説明

距離測定方法

【課題】精度を落とすことなく短時間で距離を測定することが可能な距離測定方法を提供すること。
【解決手段】距離測定方法は、参照波について第1サンプリング周波数faの下で標本データF[i]を生成し、これを第2サンプリング周波数fbのデータにダウンサンプリングするとともに互いに位相の異なる複数の相関用データf[k,l]を生成する準備工程と、測定波について第2サンプリング周波数fbの下で測定データg[m]を生成する測定工程と、測定データと複数の相関用データのそれぞれとの相対位置をずらしながら相互相関値Sのピークを検索するピーク検索工程と、特定された相関最大位置S_max_iに基づいて算出される時間、特定された相関用データの標本データに対する位相差S_max_k/20に比例した時間、およびオフセット量Noffに基づいて算出される時間から距離を算出する距離算出工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互相関値の計算に基づいて距離を測定する距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波を用いた距離測定方法が知られている。この方法では、既知の超音波の伝播速度と、距離を測定するために送受信した超音波の受信器における到達時刻とに基づいて、送信器と受信器との間の距離を測定する。すなわち、送受信器との間の超音波の伝搬時間により距離を測定するため、この方法において距離の測定精度を高めるには、受信器における超音波の到達時刻を高精度で特定することが必要となる。
【0003】
超音波の到達時刻を精度良く特定するための方法の1つとして、相互相関値の計算に基づく方法が知られている。この方法では、測定のために送受信した測定波の形状と、予め測定しておいた参照波の形状とを比較し、これら測定波と参照波の位相が一致する時刻から、測定波の到達時刻を特定する。ここで、2つの波の位相が一致する時刻は、測定波の波形データと参照波の波形データとの相関値のピークを検索することにより特定される(特許文献1参照)。この方法によれば、波形形状のみにより到達時刻を特定できるため、送信器や受信器などの特性による位相遅延の影響が小さい、という利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/091012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような相互相関値の計算に基づく距離測定方法において、測定波の到達時刻を高い精度で特定するためには、波形データのサンプリング周波数を大きくする必要がある。より具体的には、波形データのサンプリング周波数を例えば500kHzとした場合、超音波の伝播速度を300m/secとすると、その分解能は0.6mm程度となる。
【0006】
しかしながら、サンプリング周波数を大きくし波形データのデータ量が大きくなると、相関値の演算に時間がかかってしまい、結果として距離の測定に時間がかかることとなる。このため、この方法を、生産ラインに設けられる産業機器などの即応性が要求される機器の制御に適用するのは困難であった。
【0007】
本発明は、相互相関値の計算に基づいて距離を測定する距離測定方法であって、精度を落とすことなく短時間で距離を測定することが可能な距離測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、超音波を送信する送信器(例えば、後述の送信器2)と、当該送信器から送信された超音波を受信する受信器(例えば、後述の受信器3)と、当該受信器からの出力信号を所定のサンプリング周波数の下でサンプリングし波形データ(例えば、後述の複数の相関用データや測定データなど)を生成する信号処理装置(例えば、後述の信号処理装置4)と、を備えた距離測定システム(例えば、後述の距離測定システム1)において、相互相関値の計算に基づいて距離を測定する距離測定方法(例えば、後述の図3に示す処理)を提供する。