説明

路面状況判定方法及びその装置

【課題】車種による違いに関わらずに路面状態を正確に判別する。
【解決手段】 音センサで道路を走行する車両の音を検出し、この音の強度をフーリエ変換し、予め設定した時間内に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、車両抽出用しきい値をもとにして各車両部分を抽出する。この抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値と第2しきい値との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車、バイクなどの車両が走行する道路の路面状況を判定する路面状況判定方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、バイクなどの車両が走行する道路の路面状況を検出する路面状況センサの情報は、道路パトロール等の目視による情報に代わり除雪ステーションのオペレーター、ドライバー及び道路管理者へいち早く情報を提供することからも、今後最も期待される道路気象センサのひとつである。しかしながら、前記路面状況センサは、精度の安定性が低い機器が多いことから、除雪出動の判断の情報としては充分に活用されておらず、出動判断はITV画像、道路パトロール等の目視情報に頼っているのが現状である。
【0003】
冬季道路の路面情報は、雪国の地域往民にとって最も身近な情報であることから、冬季道路情報に対する「きめ細やかな情報の提供(路面状況を含む)」の要望割合が大変高くなってきている。特に、高い精度の道路気象情報の提供は、除雪等の道路管理への利用だけでなく、地域住民にとっても、今後有益な情報であるから、積極的な開発が期待されている状況にある。
【0004】
従来、路面状況判定方法およびその装置としては、特許文献1に示されているように、自動車、バイクなどの車両が走行する道路の路面状況を検出する路面状況センサとして例えばマイクロフォンなどの音センサが開発され、この音センサで道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出し、この検出された接触音はデジタル信号に変換して分析部に入力される。この分析部ではデジタルデータから実際の周波数値と音圧レベル値がスペクトル解析により求められ、あらかじめ分析部に登録されている周波数値と音圧レベル値の設定路面状況値に対する実際の周波数値と音圧レベル値の比較判定が行われ、この比較判定結果が出力部を介して出力されるものである。
【0005】
また、特許文献2では、音センサで録音された音がデジタル録音データに変換されてから高速フーリエ変換器(FFT)でほぼリアルタイムでフーリエ変換されて周波数スペクトルが得られる構成である。この周波数スペクトルの分布により路面状況が湿潤、乾燥、圧雪であるかを判断する。
【0006】
ちなみに、車両走行音は路面とタイヤとの摩擦音が主体であって、「乾燥」では路面,空気,タイヤの摩擦音となり、「湿潤」では路面,水,タイヤの摩擦音で“シャー”という走行音は高い周波数音が主体となり、「圧雪」では雪,タイヤの摩擦音であるので、路面が雪で隠されるために特徴周波数音が変化して低い周波数音が主体となる。このような状況から,車両走行音が音センサでピックアップされ,その周波数分析(周波数フィルタ)処理による特徴抽出により路面状況を判別するものである。
【0007】
例えば、図30は、車両走行状態をデジタル録音した結果であり、横軸は時間(分)、縦軸は強度(音の振幅)を示すものである。振幅が大きく立ち上がっている部分が車両の通過を示しており、楕円で示した部分は代表的な車種別の車両として大型車と小型車(普通車)の通過を示している。なお、この図30の例のサンプリング周波数は22.05kHzであり、路面状況は乾燥状態であった。
【0008】
上記のようなデジタルデータが路面状態別に用意されたことで、車種別の周波数分析が行われる。
【0009】
例えば、図31では、小型車(普通車)及び大型車がそれぞれ乾燥路面と湿潤路面を走行した時間帯(図30の各楕円部)の走行音に対してフーリエ変換を施した結果を示すものである。なお、デジタルデータ数は65536個(約3秒)である。また、このグラフの横軸は音の周波数成分、縦軸は各周波数成分の強度を示している。
【0010】
上記の結果から、小型車(普通車)と大型車のいずれの場合も、湿潤路面では乾燥路面に比べて、約1kHz以上の高い周波数音の強度が強いことがわかる。これは、日常の感覚において、湿潤路面では「シャー」という擬音で車両走行を表現するように、乾燥路面の走行状態に比べて湿潤路面の方が高い周波数が強くなっていることを表現している。
【0011】
したがって、湿潤路面では、車種にかかわらず、高い周波数成分の音の強度が強いことが分かる。そこで、周波数フィルタにより、高い周波数成分の音を抽出すれば、それぞれの車種における乾燥状態と湿潤状態を見分けることができる。
【特許文献1】特開2005−156236号公報
【特許文献2】特開2002−256521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来の路面状況判定方法およびその装置においては、単純なスペクトル解析では車種による違いと路面状態による違いが判別できないことが問題点として内在している。
【0013】
例えば、図31のように小型車と大型車における乾燥状態と湿潤状態の結果を同じグラフ上に表現したものでは、大型車の方が小型車より音の強度が強くなっており、たとえ周波数フィルタにより高い周波数の音を抽出しても、車種による違いから、乾燥と湿潤を見分けることができなくなる。すなわち、大型車のように車両走行音自体が大きい場合、乾燥状態においても小型車の湿潤状態の走行音の強度を上回り、単純な周波数成分の強度を比較する場合では判別がむずかしくなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記発明が解決しようとする課題を達成するために、この発明の路面状況判定方法は、音センサで道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出し、この検出された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータを周波数毎の音の周波数強度にフーリエ変換し、予め設定した時間内に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、この全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値をもとにして各車両部分を抽出し、この抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値と第2しきい値との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断するものである。
