説明

車両の氷路走行試験路及びその造成方法

【課題】長期間安定して氷路走行試験を行い得る。
【解決手段】自然土壌又はアスファルトからなる地盤2と、この地盤2の外側に形成されかつ砂利Jを主体的に含む第1の氷層3と、該第1の氷層3の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層4とを含む車両の氷路走行試験路Rである。このような試験路Rは、前記第1の氷層3は、地盤1の外側に砂利Jを配設する配設工程と、前記配設された砂利Jの外側に雪Yを載置する載置工程と、前記載置された雪Yに散水する第1散水工程と、散水された雪Yaを冷凍する第1冷凍工程とによって造成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間安定して氷路走行試験を行い得る車両の氷路走行試験路及びその造成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示されるように、自然土壌又はアスファルトからなる地盤jの外側に、走行面rを形成する氷層cを設けた車両の氷路走行試験路が知られている。
【0003】
しかしながら、上述のような車両の氷路走行試験路では、気温上昇時に、地盤jから水が浮き上がり、氷層cが溶解して、走行面rが不均一となるため、氷路走行試験を安定して行うことができないという問題があった。関連する技術としては、下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−158022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、自然土壌又はアスファルトからなる地盤と、この地盤の外側に形成されかつ砂利を主体的に含む第1の氷層と、該第1の氷層の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層とを含むことを基本として、長期間安定して氷路走行試験を行い得る車両の氷路走行試験路を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、自然土壌又はアスファルトからなる地盤と、この地盤の外側に形成されかつ砂利を主体的に含む第1の氷層と、該第1の氷層の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層とを含む車両の氷路走行試験路であることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記第1の氷層は、厚さが65〜75cm、かつ、粒径が6〜10cmの大砂利と粒径が2cm以上6cm未満の小砂利とを含み、前記大砂利の数N1と、前記小砂利の数N2との比N2/N1が、1/4〜1/2である請求項1記載の車両の氷路走行試験路である。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記第2の氷層は、第1層の外側に配される下層と、該下層の外側に配されかつ走行面を形成する上層とを含み、前記上層の厚さは5cm以上で、かつ体積が10cm以上の空気層が形成されず、前記下層の厚さは4〜6cmであり、かつ雪と水との混合物を冷凍して形成されている請求項1又は2記載の車両の氷路走行試験路である。
【0009】
また請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載された車両の氷路走行試験路の造成方法であって、前記第1の氷層は、地盤の外側に砂利を配設する配設工程と、前記配設された砂利の外側に雪を載置する第1載置工程と、前記載置された雪に散水する第1散水工程と、散水された雪を冷凍する第1冷凍工程とによって造成されることを特徴とする車両の氷路走行試験路の造成方法である。
【0010】
また請求項5記載の発明は、前記下層は、第1の氷層の外側に雪を載置する第2載置工程と、前記雪を圧雪する圧雪工程と、前記圧設された雪に散水する第2散水工程と、散水された雪を冷凍する第2冷凍工程によって造成される請求項4記載の車両の氷路走行試験路の造成方法である。
【0011】
