】
有機圧電素子21は、所定の厚さを持った平板状の有機圧電材料から成る圧電素子105と、圧電素子105の一方主面に形成された互いに分離した複数の電極106と、圧電素子105の他方主面に略全面に亘って一様に形成された電極107とを備えて構成されている。圧電素子105は一つのシート状の圧電素子である。
【0047】
複数の電極106が圧電素子105の一方主面に形成されることによって、有機圧電素子アレイ5は、1個の電極107と圧電素子105と電極106とから成る有機圧電素子21を2次元状に備えおり、各圧電素子が個別に動作する。
【0048】
有機圧電素子アレイ5における複数の有機圧電素子21は、個別に機能させるために無機圧電素子22のように個々に分離する必要がなく、一体的なシート状で構成することが可能である。
【0049】
有機圧電素子21は、反射波の超音波信号(第2超音波信号とも称す)が受信され、この第2超音波信号を電気信号(受信電気信号)に変換する。変換された受信電気信号は、有機圧電素子21における電極106と電極107とから出力される。変換された受信電気信号は、ケーブル3を介して受信部13へ出力される。
【0050】
第2信号線30は、外部からの電気信号を受ける導電パッド28と有機圧電素子21の電極106とを接続する。すなわち第2信号線30は有機圧電素子21の電極106から、音響整合層26、音響分離部24、音響整合層31、音響制動部材23を貫通して導電パッド28に接続されている。
【0051】
音響整合層27は、有機圧電素子21の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。音響整合層27は、円弧状に膨出した形状とされ、被検体に向けて送信される超音波を収束する音響レンズの機能を有する。
【0052】
このような構成の超音波診断装置Sでは、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16の制御によって送信部12で電気信号の送信信号が生成される。この生成された電気信号の送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2へ供給される。より具体的には、この電気信号の送信信号は、超音波探触子2における複数の無機圧電素子22へそれぞれ供給される。この電気信号の送信信号は、例えば、所定の周期で繰り返される電圧パルスである。複数の無機圧電素子22は、それぞれ、この電気信号の送信信号が供給されることによってその厚み方向に伸縮し、この電気信号の送信信号に応じて超音波振動するよう駆動される。この超音波振動によって、複数の無機圧電素子22は、共通接地電極25、音響整合層26、有機圧電素子21および音響整合層27を介して超音波を放射する。超音波探触子2が被検体に当接されていると、超音波探触子2から被検体に対して超音波が送信される。
【0053】
なお、超音波探触子2は、被検体の表面上に当接して用いられてもよいし、被検体の内部に挿入して、例えば、生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0054】
被検体に対して送信された第1超音波信号は、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、第2超音波信号となる。反射波には、送信された第1超音波信号の周波数(基本波の基本周波数)成分だけでなく、基本周波数の整数倍の高調波の周波数成分も含まれる。例えば、基本周波数の2倍、3倍および4倍などの第2高調波成分、第3高調波成分および第4高調波成分なども含まれる。第2超音波信号は、超音波探触子2で受信される。より具体的には、第2超音波信号は、音響整合層27を介して有機圧電素子21で受信され、有機圧電素子21で機械的な振動が受信信号として受信電気信号に変換されて取り出される。
【0055】
取り出された受信電気信号は、受信信号比較回路171を経て、ケーブル3を介して、制御部16で制御される受信部13で受信される。
【0056】
なお、受信信号比較回路171の機能については後述する。
【0057】
受信部13では、所定の受信処理が施される。受信部13の出力は画像処理部14に入力される。
【0058】
画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信部13で受信した受信信号に基づいて、送信から受信までの時間や受信強度などから被検体内の内部状態の画像(超音波画像)を生成し、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体内の内部状態の画像を表示する。
【0059】
