説明

車両の変速装置

【目的】 セミオートマチックの歯車式変速装置であって、変速に際してクラッチの断接を要しない変速装置を提供する。
【構成】 エンジンにクラッチを介して接続されたプライマリシャフトと、プライマリシャフトに平行に配設され且つ出力ギヤが取付けられたセカンダリシャフトと、油圧により駆動される同期噛合装置を有し選択的にプライマリシャフトからセカンダリシャフトにトルクを伝達する複数の変速ギヤ列から成る変速機構と、を備える歯車式の車両の変速装置において、プライマリシャフトに取付けられた電気モータと、シフトアップ時にはプライマリシャフトの回転を制動するように電気モータを作動させ、シフトダウン時にはプライマリシャフトを回転駆動するように電気モータを作動させ、変速後の通常走行時にはオルタネータとして電気モータを作動させる手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両の変速装置に関し、詳細にはエンジンにクラッチを介して接続されたプライマリシャフトと、プライマリシャフトに平行に配設され且つ出力ギヤが取付けられたセカンダリシャフトと、油圧により駆動される同期噛合装置を有し選択的にプライマリシャフトからセカンダリシャフトにトルクを伝達する複数の変速ギヤ列から成る変速機構と、を備える歯車式の車両の変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】エンジンにクラッチを介して接続されたプライマリシャフトと、プライマリシャフトに平行に配設され且つ出力ギヤが取付けられたセカンダリシャフトと、油圧により駆動される同期噛合装置を有し選択的にプライマリシャフトからセカンダリシャフトにトルクを伝達する複数の変速ギヤ列から成る変速機構と、を備えるセミオートマチックの車両の歯車式変速装置が、特開昭62-275850 号公報等に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】係るセミオートマチックの歯車式変速装置では、同期噛合装置の駆動は従来の歯車式変速装置と異なり手動によらず油圧で行われるものの、変速に際しては、従来の歯車式変速装置と同様に、同期噛合装置を作動させてプライマリシャフトとセカンダリシャフトの回転とを同期させる前に、クラッチの接続を解除する必要があった。また、プライマリシャフトとセカンダリシャフトの回転とが同期し変速が完了した後に再びクラッチを接続する必要があった。このように、変速に際してクラッチの断接を要するために、セミオートマチックの歯車式変速装置は、自動変速機に比べて変速操作が複雑であり、且つ変速に時間を要するという問題があった。
【0004】従って、本発明の目的は、セミオートマチックの歯車式変速装置であって、変速に際してクラッチの断接を要しない変速装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明においては、エンジンにクラッチを介して接続されたプライマリシャフトと、プライマリシャフトに平行に配設され且つ出力ギヤが取付けられたセカンダリシャフトと、油圧により駆動される同期噛合装置を有し選択的にプライマリシャフトからセカンダリシャフトにトルクを伝達する複数の変速ギヤ列から成る変速機構と、を備える歯車式の車両の変速装置において、プライマリシャフトに取付けられた電気モータと、シフトアップ時にはプライマリシャフトの回転を制動するように電気モータを作動させ、シフトダウン時にはプライマリシャフトを回転駆動するように電気モータを作動させ、変速後の走行時にはオルタネータとして電気モータを作動させる手段とを備えることを特徴とする変速装置を提供する。
【0006】本発明の好ましい態様においては、前記変速装置は、更に車両のエンジン始動時に、前記電気モータをセルタネータとして作動させる手段を備える。
【0007】
【作用】本発明の上記構成によれば、変速機構の同期噛合装置によらずに電気モータにより、プライマリシャフトの回転が増速、減速されて、プライマリシャフトの回転とセカンダリシャフトとの回転が同期されるので、変速に際してクラッチを断接する必要がない。また、通常走行時には、電気モータにより発電することができる。
【0008】また、電気モータをッチを、エンジン始動時に、セルタネータとして使用することもできる。
【0009】
【実施例】以下添付図に基づいて、本発明の実施例に係る車両の変速装置を説明する。図1において、1は図示しないエンジンの出力軸であり、出力軸1は車体後方(紙面前方)に向けて延びている。出力軸1の後端には小径の傘歯車1aが形成されている。傘歯車1aはクラッチ2の入力部材である大径の傘歯車2aに歯合している。
【0010】本発明の実施例に係る変速装置Aは、図示しないトランスミッションケースに軸受11、11を介して回転自在に支持され且つクラッチ2の出力側部材を介してエンジン出力軸1に接続され、クラッチ2の左右に車体横方向に延びるプライマリシャフト12と、プライマリシャフト12の直下に且つ平行に配設され、トランスミッションケースに軸受13、13を介して回転自在に支持されたセカンダリシャフト14とを有する。
