説明

車両の保守作業における車両システムのモニタ方法

【課題】保守作業においてエラー・メッセージを回避し且つ特にいかなる追加のルーチンも必要としない車両システムのモニタ方法を提供する。
【解決手段】モニタリングされる車両システムの1つまたは複数の作動パラメータが所定の許容される値範囲の外側に存在するとき、モニタ・ユニットから発生される、車両の保守作業に基づくエラー・メッセージの回避方法において、一般的な走行運転を、車両搭載センサ装置(10)により、保守状態に関してモニタリングすること、および保守状態が特定されたとき、許容される値範囲を自動的に増大するか、またはモニタリングにおいて少なくとも1つの作動パラメータ(S、S)を考慮しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の保守作業における車両システムのモニタ方法、および特に保守作業に基づくエラー・メッセージの回避方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最新の車両においては、特に安全に関連する車両システムが常に機能性に関してモニタリングされる。即ち、例えば、電気操作ブレーキ装置(ブレーキ・バイ・ワイヤ・ブレーキ装置)において、ブレーキ・ピストンのストロークおよび付属のブレーキ圧力経過がモニタリングされる。いわゆる作動パラメータの1つが許容される値範囲の外側に存在するとき、または2つの作動パラメータの関係が相互にもはや妥当ではないとき、エラー・メッセージが発生され且つ、場合によりエラーが音響的または光学的に指示される。モニタリングは、一般に、センサ装置によりおよび制御装置内に記憶されているソフトウェアにより行われる。
【0003】
車両の保守作業、例えばブレーキ装置の保守作業において、通常、標準範囲の外側に存在することで、モニタ・ユニットによりエラーとして分類される個々の構成要素の作動状態が得られる。即ち、例えば、ブレーキ・ライニングの交換後において、ブレーキ・ピストンは典型的にはブレーキ・キャリパ内においてきわめて大きく押し戻されるので、常用ブレーキを操作したとき、車輪ブレーキにおけるブレーキ力は著しく遅れてはじめて上昇されることになる。このことがモニタ・ユニットによりエラーとして検出される。しかしながら、保守作業の場合に、これは望ましくない。
【0004】
したがって、保守作業において、ないしは保守作業後において、このようなエラー・メッセージを回避するために、保守作業を支援し且つモニタ・ユニットの好ましくない応答を阻止すべき、特に適合された診断ルーチンが導入されてきた。しかしながら、これらの診断ルーチンは、郊外の小さな修理工場または自営の機械修理工にとってはほとんど利用可能ではない。この場合、点検作業の実行は、しばしばモニタ・ユニットの応答を利用することになる。
【0005】
他の解決方法は、特定の点検作業に対して、点検作業の実行において修理工場の作業員を支援し且つシステム・モニタリングの応答を阻止すべき自動ルーチンを実行するように行われる。即ち、例えば、ブレーキ・ライニングの交換後において、ブレーキ・ピストンを自動的に前の位置に移動させることが行われる。しかしながら、正常運転中のこの自動ルーチンの好ましくない作動化は、安全上危険なことがある。そのために、自動ルーチンは、正確に定義された作業計画に基づいて、修理工場の作業員によって作動化されなければならない。しかしながら、これは修理工場の作業員にとっては比較的めんどうであるので、支援ルーチンは多くの場合利用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、保守作業においてエラー・メッセージを回避し且つ特にいかなる追加のルーチンも必要としない車両システムのモニタ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明により、請求項1に記載の特徴により解決される。本発明のその他の形態が従属請求項に記載されている。
本発明により、車両の一般運転状態をセンサによりモニタリングし、且つ車両が保守状態に存在するかどうかを特定することが提案される。保守状態が特定された場合、モニタリングされる車両システムの1つまたは複数の作動パラメータに対して許容される値範囲を増大するか、または少なくとも1つの作動パラメータに対するエラー応答時間を上昇することが提案される。この場合、エラー応答時間とは、モニタリングされる作動パラメータが所定の値範囲の外側に存在していてもエラー・メッセージが発生されることがない、システム内に記憶されている期間のことである。これにより、モニタ・ユニットはより不感に設定され、1つまたは複数のモニタリングされる作動パラメータが、拡大された値範囲を超えるかまたはエラー応答時間よりも長い間許容される値範囲の外側に存在したときに、はじめてエラー・メッセージが発生される。
