車両のサスペンシヨン装置
【目的】所定の条件に基づいて、走行安定性を損なうことなくショックアブソーバの減衰力特性を効果的に変更して、アクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止することを可能とする。
【構成】各車輪のショックアブソーバの減衰係数Dkiをアクチュエータにより変更制御するコントロールユニットを備え、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段92からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰係数Dkiの変更頻度を低下させるように補正する補正手段を備える。具体的には、補正手段は、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であるときに補正したり、ショックアブソーバの減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制したり、しきい値α,βをα×2,β÷2にそれぞれ変更したりして補正する。
【構成】各車輪のショックアブソーバの減衰係数Dkiをアクチュエータにより変更制御するコントロールユニットを備え、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段92からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰係数Dkiの変更頻度を低下させるように補正する補正手段を備える。具体的には、補正手段は、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であるときに補正したり、ショックアブソーバの減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制したり、しきい値α,βをα×2,β÷2にそれぞれ変更したりして補正する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両のサスペンション装置に関し、特に、ばね上とばね下との間に減衰力特性可変式のショックアブソーバを備えるものの改良に係わる。
【0002】
【従来の技術】一般に、車両のサスペンション装置においては、車体側としてのばね上と、車輪側としてのばね下との間に、車輪の上下振動を減衰させるためのショックアブソーバが装備されている。このショックアブソーバには、減衰力特性可変式のものとして、減衰力特性(減衰係数の異なった特性)が高低2段に変更可能なもの、減衰力特性が多段又は無段連続的に変更可能なもの等種々のものがある。
【0003】このような減衰力可変式のショックアブソーバの制御方法は、基本的には、ショックアブソーバが発生する減衰力が車体の上下振動に対して、加振方向に働くときにショックアブソーバの減衰力を低減衰側(すなわちソフト側)にし、減衰力が制振方向に働くときにショックアブソーバの減衰力を高減衰側(すなわちハード側)に変更して、ばね上に伝達される加振エネルギーに対して制振エネルギーを大きくし、もって車両の乗り心地および走行安定性を共に向上させるようにするものである。
【0004】そして、ショックアブソーバの減衰力がばね上上下振動の加振方向または制振方向のいずれの方向に働くか否かの判定は、種々のものが提案されている。例えば特開昭60−248419号公報には、ばね上とばね下との間の相対変位の符号とその微分値であるばね上ばね下間の相対速度の符号とが一致するか否かを調べ、一致するときには加振方向と判定し、不一致のときは制振方向と判定する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このように、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとが一致するか否かに基づき、減衰力特性を変更制御する減衰力特性可変式のショックアブソーバにおいては、フィードバック制御により、ショックアブソーバの減衰力を制御する場合には、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとは、頻繁に、一致、不一致を繰り返すため、必然的に、制御用のコンピュータが大型化するとともに高価なものになるという問題があった。
【0006】そこで、かかる問題を解決し、オープン制御により、ショックアブソーバの減衰力を制御するときには、アクチュエータとしてステップモータを使用することが考えられが、ステップモータを使用した場合には、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとは、頻繁に一致、不一致を繰り返すため、減衰力が、ソフト側からハード側に、さらには、ハード側からソフト側にというように、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されるようにステップモータを駆動する必要があり、かかる場合には、ステップモータが加熱したり脱調したりして、車体の上下振動状態に応じてショックアブソーバの減衰力を所望のように制御することができず、かえって走行安定性が損なわれるという問題があった。
【0007】本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、所定の条件に基づいて、走行安定性を損なうことなくショックアブソーバの減衰力特性を効果的に変更することにより、アクチュエータ(ステップモータ)の温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に係る考案が講じた解決手段は、各車輪のばね上とばね下との間にショックアブソーバを備え、ばね上の変位速度とばね下の変位速度との相対関係に応じて、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御するようにした車両のサスペンション装置を前提とする。そして、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータと、該アクチュエータに制御信号を出力して作動させる制御手段と、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段と、該応答性検出手段からの信号を受け、その信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する補正手段とを備える構成としたものである。
【0009】また、請求項2に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が入力されるようになっていて、該入力周波数検出手段からの出力信号を受け、その信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成したものである。
【0010】また、請求項3に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータによるショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲を規制するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成としたものである。
【0011】さらに、請求項4に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成としたものである。
【0012】
【作用】上記の構成により、請求項1に係る発明では、ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータは、応答性検出手段により検出した作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときに応答性の低下が検出されて、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう補正手段により補正された制御手段の制御信号により作動するので、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されて過熱気味となるアクチュエータの作動つまり変更頻度が補正手段の補正により低下して、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0013】また、請求項2に係る発明では、補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正しているので、入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも高い高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの制御手段の制御信号が補正手段により補正されずに、例えば前回の減衰力特性のままで保持されるようにして、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させることにより、車体に入力される不快な低周波数振動を抑制しつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0014】また、請求項3に係る発明では、補正手段は、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正してショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲が規制されるので、ショックアブソーバの減衰力特性は、例えば操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されてアクチュエータの変更頻度が補正手段の補正により低下することになり、操縦安定性などを確保しつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0015】さらに、請求項4に係る発明では、補正手段は、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正してショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するので、ショックアブソーバは、減衰力特性が速やかに切換えられて減衰力特性の変更制御が迅速に行われることになり、減衰力特性の変更制御速度を向上させつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0016】
【発明の効果】以上の如く、請求項1の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう制御手段の制御信号を補正したので、過熱気味のアクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止して、走行安定性の向上を図ることができる。
【0017】また、請求項2の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、車体にかかる入力周波数が低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正するので、高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を前回の減衰力特性などに保持し、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させて不快な低周波数振動を抑制し、アクチュエータの温度低下をさせつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止できる。
【0018】また、請求項3の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲が規制されるようアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正したので、ショックアブソーバの減衰力特性を操縦安定性を確保するハード側の範囲などに規制してアクチュエータの変更頻度を低下させて、操縦安定性などを確保し、アクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止できる。
【0019】さらに、請求項4の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性が一段抜かして変更されるようアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正したので、ショックアブソーバの減衰力特性の変更制御速度を向上させて、アクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を防止できる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0021】図1は、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置を含む車両の略斜視図である。
【0022】図1において、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置は、各車輪に対応して設けられ、各車輪の上下振動を減衰させるたショックアブソーバ1,2,3,4を備えている。各ショックアブソーバ1,2,3,4は、それぞれ、図示しないアクチュエータにより、減衰係数が異なった10の減衰力特性に切り換え可能に構成されており、また、図示しない圧力センサを備えている。図1において、5は左前輪、6は左後輪であり、右前輪および右後輪は図示されていない。また、7は、各ショックアブソーバ1,2,3,4の上部外周に配設されたコイルスプリングであり、8は、各ショックアブソーバ1,2,3,4のアクチュエータに対して、制御信号を出力して、各ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を変更制御する制御手段としてのコントロールユニットである。
【0023】また、車体9のばね上には各車輪のばね上の上下方向の加速度を検出する第1加速度センサ11,第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速度センサ14が、インストルパネルのメータ内には車速を検出する車速センサ15がそれぞれ設けられている。16は、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の制御をドライバーがハードモード、ソフトモードまたはコントロールモードのいずれかに切り換えるモード選択スイッチを示す。そして、モード選択スイッチ16により、ハードモードが選択されたときは、減衰力特性がハードになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされる。また、ソフトモードが選択されたときは、減衰力特性がソフトになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされる。さらに、コントロールモードが選択されたときはあらかじめコントロールユニット8内に記憶されたマップあるいはテーブルにしたがって、所定のようにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされるようになっている。
【0024】図2は、左前輪に対して設けられたショックアブソーバ1の要部略断面図である。ただし、圧力センサは、便宜上省略されている。
【0025】図2において、ショックアブソーバ1は、シリンダ21を備え、シリンダ21内には、ピストンとピストンロッドが一体的に結合されたピストンユニット22が摺動自在に嵌装されている。シリンダ21およびピストンユニット22は、それぞればね下およびばね上に結合されている。
【0026】ピストンユニット22には、2つのオリフィス23、24が形成されている。一方のオリフィス23は常に開いており、他方のオリフィス24は、それぞれ第1アクチュエータ41により、その通路面積が10段階に変更可能に形成されている。