【0015】
また、この発明の路面状況判定方法は、前記路面状況判定方法において、前記第1しきい値と第2しきい値は、規格化処理による全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出し、この路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて設定することが好ましい。
【0016】
また、この発明の路面状況判定方法は、前記路面状況判定方法において、前記規格化周波数強度が第1しきい値以下であるときは、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が乾燥と圧雪との間に第3しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第3しきい値以上のときは路面状態を乾燥と判断し、第3しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断することが好ましい。
【0017】
また、この発明の路面状況判定方法は、前記路面状況判定方法において、前記第1しきい値と第2しきい値、あるいは第3しきい値は、該当する規格化処理による全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出し、この路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて設定することが好ましい。
【0018】
また、この発明の路面状況判定方法は、前記路面状況判定方法において、前記音センサに加えて、降雪検知器により降雪か否かを検知すると共に、たとえ前記規格化周波数強度が第3しきい値以上であっても、降雪検知器が降雪を検知しているときは路面状態を圧雪と判断することが好ましい。
【0019】
この発明の路面状況判定装置は、道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出する音センサと、
この音センサにより検出された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータを周波数毎の音の周波数強度にフーリエ変換するフーリエ変換処理部と、
予め設定した時間に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出する全帯域周波数強度算出部と、
この全帯域周波数強度算出部で算出した全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値をもとにして各車両部分を抽出する車両抽出部と、
この車両抽出部で抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化することで、全車両の規格化周波数強度を算出する規格化処理部と、
この規格化処理部による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値と第2しきい値との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断する路面判別部と、
を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
また、この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、前記路面判別部は、前記規格化周波数強度が第1しきい値以下であるときに、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が乾燥と圧雪との間に第3しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第3しきい値以上のときは路面状態を乾燥と判断し、第3しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断する構成であることが好ましい。
【0021】
また、この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、前記音センサに加えて、降雪を検出する降雪検知器を設けると共に、前記路面判別部は、たとえ前記規格化周波数強度が第3しきい値以上であっても、降雪検知器が降雪を検知しているときは路面状態を圧雪と判断する構成であることが好ましい。
【0022】
この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、音センサが道路の近傍に立設された支持部材の一定の高さ位置に前記道路上を走行する車両へ向けて取り付けられていることが好ましい。
【0023】
この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、音センサが道路上を走行する車両の一部に取り付けられていることが好ましい。
【0024】
この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、音センサが車両の車内におけるタイヤハウス自体又はその近辺に取り付けられていることが好ましい。
【0025】
この発明の路面状況判定装置は、前記路面状況判定装置において、音センサが周囲を樹脂で封印したエレクトリックコンデンサマイクロフォン素子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上のごとき課題を解決するための手段から理解されるように、この発明の路面状況判定方法によれば、予め設定した時間内に通過した各車両の音をフーリエ変換して各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、前記各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理を行うことで、車種による違いに関わりなく同じ判断レベルにすることができると共に、路面状態が湿潤と乾燥と圧雪との間の第1,第2しきい値を設定することができ、湿潤と乾燥と圧雪の路面状態を正確に判断することができる。
【0027】
