説明

車いす固定装置

【課題】固定作業を容易に行うことができる車いす固定装置を提供する。
【解決手段】前部固定部31は、固定位置13より車両前方F側のフロア12の部位に固定されたアンカー41を備え、アンカー41に立設された軸部42に、リング部材43を支持する。リング部材43にバックルベルト44を接続し、バックルベルト44先端にバックル45を設ける。バックル45にベルト51を挿通し、バックル45より延出したベルト基端側52を引っ張って基端方向へ移動した際にベルト先端側53の延出量を減少させる一方、ベルト51の先端方向への移動を阻止できるように係合する。ベルト53先端部に固定フック62を設け、固定フック62を作業用ロッド71に接続する。ベルト基端側52にリング部91を設け、作業用ロッド71を挿通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定位置に車いすを固定する車いす固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、後部室に車いすを搭載できる車両が知られている。
【0003】
この車両では、搭乗した車いすを所定位置に固定する為の固定装置が設けられており、その固定装置としては、車いすをベルトで固定するものが知られている。
【0004】
その一例としては、固定位置に配置された車いすのフレーム後部を固定ベルトで固定するとともに、フレーム前部を前方からベルトで引張して固定する固定装置が挙げられる。
【0005】
すなわち、前記フレームの前部を固定するベルトは、先端に係止フックが設けられた係止ベルトを備えており、該係止ベルトの基端には、バックルが設けられている。該バックルには、長さ調整ベルトが挿通されており、該長さ調整ベルトの一端は、フロアに固定されている。
【0006】
このベルトで車いすを固定する際には、前記係止ベルトに設けられた係止フックを前記車いすのフレーム前部に係止するとともに、前記バックルへの前記長さ調整ベルトの固定位置を変更してフロア固定位置からバックルまでの長さを調整する。
【0007】
これにより、当該ベルトの全長を調整することで、前記車いすを前方に付勢した状態で固定できるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来の車いす固定装置にあっては、車いすの固定位置より車両前方側に十分な作業スペースを確保できない場合がある。
【0009】
この場合、車いすのフレームへの係止フックの係止作業や、前記バックルへの長さ調整ベルトの締め付け作業が困難となり、苦労を要する。
【0010】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、固定作業を容易に行うことができる車いす固定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明の車いす固定装置にあっては、ベルトの先端に設けられた固定フックを車いすに係止して該車いすを固定する車いす固定装置において、フロアに固定されたバックルに前記ベルトを挿通して、該ベルトを基端側へ移動した際に前記バックルから延出した前記ベルトの先端側の延出量を減少させるとともに先端側への移動を阻止可能の構成する一方、前記固定フックに作業用ロッドを設け、前記ベルトの基端部を前記作業用ロッドに係合した。
【0012】
例えば、固定位置の前側スペースが狭い状態で車いすを固定する際には、車いすのフレーム後部を固定ベルトによって固定し、前方への移動を阻止する。
【0013】
次に、車いすの後方より作業用ロッドを操作し、当該作業用ロッドに設けられた固定フックを車いすのフレーム前部に係止する。
【0014】
この状態において、前記固定位置より前方側のフロアに固定されたバックルを介して折り返された前記ベルトの基端部は、前記作業用ロッドに係合されており、当該基端部は前記作業用ロッドを操作する手元側にある。このため、このベルトを、その基端部を掴んで引き寄せる。
【0015】
すると、前記バックルから延出した前記ベルトの先端側の延出量が減少し、前記フレームは前側に付勢される。これにより、前記車いすは、フレーム後部が前記固定ベルトによって前方への移動が阻止されるとともに、フレーム前部が前記ベルトによって前方へ付勢された状態で拘束される。
【0016】
このとき、前記バックルによって前記ベルトの先端側、つまり戻り側への移動が阻止される。このため、前記車いすは、この付勢力が加えられた状態で固定される。これにより、前記車いすは、当該車いす後方の作業スペースからの作業によって固定位置に固定される。
【0017】
なお、この作業スペースは、車いすの後方の確保できる場合のみならず、車いす前方に確保できる場合であっても良く、車いすの一方側に作業スペースを確保できれば、同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明の車いす固定装置にあっては、車いすの一方に設けられた作業スペースからの作業によって、車いすのフレームへの固定フックの係止作業や、ベルト長の調整作業や、締め付け作業を行うことができ、当該車いすを固定位置に固定することができる。
【0019】
したがって、車いすの前方又は後方のいずれか一方に十分な作業スペースを確保できない場合に固定作業が困難となる従来と比較して、固定作業性を向上することができ、利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一の実施の形態を図に従って説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態にかかる車いす固定装置1を示す図であり、当該車いす固定装置1は、車両の後部室に設けられている。
【0023】
すなわち、福祉車両等では、車いす利用者が車いす11を利用したまま後部室に搭乗できるように構成されており、当該後部室には、フロア12に設定された固定位置13に搭乗した車いす11を固定する為の前記車いす固定装置1が設けられている。
【0024】
この車いす固定装置1は、例えば車いす11のフレーム21の後部を固定する後部固定装置と(図示省略)、前記フレーム21の前部を拘束して固定する前部固定装置22とにより構成されている。
【0025】
前記後部固定装置としては、固定ベルト式のものが挙げられる。この場合、前記固定位置13より車両後方R側に設けられた左右一対の後部固定ベルトで構成し、各後部固定ベルトの基端部を前記フロア12に固定するとともに、その先端に係止フックを設ける。
【0026】
これにより、左方の後部固定ベルトの係止フックを前記固定位置13に配置された車いす11のフレーム21の左後部に係止するとともに、右方の後部固定ベルトの係止フックを前記フレーム21の右後部に係止することで、当該車いす11の車両前方Fへの移動を防止する。
【0027】
また、前記前部固定装置22は、図1に示したように、長さ調整ベルト式のもので構成する。この長さ調整ベルト式の前記前部固定装置22は、左右一対の前部固定部31を備え(一方のみ図示)、各前部固定部31は、前記固定位置13より車両前方F側に固定されている。
【0028】
前記後部固定装置と同様に、一方の前部固定部31は、前記固定位置13に配置された車いす11のフレーム21の左前部を拘束するもので、他方の前部固定部31は、前記フレーム21の右前部を拘束するものであり、当該車いす11の車両後方Rへの移動を防止することができる。
【0029】
これにより、前記後部固定装置と前記前部固定装置22とによって、前記車いす11の車両前後方向へ移動を阻止することで、当該車いす11を前記固定位置13に固定できるように構成されている。
【0030】
前記前部固定部31は、前記固定位置13より車両前方F側の前記フロア12の部位に固定されたアンカー41を備えており、該アンカー41に立設された軸部42には、リング部材43が支持されている。該リング部材43には、バックルベルト44が接続されており、該バックルベルト44の先端には、バックル45が設けられている。
【0031】
これにより、前記フロア12に固定された前記バックル45には、ベルト51が挿通されており、該ベルト51は、前記バックル45にて折り返されている。前記バックル45への前記ベルト51の係合は、前記バックル45より延出したベルト基端側52を引っ張って基端方向へ移動した際に前記バックル45から延出したベルト先端側53の延出量を減少させる一方、当該ベルト51の先端方向への移動は、その移動力によって当該ベルト51に生ずる締め付けにより阻止できるように係合されている。
【0032】
このバックル45で折り返された前記ベルト51の先端部には、固定フック62が設けられている。該固定フック62は、先端が鉤状に屈曲形成されており、前記車いす11の前記フレーム21に係止できるように構成されている。
【0033】
前記固定フック62には、作業用ロッド71の先端部が連結されており、この作業用ロッド71と前記固定フック62との結合は、前記作業用ロッド71先端が前記固定フック62の基端部に係脱自在に係合する結合構造で構成しても、前記作業用ロッド71と固定フック52基端部とを溶接等により固定した結合構造で構成しても良い。
【0034】