【0011】クラッチ2よりも車体左方に延びるプライマリシャフト12とセカンダリシャフト14との間には、以下に詳述する変速機構A1が形成されている。すなわち、クラッチ2よりも車体左方に延びるプライマリシャフト12とセカンダリシャフト14との間には、プライマリシャフト12上にプライマリシャフト12と一体回転するように取付けられたプライマリギヤ15、16、17、18と、セカンダリシャフト14上にセカンダリシャフト14に対して回転可能に遊嵌合され、プライマリギヤ15、16、17、18に各々常時噛合したセカンダリギヤ19、20、21、22とから成る1速用、2速用、3速用、4速用のギヤ装置23、24、25、26とが設けられている。セカンダリシャフト14に遊嵌合されたセカンダリギヤ19、20の間、及び21、22の間には、これらのうちの一つをセカンダリシャフト14に選択的に結合する1−2速用、3−4速用の同期噛合装置27、28が設けられている。
【0012】同期噛合装置27、28は、1速用〜4速用のソレノイドバルブ29、30、31、32を介して供給される油圧によって制御される。同期噛合装置27は1速用ソレノイドバルブ29の作動時にセカンダリギヤ19を選択的にセカンダリシャフト14に結合すると共にセカンダリギヤ20とセカンダリシャフト14との結合を解除し、また2速用ソレノイドバルブ30の作動時にセカンダリギヤ20を選択的にセカンダリシャフト14に結合すると共にセカンダリギヤ19とセカンダリシャフト14との結合を解除する。ソレノイドバルブ29、30が共に作動状態にない時には、同期噛合装置27はセカンダリギヤ19、20とセカンダリシャフト14との結合を共に解除する。同期噛合装置28は3速用ソレノイドバルブ31の作動時にセカンダリギヤ21を選択的にセカンダリシャフト14に結合すると共にセカンダリギヤ22とセカンダリシャフト14との結合を解除し、また2速用ソレノイドバルブ32の作動時にセカンダリギヤ22を選択的にセカンダリシャフト14に結合すると共にセカンダリギヤ21とセカンダリシャフト14との結合を解除する。ソレノイドバルブ31、32が共に作動状態にない時には、同期噛合装置28はセカンダリギヤ21、22とセカンダリシャフト14との結合を共に解除する。これにより、1速〜4速の変速がなされる。同期噛合装置27、28は、セカンダリギヤ14上にスプライン嵌合されたクラッチハブと、セカンダリギヤに固設されたギヤスプラインと、クラッチハブの外周囲にスプライン嵌合されたクラッチハブスリーブと、クラッチハブスリーブとギヤスプラインとの間に介在されたシンクロナイザリングとから構成された公知構造のものであり、クラッチハブスリーブが上記変速用ソレノイドバルブを介して供給される油圧で作動させられるようになっている。よって、同期噛合装置27、28の構造、作動の詳細な説明は省略する。
【0013】クラッチ2よりも車体右方に延びるプライマリシャフト12の端部は、電気モータ40の出力軸に連結されている。変速装置Aの出力は、セカンダリシャフト14に固定された出力ギヤ50、出力ギヤ50に歯合する図示しないフロントデフの入力ギヤ60を介して、図示しない前車軸に伝達される。
【0014】変速装置Aは図2に示す変速用のコントロールユニットTMCUによって制御される。コントロールユニットTMCUは、基本的にCPUとROMとRAMと入出力インターフェースとから構成される。コントロールユニットTMCUには、図示しないエシジン回転数センサからのエンジン回転数信号、変速装置Aのセカンダリシャフト14に取付けられた車速センサ70からの車速信号、および図示しない変速スイッチからの1速〜4速の各変速信号、及び図示しないイグニッショスイッチからのイグニション信号が入力される。コントロールユニットTMCUからは、電気モータ40及び1速〜4速用の変速ソレノイドバルブ29〜32に制御信号が出力される。
【0015】上述のごとくに構成された本実施例に係る変速装置Aによる変速制御の例を以下に説明する。なお、本実施例に係る変速装置Aにあっては、変速は運転者がハンドルに取付けられた図示しない変速スイッチの中の所望の変速ボタンを押すことにより行われる。以下の説明において、P、Qは、制御のステップを示す。
■制御例1図3のフローチャートに基づいて説明する。本例は、エンジン始動時のセルタネータとして、電気モータ40を使用するものである。
【0016】イグニションキーがスロットル内で回動させられて、イグニション信号が出力されることにより、制御が開始される。先ず、変速ソレノイド29〜32をOFF状態にして、セカンダリギヤ19〜22とセカンダリシャフト14との結合を解除し変速装置Aをニュートラル状態にする(P1)。次いで、電気モータ40を駆動し、プライマリシャフト12、クラッチ2、エンジンの出力軸1を介してエンジンを回転駆動し(P2)、これにより、エンジンを始動させる。
■制御例2図4のフローチャートに基づいて説明する。本例は、電気モータ40を用いて、変速の際にプライマリシャフト12の回転数を制御し、プライマリシャフト12の回転とセカンダリシャフト14の回転を同期させ、もって、クラッチ2の断接を行うことなく、変速を行うものである。