また、この発明の路面状況判定装置によれば、全帯域周波数強度算出部では、予め設定した時間内に通過した各車両の音をフーリエ変換した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、さらに、規格化処理部によって前記各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理を行うことで、車種による違いに関わりなく同じ判断レベルにすることができると共に、路面判別部では路面状態が湿潤と乾燥と圧雪との間の第1,第2しきい値を設定することができ、湿潤と乾燥と圧雪の路面状態を正確に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0029】
図1を参照するに、例えばアスファルトやコンクリートからなる道路Rには車両としての例えば一般乗用車あるいは大型車種などの自動車Cが図1において例えば紙面に対して直交した方向の手前側へ走行されている。そして、道路Rの近傍、例えば図1において左側には支持部材としての例えばポール1が立設されている。このポール1のある一定の高さ、例えば4mの高さ位置にはブラケット3が取り付けられており、このブラケット3の先端部には路面状況判定装置5における入力部としての音センサである音響電気変換器例えばマイクロフォン7が走行する前記自動車Cへ向けて右下斜め方向へ傾斜して設けられている。しかも、前記ポール1に設けられたマイクロフォン7の近傍には路面状況判定装置5における路面状況判定装置本体9が設けられている。
【0030】
また、前記ポール1にはブラケット11が取り付けられていて、このブラケット11の先端部には降雪検知器13が設けられている。
【0031】
図2を参照するに、前記路面状況判定装置5の構成ブロック図が示されている。路面状況判定装置5には、中央処理装置としてのCPU15が備えられており、このCPU15には、道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出する入力部としての音センサである例えばマイクロフォン7と、このマイクロフォン7から入力された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータ(生データ)を記憶するメモリ17が備えられている。
【0032】
さらに、前記CPU15には、デジタルデータを周波数毎の音の周波数強度にフーリエ変換するフーリエ変換処理部19(FFT処理部)と、予め設定した時間に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出する全帯域周波数強度算出部21と、この全帯域周波数強度算出部21で算出した全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値23(図7参照)をもとにして各車両部分を抽出する車両抽出部25が備えられている。なお、車両抽出用しきい値23について詳しくは後述する。
【0033】
さらに、前記CPU15には、前記車両抽出部25で抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数より高い各周波数成分の大きさを全体の音の大きさで規格化することで、全車両の規格化周波数強度を算出して規格化処理を施す規格化処理部27と、この規格化処理部27による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値29(図12参照)を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値31(図12参照)を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値29以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値29と第2しきい値31との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値31より小さいときは路面状態を圧雪と判断する路面判別部33が備えられている。
【0034】
なお、路面判別部33では、前記規格化処理部27による全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出すると共にこの路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて前記第1しきい値と第2しきい値を設定することができる。
【0035】
さらに、前記CPU15には、降雪検知器13と、前記路面判別部33で判断された結果を表示する出力部としての例えばCRTや液晶パネルなどの表示装置35が接続されている。
【0036】
次に、この発明の第1の実施の形態の路面状況判定方法について、上記の路面状況判定装置5を用いて説明する。
【0037】
図3を参照するに、路面状況判定方法の概略のフローとしては、ステップS1では、予め設定した時間としての例えば10分間にマイクロフォン7でデジタル録音された車両走行音がFFT処理(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換されて周波数毎の強度が算出される。
【0038】
ステップS2では、ステップS1の各車両の音の時系列の全帯域周波数強度が算出される。
【0039】
ステップS3では、ステップS2の全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値23をもとにして各車両部分が抽出される。
【0040】
ステップS4では、ステップS3で抽出された車両部分がある場合はステップ5に進み、抽出車両部分がない場合は表示装置35へ出力される。
【0041】
ステップS5では、ステップS3で抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ処理(HPF)が施されて規格化処理される。
【0042】
ステップS6では、ステップS5で規格化された規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤、乾燥、圧雪のいずれであるかを判別して表示装置35へ出力される。
【0043】
上記の各ステップS1〜S6について詳しく説明する。
【0044】
図4を参照するに、ステップS1では、マイクロフォン7で道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出し、この検出された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータ、例えば10分間にデジタル録音された車両走行音がフーリエ変換処理部19でFFT処理(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換されて周波数毎の強度が算出される。
【0045】
