説明

路車間通信システムとこれに用いる光ビーコンの通信領域の測定装置及び方法

【課題】 ビーコンヘッド8の直下を走行するだけで、通信領域Aの基準位置Prのずれを判定するための測定値を正確に測定する。
【解決手段】 本発明は、車載装置2との間でアップリンク光UOとダウンリンク光DOを送受信するビーコンヘッド8を有する光ビーコン4の通信領域Aの測定装置に関する。この測定装置は、ダウンリンク切り替え後のダウンリンク光DOを受信した第1の時刻T1と、ビーコンヘッド8が送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻T2とを検出し、通信領域Aの基準位置Prからアップリンク光UOの送信地点までの位置ずれ情報ΔL1〜ΔL4を取得し、その第1及び第2の時刻T1,T2と位置ずれ情報ΔL1〜ΔL4とに基づいて、通信領域Aの基準位置Prからビーコンヘッド8のヘッド位置Phまでの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビーコンと車載装置との間で行う路車間通信システムと、これに用いる光ビーコンの通信領域の測定装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System:(財)道路交通情報通信システムセンターの登録商標)が既に展開されている。
このうち、光ビーコン(光学式車両感知器)は、近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載装置との双方向通信が可能となっている。
この路車間通信システムでは、具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載装置からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載装置に送信されるようになっている。
【0003】
かかる光ビーコンを用いた路車間通信システムとして、アップリンク領域の最上流端とされた通信領域の基準位置から信号機手前の停止線までの距離情報を、ダウンリンク切り替え後のダウンリンク情報に含めるものがある。
この場合、上記距離情報を受けた車載装置において、停止線の手前で強制停止するように車両を制動させたり、停止や減速を促すように報知したりして、ドライバに対する安全運転支援を行うことができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、上記安全運転支援を行う路車間通信システムの光ビーコンとして、アップリンク領域を車両進行方向に分割して複数の分割領域を設定し、この各分割領域に対応してアップリンク情報を受信する複数の受光素子を投受光器に搭載したものも、既に提案されている(特許文献2参照)。
かかる分割領域に対応する複数の受光素子を有するタイプ(以下、「PD分割タイプ」ということがある。)の光ビーコンによれば、どの受光素子でアップリンク光を受光したかにより、通信領域の基準位置(例えば、アップリンク領域の最上流端)と実際のアップリンク送信位置との位置ずれ量を、分割領域ごとに特定することができる。
【0005】
このため、上記PD分割タイプの光ビーコンを用いた路車間通信システムにおいて、通信領域の基準位置から停止線までの距離情報に加えて、アップリンク光を受信した受光素子に対応する位置ずれ量(補正量)を、ダウンリンク切り替え後のダウンリンク情報に含めて車載装置に通知することにより、実際のアップリンク送信位置から所定位置までの距離を車両側で正確に把握でき、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる(特許文献2の請求項4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−317166号公報
【特許文献2】特開2008−186349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ビーコンヘッド内の受光素子が経年変化で劣化したり、ビーコンヘッドの窓部に粉塵が付着したりして、通信領域が初期の設定状態からずれることがあり、この場合、ダウンリンク光で通知する距離情報が実距離と相違することになるので、安全運転支援に支障を来すことになる。
従って、上記安全運転支援を行う路車間通信システムにおいて、車両の位置標定精度を長期に渡って維持するためには、最初に設定した通信領域が保たれているかを定期的に測定する必要がある。
【0008】
かかる通信領域の測定方法としては、ビーコンヘッドに対応する車線に近赤外線光の発光装置を設置して、この装置が送出するアップリンク光を受光可能な最上流端(通信領域の基準位置)を実測し、この位置が例えばビーコンヘッドの設置位置等の他の基準位置から、どの程度離れているかを測定することが考えられる。
しかし、このような実測作業では、作業が大がかりとなって人件費その他の費用が嵩むとともに、交通規制が必要となるので交通渋滞を招きかねないという問題がある。
【0009】
そこで、例えば図9(a)に示すように、道路横断方向に光信号を送出する発光素子を光ビーコンの支柱に設け、その光信号によってヘッド直下の通過時刻tbを、光ビーコンと路車間通信を行う車載装置を搭載した車両で検出することが考えられる。
この場合、光ビーコンとの通信開始時刻(ダウンリンク光の受信時点)taから上記通過時刻tbまでの走行距離を算出すれば、その走行距離の値によって通信領域の基準位置が大きくずれているか否かを判定することができる。
【0010】
また、図9(b)に示すように、路上標識の特定ポイントの通過時刻tcを車載カメラ等によって車両側で検出することも考えられる。
この場合も、特定ポイントの通過時刻tcから光ビーコンとの通信開始時刻(ダウンリンク光の受信時点)taまでの間の走行距離を算出すれば、その走行距離の値によって通信領域の基準位置が大きくずれているか否かを判定することができる。
【0011】
しかし、図9(a)の場合には、他車両等の障害物によって発光素子の光信号が遮られると、車両側においてヘッド直下の通過時点tbを検出できないという欠点がある。
