説明

身障者用毛糸編み機

【課題】 片手が不自由な身障者でも、マフラーなどの編み物を片手のみで編むことのできる毛糸編み機を提供する。
【解決手段】 長尺状の二本の棒体11を、所定の間隔を開けて前後平行に配置して本体部10を形成し、各棒体11の左右長手方向に、一定の間隔を開けて、毛糸Wを所定の手順で掛止するピン15を複数立設し、本体部10の左右両端部に、毛糸Wを仮止めするための柱片16を立設する。また、本体部10の下端面に、前後方向に沿って、前側に下降傾斜する台座20を着脱自在に取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片手のみでマフラーなどの編み物を容易に編むことのできる身障者用の毛糸編み機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手編みのマフラーやセーターなどは、編んだ人の心が伝わり、それを贈った人もそれを貰った人も心温まる気持ちなって嬉しいものである。しかし、手編みの編み物は両手を使って編む必要があり、片手が不自由な身障者にとっては編みたいと思っても編むことができないといったもどかしさがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、片手が不自由な身障者でも、マフラーなどの編み物を片手のみで編むことのできる毛糸編み機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
図1乃至図14を参照して説明する。請求項1に記載の身障者用毛糸編み機1は、片手のみで手編みすることのできる毛糸編み機であって、長尺状の二本の棒体11を、所定の間隔を開けて前後平行に配置して本体部10を形成し、前記各棒体11の左右長手方向に、一定の間隔を開けて、毛糸Wを所定の手順で掛止するピン15を複数立設し、前記本体部10の左右両端部に、毛糸Wを仮止めするための柱片16を立設してなるものである。
【0005】
請求項2に記載の身障者用毛糸編み機1は、片手のみで手編みすることのできる毛糸編み機であって、長尺状の二本の棒体11を、所定の間隔を開けて前後平行に配置して本体部10を形成し、前記各棒体11の左右長手方向に、一定の間隔を開けて、毛糸Wを所定の手順で掛止させるピン15を複数立設し、前記本体部10の左右両端部に、毛糸Wを仮止めするための柱片16を立設し、前記本体部10の少なくとも左右両端部の下端面に、前後方向に沿って、前側に下降傾斜する台座20を、交換可能に着脱自在に取付けてなるものである。
【0006】
請求項3に記載の身障者用毛糸編み機1は、請求項1および2に記載の発明において、各棒体11の上面に、左右長手方向に沿って、鉤針30で毛糸Wをすくってピン15から外すための溝部13を形成し、前記複数のピン15を前記溝部13の中心に沿って立設してなるものである。
【0007】
請求項4に記載の身障者用毛糸編み機1は、請求項1、2および3に記載の発明において、本体部10の端部に、綴じ針40の針穴41に毛糸Wを通すために、当該綴じ針40を立設するための差込み孔17を形成してなるものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の身障者用毛糸編み機1は、長尺状の二本の棒体11を、所定の間隔を開けて前後平行に配置した状態で連結して本体部10を形成し、各棒体11の左右長手方向に、一定の間隔を開けて、毛糸Wを所定の手順で掛止するピン15を複数立設し、さらに、本体部10の左右両端部に、毛糸Wを仮止めするための柱片16を立設したので、片手が不自由な身障者でも容易にマフラーなどの編み物を編むことができる。
【0009】
すなわち、例えば、マフラーを編む場合には、まず、毛糸Wの一端に輪を作り、その輪を向こう側の棒体11のピン15に掛ける(図5参照)。次に、その毛糸Wを、向こう側と手前側の棒体11のピン15に交互に8の字を描くように掛けて、所定のピン15までそれを続ける(図6)。続いて、毛糸Wの他端を本体部10の一方端部に設けた柱片16に巻き付けて仮止めし(図7)、その後、ピン15に掛けた毛糸Wを手で押し下げる(図8)。これは、続いて掛ける毛糸Wのスペースを確保するためである。
【0010】
次に、毛糸Wの他端を柱片16から外して、これまでと逆の方向に向かって、同じように、向こう側と手前側のピン15に8の字を描くようにして掛け、最初のピン15まで戻り(図9)、その後、他方端部に設けた柱片16に巻き付けて仮止めする(図10)。
【0011】
この状態で、鉤針30を使って、向こう側(あるいは手前側)に最初に掛け下側に位置する毛糸Wをピン15から外す(図11)。外し終わったら、手前側(あるいは向こう側)に最初に掛け下側に位置する毛糸Wを同じように鉤針30を使って外す。これで、編み物の一段目が完成する。
【0012】
次に、毛糸Wを指で押し下げた後、仮止めしていた毛糸Wを外して、最初と同様に8の字を描くようにして使用する全てのピン15に掛け、同じような作業を繰り返す。こうすることによって、所定長さのマフラーを編み上げることができる。なお、網上がったマフラーは、柱片16に仮止めしている毛糸Wを外して綴じ針40に通し、当該綴じ針40によって当該マフラーを綴じて(図12)、完成品とする(図14)。
【0013】
請求項2に記載の身障者用毛糸編み機1は、請求項1に記載の発明と同様に、片手で容易にマフラーなどの編み物を編むことができる。また、本体部10の少なくとも左右両端部の下端面に、前後方向に沿って、前側に下降傾斜する台座20を設けたので、向こう側の棒体11のピン15を高くして見易くすることができ、片手での作業がより容易となる。