実施形態における超音波探触子2および超音波診断装置Sでは、上述したように基本波の高調波が受信されるので、ハーモニックイメージング技術によって超音波画像を形成することが可能となる。このため、実施形態における超音波探触子2および超音波診断装置Sは、より高精度な超音波画像の提供が可能となる。そして、比較的パワーの大きい第2高調波と第3高調波が受信されるので、より鮮明な超音波画像の提供が可能となる。
【0060】
このように超音波画像を生成する超音波診断装置Sにおいて、有機圧電材料を備えて構成される有機圧電素子21は、通常、無機圧電材料を備えて構成される無機圧電素子22に比べて、耐久性に劣る。そのため、有機圧電素子21においては、第2超音波信号による機械的な振動が受信信号として受信電気信号に変換されて取り出される変換効率、すなわち受信感度が低下する場合がある。
【0061】
そこで、実施形態では、有機圧電素子21が第2超音波信号を受信電気信号に変換する受信感度の低下度合いを予め検出しておき、第2超音波信号から超音波画像を形成する際に検出結果をフィードバックし、受信感度の低下度合いを補正して超音波画像を形成する。すなわち、受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させる、という画像補正処理を実施する。
【0062】
以下に、画像補正処理について説明する。画像補正処理は受信感度の低下度合いを補正する補正係数を求める補正係数取得処理と、画像処理部14が画像処理を実施する際に、補正係数取得処理で得られた補正係数に基づいて超音波画像を生成する補正画像生成処理の二つの処理からなる。
(補正係数取得処理)
補正係数取得処理は、有機圧電素子21の受信感度の低下度合いを測定する処理であるので、所定の期間をおいて定期的に実施する処理である。
【0063】
有機圧電素子21が受信する超音波信号を送信する検査用高調波発生手段としての圧電素子(検査用圧電素子)を設ける。検査用圧電素子には、第1超音波信号を送信するために設けた無機圧電素子22を用いることができる。
【0064】
検査用圧電素子は、有機圧電素子21の受信感度を検査するために、超音波信号を送信する。有機圧電素子21の受信感度を計測することが目的であるので、第2超音波信号に含まれる基本波や高調波の周波数の各々の中心周波数を含んだ周波数の超音波信号であることが望ましいが、これに限るものではない。第2超音波信号に含まれる基本波や高調はと同様の帯域を有す必要はなく、帯域は広さには特に拘らなくてよい。検査用圧電素子には、有機圧電素子21の受信感度を検査する上で、送信する超音波信号の周波数を任意に変更できる図示しない駆動部が接続されており、制御部16で制御される。また、後述するように、送信部12中に異なる周波数を有する電気信号を合成する合成手段である合成回路を設けてもよい。
【0065】
後述するように、無機圧電素子22の代わりに、別途、圧電素子を設けても良い。以下は、無機圧電素子22を検査用圧電素子として用いることを前提として説明する。
【0066】
補正係数取得処理を実施するタイミングについては、例えば、超音波診断装置Sを起動させる際、または超音波診断装置Sを起動した後の所定時間経過後に自動で実施するようにしてもよい。また、有機圧電素子21の近傍に温度センサを設けておき、温度センサが検出する温度が所定温度以上変化した場合に自動で実施するようにしてもよい。
【0067】
有機圧電素子21に採用されるフッ化ビニリデン系コポリマの分極が壊れる温度は100度と無機圧電素子22に採用されるPZTに比べて小さいので環境温度の影響を受けやすい。そこで、超音波探触子2内に温度センサを設けて所定の温度(例えば60度)を越えた時点で補正係数取得処理を行ってもよい。
【0068】
使用者が自ら補正係数取得処理を実施する場合には、操作入力部11に補正係数取得処理の実施を開始できるように記憶部18に、プログラムを記憶させておいてもよい。
【0069】
例として、図4に、補正係数取得処理のフローを表すフローチャートを示し、本フローチャートに従って補正係数取得処理を説明する。以下の処理は使用者が装置を立上げた時に自動で実施される。
【0070】
最初にステップS1にて、制御部16は記憶部18から補正係数取得処理の一連の動作を実施するプログラムを呼び出し、制御部16内の図示しないRAM上に展開する。制御部16はプログラムからの指令に従って、一つの無機圧電素子22を選択し、所定の超音波信号を送信させる。
【0071】
次に、制御部16は、有機圧電素子21に無機圧電素子22から送信された超音波信号を直接受信させる(ステップS2)。無機圧電素子22からの超音波信号のみを有機圧電素子21で受信させることができるように、超音波探触子2を被検体に当接させない状態で実施することが好ましい。
