説明

路面状態推定方法

【課題】タイヤ1回転毎のバラツキが少なく精度の高い路面状態の推定方法を提供する。
【解決手段】トレッドに、ブロック周期周波数がfaである大ブロックとブロック周期周波数がfb(fb>fa)である小ブロックとが形成されたタイヤの内部に、加速度センサー11を、その検出方向がタイヤ径方向になるように配置して、タイヤトレッドの内面に作用するタイヤ径方向加速度を検出するとともに、タイヤ径方向加速度波形から、蹴り出し側の膨出点を始点としてタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号を抽出し、抽出された信号から大ブロックのブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaと小ブロックのブロック周期周波数fbを含む周波数帯域のRMS平均値gbとを算出して氷路判定値R=(gb/ga)を求め、この氷路判定値Rと予め設定された閾値Kbとを比較して、路面状態を推定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド内面側に取付けられた加速度センサーの出力信号を用いて走行中の路面状態を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行安定性を高めるため、走行中の路面の滑り易さを車両側にて常時モニタリングできるようにすることは非常に重要である。そこで、路面摩擦係数、または、乾燥/湿潤/雪/凍結などの路面状態を把握できれば、路面が滑り易い状態となった時に、運転者へ減速を促す警報を発したり、ABSブレーキなど、車両制御のパラメータを調整したりすることにより、安全性が一段と高まることが期待される。
【0003】
路面摩擦係数を推定する方法としては、例えば、車輪を操舵したときに車輪が路面から受ける転舵方向の入力の大きさから路面状態を推定する方法(例えば、特許文献1参照)や、実車両のヨーレイトと車両の操舵状態に対応したハンドル角から推定される標準ヨーレイトとの関係に基づいて路面状態を推定する方法(例えば、特許文献2参照)、あるいは、車両の4輪の回転速度から求めた従動輪及び駆動輪の平均車輪速度から従動輪の平均加減速度に応じたスリップ比を演算し、このスリップ比と車両の加減速との関係から路面摩擦係数を推定する方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
しかしながら、これらの方法は、運転者が操舵や加減速の操作を行った後の車両挙動を分析して路面状態を推定しているため、運転者の操作量が少ない状態、すなわち、加減速が少なく、かつ、車両がほぼ真っ直ぐ進む定常走行状態においては、ほとんどの時間、路面状態を推定できないことになる。
【0004】
また、走行中の車輪速を検出し、この車輪速信号を周波数分析して得られる周波数スペクトルから路面状態を推定することで、定常走行状態における路面状態を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、この方法では、車輪の固有振動が路面の凹凸による路面外乱に起因して発生することから、車輪速センサーで検出される車輪の固有振動の大きさが路面の凹凸状態に左右されるだけでなく、検出周波数帯域が外乱ノイズの多い40Hz近傍であることから検出精度が悪かった。その結果、高い推定安定性を確保することができず、未だ実用化されていない状況である。
【0005】
一方、路面と直接接触しているタイヤに加速度センサーを配置し、加速度センサーの出力信号に現れるタイヤ挙動変化から路面状態を推定する技術が開示されている。このように、タイヤ接地面の振動変化から路面状態を推定することで、走行中の路面状態を精度よく推定することができる(例えば、特許文献5〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−188169号公報
【特許文献2】特開平10−181566号公報
【特許文献3】特開2001−253334号公報
【特許文献4】特開平11−153518号公報
【特許文献5】WO 01/98123 A1
【特許文献6】特開2005−59800号公報