また、図9(b)の場合には、路上標識の塗装が剥がれたり、路上標識に雪やゴミ等が堆積したりすると、特定ポイントの通過時刻tcを正確に検出できなくなる。このため、走行距離が不正確になって、通信領域の基準位置がずれているか否かの判定を見誤る恐れがある。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、ビーコンヘッドの直下を走行するだけで、通信領域の基準位置のずれを判定するための測定値を正確に測定できる通信領域の測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1) 本発明の測定装置は、車載装置との間でアップリンク光とダウンリンク光を送受信するビーコンヘッドを有する光ビーコンの通信領域の測定装置であって、ダウンリンク切り替え後の前記ダウンリンク光を受信した第1の時刻と、前記ビーコンヘッドが送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻とを検出する時刻検出部と、前記通信領域の基準位置から前記アップリンク光の送信地点までの位置ずれ情報を取得する情報取得部と、前記第1及び第2の時刻と前記位置ずれ情報とに基づいて、前記通信領域の基準位置から前記ビーコンヘッドのヘッド位置までの距離を算出する距離算出部と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の測定装置によれば、上記時刻検出部が、距離算出部が、ダウンリンク切り替え後のダウンリンク光を受信した第1の時刻と、ビーコンヘッドが送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻とを検出し、上記情報取得部が、通信領域の基準位置から前記アップリンク光の送信地点までの位置ずれ情報を取得し、上記距離算出部が、それらの時刻と位置ずれ情報とに基づいて、通信領域の基準位置からビーコンヘッドのヘッド位置までの距離を算出するので、ビーコンヘッドの直下を走行するだけで、通信領域の基準位置のずれを判定するための測定値(前記距離)を正確に測定することができる。
【0015】
(2) 本発明の測定装置において、前記車両感知用の光信号を受信する受光素子と、この受光素子が前記ヘッド位置にある場合にのみその受光レベルが増大するように、当該受光素子に対する車両進行方向の受光範囲を制限する制限部材とを更に備えていることが好ましい。
この場合、前記時刻検出部において、前記光信号を前記受光素子が検出した時刻を前記第2の時刻として採用するだけで、当該第2の時刻を正確に特定することができる。
【0016】
(3) 前記制限部材は、具体的には、前記車両感知用の光信号が通過するスリットを有する板材や、その光信号が通過する上下方向に長い通過孔を有する筒体により構成することができる。
【0017】
(4) また、本発明の測定装置において、前記車両感知用の光信号を受信する受光素子を更に備えている場合に、前記時刻検出部は、前記受光素子の受信レベルの上昇変化と下降変化の双方に基づいて、前記第2の時刻を検出することにしてもよい。
(5) すなわち、より具体的には、前記時刻検出部において、前記受光素子の受信レベルが所定の閾値を超えた時点とその後に当該閾値よりも小さくなった時点の中間時点を、前記第2の時刻として採用すれば、前述の制限部材を設けなくても第2の時刻を正確に特定することができる。
【0018】
(6) 本発明の測定装置は、前記距離から求めた前記通信領域の基準位置のずれ量が所定の閾値以上である場合に、当該光ビーコンに異常が発生した旨の情報を、前記アップリンク光を通じて前記ビーコンヘッドに送信する光送信部を、更に備えていることが好ましい。
この場合、上記情報を受信した光ビーコンが例えば中央装置にその情報を転送することにより、当該光ビーコンの異常をオンラインで迅速に察知することができる。
【0019】
(7) また、この場合、前記光ビーコンに異常が発生した旨の情報に、前記ずれ量に応じた異常の確度情報を含めるようにすれば、当該光ビーコンに施すべき対応策を確度情報に応じて選択することができ、異常対応を迅速かつ適切に行うことができる。
【0020】
(8) 本発明の路車間通信システムは、このシステムを構成する車載装置として本発明の測定装置を採用したものであり、当該測定装置と同様の作用効果を奏する。
(9) また、本発明の測定方法は、本発明の測定装置が行う測定方法であり、当該測定装置と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り、本発明によれば、測定装置がビーコンヘッドの直下を走行するだけで、通信領域の基準位置のずれを判定するための測定値を正確に測定できるので、交通規制を伴う作業を行わなくても、通信領域の変動を発見することができる。このため、その変動に伴う路車間通信の信頼度の低下を簡便に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンを設置した道路の平面図である。
【図3】光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【図4】車載装置とこれを搭載した車両の概略構成図である。
【図5】通信領域で行われる路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図6】通信用の受光素子がアップリンク情報を受信してからダウンリンク情報を送信する手順を示す概略図である。
【図7】測定用の受光素子の受光レベルの変化の一例を示すグラフである。
【図8】測定用の受光素子と制限部材との位置関係を示す側面図である。
【図9】車両走行による通信領域の測定方法の比較例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する各車両Cに搭載された車載装置2とを備えている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とを有する。光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載装置2との間で双方向通信を行うことができる。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0024】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、情報中継装置等よりなる通信部6に接続されたビーコン制御機7と、このビーコン制御機7のセンサ用インタフェースに接続された複数(図例では4つ)のビーコンヘッド(投受光器)8とを備え、通信部6は、電話回線等の通信回線5によって中央装置3と接続されたている。
各ビーコンヘッド8は、発光素子(例えば、発光ダイオード:LED)10と受光素子(例えば、フォトダイオード:PD)11とを含む光トランシーバと、車両感知用の感知センサ12とを筐体の内部に有している(図3も併せて参照)。
【0025】