また請求項6記載の発明は、前記上層は、前記下層の外側に散水する第3散水工程と、前記散水した水を冷凍する第3冷凍工程とを交互に繰り返すことによって造成され、前記第3散水工程は、外気温が−9〜−5℃のとき、平均散水量が0.5〜1.0mmで散水され、又は、外気温が−9℃未満かつ−12℃以上のとき、平均散水量が1.0mmを超えかつ2.0mm以下で散水される請求項4又は5記載の車両の氷路走行試験路の造成方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両の氷路走行試験路では、自然土壌又はアスファルトからなる地盤と、この地盤の外側に形成されかつ砂利を主体的に含む第1の氷層と、該第1の氷層の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層とを含む。このように、第1の氷層が、地盤からの水の浮き上がりを抑制し、第2の氷層が溶解するのを防止する。また、気温上昇によって溶解した第1の氷層には、砂利と砂利との間に隙間が形成される。このため、第2の氷層が幾分溶解して水となっても、該第2の氷層の外側(走行面)にその水が滞留することなく、前記隙間に流れ込む。従って、本発明の車両の氷路走行試験路では、長期間、第2の氷層の走行面が悪化することなく、安定して精度の良い氷路走行試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の試験路が使用された走行試験路の平面図である。
【図2】図1のX−X部の断面図である。
【図3】(a)乃至(c)は、第1の氷層の造成方法を示す断面図である。
【図4】(a)乃至(c)は、下層の造成方法を示す断面図である。
【図5】(a)及び(b)は、上層の造成方法を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す試験路の断面図である。
【図7】従来の試験路の構造を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1に示されるように、本実施形態の車両の氷路走行試験路(以下、単に「試験路」ということがある。)Rは、例えば、車両やタイヤについて、氷層による走行面Vを有し、操縦安定性能や直進安定性能などを試験するために好適に利用される。なお、本発明の試験路Rは、図1に示されるようなオーバルコースに限定されるものではなく、種々のコース形状で採用できる。
【0015】
本実施形態の試験路Rは、図2に示されるように、自然土壌又はアスファルトからなる地盤2と、この地盤2の外側に形成されかつ砂利Jを主体的に含む第1の氷層3と、該第1の氷層3の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層4とを含む。このように、砂利Jを主体的に含む第1の氷層3(即ち、砂利と氷)が、氷を主体的に含む第2の氷層4の内側に設けられるため、地盤2から第2の氷層4への水の浮き上がりを抑制する。
【0016】
また、気温上昇によって溶解した第1の氷層3には、砂利J、J間に隙間Sが形成される。このため、第2の氷層4が幾分溶解して水となっても、該第2の氷層4の外側(走行面V)にその水が滞留することなく、前記隙間Sに流れ込む。従って、本発明の試験路Rでは、長期間、第2の氷層4の走行面Vが悪化することなく、安定して精度の良い氷路走行試験を長期間行うことができる。
【0017】
また、前記地盤2は、隙間Sに流れ込んだ水を排出するため、浸透性を有するのが望ましい。これにより、さらに第2の氷層4の走行面Vに水が滞留することを抑制し、安定した氷路走行試験を行うことができる。
【0018】
前記第1の氷層3は、粒径が2cm以上の砂利Jの体積が、第1の氷層3の全体積の65%よりも大で形成される。このように砂利Jを主体的に含む第1の氷層3は、試験路としての強度と、砂利J、J間の隙間Sとをバランス良く確保して、長期間安定して氷路走行試験を行い得る。
【0019】
また、本実施形態の第1の氷層3の砂利Jは、粒径が6〜10cmの大砂利J1と粒径が2cm以上6cm未満の小砂利J2とを含んで構成される。このような大砂利J1と小砂利J2との間に形成される隙間S1は、地盤2から第2の氷層4への水の浮き上がりを抑制する他、溶解した第1の氷層3や第2の氷層4の水を隙間S1に効果的に流し込むのに役立つ。また、このような作用をさらに効果的に発揮させるため、大砂利J1の数N1と、小砂利J2の数N2との比N2/N1が、1/4〜1/2であるのが望ましい。
【0020】
なお、第1の氷層3には、他の粒径の砂利を含んでも構わないが、上記作用をより効果的に発揮させるため、大砂利の合計体積V1は、好ましくは第1の氷層3の体積Vの50%以上、より好ましくは55%以上が望ましく、また好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下が望ましい。
【0021】
また、第1の氷層3の厚さt1は、65〜75cmであるのが望ましい。これにより、効率よく、第1の氷層3の氷を、該第1の氷層3の最内側まで確保することでき、地盤2からの水の浸透を確実に抑制することができる。なお、前記厚さt1が65cmよりも小さくなると、第1の氷層3の氷蓄熱効果が発揮されず、地盤2からの水が、早期に第2の氷層4を溶解し、氷路走行試験を長期間行うことができないおそれがある。
