説明

車両の空気抵抗低減装置

【課題】後続車両からのミリ波レーダ等により車両後端部を確実に検出できるとともに、積載効率の低下を抑制できるようにする。
【解決手段】車両のバンボデー4の後端面に装備される車両の空気抵抗低減装置であって、後端面の周縁部に設けられ車両後方へ突出する周縁突出部50,60,70と、周縁突出部50,60,70の突出端に結合されて、後端面から後方に離隔し後端面と平行又は略平行に形成される平面部40とを有し、周縁部のうち後端面の両側縁部及び上縁部に設けられた周縁突出部50,60には、周縁部から車両後方且つ車両中心寄りへ向けて傾斜して突出して空気流を案内する案内面51,61が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行時の空気抵抗を低減する車両の空気抵抗低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
箱形に形成されたバンボデーやウィングボデー(以下、ウィングボデーを含めてバンボデーという)の荷台を搭載したトラックには、燃費を向上させるために、走行時の空気抵抗を低減する装置を備えたものがある。
このような空気抵抗低減装置としては、例えば、特許文献1,2に示されるように、バンボデーの後端面から車両後方に突出して先端を尖らせた形状の突出体を装備したものがあり、これによりバンボデーの後端面の後方での渦流の発生を低減させるようにしている。
【0003】
特許文献1には、バンボデーの後端面に装着される円錐又は角円錐形の尾体(突出体)により、バンボデー後方の空気流を整流させることが開示されている。
特許文献2には、バンボデーの後端面から後方に先細り形状の中空袋体(突出体)により、空気抵抗を低減させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−67373号公報
【特許文献2】実願2006−5628号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、自車両から前方の車両へミリ波等を放射し前方の車両で反射されたミリ波等を検出し、この反射波に基づいて自車両と前方の車両との距離及び相対速度を検出するミリ波レーダ等を用いた車両走行制御にかかる技術が開発されている。
かかる制御には、例えば、自車両と先行車両との距離を保持して走行する車間制御や、前方車両や障害物との衝突を予測し、ブレーキを作動させて衝突時の衝突を軽減又は回避する衝突被害軽減ブレーキ制御があげられる。
【0006】
これらの制御は、ミリ波レーダ等による前方の車両の検出を前提として実施される。すなわち、前方の車両から反射されるミリ波等の電磁波を検出することを前提とする。
しかしながら、特許文献1や特許文献2の空気抵抗低減装置を装備した車両は、車両後方の形状が、バンボデーの後端面から後方へ向けて、頂点又は頂点の集合である稜線を中心に突出するため、放射された電磁波の反射方向が拡散し、後方車両のミリ波レーダ等により検出され難い。
【0007】
また、特許文献1や特許文献2の空気抵抗低減装置は、バンボデー後端面からの後方へ長く突出しており、この突出部分は荷室に利用できないため、積載効率が低下する。車両の全長が制限されたトラックでは積載空間が減少することになる。
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、後方車両からのミリ波レーダ等により車両後端部を確実に検出できるとともに、積載効率の低下を抑制することができるようにした、車両の空気抵抗低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の空気抵抗低減装置は、車両のバンボデーの後端面に装備される車両の空気抵抗低減装置であって、前記後端面の周縁部に設けられ車両後方へ突出する周縁突出部と、前記周縁突出部の突出端に結合されて、前記後端面から後方に離隔し前記後端面と平行又は略平行に形成される平面部とを有し、前記周縁部のうち前記後端面の両側縁部及び上縁部に設けられた前記周縁突出部には、前記周縁部から車両後方且つ車両中心寄りへ向けて傾斜して突出して空気流を案内する案内面が設けられていることを特徴としている。
【0009】
すなわち、前記周縁突出部の前記突出端を前記突出端どうしが接合するまで後方に突出させる(尖らせる)のではなく、前記周縁突出部の突出をより短い長さに抑え、この突出端に前記後端面と平行又は略平行に前記平面部を形成しているのである。
また、前記周縁突出部は、内部に圧縮空気を充填可能な気密の袋状構造に形成されると共に、前記周縁突出部の内部に圧縮空気を給排する圧縮空気給排機構を有し、前記周縁突出部の内部に圧縮空気が充填されると、前記案内面が形成されると共に前記平面部が形成され、前記周縁突出部の内部から圧縮空気が排出されると、前記平面部が前記後端面に近接して格納されることが好ましい。