このうち、発光素子10は、近赤外線よりなるダウンリンク光DO(ダウンリンク情報34,36を構成する光信号)を後述する通信領域Aに発光し、受光素子11は、車載装置2からの近赤外線よりなるアップリンク光UO(アップリンク情報35を構成する光信号)を受光する。
ビーコンヘッド8には、後述するアップリンク領域UAの各分割領域UA1〜UA4に対応して複数(図例では4つ)の前記発光素子11が設けられている。
【0026】
この複数の受光素子11は、電気出力信号を増幅してデジタル信号に変換する増幅器やA/D変換回路とともに、アップリンク光UOの光受信部を構成している。
上記感知センサ12は、近赤外線等の検出波を送信してその反射波を受信する送受信器よりなり、その検出波を路面に向けて間欠的(例えば10ミリ秒ごと)に照射し、その検出波の反射波が車両Cからのものか路面からのものかを判定することにより、車両Cの存在を感知するものである。
【0027】
図2は、上記光ビーコン4を設置した道路Rの平面図である。
図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、各車線R1〜R4に対応して設けられた前記複数のビーコンヘッド8と、これらビーコンヘッド8を一括制御する制御部である1台の前記ビーコン制御機7とを備えている。
【0028】
上記ビーコン制御機7は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6(図1)を介した中央装置3との双方向通信と、ビーコンヘッド8による車載装置2との路車間通信を行う通信制御部としての機能を有する。なお、このビーコン制御機7による路車間通信の内容については後述する。
また、ビーコン制御機7は、通信制御のためのコンピュータプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムをCPUが読み出して実行することにより、当該CPUが上記通信制御部として機能する。
【0029】
ビーコン制御機7は、道路脇に立設した支柱13に設置されている。また、各ビーコンヘッド8は、支柱13から道路R側に水平に架設した架設バー14に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の直上に配置されている。
各ビーコンヘッド8の発光素子10は、車線R1〜R4の直下よりも車両進行方向の上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載装置2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが当該ヘッド8の上流側に設定されている。
【0030】
〔通信領域について〕
図3は、光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
図3に示すように、光ビーコン4の通信領域Aは、車載装置2の投受光器である車載ヘッド27がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域(図3において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド8が車載ヘッド27からのアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域(図3において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0031】
ダウンリンク領域DAは、ビーコンヘッド8の投受光位置d、道路R上の所定の位置a及びcを頂点とする△dacで示された範囲である。また、アップリンク領域UAは、前記位置dと、道路R上の位置b及びcを頂点とする△dbcで示された範囲である。
従って、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致し、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複している。また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは、通信領域A全体の同方向長さと一致している。
【0032】
光ビーコン(光学式車両感知器)4の「近赤外線式インタフェース規格」によれば、ダウンリンク領域DA及びアップリンク領域UAの正式な領域寸法が規定されている。この規定では、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、ビーコンヘッド8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定されている。
また、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。従って、正式な通信領域Aの車両進行方向の全長(ac間の長さ)は3.7mとなる。
【0033】
しかしながら、本実施形態では、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は、上記規定よりも上流側及び下流側へ長く設定されている。その結果、アップリンク領域UAは上記規定よりも車両進行方向に広がり、同時にダウンリンク領域DAも上記規定よりも車両進行方向に広がっている。
このようにアップリンク領域UA及びダウンリンク領域DAが広くなると、車載装置2と光ビーコン4との間のアップリンク情報35及びダウンリンク情報34,36の送受信の確実性が増すことになる。
【0034】
更に、アップリンク領域UAは、車両Cの走行位置が特定可能な程度に当該領域UAを車両進行方向に複数に分割してなる分割領域UA1〜UA4よりなる。具体的には、本実施形態のアップリンク領域UAは、位置dを上端とし、道路R上の位置e1〜e3を下端とする3本の境界線(境界部)BLによって4つに分割されている。
ビーコンヘッド8に設けられた4つの受光素子11(図1参照)は、それぞれアップリンク領域UAの各分割領域UA1〜UA4を受信領域としている。従って、例えば、最も上流側に位置する分割領域UA1内で車載ヘッド27から送信されたアップリンク光UOは、この分割領域UA1に対応する受光素子11によって受光される。
【0035】
また、図3に示すように、交通量を検出するための感知センサ12は、各車線R1〜R4の直下に向けて近赤外線等の検出波を送出しており、これにより、前記通信領域Aの下流側よりに、当該感知センサ12による感知領域Kが配置されている。
車線R1〜R4ごとに設けられた各ビーコンヘッド8の感知センサ12は、各車線R1〜R4に対応する感知領域Kを車両Cが通過した時の反射波を検出することにより、当該車両Cの存在を感知する。