【0022】
前記第2の氷層4は、第2の氷層4の全体積の98%以上が水や雪からなる氷で形成される。このように氷を主体的に含む第2の氷層4は、操縦安定性能や直進安定性等の氷路走行試験を安定して行うのに役立つ。
【0023】
また、第2の氷層4は、第1の氷層3の外側に配される下層5と、該下層5の外側に配されかつ走行面Vを形成する上層6とを含んで形成される。
【0024】
前記下層5は、雪と水の混合物を冷凍して形成されるのが望ましい。これにより、短時間で下層5を造成することができる。
【0025】
また、下層5の厚さt2は、上述の造成時間の短縮化と、試験路Rの強度とをバランス良く確保するため、4〜6cmで形成されるのが望ましい。
【0026】
前記上層6の厚さt3は、5cm以上で形成されるのが望ましい。これにより、車両の荷重に対し、十分な強度が確保され、精度良く氷路走行試験をするのに役立つ。なお、前記厚さt3が15cmを超えると、試験路Rの造成に時間が掛かり過ぎ、氷路走行試験を十分に出来なくなるおそれがある。このため、前記厚さt3は、好ましくは13cm以下、より好ましくは10cm以下が望ましい。
【0027】
また、上層6は、その内部に、体積が10cm以上の空気層が形成されないのが望ましい。即ち、このような空気層が形成された上層6は、強度が低下して車両の荷重等によって容易に割れや欠けが発生し、走行面Vが悪化し、氷路走行試験を精度良く行うことができない。このため、上層6は、より望ましくは5cm以上、さらに好ましくは1cm以上の空気層が形成されないのが望ましい。
【0028】
次に、このような試験路Rの造成方法が説明される。
【0029】
本実施形態の試験路Rの造成方法では、先ず試験路Rを造成する部分を所定の深さに掘削する掘削工程が、周知の建設機械を用いて行われる。そして、この掘削された箇所の底を形成する自然土壌、又は、この自然土壌の外側にアスファルトを敷設して地盤2が形成される。
【0030】
次に、前記地盤2の外側に第1の氷層3が造成される。本実施形態では、第1の氷層3は、図3(a)に示されるように、地盤2の外側に砂利Jを配設する配設工程と、前記配設された砂利Jの外側に雪Y1を載置する第1載置工程と、前記載置された雪Y1に散水する第1散水工程と、図3(c)に示されるように、散水された水及び雪Y1aを冷凍して氷K1を形成する第1冷凍工程とによって造成される。
【0031】
試験路Rの強度を確保するために、前記配設工程の後、砂利Jを締め固める転圧作業を行うのが望ましい。
【0032】
第1載置工程(後述される第2載置工程を含む)は、好ましくは、降雪を利用して行われるのが望ましい。このような雪は、前記砂利J、J間の隙間Sに浸入し易く、第1の氷層3全体に均等に氷K1を配設するのに役立つ。なお、気象条件によっては、人工降雪機を利用して第1の載置工程が行われても良い。
【0033】
また、図3(a)に示されるように、第1散水工程では、例えば、試験路Rの上部に均等に配されたシャワーヘッドH等を用いて、雪Y1に散布される水分量を均一となるように散水するのが望ましい。
【0034】
そして、第1散水工程が行われると、散水された雪Y1aは、例えば、図3(b)に示されるように、流動化して砂利J、J間の隙間S流れ込む。これにより、第1の氷層3全体に均等に水分を行き亘らせ、ひいてはこの第1の氷層3に、万遍なく氷K1が形成される。
【0035】
前記第1冷凍工程(後述の第2冷凍工程及び第3冷凍工程を含む)は、寒冷地での氷点下の外気温を利用して、自然冷凍を行わせるのが望ましい。
【0036】
また、第1載置工程乃至第1冷凍工程が1乃至複数回行われることによって、図3(c)に示されるように、第1の氷層3全体に氷K1が形成されるのが望ましい。このように、第1の氷層3の実質的全体に氷K1が形成されると、上述の通り、地盤2からの第2の氷層4への水の浮き上がりを効果的に抑制することができる。
【0037】
次に、第1の氷層3の外側に第2の氷層4が造成される。本実施形態では、第2の氷層4は、第1層の氷層3の外側に先ず下層5を形成し、その後、該下層5の外側に上層6が形成される。
【0038】
前記下層5は、図4(a)に示されるように、第1の氷層3の外側に雪Y2を載置する第2載置工程と、前記雪Y2を圧雪する圧雪工程と、図4(b)に示されるように、前記圧設された雪Y2の外側に散水する第2散水工程と、図4(c)に示されるように、散水された雪Y2aを冷凍して氷K2を形成する第2冷凍工程によって造成される。
【0039】
また、図5(a)に示されるように、前記上層6は、前記下層5の外側に散水して水Pを張る第3散水工程と、図5(b)に示されるように、前記散水した水Pを冷凍して氷K3を成形する第3冷凍工程とを交互に繰り返すことによって造成される。