なお、デジタル録音時のサンプリング周波数は、例えば、22.05kHzとした場合、デジタルデータ65536個で約3秒間〔(1/22050)65536〕毎のデータを用いてFFT処理することになる。そのため、10分間では、約200回分のFFT処理の結果を得ることになる。
【0046】
ここで、上記のFFT処理から規格化処理までの一連の処理方法について詳しく説明する。
【0047】
図4(A)は、車両走行状態をデジタル録音した結果であり、横軸は時間(分)、縦軸は強度(音の振幅)を示すものである。振幅が大きく立ち上がっている部分が車両の通過を示しており、楕円で示した部分は代表的な車種別の車両として大型車と小型車(普通車)の通過を示している。なお、この図4(A)の例のサンプリング周波数は22.05kHzであり、路面状況は乾燥状態であった。
【0048】
上記のようなデジタルデータが路面状態別に用意されたことで、車種別の周波数分析が行われることになる。例えば、従来の図31で説明したように、小型車(普通車)及び大型車がそれぞれ乾燥路面と湿潤路面を走行した時間帯〔図4(A)の各楕円部〕の走行音に対してフーリエ変換を施した結果からすると、小型車(普通車)と大型車とを区別すれば、周波数フィルタにより、高い周波数成分の音を抽出し、それぞれの車種における乾燥状態と湿潤状態を見分けることができるが、実際には、予め設定した時間内に通過する車種は様々であるので、乾燥と湿潤を判別することができなくなる。
【0049】
そこで、各周波数成分の強度fω(x)を全体の強度に対する割合として表現する。すなわち、全体周波数成分の強度の合計Ftotalに対して、個々の周波数成分fω(x)がどの程度の割合Fω(x)を示すのかといった数値に変換する。この変換は数式(1)のようになる。
【数1】

【0050】
ただし、Fω(x)はx周波数の強度で、ωminは最小周波数で、ωmaxは最高周波数である。
【0051】
この数式(1)において、Fω(x)が全体周波数の強度に対するx周波数の強度の割合を示している。
【0052】
そこで、車種別の各周波数成分に対して数式(1)の変換を施し、グラフに表現すると、図5のようになる。なお、グラフの縦軸は対数目盛で表現している。このように変換することで、車種にかかわらず、最大で1.0の数値の範囲内で強度が表現され、同じ尺度に変換される。
【0053】
図5の結果から、車種にかかわらず、約2kHzよりも高い周波数において、変換強度が大きくなっていることが分かる。つまり、湿潤路面の車両走行音は、車種にかかわらず、全体に対する高い周波数の割合が強いことが表現されたことになる。すなわち、各周波数成分の大きさを全体の音の大きさで規格化することで、車両の走行音の大小の影響を取り除くことができた。
【0054】
このように表現された結果から、例えば、6kHzの強度が0.002よりも大きい場合は湿潤と判断するようなことができる。しかし、このように特定の周波数成分に注目しても判別は可能であるものの、図5の結果では、2kHz以上の周波数全般で同様の大小関係が継続している。そこで、数式(1)を数式(2)、(3)を基にして数式(4)のように書き換える。
【数2】

【0055】
ただし、fω(x)はx周波数の強度で、ωminは最小周波数で、ωmaxは最高周波数で、ωHPFはハイパスフィルタ周波数で、FSTDは規格化周波数強度である。
【0056】
この数式(4)のFHPFでは、例えば図6において、大型車の乾燥路面と湿潤路面のx周波数の強度に対してωHPFからωmax までの周波数成分を取り出し積分している。すなわち、ハイパスフィルタで周波数成分を取り出して積分していることになる。この結果を全体の周波数成分の積分値Ftotalで割り算することで、全体の強度に対するハイパスフィルタ後の周波数強度の割合を表現できる。その結果、特徴を持った周波数成分を全て加算できることから、特定の周波数で比較することに比べて、より安定した計測ができる。
【0057】
第1の実施の形態では、数式(4)の処理を「規格化処理」と称し、FSTDを「規格化周波数強度」と称することにする。もちろん、数式(1)と同様に、FSTDは最大でも1.0 となり、車種による音の強さの違いに関する影響は取り除かれ、同一次元で扱えるものである。
【0058】
なお、図5の例においてωHPFを2kHzとした場合の規格化周波数強度FSTDを算出した結果は、小型車乾燥では0.219で、小型車湿潤では0.399で、大型車乾燥では0.188で、 大型車湿潤では0.432となる。
【0059】
この結果から、湿潤と乾燥の判別を行う場合、規格化周波数強度FSTDが0.25以上を湿潤とすれば、通過車両の車種に関係なく路面状態を判別することが可能になる。ただし、道路の雪氷管理向けの路面状況計測では、1台の車両の通過で判断するというよりは、最低でも10分間隔での計測が基本であることから、10分間に走行する車両を検出し、10分間の総合的な判断を行う必要がある。
【0060】
ステップS2では、全帯域周波数強度算出部21により、上述した数式(2)に従って、各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換した。すなわち、図4(A)のデジタル録音データに対して約200回の処理を行った結果、それぞれの全周波数成分の積分により、図4(B)に示されているように時系列の全帯域周波数強度が算出される。
【0061】
ステップS3では、図4(A),(B)の矢印部分が車両の通過を示しており、車両の走行音を対象とする場合、この車両通過部分を抽出する必要がある。そこで、車両分離に関しては、車両抽出部25により、図7に示されているように全周波数帯域強度の大きさの車両抽出用しきい値23をもとに車両部分が抽出できる。その車両抽出結果は図8に示されている通りである。
【0062】
ステップS4では、図8の車両抽出結果は、車両の走行速度や走行音の大きさ等により、存在時間(車両通過時間)が異なるために、1点のデータとして抽出されるものや複数点のデータとして抽出されるものがある。しかし、複数点の連続データの抽出結果は1台の車両通過とみなすことができる。すなわち、これらの抽出点が車両通過時の走行音を示すことになる。したがって、通過車両があるか否かを判断できる。
【0063】
ステップS5では、ステップS3で抽出された車両抽出結果に基づくと、この通過車両時間部分における車両走行音の周波数特性は図9(A)のようになり、この結果を用いて、規格化処理部27により数式(4)の規格化処理が施される。各車両に対しての規格化処理結果は図9(B)のように0〜1.0 までの規格化された数値として表現できる。なお、周波数表現の関係上、図9(A)の横軸は対数目盛となっている。
【0064】
なお、上記の規格化処理においては図9(A)のようにωHPFは2kHzとしている。さらに、1台の車両通過に対して、複数点が抽出されているものに関しては、その複数点の中の最大値を示すものを複数点の代表点としているが、複数点の平均値でも良い。