【0036】
ビーコン制御機7は、車両Cが存在しない場合には感知センサ12からOFF信号を受信し、車両Cが存在する場合にはON信号を受信し、このON信号の数をカウントすることにより、各車線R1〜R4を通過する車両Cの台数(交通量)を検出可能である。
また、ビーコン制御機7は、上記ON信号の継続時間(感知センサ12が車両Cの存在を感知し続ける占有時間)により、交通量だけでなく、車両Cの走行速度も検出することができる。
【0037】
〔車載装置及び車両の構成〕
図4は、光ビーコン4と路車間通信を行う車載装置2と、この車載装置2を搭載した車両Cの概略構成図である。
図4に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体21と、この車体21に搭載された前記車載装置2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)22と、車体21を駆動するエンジン23と、車体21を制動するブレーキ装置24と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器25とを備えている。
【0038】
ECU22は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン23の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
車載装置2は、車載コンピュータ26と、このコンピュータ26のセンサ用インタフェースに接続された車載ヘッド(投受光器)27と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ28及びスピーカ装置29とを備えている。
【0039】
上記車載ヘッド27は、ビーコンヘッド8の場合と同様に、発光ダイオード等よりなる通信用の発光素子17と、フォトダイオード等よりなる通信用の受光素子18と、通信用ではない別の受光素子19とを備えている。
このうち、通信用の発光素子17は、近赤外線よりなるアップリンク光UOを発光し、通信用の受光素子18は、通信領域Aに発光された近赤外線よりなるダウンリンク光DOを受光する。また、第2の受光素子19は、後述する距離測定用のものであり、感知センサ12が感知領域Kに発光した光信号を受光する。
もっとも、使用する周波数や波長を異ならせることで、通信用の受光素子18を距離測定用として兼用することにしてもよい。
【0040】
車載コンピュータ26は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、車載ヘッド27による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ26は、所定のコンピュータプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムをCPUが読み出して実行することにより、当該CPUが、時刻検出部30、情報取得部31及び距離算出部32として機能する。これらの各機能部30,31,32は通信領域Aの測定処理を行うが、その詳細は後述する。
【0041】
〔路車間通信の内容〕
図5は、通信領域Aにおいて、ビーコンヘッド8と車載ヘッド27との間で行われる双方向での路車間通信の手順を示している。以下、図5を参照しつつ、本実施形態の路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、各車線R1〜R4に対応するビーコンヘッド8から、ダウンリンクの切り替え前の第1情報として、車線通知情報を含む第1のダウンリンク情報34を、各車線R1〜R4のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常に送信し続けている(図5のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0042】
車載装置2を搭載した車両Cが実際のダウンリンク領域DAに進入すると、車載装置2の車載ヘッド27が車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報34を受信する。
この際、車載装置2の車載コンピュータ26は、当該車両Cが実際の通信領域A内に存在していることを認識する。その後、車載コンピュータ26は、アップリンク情報35の送信を開始し(図5のF2)、このアップリンク情報35をビーコンヘッド8に対して所定の送信周期(アップリンク送信周期)で送信する(図5のF3)。
【0043】
車載コンピュータ26は、車両Cに特定の車両IDを上記アップリンク情報35に格納して当該アップリンク情報35を送信し、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリンク情報35に含ませる。
また、車載コンピュータ26は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報35を送信し続ける。
【0044】
一方、光ビーコン4のビーコンヘッド8がアップリンク情報35受信すると(図5のF4)、ビーコン制御機7は、即座にダウンリンクの切り替えを行い、第2情報として、車両ID情報を有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を開始する(図5のF5)。
この第2のダウンリンク情報36の送信は、所定時間内において可能な限り繰り返される(図5のF6)。
【0045】
上記車線通知情報には、車線R1〜R4(図2)ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。
このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ26は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
【0046】
第2のダウンリンク情報36には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、ドライバに対する安全運転支援のための支援情報等が含まれている。
この支援情報には、光ビーコン4より下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である信号情報の他、アップリンク領域UAからその下流側の所定位置(例えば、停止線)までの長さ情報である距離情報等が含まれている。