前記距離測定方法は、前記送信器および前記受信器により超音波である参照波を送受信し、前記受信器で受信した参照波について、所定の第1サンプリング周波数(例えば、後述の第1サンプリング周波数fa又はfa´)の下でサンプリングすることで標本データ(例えば、後述の標本データF[i]又はF2[j])を生成し、当該標本データを前記第1サンプリング周波数よりも小さい第2サンプリング周波数(例えば、後述のfb)のデータにダウンサンプリングするとともに互いに位相の異なる複数の相関用データ(例えば、後述の複数の相関用データf[k,m])を生成する準備工程(例えば、後述の図3中S21に示す処理、および図4に示す処理)と、前記送信器および前記受信器により超音波である測定波を送受信し、前記受信器で受信した測定波について、前記第2サンプリング周波数の下でサンプリングすることで測定データ(例えば、後述の測定データg[m])を生成する測定工程(例えば、後述の図3中S22に示す処理、および図6に示す処理)と、前記測定データと前記複数の相関用データのそれぞれとの相対位置(例えば、後述の図7に示す処理における変数i)をずらしながら、これらデータの相互相関値(例えば、後述の図7に示す処理における相互相関値S)のピークを検索し、当該相互相関値が最大となる相関用データの種類および相対位置を特定するピーク検索工程(例えば、後述の図3中S23に示す処理、および図7中S71およびS72に示す処理)と、前記ピーク検索工程で特定された相対位置(例えば、後述の相関最大位置S_max_i)に基づいて算出される時間をX(例えば、後述のS_max_i/fb)とし、前記ピーク検索工程で特定された相関用データの前記標本データに対する位相差(例えば、後述のS_max_k/20)に比例した時間をY(例えば、後述の(S_max_k/20)/fb)とし、所定の定数をC(例えば、後述のNoff/fb)としたとき、下記式、
距離=(X+Y+C)×測定波伝播速度、
により距離を算出する距離算出工程(例えば、後述の図3中S23に示す処理、および図7中S73に示す処理)と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明では、先ず準備工程では、一旦、第1サンプリング周波数の下で比較的細かくサンプリングすることで標本データを生成した後、この標本データから、互いに位相の異なる複数の相関用データを第1サンプリング周波数より低い第2サンプリング周波数のデータにダウンサンプリングすることで生成する。次に、測定工程では、上記複数の相関用データと同じ周波数である第2サンプリング周波数の下で測定データを生成する。次に、ピーク検索工程では、測定データと複数の相関用データのそれぞれの相対位置をずらしながら、これらデータの相互相関値のピークを検索し、相互相関値が最大となる相関用データの種類と相対位置とを特定し、距離算出工程では、特定した相対位置と相関用データの標本データに対する位相差などに基づいて、距離を算出する。
ここで、特に本発明では、測定データとの相互相関値を算出する相関用データとして、比較的細かくサンプリングして生成された標本データをダウンサンプリングすることにより、互いに位相の異なるものを複数準備する。このように、互いに位相の異なる複数の相関用データと測定データとの相互相関値のピークを検索することにより、測定データおよび相関用データのサンプリング周波数より実質的に高い精度で距離を算出することができる。すなわち、本発明によれば、単純に単一の測定データと相関用データとに基づいて測定波の到達時刻、ひいては距離を算出する従来の方法と比較して、測定精度を落とすことなくサンプリング周波数を小さくすることができる。したがって、従来と比較して、測定精度を落とすことなく測定データおよび相関用データのデータ量を減らし、相互相関値の計算量を減らすことができるので、短時間での距離の測定が可能となる。
【0010】
この場合、前記ピーク検索工程では、相互相関値のピークを検索する際、前記測定データおよび前記相関用データそれぞれの波形の傾きに基づいて前記測定データと前記相関用データとの明らかな相関の有無を判定し、明らかに相関があると判定された場合にのみ相互相関値を算出することが好ましい。
【0011】
本発明では、ピーク検索工程において相互相関値のピークを検索する際、測定データおよび相関用データそれぞれの波形の傾きに基づいて測定データと相関用データとの明らかな相関の有無を判定し、明らかに相関があると判定された場合にのみ相互相関値を算出する。これにより、不必要な相互相関値の計算を省くことができるので、さらに短時間での距離の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る距離測定方法が適用された距離測定システムの模式的な構成を示す図である。
【図2】上記実施形態に係る送信器から送信される超音波の波形形状の具体例を示す図である。
【図3】上記実施形態に係る距離測定方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】複数の相関用データ生成の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図5】標本データから複数の相関用データを生成する手順を模式的に示す図である。
【図6】測定データ生成の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図7】送受信器間距離算出の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図8】相互相関値のピークを検索する手順を模式的に示す図である。
【図9】測定データと相関用データとの間に略半波長分の位相差があり、これらデータの間に明らかに相関がない状態を示す図である。
【図10】測定データと相関用データとの位相が略一致しており、これら測定データおよび相関用データの間に相関があると考えられる図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る距離測定方法が適用された距離測定システム1の構成を示す模式図である。
距離測定システム1は、超音波を送信する送信器2と、送信器2から送信された超音波を受信する受信器3と、受信器3からの出力信号を処理する信号処理装置4と、信号処理装置4から送信されたデータに基づいて各種演算を行う演算装置5と、を含んで構成される。この距離測定システム1では、送信器2から所定のタイミングで送信された超音波を受信器3で受信するとともに、信号処理装置4および演算装置5により受信器3における超音波の到達時刻を相互相関値の計算に基づいて特定し、この到達時刻と既知の超音波の伝播速度から送信器2と受信器3との間の距離を測定する。
【0014】
送信器2は、信号処理装置4からのトリガ信号を受信したことに応じて、所定の波形形状の超音波を、受信器3へ向けて送信する。
図2は、送信器により送信される超音波の波形形状の具体例を示す図であり、受信器で受信した超音波から生成した後述の波形データをプロットした図である。本実施形態では、図2に示すように略中心において周波数が最大となるように周波数変調された波形形状の超音波を用いるが、本発明はこの形状に限るものではない。
【0015】
図1に戻って、受信器3は、送信器2から送信された超音波を受信し、電気信号に変換する。
信号処理装置4は、所定のタイミングでトリガ信号を送信器2に送信し、送信器2から超音波を送信させる。また、信号処理装置4は、受信器3からの出力信号を所定のサンプリング周波数の下でサンプリングし、受信器3で受信した超音波の波形を数値化した波形データを生成し、演算装置5に送信する。
演算装置5は、信号処理装置4から送信された波形データに基づいて、以下に示す各種演算処理を行うことにより距離を算出する。
【0016】
図3は、上記距離測定システムにより距離を測定する距離測定方法の手順を示すフローチャートである。
先ずS21では、S22およびS23に示す本測定工程に先立つ準備工程として、複数の相関用データを生成する。より具体的には、送信器および受信器により超音波である参照波を送受信し、受信器で受信した参照波に基づいて複数の相関用データを生成する。ここで送受信する参照波の波形形状としては、上述の図2に示すものが用いられる。なお、これら複数の相関用データ生成の詳細な手順については、後に図4および図5を参照して説明する。
【0017】
S22では、送信器および受信器により超音波である測定波を送受信し、受信器で受信した測定波に基づいて測定データを生成する。ここで送受信する測定波の波形形状としては、上述のS21において送受信される参照波と同じものが用いられる。なお、測定データ生成の詳細な手順については、後に図6を参照して説明する。
【0018】
S23では、S21で生成した複数の相関用データおよびS22で生成した測定データに基づいて、送受信器間の距離を算出する。なお、送受信器間の距離算出の詳細な手順については、後に図7から図10を参照して説明する。
【0019】
図4は、複数の相関用データ生成の具体的な手順を示すフローチャートである。
先ず、S41では、複数の相関用データの元となる波形データを生成し、S42に移る。より具体的には、このS41では、送信器および受信器により参照波を送受信し、受信器で受信した参照波について第1サンプリング周波数faの下でサンプリングし、波形データを生成する。本実施形態では、例えば、第1サンプリング周波数faを200MHzとし、参照波の周波数最大となる中心を含むように4000000点にわたって波形データを生成する。
【0020】
S42では、S41で生成した波形データのうち周波数が最大となる中心付近を切り出すことにより標本データを生成し、S43に移る。より具体的には、S41で生成した波形データに対し、図2において破線で示すように周波数が最大となる点を中心とした所定の幅の区間にわたってデータを切り出し、これを標本データF[i]とする。ここで“i”は、第1サンプリング周波数faの下で離散化した時間におけるサンプリング時刻を示す。
【0021】
本実施形態では、S41で生成した波形データから200000点のデータを切り出すことにより、標本データF[i](i=0〜199999)を生成する。また、このステップS42においてデータを切り出した区間の始点、すなわち標本データの始点から周波数が最大となる中心点までの間隔をオフセット量という。
【0022】
S43では、S42で生成した標本データF[i]に含まれるノイズを除去した後、S45に移る。より具体的には、ノイズを含んだ元の標本データF[i]に対し、所定のデータ数にわたる平均値を算出することにより、高周波数成分のノイズが除去された標本データF2[j]を生成する。ここで“j”は、第1サンプリング周波数faより小さなサンプリングfa´の下で離散化した時間におけるサンプリング時刻を示す。
【0023】
本実施形態では、ノイズを除去するために平均するデータ数を21点とする。これにより、10000点のデータからなる標本データF2[j](j=0〜9999)が生成される。またこの場合、標本データF2[j]のサンプリング周波数fa´は、第1サンプリング周波数faの1/20、すなわち10MHzとなる。
【0024】
図4中、S431〜S436には、標本データF[i]から、標本データF2[j]を生成する具体的な手順を示す。これらS431〜S436に示す手順によれば、サンプリング時刻が“0”、すなわち第0番目の標本データF2[0]のみ、第0番目の標本データF[0]と等しいものと定義される(下記式(1)参照)。また、第j番目(j=1〜9999)の標本データF2[j]は、それぞれ第20×j番目の標本データF[20×j]を中心とした前後10点にわたる合計21個の標本データF[20×j−10],F[20×j−9],…,F[20×j+10]の平均値により定義される(下記式(2)参照)。
F2[j]=F[j] (j=0) (1)
F2[j]=(F[20×j−10]+…+F[20×j+10])/21
(j=1〜9999) (2)
【0025】
S45では、標本データF2[j]から複数の相関用データを生成した後、図3のS22に移る。図5は、標本データF2[j]から複数の相関用データを生成する手順を模式的に示す図である。
このS45では、ノイズが除去された標本データF2[j]を第1サンプリング周波数faおよび上記サンプリング周波数fa´よりも小さい第2サンプリング周波数fbのデータにダウンサンプリングし互いに位相の異なる複数の相関用データを生成する。より具体的には、相関用データの種類ごとに位相をずらしながら第2サンプリング周波数fbの下で標本データF2[j]を間引くことにより、位相の異なる複数の相関用データf[k,l]を生成する。ここで、“k”は、相関用データの種類を示す指数であり、“l”は、第2サンプリング周波数fbの下で離散化した時間におけるサンプリング時刻を示す。
【0026】
本実施形態では、第2サンプリング周波数fbを、標本データF2[j]のサンプリング周波数fa´よりさらに20倍小さいfa´/20(=fa/400)とし、さらに相関用データの種類ごとに、標本データF2のサンプリング周期1/fa´だけ位相をずらしながら、単一の標本データF2[j]から合計20種類の相関用データを生成する。これにより、500点のデータからなる20種類の相関用データf[k,l](k=0〜19,l=0〜499)が生成される。また、第2サンプリング周波数fbは500kHzとなる。
【0027】
図4中、S451〜S457には、単一の標本データF2[j]から、20種類の相関用データf[k,l]を生成する具体的な手順を示す。
先ず、S451では、以下の処理により生成する相関用データの種類に相当する変数kを“0”にセットする。その後は、S457において変数kが20以上となるまで、S452〜S455に示す第k番目の相関用データの生成と、S456に示す変数kのインクリメントと、を繰り返し実行する。
【0028】
S452では、以下の処理により生成する相関用データの要素数(第2サンプリング周波数fbの下で離散化したサンプリング時刻に相当)に相当する変数lを“0”にセットする。その後は、S455において変数lが500以上となるまで、S453に示す処理と、S454に示す変数lのインクリメントと、を繰り返し実行する。
S453では、サンプリング時刻lにおける第k番目の相関用データf[k,l]を、下記式(3)に示すように、相関用データの種類ごとに、標本データF2のサンプリング周期1/fa´だけ位相をずらしながら、20点に1つの間隔で間引くことにより定義する。
f[k,l]=F2[20×l+k] (3)
【0029】
図6は、測定データ生成の具体的な手順を示すフローチャートである。
S61では、信号処理装置からトリガ信号を送信器に送信し、送信器から測定波を送信させ、S62に移る。
【0030】
S62では、受信器により測定波を受信し、受信した測定波について、上述の各相関用データf[k,l]のサンプリング周波数と同じである第2サンプリング周波数fbの下でサンプリングし、測定データg[m]を生成し、図3のS23に移る。ここで“m”は、第2サンプリング周波数fbの下で離散化した時間におけるサンプリング時刻を示す。本実施形態では、測定波の周波数最大となる中心を含むように、10000点にわたって測定データg[m](m=0〜9999)を生成する。
【0031】
図7は、送受信器間距離算出の具体的な手順を示すフローチャートである。
S71では、測定データg[m]のうち周波数最大となるサンプリング時刻g_max_mを抽出する。以下、この周波数最大となるサンプリング時刻g_max_mを中心時刻という。図7中、S711〜S715には、測定データg[m]から中心時刻g_max_mを抽出する具体的な手順を示す。先ず、S711では、変数mを“0”にセットする。その後、S715において、変数mが10000以上となるまで、S712およびS713に示す処理と、S714に示す変数mのインクリメントとを、繰り返し実行する。S712およびS713では、時刻mにおける測定データの傾きg[m+1]−g[m]を演算し、この傾きが最大となる時刻を中心時刻g_max_mとして抽出する。
このようにして、測定データg[m]の中心時刻g_max_mを予め抽出しておくことにより、周波数が最大となる中心付近において測定データと相関用データとの相互相関値の計算を行うことができるのでピークの検索にかかる計算回数を減らすことができる。
【0032】
S72では、測定データg[m]と複数の相関用データf[k,l]のそれぞれとの相対位置をずらしながら、これら測定データg[m]および相関用データf[k,l]の相互相関値のピークを検索することにより、後述の2つのパラメータS_max_i,S_max_kを特定する。以下、この処理の手順について具体的に説明する。
【0033】
先ず、S721では、以下の処理において、測定データとの相互相関値の計算の対象となる相関用データの種類を示す変数kを“0”にセットする。その後、S736において変数kが20以上となるまで、S722〜S734に示す処理と、S735に示す変数kのインクリメントとを、繰り返し実行する。
【0034】
図8は、相互相関値のピークを検索する手順を模式的に示す図である。
S722〜S734に示す処理では、測定データと第k番目の相関用データとの相対位置を、1サンプリング周期(1/fb)ずつずらしながら、これら相関用データと測定データとの相互相関値を計算し、そのピークを検索する。
先ずS722では、以下の処理において、第k番目の相関用データと測定データとの相対位置を指定する変数iを、g_max_m−50−Noffにセットする。その後、S734において変数iがg_max_m+50−Noffより大きくなるまで、S723〜S732に示す処理と、S733に示す変数iのインクリメントとを、繰り返し実行する。すなわち、本実施形態では、測定データの時刻を100サンプリング周期分の範囲内で第k番目の相関用データとの相互相関値のピークを検索する。なお、変数Noffは、上記S42において定義したオフセット量に相当する正の整数である。
【0035】
S723〜S732に示すピークを検索する処理は、S723〜729に示す明らかな相関の有無を判定する処理と、S730に示す相互相関値の計算処理と、S731、S732に示す最大値の格納処理と、に分けられる。以下、これらの処理を順に説明する。
【0036】
図9および図10を参照して、S723〜729に示す明らかな相関の有無を判定する処理について説明する。