【0027】図3は、ショックアブソーバ1に設けられた第1アクチュエータ41の分解略斜視図であり、図2および図3に示されるように、第1アクチュエータ41は、ピストンユニット22に固定されたスリーブ25内に、回転自在に設けられたシャフト26と、シャフト26を回転させるステップモータ27と、シャフト26の下端部に一体に取付けられ、その円周に沿って、9つの円形孔28を有する第1オリフィスプレート29と、スリーブ25の下端部に一体的に設けられ、その円周に沿って円弧状の長孔30が形成された第2オリフィスプレート31を備えている。ここに、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28と、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30とは、ステップモータ27の回転によるシャフト26および第1オリフィスプレート29の回転にしたがって、9つの円形孔28が0ないし9個の範囲で長孔30と連通可能なように形成されている。
【0028】シリンダ21内の上室32および下室33内は、所定の粘度を有する流体で満たされており、オリフィス23,24を通って上室32および下室33間を移動可能になっている。
【0029】図2および図3においては、ショックアブソーバ1の構造のみを示したが、他の車輪に対して設けられたショックアブソーバ2,3,4もまた、図2に示されたショックアブソーバ1と同様の構造を示しており、それぞれ図3に示されたのと同様な第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44を備えている。
【0030】図4は、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を示すグラフであり、D1 ないしD10は、それぞれショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数を示している。図4において、縦軸は、ショックアブソーバ1,2,3,4が発生する減衰力を、横軸は、ばね上の変位速度Xs とばね下の変位速度Xu との差、すなわち、ばね上とばね下の相対変位速度(dXs /dt−dXu /dt)を示している。図4に示されるように、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性は、減衰係数D1 ないしD10のいずれかを選択することによって、10段階に変更することが可能なように構成されている。図4において、D1 は、最もソフトな減衰力を発生させる減衰係数を、D10は、最もハードな減衰力を発生させる減衰係数を、それぞれ示している。ここに、減衰係数Dk (k は正の整数で、1〜10)は、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のうち、(10−i )個の円形孔28が、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通している場合に選択されるようになっている。したがって、減衰係数D1 は、第1オリフィスプレート29の9つの円形孔28のすべてが第2オリフィスプレート31の長孔30と連通している場合に選択され、減衰係数D10は、第1オリフィスプレート29の9つの円形孔28のいずれもが第2オリフィスプレート31の長孔30と連通しないときに選択されることになる。
【0031】図5は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の振動モデル図であり、msはばね上質量、muはばね下質量、xsはばね上変位、xuはばね下変位、ksはコイルスプリング7のばね定数、ktはタイヤのばね定数、Dk はショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数である。
【0032】図6は、ステップモータ27の略斜視図であり、ステップモータ27は、筒状体50、筒状体50内に収容されたロータ51,ステータ52および蓋53から構成されている。図7は、ロータ51およびステータ52の略平面図であり、通常のステップモータと同様に、ロータ51の外周部には複数の矩形形状の歯が形成され、ステータ52の内周部には、これと対応して複数の矩形形状の歯が形成されており、ステータ52には、ソレノイド54が巻回されている。ロータ51には、2本のストッパピン55,56が形成されており、図8に示されるように、蓋53には、ストッパピン55,56に対応する位置の円周方向に2つの溝57,58が形成されている。溝57は、ロータ51に形成されたストッパピン55と係合してステップモータ27の可動範囲を制御するものであり、他方、溝58はストッパピン56と係合するものであって、ストッパピン55,56を溝57,58と係合させることによって、蓋53を被せたときにロータ51の重心が回転中心と一致するように位置合わせを可能とするものである。したがって、蓋53の中心から溝57,58の両端部を見た円周角は、溝58の方が溝57より大きくなっており、専ら溝57によって、ステップモータ28の可動範囲が決定されるように溝57,58が形成されている。図8において、ロータ51が時計回りに回転すると、減衰係数Dk がより大きくなって減衰力特性はよりハードになり、他方反時計回りに回転すると、減衰係数Dk がより小さくなって減衰力特性はよりソフトになるようになっており、また、ロータ51の矩形形状の歯がステータ52の隣接する矩形形状の歯に対向する位置に移動させられたとき、すなわち、ステップモータ27が一段回転すると、減衰係数Dk が1つだけ変化するようになっている。従って、ストッパピン55が溝57の右端部である第1基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk はD10となり、ショックアブソーバ1が最もハードな減衰力を発生し、他方、ストッパピン55が溝57の左端部である第2基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk はD1 となり、ショックアブソーバ1が最もソフトな減衰力を発生するようになっている。
【0033】図9は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系のブロックダイアグラムである。
【0034】図9において、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系を構成するコントロールユニット8は、演算判定手段80、許容値設定手段81およびしきい値設定手段82を備えており、演算判定手段80には、ショックアブソーバ1,2,3,4にそれぞれ設けられた第1圧力センサ61,第2圧力センサ62,第3圧力センサ63,第4圧力センサ64の検出した各ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力Fsi(ここに、iは、各車輪を示し、i=1,2,3,4である。)の検出信号、第1加速度センサ11,第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai の検出信号、第1車高センサ71,第2車高センサ72,第3車高センサ73,第4車高センサ74の検出したばね上ばね下間相対変位(Xs −Xu )の検出信号および車速センサ15の検出した車速Vの検出信号がそれぞれ入力されている。また、許容値設定手段81には、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号およびアンチ・ブレーキング・システム(ABS)66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号がそれぞれ入力されている。さらに、しきい値設定手段82には、舵角センサ65から舵角θの検出信号および許容値設定手段81から許容値信号が入力され、しきい値設定手段82からしきい値信号が演算判定手段80に出力されるようになっている。そして、演算判定手段80では、第1〜第4加速度センサ11〜14の検出したばね上の上下方向の加速度ai を数値積分法などで積分してばね上の変位速度Xsi(Σai )、つまり各ショックアブソーバ1〜4の位置におけるばね上絶対速度として変換して用いられるように算出されているとともに、車体にかかる入力の周波数を検出する入力周波数検出手段83からの出力信号が入力されていて、後述する図15の振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインとを比較してその振動周波数領域を判定することが行われている。
【0035】上記演算判定手段80は、上下方向の加速度ai の検出信号および車速Vの検出信号に基づいて、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって、各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を決定する減衰係数Dkiを算出し、制御記号を生成して、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に出力し、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を制御する。また、許容値設定手段81は、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号およびABS66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号に基づき、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって左右輪および前後輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの差の許容値を算出し、許容値信号をしきい値設定手段82に出力する。さらに、しきい値設定手段82は、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号に基づき、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰係数Dkiの変更感度を変更するためのしきい値を設定し、しきい値信号を演算判定手段80に出力する。
【0036】ここに、減衰力Fsiは連続値をとり、ばね上に対して上向きに作用するときすなわちばね上とばね下間が縮んでいるときに正の値に、下向きに作用するときすなわちばね上とばね下間が伸びているときに負の値になるように設定され、ばね上の上下方向の加速度ai は、上向きのときに正の値に、下向きのときに負の値になるように設定されている。
【0037】また、演算判定手段80は応答性検出手段92および補正手段91を備えており、応答性検出手段92は、演算判定手段80の制御信号により第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動が所定の作動応答スピードよりも遅いときに補正手段91に出力信号を出力する。また、補正手段91は、応答性検出手段92からの出力信号に応じて、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,演算判定手段80から第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44への制御信号をそれぞれ補正するようにしている。
【0038】図10は、モード選択スイッチ16により、コントロールモードが選択された場合において、コントロールユニット8により行われる,走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンを示すフローチャートであり、図10の減衰係数選択制御のルーチンは、減衰係数Dkiの変更が余りに頻繁に行われ、その結果、変更時に大きな音や振動が生じたり、応答遅れが生ずることを防止するために走行状態に応じて変更制御し得る減衰係数Dkiの範囲を制限するものである。
【0039】図10において、先ず、ステップSA1で、車速センサ15により検出された車速Vを入力するとともに、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai を入力する。
【0040】ついで、ステップSA2において、車速Vが、低速値である第1の所定車速V1 、たとえば3km/h以下か否かを判定する。
【0041】その結果、車速Vが、第1の所定車速V1 以下のNOのときは、ステップSA3に進み、車速Vがきわめて低速であるから、スコットや制動ダイブ防止するため、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性がハードになるように減衰係数DkiをD8iに固定する。したがって、減衰係数DkiはD8iに固定されるから、図1010に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンによる減衰力特性の変更制御はおこなわれない。
【0042】一方、車速Vが、第1の所定車速V1 を越えているYESのときには、ステップSA4に進み、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0を越えている悪路走行中か否かを判定する。
【0043】その結果、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0を越えている悪路走行中と判定したYESのときは、ステップSA5に進んで車速Vが第3の所定車速V3 、たとえば50km/h以上か否かを判定する。
【0044】そして、上記ステップSA5の判定が、車速Vが第3の所定車速V3 以上であるYESと判定したときは、ステップSA6において、走行安定性の向上を重視して減衰力特性を比較的ハードな範囲内で変更制御するために、減衰係数DkiをD5iないしD7iの範囲に設定する。その結果、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiは、D5iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D5iに保持され、他方、D7iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D7iに保持されることになる。
【0045】これに対して、上記ステップSA5の判定が、車速Vが所定車速V3 未満であるNOと判定したときは、ステップSA7に進み、走行安定性と乗り心地の向上の両立を図ることが可能であるから、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能にするために、減衰係数Dkiを、D3iないしD7iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiは、D3iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても、減衰係数DkiはD3iに保持され、他方、D7iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数DkiはD7iに保持されることになる。
【0046】一方、上記ステップSA4の判定が、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0以下と判定されたNOのときは、ステップSA8に進み、悪路ではなく通常の道路を走行中であると考えられるから、このステップSA8において、さらに車速Vが第2所定車速V2 、たとえば30km/h以下か否かを判定する。
【0047】その結果、車速Vが、第2所定車速V2 以下の低速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA9において、乗り心地の向上を重視するため、減衰力特性が比較的ソフトな範囲内で変更制御されるように、減衰係数DkiをD1iないしD3iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiが、D1iのときは、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立した場合でも減衰係数DkiはD1iに保持され、他方、D3iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD3iに保持されることになる。
【0048】これに対して、上記ステップSA8の判定が、車速Vが第2所定車速V2 を越えているNOと判定したときは、ステップSA10 において、さらに、車速Vが第4所定車速V4 、たとえば60km/h以下か否かを判定する。
