説明

車両における故障の可能性の診断を改善する方法

本発明は、車両の部品(2.1)の故障の可能性を診断する方法に関し、故障に関連する事象が発生した時に車両が移動した第一の距離を保存する第一のステップと、少なくとも別の移動距離を保存し、次いで保存された移動距離に基づいて診断を行う第二のステップとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、車両、特に自動車において、故障の可能性のある部品を明らかにするために用いられる診断に関する。
特に、本発明は、故障に付随する事象が発生した時に、車両が移動した距離を保存するステップを含む、車両の部品の故障の可能性を診断する方法に関する。
【0002】
特に自動車の場合、エンジンは従来、部品の管理を支援するコンピュータを装着している。
一例として、コンピュータは、注入システム、自動変速装置などを制御できる。
【0003】
このようなコンピュータは、前述の診断に関連して使用できることも知られている。
前提として、通常車両によって行われる診断をオンボード診断と呼ぶことに注意されたい。
【0004】
この診断は、特に、車両の通常使用中に、部品の動作不良の可能性を測定及び検出することに基づく試験の実施を含む。
オンボード診断は、通常、修理業者が、必要に応じて診断支援装置を援用し、好適にはオンボード診断を分析した後で、周知の方法で行うオフボード診断とは異なる。
【0005】
特に、この診断は、可能な修理について適切な方針を決断する修理業者を必要とする。
一般に、車両の故障が最初に現れる時、コンピュータは、この事象を不揮発性メモリに記録することを命じる。
【0006】
通常、この事象は、故障を識別するコードと共にメモリに保持される。
従って、このメモリを読むと、診断方法は、車両全体の故障部品を認識することができる。
【0007】
この診断を考慮して、故障が車両及び/又は乗員に及ぼす危険が大きい場合、コンピュータは、必要に応じて緊急動作(例えば、緊急停止の要請を表示する)を命じることができる。
一方、故障による危険が小さい場合、コンピュータは通常、修理業者がオンボード診断を分析して故障を識別し、部品を修復する(オフボード診断)まで、ユーザが感知できるいかなる動作も開始しない。
【0008】
この方法の一つの問題は、オンボード診断によって得られる情報、この場合故障コードが、比較的不十分であり、よってオフボード診断の質が制限され、従って動作及び/又は対応の可能性が制限されることである。
一例として、オンボード診断は、恒久的な故障と、断続的な故障、即ち出現してから少なくとも一回消滅する故障とを区別できない。
【0009】
その結果、このような情報の不足により、修理業者の診断(オフボード診断)が制限される可能性があり、従ってその作業の効率に悪影響を及ぼし得る。
これらの欠点を克服するため、故障コードに加え、最初の事象が現れた時の移動距離を保存する周知の方法が存在する。
【0010】
日常的な用語では、移動距離とは車両のマイレッジに相当する。
この方法によれば、絶対マイレッジ、又は総マイレッジ、即ち故障が生じた時に読み取られたマイレッジを保存できる。
【0011】
この方法は、相対マイレッジ、即ち前記発生以降に読み取られたマイレッジも保存できる。
これに関し、現在では車両の絶対マイレッジの取得が益々簡単になっている。
【0012】
特に、駆動系を監視する最近のシステムのコンピュータは通常、データとして車両の瞬間速度を使用し、この速度の時間的な積分により絶対マイレッジを再構成する。
メモリに絶対又は相対マイレッジを有することにより、ユーザがこの故障の発生のタイムスタンプも有するので、故障に関連する情報量を増大させるといいう利点が提供される。
【0013】
しかしながら、助けになることも多いとはいえ、このような方法には限界がある。
特に、ユーザが診断の質を高めたい時、保存された情報は依然として不十分であり、このようなケースは増大しつつある。
【0014】
一例として、最終的に消滅した故障が、車両の他の故障を招いたか又はその原因になり得るかを評価することが有益である場合がある。
しかし、明らかとなるように、前述の単純なタイムスタンプを用いる方法、及び更に一般的には従来技術の方法は、この課題についていかなる診断も行うことはできない。
【0015】
本発明の一つの目的は、少なくとも前述の欠点を解決することである。
そのため、本発明によれば、車両の部品の故障を診断する方法であって、故障に付随する事象が発生した時に車両が移動した第一の距離を保存する第一のステップと、
−少なくとも一つの他の移動距離を保存し、次いで
−保存された移動距離に基づいて診断を行う
第二のステップとを含むことを特徴とする方法が提案される。
【0016】
好適には、本発明による方法の幾つかの態様では、
−保存された距離の少なくとも一つは絶対距離であり、
−保存された距離の少なくとも一つは相対距離であり、
−前記他の距離は、故障に付随する別の事象が発生する時に保存され、
−前記他の事象は、故障の消滅及び消滅後の故障再発から選択され、
−前記他の保存された距離は、故障が存在する間の総移動距離の計算に対応し、
−故障が存在する間の総移動距離が所定の閾値より小さい場合、故障は自然に修復されたと診断し、