【0072】
次に制御部16は、受信信号比較回路171に指令を送信し、受信信号比較回路171が受信信号基準データ記憶部172から受信感度基準データを取得させる(ステップS3)。
【0073】
受信信号基準データ記憶部172としては、例えば不揮発性RAMを採用し、予め受信感度基準データを記録しておく。
【0074】
次に、当該圧電素子の受信感度の補正係数を算出する算出手段である受信信号比較回路171を用いて補正係数を算出する(ステップS4)。なお、ステップS3とS4における受信感度の補正係数の算出手段については後述する。
【0075】
次に、制御部16は、受信信号比較回路171が算出した圧電素子の受信感度の補正係数を受信感度補正データ記憶部173に記憶させる(ステップS5)。
【0076】
ステップS1からS5までの動作を所定数の各有機圧電素子21に対して実施したかどうかをステップS6で判断する。所定数に達していなければステップS1に戻り、所定数に到達しておれば、本フローは終了する。
【0077】
ここで、上記のステップS4で説明した、受信感度の補正係数の算出手段について説明する。
【0078】
超音波診断においては、診断したい被検体の深度等の相違によって超音波診断に適する超音波の波長が異なる場合がある。そのため、被検体の深度に応じて用いる超音波信号の周波数を選択することが望ましい。また、超音波診断に用いる超音波信号の周波数に、基本周波数成分から高調波周波数成分まで含めた周波数を用いて超音波診断を行うことで使用者にとって有用な超音波画像を得ることができる場合がある。そこで、有機圧電素子21が超音波信号を変換する受信感度については、単一の周波数、また、複数の周波数を含めた周波数など、さまざまな組み合わせに応じた受信感度の計測を実施することが好ましい。さまざまな周波数の超音波信号を合成するために、送信部12中に異なる周波数を有する電気信号を合成する合成手段である合成回路を設ける。
【0079】
図5は合成回路の一例である。オペアンプAMPに入出力端に抵抗Rfを渡し、入力端に抵抗R1,R2,R3を直列に配線する。各抵抗R1,R2,R3に例えば、基本波(電圧V1)、第2高調波(電圧V2)、第3高調波(電圧V3)を直列で入力するための図示しない基本波発生部、高調波発生部を接続する。基本波発生部、高調波発生部からの各電気信号は高周波であるので、このような図5で示す回路で合成できる。なお、基本波発生部からの電気信号の周波数は基本波の周波数と略同一でよいし、高調波発生部からの電気信号の周波数は各高調波の周波数と略同一でよい。有機圧電素子21の受信感度の補正係数の算出を行う上で、略同一の周波数で十分だからである。略同一とは、例えば、5%程度の誤差を許容するものである。
【0080】
合成した波形例を図6に示す。図6は、所定の振幅を有する基本波60、第2高調波61、第3高調波62と、基本波60、第2高調波61、第3高調波62を合成した合成波64の模式図である。基本波60を実線、第2高調波61を点線、第3高調波62を一点鎖線、合成波64を二点鎖線で表す。このように、合成回路を用いれば、各周波数の電気信号を合成することができる。
【0081】
このように、少なくとも一つの周波数の超音波信号が入力された状態において、受信感度の低下度合いの算出は次のように実施する。
【0082】
図7は、受信感度の低下度合いの算出方法を示す概要図である。
【0083】
図7において、実線は実測した受信信号である実測電気信号72の時間波形である。受信信号基準データ記憶部172には、実測電気信号72の受信感度が低下する前の理想的な振幅値が記憶されている。理想的な振幅値を有する基準受信信号71の時間波形を点線で示す。
【0084】
実測電気信号の振幅値A1は、有機圧電素子21の劣化により、基準受信信号の振幅値A0より小さくなっている。つまり、実測受信信号の振幅値A1は有機圧電素子21の劣化によって、基準受信信号の振幅値A0より、A1/A0倍小さくなっている。
【0085】
受信信号比較回路171においては、実測電気信号72の振幅値A1を計測し、振幅値A1をA0で除してA1/A0を導出する。すなわち、従って、実測受信信号から、あるべき基準受信信号への補正係数は、A0/A1であると算出される。
【0086】
A1をA0で除すために、受信信号比較回路171に図示しない割算回路を設ける。
【0087】
補正係数は温度依存性を有していてもよい。
【0088】
実測電気信号72の振幅値の実測を行う方法としては、例えば、図示しない公知のピークホールド回路を用いることができる。振幅値A1がピーク値であるので、A1の値を保持する回路である。また、所定時間、実測受信信号の電力を計測する公知の回路を用い、実測受信信号が正弦波であることを基にA1を算出することも容易にできる。