【0049】その結果、車速Vが、第4所定車速V4 以下の比較的中速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA11 に進み、走行安定性と乗り心地の向上させるという2つ要請の両立を図ることが可能であるから、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能とするために、減衰係数DkiをD2iないしD6iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD2iが下限値になり、たとえよりソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD2iに保持され、他方、D6iが上限値になり、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD6iに保持されることになる。
【0050】これに対して、上記ステップSA10 の判定が、車速Vが第4所定車速V4 を越えているNOと判定したときは、ステップSA12に進み、さらに車速Vが第5所定車速V5 、たとえば80km/h以下か否かを判定する。
【0051】その結果、車速Vが第5所定車速V5 以下の中速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA13 に進み、走行安定性と乗り心地の向上という2つの要請の両立を図りつつ、ややハードにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を変更制御するために、減衰係数Dkiを、D4iないしD6iの範囲に設定する。したがって、図10の減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD4iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD4iに保持され、他方、D6iが上限値になり、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D6iに保持されることになる。
【0052】これに対して、車速Vが第5所定車速V5 を越えた高速走行状態にあるNOと判定したときは、ステップSA14 に進み、走行安定性の向上を重視して、減衰力特性がハードな範囲内で変更制御されるように、減衰係数DkiをD7iないしD10i の範囲に設定する。したがって、図10の減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD7iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD7iに保持され、他方、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD10i に保持されることになる。
【0053】図11および図12は、モード選択スイッチ16により、コントロールモードが選択された場合にコントロールユニット8により実行される各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性変更制御の基本ルーチンを示すフローチャートである。
【0054】先ず、図11のステップSB1において、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号およびABS66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号をそれぞれ入力する。次いでステップSB2において、車速Vが第4の所定車速V4以下か否かを判定し、この判定が、車速Vが第4の所定車速V4以下であるYESのときは、低速走行状態にあると判定されて、左右輪1,2または3,4のショックアブソーバの減衰係数Dkiの差が大きくても、ステア特性に余り変化がなくダイアゴナル振動も問題にならないから許容値信号を出力しない。したがって、各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiは前回の減衰係数Dkiのまま保持され、許容値信号は出力されない。
【0055】これに対して、車速Vが第4の所定車速V4以上であるNOのときは、中速以上の走行状態にあると判定されて、ステップSB3に進み、左右輪1,2または3,4のショックアブソーバの減衰係数Dkiの差が大きいと、ステア特性が変化してダイアゴナル振動が発生するので、許容値をいかなる値に設定すべきかを決定するために、さらに車速Vが第5の所定車速V5以下か否かを判定する。その結果、車速Vが第4の所定車速V4を越えているが、第5の所定車速V5以下であるYESのときは、ステップSB4に進み、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0以下か否かを判定する。
【0056】その結果、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 未満となる路面摩擦係数の小さい路面を走行中であるYESのときは、ステップSB5で許容値τを所定値τ0 に設定する一方、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 を越えている路面摩擦係数の大きい路面を走行中であるNOのときは、ステップSB6で許容値τをτ0 よりも大きい所定値τ1 に設定して、それぞれ許容値信号をしきい値設定手段82としてのステップSB7に出力する。
【0057】一方、上記ステップSB3の判定が、第5の所定車速V5を越えているNOのときは、ステップSB8に進んで、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 以下か否かを判定する。その結果、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 未満となる路面摩擦係数の小さい路面を走行中であるYESのときは、ステップSB9で許容値τを所定値τ1 に設定する一方、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 を越えている路面摩擦係数の大きい路面を走行中であるNOのときは、ステップSB10 で許容値τをτ1 よりも大きい所定値τ2 に設定して、それぞれ許容値信号をステップSB7(しきい値設定手段82)に出力する。この場合、上記ステップSB1〜ステップSB6およびステップSB8〜ステップSB10 により許容値設定手段81が構成されている。
【0058】そして、ステップSB7において、許容値信号が、許容値設定手段81から入力されたときは、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14から入力されたばね上の上下方向の加速度ai に基づき、式■にしたがって、上下動成分Gを、また、式■にしたがって、ロール成分Rをそれぞれ、算出する。
【0059】
G=(a1+a2+a3+a4)/4・・・・・・・・・・・■ R=(a1+a3)/2−(a2+a4)/2・・・・・・・■次いで、ステップSB11 において、舵角センサ65から入力された舵角θの絶対値|θ|が所定の舵角θ0 より小さい略直進状態にあるか否かを判定し、舵角θの絶対値|θ|が所定の舵角θ0 より小さい略直進状態にあるYESのときは、ステップSB12 で|R/G|が許容値τより大きいか否かを判定する。
【0060】一方、上記ステップSB11 の判定が、舵角θの絶対値|θ|が所定の舵角θ0 より大きい旋回状態にあるNOのとき(|θ|≧θ0 )は、|R/G|が許容値τより大きい場合でも、左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰力がステア特性を変化させてダイアゴナル振動を生じさせる状態にあるとは判定し得ないので、ステップSB13 において、しきい値α、βをそれぞれαsi,βsiに設定して、演算判定手段80としてのステップSB14 に出力する。この場合、ステップSB12 の判定で|R/G|が許容値τより小さいNOのときは、左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰力が、ステア特性を変化させてダイアゴナル振動を生じさせる程度に異なっているとは認められないので、しきい値設定手段82はしきい値α,βをそれぞれαsi,βsiに設定して、図12のステップSB14 (演算判定手段80)に出力する。
【0061】一方、上記ステップSB12 の判定が、|R/G|が許容値τより大きいYESのときは、ステップSB15 でR>0か否かを判定し、YESのときは、ステップSB16 において、右前輪および右後輪のショックアブソーバ2,4の減衰力特性の変更感度を変更するしきい値α2 ,β2 およびα4 ,β4 をそれぞれαh2,βh2およびαh4,βh4に設定して、ステップSB14 に出力する。一方、ステップSB15 の判定が、R≦0となるNOのときは、ステップSB17 において、左前輪および左後輪のショックアブソーバ1,3の減衰力特性の変更感度を変更するしきい値α1 ,β1 およびα3 ,β3 をそれぞれαh1,βh1およびαh3,βh3に設定して、ステップSB14 に出力する。
【0062】図13(a) 、(b) は、減衰力、ばね上とばね下の相対変位速度(dXsi/dt−dXui/dt)としきい値αi 、βi の関係を示すグラフであり、しきい値設定手段82には、このグラフがマップの形で記憶されている。
【0063】図13(a) 、(b) において、Rh は、減衰力特性がハード側に変更される特性領域、すなわち、減衰係数Dkiが、前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(k+1)iに変更される特性領域を、Rs は、減衰力特性がソフト側に変更される特性領域、すなわち、減衰係数Dkiが、前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k+1)iに変更される特性領域をそれぞれ示しており、しきい値αh1、βh1の間の領域およびしきい値αsi、βsiの間の領域は、減衰力特性の変更がなされない領域、すなわち不感帯領域を示している。
【0064】図13(a) 、(b) から明らかなように、図1313(b) に示されたしきい値αhi,βhiは、図13(a) に示されたしきい値αsi,βsiに比して、その傾きが小さくなるように設定されており、その結果、減衰力特性がソフト側に変更される特性領域Rs は、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、しきい値αi ,βi としてαsi,βsiが選択された場合に比して小さく、一方、減衰力特性がハード側に変更される特性領域Rh は、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、しきい値αi ,βi としてαsi,βsiが選択された場合に比して大きく、したがって、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、減衰力特性がソフト側には変更されにくくかつハード側に変更されやすくなるようにしきい値αhi,βhi,αsi,βsiが設定されている。なお、しきい値設定手段82は、通常は、α=αsi,β=βsiとするしきい値信号を、演算判定手段80に出力している。
【0065】そして、演算判定手段80は、しきい値設定手段82から入力されたしきい値信号に基づき、図11R>1と同様にして、左の前後輪のショックアブソーバ1、3または右の前後輪のショックアブソーバ2、4の減衰係数Dkiを制御する。
【0066】図12のステップSB14 において、しきい値信号が、しきい値設定手段82から入力されたときは、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai および第1圧力センサ61、第2圧力センサ62、第3圧力センサ63、第4圧力センサ64の検出した減衰力Fsiが入力される。次いで、ステップSB18 において、上記ステップSB14 で入力された上下方向の加速度ai を積分して、ばね上の変位速度Xsi(=Σai )を算出する。
【0067】しかる後、ステップSB19 において、上記ステップSB18 で算出したばね上の変位速度Xsiに所定の定数K(K<0)を乗じて、理想の減衰力であるスカイフック減衰力Faiを算出する。そして、ステップSB20 において、次に示す式■ hα=Fsi(Fai−αFsi)・・・・・・・・・・・・・■にしたがって、hαを算出し、ステップSB21 でhαが正か否かを判定する。
【0068】その結果、hαが正であるYESのときは、ステップSB22 に進んで、hαが正であるショックアブソーバ1,2,3,4の第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に制御信号を出力して、ステップモータ27を図8の時計方向に一段だけ回転させ、減衰係数Dkiを、前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(K+1)iに、すなわちよりハードになるように変更する一方、hαが正でないNOのときは、ステップSB23 に進んで、さらに式■にしたがって、 hβ=Fsi(Fai−βFsi)・・・・・・・・・・・・・■hβを算出し、ステップSB24 でhβが負か否かを判定する。
【0069】その結果、hβが負であるYESのときは、ステップSB25 において、hβが負であるショックアブソーバ1,2,3,4の第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に制御信号を出力して、ステップモータ27を図8の反時計方向に一段だけ回転させ、減衰係数Dkiが前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k-1)iになるように、すなわちよりソフトになるように変更する。これに対して、hβが負でないNOのときには、ステップSB26 において、ステップモータ27を回転させることなく、すなわち減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiのまま変更することなく保持して、次のサイクルに移行する。この場合、上記ステップSB14 およびステップSB18 〜ステップSB26 により演算判定手段80が構成されている。
【0070】ここに、α、βは、減衰係数Dkiの変更があまりに頻繁におこなわれる結果、その変更時に大きな音や振動が発生したり、応答遅れが生ずることを防止するためのしきい値であって、通常、α>1、0<β<1に設定される。
【0071】すなわち、FsiとFaiが同符号のときは、式■の(Fai−αFsi)は、α>1であるので、Fsiにαが乗ぜられていない場合に比して、Fsiと異符号になりやすく、その結果、hαは負になりやすいから、減衰係数Dkiの変更がおこなわれ難く、さらに、式■の(Fai−βFsi)は、0<β<1であるので、Fsiにβが乗ぜられていない場合に比して、Fsiと同符号になりやすく、その結果、hβは正になりやすいから、減衰係数Dkiの変更がおこなわれ難くなる。
【0072】これに対して、FsiとFaiが異符号の場合には、実際の減衰力Fsiを、理想的な減衰力であるスカイフック減衰力Faiと一致させることは不可能であり、減衰係数Di をゼロに近い値にすること、すなわちよりソフトになるように変更することが、FsiをFaiにより近づける上で望ましいことになる。そこで、本実施例においては、FsiとFaiが異符号のときは、hαもhβも共に負の値となり、その結果、コントロールユニット8により、減衰係数Dkiは、前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k-1)iに、すなわちよりソフトになるように変更されるから、かかる要請を満足することが可能になる。