【0008】
車両の走行運転中に、場合により、保守状態に等しい走行状態が発生してもよい。この場合、保守状態のエラー検出が行われることがあるであろう。このようなエラー検出の場合においてもなお十分な安全性を確保するために、許容される値範囲は、それほど大きく拡大されてはならない。
【0009】
保守作業に関して車両運転をモニタリングするために、適切なセンサ装置が設けられている。センサ装置は、たいていの車両内に標準的に組み込まれている種々の車両搭載センサのほかに、モニタリングされるシステムに直接結合されているセンサを有していてもよい。本発明の好ましい一実施形態により、保守状態は、車輪回転数センサ、ギヤ位置センサ、またはエンジン回転数センサにより、あるいはこれらのセンサの任意の組み合わせによりモニタリングされる。選択的に、これらより多くのセンサまたは少ないセンサ、あるいは他のセンサが設けられていてもよい。
【0010】
常用ブレーキ装置がモニタリングされる場合、モニタリングされる作動パラメータは、ブレーキ圧力、ブレーキ・ピストン・ストロークおよび/または油圧ポンプのポンプ運転時間であることが好ましい。
【0011】
モニタ・ユニットは、基本的に、1つまたは複数の作動パラメータがそれぞれ所定の値範囲の内側に存在するかまたは外側に存在するか、あるいは複数の作動パラメータの値が相対的に相互に妥当であるかどうかを検査してもよい。即ち、例えば、特定のブレーキ・ピストン・ストロークが特定の圧力上昇を形成し且つそれぞれの値が相対的に相互に妥当であるかどうかがモニタリングされてもよい。
【0012】
本発明の一実施形態により、保守状態が特定されたとき直ちに、許容される値範囲の境界を示す少なくとも1つのしきい値は、値範囲が拡大されるように変化される。選択的にまたはそれに追加して、エラー応答時間が上昇されてもよい。
【0013】
例えば、内燃機関が遮断されているとき、車両が機械的に停車されたとき、および車両速度が0km/hに等しいときのような、予め設定された複数の条件が満たされているとき、保守状態が検出されることが好ましい。この場合、モニタリングされる少なくとも1つの作動パラメータの値範囲が増大されるか、またはモニタリングにおいて少なくとも1つの作動パラメータが無視される。所定の条件の1つが満たされていないかまたはもはや満たされなくなった場合、値範囲が正常状態にリセットされるか、またはパラメータが再びモニタリングされることが好ましい。これらの条件の数およびタイプは、希望に応じて設定されてもよい。
【0014】
以下に、本発明が例として添付図面により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、自動車ブレーキ装置の機能性のモニタ・システムの概略ブロック図を示す。
【図2】図2は、自動車ブレーキ装置の機能モニタリングにおけるいくつかの方法ステップを示すための流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、車両システム、具体的には油圧式の自動車ブレーキ装置3のモニタ・システムの概略ブロック図を示す。図示されているシステムは、例えば、対応のアルゴリズム2を有する制御装置のようなモニタ・ユニット(μC)1を含む。
【0017】
モニタ・ユニット1に複数のセンサ6−9が接続され、センサ6−9により保守状態が検出可能である。図示の実施例において、センサは、自動車における少なくとも駐車位置“P”を検出するギヤ位置センサ6、車輪回転数センサ(n)7、点火スイッチ(Z)8およびエンジン回転数センサ(nmot)9である。センサは全体としてセンサ装置10で表わされている。関連のセンサ信号P−Pはモニタ・ユニット1に伝送される。ギヤ・レバーが位置“P”にあり、車両速度が0km/hに等しく且つ点火がオフであるとき、この場合に保守状態が検出される。これらの条件のうちの1つでも満たされていない限り、正常な走行運転が推測される。保守状態を検出するために、選択的に、これらより多いセンサまたは少ないセンサ、あるいは他のセンサが利用されてもよい。
【0018】