【特許文献7】特開2007−55284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記の加速度センサーの出力信号を用いる方法では、タイヤトレッドの接地面の振動変化から路面状態を推定しているが、氷雪路では路面状態が多様であることから、タイヤ1回転毎のバラツキが大きい傾向にある。そのため、推定精度を上げるためには判定パラメータをある程度平均化処理する必要があった。しかし、平均化の回数を増やすと応答性が低下するため、判定パラメータの1回転毎のバラツキを抑えて精度を向上させることが望まれている。
また、前記方法では、路面状態の推定に高い周波数(10kHzまで)の振動レベルを使っているので、サンプリングレートなど、装置の負荷を大きくする必要があった。しかし、コストやタイヤ内使用エネルギーの低減という観点からは、低い周波数の情報を使った推定方法が望ましい。
【0008】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、判定パラメータのタイヤ1回転毎のバラツキが少ない、精度の高い路面状態の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図8は荷重負荷時におけるタイヤの外形変化を示す模式図である。
走行中のタイヤ20のタイヤ進行方向前方を踏み込み側、後方を蹴り出し側といい、タイヤが路面Rに接している面(接地面)の端を接地端と呼ぶ。
タイヤ20は、荷重を加えることにより、接地面がタイヤ中心側に押し込められ、逆に、その周辺は同図の一点鎖線で示す初期プロファイルから外側へ膨れる変形をする。接地面外において、初期プロファイルから最も離れている点を膨出点と呼ぶ。符号Dfが踏み込み側の膨出点で、符号Dkが蹴り出し側の膨出点である。また、符号Mは、タイヤ回転軸を中心として接地中心と反対側に位置する反直下点で、符号Ef,Ekは、それぞれ、踏み込み側の接地端と蹴り出し側の接地端を示す。
【0010】
本発明者らは路面状態を判定する際に、接地面部分に比較して広い領域を有する接地面外領域におけるトレッドの振動を検出すれば、データ点数を多く取得することができ、結果的に接地端で発生している現象を時間的に平均化して捉えることができるとともに、前記接地面外領域を、踏み込み側の接地端から伝達される振動の影響の強い反直下点と踏み込み側の接地端との間の領域と、蹴り出し側の接地端から伝達される振動の影響の強い蹴り出し側の接地端と反直下点との間の領域とに分割し、それぞれの領域を路面状態の判定に用いるようにすれば路面状態の推定精度を高めることができることを見出し本発明に到ったものである。
【0011】
すなわち、本願発明は、タイヤトレッド表面にタイヤ周方向に沿って配列されたブロック列が形成されたタイヤのタイヤセンター部のタイヤトレッド内面側に加速度センサーを取付てタイヤ径方向加速度を検出するとともに、前記加速度センサーの出力信号から、2つの周波数帯域における加速度レベルを抽出し、前記抽出された2つの周波数帯域における加速度レベルを比較して走行中の路面状態を推定する路面状態推定方法であって、前記出力信号が、タイヤ回転軸を中心として接地中心と反対側に位置する点である反直下点と踏み込み側の接地端との間、もしくは、蹴り出し側の接地端と前記反直下点との間から選択される接地面外領域における加速度信号の時系列波形である加速度波形で、前記2つの周波数帯域の上限値と下限値とが、前記加速度波形もしくは前記加速度波形を微分して得られる微分加速度波形から算出されるタイヤ回転時間を用いて設定されることを特徴とする。
【0012】
タイヤトレッド表面にタイヤ周方向に沿って配列されたブロック列が形成されたタイヤでは、これらの領域には、踏み込み側の接地端及び蹴り出し側の接地端でそれぞれ発生した、ブロック周期に起因する振動などが伝達されてきているが、本願発明では、加速度センサーの出力信号のうち、伝達される振動の挙動が異なる2つの領域、すなわち、反直下点と踏み込み側の接地端との間の領域と蹴り出し側の接地端と反直下点との間の領域のそれぞれの出力信号を路面状態の判定に用いるようにしているので、路面状態の推定精度を高めることができ、応答性を向上させることができる。
また、本願発明では、これらの振動の中から、推定する路面状態に応じて、路面状態の変化に対する感度の高い2つの周波数帯域を選択し、これらの周波数帯域の加速度レベルを比較するようにしているので、路面状態を精度よく推定できる。