【0073】尚、図12のフローチャートにおいて変更される減衰係数Dkiの範囲は、図10の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限され、ステップモータ27を図8の時計方向に一段回転させて減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(k+1)iに変更すべき場合でも、前回の減衰係数Dkiのまま保持し、また、ステップモータ27を図8の反時計方向に一段回転させて減衰係数Dkiが前回の減衰係数Dkiより1つまたは2つ小さいD(k-1)iになるように変更すべき場合でも、前回の減衰係数Dkiが減衰係数選択制御のルーチンに選択された減衰係数Dkiの下限値に等しい場合には減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiのまま保持する。
【0074】図14は、モード選択スイッチ16によりコントロールモードが選択された場合に、コントロールユニット8の応答性検出手段92および補正手段91によりショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるために実行される各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性変更制御のルーチンを示すフローチャートである。
【0075】先ず、図14のステップSC1でタイマtをスタート(ON)させた後、ステップSC2において、演算判定手段80により生成された制御記号、つまりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に出力したか否かを判定する。この場合、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる範囲は、図10R>0の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限され、この範囲内に減衰係数D(k+x)iが含まれるときにのみ判定が実行される。
【0076】その結果、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を出力したYESのときは、ステップSC3に進む一方、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を出力していないNOのときは第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44が正常に作動していると判断して次の制御信号の判定に備える。そして、ステップSC3おいて、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動信号を入力して、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したか否かを判定し、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更していないNOのときはステップSC4でタイマが第1所定時間t0 を経過したか否かを判定する。その結果、タイマが第1所定時間t0 を経過していないNOのときは、第1所定時間t0 経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更するかを待機する。一方、タイマが第1所定時間t0 を経過したYESのときは、ステップSC5において、再度、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したか否かを判定し、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更していないNOのときはステップSC6でタイマが第1所定時間t0 よりも長い第2所定時間t1 を経過したか否かを判定する。
【0077】その結果、タイマが第1所定時間t1 を経過していないNOのときは、第1所定時間t0 を経過して第2所定時間t1 を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更するかを待機する一方、タイマが第1所定時間t1 を経過したYESのときは、ステップSC7において、コントロールユニット8と第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44との間で断線などの故障が発生していると判断してFail判定して終了する。
【0078】これに対して、上記ステップSC5の判定が、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したYESのとき、つまり第1所定時間t0 を経過して第2所定時間t1を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したときには、ステップSC8において、補正手段にマップとして記憶した,図15に示す振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインの変化特性を示す特性図に従って、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きいか否かを判定する。そして、この判定が、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも小さいNOのときは、ばね上絶対速度のゲインGavがばね上共振点ω1 およびばね下共振点ω2 を越えて小さくなりつつある高周波振動領域に移向している領域にあると判定されて、ステップSC9に進み、高周波振動領域における減衰係数DkiのD(k+x)iへの変更を禁止する。一方、上記ステップSC8の判定が、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きいYESのときは、ばね上絶対速度のゲインGavがばね上共振点ω1 およびばね下共振点ω2 付近の低周波振動領域にあると判定されて、ステップSC10 に進み、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正する。この場合、減衰係数DkiのD5i〜D10i 範囲内への規制は、図10の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限された減衰係数Dkiの範囲に応じて行われ、この走行状態に応じて制限された減衰係数Dkiの範囲が、例えばD1i〜D3iの範囲であればD5i〜D10i 範囲内への規制は行われず、また、D3i〜D7iの範囲であればD5i〜D10i 範囲内への規制はD5i〜D7iの範囲内に規制される。
【0079】次いで、ステップSC11 およびステップSC12 において、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが1段抜かしに変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定するように補正する。
【0080】また、上記ステップSC3の判定が、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したYESのとき、つまり第1所定時間t0 経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したときには、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44が正常に、または正常に戻って作動していると判断してステップSC13 でリセットして次の制御信号の判定に備える。
【0081】よって、上記フローのステップSC3〜ステップSC6により、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動応答スピードを検出する応答性検出手段90が構成されている。また、ステップSC8により、車体にかかる入力の周波数を検出する入力周波数検出手段83が構成されている。
【0082】したがって、上記実施例では、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiを変更する第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44は、コントロールユニット8からの作動信号つまり減衰係数DkiをD(k+x)iに変更する信号が出力されて第1所定時間t0 を経過しかつ第2所定時間t1 を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更した際に応答性の低下が検出されて、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更頻度を低下させるよう補正手段91により補正されたコントロールユニット8の作動信号により作動するので、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されて過熱気味となるアクチュエータ1,2,3,4の作動つまり変更頻度が補正手段90の補正により低下するようにしている。
【0083】その場合、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータ1,2,3,4への作動信号を補正することにより、入力周波数検出手段83からの出力信号が所定の振動周波数よりも高い、つまりばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも小さい高周波数振動領域であるときにアクチュエータ1,2,3,4への作動信号が前回の減衰係数Dkiのままで保持されるようにし、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更頻度を低下させて、車体に入力される不快な低周波数振動を抑制している。また、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正することにより、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiは、速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲にさらに規制されてアクチュエータの変更頻度を低下させて、操縦安定性を確保している。さらに、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であり、かつ速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが一段抜かして変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定することにより、ショックアブソーバ1,2,3,4は、減衰係数Dkiが速やかに切換えられて減衰係数の変更制御を迅速に行って減衰力特性の変更制御速度を向上させている。この結果、アクチュエータ1,2,3,4の温度低下を図りつつ、アクチュエータ1,2,3,4の脱調を確実に防止することができる。
【0084】尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含するものである。例えば、上記実施例では、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であり、かつ速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが一段抜かして変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定したが、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも小さい高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの作動信号を前回の減衰係数のままで保持してショックアブソーバの減衰係数の変更頻度を低下させつつ、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバの減衰係数の変更制御が通常通り行われるようにしても良い。また、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバの減衰係数の変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正するようにしても良い。
【0085】また、上記実施例では、路面摩擦係数μを、ABS66の検出信号に基づいて推定しているが、ワイパーの信号に基づいて路面摩擦係数μを推定するようにしてもよく、また、上下方向の加速度ai の所定時間内の変動量に基づいて、悪路か否かの判定を行っているが、他の方法によって、悪路判定をしてもよい。
【0086】また、上記実施例では、乗り心地を重視すべきと判定された走行状態において、ステップモータ27を二段回転させて、減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiより2つ小さいD(k-2)iに変更するようにしているが、ステップモータ27を3段以上回転させるようにすることもできる。
【0087】また、上記実施例では、2つのストッパピン55,56を、ステップモータ27のロータ51に形成し、これと係合する溝57,58を、ステップモータ27の蓋53に形成しているが、ストッパピン55,56を、ステップモータ27の蓋53に形成し、これと係合する溝57,58を、ステップモータ27のロータ51に形成してもよく、さらには、ストッパピン55,56の一方を、ステップモータ27のロータ51に、他方を、ステップモータ27の蓋53に形成し、ロータ51に形成されたストッパピン55,56の一方と係合する溝57,58を、ステップモータ27の蓋53に、ステップモータ27の蓋53に形成された他方のストッパピン55,56と係合する溝57,58を、ステップモータ27のロータ51に形成するようにしてもよい。
【0088】さらに、上記実施例では、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を変化させるアクチュエータとしてステップモータ27を用い、オープン制御によりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を制御しているが、ステップモータ27の代わりにDCモータを用い、フィードバック制御によりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】サスペンション装置の部品レイアウトを示す斜視図である。
【図2】ショックアブソーバの主要部を示す縦断正面図である。
【図3】アクチュエータの分解斜視図である。
【図4】ショックアブソーバの減衰係数を示すグラフである。
【図5】サスペンション装置の振動モデルを示す模式図である。
【図6】ステップモータの斜視図である。
【図7】ロータおよびステータの平面図である。
【図8】蓋の底面図である。
【図9】サスペンション装置の制御部のブロックダイアグラムである。
【図10】運転状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図11】コントロールユニットによって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御の基本ルーチンの前半部を示すフローチャートである。
【図12】コントロールユニットによって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御の基本ルーチンの後半部を示すフローチャートである。
【図13】減衰力、ばね上ばね下間相対速度としきい値α,βの関係を示す特性図。
【図14】補正手段によって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図15】振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインの変化特性を示す特性図である。
【符号の説明】
1,2,3,4 ショックアブソーバ
6,7 車輪
8 コントロールユニット(制御手段)
9 車体
41,42,43,44 アクチュエータ
83 入力周波数検出手段
91 補正手段
92 応答性検出手段
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両のサスペンション装置に関し、特に、ばね上とばね下との間に減衰力特性可変式のショックアブソーバを備えるものの改良に係わる。
【0002】
【従来の技術】一般に、車両のサスペンション装置においては、車体側としてのばね上と、車輪側としてのばね下との間に、車輪の上下振動を減衰させるためのショックアブソーバが装備されている。このショックアブソーバには、減衰力特性可変式のものとして、減衰力特性(減衰係数の異なった特性)が高低2段に変更可能なもの、減衰力特性が多段又は無段連続的に変更可能なもの等種々のものがある。