【0014】
また、この台座20は、交換可能に着脱自在に取付けるので、高さや傾斜角度の異なる複数種の台座20を揃えることによって、作業者に合ったものを選択することができ、作業がさらに容易となる。
【0015】
請求項3に記載の身障者用毛糸編み機1は、棒体11の上面に溝部13を形成し、その溝部13の中心にそってピン15を立設したので、鉤針30で毛糸Wをピン15からすくって外す際に、当該鉤針30の鉤部31を溝部13を侵入させることができるので、毛糸Wをすくい上げる作業が容易となる。
【0016】
請求項4に記載の身障者用毛糸編み機1は、本体部10の端部に、綴じ針40の針穴41に毛糸Wを通すために、当該綴じ針40を立設するための差込み孔17を形成したので、マフラーを綴じる際に、綴じ針40を差込み孔17に差し込み、その針穴41に毛糸Wを片手で容易に通すことができる(図13参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る身障者用毛糸編み機1の実施形態を、図1乃至図4に示す。これは、片手のみで手編みすることのできる毛糸編み機1であり、長尺状の二本の棒体11を、20mm〜30mmの間隔を開けて前後平行に配置し、その左右両端部を連結部12で連結して本体部10を形成している。また、各棒体11の左右長手方向に沿って、10mmの間隔を開けて、毛糸Wを所定の手順で掛止させるピン15を、13mmの高さで複数立設している。このピン15は、その上端部に膨大部15aを有し、掛けた毛糸Wが容易に外れないようにしている。
【0018】
なお、本実施形態では、各棒体11の上面には、左右長手方向に沿って、鉤針30で毛糸Wをすくってピン15から外すための溝部13を形成しており、複数のピン15は、その溝部13の中心に沿って立設している。隣接するピン15とピン15の間隔は、10mmに限定されず、作業者用や編み物に合わせて例えば15mmや20mmあるいはそれ以上に設定することができる。また、ピン15の高さも13mm以上またはそれ以下に設定することができる。
【0019】
また、本体部10の左右両端部に位置する連結部12に、毛糸Wを仮止めするための柱片16を立設している。この柱片16は、円柱形状とする。
【0020】
また、本体部10の左右両端部に位置する連結部12の下端面に、前後方向に沿って、前側に下降傾斜する台座20を、自在に交換できるように着脱自在に取付けている。本実施形態にあっては、3対の高さや傾斜角度の異なる台座20を揃えると共に、各台座20の上端面に二つの孔部21を形成し、その孔部21に、連結部12の下端面から突設したダボ14を着脱自在に嵌入組付けするようにしている。これにより、作業者に合った高さおよび傾斜の台座20を取り付けることができる。さらに、本体部10の端部に、綴じ針40の針穴41に毛糸Wを通すために、当該綴じ針40を立設するための差込み孔17を形成している。
【0021】
本実施形態に係る身障者用毛糸編み機1は、次のようにして使用する。ここでは、幅が20cmのマフラーを編む場合について、図5乃至図14を参照して説明する。
【0022】
まず、毛糸Wの一端に輪を作り、その輪を向こう側に位置する棒体11の最初のピン15(15a)に掛ける(図5参照)。次に、その毛糸Wを、向こう側と手前側の棒体11のピン15に交互に8の字を描くように掛けて、最初のピン15から20本目のピン15(15b)までそれを続ける(図6)。その後、毛糸Wの他端を本体部10の一方端部に設けた柱片16(16b)に巻き付けて仮止めした後(図7)、ピン15に掛けた毛糸Wの全体を手で押し下げる(図8)。この押し下げは、続いて毛糸Wをピン15に掛ける際に、その掛ける部分を作るためである。
【0023】
次に、毛糸Wの他端を柱片16(16b)から外して、これまでと逆の方向に向かって、同じように、向こう側と手前側のピン15に8の字を描くようにして掛ける(図9)。そして、最初のピン15(15a)まで戻った後、毛糸Wの端を他方端部に設けた柱片16に巻き付けて仮止めする(図10)。
【0024】
この状態から、鉤針30を使って、向こう側(あるいは手前側)に最初に掛けた毛糸W(下側に位置する毛糸W)を全てのピン15から外す(図11)。外し終わったら、手前側(あるいは向こう側)に最初に掛けた毛糸W(下側に位置する毛糸W)を同じように鉤針30を使って全てのピン15から外す。これで、編み物の一段目が完成したことになる。この作業において、棒体11の上面には溝部13が形成されているので、鉤針30の鉤部31が溝部13に侵入し、毛糸Wを容易にすくい上げることができる。
【0025】
次に、毛糸Wを指で押し下げた後、仮止めしていた毛糸Wを柱片16から外して、最初の場合と同様に8の字を描くようにしてピン15に掛け、同じような作業を繰り返す。これによって、幅が20cmのマフラーを編み上げることができる。
【0026】
なお、網上がったマフラーは、柱片16に仮止めしている毛糸Wを外して綴じ針40に通し、当該綴じ針40によって当該マフラーを綴じる(図12)。この際、綴じ針40を差込み孔17に差し込んで立てた状態とし、その針穴41に毛糸Wを通すことができるので、これらの作業を片手で容易に行うことができる(図13)。完成したマフラーを図14に示す。
【0027】