【0010】
また、前記平面部は、平板のプレートにより形成され、前記後端面と前記平面部との間に、前記周縁突出部の内部の圧縮空気が排出されると前記平面部を前記後端面に近接して格納させるリターンスプリングが介装されていることが好ましい。
また、前記平面部は、内部に圧縮空気を充填可能な気密の袋状構造に形成されると共に、前記周縁突出部の袋状構造と前記平面部の袋状構造とは連通していることが好ましい。
【0011】
また、前記後端面には、前記後端面の前記両側縁部に基端側縁部を枢支されて観音開きに開閉する一対のリヤドアを有し、前記周縁突出部は、前記後端面の前記上縁部,下縁部及び前記両側縁部に対応する前記各リヤドアの上縁部,下縁部及び前記基端側縁部にそれぞれ設けられると共に、前記各リヤドアの閉鎖時に互いに隣接する前記各リヤドアの先端側縁部にも設けられ、前記平面部は、前記各リヤドア毎にそれぞれ設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両の空気抵抗低減装置によれば、後端面の周縁部のうち、後端面の両側縁部及び上縁部から車両後方且つ車両中心寄りへ向けて傾斜して突出する案内面を有するため、バンボデーの後端面の後方における渦流の発生を低減し、空気抵抗を低減することができる。これにより、車両の燃費を向上させることができる。
また、バンボデーの後端面と平行又は略平行に設けられた平面部を有するため、後方の車両のミリ波レーダ等から放射される電磁波を、入射角に応じた反射角で確実に反射することができる。これにより、自車両が、後方の車両のミリ波レーダ等により確実に検出される。
【0013】
また、周縁突出部の突出端どうしが接合するまで突出させる(尖らせる)のではなく、周縁突出部の突出をより短い長さに抑えているため、積載効率の低下を抑制できる。
また、平面部がバンボデーの後端面から後方に離隔し後端面と平行又は略平行に形成すれば、走行時の空気抵抗が大きくなる高速又は中速走行時には空気抵抗が効果的に低減され、平面部を後端面に近接して格納させれば、停車時や低速走行時に右左折時に交通を妨げることがなく、後方車両への圧迫感を与えることが無い。
【0014】
また、バンボデーの後端面と平面部との間にリターンスプリングが介装され、リターンスプリングにより、平面部が後端面に近接して格納状態されれば、周縁突出部の内部から圧縮空気を排出するだけで、後端面から後方に離隔した平面部を後端面に近接させて格納させることができる。
また、周縁突出部の袋状構造と平面部の袋状構造とが連通していれば、簡素な構成とすることができる。
【0015】
また、周縁突出部が、各リヤドアの上縁部,下縁部及び基端側縁部にそれぞれ設けられると共に、各リヤドアの閉鎖時に互いに隣接する前記各リヤドアの先端側縁部にも設けられ、平面部が各リヤドア毎にそれぞれ設けられれば、リヤドアの開閉が支障なくできるとともに、平面部を各周縁突出部により安定して支持することができる。もちろん、リヤドア後方の渦流の発生を抑制し、車両の空気抵抗を低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる空気抵抗低減装置が装備された車両の全体構成を示す後方斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかる空気抵抗低減装置が装備された車両の全体構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかる車両の空気抵抗低減装置の断面図であり、(a)は展開状態における図1中の矢視A−Aの断面図、(b)は格納状態における図3(a)と対応する図である。
【図4】本発明の第1実施形態にかかる車両の空気抵抗低減装置の圧縮空気給排機構を説明するエア回路図である。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる車両の空気低減装置の案内面の角度と空気抵抗係数との関係を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態にかかる車両の空気低減装置の案内面の長さと空気抵抗係数との関係を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態にかかる車両の空気抵抗低減装置の断面図である。