図9は、測定データと相関用データとの間に略半波長分の位相差があり、これらデータの間に明らかに相関がない状態を示す図である。図10は、測定データと相関用データとの位相が略一致しており、これら測定データおよび相関用データの間に相関があると考えられる図である。これら図9および図10において、四角印は測定データを示し、三角印は相関用データを示す。
【0037】
図9に示すように、測定データと相関用データとの間に明らかに相関が無い場合には、任意の時刻における測定データの傾きと、同じ時刻における相関用データの傾きは、逆になっているのに対し、図10に示すように、測定データと相関用データとの間に相関があると考えられる場合には、任意の時刻における測定データの傾きの符号と、同じ時刻における相関用データの傾きの符号とは同じになっていると考えられる。
【0038】
すなわち、測定データgと第k番目の相関用データfとの間の明らかな相関の有無は、相関値の演算を経ずとも、任意のサンプリング時刻tにおいて下記式(4)が成立するか否かによって簡易に判定することができる。
(f[k,t]−f[k,t+1])/(g[t]−g[t+1])>0 (4)
【0039】
なお、上記式(4)に示すような、測定データおよび相関用データのそれぞれの波形の傾きに基づく明らかな相関の有無の判定は、測定データおよび相関用データがそれぞれ一定の周期関数であることから、図10に示すように、高々半周期分にわたって計算すればよい。したがって、本実施形態では、上記式(4)に示す相関の有無の判定を、7点にわたって行えばよい。図7に戻って、その具体的な手順について説明する。
【0040】
S723ではサンプリング時刻0における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(5)参照)、符号が同じである場合にはS724に移る。
(f[k,0]−f[k,1])/(g[i]−g[i+1])>0 (5)
【0041】
S724ではサンプリング時刻1における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(6)参照)、符号が同じである場合にはS725に移る。
(f[k,1]−f[k,2])/(g[i+1]−g[i+2])>0 (6)
【0042】
S725ではサンプリング時刻2における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(7)参照)、符号が同じである場合にはS726に移る。
(f[k,2]−f[k,3])/(g[i+2]−g[i+3])>0 (7)
【0043】
S726ではサンプリング時刻3における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(8)参照)、符号が同じである場合にはS727に移る。
(f[k,3]−f[k,4])/(g[i+3]−g[i+4])>0 (8)
【0044】
S727ではサンプリング時刻4における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(9)参照)、符号が同じである場合にはS728に移る。
(f[k,4]−f[k,5])/(g[i+4]−g[i+5])>0 (9)
【0045】
S728ではサンプリング時刻5における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(10)参照)、符号が同じである場合にはS729に移る。
(f[k,5]−f[k,6])/(g[i+5]−g[i+6])>0 (10)
【0046】
S729ではサンプリング時刻6における相関用データと測定データの傾きの符号が同じであるか否かを判定し(下記式(11)参照)、符号が同じである場合にはS730に移る。
(f[k,6]−f[k,7])/(g[i+6]−g[i+7])>0 (11)
【0047】
これらS723〜S729の何れかにおいて1つでも傾きの符号が異なると判定された場合、すなわち測定データの第i番目の位置に相関用データの始点を一致させたときにおけるこれら測定データと相関用データの間に明らかな相関が無いと判定された場合、S730に示す相互相関値の計算を行うことなくS733に移り、変数iをインクリメントする。これらS723〜S729の全てで傾きの符号が同じであると判定された場合にのみ、すなわち測定データと相関用データの間に明らかな相関が有ると判定された場合にのみ、S730に移り相互相関値の計算を行う。
【0048】