【0003】このような減衰力可変式のショックアブソーバの制御方法は、基本的には、ショックアブソーバが発生する減衰力が車体の上下振動に対して、加振方向に働くときにショックアブソーバの減衰力を低減衰側(すなわちソフト側)にし、減衰力が制振方向に働くときにショックアブソーバの減衰力を高減衰側(すなわちハード側)に変更して、ばね上に伝達される加振エネルギーに対して制振エネルギーを大きくし、もって車両の乗り心地および走行安定性を共に向上させるようにするものである。
【0004】そして、ショックアブソーバの減衰力がばね上上下振動の加振方向または制振方向のいずれの方向に働くか否かの判定は、種々のものが提案されている。例えば特開昭60−248419号公報には、ばね上とばね下との間の相対変位の符号とその微分値であるばね上ばね下間の相対速度の符号とが一致するか否かを調べ、一致するときには加振方向と判定し、不一致のときは制振方向と判定する方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このように、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとが一致するか否かに基づき、減衰力特性を変更制御する減衰力特性可変式のショックアブソーバにおいては、フィードバック制御により、ショックアブソーバの減衰力を制御する場合には、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとは、頻繁に、一致、不一致を繰り返すため、必然的に、制御用のコンピュータが大型化するとともに高価なものになるという問題があった。
【0006】そこで、かかる問題を解決し、オープン制御により、ショックアブソーバの減衰力を制御するときには、アクチュエータとしてステップモータを使用することが考えられが、ステップモータを使用した場合には、ばね上とばね下との相対変位の向きと、ばね上とばね下との相対速度の向きとは、頻繁に一致、不一致を繰り返すため、減衰力が、ソフト側からハード側に、さらには、ハード側からソフト側にというように、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されるようにステップモータを駆動する必要があり、かかる場合には、ステップモータが加熱したり脱調したりして、車体の上下振動状態に応じてショックアブソーバの減衰力を所望のように制御することができず、かえって走行安定性が損なわれるという問題があった。
【0007】本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、所定の条件に基づいて、走行安定性を損なうことなくショックアブソーバの減衰力特性を効果的に変更することにより、アクチュエータ(ステップモータ)の温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に係る考案が講じた解決手段は、各車輪のばね上とばね下との間にショックアブソーバを備え、ばね上の変位速度とばね下の変位速度との相対関係に応じて、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御するようにした車両のサスペンション装置を前提とする。そして、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータと、該アクチュエータに制御信号を出力して作動させる制御手段と、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段と、該応答性検出手段からの信号を受け、その信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する補正手段とを備える構成としたものである。
【0009】また、請求項2に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が入力されるようになっていて、該入力周波数検出手段からの出力信号を受け、その信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成したものである。
【0010】また、請求項3に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータによるショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲を規制するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成としたものである。
【0011】さらに、請求項4に係る発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明に従属するものであって、補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する構成としたものである。
【0012】
【作用】上記の構成により、請求項1に係る発明では、ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータは、応答性検出手段により検出した作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときに応答性の低下が検出されて、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう補正手段により補正された制御手段の制御信号により作動するので、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されて過熱気味となるアクチュエータの作動つまり変更頻度が補正手段の補正により低下して、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0013】また、請求項2に係る発明では、補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正しているので、入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも高い高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの制御手段の制御信号が補正手段により補正されずに、例えば前回の減衰力特性のままで保持されるようにして、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させることにより、車体に入力される不快な低周波数振動を抑制しつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0014】また、請求項3に係る発明では、補正手段は、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正してショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲が規制されるので、ショックアブソーバの減衰力特性は、例えば操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されてアクチュエータの変更頻度が補正手段の補正により低下することになり、操縦安定性などを確保しつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0015】さらに、請求項4に係る発明では、補正手段は、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正してショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するので、ショックアブソーバは、減衰力特性が速やかに切換えられて減衰力特性の変更制御が迅速に行われることになり、減衰力特性の変更制御速度を向上させつつ、アクチュエータの温度を低下させることができるとともに、アクチュエータの脱調を防止することができる。
【0016】
【発明の効果】以上の如く、請求項1の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう制御手段の制御信号を補正したので、過熱気味のアクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止して、走行安定性の向上を図ることができる。
【0017】また、請求項2の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、車体にかかる入力周波数が低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正するので、高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの制御手段の制御信号を前回の減衰力特性などに保持し、ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させて不快な低周波数振動を抑制し、アクチュエータの温度低下をさせつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止できる。
【0018】また、請求項3の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲が規制されるようアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正したので、ショックアブソーバの減衰力特性を操縦安定性を確保するハード側の範囲などに規制してアクチュエータの変更頻度を低下させて、操縦安定性などを確保し、アクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を確実に防止できる。
【0019】さらに、請求項4の発明における車両のサスペンション装置によれば、補正手段により、アクチュエータの作動応答スピードが所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性が一段抜かして変更されるようアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正したので、ショックアブソーバの減衰力特性の変更制御速度を向上させて、アクチュエータの温度低下を図りつつ、アクチュエータの脱調を防止できる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0021】図1は、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置を含む車両の略斜視図である。
【0022】図1において、本発明の好ましい実施例に係る車両のサスペンション装置は、各車輪に対応して設けられ、各車輪の上下振動を減衰させるたショックアブソーバ1,2,3,4を備えている。各ショックアブソーバ1,2,3,4は、それぞれ、図示しないアクチュエータにより、減衰係数が異なった10の減衰力特性に切り換え可能に構成されており、また、図示しない圧力センサを備えている。図1において、5は左前輪、6は左後輪であり、右前輪および右後輪は図示されていない。また、7は、各ショックアブソーバ1,2,3,4の上部外周に配設されたコイルスプリングであり、8は、各ショックアブソーバ1,2,3,4のアクチュエータに対して、制御信号を出力して、各ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を変更制御する制御手段としてのコントロールユニットである。
【0023】また、車体9のばね上には各車輪のばね上の上下方向の加速度を検出する第1加速度センサ11,第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速度センサ14が、インストルパネルのメータ内には車速を検出する車速センサ15がそれぞれ設けられている。16は、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の制御をドライバーがハードモード、ソフトモードまたはコントロールモードのいずれかに切り換えるモード選択スイッチを示す。そして、モード選択スイッチ16により、ハードモードが選択されたときは、減衰力特性がハードになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされる。また、ソフトモードが選択されたときは、減衰力特性がソフトになるような範囲の減衰係数のみが選択され、その範囲内でのみショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされる。さらに、コントロールモードが選択されたときはあらかじめコントロールユニット8内に記憶されたマップあるいはテーブルにしたがって、所定のようにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更制御がなされるようになっている。
【0024】図2は、左前輪に対して設けられたショックアブソーバ1の要部略断面図である。ただし、圧力センサは、便宜上省略されている。
【0025】図2において、ショックアブソーバ1は、シリンダ21を備え、シリンダ21内には、ピストンとピストンロッドが一体的に結合されたピストンユニット22が摺動自在に嵌装されている。シリンダ21およびピストンユニット22は、それぞればね下およびばね上に結合されている。
【0026】ピストンユニット22には、2つのオリフィス23、24が形成されている。一方のオリフィス23は常に開いており、他方のオリフィス24は、それぞれ第1アクチュエータ41により、その通路面積が10段階に変更可能に形成されている。
【0027】図3は、ショックアブソーバ1に設けられた第1アクチュエータ41の分解略斜視図であり、図2および図3に示されるように、第1アクチュエータ41は、ピストンユニット22に固定されたスリーブ25内に、回転自在に設けられたシャフト26と、シャフト26を回転させるステップモータ27と、シャフト26の下端部に一体に取付けられ、その円周に沿って、9つの円形孔28を有する第1オリフィスプレート29と、スリーブ25の下端部に一体的に設けられ、その円周に沿って円弧状の長孔30が形成された第2オリフィスプレート31を備えている。ここに、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28と、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30とは、ステップモータ27の回転によるシャフト26および第1オリフィスプレート29の回転にしたがって、9つの円形孔28が0ないし9個の範囲で長孔30と連通可能なように形成されている。
【0028】シリンダ21内の上室32および下室33内は、所定の粘度を有する流体で満たされており、オリフィス23,24を通って上室32および下室33間を移動可能になっている。
【0029】図2および図3においては、ショックアブソーバ1の構造のみを示したが、他の車輪に対して設けられたショックアブソーバ2,3,4もまた、図2に示されたショックアブソーバ1と同様の構造を示しており、それぞれ図3に示されたのと同様な第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44を備えている。
【0030】図4は、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を示すグラフであり、D1 ないしD10は、それぞれショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数を示している。図4において、縦軸は、ショックアブソーバ1,2,3,4が発生する減衰力を、横軸は、ばね上の変位速度Xs とばね下の変位速度Xu との差、すなわち、ばね上とばね下の相対変位速度(dXs /dt−dXu /dt)を示している。図4に示されるように、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性は、減衰係数D1 ないしD10のいずれかを選択することによって、10段階に変更することが可能なように構成されている。図4において、D1 は、最もソフトな減衰力を発生させる減衰係数を、D10は、最もハードな減衰力を発生させる減衰係数を、それぞれ示している。ここに、減衰係数Dk (k は正の整数で、1〜10)は、第1オリフィスプレート29に形成された9つの円形孔28のうち、(10−i )個の円形孔28が、第2オリフィスプレート31に形成された長孔30と連通している場合に選択されるようになっている。したがって、減衰係数D1 は、第1オリフィスプレート29の9つの円形孔28のすべてが第2オリフィスプレート31の長孔30と連通している場合に選択され、減衰係数D10は、第1オリフィスプレート29の9つの円形孔28のいずれもが第2オリフィスプレート31の長孔30と連通しないときに選択されることになる。