【0065】
ただし、上記のωHPFの決定方法としては、例えば、図9(A)では1台の車両の通過音に関する周波数特性を示しているが、この周波数特性は個々の車両や路面状態によって異なるものである。そこで、各路面状態で1時間において抽出された全ての車両の走行音の周波数特性を平均した結果が図10に示されている。なお、この規格化強度に関しては、数式(1)の演算を行った上で、平均していることになる。
【0066】
まず、乾燥と湿潤に関して注目してみると、乾燥と湿潤の周波数特性はほぼ2kHzで交差していることがわかる。すなわち、湿潤状態では、乾燥状態に対して高い周波数の強度が強くなり、数式(4)の演算を行うに際して、ωHPFを2kHzに選定すれば、違いのある周波数領域のみを加算することになるので、違いが最も明確になることがわかる。すなわち、代表的な路面状態の走行音を収集し、この規格化された周波数特性(平均)の交点を求めることで、最適なωHPFを決定することができる。
【0067】
ステップS6では、路面判別部33により湿潤、乾燥、圧雪の路面状態が判断される。以上の図9(B)のようにして得た路面状態別の走行音の特徴抽出結果が図11に示されている。この図11では、ωHPFは2kHzとし、各路面状態で1時間の走行台数抽出結果と、その各車両の規格化周波数強度値がグラフ上に表現されている。この図11の横軸は番号として表現しているが、1時間中に走行音から抽出した車両部分〔図9(B)と同様〕に対して順に番号を与えて並べた結果になっている。
【0068】
この図11において、1点(車両1台)ごとの値については、ばらつきをもっているものの、各路面状態単位で帯状に分布していることがわかる。ここで、この実施の形態の路面状況判定装置5の位置づけから、1台の車両走行音から路面状態を判別する必要は無く、既存テレメータの関連上では10分に1回の判別で十分である。そこで、図11中の値を10分単位で平均した値として表現した結果が図12に示されている。
【0069】
この図12から、図11の帯状の分布は10分毎に平均化されることで、その分布の違いが明確となり、乾燥と湿潤の判別に関しては、規格化周波数強度FSTDの第1しきい値29を0.4とすればよいことがわかる。また、乾燥と圧雪に関しては、規格化周波数強度FSTDの第2しきい値31が0.3に設定できることもわかる。
【0070】
したがって、第1の実施の形態の路面判別方法は、図13のフローチャートに示されているように、規格化周波数強度FSTDが第1しきい値29として例えば0.4以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値29として例えば0.4と第2しきい値31として例えば0.3との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値31として例えば0.3より小さいときは路面状態を圧雪と判断することができる。
【0071】
以上のように、全帯域周波数強度算出部21では、予め設定した時間内に通過した各車両の音をフーリエ変換して各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、さらに、規格化処理部27によって前記各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理を行うことで、車種による違いに関わりなく同じ判断レベルにすることができると共に、路面判別部33では路面状態が湿潤と乾燥と圧雪との間の第1,第2しきい値31を設定することができ、湿潤と乾燥と圧雪の路面状態を正確に判断することができる。
【0072】
次に、第2の実施の形態の路面判別方法について説明すると、図12に示されているように、乾燥と圧雪に関しては、乾燥と湿潤の判別に比べると、その差が小さくなっているので、再度、図10の各路面状況別周波数特性比較のグラフに戻って乾燥と圧雪状態の周波数特性上の交点に注目してみると、乾燥と圧雪の状態では、圧雪の場合に低い周波数の音が主体的になっており、その周波数特性上の交点は1kHzの近傍にある。
【0073】
第1の実施の形態では乾燥と湿潤の違いを主としてωHPFを2kHzとして扱ってきたが、上記の点を踏まえると、乾燥と圧雪の状態を判別するためには、ωHPFを1kHzとすることが最適であると言える。
【0074】
そこで、図11と同様に、ωHPFを1kHzとした場合の乾燥と圧雪状態での各車両の規格化周波数強度は図14のグラフに表現される。さらに、図14中の値を10分単位で平均した値として表現した結果が図15に示されている。
【0075】
この図15と前述した図12を比較すると、図15の方が乾燥と圧雪の違いが大きくなっていることが分かる。すなわち、路面判別をより安定的に行うことができる。結局、規格化処理のためのωHPFについては最適な周波数値が存在し、その周波数値に関しては代表的な路面状態の周波数特性における交点から知ることができるようになる。
【0076】
以上のことから、第2の実施の形態の路面判別方法は、図16のフローチャートに示されているように、規格化周波数強度FSTDが第1しきい値29として例えば0.4以上のときは路面状態を湿潤と判断する。一方、規格化周波数強度FSTDが第1しきい値29として例えば0.4より小さいときは、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数ωHPFで規格化処理を施して路面状態が乾燥と圧雪との間に第3しきい値37として例えば0.55を設定し、規格化周波数強度FSTDが第3しきい値37以上のときは路面状態を乾燥と判断し、前記第3しきい値37として例えば0.55より小さいときは路面状態を圧雪と判断することができる。
【0077】
以上のように、第3しきい値37を新たに設定することで、乾燥と圧雪との判断誤差を軽減することができる。なお、路面判別部33では、第3しきい値37も、前述した第1しきい値29と第2しきい値31と同様に、規格化処理部27による乾燥と圧雪における全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出すると共にこの路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて設定することができる。
【0078】
次に、第3の実施の形態の路面判別方法について説明すると、図12から分かるように、規格化周波数強度の値は乾燥状態を中心として湿潤状態が大きく、圧雪状態が小さい値となる。すなわち、乾燥状態はその他の状態と境界を持つことになる。特に、圧雪と乾燥に関しては、両者の間違いは道路管理上で避けなければならない誤差と言えるが、両者の数値に境界を持つ以上は誤差を生じる可能性がある。
【0079】