S730では、測定データと相関用データとの相互相関値Sを計算する。ここで、相互相関値Sは、例えば下記式(12−1)に示すように、測定データの第i番目の位置に第k番目の相関用データの始点を一致させて算出する。なお、下記式(12−1)におけるf_ave[k]は、下記式(12−2)に示すように相関用データの第0成分f[k,0]から第499成分f[k,499]にわたる平均値であり、g_ave[i+n]は、下記式(12−3)に示すように測定データの第i+n成分g[i+n]から第i+n+499成分g[i+n+499]にわたる平均値である。式(12−1)で定義される相互相関値Sを用いることにより、受信波形の倍率の変動によらない値を得ることができる。
【数1】

【0049】
S731では、S730で算出した相互相関値Sと、これまでの処理における相互相関値の最大値S_maxとを比較し、算出した相互相関値Sが過去の最大値S_maxより大きい場合にはS732に移り、小さい場合にはS733に移る。S732では、過去の最大値S_maxを今回算出した相互相関値Sで更新し、さらにこのときの測定データと相関用データとの相対位置を示す変数iをS_max_iとし、相関用データの種類を示す変数kをS_max_kとする。
以上のような処理を繰り返すことにより、相互相関値の最大値S_maxと、相互相関値のピークにおける測定データと相関用データとの相対位置(以下、「相関最大位置」という)S_max_iと、相互相関値のピークにおける相関用データの種類を示す指数S_max_kと、が特定される。
【0050】
次に、S74では、S72で相互相関値のピークを検索することで特定された相関最大位置S_max_iに基づいて算出される時間S_max_i/fbと、特定された相関用データの標本データに対する位相差S_max_k/20に比例した時間(S_max_k/20)/fbと、相関用データのオフセット量Noffに比例した時間Noff/fbと、測定波の伝播速度vと、に基づいて、下記式(13)により距離を算出する。
距離=v×(S_max_i+S_max_k/20+Noff)/fb (13)
【0051】
上記式(13)中、“(S_max_i+S_max_k/20+Noff)/fb”は、測定データg[m]の測定を開始(測定データg[0]を記録した時刻)してから、受信器により測定波の中心を検出するまでの時間に相当する。
【0052】
特に、上記式(13)中、“(S_max_k/20)/fb”は、指数S_max_kにより指定される相関用データf[S_max_k,l]と、標本データF2[j]との位相差に比例した時間に相当する。上述のように、複数の相関用データのそれぞれのサンプリング周期は1/fbであるが、これら相関用データの標本データF2[j]に対する位相は、上記サンプリング周波数1/fbよりも短いサンプリング周期1/fa´分ずつ異なる。したがって、距離の算出においてこのような項を加えることにより、測定データおよび相関用データのサンプリング周波数fbよりも実質的に高い精度で距離を測定することが可能となる。
【0053】
なお、上記式(13)で算出される距離は、上述のように、測定データg[0]を記録した時刻から受信器により周波数最大となる中心を検出するまでの時間に相当する。したがって、例えば、送信器から測定波を送信させるトリガ信号の送信時刻から、受信器から送信する測定波の周波数最大となる時刻を特定し、この時刻と、上記測定データg[0]を記録する時刻とを同期することにより、上記式(13)で算出される距離を送信器と受信器との間の距離とすることができる。
【0054】
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態では、先ず図4に示す準備工程では、一旦、第1サンプリング周波数faの下で比較的細かくサンプリングすることで標本データF[i]を生成し、さらにこの標本データF[i]からノイズを除去し標本データF2[j]を生成した後、この標本データF2[j]から、互いに位相の異なる複数の相関用データf[k,l]を第1サンプリング周波数faより低い第2サンプリング周波数fbのデータにダウンサンプリングすることで生成する。次に、図6に示す測定工程では、上記複数の相関用データf[k,l]と同じ周波数である第2サンプリング周波数fbの下で測定データg[m]を生成する。次に、図7中S71,S72に示すピーク検索工程では、測定データg[m]と複数の相関用データf[k,l]のそれぞれの相対位置を示す変数iをずらしながら、これらデータの相互相関値Sのピークを検索し、相互相関値Sが最大となる相関用データの種類を示す指数S_max_kと相関最大位置S_max_iとを特定し、図7中S73に示す距離算出工程では、特定した指数S_max_kで指定される相関用データf[S_max_k,l]の標本データF2[m]に対する位相差などに基づいて、距離を算出する。