【0031】図5は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の振動モデル図であり、msはばね上質量、muはばね下質量、xsはばね上変位、xuはばね下変位、ksはコイルスプリング7のばね定数、ktはタイヤのばね定数、Dk はショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数である。
【0032】図6は、ステップモータ27の略斜視図であり、ステップモータ27は、筒状体50、筒状体50内に収容されたロータ51,ステータ52および蓋53から構成されている。図7は、ロータ51およびステータ52の略平面図であり、通常のステップモータと同様に、ロータ51の外周部には複数の矩形形状の歯が形成され、ステータ52の内周部には、これと対応して複数の矩形形状の歯が形成されており、ステータ52には、ソレノイド54が巻回されている。ロータ51には、2本のストッパピン55,56が形成されており、図8に示されるように、蓋53には、ストッパピン55,56に対応する位置の円周方向に2つの溝57,58が形成されている。溝57は、ロータ51に形成されたストッパピン55と係合してステップモータ27の可動範囲を制御するものであり、他方、溝58はストッパピン56と係合するものであって、ストッパピン55,56を溝57,58と係合させることによって、蓋53を被せたときにロータ51の重心が回転中心と一致するように位置合わせを可能とするものである。したがって、蓋53の中心から溝57,58の両端部を見た円周角は、溝58の方が溝57より大きくなっており、専ら溝57によって、ステップモータ28の可動範囲が決定されるように溝57,58が形成されている。図8において、ロータ51が時計回りに回転すると、減衰係数Dk がより大きくなって減衰力特性はよりハードになり、他方反時計回りに回転すると、減衰係数Dk がより小さくなって減衰力特性はよりソフトになるようになっており、また、ロータ51の矩形形状の歯がステータ52の隣接する矩形形状の歯に対向する位置に移動させられたとき、すなわち、ステップモータ27が一段回転すると、減衰係数Dk が1つだけ変化するようになっている。従って、ストッパピン55が溝57の右端部である第1基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk はD10となり、ショックアブソーバ1が最もハードな減衰力を発生し、他方、ストッパピン55が溝57の左端部である第2基準位置に位置しているとき、減衰係数Dk はD1 となり、ショックアブソーバ1が最もソフトな減衰力を発生するようになっている。
【0033】図9は、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系のブロックダイアグラムである。
【0034】図9において、本発明の実施例に係る車両のサスペンション装置の制御系を構成するコントロールユニット8は、演算判定手段80、許容値設定手段81およびしきい値設定手段82を備えており、演算判定手段80には、ショックアブソーバ1,2,3,4にそれぞれ設けられた第1圧力センサ61,第2圧力センサ62,第3圧力センサ63,第4圧力センサ64の検出した各ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力Fsi(ここに、iは、各車輪を示し、i=1,2,3,4である。)の検出信号、第1加速度センサ11,第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai の検出信号、第1車高センサ71,第2車高センサ72,第3車高センサ73,第4車高センサ74の検出したばね上ばね下間相対変位(Xs −Xu )の検出信号および車速センサ15の検出した車速Vの検出信号がそれぞれ入力されている。また、許容値設定手段81には、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号およびアンチ・ブレーキング・システム(ABS)66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号がそれぞれ入力されている。さらに、しきい値設定手段82には、舵角センサ65から舵角θの検出信号および許容値設定手段81から許容値信号が入力され、しきい値設定手段82からしきい値信号が演算判定手段80に出力されるようになっている。そして、演算判定手段80では、第1〜第4加速度センサ11〜14の検出したばね上の上下方向の加速度ai を数値積分法などで積分してばね上の変位速度Xsi(Σai )、つまり各ショックアブソーバ1〜4の位置におけるばね上絶対速度として変換して用いられるように算出されているとともに、車体にかかる入力の周波数を検出する入力周波数検出手段83からの出力信号が入力されていて、後述する図15の振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインとを比較してその振動周波数領域を判定することが行われている。
【0035】上記演算判定手段80は、上下方向の加速度ai の検出信号および車速Vの検出信号に基づいて、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって、各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を決定する減衰係数Dkiを算出し、制御記号を生成して、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に出力し、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を制御する。また、許容値設定手段81は、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号およびABS66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号に基づき、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって左右輪および前後輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの差の許容値を算出し、許容値信号をしきい値設定手段82に出力する。さらに、しきい値設定手段82は、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号に基づき、予め記憶しているマップあるいはテーブルにしたがって左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰係数Dkiの変更感度を変更するためのしきい値を設定し、しきい値信号を演算判定手段80に出力する。
【0036】ここに、減衰力Fsiは連続値をとり、ばね上に対して上向きに作用するときすなわちばね上とばね下間が縮んでいるときに正の値に、下向きに作用するときすなわちばね上とばね下間が伸びているときに負の値になるように設定され、ばね上の上下方向の加速度ai は、上向きのときに正の値に、下向きのときに負の値になるように設定されている。
【0037】また、演算判定手段80は応答性検出手段92および補正手段91を備えており、応答性検出手段92は、演算判定手段80の制御信号により第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動が所定の作動応答スピードよりも遅いときに補正手段91に出力信号を出力する。また、補正手段91は、応答性検出手段92からの出力信号に応じて、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,演算判定手段80から第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44への制御信号をそれぞれ補正するようにしている。
【0038】図10は、モード選択スイッチ16により、コントロールモードが選択された場合において、コントロールユニット8により行われる,走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンを示すフローチャートであり、図10の減衰係数選択制御のルーチンは、減衰係数Dkiの変更が余りに頻繁に行われ、その結果、変更時に大きな音や振動が生じたり、応答遅れが生ずることを防止するために走行状態に応じて変更制御し得る減衰係数Dkiの範囲を制限するものである。
【0039】図10において、先ず、ステップSA1で、車速センサ15により検出された車速Vを入力するとともに、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12,第3加速度センサ13,第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai を入力する。
【0040】ついで、ステップSA2において、車速Vが、低速値である第1の所定車速V1 、たとえば3km/h以下か否かを判定する。
【0041】その結果、車速Vが、第1の所定車速V1 以下のNOのときは、ステップSA3に進み、車速Vがきわめて低速であるから、スコットや制動ダイブ防止するため、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性がハードになるように減衰係数DkiをD8iに固定する。したがって、減衰係数DkiはD8iに固定されるから、図1010に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンによる減衰力特性の変更制御はおこなわれない。
【0042】一方、車速Vが、第1の所定車速V1 を越えているYESのときには、ステップSA4に進み、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0を越えている悪路走行中か否かを判定する。
【0043】その結果、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0を越えている悪路走行中と判定したYESのときは、ステップSA5に進んで車速Vが第3の所定車速V3 、たとえば50km/h以上か否かを判定する。
【0044】そして、上記ステップSA5の判定が、車速Vが第3の所定車速V3 以上であるYESと判定したときは、ステップSA6において、走行安定性の向上を重視して減衰力特性を比較的ハードな範囲内で変更制御するために、減衰係数DkiをD5iないしD7iの範囲に設定する。その結果、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiは、D5iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D5iに保持され、他方、D7iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D7iに保持されることになる。
【0045】これに対して、上記ステップSA5の判定が、車速Vが所定車速V3 未満であるNOと判定したときは、ステップSA7に進み、走行安定性と乗り心地の向上の両立を図ることが可能であるから、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能にするために、減衰係数Dkiを、D3iないしD7iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiは、D3iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても、減衰係数DkiはD3iに保持され、他方、D7iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数DkiはD7iに保持されることになる。
【0046】一方、上記ステップSA4の判定が、ばね上の上下方向の加速度ai の絶対値が所定値ai0以下と判定されたNOのときは、ステップSA8に進み、悪路ではなく通常の道路を走行中であると考えられるから、このステップSA8において、さらに車速Vが第2所定車速V2 、たとえば30km/h以下か否かを判定する。
【0047】その結果、車速Vが、第2所定車速V2 以下の低速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA9において、乗り心地の向上を重視するため、減衰力特性が比較的ソフトな範囲内で変更制御されるように、減衰係数DkiをD1iないしD3iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数Dkiが、D1iのときは、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立した場合でも減衰係数DkiはD1iに保持され、他方、D3iが上限値になり、たとえよりハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD3iに保持されることになる。
【0048】これに対して、上記ステップSA8の判定が、車速Vが第2所定車速V2 を越えているNOと判定したときは、ステップSA10 において、さらに、車速Vが第4所定車速V4 、たとえば60km/h以下か否かを判定する。
【0049】その結果、車速Vが、第4所定車速V4 以下の比較的中速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA11 に進み、走行安定性と乗り心地の向上させるという2つ要請の両立を図ることが可能であるから、減衰力特性を比較的ソフトな状態からハードな状態の範囲内で変更制御することを可能とするために、減衰係数DkiをD2iないしD6iの範囲に設定する。したがって、図10に示された減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD2iが下限値になり、たとえよりソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD2iに保持され、他方、D6iが上限値になり、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD6iに保持されることになる。
【0050】これに対して、上記ステップSA10 の判定が、車速Vが第4所定車速V4 を越えているNOと判定したときは、ステップSA12に進み、さらに車速Vが第5所定車速V5 、たとえば80km/h以下か否かを判定する。
【0051】その結果、車速Vが第5所定車速V5 以下の中速走行状態にあるYESと判定したときは、ステップSA13 に進み、走行安定性と乗り心地の向上という2つの要請の両立を図りつつ、ややハードにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性を変更制御するために、減衰係数Dkiを、D4iないしD6iの範囲に設定する。したがって、図10の減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD4iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD4iに保持され、他方、D6iが上限値になり、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても、減衰係数Dkiは、D6iに保持されることになる。