定常走行運転中に自動車ブレーキ装置3の機能性をモニタリングするために、モニタ・ユニット1は、油圧ブレーキ圧力pおよびブレーキ・ピストンのピストン・ストロークSを読み取る(信号SおよびS)。対応する値は、ブレーキ圧力センサ4およびピストン・ストローク・センサ5から提供され、ブレーキ圧力センサ4およびピストン・ストローク・センサ5は同様にモニタ・ユニット1と結合されている。モニタ・ユニット1は、上記の値S、Sがそれぞれの所定の許容される値範囲内に存在するかどうかを検査する。値の1つが所定の値範囲の外側に存在する場合、エラー・メッセージが発生される。車両の保守作業においてエラー・メッセージを回避するために、保守作業の場合、それぞれの所定の値範囲が拡大される。これにより、車両の搭載コンピュータ内における好ましくないエラーの登録またはドライバへの警報メッセージが阻止可能である。
【0019】
図2は、自動車ブレーキ装置3のモニタリングを例示する本質的な方法ステップを示す。この場合、ステップ11において、センサ装置10により、はじめに、車両が保守状態WZ内に存在するかどうかが検査される。問い合わせが肯定(Y)の場合、ステップ12において、モニタリングされる作動パラメータの少なくとも1つに対して値範囲が増大WBされるか、またはモニタリングされる作動パラメータの少なくとも1つに対してエラー応答時間が上昇される。車両が正常な走行状態内に存在する場合(否定N)、ステップ13に示されているように、値範囲に対して基準設定WBが維持される。
【0020】
次に、ステップ14において、ブレーキ装置3の1つまたは複数の作動パラメータのモニタリングが行われる。モニタリングされる作動パラメータは、例えば、ブレーキ圧力、ポンプ運転時間またはピストン・ストロークであってもよい。ステップ14において、同時に、妥当性検査が実行される。モニタリングされる作動パラメータの1つが所定の値範囲の外側に存在する場合(肯定Y)、ステップ15において、ドライバにエラー・メッセージFが出力され且つ車両の搭載コンピュータ内にエラーの登録が行われる。モニタリングされる作動パラメータが所定の値範囲内に存在する場合(否定N)、本方法はスタートに戻される。保守作業の場合における値範囲WBは、正常な走行運転内の値範囲より大きいので、好ましくないエラー・メッセージは一般に回避可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両システム(3)の1つまたは複数の作動パラメータが所定の許容される値範囲の外側に存在するとき、車両システム(3)の機能性をモニタリングするためのモニタ・ユニット(1)から発生される、車両の保守作業に基づくエラー・メッセージの回避方法において、
センサ装置(10)により、車両が保守状態内に存在するかどうかがモニタリングされ、保守状態が特定されたとき、前記許容される値範囲が自動的に増大されるか、または少なくとも1つの作動パラメータ(S、S)のエラー応答時間が上昇されることを特徴とする車両の保守作業に基づくエラー・メッセージの回避方法。
【請求項2】
前記保守状態が、車輪回転数センサ(7)、ギヤ位置センサ(6)、点火スイッチ(8)およびエンジン回転数センサ(9)の少なくともいずれか1つまたは複数により検出されることを特徴とする請求項1に記載の回避方法。
【請求項3】
前記車両システム(3)が自動車ブレーキ装置であり、前記少なくとも1つの作動パラメータ(S、S)が、ブレーキ圧力およびブレーキ・ピストン・ストロークおよび油圧ポンプのポンプ運転時間の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の回避方法。
【請求項4】
前記値範囲の境界を示すしきい値は、前記値範囲が増大されるように変化されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の回避方法。
【請求項5】
請求項1ないし4に記載のいずれかの方法を実行するための手段を含む制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−520353(P2013−520353A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554255(P2012−554255)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050257
【国際公開番号】WO2011/104048
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH