説明

車両の空気抵抗低減構造

【課題】上方が開口する荷台を有する車両において、荷台後部の構造の複雑化を伴うことなく、車両走行時の空気抵抗の低減を図ることが可能な車両の空気抵抗低減構造の提供を目的とする。
【解決手段】ピックアップ1は、キャブ2と荷台3と整流板10とを備える。キャブ2はピックアップ1の前部に配置され、車幅方向に沿って立設されるキャブ背面8によって後端が区画される。荷台3は、キャブ2の下部後方でキャブ背面8の上端9よりも下方に配置され、床13と床13の車幅方向両側で車両前後方向に沿って相対向して起立する一対の側壁14と床13の後端側で車幅方向に沿って起立するテールゲート15とを有する。整流板10は、テールゲート15の上端16よりも上方でキャブ背面8から車両後方に向かって延びる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上方が開口する荷台を有する車両の空気抵抗低減構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピックアップトラック等の上方が開口する荷台を有する車両においては、キャブの上方等から荷台内に流れ込む空気流が車両走行中に生じる。この空気流が荷台後部のテールゲートに衝突すると車両の空気抵抗が増大する。
【0003】
かかる不都合を解消するために、平板状の変向板の基端部をテールゲートの上端側に連結し、変向板を前方に向かって傾斜して配設することで空気流を変向して車両走行時の空気抵抗を低減する車両の空気抵抗低減構造が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−264262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記車両の空気抵抗低減構造では、変向板がテールゲートに連結されるため荷台後部の構造が複雑化してしまい、テールゲートの開閉作業や荷物の積卸作業が煩雑となる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、上方が開口する荷台を有する車両において、荷台後部の構造の複雑化を伴うことなく、車両走行時の空気抵抗の低減を図ることができる車両の空気抵抗低減構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明にかかる車両の空気抵抗低減構造はキャブと荷台と整流板とを備える。
【0008】
キャブは車両の前部に配置され、車幅方向に沿って立設されるキャブ背面によって後端が区画される。荷台は、キャブの下部後方でキャブ背面の上端よりも下方に配置され、床と床の車幅方向両側で車両前後方向に沿って相対向して起立する一対の側壁と床の後端側で車幅方向に沿って起立するテールゲートとを有する。整流板は、テールゲートの上端よりも上方でキャブ背面から車両後方に向かって延びる。
【0009】
上記構成によれば、整流板が、テールゲートの上端よりも上方でキャブ背面から車両後方に向かって延びている。これにより、車両走行時において、キャブ背面の後方且つ整流板の上方に第1の渦が循環する領域が形成されると共に、第1の渦とキャブの上方からの空気流との速度差によってこの空気流と第1の渦との間に第2の渦が発生する。この第2の渦がキャブの上方から車両後方に向かう空気流に沿って移動することでエアカーテンが形成され、キャブの上方からの空気流の荷台内への進入が抑制される。従って、整流板をキャブ背面に設けるという簡単な構造によってテールゲートに衝突する空気流を減少させて、車両走行時の空気抵抗の低減を図ることができる。
【0010】
また、整流板の後端は、キャブ背面の上端とテールゲートの上端とを結ぶ傾斜直線上又は傾斜直線よりも上方に設定してもよい。
【0011】
上記構成によれば、傾斜直線と、キャブ背面との間には整流板が存在する。このため、第1の渦が循環する領域は傾斜直線上に形成され、第1の渦よりも上方に発生する第2の渦は、傾斜直線上又は傾斜直線よりも上方を移動して、傾斜直線上又は傾斜直線よりも上方にエアカーテンを形成する。これにより、キャブの上方からの空気流を、傾斜直線に沿ってテールゲートの上端よりも上方に円滑に流通させることができるため、キャブの上方からの空気流の荷台内への進入をより確実に抑制できる。従って、車両走行時の空気抵抗をより低減することができる。
【0012】
また、キャブ背面の上端と整流板との上下方向の距離は、キャブ背面の上端からテールゲートの上端までの上下方向の距離の10%以下又はキャブ背面からテールゲートまでの車両前後方向の距離の3%以下の何れかの条件を満たすように設定してもよい。
【0013】