−前記他の移動距離に加えて、故障の識別を可能にするコードが保存される
が、これらは限定的なものではない。
【0017】
本発明の更なる提案は、車両の部品の故障の可能性を診断するための一組の指令を含む車両用コンピュータであって、この指令の組は、部品の故障に付随する事象が発生した時に車両が移動した第一の距離を保存するように構成されている。本コンピュータは、指令の組が更に、別の移動距離を保存して、保存された移動距離に基づいて後で診断を実施するように構成されていることを特徴とする。
更に、このようなコンピュータを具備するエンジン、及びエンジンとこのエンジンの外部診断支援デバイスとを具備する診断支援システムが提案される。
【0018】
本発明の他の態様、課題及び利点は、添付図面を参照する後述の本発明の説明により更に明らかとなる。
【実施例】
【0019】
前提として、本発明による診断は、一方で、修理業者又は通常一時的に車両に接続される診断支援デバイスによって行われる診断であり、他方で、車両自体によって行われる診断である。
従って、本発明によれば、診断という用語は、オンボード診断とオフロード診断を区別せずに意味する。
【0020】
図1は、本発明によるエンジン1を示す。
エンジンは、メモリMと情報を交換するコンピュータCを具備する。
【0021】
更に、コンピュータは、特に参照番号2.1〜2.4で示すエンジンの他の部品と相互作用することにより、本発明に基づく診断を実施する。
参照番号2.1は、例えば燃料注入システムを表し、参照番号2.2は変速装置である。
【0022】
エンジンは、修理業者との交換インターフェースを形成する診断支援デバイス4と情報を交換する。
このデバイスは、限定しないが、エンジンによって直接実施された診断を修理業者が確認できるスクリーンを具備する。
【0023】
しかし、特に車両によって供給される情報を分析することにより、デバイス自体が診断の生成に寄与することもできる。
当然のことながら、本発明のエンジンは、図面に示される形態に限定されるものではない。
【0024】
特に、矢印で終端する接続ラインは、常套的に、これらの矢印の末端で示される部品間における情報の交換を示す。
この場合、これらの交換は、既知の様々な方法で実施することができる。
【0025】
非制限的な実施例として、接続3は、コンピュータと部品2.3の間の有線による交換又は無線接続による交換を表わす。
いずれの場合も、接続3は、図示しないエンジンの他の部品(例えば、無線通信インターフェース等)によって提供することができる。
【0026】
コンピュータは、本発明による方法を適用することができる指令の組を含む。
本方法は、故障発生時に車両が移動した距離をメモリMに保存することにより、部品2.1〜4のような、一つ又は複数の部品の故障の可能性を診断できる。
【0027】
この第一の距離は、相対距離でも絶対距離でもよく、問題の事象の第一のタイムスタンプを形成する。
この距離を特定の故障部品に結びつけるために、故障部品の識別コードもメモリに保存することができる。
【0028】
当然のことながら、他の保存技術も使用できる。
例えば、故障部品の距離の全てが記録されているマトリクスの指標を直接用いて故障部品を識別することができる。
【0029】
いずれの場合も、ユーザは、識別された故障部品の保存された距離を、いつでも後で見つけることができる。
本発明によれば、車両の別の移動距離が保存される。
【0030】
本発明の一態様によれば、前記他の距離は、故障に付随する別の事象が発生した時に保存される。
この場合、コンピュータは、故障の更なるタイムスタンプを用いることにより、診断に有用な更なる情報を提供する。
【0031】
非制限的な一実施例として、故障が自然に消滅した場合、即ち修理業者の介入無しで消滅した場合、この事象が生じた時に車両が移動した距離もメモリに記録される。
更に正確には、これは下記、即ち、
−故障の消滅
−消滅後の故障の再発
から選択される種類の事象が発生するたびに生じる。
【0032】
この場合の診断は、保存された故障に付随する移動距離の全ての値に基づいて様々な修理方針を確立できるので、特に改善される。
状況に応じて、車両、特にコンピュータ、修理業者、又は場合によってはその両者が、このような修理方針に対処することができる。
【0033】
本発明の一態様によれば、所定の閾値より大きいマイレッジについて故障が明らかでない場合、故障は自然に修復したと見なされる。
このような特定の診断は、特に、有意なマイレッジについて故障が表れない場合、当該故障は自然に修復したと見なすことが妥当であるという原則に基づいている。
【0034】
例えば、これは、部品が汚れて異常作動したが、最終的にはゴミが落ちた場合に当てはまる。
部品の一時的な停止を伴うと思われる場合も考えられる。
【0035】
一変形例によれば、所定の閾値より大きいマイレッジについて故障が表れない場合、診断支援デバイス無しでユーザ又は修理業者が部品を修理したために、故障が修復したと考えられる。
このような場合、診断支援デバイスを備える修理業者は、問題の故障に付随する事象をメモリから簡単に消去することができる。
【0036】
本発明の別の態様によれば、故障が存在する間の総移動距離が計算されて保存される。
このために、メモリは、この故障が発生した時及び消滅した時に保存された距離の全てを含む。