そこで、降雪検知器13を併設し、路面状況判別時およびその以前の降雪状況を知ることで、明らかに乾燥状態ではないことが予想できるので、たとえ、規格化周波数強度が圧雪の範囲にあったとしても、降雪検知器13の状況によって、その判断を変化させるようにすれば、この誤差を軽減できるものである。
【0080】
第3の実施の形態の路面判別方法は、図17のフローチャートに示されているように、最終的に降雪検知器13を含めたものである。例えば、前述した第2の実施の形態の路面判別方法の図16のフローチャートにおいて乾燥と圧雪との間に第3しきい値37を設定するまでは同じフローであるが、規格化周波数強度FSTDが第3しきい値37としての例えば0.55以上のときは、降雪検知器13が降雪を検知していない場合に路面状態を乾燥と判断し、降雪検知器13が降雪を検知している場合は、たとえ規格化周波数強度FSTDが第3しきい値37以上であっても、路面状態を圧雪と判断することができる。
【0081】
一方、規格化周波数強度FSTDが第3しきい値37としての例えば0.55より小さいときは、路面状態を圧雪と判断する。
【0082】
なお、上記の場合は、降雪検知器13による降雪の有無のみを路面状態の判断に反映させているが、この判断については、過去の履歴としての例えば、「1時間前から降雪がある」や「湿潤状態を経由している」等の各種状況変化の流れを参照することも含まれる。
【0083】
以上のように、降雪検知器13を併用することで、より一層、圧雪と乾燥の判断誤差を軽減することができる。
【0084】
以上の説明は、音センサとしての例えばマイクロフォン7(定点型音センサ)が道路Rの近傍に立設された支持部材としての例えばポール1の所定の高さ位置に取り付けた例で説明したものであるが、音センサを車両としての例えば自動車の一部に取り付けても、路面状態を判断することも可能であるから、この点について詳細に説明する。
【0085】
図18(A)に示されているように、音センサとしてのマイクロフォン39を車両としての例えば自動車Cにおける例えば後輪41の内部におけるタイヤハウス43近辺に取り付ける。より詳細には図18(B)に示した拡大図において、タイヤにより跳ね上げられる水や雪氷がタイヤハウス43に当たる音を前記マイクロフォン39で捉えることで,道路R上を走行する自動車Cの走行音を上述した要領で音データを収集した。
【0086】
図19に示されているように,道路Rに散水した湿潤路面R1を前記マイクロフォン39を搭載した自動車が走行してマイクロフォン39で走行音の録音を行った。その結果を図20に示す。また,この音データを上述した式(1)により規格化強度を算出した結果を図21に示した。なお,上述した音センサのマイクロフォン7(定点型音センサ)では自動車走行時を抽出し,その約3秒間を周波数解析しているが,マイクロフォン39(車載型音センサ)が自動車に搭載されているため,自動車走行時のすべてを計測対象とすることができる。ここでは,自動車走行が安定した状態から,約1.5秒間を抽出し周波数解析を行っている。
【0087】
この結果,上述したのマイクロフォン7(定点型音センサ)の場合と同様,図21に示されているように、乾燥と湿潤の差が明確に現れていることから,タイヤハウス43に当たる音を計測することで路面状況の判別が可能である。ただし,マイクロフォン39を自動車の車内に配置することにより,人の会話やラジオの音声等の影響を受けることが容易に推測できることから,何らかの対策が必要である。
【0088】
本来,自動車の車内で自動車走行音をとらえる場合,窓等の隙間から回折により入り込む音をとらえるタイプ,上記のようにタイヤハウス43等の車体の振動が音として伝搬されたものをとらえるタイプが考えられる。しかし,前者は車両の気密性が高いと不利であり,後者は空間での減衰が問題となるとともに,他の車内音との混在が課題として挙げられる。そこで,空間での減衰を極力軽減し,車内音の影響を受けず安定した計測が期待できる「タイヤハウス43に当たる振動」という観点から次のようなアプローチを行った。
【0089】
車内で音を収集する場合,人の会話やラジオの音声等の影響を受けることは避けらない。そこで,タイヤにより跳ね上げられた水や雪氷がタイヤハウス43に当たる”音“を”振動“として計測すれば,先の問題は解決されるものと考えられる。
【0090】
そこで、図22に示されているように,タイヤハウス43に音センサとしての例えば振動計45を直接取り付けて上述したものと同様の走行実験を行った。その時の収集した音データを周波数解析した規格化強度を図23に示した。この結果から,マイクロフォン39と同様に,振動計45でも乾燥と湿潤の判別は可能であることが確認できた。
【0091】
次に,使用するマイクロフォンとしてエレクトリックコンデンサマイクロフォン(以下、ECMという)素子47に替え,このECM素子47を図24に示されているように、タイヤハウス43に直接貼り付けることで,タイヤハウス43に当る振動を音(圧力)として,また,振動を最大効率で計測することにした。
【0092】
収集した音データを周波数解析した規格化強度結果を図25に示した。なお,ECM素子47の周辺からは音が漏れて入らないよう,図24に示したごとく、周囲を樹脂49で封印した。
【0093】
このように、タイヤハウス43にECM素子47を貼り付けて計測しても、振動計45と同様な結果を得ることができた。
【0094】
定点型音センサと同様な手法を用いて,路面状況の判別を試みた。
【0095】
ωHPF の決定方法については,例えば図25では短い区間を走行した時の周波数特性を示しているが,この周波数特性は路面状態により違いが明確である。さらに、通常走行を想定して,日付や場所の異なる路面状態を平均した結果を図26に示した。
【0096】
まず、図26において、乾燥と湿潤に関して注目してみると,乾燥と湿潤の周波数特性はほぼ700Hzで交差していることがわかる。すなわち,湿潤状態では,乾燥に対して高い周波数の強度が強くなり,ωHPFを700Hzに選定すれば,違いのある周波数領域のみを加算することになるので,違いが最も明確になることがわかる。すなわち,代表的な路面状態の走行音を収集し,この規格化された周波数特性(平均)の交点を求めることで,最適なωHPF を決定することができる。
【0097】
そこで,走行データに対して,上述した式(3)のωHPF を700Hzとして規格化周波数強度を時系列(約1.5 秒間隔)に並べた結果が図27に示されている。このように,路面状況により,規格化周波数強度が分離されていることから,上述した定点型音センサと同様,この境界にしきい値を設定することで,路面状況の判別が容易に行えることになる。なお,この図27において,湿潤と乾燥を判別する第1 のしきい値は“0.3”,乾燥と圧雪を判別する第2 のしきい値は“0.1”と設定できる。