【0047】
図5に示すように、第2のダウンリンク情報36は、単一又は複数の最小フレーム37で構成されている。前記「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム37のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部38に5バイト、実データ部39に123バイトが割り当てられている。
前記規格によれば、第2のダウンリンク情報36は、1〜80個の最小フレーム37で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報36は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム37で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
【0048】
最小フレーム37の送信周期は約1msである。従って、例えば、三つの最小フレーム37で一つのダウンリンク情報36を構成する場合には、ダウンリンク情報36の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報36は所定の送信可能時間(250ms)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
車載装置2の車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36を受信した時点(図5のF7)で光ビーコン4でのダウンリンク切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報35の送信を停止する。
【0049】
本実施形態の路車間通信システムは、車載装置2の車載コンピュータ26において、通信領域Aからその下流側の所定位置P0(図3参照)までの距離を認識して位置標定を行い(図5のF8)、これに基づいてドライバに対する安全運転支援を行う安全運転支援システムとして利用することができる。
以下、第2のダウンリンク情報36に格納される距離情報の内容と、これに基づいて車載装置2が実行可能な安全運転支援の内容について説明する。
【0050】
〔距離情報の内容〕
図3に示すように、光ビーコン4のビーコン制御機7は、通信領域Aの基準位置Prから下流の所定位置P0までの距離L0と、その基準位置Prから分割領域UA1〜UA4の代表位置P1〜P4までの距離(補正量)ΔL1〜ΔL4を、距離情報として予め記憶装置に記憶している。
【0051】
なお、本実施形態では、距離L0の上流端(始点)は、アップリンク領域UAの上流端cの位置に設定され、距離L0下流端(終点)P0は、光ビーコン4の下流側に設置された、例えば信号機手前の停止線40の位置に設定されている。
また、分割領域UA1〜UA4の代表位置P1〜P4は、各分割領域UA1〜UA4における道路R上の車両進行方向のほぼ中央位置に設定されている。
【0052】
もっとも、停止線40と分割領域UA1〜UA4との相対的な位置関係が把握できればよいので、通信領域Aの基準位置Pr(距離L0の上流端)はアップリンク領域UAよりも上流側に設定してもよい。
ビーコン制御機7は、上記距離L0と距離ΔL1〜ΔL4を含む距離情報を、第2のダウンリンク情報36の送信フレームに格納し、当該フレームをビーコンヘッド8に繰り返し送出させる。
【0053】
すなわち、ビーコン制御機7は、予め記憶装置に記憶された複数の補正用の距離ΔL1〜ΔL4のうちのいずれかを選択して、第2のダウンリンク情報36の送信フレームに格納する。
この場合、どの距離ΔL1〜ΔL4を選択するかは、ダウンリンクの切り換え前に、4つの発光素子PD1〜PD4(図6参照)のうちのどれがアップリンク情報35を受信したかによって決定される。
【0054】
例えば、図6に示すように、分割領域UA1〜UA4に対応する発光素子11をそれぞれPD1〜PD4とし、最上流側の分割領域UA1において車載装置2がアップリンク光UO(図3の実線矢印)を送信して、これを分割領域UA1に対応する受光素子PD1が受光したとする。
この場合、ビーコン制御機7は、上記アップリンク光UOをアップリンク情報35として認識すると、分割領域UA1に対応する距離ΔL1を選択して、ダウンリンクの切り換えを行った上で、距離L0と距離ΔL1を含む第2のダウンリンク情報36を生成し、この情報36を発光素子10に送信させる。
【0055】
また、ビーコン制御機7は、その他の分割領域UA2〜UA4に対応するフォトダイオードPD2〜PD4が受光したアップリンク光UOによってアップリンク情報35を認識した場合は、いずれかの距離ΔL2〜ΔL4を選択し、この選択した距離ΔL2〜ΔL4と距離L0を含む第2のダウンリンク情報36を生成する。
このように、ビーコン制御機7は、アップリンク情報35を受信した発光素子PD1〜PD4によって距離L0に対する補正量ΔL1〜ΔL4を特定し、この補正量についてもダウンリンク切り替え後のダウンリンク情報36に含める。
【0056】
〔安全運転支援の内容〕
上記距離情報を含む第2のダウンリンク情報36を車載ヘッド27が受信すると、車載コンピュータ26において、ダウンリンク情報36から距離L0及び補正用の距離ΔL1〜ΔL4を抽出すれば、基準位置Prから所定位置P0までの距離L0を、自車両Cの走行位置からの距離L1〜L4に補正することができる。
従って、車載コンピュータ26は、補正後の距離L1〜L4を利用してドライバに対する安全運転支援を行うことができる。
【0057】
なお、本実施形態の車両Cは、後述の通信領域Aの測定処理を実行すること主目的としているので、安全運転支援を行う必要は特にないが、本発明の理解を容易にするため、以下において、車載コンピュータ26が行い得る安全運転支援の内容を説明する。
例えば、車載コンピュータ26は、停止線40までの距離L1〜L4と現時点の車両Cの走行速度とから、その停止線40の手前で停止するための減速度(負の加速度)を算出し、その減速度をECU22に通知する。
【0058】
ECU22は、当該減速度となるようにブレーキ装置24を作動させ、これにより、車両Cを停止線40の手前で自動停止させることができる。
また、車載コンピュータ26による安全運転支援としては、ディスプレイ28やスピーカ装置29を用いたドライバに対する注意喚起であってもよい。例えば、停止線40までの実際の距離L1〜L4をディスプレイ28に表示させてもよいし、現時点の車両Cの走行速度が速すぎる場合には、停車や減速を促す注意喚起をディスプレイ28に表示させたり、その注意喚起をスピーカ装置29から音声出力させたりしてもよい。