上記構成によれば、エアカーテンを形成する第2の渦の大きさが小さくなる。これにより、キャブの上方からの空気流が整流板に近い位置を流通するため、キャブの上方からの空気流と荷台との間の空間、すなわち、キャブの上方からの空気流の剥離領域を小さくすることができ、車両走行時の空気抵抗をより低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
荷台後部の構造の複雑化を伴うことなく、車両走行時の空気抵抗の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は第1の実施形態におけるピックアップトラックの側面図、図2は車両走行時の空気流を示す図である。図3はキャブ背面と荷台の上端と整流板とを示す模式図、図4は整流板の前後方向の長さと取付位置を変更して空気抵抗を測定した比較実験の結果を示す図、図5は図4の比較実験の結果を示すグラフである。なお、以下の説明において、前後方向は車両の進行方向前後を示し、内外方向は車幅方向の内外を示す。
【0016】
図1に示すように、ピックアップトラック(車両)1は、キャブ2とキャブ2の下部後方に設けられて上方が開口する荷台3とを備えている。
【0017】
キャブ2は、キャブ前面4と左右一対のキャブ側面5とキャブ上面6とキャブ底面7とキャブ背面8等から構成され、キャブ背面8には後述する整流板10が設けられている。
【0018】
キャブ前面4は、ピックアップトラック1の前端側で車幅方向に沿って起立してキャブ2の前端を区画する。キャブ側面5は、キャブ前面4の車幅方向両端から前後方向に沿って延びている。キャブ上面6は、キャブ前面4の上端から後方に延びて各キャブ側面5の上端と接続し、キャブ底面7は、キャブ前面4の下端から後方に延びて各キャブ側面5の下端と接続している。キャブ背面8は、キャブ上面6の後端から下方に略垂直に延びてキャブ側面5及びキャブ底面7の後端に接続している。
【0019】
荷台3は、床13と左右一対の側壁14とテールゲート15等から構成され、キャブ2の下部後方でキャブ背面8の上端9よりも下方に配置されている。
【0020】
床13は、キャブ背面8の下部から後方に延びている。一対の側壁14は、キャブ背面8の車幅方向両側下部から前後方向に沿って立設され、床13の車幅方向両側に接続している。
【0021】
テールゲート15は、荷台3の後端側で車幅方向に沿って起立して荷台3の後端を区画している。また、テールゲート15の車幅方向の長さは、キャブ背面8の車幅方向の長さとほぼ同じ長さに設定されている。なお、特に図示していないが、テールゲート15は、下端が床13の後端に回転自在に連結されて、起立した閉止位置と床13の後端から後方へ略水平に延びる開放位置との間を開閉移動する。
【0022】
整流板10は略平板形状であり、荷台3の上方に配置されている。整流板10は、前端11が溶接等によりキャブ背面8に接合され、後端12が後方に向かって延びている。整流板10の車幅方向の長さは、キャブ背面8の車幅方向と同じ長さに設定されている。また、図1及び図2に示すように、整流板10の後端12の上角部は、キャブ背面8の上端9とテールゲート15の上端16とを結ぶ傾斜直線22上に配置され、キャブ背面8の上端9と整流板10との上下方向の距離Y1は、キャブ背面8からテールゲート15の後端までの前後方向の距離Xの3%以下に設定されている。なお、本発明において、傾斜直線22上には、実質的に傾斜直線22上とみなすことが可能な傾斜直線22の近傍も含まれる。
【0023】
本実施形態によれば、車両走行時においてキャブ背面8の後方且つ整流板10の上方に第1の渦17が循環する領域20が形成される。第1の渦17が発生すると、キャブ2の上方からの空気流18と第1の渦17との速度差によって、第1の渦17と空気流18との間に第1の渦17よりも小さな第2の渦19が発生する。この第2の渦19がキャブ2の上方から車両後方に向かう空気流18に沿って移動することでエアカーテンが形成され、空気流18の荷台3内への進入が抑制される。従って、整流板10をキャブ背面8に設けるという簡単な構造によって、テールゲート15に衝突する空気流18を減少させて車両走行時の空気抵抗の低減を図ることができる。
【0024】
また、整流板10の後端12を傾斜直線22上に設定しているため、第1の渦17が循環する領域20が傾斜直線22上に形成されて、第1の渦17よりも上方に発生する第2の渦19が傾斜直線22上を移動する。これにより、傾斜直線22上又は傾斜直線22よりも上方にエアカーテンが形成され、キャブ2の上方からの空気流18が、傾斜直線22に沿ってテールゲート15の上端16よりも上方に円滑に流通する(図1参照)。従って、キャブ2の上方からの空気流18の荷台3内への進入をより確実に抑制することができ、車両走行時の空気抵抗をより低減することができる。