前記2つの周波数帯域としては、例えば、凍結路と他の路面を分ける場合や、圧雪路と他の路面を分ける場合など、それぞれ分けたい路面状態によって適切な2つの周波数帯域を選択すればよい。
前記2つの周波数帯域の上限値と下限値とは、車速に応じて変更する必要あるが、加速度波形もしくは微分加速度波形から算出されるタイヤ回転時間を用いれば、車速に応じた上限値と下限値とを設定することができる。
【0013】
また、本願発明は、前記2つの周波数帯域が、それぞれ、50Hz以上2500Hz以下の周波数範囲にあることを特徴とする。
この周波数範囲は、現実的に把え得る前記のブロック周波数に起因する周波数の範囲であり、50Hzより低い場合には、ノイズが大きくなり分解能を確保することが困難となる。一方、2500Hzを超えた場合には精度を確保することが困難である。更に、判定パラメータを抽出する周波数帯域を2500Hz以下とすれば、データ量を抑えることができるので、処理装置などのコストを下げることができるとともに、消費電力も抑えることができる。
【0014】
また、本願発明は、前記加速度信号が、前記反直下点と踏み込み側の接地面外においてタイヤが最も外側へ膨れる点である踏み込み側の膨出点との間、もしくは、蹴り出し側の接地面外においてタイヤが最も外側へ膨れる点である蹴り出し側の膨出点と前記反直下点との間から選択される接地面外領域における加速度信号であることを特徴とする。
このように、接地面外領域から、加速度変化の大きな接地端と膨出点との間の領域を外した領域を路面状態の推定に使用する接地面外領域とすれば、接地端近くの外乱に起因する大きな変化を除くことができるので、悪路などにおける路面状態の推定精度を向上させることができる。
【0015】
また、本願発明は、前記2つの周波数帯域のうち少なくとも1つを、ブロックの周期周波数に起因するピークを含む周波数帯域としたことを特徴とする。
これにより、ブロックの周期周波数に起因するピークを含む周波数帯域での加速度レベルを、例えば、判定のメジャーとして使用することにより、各路面状態の推定精度を向上させることができる。
【0016】
また、本願発明は、前記加速度信号が、タイヤ周方向に沿ったタイヤ1周の20%以上の長さを有する領域の加速度信号であることを特徴とする。
これにより、接地端を含む接地面の情報を抽出する場合に比較して、データ点数を多く取得できるので、接地端で発生している現象が平均化されるので、1回転毎の推定安定性を向上させ、応答性を向上させることができる。なお、領域の最大長さは接地端から反直下点までの長さ(請求項1,2)か、もしくは、膨出点から反直下点までの長さ(請求項3)である。
【0017】
また、本願発明は、前記ブロック列は、周方向の長さが異なる少なくとも2種類のブロックを備えていることを特徴とする。
これにより、路面摩擦係数が低くなった際に発生する周方向の長さが異なるブロックの挙動の違い、すなわち、ブロックの周方向の長さの違いに起因する滑り易さの違いが、路面状態に応じた2つの周波数帯域におけるピーク値の大きさの変化の違いとして検出できるので、特に凍結路面において、路面状態を精度よく推定することができる。
【0018】
また、本願発明は、前記2つの周波数帯域のうちの1つが、周方向の長さが長い方のブロックのブロック周期周波数を含む周波数帯域で、残りの周波数帯域が、周方向の長さが短い方のブロックのブロック周期周波数を含む周波数帯域であることを特徴とする。
このように、2つの周波数帯域を、周方向の長さが異なる2種類のブロックのブロック周期周波数とすることで、路面摩擦状態によるピーク値の増減が容易に検出できるので、特に凍結路面の状態を容易にかつ精度よく推定することができる。
【0019】
また、加速度レベルは車速により変化するので、車速の影響を補正する必要があるが、前記加速度レベルとして、前記算出されたタイヤ回転時間を用いて補正された加速度レベルを用いるようにすれば、車速の影響を排除できるので、路面状態の推定精度を向上させることができる。
【0020】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る路面状態推定装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】加速度センサーの取付け位置を示す図である。