【0037】
従って、加減算式の演算を明白に適用することにより、そこから前記総移動距離を推測することが容易である。
この場合、計算された距離が所定の閾値より小さければ、修理業者は、故障が車両の他の部分に影響を与えた可能性を考慮する必要がないとされる。
【0038】
このような診断は、修理業者が、メモリに保存された総距離を確認した後に行うことができることに注目されたい。
このような診断は、コンピュータ又は診断支援デバイスによって行うこともでき、コンピュータ又は診断支援デバイスは、一般にスクリーンを介して、修理業者に対して必要な対応を通知する(本実施例のこのような場合には、「故障が車両の他の部分に与え得た影響を考慮する必要はない」)。
【0039】
このような状況を示す非制限的な一実施例を次に示す。
短い総距離の間に、即ち前述の閾値より短い距離の間に、断続的にミスファイアが生じた制御点火エンジンを有する車両について考える。
【0040】
この場合、この故障の原因だけを修復すれば十分である。
一方、総移動距離が大きい(前記閾値より大きい)場合、問題の部品の修復に加えて、既知の方法により、車両の排ガス触媒処理システムが適正に動作していることを確認することが適切である。
【0041】
従って、本発明の方法は、有利には、例えばコンピュータにより、他の部品を診断すべき又は診断済みであることを修理業者に通知するステップを含むことができる。
当然のことながら、本発明は、上述し、図面に示した実施形態にいかなる意味でも制限されない。
【0042】
他の情報を前述の情報に補うことができる。
特に、当業者であれば、本方法は特に、故障発生数、又は情報を増加させ且つ診断の質を向上させることができる他のあらゆるデータを保存できることを理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】メモリM、及びいつか診断されることになる他の部品と相互作用するコンピュータCを具備する本発明のエンジン1を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の部品(2.1)の故障の可能性を診断する方法であって、故障に付随する事象が発生した時に車両が移動した第一の距離を保存する第一のステップと、
−少なくとも一つの他の移動距離を保存し、
次いで
−保存された移動距離に基づいて診断を行う
第二のステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
保存された距離の少なくとも一つが絶対距離であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
保存された距離の少なくとも一つが相対距離であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記他の距離は、故障に付随する別の事象が発生した時に保存することを特徴とする、請求項1ないし3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記の他の事象が、
−故障の消滅
−消滅後の故障の再発
から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
保存された前記他の距離が、故障が存在する間の総移動距離の計算に対応することを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
故障が存在する間の総移動距離が所定の閾値より小さい場合、故障は自然に修復したと診断することを特徴とする、請求項4ないし6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記の他の移動距離に加えて、故障の識別を可能にするコードを保存することを特徴とする、請求項1ないし7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
車両の部品(2.1)の故障の可能性を診断するための一組の指令を含む車両用コンピュータ(C)であって、前記指令の組が、部品の故障に付随する事象が発生した時に車両が移動した第一の距離を保存できるように構成されており、前記指令の組が更に、別の移動距離を保存し、且つ保存された移動距離に基づいて後で診断を実施できるように構成されていることを特徴とする、コンピュータ(C)。
【請求項10】
請求項9に記載のコンピュータ、及び移動距離を保存できる保存手段を具備するエンジン(1)。
【請求項11】
請求項10に記載のエンジン(1)、及びエンジン外部の診断支援デバイス(4)を具備する診断支援システム。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−509869(P2009−509869A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534052(P2008−534052)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050957
【国際公開番号】WO2007/042695
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)