この身障者用毛糸編み機1は、全ての作業を片手で行うことができるので、片方の手が不自由な身障者でも、容易にマフラーなどの編み物を編むことができる。また、本体部10の下端面に、前側に下降傾斜する台座20を設けているので、向こう側の棒体11のピン15を高くして見易くすることができ、片手での作業がより容易となる。また、この台座20は、交換可能に着脱自在に取付けるので、高さや傾斜角度の異なる複数種の台座20を揃えることによって、作業者に合ったものを選択することができる。
【0028】
なお、本実施形態に係る身障者用毛糸編み機1は、上記した作用効果を含めて、以下の特徴を有する。
(1)最初から最後まで左右いずれかの片手のみで、編み物を完成できる。
(2)毛糸の結び目を作ることなく続けて新しい毛糸へ移れる(結び目がない)。
(3)柄用の毛糸を途中に入れることで、柄編みも簡単にできる。
(4)編んだ毛糸の端を編み物の端部にそのまま通して綴じるので、綴じ方が簡単である。
(5)毛糸は見易い並太や極太を使用できる。
(6)毛糸や作業者(身障者)によって、台座を自在に替えることができ、本発明の毛糸編み機と作業者の目の距離は3段階の変更ができる。
(7)一段一目が1cmで計算できるので、マフラーなどの長さや幅の予想が立てられる。
(8)編み物の裏表の網柄が異なるため、リバーシブルとして着用できる。
(9)座ることのできる身障者であれば、編むことができる(ベッドの上なら、上半身を45度程度起こすことで編める)。
【0029】
鉤針30をそのまま持つのが困難な身障者の場合には、市販の補助グリップを鉤針に取付けて使用するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る身障者用毛糸編み機1は、身障者の他に、高齢者や認知症などの健常な日常活動をごく通常に営むことのできない人々にとっても、趣味あるいはリハビリ器具として利用できる有用な道具である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る身障者用毛糸編み機の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す編み機において、本体部と台座を取り外した状態を示す分解斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1に示す編み機の使用方法を示す概略平面図である。
【図6】図1に示す編み機の使用方法を示す概略平面図である。
【図7】図1に示す編み機の使用方法を示す概略平面図である。
【図8】図1に示す編み機の使用方法を示す概略側面図である。
【図9】図1に示す編み機の使用方法を示す概略平面図である。
【図10】図1に示す編み機の使用方法を示す概略平面図である。
【図11】図1に示す編み機の使用方法を示す概略側面図である。
【図12】図1に示す編み機の使用方法を示す概略側面図である。
【図13】図1に示す編み機の使用方法を示す概略側面図である。
【図14】図1に示す編み機で編んだマフラーを示す正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 毛糸編み機
10 本体部
11 棒体
12 連結部
13 溝部
14 ダボ
15 ピン
15a 膨大部
16 柱片
17 差込み孔
20 台座
21 孔部
22 滑り止め材
30 鉤針
31 鈎部
40 綴じ針
41 針穴
W 毛糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片手のみで手編みすることのできる毛糸編み機であって、長尺状の二本の棒体(11)を,所定の間隔を開けて前後平行に配置した状態で連結して本体部(10)を形成し、前記各棒体の左右長手方向に,一定の間隔を開けて,毛糸(W)を所定の手順で掛止するピン(15)を複数立設し、前記本体部の左右両端部に,毛糸を仮止めするための柱片(16)を立設してなる身障者用毛糸編み機。
【請求項2】
片手のみで手編みすることのできる毛糸編み機であって、長尺状の二本の棒体(11)を,所定の間隔を開けて前後平行に配置して本体部(10)を形成し、前記各棒体の左右長手方向に,一定の間隔を開けて,毛糸(W)を所定の手順で掛止させるピン(15)を複数立設し、前記本体部の左右両端部に,毛糸を仮止めするための柱片(16)を立設し、前記本体部の少なくとも左右両端部の下端面に,前後方向に沿って,前側に下降傾斜する台座(20)を,交換可能に着脱自在に取付けてなる身障者用毛糸編み機。
【請求項3】
各棒体(11)の上面に、左右長手方向に沿って、鉤針(30)で毛糸(W)をすくってピン(15)から外すための溝部(13)を形成し、前記複数のピンを前記溝部の中心に沿って立設してなる請求項1または2に記載の身障者毛糸編み機。
【請求項4】
本体部(10)の端部に、綴じ針(40)の針穴(41)に毛糸(W)を通すために、該綴じ針を立設するための差込み孔(17)を形成してなる請求項1、2または3に記載の身障者用毛糸編み機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−154357(P2007−154357A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350583(P2005−350583)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(505450146)
【Fターム(参考)】