前記作業用ロッド71は、前記車いす11の全長より十分に長い長さを有した金属製のバーで形成されており、当該作業用ロッド71の基端部には、把持用のグリップ81が設けられている。これにより、このグリップ81を把持して前記固定フック62の係脱操作を行えるように構成されている。
【0035】
一方、前記バックル45から延出した前記ベルト基端側52の先端には、当該先端部が折り返されてなるリング部91が形成されている。該リング部91内には、前記作業用ロッド71が挿通されており、当該リング部91は、前記作業用ロッド71に沿って移動可能に係合されている。
【0036】
このとき、前記リング部91の内径寸法を前記グリップ81の外径寸法より狭く設定することで、前記作業用ロッド71からの前記リング部91の不用意な離脱が防止できる。
【0037】
以上の構成にかかる本実施の形態において、固定位置13の前側スペースが狭い状態で車いす11を固定する際には、該車いす11のフレーム21後部を後部固定装置の後部固定ベルトで固定し、当該車いす11の車両前方F側への移動を阻止する。
【0038】
次に、前記車いす11の後方より作業用ロッド71を操作し、当該作業用ロッド71の先端部に設けられた固定フック62を前記車いす11のフレーム21前部に係止する。
【0039】
この状態において、前記固定位置13より前方側のフロア12に固定されたバックル45を介して折り返された前記ベルト51のベルト基端側52は、そのリング部91が前記作業用ロッド71に沿って移動可能に係合されており、当該ベルト基端側52の前記リング部91は、前記作業用ロッド71を操作する手元にある。このため、このベルト基端側52の基端部を掴んで引き寄せる。
【0040】
すると、前記バックル45から延出した前記ベルト51のベルト先端側53の延出量が減少し、前記フレーム21は車両前方Fに付勢される。これにより、前記車いす11は、前記フレーム21後部が前記後部固定ベルトによって車両前方Fへの移動が阻止されるとともに、前記フレーム21前部が前記ベルト51によって車両前方Fへの移動が阻止された状態で拘束される。
【0041】
このとき、前記バックル45によって前記ベルト51の先端側への移動、つまりベルト先端側53の引出方向への移動が阻止される。このため、前記車いす11は、この付勢力が加えられた状態で固定される。これにより、前記車いす11は、当該車いす11後方の作業スペースからの作業によって固定位置に固定される。
【0042】
なお、本実施の形態では、前記作業スペースが車いす11の後方の確保できる場合に付いて説明したが、これに限定されるものでは無く、前記作業スペースが車いす11前方に確保できる場合に応用しても良く、車いす11の一方側に作業スペースを確保できれば、固定作業を行うことができる。
【0043】
このように、前記車いす11の一方に設けられた作業スペースからの作業によって、当該車いす11のフレーム21への前記固定フック62の係止作業や、ベルト長の調整作業や、締め付け作業を行うことができ、当該車いす11を前記固定位置13に固定することができる。
【0044】
したがって、車いす11の前方又は後方のいずれか一方に十分な作業スペースを確保できない場合には固定作業が困難となる従来と比較して、固定作業性を向上することができ、利便性が向上する。
【符号の説明】
【0045】
1 車いす固定装置
11 車いす
12 フロア
21 フレーム
45 バックル
51 ベルト
52 ベルト基端側
53 ベルト先端側
62 固定フック
71 作業用ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの先端に設けられた固定フックを車いすに係止して該車いすを固定する車いす固定装置において、
フロアに固定されたバックルに前記ベルトを挿通して、該ベルトを基端側へ移動した際に前記バックルから延出した前記ベルトの先端側の延出量を減少させるとともに先端側への移動を阻止可能の構成する一方、
前記固定フックに作業用ロッドを設け、前記ベルトの基端部を前記作業用ロッドに係合したことを特徴とする車いす固定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−200400(P2012−200400A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67452(P2011−67452)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000128544)株式会社オーテックジャパン (183)