【0025】
また、キャブ背面8の上端9と整流板10との上下方向の距離Y1を、キャブ背面8からテールゲート15の後端までの前後方向の距離Xの3%以下に設定しているため、エアカーテンを形成する第2の渦19の大きさが小さくなる。これにより、キャブ2の上方からの空気流18が整流板10に近い位置を流通するため、キャブ2の上方からの空気流18と荷台3との間の空間、すなわち、空気流18の剥離領域21を小さくすることができ、車両走行時の空気抵抗をより低減することができる。
【0026】
ここで、図3に示すように、キャブ背面8からテールゲート15の後端までの前後方向の距離Xが74a(74×a、aは任意の正の定数)mm、キャブ背面8の上端9からテールゲート15の上端16までの上下方向の距離Yが21ammのキャブ2及び荷台3を想定し、整流板10の前後方向の長さX1及びキャブ背面8の上端9と整流板10との上下方向の距離Y1を変更して空気抵抗を測定した比較実験の結果を図4及び図5に示す。
【0027】
図4は、Y1を2amm,4amm,6ammに設定すると共に、それぞれの位置でX1を8amm,14amm,21amm,28ammに設定して計測したピックアップトラック1のCd値(空気抗力係数)の平均値(Cd_ave)と、整流板10を設けていない状態(Base)との比較におけるCd値のおおよその低減効果とを示している。なお、図4中の効果が正の値の場合には、整流板10を設けていない状態に比べてピックアップトラック1の空気抵抗が増大したことを示し、負の値の場合にはピックアップトラック1の空気抵抗が低減したことを示している。例えば、試験No.1の場合、整流板10を設けていない状態と比べてCd値が約−1%低減したことを示している。
【0028】
なお、X1が8ammでY1が2ammの場合(試験No.1)、X1が14ammでY1が4ammの場合(試験No.6)、X1が21ammでY1が6ammの場合(試験No.11)に、整流板10の後端12が傾斜直線22上に設定される。また、2aはXの3%以下且つYの約10%以下の値、4aはXの約5%且つYの約19%の値、6aはXの約8%且つYの約29%の値である。
【0029】
また、図5は、図4に基づいてY1とCd値の低減効果との関係をX1の各長さ(8amm,14amm,21amm,28amm)毎に表したグラフである。
【0030】
図4及び図5に示すように、整流板10の後端12が傾斜直線22よりも下方に設定される試験No.5、試験No.9及び試験No.10はいずれも効果が正の値である。すなわち、整流板10の後端12を傾斜直線22よりも下方に設定した場合には、空気流18の荷台3内への進入を抑制できず、空気流18がテールゲート15に衝突してしまい、整流板10によるCd値の低減効果を得ることができないことがわかる。
【0031】
また、Y1を2ammに設定した試験No.1〜4(整流板10の後端12が傾斜直線22上に設定される試験No.1と、整流板10の後端12が傾斜直線22よりも上方に設定される試験No.2〜4)ではいずれの場合も効果が負の値、すなわち、ピックアップトラック1の空気抵抗が低減している。これに対して、Y1を4amm及び6ammに設定した場合には、試験No.1〜4と同様に整流板10の後端12が傾斜直線22上又は傾斜直線22よりも上方に設定される試験No.6〜8、及び試験No.11,12において、Y1が2ammの場合よりもCd値の低減効果が悪く、また、Y1の値が大きい程Cd値の低減効果が悪いことがわかる。例えば、X1が21ammである場合(試験No.3,7,11)において、Y1が2ammの場合には効果が−2%であるのに対し、Y1が4amm,6ammと大きくなるにつれて、効果が1%,5.8%と悪くなっている。
【0032】
上記結果から、Y1が2ammの場合、すなわち、Y1がXの3%以下且つYの10%以下の条件を満たす場合に整流板10によるCd値の低減効果が発揮されていることがわかる。また、整流板10がキャブ背面8の上端9に対して下方に離れて配置される程、エアカーテンを形成する第2の渦19が大きくなり、空気流18の剥離領域21が大きくなってしまい、整流板10によるCd値の低減効果を得ることが難しくなることがわかる。
【0033】
なお、キャブ背面8の上端9と整流板10との上下方向の距離Y1は、キャブ背面8からテールゲート15の後端までの前後方向の距離Xの3%以下又はキャブ背面8の上端9からテールゲート15の上端16までの上下方向の距離Yの10%以下の何れか条件を満たせばよいが、双方の条件を満たすことがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、荷台3の前端がキャブ背面8の下部によって区画されている場合を説明したが、これは一例であって、例えば、荷台3の前部に車幅方向に沿って起立する前壁が形成され、この前壁によって荷台3の前端が区画されていてもよい。