【図3】加速度波形及び加速度微分波形の一例を示す図である。
【図4】乾燥路及び凍結路における蹴り出し側接地面外振動の周波数スペクトルを示す図である。
【図5】乾燥路、凍結路、及び、圧雪路を走行したときの蹴り出し側接地面外振動を用いた氷路判定値の時間変化を示す図である。
【図6】乾燥路及び圧雪路における蹴り出し側接地面外振動の周波数スペクトルを示す図である。
【図7】乾燥路、凍結路、及び、圧雪路を走行したときの蹴り出し側接地面外振動を用いた雪路判定値の時間変化を示す図である。
【図8】荷重負荷時におけるタイヤの外形変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る路面状態推定装置10の機能ブロック図である。
同図において、11は加速度センサー、12は特定位置抽出手段、13は回転時間算出手段、14は特定周波数帯域設定手段、15は特定周波数帯域信号抽出手段、16は加速度レベル算出手段、17は判定値算出手段、18は路面状態推定手段、19は警報手段である。
加速度センサー11はタイヤトレッド内面の加速度を検出するセンサーで、この加速度センサー11が本発明の路面状態推定装置10のセンサー部10Aを構成し、特定位置抽出手段12から路面状態推定手段18までの各手段が演算部10Bを構成する。演算部10Bは、例えば、コンピュータのソフトウェアにより構成され、警報手段19とともに、図示しない車体側に配置されている。
【0024】
タイヤとしては、例えば、周方向の長さの異なる大小2種類のブロックをランダムに組み合わせて配置したタイヤなどのように、タイヤトレッド表面にタイヤ周方向に沿って配列されたブロック列が形成されたタイヤを用いることができる。本例では、1周に56個のブロックを有するスタッドレスタイヤを用いた。このタイヤでは、車輪速を40km/hとしたときに、平均すると約330Hzで路面に接触することになる。
周方向長さの短い方のブロックである小ブロックの連続する部分の周波数であるブロック周期周波数は410Hzで、周方向長さの長い方のブロックである大ブロックのブロック周期周波数は290Hzである。なお、周波数については、車輪速が40km/hとしたときの値である。
【0025】
加速度センサー11は、図2に示すように、タイヤ20のインナーライナー部21のタイヤの幅方向中心に、その検出方向がタイヤ径方向になるように配置されて、タイヤトレッド(以下、トレッドという)22の内面に作用するタイヤ径方向加速度を検出する。なお、同図のCLはタイヤ20のタイヤ幅方向の中心を示すセンターラインである。
加速度センサー11の出力信号を車体側に配置された演算部10Bに送る構成としては、例えば、インナーライナー部21もしくはホイール23に送信器11Fを設置して、加速度センサー11の出力信号を図示しない増幅器で増幅した後、無線にて上記演算部10Bに送信する構成とすることが好ましい。なお、演算部10Bをタイヤ20側に設けて路面状態推定手段18で推定した路面状態の情報を車体側に設けられた警報手段19や図示しない車両制御装置に送信する構成としてもよい。
【0026】
特定位置抽出手段12は、図3(a)に示すような、加速度センサー11から連続して出力されるトレッド22に作用するタイヤ径方向加速度の時系列波形から、蹴り出し側の膨出点Dkを始点としてタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号を抽出する。
回転時間算出手段13は、加速度信号微分部13aと回転時間算出部13bとを備える。
加速度信号微分部13aは、図3(a)に示すタイヤ径方向加速度の時系列波形(以下、加速度波形という)を時間微分して、図3(b)に示すようなタイヤ径方向加速度の微分波形(以下、加速度微分波形という)を求める。
回転時間算出部13bは、加速度微分波形のデータを用いてタイヤ20が一回転する時間を算出する。接地端Ef,Ek近傍は、加速度波形においてグラフの傾きが最も大きい箇所であるので、加速度微分波形ではピークとなる。そこで、加速度微分波形から蹴り出し側の接地端Ekの時刻と次に現れる蹴り出し側の接地端Ekの時刻との時間間隔を算出してこれを回転時間Trとすることができる。踏み込み側の接地端の時刻と次に現れる踏み込み側の接地端の時刻との時間間隔を算出してこれを回転時間Trとしてもよい。