【0052】これに対して、車速Vが第5所定車速V5 を越えた高速走行状態にあるNOと判定したときは、ステップSA14 に進み、走行安定性の向上を重視して、減衰力特性がハードな範囲内で変更制御されるように、減衰係数DkiをD7iないしD10i の範囲に設定する。したがって、図10の減衰力特性変更制御の基本ルーチンにおいて、減衰係数DkiはD7iが下限値になり、たとえさらにソフトに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD7iに保持され、他方、たとえさらにハードに変更すべき条件が成立しても減衰係数DkiはD10i に保持されることになる。
【0053】図11および図12は、モード選択スイッチ16により、コントロールモードが選択された場合にコントロールユニット8により実行される各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性変更制御の基本ルーチンを示すフローチャートである。
【0054】先ず、図11のステップSB1において、車速センサ15の検出した車速Vの検出信号、舵角センサ65の検出した舵角θの検出信号およびABS66からの路面摩擦係数の推定値μの推定信号をそれぞれ入力する。次いでステップSB2において、車速Vが第4の所定車速V4以下か否かを判定し、この判定が、車速Vが第4の所定車速V4以下であるYESのときは、低速走行状態にあると判定されて、左右輪1,2または3,4のショックアブソーバの減衰係数Dkiの差が大きくても、ステア特性に余り変化がなくダイアゴナル振動も問題にならないから許容値信号を出力しない。したがって、各車輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiは前回の減衰係数Dkiのまま保持され、許容値信号は出力されない。
【0055】これに対して、車速Vが第4の所定車速V4以上であるNOのときは、中速以上の走行状態にあると判定されて、ステップSB3に進み、左右輪1,2または3,4のショックアブソーバの減衰係数Dkiの差が大きいと、ステア特性が変化してダイアゴナル振動が発生するので、許容値をいかなる値に設定すべきかを決定するために、さらに車速Vが第5の所定車速V5以下か否かを判定する。その結果、車速Vが第4の所定車速V4を越えているが、第5の所定車速V5以下であるYESのときは、ステップSB4に進み、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0以下か否かを判定する。
【0056】その結果、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 未満となる路面摩擦係数の小さい路面を走行中であるYESのときは、ステップSB5で許容値τを所定値τ0 に設定する一方、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 を越えている路面摩擦係数の大きい路面を走行中であるNOのときは、ステップSB6で許容値τをτ0 よりも大きい所定値τ1 に設定して、それぞれ許容値信号をしきい値設定手段82としてのステップSB7に出力する。
【0057】一方、上記ステップSB3の判定が、第5の所定車速V5を越えているNOのときは、ステップSB8に進んで、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 以下か否かを判定する。その結果、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 未満となる路面摩擦係数の小さい路面を走行中であるYESのときは、ステップSB9で許容値τを所定値τ1 に設定する一方、路面摩擦係数の推定値μが所定値μ0 を越えている路面摩擦係数の大きい路面を走行中であるNOのときは、ステップSB10 で許容値τをτ1 よりも大きい所定値τ2 に設定して、それぞれ許容値信号をステップSB7(しきい値設定手段82)に出力する。この場合、上記ステップSB1〜ステップSB6およびステップSB8〜ステップSB10 により許容値設定手段81が構成されている。
【0058】そして、ステップSB7において、許容値信号が、許容値設定手段81から入力されたときは、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14から入力されたばね上の上下方向の加速度ai に基づき、式
【0059】
G=(a1+a2+a3+a4)/4・・・・・・・・・・・
【0060】一方、上記ステップSB11 の判定が、舵角θの絶対値|θ|が所定の舵角θ0 より大きい旋回状態にあるNOのとき(|θ|≧θ0 )は、|R/G|が許容値τより大きい場合でも、左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰力がステア特性を変化させてダイアゴナル振動を生じさせる状態にあるとは判定し得ないので、ステップSB13 において、しきい値α、βをそれぞれαsi,βsiに設定して、演算判定手段80としてのステップSB14 に出力する。この場合、ステップSB12 の判定で|R/G|が許容値τより小さいNOのときは、左右輪のショックアブソーバ1,2および3,4の減衰力が、ステア特性を変化させてダイアゴナル振動を生じさせる程度に異なっているとは認められないので、しきい値設定手段82はしきい値α,βをそれぞれαsi,βsiに設定して、図12のステップSB14 (演算判定手段80)に出力する。
【0061】一方、上記ステップSB12 の判定が、|R/G|が許容値τより大きいYESのときは、ステップSB15 でR>0か否かを判定し、YESのときは、ステップSB16 において、右前輪および右後輪のショックアブソーバ2,4の減衰力特性の変更感度を変更するしきい値α2 ,β2 およびα4 ,β4 をそれぞれαh2,βh2およびαh4,βh4に設定して、ステップSB14 に出力する。一方、ステップSB15 の判定が、R≦0となるNOのときは、ステップSB17 において、左前輪および左後輪のショックアブソーバ1,3の減衰力特性の変更感度を変更するしきい値α1 ,β1 およびα3 ,β3 をそれぞれαh1,βh1およびαh3,βh3に設定して、ステップSB14 に出力する。
【0062】図13(a) 、(b) は、減衰力、ばね上とばね下の相対変位速度(dXsi/dt−dXui/dt)としきい値αi 、βi の関係を示すグラフであり、しきい値設定手段82には、このグラフがマップの形で記憶されている。
【0063】図13(a) 、(b) において、Rh は、減衰力特性がハード側に変更される特性領域、すなわち、減衰係数Dkiが、前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(k+1)iに変更される特性領域を、Rs は、減衰力特性がソフト側に変更される特性領域、すなわち、減衰係数Dkiが、前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k+1)iに変更される特性領域をそれぞれ示しており、しきい値αh1、βh1の間の領域およびしきい値αsi、βsiの間の領域は、減衰力特性の変更がなされない領域、すなわち不感帯領域を示している。
【0064】図13(a) 、(b) から明らかなように、図1313(b) に示されたしきい値αhi,βhiは、図13(a) に示されたしきい値αsi,βsiに比して、その傾きが小さくなるように設定されており、その結果、減衰力特性がソフト側に変更される特性領域Rs は、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、しきい値αi ,βi としてαsi,βsiが選択された場合に比して小さく、一方、減衰力特性がハード側に変更される特性領域Rh は、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、しきい値αi ,βi としてαsi,βsiが選択された場合に比して大きく、したがって、しきい値αi ,βi としてαhi,βhiが選択された場合には、減衰力特性がソフト側には変更されにくくかつハード側に変更されやすくなるようにしきい値αhi,βhi,αsi,βsiが設定されている。なお、しきい値設定手段82は、通常は、α=αsi,β=βsiとするしきい値信号を、演算判定手段80に出力している。
【0065】そして、演算判定手段80は、しきい値設定手段82から入力されたしきい値信号に基づき、図11R>1と同様にして、左の前後輪のショックアブソーバ1、3または右の前後輪のショックアブソーバ2、4の減衰係数Dkiを制御する。
【0066】図12のステップSB14 において、しきい値信号が、しきい値設定手段82から入力されたときは、第1加速度センサ11、第2加速度センサ12、第3加速度センサ13、第4加速度センサ14の検出したばね上の上下方向の加速度ai および第1圧力センサ61、第2圧力センサ62、第3圧力センサ63、第4圧力センサ64の検出した減衰力Fsiが入力される。次いで、ステップSB18 において、上記ステップSB14 で入力された上下方向の加速度ai を積分して、ばね上の変位速度Xsi(=Σai )を算出する。
【0067】しかる後、ステップSB19 において、上記ステップSB18 で算出したばね上の変位速度Xsiに所定の定数K(K<0)を乗じて、理想の減衰力であるスカイフック減衰力Faiを算出する。そして、ステップSB20 において、次に示す式
【0068】その結果、hαが正であるYESのときは、ステップSB22 に進んで、hαが正であるショックアブソーバ1,2,3,4の第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に制御信号を出力して、ステップモータ27を図8の時計方向に一段だけ回転させ、減衰係数Dkiを、前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(K+1)iに、すなわちよりハードになるように変更する一方、hαが正でないNOのときは、ステップSB23 に進んで、さらに式
【0069】その結果、hβが負であるYESのときは、ステップSB25 において、hβが負であるショックアブソーバ1,2,3,4の第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に制御信号を出力して、ステップモータ27を図8の反時計方向に一段だけ回転させ、減衰係数Dkiが前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k-1)iになるように、すなわちよりソフトになるように変更する。これに対して、hβが負でないNOのときには、ステップSB26 において、ステップモータ27を回転させることなく、すなわち減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiのまま変更することなく保持して、次のサイクルに移行する。この場合、上記ステップSB14 およびステップSB18 〜ステップSB26 により演算判定手段80が構成されている。
【0070】ここに、α、βは、減衰係数Dkiの変更があまりに頻繁におこなわれる結果、その変更時に大きな音や振動が発生したり、応答遅れが生ずることを防止するためのしきい値であって、通常、α>1、0<β<1に設定される。
【0071】すなわち、FsiとFaiが同符号のときは、式
【0072】これに対して、FsiとFaiが異符号の場合には、実際の減衰力Fsiを、理想的な減衰力であるスカイフック減衰力Faiと一致させることは不可能であり、減衰係数Di をゼロに近い値にすること、すなわちよりソフトになるように変更することが、FsiをFaiにより近づける上で望ましいことになる。そこで、本実施例においては、FsiとFaiが異符号のときは、hαもhβも共に負の値となり、その結果、コントロールユニット8により、減衰係数Dkiは、前回の減衰係数Dkiより1つ小さいD(k-1)iに、すなわちよりソフトになるように変更されるから、かかる要請を満足することが可能になる。
【0073】尚、図12のフローチャートにおいて変更される減衰係数Dkiの範囲は、図10の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限され、ステップモータ27を図8の時計方向に一段回転させて減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiより1つ大きいD(k+1)iに変更すべき場合でも、前回の減衰係数Dkiのまま保持し、また、ステップモータ27を図8の反時計方向に一段回転させて減衰係数Dkiが前回の減衰係数Dkiより1つまたは2つ小さいD(k-1)iになるように変更すべき場合でも、前回の減衰係数Dkiが減衰係数選択制御のルーチンに選択された減衰係数Dkiの下限値に等しい場合には減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiのまま保持する。
【0074】図14は、モード選択スイッチ16によりコントロールモードが選択された場合に、コントロールユニット8の応答性検出手段92および補正手段91によりショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるために実行される各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力特性変更制御のルーチンを示すフローチャートである。
【0075】先ず、図14のステップSC1でタイマtをスタート(ON)させた後、ステップSC2において、演算判定手段80により生成された制御記号、つまりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44に出力したか否かを判定する。この場合、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる範囲は、図10R>0の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限され、この範囲内に減衰係数D(k+x)iが含まれるときにのみ判定が実行される。
【0076】その結果、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を出力したYESのときは、ステップSC3に進む一方、減衰係数DkiをD(k+x)iに変更させる信号を出力していないNOのときは第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44が正常に作動していると判断して次の制御信号の判定に備える。そして、ステップSC3おいて、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動信号を入力して、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したか否かを判定し、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更していないNOのときはステップSC4でタイマが第1所定時間t0 を経過したか否かを判定する。その結果、タイマが第1所定時間t0 を経過していないNOのときは、第1所定時間t0 経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更するかを待機する。一方、タイマが第1所定時間t0 を経過したYESのときは、ステップSC5において、再度、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したか否かを判定し、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更していないNOのときはステップSC6でタイマが第1所定時間t0 よりも長い第2所定時間t1 を経過したか否かを判定する。
【0077】その結果、タイマが第1所定時間t1 を経過していないNOのときは、第1所定時間t0 を経過して第2所定時間t1 を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更するかを待機する一方、タイマが第1所定時間t1 を経過したYESのときは、ステップSC7において、コントロールユニット8と第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44との間で断線などの故障が発生していると判断してFail判定して終了する。