【0059】
更に、車載コンピュータ26は、補正後の距離L1〜L4に加えて、第2のダウンリンク情報36に含まれる交通信号の現示情報を用いて安全運転支援を行うこともできる。
ここで、現示情報とは、交通信号機が表示する現在又は将来の信号灯色に関する情報のことであり、各信号灯色の表示継続予定期間や表示する順序等に関する情報(表示予定情報)等を含む。この現示情報が分かれば、停止線40までの距離L1〜L4と車両Cの走行速度Vから、停止線40に到着するまでの所要時間を推定した上で、当該所要時間経過後の信号灯色を推定することができる。
【0060】
このため、現時点の信号灯色は青信号であるが、停止線40の到着時点では赤信号と予測されるような場合には、安全に停止線40の手前で停止することができるように、車両Cを制動するための制御を行う。
逆に、減速しなければ安全に交差点を通過できると判断できるような場合には、車両Cの速度を維持するための制御を行うことができる。車載コンピュータ26は、車両Cを制動したり速度を維持したりするため、車両のブレーキ装置24(図4)やアクセルに対して直接的に制御を行ってもよい。
【0061】
また、車載コンピュータ26は、車両Cの搭乗者に対して、信号灯色の推定の結果を音声や画像情報によって通知するようにしてもよい。
例えば、「間もなく信号が変わるので停止すべきである」といった内容の音声をスピーカ装置29からドライバに向けて発したり、ヘッドアップディスプレイやナビゲーション装置等のディスプレイ28に文字や図柄で表示したりすることができる。安全運転支援については、不適切なタイミングや内容でドライバに情報通知されないヒューマンインタフェースとするため、例えば、低速走行時には音声や画像表示による報知を行わないようにすることもできる。
【0062】
〔通信領域の測定処理〕
次に、車載装置2における車載コンピュータ26において、その各部30〜32が実行する通信領域Aの測定処理の内容を説明する。
まず、車載コンピュータ26の時刻検出部30は、ダウンリンク切り替え後のダウンリンク光DOである第2のダウンリンク情報36を、通信用の受光素子18が受信した第1時刻T1(図3参照)と、ビーコンヘッド8の感知センサ12が送出する車両感知用の光信号を、測定用の発光素子19が受信した第2時刻T2(図3参照)とを検出する。
【0063】
このうち、上記第1時刻T1は、アップリンク光UOの送信時刻とほぼ同じと見なすことができる。すなわち、ビーコン制御機7は、通常、アップリンク光UOの受信後に即時にダウンリンク切り替えを行ってダウンリンク光DOを送信し、これを車載装置2の受光素子18が受信する。
従って、アップリンク光UOの送信→ダウンリンク光UOの送信→ダウンリンク光DOの受信までの時間(図5のF2〜F7の時間)は位置評定精度としては短時間であり、受光素子18によるダウンリンク光DOの受信時刻(第1時刻T1)は、自車両Cからのアップリンク光UOの送信時刻とほぼ同時刻と見なしてよい。
【0064】
一方、時刻検出部30は、第2時刻T2については、測定用の受光素子19の受信レベルの上昇変化と下降変化の双方に基づいて検出する。図7は、測定用の受光素子19の受光レベルの変化の一例を示すグラフである。
図7に示すように、時刻検出部30は、測定用の受光素子19の受光レベルを、記憶装置が記憶する所定の閾値Thと対比して第2時刻T2を検出する。具体的には、受光レベルが閾値Thを超えた時点をt1とし、その後に閾値Thを下回った時点をt2とすると、それらの時点t1,t2の中間時点が第2時刻T2として採用される。
【0065】
なお、受光レベルの閾値Thをできるだけ大きめに設定し、上記時点t1,t2間の時間差が無視できる程度に小さくなるようにすれば、中間地点を第2時刻T2とする必要はなく、閾値Thを超えた時点を第2時刻T2として採用することができる。
【0066】
情報取得部31は、第2のダウンリンク情報36に含まれている補正量ΔL1〜ΔL4のうちのいずれかを抽出し、この補正量ΔL1〜ΔL4を、通信領域Aの基準位置Prとアップリンク光UOの送信地点P1〜P4までの位置ずれ情報として取得する。
すなわち、例えば図3に示すように、車両Cの車載装置2が最上流側のアップリンク領域UA1でアップリンク光UOを送出したとすると、第2のダウンリンク情報36には、補正量ΔL1が含まれているので、この補正量ΔL1が位置ずれ情報として採用される。
【0067】
なお、2番目以降のアップリンク領域UA2〜UA2でアップリンク光UOが送出された場合には、それぞれ対応する補正量ΔL2〜ΔL4が第2のダウンリンク情報36に含まれているので、そのうちのいずれかの補正量ΔL2〜ΔL4が位置ずれ情報として採用される。
そして、車載コンピュータ26の距離算出部32は、上記第1時刻T1、第2時刻T2及び補正量ΔL1〜ΔL4に基づいて、通信領域Aの基準位置Prからビーコンヘッド8のヘッド位置Phまでの距離を算出する。
【0068】
具体的には、第1時刻T1から第2時刻T2までの時間を車両Cが等速で走行すると仮定して、距離算出部32は、車両Cの速度Vに時間ΔT(=T2−T1)を乗算して走行距離X(図3参照)を算出し、この距離Xに補正量ΔL1〜ΔL4を加算して、基準位置Prからヘッド位置Phまでの距離を求める。なお、第1時刻T1と第2時刻T2の車速パルス数の差ΔCvを求め、ΔCv×(距離/1パルス)によって走行距離X(図3参照)を求めることにしてもよい。
また、車載コンピュータ26は、上記距離算出部32が求めた基準位置Prからヘッド位置Phまでの距離を光ビーコン4のビーコンIDごとに収集し、これを記憶装置に記憶させる。
【0069】
ここで、仮に、ビーコンヘッド8の受光素子11が経年変化で劣化したり、ビーコンヘッド8の窓部が粉塵で汚れていたりして、通信領域Aの基準位置Prが設置当初の状態からずれていたとすると、基準位置Prからヘッド位置Phまでの距離も設置当初の値からかけ離れたものとなる。
従って、各光ビーコン4について車載コンピュータ26が収集した上記距離を、設置当初の値と比べることにより、ビーコンヘッド8やその内部の受光素子11に異常があったか否かを推定することができる。
【0070】
もっとも、通信領域Aの基準位置Prが設置当初の状態からずれる原因は、車両C側にある場合もある。例えば、雨天走行時においてワイパーが光ビーコン4と車載装置2との間の送受信を阻害する場合や、車載装置2の受信部に太陽光が入射して受信不能となる場合や、車載装置2側の受信部の故障や性能劣化などがこれに当たる。