【0040】
前記第3散水工程では、外気温が−9〜−5℃のとき、平均散水量が0.5〜1.0mmで散水される。また、外気温が−9℃未満かつ−12℃以上のとき、平均散水量が1.0mmを超えかつ2.0mm以下で散水される。このように、外気温によって散水量を制御することにより、水の中に溶け込む空気の量を抑制させて、第3冷凍工程後の上層6を構成する氷に空気層を設けることなく、上層6を強固に造成するのに役立つ。
【0041】
以上、本発明の車両の氷路走行試験路及びその造成方法について詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。例えば、図6に示されるように、試験路Rが、その幅方向に傾斜する態様でも構わない。このような試験路Rは、傾斜の低い方に溶解した水が流れるため、走行面Vを均一な状態に保ち易く、さらに安定した氷路走行試験を行うことができる。なお、傾斜の水平面に対する角度θは、1〜6%が望ましい。
【実施例】
【0042】
図2に示される基本構成及び表1の仕様を有する試験路が上記方法に基づき造成され、精度良く氷路での車両の操縦安定性能に関するテストが可能であるか否かがテストドライバーによって確認され、テスト可能な日数(維持日数)が示された。なお、共通仕様は以下の通りである。
地盤:アスファルト
試験路の幅W(図1に示す):8m
第3散水工程における気温:−7℃
第3散水工程の散水量:0.8mm
【0043】
【表1】

【0044】
テストの結果、実施例の試験路は、比較例の試験路に比べて、維持日数が長く、長期間安定した氷路の走行試験を行うことができることが確認できる。なお、散水時の気温が−9℃未満かつ−12℃以上のときに、1.0mmを超えかつ2.0mm以下の散水量で散水させても同じ結果が得られた。また、地盤を自然土壌としても同じ結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0045】
2 地盤
3 第1の氷層
4 第2の氷層
5 下層
J 砂利
R 試験路
Y 雪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然土壌又はアスファルトからなる地盤と、この地盤の外側に形成されかつ砂利を主体的に含む第1の氷層と、該第1の氷層の外側に設けられかつ氷を主体的に含む第2の氷層とを含むことを特徴とする車両の氷路走行試験路。
【請求項2】
前記第1の氷層は、厚さが65〜75cm、かつ、粒径が6〜10cmの大砂利と粒径が2cm以上6cm未満の小砂利とを含み、前記大砂利の数N1と、前記小砂利の数N2との比N2/N1が、1/4〜1/2である請求項1記載の車両の氷路走行試験路。
【請求項3】
前記第2の氷層は、第1層の外側に配される下層と、該下層の外側に配されかつ走行面を形成する上層とを含み、
前記上層の厚さは5cm以上で、かつ体積が10cm以上の空気層が形成されず、
前記下層の厚さは4〜6cmであり、かつ雪と水との混合物を冷凍して形成されている請求項1又は2記載の車両の氷路走行試験路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された車両の氷路走行試験路の造成方法であって、
前記第1の氷層は、地盤の外側に砂利を配設する配設工程と、前記配設された砂利の外側に雪を載置する第1載置工程と、前記載置された雪に散水する第1散水工程と、散水された雪を冷凍する第1冷凍工程とによって造成されることを特徴とする車両の氷路走行試験路の造成方法。
【請求項5】
前記下層は、第1の氷層の外側に雪を載置する第2載置工程と、前記雪を圧雪する圧雪工程と、前記圧設された雪に散水する第2散水工程と、散水された雪を冷凍する第2冷凍工程によって造成される請求項4記載の車両の氷路走行試験路の造成方法。
【請求項6】
前記上層は、前記下層の外側に散水する第3散水工程と、前記散水した水を冷凍する第3冷凍工程とを交互に繰り返すことによって造成され、
前記第3散水工程は、外気温が−9〜−5℃のとき、平均散水量が0.5〜1.0mmで散水され、又は、外気温が−9℃未満かつ−12℃以上のとき、平均散水量が1.0mmを超えかつ2.0mm以下で散水される請求項4又は5記載の車両の氷路走行試験路の造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91968(P2013−91968A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234191(P2011−234191)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)