なお、加速度波形における蹴り出し側の接地端Ekの時刻と次に現れる蹴り出し側の接地端Ekの時刻との時間間隔からも回転時間Trを求めることは可能であるが、接地端Ef,Ekの時間を精度よく算出して回転時間Trを求めるには、加速度微分波形を使用することが好ましい。
【0027】
特定周波数帯域設定手段14は、記憶部14aと帯域設定部14bとを備える。
記憶部14aは、所定の回転時間(ここでは、40km/hに相当する回転時間)における各ブロック周期周波数と周波数帯域幅とを記憶して保存する。ここでは、大ブロックのブロック周期周波数(fa=290Hz)とfaを中心とした帯域幅、及び、小ブロックのブロック周期周波数(fb=410Hz)とfbを中心とした帯域幅とが保存される。
帯域設定部14bは、記憶部14aに保存されたブロック周期周波数fa,fb及び帯域幅と、回転時間算出手段13で算出した回転時間Trとから、特定周波数帯域信号抽出手段であるバンドパスフィルター15a,15bの中心周波数と帯域幅とを設定する。
本例では、車輪速が40km/hである場合、バンドパスフィルター15aの中心周波数を290Hzに、帯域幅を120Hzに設定し、バンドパスフィルター15bの中心周波数を410Hzに、帯域幅は80Hzに設定した。
これら290Hz±60Hzの範囲にある周波数帯域と410Hz±40Hzの範囲にある周波数帯域とが本例の特定周期周波数帯域に相当する。
なお、前記例では、中心周波数が290Hzのときに帯域幅を120Hzとし、中心周波数が410Hzのときに帯域幅を80Hzとしたが、帯域幅の広さはこれに限るものではないが、帯域幅としては50Hz〜200Hzの範囲とすることが好ましい。
【0028】
図4(a),(b)は、195/65R15サイズのスタッドレスタイヤに図2のように加速度センサーを設置し、一般的な乾燥アスファルト路と凍結路をそれぞれ車輪速40km/hで走行したときの蹴り出し側接地面外振動の周波数スペクトルで、(a)図は前輪、(b)図は後輪のデータである。試験車両はFF車で、前輪の荷重の方が後輪の荷重より約1kN重い設計になっている。
乾燥路では、図4(a),(b)に示すように、大ブロックのブロック周期周波数であるfa=290Hz近傍と、小ブロックのブロック周期周波数であるfb=410Hz近傍とに明確なピークPa及びPbが現れることがわかる。
特定周波数帯域信号抽出手段15は、バンドパスフィルター15a,15bを備える。
バンドパスフィルター15aは、特定位置抽出手段12で抽出されたタイヤ径方向加速度の時系列波形の蹴り出し側の膨出点を始点としてタイヤ1周の20%分の長さの加速度信号から、中心周波数がfa=290Hzで帯域幅が120Hzの周波数帯域の信号を抽出し、バンドパスフィルター15bは、中心周波数がfb=410Hzで帯域幅が80Hzの周波数帯域の信号を抽出する。
車輪速が変わる場合には、バンドパスフィルター15a,15bの中心周波数であるブロック周期周波数と帯域幅とを、前記のように、回転時間Trにより変更する。
【0029】
加速度レベル算出手段16は、バンドパスフィルター15aで抽出された中心周波数がfaである周波数帯域の信号のRMS平均値gaと、バンドパスフィルター15bで抽出された中心周波数がfbである周波数帯域のRMS平均値gbとを算出する。これらRMS平均値ga,gbが、本例における特定周波数帯域における加速度の大きさである。
判定値算出手段17は、前記RMS平均値gaと前記RMS平均値gbとを加速度レベルの判定のメジャーとして氷路判定値Rを算出する。具体的には、gaに対するgbの比を路面が乾燥路か凍結路かの判定に用いる氷路判定値Rとする。R=(gb/ga)である。
なお、加速度レベルであるRMS平均値ga,gbは車輪速により変化するので、加速度レベルを回転時間Trを用いて補正することが望ましい。
なお、補正の仕方としては、タイヤ加速度がタイヤ回転速度Trの二乗にほぼ比例する、すなわち、回転時間Trの二乗に反比例するという関係を用いてRMS平均値ga,gbをそれぞれRMS補正値Ga,Gbに変換すればよい。
【0030】
図5は、図4(a)に示した前輪の蹴り出し側接地面外加速度から算出した乾燥路、凍結路、及び、圧雪路におけるタイヤ1回転毎の氷路判定値Rを時系列的に示したものである。
この図から、凍結路における氷路判定値Rは、乾燥路や圧雪路の氷路判定値Rに比較して非常に小さな値になっていることがわかる。したがって、適切な閾値Kb(例えば、Kb=0.2)を設けることで、路面が凍結路であるか否かを判定することができる。
路面状態推定手段18では、判定値算出手段17で算出された氷路判定値Rと予め設定された閾値Kbとを比較して、路面が凍結路であるか否かを推定するとともに、走行中の路面が凍結路であると推定された場合には、警報手段19に路面が凍結路であるという信号を出力する。
警報手段19は、運転席近傍に設置されて、路面が凍結路であるという信号が入力されたときに、例えば、警報用のLEDを点灯もしくは点滅させるなどしてドライバーに路面が凍結路であることを認識させる。なお、警報用の音声や警報音により、ドライバーに路面が低μ路面であることを認識させるようにしてもよいし、警報用の音とLEDとを併用してもよい。
【0031】
次に、本実施の形態に係る路面状態の推定方法について説明する。
なお、本例では、トレッド22に、ブロック周期周波数がfa=290Hzである大ブロックとブロック周期周波数がfb=410Hzである小ブロックとが形成されたタイヤ20を用いた。
まず、加速度センサー11により、図3(a)に示すような、タイヤ20のトレッド22の内面に作用するタイヤ径方向加速度を検出した後、特定位置抽出手段12にて、タイヤ径方向加速度の時系列波形から、蹴り出し側の膨出点を始点としてタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号を抽出する。
一方、回転時間算出手段13にて、図3(b)に示すような、タイヤ径方向加速度を微分した加速度微分波形を求め、この加速度微分波形を用いて、タイヤ20が一回転する時間である回転時間Trを算出する、そして、この回転時間Trを用い、特定周波数帯域設定手段14により、バンドパスフィルター15a,15bの中心周波数と帯域幅とを設定する。
【0032】
次に、特定位置抽出手段12で抽出された信号を、バンドパスフィルター15a,15bを通過させた後、加速度レベル算出手段16に送り、加速度レベル算出手段16にて、大ブロックが路面と連続して接触するかあるいは離れる際に発生するブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaと小ブロックのブロック周期周波数fbを含む周波数帯域のRMS平均値gbとを算出する。
そして、これらのRMS平均値ga,gbを用いて氷路判定値R=(gb/ga)を算出し、この氷路判定値Rと予め設定された閾値Kbとを比較して、路面が凍結路であるか否かを判定する。
走行中の路面が凍結路であると推定された場合には、警報手段19に路面が凍結路であるという信号を出力し、警報手段19にてLEDを点灯もしくは点滅させるなどしてドライバーに路面が凍結路であることを認識させる。
【0033】
このように本実施の形態では、トレッド22に、ブロック周期周波数がfa=290Hzである大ブロックとブロック周期周波数がfb=410Hzである小ブロックとが形成されたタイヤ20のインナーライナー部21のタイヤの幅方向中心に、加速度センサー11を、その検出方向がタイヤ径方向になるように配置して、タイヤ20のトレッド22の内面に作用するタイヤ径方向加速度を検出し、タイヤ径方向加速度から大ブロックのブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaと小ブロックのブロック周期周波数gbを含む周波数帯域のRMS平均値gbとを算出して氷路判定値R=(gb/ga)を求め、この氷路判定値Rと予め設定された閾値Kbとを比較して、路面状態を推定するようにしたので、走行中の路面が凍結路であるか否かを確実に推定することができる。
このとき、タイヤ径方向加速度の時系列波形から、蹴り出し側の膨出点を始点としてタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号を抽出し、抽出された信号から氷路判定値R=(gb/ga)を求めるようにすれば、外乱の影響を受けにくくなるので、路面状態の推定精度を更に向上させることができるとともに、応答性が向上する。
また、本発明の路面状態推定装置10で推定された路面状態の情報を車両制御手段などに出力して、車両の走行状態を制御するようにすれば、ABSブレーキのより高度な制御等が可能になり、車両の安全性を更に高めることができる。
【0034】
なお、前記実施の形態では、タイヤ径方向加速度から大ブロックのブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaと小ブロックのブロック周期周波数fbを含む周波数帯域のRMS平均値gbとを算出して氷路判定値R=(gb/ga)を求め、走行中の路面が凍結路であるか否かを推定するようにしたが、2つの周波数帯域を変更することで、走行中の路面が雪路であるか否かを推定することができる。
図6(a),(b)は、一般的な乾燥アスファルト路と圧雪路をそれぞれ車輪速40km/hで走行したときの蹴り出し側接地面外振動の周波数スペクトルで、(a)図は前輪、(b)図は後輪のデータである。なお、タイヤ及び試験車両については、前記実施の形態と同じである。
乾燥路では、図4(a),(b)と同様に、大ブロックのブロック周期周波数fa=290Hz近傍と、小ブロックのブロック周期周波数fb=410Hz近傍とに明確なピークPa及びPbが現れる。一方、圧雪路ではピークPaよりも低周波側で加速度レベルが高くなっており、図6(a),(b)に示すように、約140Hzに新たなピークPcが出現している。
【0035】
そこで、圧雪路において出現するピークPcに対応する周波数fcを含む周波数帯域のRMS平均値gcの大きさを雪路の判定に使用すれば、走行中の路面が乾燥路であるか雪路であるかを推定することができる。
ここで、基準として、大ブロックのブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaを使用するとともに、新たなバンドパスフィルターを設け、本実施の形態と同様に、タイヤ径方向加速度の時系列波形の蹴り出し側の膨出点を始点とするタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号から、例えば、中心周波数がfc=140Hz、帯域幅が120Hzの周波数帯域の信号を抽出し、この抽出されたピークPcに対応する周波数fcを含む周波数帯域のRMS平均値gcを算出する。
そして、大ブロックのブロック周期周波数faを含む周波数帯域のRMS平均値gaを加速度レベルの判定のメジャーとして雪路判定値Rc=(g/ga)を算出する。
図7は、図6(a)に示した前輪の蹴り出し側接地面外加速度から算出した乾燥路、凍結路、及び、圧雪路におけるタイヤ1回転毎の雪路判定値Rcを時系列的に示したものである。
同図から、圧雪路における雪路判定値Rcは、バラツキはあるものの、乾燥路や凍結路の雪路判定値Rcよりも大きくなっていることがわかる。したがって、適切な閾値Kc(例えば、Kc=1.0)を設けることで、路面が圧雪路であるか否かを判定することができる。
よって、氷路判定値Rによる判定と雪路判定値Rcによる判定とを組み合せることにより、路面が乾燥路であるか、凍結路であるか、あるいは、圧雪路であるかを安定的に分離することができる。
【0036】
また、前記例では、タイヤ径方向加速度の時系列波形から、蹴り出し側の膨出点を始点としてタイヤ1周の20%分の長さの領域の信号を抽出したが、反直下点から踏み込み側の膨出点までの領域の信号を抽出してもよい。但し、蹴り出し側と踏み込み側とを比較すると、踏み込み側の方が路面の凹凸影響を受け易いので、本例のように、蹴り出し側を用いる方が高い推定精度が得られるので好ましい。
また、前記例では、ブロックの種類を周方向の長さの異なる2種類のブロックとしたが、これに限るものではなく、3種類あるいはそれ以上あってもよい。但し、種類が増えるとブロック周期に起因するピークレベルが低くなる傾向にあるので、ブロックの種類としては3種類以下にすることが好ましい。
また、前記例では、特定周波数帯域における加速度の大きさを、バンドパスフィルター15a,15bを通過した加速度波形のRMS平均値ga,gbとしたが、例えば、FFTなどの他の解析手法を用いてもよい。
【0037】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、タイヤ1回転毎のバラツキの少なく、かつ、精度の高い路面状態の推定を行うことができるので、推定された路面状態に基づいて車両の走行状態を制御するようにすれば、車両の走行安全性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0039】
10 路面状態推定装置、10A センサー部、10B 演算部、
11 加速度センサー、12 特定位置抽出手段、13 回転時間算出手段、
13a 加速度信号微分部、13b 回転時間算出部、
14 特定周波数帯域設定手段、14a 記憶部、14b 帯域設定部、
15 特定周波数帯域信号抽出手段、15a,15b バンドパスフィルター、
16 加速度レベル算出手段、17 判定値算出手段、18 路面状態推定手段、
19 警報手段、
20 タイヤ、21 インナーライナー部、22 タイヤトレッド、23 ホイール、
CL センターライン、R 路面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤトレッド表面にタイヤ周方向に沿って配列されたブロック列が形成されたタイヤのタイヤセンター部のタイヤトレッド内面側に加速度センサーを取付てタイヤ径方向加速度を検出するとともに、前記加速度センサーの出力信号から、2つの周波数帯域における加速度レベルを抽出し、前記抽出された2つの周波数帯域における加速度レベルを比較して走行中の路面状態を推定する路面状態推定方法であって、
前記出力信号は、タイヤ回転軸を中心として接地中心と反対側に位置する点である反直下点と踏み込み側の接地端との間、もしくは、蹴り出し側の接地端と前記反直下点との間から選択される接地面外領域における加速度信号の時系列波形である加速度波形で、
前記2つの周波数帯域の上限値と下限値とは、前記加速度波形もしくは前記加速度波形を微分して得られる微分加速度波形から算出されるタイヤ回転時間を用いて設定されることを特徴とする路面状態推定方法。
【請求項2】
前記2つの周波数帯域が、それぞれ、50Hz以上2500Hz以下の周波数範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の路面状態推定方法。
【請求項3】
前記加速度信号が、前記反直下点と踏み込み側の接地面外においてタイヤが最も外側へ膨れる点である踏み込み側の膨出点との間、もしくは、蹴り出し側の接地面外においてタイヤが最も外側へ膨れる点である蹴り出し側の膨出点と前記反直下点との間から選択される接地面外領域における加速度信号であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の路面状態推定方法。
【請求項4】
前記2つの周波数帯域のうち少なくとも1つは、前記ブロック列を構成するブロックの周期に相当する周波数であるブロック周期周波数に起因するピークを含む周波数帯域であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の路面状態推定方法。
【請求項5】
前記加速度信号が、タイヤ周方向に沿ったタイヤ1周の20%以上の長さを有する領域の加速度信号であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の路面状態推定方法。
【請求項6】
前記ブロック列は、周方向の長さが異なる少なくとも2種類のブロックを備えていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の路面状態推定方法。
【請求項7】
前記2つの周波数帯域のうちの1つが、周方向の長さが長い方のブロックのブロック周期周波数を含む周波数帯域で、残りの周波数帯域が、周方向の長さが短い方のブロックのブロック周期周波数を含む周波数帯域であることを特徴とする請求項6に記載の路面状態推定方法。
【請求項8】
前記加速度レベルが、前記算出されたタイヤ回転時間を用いて補正された加速度レベルであることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の路面状態推定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−203017(P2011−203017A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68652(P2010−68652)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)