従って、基準位置Prからヘッド位置Phまでの距離の設置当初からのずれ量を評価する場合には、複数の測定データに基づいて統計的に処理することが好ましい。
【0071】
このように、本実施形態の車載装置2によれば、車載コンピュータ26の距離算出部32が、第1時刻T1、第2時刻T2及び位置ずれ情報である補正量ΔL1〜ΔL4に基づいて、通信領域Aの基準位置Prからビーコンヘッド8のヘッド位置Phまでの距離を算出するので、ビーコンヘッド8の直下を走行するだけで、通信領域Aの基準位置Prのずれを判定するための測定値(PrからPhまでの距離)を測定することができる。
このため、交通規制を伴う測定作業を行わなくても、通信領域Aの変動を発見することができ、その変動に伴う路車間通信の信頼度の低下を簡便に防止することができる。
【0072】
また、本実施形態では、ビーコンヘッド8に当初から組み込まれている感知センサ12の光信号によって第2時刻T2を検出しているので、例えば図9(b)に示すような、ヘッド位置検出用の発光素子を別途支柱に設ける場合に比べて、車載装置2を利用した測定作業を低コストで行えるとともに、他の車線を通行する車両Cで光信号が遮られることがないので、測定作業を正確かつ確実に実行できるという利点もある。
【0073】
車載装置2の処理コンピュータ26において、基準位置Prの設置当初の状態からのずれ量が所定の閾値(例えば、1m)よりも大きい場合に、ビーコンヘッド8やその内部の受光素子11に異常があることを、車載ヘッド27が送出するアップリンク情報35によって光ビーコン4に通知することで、システムの信頼性を向上させることも可能である。
この際、異常が発生した旨の情報を受信した当該光ビーコン4が、例えば中央装置3にその情報を転送するようにすれば、その光ビーコン4の異常をオンラインで迅速に察知できるようになる。
【0074】
また、この場合、上記ずれ量の大きさと情報提供の確からしさ(確度)のランク分けを行っておき、当該ずれ量に対応する異常の確度情報を、アップリンク情報35を通じて光ビーコン4に通知することにしてもよい。
この場合、異常と推定される光ビーコン4に施すべき対応策を上記確度情報に応じて選択することができ、異常対応を迅速かつ適切に行うことができる。
【0075】
〔第2時刻の検出方法の変形例〕
図8は、測定用の受光素子19と制限部材20との位置関係を示す側面図である。
図8(a)(b)に示す各制限部材20は、受光素子19がヘッド位置Phにある場合にのみその受光レベルが増大するように、当該受光素子19に対する車両進行方向の受光範囲を制限する機能を有する。
【0076】
このうち、図8(a)の制限部材20は、車両感知用の光信号が通過するスリットを有する板材20Aによりなる。この板材20Aは、受光素子19の中心の直上にスリットが来るように受光素子19の上方に配置されており、感知センサ12からの光信号の車両進行方向の幅をスリットで絞ることができる。
また、図8(b)の制限部材20は、車両感知用の光信号が通過する上下方向に長い通過孔を有する筒体20Bによりなる。この筒体20Bは、軸心方向が上下方向に向きかつその軸心が受光素子19の中心の直上に来るように、受光素子19の上方に配置されており、感知センサ12からの光信号の車両進行方向の幅を通過孔で絞ることができる。
【0077】
かかる板材20Aや筒体20Bよりなる制限部材20を使用すれば、受光素子19がヘッド位置Phにある場合にのみその受光レベルが増大するように、受光素子19に対する光信号の車両進行方向の受光範囲が制限されるので、受光素子19が所定の閾値を超えた時点を検出すれば、その時点をそのまま第2時刻T2として採用することができる。
【0078】
〔その他の変形例〕
上記実施形態は本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びその構成と均等な全ての変更が含まれる。
【0079】
例えば、上記実施形態において、分割領域UA1〜UA4に対応する補正用の各距離ΔL1〜ΔL4の識別番号を路車間で共有しておき、いずれかの識別番号を第2のダウンリンク情報36に含ませるようにしてもよい。
この場合、車載コンピュータ26の情報取得部31は、第2のダウンリンク情報36に含まれる識別番号に基づいて、分割領域UA1〜UA4に対応する補正量ΔL1〜ΔL4を選択して認識することができる。
【0080】
また、分割領域UA1〜UA4の代表地点は、各分割領域UA1〜UA4の道路R上のほぼ中央位置P1〜P4に限らず、任意に設定することができる。
例えば、その代表地点は、分割領域UA1〜UA4の道路R上の上流端(c,e1,e2,e3で示す位置)に設定したり、分割領域UA1〜UA4の道路R上の下流端(e1,e2,e3,bで示す位置)に設定したりすることができる。
また、分割領域UA1〜UA4の数(フォトダイオード11の数)は、2つ、3つ、又は5つ以上でもよいし、分割領域とせずに単一のアップリンク領域UAであってもよい。
【0081】
更に、距離情報を構成する距離L0の下流端については、停止線40のほか、信号機の設置位置や他の車両感知器(図示せず)の位置としてもよい。
また、距離情報は、距離の数値を直接格納する形式に限られず、所望の距離を一意に決定しうる情報であれば、どのような形式であってもよい。例えば、アップリンク領域UAの下流側に1又は複数のノードを設定し、これらのノードに応じた複数の距離値群によって、所定位置P0までの距離L0を複数に分割することもできる。
【0082】
この場合、始点となるアップリンク領域UAの基準位置Pr(例えば、アップリンク領域UAの上流端c)からその直近のノードまでの距離、各ノード間の距離、及び、所定位置P0の直近のノードから所定位置P0までの距離により、基準位置Prから所定位置P0までの距離L0を構成することができる。
また、この場合、上記距離情報を受信した車載コンピュータ26は、各距離の合計値を求めることで、所定位置P0までの距離L0を認識することができる。
【0083】
光ビーコン4が送信する距離情報は、当該距離の始点と終点との絶対位置(緯度・経度や宇宙空間上の任意の点を原点とする3次元空間の座標値等)を示す位置情報とすることもできる。
例えば、距離情報を基準位置Prと所定位置P0の位置情報で構成し、これらの位置情報から、車載装置2側で距離L0を算出してもよい。この場合、車載装置2側で所定位置P0の位置情報が分かってい場合には、アップリンク領域UAの基準位置Prのみをダウンリンク情報36に含めれば足りる。
【0084】
また、所定位置P0の地点を含む道路の形状を示す道路形状情報や詳細な地図情報と、当該道路上又は地図上であって、アップリンク領域UA内の基準位置に対応する位置情報を光ビーコン4が送信し、この情報をもとに車載装置2が所定位置P0までの距離を取得する方法を用いてもよい。