【0089】
また、受信信号比較回路171にデジタル回路を用い、実測電気信号72をデジタル化して振幅値A1を計測し、補正係数の算出を行う手法でも良い。デジタル回路は、アナログ回路を構成するよりも部品点数を少なく、安価に構成できるメリットがある。
【0090】
なお、受信信号基準データ記憶部172に記憶させてある受信感度基準データは、例えば、図8のように記憶されている。図8は、受信信号基準データ記憶部172に記憶させてある受信信号基準データ記憶テーブルの一例である。有機圧電素子21は21−1から21−nまでn個存在するとし、各々の有機圧電素子21の基準値をA01からA0nとして対応させている。
【0091】
また、補正係数A0/A1を算出する他の算出手段として、ファンクションジェネレータを受信信号基準データ記憶部172に採用して所定の時間波形を有する基準受信信号71を生成させ、受信信号比較回路171において、基準受信信号71と実測電気信号72とを時系列で割算する割算回路を設けることで算出する算出手段も採用できる。
【0092】
続いて、制御部16が、受信信号比較回路171が算出した圧電素子の受信感度の補正係数を受信感度補正データ記憶部173に記憶させるステップS5について詳細に説明する。
【0093】
上記したように、有機圧電素子21の受信感度の補正係数を算出した後に、受信感度補正データ記憶部173に補正係数を記憶させる。受信感度補正データ記憶部173としては、例えば、不揮発性RAMを用いることができる。受信信号基準データ記憶部172と同一の不揮発性RAMを用いても良い。受信感度補正データ記憶部173には、例えば、図9に示すように記憶させる。図9は、受信感度補正データ記憶部173に記憶させてある受信感度補正データ記憶テーブルの一例である。受信感度補正データ記憶テーブルにおいて、基準値は、21−1から21−nまでの有機圧電素子21に対応させて、A01からA0n、実測値は、同じくA11からA1n、補正係数は、同じく、A01/A11からA0n/A1nとなる。受信感度補正データ記憶テーブルには、少なくとも、有機圧電素子21と、対応する補正係数が記憶させればよい。
【0094】
なお、有機圧電素子21の受信感度を検査するために、無機圧電素子22が送信する超音波信号は、超音波診断を実施する場合と同じ信号であってもよいし、数周期分の正弦波でもよい。数周期分の正弦波の場合には、受信信号に発生するリンギングや歪みを測定することで有機圧電素子21に採用されるフッ化ビニリデン系コポリマの分極が壊れていないか確認することもできる。また、無機圧電素子22からチャープ信号を送信し、有機圧電素子21の受信信号にFFT解析を実施して、フッ化ビニリデン系コポリマの周波数特性を確認してもよい。無機圧電素子22が送信する信号は符号化した信号でもよい。以上が、補正係数取得処理である。
(補正画像生成処理)
続いて、補正画像生成処理について説明する。補正画像生成処理は、使用者が被検体に対して超音波探触子2を当接させて超音波診断を実施するに際し、画像処理部14が画像処理を実施するにあたって、補正係数取得処理で得られた補正係数に基づいて超音波画像を生成する処理である。
【0095】
図10は、使用者が補正画像生成処理を実施する際のフローチャートである。以下、図10を用いて説明する。
【0096】
最初に、ステップS11にて、使用者が操作入力部11に補正画像生成処理の実施の指示を入力する。すると、制御部16は記憶部18から補正係数取得処理の一連の動作を実施するプログラムを呼び出し、制御部16内の図示しないRAM上に展開する。制御部16はプログラムからの指令に従って、送信用圧電素子に第1超音波信号を送信させる。
【0097】
次いで、制御部16は、被検体に無機圧電素子22から送信され、反射して生成された第2超音波信号を有機圧電素子21に受信させる(ステップS12)。
【0098】
次いで、制御部16は、画像処理部14に、受信感度補正データ記憶部173から受信信号比較回路171が算出した圧電素子の受信感度の補正係数を取得する(ステップS13)。
【0099】
次いで、画像処理部14は補正係数を基に超音波画像を生成する(ステップS14)。具体的には、各有機圧電素子21の受信感度を、得られた補正係数を基に補正し、有機圧電素子21に劣化がない場合と同じ状態にして、通常の画像生成の動作を実施する。なお、各有機圧電素子21の受信感度は予め記憶部18等に記憶させておく。
【0100】
次いで、表示部15は、画像処理部14で得られた超音波画像を表示し(ステップS15)、本フローは終了する。
【0101】