ここで、特に本実施形態では、測定データg[m]との相互相関値Sを算出する相関用データf[k,l]として、比較的細かくサンプリングして生成された標本データF2[j]をダウンサンプリングすることにより、互いに位相の異なるものを複数準備する。このように、互いに位相の異なる複数の相関用データf[k,l]と測定データg[m]との相互相関値Sのピークを検索することにより、測定データg[m]および相関用データf[k,l]のサンプリング周波数fbより実質的に高い精度で距離を算出することができる。すなわち、本実施形態によれば、単純に単一の測定データと相関用データとに基づいて測定波の到達時刻、ひいては距離を算出する従来の方法と比較して、測定精度を落とすことなくサンプリング周波数を小さくすることができる。したがって、従来と比較して、測定精度を落とすことなく測定データg[m]および相関用データf[k,l]のデータ量を減らし、相互相関値Sの計算量を減らすことができるので、短時間での距離の測定が可能となる。
【0055】
(2)上記実施形態では、S71およびS72に示すピーク検索工程において相互相関値Sのピークを検索する際、S723〜S729において測定データおよび相関用データそれぞれの波形の傾きに基づいて測定データと相関用データとの明らかな相関の有無を判定し、明らかに相関があると判定された場合にのみ相互相関値Sを算出する。これにより、不必要な相互相関値Sの計算、すなわちピークとはなり得ない相互相関値Sの計算を省くことができるので、さらに短時間での距離の測定が可能となる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態で挙げたサンプリング周波数fa,fbやデータ数などの具体的な値は一例であり、本発明はこれに限るものではない。
【符号の説明】
【0057】
1…距離測定システム
2…送信器
3…受信器
4…信号処理装置
5…演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する送信器と、
当該送信器から送信された超音波を受信する受信器と、
当該受信器からの出力信号を所定のサンプリング周波数の下でサンプリングし波形データを生成する信号処理装置と、を備えた距離測定システムにおいて、相互相関値の計算に基づいて距離を測定する距離測定方法であって、
前記送信器および前記受信器により超音波である参照波を送受信し、前記受信器で受信した参照波について、所定の第1サンプリング周波数の下でサンプリングすることで標本データを生成し、当該標本データを前記第1サンプリング周波数よりも小さい第2サンプリング周波数のデータにダウンサンプリングするとともに互いに位相の異なる複数の相関用データを生成する準備工程と、
前記送信器および前記受信器により超音波である測定波を送受信し、前記受信器で受信した測定波について、前記第2サンプリング周波数の下でサンプリングすることで測定データを生成する測定工程と、
前記測定データと前記複数の相関用データのそれぞれとの相対位置をずらしながら、これらデータの相互相関値のピークを検索し、当該相互相関値が最大となる相関用データの種類および相対位置を特定するピーク検索工程と、
前記ピーク検索工程で特定された相対位置に基づいて算出される時間をXとし、前記ピーク検索工程で特定された相関用データの前記標本データに対する位相差に比例した時間をYとし、所定の定数をCとしたとき、下記式、
距離=(X+Y+C)×測定波伝播速度、
により距離を算出する距離算出工程と、を含むことを特徴とする距離測定方法。
【請求項2】
前記ピーク検索工程では、相互相関値のピークを検索する際、前記測定データおよび前記相関用データそれぞれの波形の傾きに基づいて前記測定データと前記相関用データとの明らかな相関の有無を判定し、明らかに相関があると判定された場合にのみ相互相関値を算出することを特徴とする請求項1に記載の距離測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−108045(P2012−108045A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257957(P2010−257957)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)