【0078】これに対して、上記ステップSC5の判定が、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したYESのとき、つまり第1所定時間t0 を経過して第2所定時間t1を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したときには、ステップSC8において、補正手段にマップとして記憶した,図15に示す振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインの変化特性を示す特性図に従って、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きいか否かを判定する。そして、この判定が、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも小さいNOのときは、ばね上絶対速度のゲインGavがばね上共振点ω1 およびばね下共振点ω2 を越えて小さくなりつつある高周波振動領域に移向している領域にあると判定されて、ステップSC9に進み、高周波振動領域における減衰係数DkiのD(k+x)iへの変更を禁止する。一方、上記ステップSC8の判定が、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きいYESのときは、ばね上絶対速度のゲインGavがばね上共振点ω1 およびばね下共振点ω2 付近の低周波振動領域にあると判定されて、ステップSC10 に進み、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正する。この場合、減衰係数DkiのD5i〜D10i 範囲内への規制は、図10の走行状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンによって制限された減衰係数Dkiの範囲に応じて行われ、この走行状態に応じて制限された減衰係数Dkiの範囲が、例えばD1i〜D3iの範囲であればD5i〜D10i 範囲内への規制は行われず、また、D3i〜D7iの範囲であればD5i〜D10i 範囲内への規制はD5i〜D7iの範囲内に規制される。
【0079】次いで、ステップSC11 およびステップSC12 において、各輪のショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが1段抜かしに変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定するように補正する。
【0080】また、上記ステップSC3の判定が、減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したYESのとき、つまり第1所定時間t0 経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更したときには、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44が正常に、または正常に戻って作動していると判断してステップSC13 でリセットして次の制御信号の判定に備える。
【0081】よって、上記フローのステップSC3〜ステップSC6により、第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44の作動応答スピードを検出する応答性検出手段90が構成されている。また、ステップSC8により、車体にかかる入力の周波数を検出する入力周波数検出手段83が構成されている。
【0082】したがって、上記実施例では、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiを変更する第1アクチュエータ41,第2アクチュエータ42,第3アクチュエータ43,第4アクチュエータ44は、コントロールユニット8からの作動信号つまり減衰係数DkiをD(k+x)iに変更する信号が出力されて第1所定時間t0 を経過しかつ第2所定時間t1 を経過するまでの間に減衰係数DkiがD(k+x)iに変更した際に応答性の低下が検出されて、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更頻度を低下させるよう補正手段91により補正されたコントロールユニット8の作動信号により作動するので、きわめて高速度でソフト側とハード側の間で変更されて過熱気味となるアクチュエータ1,2,3,4の作動つまり変更頻度が補正手段90の補正により低下するようにしている。
【0083】その場合、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータ1,2,3,4への作動信号を補正することにより、入力周波数検出手段83からの出力信号が所定の振動周波数よりも高い、つまりばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも小さい高周波数振動領域であるときにアクチュエータ1,2,3,4への作動信号が前回の減衰係数Dkiのままで保持されるようにし、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更頻度を低下させて、車体に入力される不快な低周波数振動を抑制している。また、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiの変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正することにより、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiは、速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲にさらに規制されてアクチュエータの変更頻度を低下させて、操縦安定性を確保している。さらに、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であり、かつ速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが一段抜かして変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定することにより、ショックアブソーバ1,2,3,4は、減衰係数Dkiが速やかに切換えられて減衰係数の変更制御を迅速に行って減衰力特性の変更制御速度を向上させている。この結果、アクチュエータ1,2,3,4の温度低下を図りつつ、アクチュエータ1,2,3,4の脱調を確実に防止することができる。
【0084】尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その他種々の変形例を包含するものである。例えば、上記実施例では、ばね上絶対速度のゲインGavが所定値Gav0 よりも大きい低周波数振動領域であり、かつ速度Vに応じて選択された範囲内において操縦安定性を確保するハード側の範囲に規制されるときにショックアブソーバ1,2,3,4の減衰係数Dkiが一段抜かして変更されるよう,しきい値αをα×2に、しきい値βをβ×2にそれぞれ設定したが、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも小さい高周波数振動領域であるときにアクチュエータへの作動信号を前回の減衰係数のままで保持してショックアブソーバの減衰係数の変更頻度を低下させつつ、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバの減衰係数の変更制御が通常通り行われるようにしても良い。また、ばね上絶対速度のゲインが所定値よりも大きい低周波数振動領域であるときにショックアブソーバの減衰係数の変更範囲をD5i〜D10i に規制するように補正するようにしても良い。
【0085】また、上記実施例では、路面摩擦係数μを、ABS66の検出信号に基づいて推定しているが、ワイパーの信号に基づいて路面摩擦係数μを推定するようにしてもよく、また、上下方向の加速度ai の所定時間内の変動量に基づいて、悪路か否かの判定を行っているが、他の方法によって、悪路判定をしてもよい。
【0086】また、上記実施例では、乗り心地を重視すべきと判定された走行状態において、ステップモータ27を二段回転させて、減衰係数Dkiを前回の減衰係数Dkiより2つ小さいD(k-2)iに変更するようにしているが、ステップモータ27を3段以上回転させるようにすることもできる。
【0087】また、上記実施例では、2つのストッパピン55,56を、ステップモータ27のロータ51に形成し、これと係合する溝57,58を、ステップモータ27の蓋53に形成しているが、ストッパピン55,56を、ステップモータ27の蓋53に形成し、これと係合する溝57,58を、ステップモータ27のロータ51に形成してもよく、さらには、ストッパピン55,56の一方を、ステップモータ27のロータ51に、他方を、ステップモータ27の蓋53に形成し、ロータ51に形成されたストッパピン55,56の一方と係合する溝57,58を、ステップモータ27の蓋53に、ステップモータ27の蓋53に形成された他方のストッパピン55,56と係合する溝57,58を、ステップモータ27のロータ51に形成するようにしてもよい。
【0088】さらに、上記実施例では、ショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を変化させるアクチュエータとしてステップモータ27を用い、オープン制御によりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を制御しているが、ステップモータ27の代わりにDCモータを用い、フィードバック制御によりショックアブソーバ1,2,3,4の減衰力を制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】サスペンション装置の部品レイアウトを示す斜視図である。
【図2】ショックアブソーバの主要部を示す縦断正面図である。
【図3】アクチュエータの分解斜視図である。
【図4】ショックアブソーバの減衰係数を示すグラフである。
【図5】サスペンション装置の振動モデルを示す模式図である。
【図6】ステップモータの斜視図である。
【図7】ロータおよびステータの平面図である。
【図8】蓋の底面図である。
【図9】サスペンション装置の制御部のブロックダイアグラムである。
【図10】運転状態に応じた減衰係数選択制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図11】コントロールユニットによって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御の基本ルーチンの前半部を示すフローチャートである。
【図12】コントロールユニットによって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御の基本ルーチンの後半部を示すフローチャートである。
【図13】減衰力、ばね上ばね下間相対速度としきい値α,βの関係を示す特性図。
【図14】補正手段によって実行される各ショックアブソーバの減衰力特性変更制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図15】振動周波数に対するばね上絶対速度のゲインの変化特性を示す特性図である。
【符号の説明】
1,2,3,4 ショックアブソーバ
6,7 車輪
8 コントロールユニット(制御手段)
9 車体
41,42,43,44 アクチュエータ
83 入力周波数検出手段
91 補正手段
92 応答性検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】 各車輪のばね上とばね下との間にショックアブソーバを備え、ばね上の変位速度とばね下の変位速度との相対関係に応じて、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御するようにした車両のサスペンション装置において、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータと、該アクチュエータに制御信号を出力して作動させる制御手段と、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段と、該応答性検出手段からの信号を受け、その信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】 補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が入力されるようになっていて、該入力周波数検出手段からの出力信号を受け、その信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】 補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータによるショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲を規制するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】 補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項1】 各車輪のばね上とばね下との間にショックアブソーバを備え、ばね上の変位速度とばね下の変位速度との相対関係に応じて、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更制御するようにした車両のサスペンション装置において、上記ショックアブソーバの減衰力特性を変更するアクチュエータと、該アクチュエータに制御信号を出力して作動させる制御手段と、上記アクチュエータの作動応答スピードを検出する応答性検出手段と、該応答性検出手段からの信号を受け、その信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときに上記ショックアブソーバの減衰力特性の変更頻度を低下させるよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】 補正手段は、車体にかかる入力の周波数を検出するための入力周波数検出手段からの出力信号が入力されるようになっていて、該入力周波数検出手段からの出力信号を受け、その信号が所定の振動周波数よりも低い低周波数振動領域であるときにのみアクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】 補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにアクチュエータによるショックアブソーバの減衰力特性の変更範囲を規制するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】 補正手段は、応答性検出手段からの信号が所定の作動応答スピードよりも遅いときにショックアブソーバの減衰力特性を一段抜かして変更するよう,アクチュエータへの制御手段の制御信号を補正している請求項1記載の車両のサスペンション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【図8】
【図15】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図4】
【図8】
【図15】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開平5−50821
【公開日】平成5年(1993)3月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−207018
【出願日】平成3年(1991)8月19日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【公開日】平成5年(1993)3月2日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)8月19日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
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