【0098】
基本的には,タイヤハウス43に当たる音を車内に置いたマイクロフォン39で計測することで,路面状況の判別が可能である結果を得たが,車内で発生する他の音(会話,ラジオ等)の影響を受けることが十分に予想されるので、タイヤハウス43に当たる音を振動として計測すれば先の問題は解決できると考え,振動計45による実験を行い,予想通りの結果を得ることができた。さらに,振動計45に替わり,ECM素子47をタイヤハウス43に直接貼り付け,周囲からの音が漏れない工夫をすることで,振動を音として計測するアプローチを行い良好な結果を得ることができた。
【0099】
上述した定点型音センサと同様な手法を用いれば,乾燥,湿潤,圧雪の路面状況を容易に判別が可能である。
【0100】
この発明の第4の実施の形態の路面状況判定方法について、上記の路面状況判定装置5を用いて説明する。
【0101】
図28を参照するに、路面状況判定方法の概略のフローとしては、ステップS7では、予め設定した時間としての例えば1.5秒間にECM素子47でデジタル録音された車両走行音がFFT処理(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換されて周波数毎の強度が算出される。
【0102】
ステップS8では、ステップS7の各車両の音の時系列の全帯域周波数強度が算出される。
【0103】
ステップS9では、ステップS8で抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ処理(HPF)が施されて規格化処理される。
【0104】
ステップS10では、ステップS9で規格化された規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤、乾燥、圧雪のいずれであるかを判別して表示装置35へ出力される。
【0105】
第4の実施の形態の路面判別方法は、図29のフローチャートに示されているように、規格化周波数強度FSTDが第1しきい値29として例えば0.3以上のときは路面状態を湿潤と判断する。一方、規格化周波数強度FSTDが第1しきい値29として例えば0.3より小さいときは、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数ωHPFで規格化処理を施して路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値31として例えば0.1を設定し、規格化周波数強度FSTDが第2しきい値31以上のときは路面状態が乾燥と判断され、前記第2しきい値31として例えば0.1より小さいときは路面状態が圧雪と判断される。
【0106】
以上のことから、定点音センサは、路面全体を管理するためには設置数が膨大になり、また、車両が通過しないと判別が行えないが、常時監視型であることから、リアルタイムな情報出力を可能にすることができる。また、車載型音センサは、移動時間を伴うことから、リアルタイム性がないものの、路線全体の路面状況を把握するには好都合である。また、自車両の走行音が常に発生することから、常時判別を可能にすることができる。したがって、道路を管理する管理者にとっては、利用用途によって両者使い分けすることができ、両者とも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】この発明の実施の形態の路面状況判定装置を道路の近傍に設けた正面図である。
【図2】この発明の実施の形態の路面状況判定装置の構成ブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態の路面状況判定方法を示すフローチャートである。
【図4】(A)はデジタル録音データを示すグラフで、(B)は(A)のグラフから全帯域周波数強度を示すグラフである。
【図5】図19のグラフにおける各周波数成分の強度を全体の強度に対する割合で表現したグラフである。
【図6】図5のグラフにおける大型車の周波数成分に対してハイパスフィルタ処理を行うことで、規格化処理を施したグラフである。
【図7】図4(B)の全帯域周波数強度のグラフに対して車両抽出用しきい値を設定したときのグラフである。
【図8】図7から車両抽出した結果を示すグラフである。
【図9】(A)は通過車両時間部分における車両走行音の周波数特性を示すグラフで、(B)は各車両における(A)の結果を用いて規格化処理して表したグラフである。
【図10】各路面状態別平均周波数特性比較を示すグラフである。
【図11】ωHPFを2kHzとした場合の各車両の路面状態別規格化周波数強度を示すグラフである。
【図12】図11のグラフに対して10分単位で平均した平均規格化周波数強度を示すグラフである。
【図13】この発明の第1の実施の形態の路面判別方法を示すフローチャートである。
【図14】ωHPFを1kHzとした場合の乾燥と圧雪状態での各車両の規格化周波数強度を示すグラフである。
【図15】図14のグラフに対して10分単位で平均した平均規格化周波数強度を示すグラフである。
【図16】この発明の第2の実施の形態の路面判別方法を示すフローチャートである。
【図17】この発明の第3の実施の形態の路面判別方法を示すフローチャートである。
【図18】(A)は自動車の後輪におけるタイヤハウス近辺にマイクロフォンを配置した斜視図、(B)はタイヤハウス近辺にマイクロフォンを配置した拡大図である。
【図19】道路に散水した湿潤路面の状態を示した図である。
【図20】湿潤路面と乾燥路面の状態においてデジタル録音データを示すグラフである。
【図21】図20に示した状態を周波数と規格化強度に変換したグラフを示す図である。
【図22】振動計を車両のタイヤハウスに配置した図である。
【図23】図22に示した振動計で道路の音を録音した状態を周波数と規格化強度に変換したグラフを示す図である。
【図24】ECM素子を車両のタイヤハウスに配置した図である。
【図25】図24に示したECM素子で道路の音を録音した状態を周波数と規格化強度に変換したグラフを示す図である。
【図26】日付や場所の異なる路面状態を平均した周波数と規格化強度に変換したグラフを示す図である。
【図27】図26のグラフに対して1.5秒間隔で平均した平均規格化周波数強度を示すグラフである。
【図28】この発明の実施の形態の路面状況判定方法を示すフローチャートである。
【図29】この発明の第4の実施の形態の路面判別方法を示すフローチャートである。
【図30】デジタル録音データを示すグラフである。
【図31】小型車及び大型車がそれぞれ乾燥路面と湿潤路面を走行したときの走行音に対してフーリエ変換を施したグラフである。
【符号の説明】
【0108】
1 ポール
3 ブラケット
5 路面状況判定装置
7 マイクロフォン(入力部;音センサ)