【0035】
さらに、整流板10の前端11がキャブ背面8に接合されている場合を説明したが、例えば、取付サポートとボルト・ナット等によって整流板10の前端11をキャブ背面8に対して着脱自在に取付固定してもよい。
【0036】
また、整流板10の車幅方向の長さがキャブ背面8の車幅方向の長さと同じである場合を説明したが、これは一例であって、整流板10は車両走行時における空気流18のテールゲート15への衝突を軽減し得る寸法形状であればよく、テールゲート15の車幅方向の長さ等に応じて、整流板10の車幅方向の長さをキャブ背面8の車幅方向の長さよりも短く設定してもよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0038】
図6は第2の実施形態におけるピックアップトラックの側面図である。なお、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図6に示すように、本実施形態では、整流板10の後端12が傾斜直線22よりも上方に設定されている。すなわち、第2の実施形態では、整流板10の前後方向の長さが第1の実施形態と異なる。
【0040】
本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様、車両走行時においてキャブ背面8の後方且つ整流板10の上方に第1の渦17が循環する領域20が形成され、傾斜直線22よりも上方にエアカーテンが形成される。従って、整流板10の後端12を傾斜直線22よりも上方に設定しても、ピックアップトラック1の走行時の空気抵抗の低減を図ることができる。
【0041】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、キャブと上方が開口する荷台とを有する車両に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】第1の実施形態におけるピックアップトラックの側面図である。
【図2】車両走行時の空気流を示す図である。
【図3】キャブ背面と荷台の上端と整流板とを示す模式図である。
【図4】整流板の長さと取付位置を変更して空気抵抗を測定した比較実験の結果を示す図である。
【図5】図4の比較実験の結果を示すグラフである。
【図6】第2の実施形態におけるピックアップトラックの側面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 ピックアップトラック(車両)
2 キャブ
3 荷台
8 キャブ背面
9 上端
10 整流板
11 前端
12 後端
13 床
14 側壁
15 テールゲート
16 上端
18 空気流
22 傾斜直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に配置され、車幅方向に沿って立設されるキャブ背面によって後端が区画されるキャブと、
前記キャブの下部後方で前記キャブ背面の上端よりも下方に配置され、床と該床の車幅方向両側で車両前後方向に沿って相対向して起立する一対の側壁と前記床の後端側で車幅方向に沿って起立するテールゲートとを有する荷台と、
前記テールゲートの上端よりも上方で前記キャブ背面から車両後方に向かって延びる整流板と、を備えた
ことを特徴とする車両の空気抵抗低減構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の空気抵抗低減構造であって、
前記整流板の後端は、前記キャブ背面の上端と前記テールゲートの上端とを結ぶ傾斜直線上又は傾斜直線よりも上方に設定されている
ことを特徴とする車両の空気抵抗低減構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の空気抵抗低減構造であって、
前記キャブ背面の上端と前記整流板との上下方向の距離は、前記キャブ背面の上端から前記テールゲートの上端までの上下方向の距離の10%以下又は前記キャブ背面から前記テールゲートまでの車両前後方向の距離の3%以下の何れかの条件を満たすように設定されている
ことを特徴とする車両の空気抵抗低減構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−280131(P2009−280131A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135478(P2008−135478)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)