【0017】エンジンの始動と共に制御が開始される。先ず変速信号が読み込まれ、RAMに格納されていた前回の制御ループでの変速信号が読み出され、運転者が変速を指示しているか否かが判断される(Q1〜Q3)。運転者が変速を指示している場合には、変速ソレノイド29〜32の作動を停止させる。これにより、セカンダリギヤ19〜22とセカンダリシャフト14との結合が解除され変速装置Aはニュートラル状態になる(Q4)。
【0018】次に運転者の指示がシフトダウンであるかシフトアップであるかが判断される(Q5)。運転者の指示がシフトダウンであれば、電気モータ40を作動させて、プライマリシャフト12を回転駆動する(Q6)。これにより、プライマリシャフト12の回転は強制的に増速される。このプライマリシャフト12の回転の増速中ににエンジン回転数信号が読み込まれてプライマリシャフト12の回転数Npが算出され(Q7)、車速信号が読み込まれてセカンダリシャフト14の回転数Nsが算出され(Q8)、NsとNpの比(Ns/Np)が運転者が指示した変速段のギヤ比Knまで低下した時点で、運転者が指示した変速段用のソレノイドバルブを作動させて、変速機構A1の対応する変速ギヤ装置を作動させる(Q9、Q10)。これにより所望の変速段へのシフトダウンが完了する。電気モータのモータとしての役目は最早終了したので、電気モータ40の入力端子を図示しない蓄電池の入力端子に接続し、以降モータ40をオルタネータとして使用する(Q11)。
【0019】運転者の指示がシフトアップであれば、電気モータ40を逆転させ、あるいは電気モータ40の入力端子を図示しない蓄電池の入力端子に接続し、オルタネータとして作動させて、プライマリシャフト12の回転を制動する(Q12)。これにより、プライマリシャフト12の回転は強制的に減速される。このプライマリシャフト12の回転の減速中ににエンジン回転数信号が読み込まれてプライマリシャフト12の回転数Npが算出され(Q7)、車速信号が読み込まれてセカンダリシャフト14の回転数Nsが算出され(Q8)、NsとNpの比(Ns/Np)が運転者が指示した変速段のギヤ比Knまで増加した時点で、運転者が指示した変速段用のソレノイドバルブを作動させて、変速機構A1の対応する変速ギヤ装置を作動させる(Q9、Q10)。これにより所望の変速段へのシフトアップが完了する。電気モータ40は以降オルタネータとして使用する(Q11)。
【0020】
【効果】上述のごとく、本発明によれば、変速機構の同期噛合装置によらずに電気モータにより、プライマリシャフトの回転が増速、減速されて、プライマリシャフトの回転とセカンダリシャフトとの回転が同期されるので、変速に際してクラッチを断接する必要がない。
【0021】従って、本発明により、セミオートマチックの歯車式変速装置であって、変速に際してクラッチの断接を要しない変速装置か提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る車両の変速装置の側面図である。
【図2】図1の変速装置のコントロールユニットの入出力信号を示す図である。
【図3】図1の実施例に係る車両の変速装置により、エンジンを始動させる制御の例を示すフローチャートである。
【図4】図1の実施例に係る車両の変速装置による変速制御の例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
A 変速装置
A1 変速機構
12 プライマリシャフト
14 セカンダリシャフト
23 1速用ギヤ装置
24 2速用ギヤ装置
25 3速用ギヤ装置
26 4速用ギヤ装置
40 電気モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンにクラッチを介して接続されたプライマリシャフトと、プライマリシャフトに平行に配設され且つ出力ギヤが取付けられたセカンダリシャフトと、油圧により駆動される同期噛合装置を有し選択的にプライマリシャフトからセカンダリシャフトにトルクを伝達する複数の変速ギヤ列から成る変速機構と、を備える歯車式の車両の変速装置において、プライマリシャフトに取付けられた電気モータと、シフトアップ時にはプライマリシャフトの回転を制動するように電気モータを作動させ、シフトダウン時にはプライマリシャフトを回転駆動するように電気モータを作動させ、変速後の通常走行時にはオルタネータとして電気モータを作動させる手段とを備えることを特徴とする変速装置。
【請求項2】 車両のエンジン始動時に、前記電気モータをセルタネータとして作動させる手段を備えることを特徴とする、請求項1に記載の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−44832
【公開日】平成5年(1993)2月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−154584
【出願日】平成3年(1991)6月26日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)