この場合、道路形状情報や地図情報は予め車載装置2に記憶させてもよいし、光ビーコン4以外の無線通信によって車載装置2に送信する方法でもよい。
【0085】
更に、車載コンピュータ26の各機能部30,31,32は、車両Cの電子制御装置(ECU)に組み込むこともできる。
上記実施形態では、通信領域A(特に、アップリンク領域UA)が、光ビーコンの「近赤外線式インタフェース規格」よりも広いものとして説明しているが、通信領域Aは、当該規格に準じた寸法に設定されていてもよい。
【0086】
また、基準位置Prからアップリンク光UOの送信位置までの距離を光ビーコン4から取得できるものであれば、PD分割タイプ以外の光ビーコン4にも、本発明を適用することができる。
例えば、特開2009−26033号公報に記載のように、光ビーコン4において、アップリンク光UOの受光位置の情報に基づいてアップリンク領域UAにおけるアップリンク光UOの送信位置を示す車載機位置情報を生成し、この情報をダウンリンク光DOに含めて光ビーコン4が送信する場合がこれに該当する。
【符号の説明】
【0087】
2 車載装置(測定装置)
4 光ビーコン
7 ビーコン制御機
8 ビーコンヘッド
12 感知センサ
17 通信用の発光素子(LED)
18 通信用の受光素子(PD)
19 測定用の発光素子(PD)
20 制限部材
20A 板材
20B 筒体
26 車載コンピュータ
27 車載ヘッド(光送信部)
30 時刻検出部
31 情報取得部
32 距離算出部
34 第1のダウンリンク情報
35 アップリンク情報
36 第2のダウンリンク情報
A 通信領域
C 車両
P0 停止線(所定位置)
P1〜P4 代表位置
Pr 基準位置
Ph ヘッド位置
DA ダウンリンク領域
UA アップリンク領域
UA1〜UA4 分割領域
DO ダウンリンク光
UO アップリンク光
L0 距離
ΔL1〜ΔL4 補正用の距離(位置ずれ情報)
T1 第1の時刻
T2 第2の時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載装置との間でアップリンク光とダウンリンク光を送受信するビーコンヘッドを有する光ビーコンの通信領域の測定装置であって、
ダウンリンク切り替え後の前記ダウンリンク光を受信した第1の時刻と、前記ビーコンヘッドが送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻とを検出する時刻検出部と、
前記通信領域の基準位置から前記アップリンク光の送信地点までの位置ずれ情報を取得する情報取得部と、
前記第1及び第2の時刻と前記位置ずれ情報とに基づいて、前記通信領域の基準位置から前記ビーコンヘッドのヘッド位置までの距離を算出する距離算出部と、
を備えていることを特徴とする通信領域の測定装置。
【請求項2】
前記車両感知用の光信号を受信する受光素子と、この受光素子が前記ヘッド位置にある場合にのみその受光レベルが増大するように、当該受光素子に対する車両進行方向の受光範囲を制限する制限部材とを更に備え、
前記時刻検出部は、前記光信号を前記受光素子が検出した時刻を前記第2の時刻として採用する請求項1に記載の通信領域の測定装置。
【請求項3】
前記制限部材は、前記車両感知用の光信号が通過するスリットを有する板材、又は、その光信号が通過する上下方向に長い通過孔を有する筒体よりなる請求項2に記載の通信領域の測定装置。
【請求項4】
前記車両感知用の光信号を受信する受光素子を更に備え、
前記時刻検出部は、前記受光素子の受信レベルの上昇変化と下降変化の双方に基づいて、前記第2の時刻を検出する請求項1に記載の通信領域の測定装置。
【請求項5】
前記時刻検出部は、前記受光素子の受信レベルが所定の閾値を超えた時点とその後に当該閾値よりも小さくなった時点の中間時点を、前記第2の時刻として採用する請求項4に記載の通信領域の測定装置。
【請求項6】
前記距離から求めた前記通信領域の基準位置のずれ量が所定の閾値以上である場合に、当該光ビーコンに異常が発生した旨の情報を、前記アップリンク光を通じて前記ビーコンヘッドに送信する光送信部を、更に備えている請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信領域の測定装置。
【請求項7】
前記光ビーコンに異常が発生した旨の情報には、前記ずれ量に応じた異常の確度情報が含まれている請求項6に記載の通信領域の測定装置。
【請求項8】
道路を走行する車両の車載装置と、前記道路の所定範囲に通信領域が設定されたビーコンヘッドを有する光ビーコンとを備え、前記通信領域において前記車載装置と前記ビーコンヘッドとの間で光通信を行う路車間通信システムであって、
前記光ビーコンは、前記通信領域の基準位置から前記アップリンク光の送信地点までの位置ずれ情報をダウンリンク切り替え後のダウンリンク光に含める通信制御部を有し、
前記車載装置は、ダウンリンク切り替え後の前記ダウンリンク光を受信した第1の時刻と、前記ビーコンヘッドが送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻とを検出する時刻検出部と、
前記位置ずれ情報を取得する情報取得部と、
前記第1及び第2時刻と前記位置ずれ情報とに基づいて、前記通信領域の基準位置から前記ビーコンヘッドのヘッド位置までの距離を算出する距離算出部と、を有することを特徴とする路車間通信システム。
【請求項9】
車載装置との間でアップリンク光とダウンリンク光を送受信するビーコンヘッドを有する光ビーコンの通信領域の測定方法であって、
ダウンリンク切り替え後のダウンリンク光を受信した第1の時刻と、前記ビーコンヘッドが送出する車両感知用の光信号を受信した第2の時刻とを検出するステップと、
前記通信領域の基準位置から前記アップリンク光の送信地点までの位置ずれ情報を取得するステップと、
前記第1及び第2の時刻と前記位置ずれ情報とに基づいて、前記通信領域の基準位置から前記ビーコンヘッドのヘッド位置までの距離を算出するステップと、
を含むことを特徴とする通信領域の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−204051(P2011−204051A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71344(P2010−71344)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】