9 路面状況判定装置本体
11 ブラケット
13 降雪検知器
15 CPU
17 メモリ
19 フーリエ変換処理部(FFT処理部)
21 全帯域周波数強度算出部
23 車両抽出用しきい値
25 車両抽出部
27 規格化処理部
29 第1しきい値
31 第2しきい値
33 路面判別部
35 表示装置(出力部)
37 第3しきい値
39 後輪
41 マイクロフォン(音センサ)
43 タイヤハウス
45 振動計(音センサ)
47 ECM素子
49 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音センサで道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出し、この検出された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータを周波数毎の音の周波数強度にフーリエ変換し、予め設定した時間内に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出し、この全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値をもとにして各車両部分を抽出し、この抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値と第2しきい値との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断することを特徴とする路面状況判定方法。
【請求項2】
前記第1しきい値と第2しきい値は、規格化処理による全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出し、この路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて設定することを特徴とする請求項1記載の路面状況判定方法。
【請求項3】
前記規格化周波数強度が第1しきい値以下であるときは、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が乾燥と圧雪との間に第3しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第3しきい値以上のときは路面状態を乾燥と判断し、第3しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断することを特徴とする請求項1記載の路面状況判定方法。
【請求項4】
前記第1しきい値と第2しきい値、あるいは第3しきい値は、該当する規格化処理による全車両の規格化周波数強度を平均化して路面状況別平均規格化周波数強度を算出し、この路面状況別平均規格化周波数強度に基づいて設定することを特徴とする請求項1又は3記載の路面状況判定方法。
【請求項5】
前記音センサに加えて、降雪検知器により降雪か否かを検知すると共に、たとえ前記規格化周波数強度が第3しきい値以上であっても、降雪検知器が降雪を検知しているときは路面状態を圧雪と判断することを特徴とする請求項3記載の路面状況判定方法。
【請求項6】
道路を走行する車両のタイヤと路面との接触音を検出する音センサと、
この音センサにより検出された接触音がデジタル信号に変換されたデジタルデータを周波数毎の音の周波数強度にフーリエ変換するフーリエ変換処理部と、
予め設定した時間に通過した各車両の音の各周波数成分の強度を全体合計した強度に変換して全帯域周波数強度を算出する全帯域周波数強度算出部と、
この全帯域周波数強度算出部で算出した全帯域周波数強度から車両抽出用しきい値をもとにして各車両部分を抽出する車両抽出部と、
この車両抽出部で抽出された各車両走行音の周波数特性に対してハイパスフィルタ周波数で規格化することで、全車両の規格化周波数強度を算出する規格化処理部と、
この規格化処理部による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が湿潤と乾燥との間に第1しきい値を設定し、路面状態が乾燥と圧雪との間に第2しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第1しきい値以上のときは路面状態を湿潤と判断し、第1しきい値と第2しきい値との間にあるときは路面状態を乾燥と判断し、第2しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断する路面判別部と、
を備えていることを特徴とする路面状況判定装置。
【請求項7】
前記路面判別部は、前記規格化周波数強度が第1しきい値以下であるときに、再び、路面状態が乾燥と圧雪の路面状況別規格化周波数強度に基づいて、新たなハイパスフィルタ周波数で規格化処理して全車両の規格化周波数強度を算出し、この規格化処理による全車両の規格化周波数強度に基づいて路面状態が乾燥と圧雪との間に第3しきい値を設定し、前記規格化周波数強度が第3しきい値以上のときは路面状態を乾燥と判断し、第3しきい値より小さいときは路面状態を圧雪と判断する構成であることを特徴とする請求項6記載の路面状況判定装置。
【請求項8】
前記音センサに加えて、降雪を検出する降雪検知器を設けると共に、前記路面判別部は、たとえ前記規格化周波数強度が第3しきい値以上であっても、降雪検知器が降雪を検知しているときは路面状態を圧雪と判断する構成であることを特徴とする請求項7記載の路面状況判定装置。
【請求項9】
音センサが道路の近傍に立設された支持部材の一定の高さ位置に前記道路上を走行する車両へ向けて取り付けられていることを特徴とする請求項6、7または8記載の路面状況判定装置。
【請求項10】
音センサが道路上を走行する車両の一部に取り付けられていることを特徴とする請求項6記載の路面状況判定装置。
【請求項11】
音センサが車両の車内におけるタイヤハウス自体又はその近辺に取り付けられていることを特徴とする請求項10記載の路面状況判定装置。
【請求項12】
音センサが周囲を樹脂で封印したエレクトリックコンデンサマイクロフォン素子であることを特徴とする請求項11記載の路面状況判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2008−143508(P2008−143508A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202130(P2007−202130)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(598021605)社団法人 雪センター (5)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)