以上のように、補正画像生成処理によれば、補正係数取得処理にて取得した、各有機圧電素子21の受信感度の低下を補正する補正係数を基に、超音波画像を補正して生成することができ、高精細な超音波画像を表示することができる。
【0102】
得られた補正係数を基に、超音波画像を補正する役割を、以上のように画像処理部14に持たせてもよいし、画像処理部14へ出力する電気信号を、予め補正する回路である受信信号補正回路174を設け、受信信号補正回路174からの出力を画像処理部14に入力してもよい。図11は受信信号補正回路174を用いた場合の超音波装置の電気的なブロック図である。受信信号補正回路174は、受信用素子6、受信感度補正データ記憶部173、および制御部16に繋がれている。受信信号補正回路174は、受信感度補正データ記憶部173に記憶されている補正係数を基に、受信用素子6からの入力信号を補正し、制御部16に出力する機能を有す。
【0103】
具体的には、補正係数分の掛算回路等でもよい。このような受信信号補正回路174を用いた場合の補正画像生成処理を、図12を用いて以下に説明する。図12は、受信信号補正回路174を用いた場合の補正画像生成処理のフローチャートである。
【0104】
最初に、ステップS21にて、使用者が操作入力部11に補正画像生成処理の実施の指示を入力する。すると、制御部16は記憶部18から補正係数取得処理の一連の動作を実施するプログラムを呼び出し、制御部16内の図示しないRAM上に展開する。制御部16はプログラムからの指令に従って、送信用圧電素子に第1超音波信号を送信させる。
【0105】
次いで、制御部16は、被検体に無機圧電素子22から送信され、反射して生成された第2超音波信号を有機圧電素子21に受信させる(ステップS22)。有機圧電素子21からの受信電気信号は、受信信号補正回路174に出力される。
【0106】
次で、受信信号補正回路174は、受信感度補正データ記憶部173に記憶されている補正係数を呼び出し、上記のような掛算回路等で、有機圧電素子21からの受信電気信号を補正して画像処理部14へ出力する(ステップS23)。
【0107】
次いで、画像処理部14は補正係数を基に超音波画像を生成する(ステップS24)。
【0108】
次いで、表示部15は、画像処理部14で得られた超音波画像を表示し(ステップS25)、本フローは終了する。
【0109】
なお、超音波装置の電気的なブロックは、図13に示すようなブロックでもよい。
【0110】
図13は、超音波診断装置Sの他の電気的な構成を示すブロック図である。図13に示すブロック図においては、受信信号比較回路171、受信信号基準データ記憶部172、受信感度補正データ記憶部173、受信信号補正回路174の全てを超音波診断装置本体1に納める形態となっている。
【0111】
以上のように、補正係数取得処理と、補正画像生成処理の二つの処理からなる画像補正処理を施すことで、低下した有機圧電素子21の受信感度を補正して高精細な超音波画像を得ることができる。
【0112】
ところで、上記の説明では、無機圧電素子22が検査用圧電素子を兼ねる構成を前提で説明したが、無機圧電素子22以外の検査用圧電素子を設けた超音波探触子2について説明する。図14、図15は、検査用圧電素子を有する超音波探触子2の構成例を示す模式図である。
【0113】
図14に示す超音波探触子2においては、図3に示した超音波探触子2の無機圧電素子22と有機圧電素子21の間に、検査用圧電素子である無機圧電素子32を配置する。無機圧電素子32の周辺には音響整合層26と同じ材料で構成される音響整合層33を設けて無機圧電素子22、有機圧電素子21間の音響整合をとる。無機圧電素子32は、無機圧電素子22と同様に、無機圧電材料から構成される圧電素子35と、圧電素子35を中心に互いに対向する両面にそれぞれ電極36、37を備えて構成される。電極36,37には図示しない配線を通じて送信部12から電圧が印加される。
【0114】
このように、無機圧電素子22と有機圧電素子21の間に、検査用圧電素子を配置することで、被検体からの第2超音波信号を妨げることなく有機圧電素子21で受信することができる。
【0115】
図15に示す超音波探触子2においては、図3に示した超音波探触子2の有機圧電素子21と音響整合層27の間に、検査用圧電素子である無機圧電素子32を配置する。具体的には、音響整合層27と電極107の間に、音響整合層38、39に囲まれた状態で無機圧電素子32を配置する。音響整合層38、39は音響整合層27、電極107との音響整合をとる材料であり、音響整合層27と同じ材料を用いても良く、例えば、ポリメチルペンテンを採用することができる。無機圧電素子32は、圧電素子35を中心に互いに対向する両面にそれぞれ電極36、37を備えて構成される。電極36,37には図示しない配線を通じて送信部12から電圧が印加される。
【0116】
このように、有機圧電素子21と音響整合層27の間に、検査用圧電素子である無機圧電素子32を配置することで、有機圧電素子21は被検体から第2超音波信号が反射してくる方向と同一の方向から検査用圧電素子の超音波信号を受信できる。従って、超音波診断時の状況に近い状況で超音波信号を受信できるので、有機圧電素子21の補正係数を正確に計測できる。
【0117】
以上のように、無機圧電素子22以外の検査用圧電素子を設けることで、第1超音波信号を送信する無機圧電素子22を用いる必要がなくなるので、無機圧電素子22の寿命を保つことができる。
【0118】
次いで、有機圧電素子21の受信感度の計測を、検査用治具を用いて行う例について図16から図18を用いて説明する。
【0119】
上記の例では、超音波探触子2に備えられた無機圧電素子22を検査用圧電素子に採用したが、検査用圧電素子を超音波探触子2の外部に備えてもよい。検査用圧電素子は超音波探触子2の外部に備えることで、検査用圧電素子が故障した場合等にも直ぐに交換できる等、メンテ上のメリットを有す。
【0120】
また、検査用圧電素子から高次高調波を送信し、有機圧電素子21に直接受信させていた。これに対し、高次高調波を発生させず、人体と同様な超音波特性を有する材料を含んだ検査用治具に基本波を送信し、検査用治具から反射する高次高調波を含んだ反射超音波信号を受信して有機圧電素子21の受信感度を計測することもできる。かかる検査用治具を採用することで、高次高調波を生成する回路等を不要とすることができる。
【0121】
図16は、検査用圧電素子を超音波探触子2に備えた検査用治具の一例の概略構成を示すものである。同図(a)において、80は該検査用治具を示す。検査用治具80には検査用圧電素子82、検査用圧電素子82を含んだ材料81が備えられている。検査用圧電素子82は例えば無機圧電素子であり、ケーブル84を介して検査用治具駆動回路83に電力を供給されることで駆動される。検査用治具駆動回路83は、検査用治具80の外部に設けてもよいし、検査用治具80の内部に設けてもよい。また、超音波診断装置本体1の内部に設けてもよい。検査用圧電素子から超音波信号85が送信される。
【0122】
材料81には、例えば、脂肪族系又は芳香族系から選択された非反応系希釈剤で希釈したポリブタジエンポリオールとジフェニルメタンジイソシアネートとからなる反応系樹脂を主成分とし、有機粉体フィラーを均一に分散させたウレタン樹脂が望ましい。また、有機粉体フィラーの比重とウレタン樹脂の比重とを近似させることがより望ましい。
【0123】
かかる検査用治具80に超音波探触子2の送信面を接触させて用いる。同図(b)は、超音波探触子2をチャッキングした検査用治具80の断面の概略図である。超音波探触子2は検査用治具80に備えられた図示しない着脱機構によって着脱可能である。同図(c)は、検査用治具80に超音波探触子2をチャッキングした状態の概略図である。このように、超音波探触子2を検査用治具80にチャッキングすると送信面が検査用治具80に埋め込まれた状態になる。
【0124】
検査用治具80は超音波診断装置本体1に内蔵させておくことが望ましい。
【0125】
図17は、超音波診断装置本体1に設けた保持治具86に検査用治具80を保持、すなわち超音波診断装置本体1に内蔵させる状態を示す概略図である。保持治具86は、例えば同図に示すように籠型をしており、ケーブル84を逃がすことができるように溝が設けられている。保持治具86にはかかる籠型以外にも保持機能を有する治具であればどのようなタイプでもよい。
【0126】
図18は、人体と同様な超音波特性を有する材料を含んだ検査用治具の一例の概略構成を示すものである。同図(a)において、90は該検査用治具を示す。検査用治具90には人体と同様の材料(ウレタン樹脂等)91が充填されている。超音波探触子2が所定の超音波信号を送信すると、材料91中を超音波信号92が伝搬し、反射超音波信号93が生成され、超音波探触子2における有機圧電素子21が受信する。
【0127】
以上のように、超音波探触子2の外部に備えた治具を用いて有機圧電素子21の受信感度を計測する際に、有機圧電素子2に受信させる反射超音波信号を生成することができる。
【0128】
次いで、以上のような超音波診断装置Sを備えた超音波診断システムSYについて図19を用いて説明する。図19は、超音波診断システムSYの電気的な構成を示すブロック図である。
【0129】
超音波診断システムSYは超音波診断装置Sの他に、コンピュータ断層撮影装置(Computed Tomography,CT)95、画像サーバ96、リモート装置R等を有する。この他に、核磁気共鳴画像法装置(magnetic resonance imaging,MRI)、ポジトロン断層法(positron emission tomography;PET)等を有していてもよい。
【0130】
また、超音波診断装置本体1には検査用治具駆動回路97が備えられ、検査用治具90を駆動する。
【0131】
コンピュータ断層撮影装置とは、放射線などを利用して物体を走査しコンピュータを用いて処理し、人体の内部画像を構成する装置である。
【0132】
核磁気共鳴画像法装置とは、核磁気共鳴現象を利用して生体内の内部の情報を画像化する装置である。
【0133】
ポジトロン断層法とは陽電子検出を利用したコンピュータ断層撮影技術である。
【0134】
これらの各装置は、通信回線であるネットワーク45を介して通信する。
【0135】
リモート装置Rは、超音波診断装置Sへの指示等を入力する操作入力部41、超音波画像等を表示する表示部42、超音波診断装置本体1との通信機能を有する通信部43、そしてこれら操作入力部41と表示部42と通信部43とを制御するリモート制御部44を備える。
【0136】
このような超音波診断システムSYにおいては、リモート装置からの指示で上記した画像補正処理を実施することができる。例えば、超音波診断装置本体1の操作入力部11と表示部15の機能を、リモート装置Rにおける各々操作入力部41と表示部42に担わせる。そして、操作入力部41への操作情報(操作信号)をリモート制御部44の制御により通信部43、46を介して制御部16へ送信する。そして制御部16に、上記したような画像補正処理を実施させる。以上のような動作により超音波診断システムSYにおいても、低下した有機圧電素子21の受信感度を補正して高精細な超音波画像を得ることができる。
【0137】
以上のように、被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、受信電気信号から被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、超音波画像を表示する表示部と、前記高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段とを有し、検査用高調波発生手段で発生させた高調波を受信用素子で受信することで、受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、検出結果を画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させることができる超音波診断システムを提供することができる。
【0138】
また、被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部とを有し、高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段で発生させた高調波を受信用素子で受信することで、受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、検出結果を前記画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が前記受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させる超音波診断装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
3 ケーブル
4 無機圧電素子アレイ
5 有機圧電素子アレイ
6 受信用素子
7 送信用素子
8 コネクタ
11 操作入力部
12 送信部
13 受信部
14 画像処理部
15 表示部
16、18 制御部
21 有機圧電素子
22 無機圧電素子
23 音響制動部材
24 音響分離部
25 共通接地電極
26 音響整合層
27 音響整合層
28 導電パッド
29 第1信号線
30 第2信号線
31 音響整合層
32 無機圧電素子
33 音響整合層
35 圧電素子
41 操作入力部
42 表示部
43 通信部
44 リモート制御部
46 通信部
71 基準受信信号
72 実測電気信号
101 圧電素子
102、103 電極
105 圧電素子
106、107 電極
171 受信信号比較回路
172 受信信号基準データ記憶部
173 受信感度補正データ記憶部
174 受信信号補正回路
R リモート装置
S 超音波診断装置
SY 超音波診断システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、前記第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、前記第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、前記高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段とを有し、
前記検査用高調波発生手段で発生させた高調波を前記受信用素子で受信することで、該受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、該検出結果を前記画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が前記受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させていることを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
前記送信用素子を形成する圧電材料は無機圧電材料であり、前記受信用素子を形成する圧電材料は有機圧電材料であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断システム。
【請求項3】
前記有機圧電材料は、フッ化ビニリデンの重合体、または、フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の超音波診断システム。
【請求項4】
前記高調波周波数成分は3次高調波成分であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【請求項5】
前記検査用高調波発生手段は、前記送信用素子、前記受信用素子とは別に設けられており、無機圧電材料からなる無機圧電素子であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【請求項6】
前記送信用素子と前記受信用素子とを備えた超音波探触子を有し、
前記検査用高調波発生手段は、前記送信用素子から送信される第1超音波信号を高調波周波数成分の周波数に変換させる機能を有し、前記超音波探触子に着脱できる構造であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【請求項7】
前記超音波診断システムは、少なくともコンピュータ断層撮影装置、核磁気共鳴画像法装置、ポジトロン断層法装置、または、画像サーバのいずれか一つを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【請求項8】
操作入力部と、該操作入力部の操作に応じて操作信号を発生する制御部と、通信回線を介して前記制御部が外部と通信する通信部と、を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断システム。
【請求項9】
被検体内に超音波信号を送信する送信用素子から送信される前記超音波信号を、高調波周波数成分の周波数に変換させることを特徴とする検査用治具。
【請求項10】
被検体内に第1超音波信号を送信する複数の送信用素子と、前記第1超音波信号が前記被検体内において反射されて生成され、前記第1超音波信号の基本周波数成分または高調波周波数成分の周波数を有する第2超音波信号を受信して受信電気信号に変換する複数の受信用素子と、前記受信電気信号から前記被検体内の超音波画像を生成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部とを有し、
前記高調波周波数成分の周波数を発生させる検査用高調波発生手段で発生させた高調波を前記受信用素子で受信することで、該受信用素子の高調波受信感度の低下度合いを検出し、該検出結果を前記画像処理部による処理にフィードバックすることで、超音波画像が前記受信用素子の高調波受信感度の低下の影響による画質劣化の影響を抑制させていることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項11】
前記検査用高調波発生手段を内蔵していることを特徴とする請求項10に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記検査用高調波発生手段は、治具であり、前記受信用素子の受信感度補正時に取り付けて使用することを特徴とする請求項10または11記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−5023(P2011−5023A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152285(P2009−152285)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】