【図8】本発明の車両の空気抵抗低減装置を装備していない状態の車両を示す後方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜図6及び図8は、本発明の第1実施形態にかかる車両の空気抵抗低減装置を説明するもので、図1は空気抵抗低減装置が装備された車両の全体構成を示す後方斜視図であり、図2は空気抵抗低減装置が装備された車両の全体構成を示す側面図であり、図3(a)は車両の空気抵抗低減装置の展開状態を示す図1のA−A矢視断面図であり、図3(b)は車両の空気抵抗低減装置の格納状態を示す図3(a)と対応する図であり、図4は車両の空気抵抗低減装置の圧縮空気給排機構を説明するエア回路図であり、図5は車両の空気低減装置の案内面の角度と空気抵抗係数との関係を示す図であり、図6は車両の空気低減装置の案内面の長さと空気抵抗係数との関係を示す図であり、図8は車両の空気抵抗低減装置を装備していない状態の車両を示す後方斜視図である。
【0018】
〔車両の全体構成〕
まず、第1実施形態にかかる空気抵抗低減装置が装備されるベースとなる車両の構成を説明する。本実施形態にかかる車両は、トラック又はバスといった自動車であり、ここではトラックを例示して説明する。このトラックは、通常のバンボデーや両側面が開口するウィングボデー等の箱型の荷台を搭載したトラックや、箱型のトレーラ等でもよいが、ここでは、ウィングボデー型バンボデーのトラックを例に説明する。なお、箱型に形成された荷台を総称してバンボデーという。
【0019】
図8に示すように、ウィングボデー型バンボデートラック(以下、単にトラックという)1は、車両本体2の進行方向後方にウィング型のバンボデー4を架装した貨物自動車である。なお、図8にはウィングの閉鎖状態を実線で示し、開放状態を二点鎖線で示す。車両本体2は運転席を有するキャビン3や、エンジン及びシャーシ(何れも図示省略)等を備えて構成されている。バンボデー4は車両本体2のシャーシ上に取り付けられている。以下、車両本体2の前進方向を前方とし、前方を基準に左右を定め、重力の働く方向を下方とし、その逆を上方とし、車両の左右方向の中心に向かう側を内側、その逆を外側又は側方とする。
【0020】
バンボデー4は、直方体形であって、前方に左右方向に沿って略鉛直に設けられた前面5と、後方に左右方向に沿って略鉛直に設けられた後面(後端面)6と、左右に前後方向に沿って略鉛直に設けられた側面7と、上方に左右方向に沿って略水平に設けられた上面8とを有して構成される。
後面6の下方には、後方から乗用車等の比較的車高の低い自動車が衝突した場合に車両本体2のシャーシの下方へ滑り込むのを防止するためのリヤアンダラン15が設けられている。
【0021】
後面6は、開口を有し、この開口を開閉する右リヤドア10a及び左リヤドア10bからなる観音開きの左右一対のリヤドア10を有する。各リヤドア10a,10bは、後面6の左右両側端部に立設された一対のリヤポスト12,12と、後面6の上端部に設けられ一対のリヤポスト12,12の各上端をつなぐリヤアッパ13と、後面6の下端部に設けられ一対のリヤポスト12,12の各下端をつなぐリヤアンダ14とからなるフレームに囲まれている。すなわち、このフレームに囲まれて開口が区画されている。つまり、一対のリヤドア10は、閉鎖された状態で後面6の一部を構成し、後面に沿って平行に設けられる。
【0022】
また、一対のリヤドア10は、一対のリヤドア10が構成する後面の左右上下の周縁である周縁部11を有する。この周縁部11は、その上方部位である上方周縁部11aと、その両側方部位である側方周縁部(基端側縁部)11b,11bと、その下方部位である下方周縁部11cとを有する。また、各リヤドア10a,10bは、その内方の側縁の部位であり閉鎖時に互いに隣接する内方縁部(先端側縁部)11dを有する。なお、これらの周縁部11a〜11c及び内方縁部11dに、本実施形態の空気抵抗低減装置30は装着される。
【0023】
また、各リヤポスト12,12には、各リヤドア10a,10bを回動可能に軸支するヒンジ部20が左右に複数個(ここでは左右に4個づつ)装備されている。
図3に示すように、ヒンジ部20は、リヤポスト12の後面に固設されるポスト側ヒンジ部材と、リヤドアの左右両側縁部に固設されるドア側ヒンジ部材とから構成される。
リヤポスト側ヒンジ部材は、リヤポスト12に固設され、直角に後方へ向けて延出して設けられた軸支部に支持されるピン部材21を有する。
【0024】
ピン部材21は、鉛直方向に延在し、このピン部材21の軸心位置は、左右方向において、リヤドア10の外側端面よりも外側であって、側面7よりも内側に配置され、前後方向においては、リヤドア10の後面よりも後方に配置される。
軸支部の後方への突出量、すなわちピン部材21の前後方向の位置は、後述する格納状態の空気低減装置30の平面部40よりも後方になるように形成される。
【0025】
ドア側ヒンジ部は、リヤドア10の外側に設けられリヤドア10と一体回転するように形成されており、ピン部材21を内挿する適宜の筒状部材とリヤドア10とを接続する接続部を有する。
かかるヒンジ部20の構造により、リヤドア10は、270度回動可能に支持される。なお、図8にはリヤドア10の閉鎖状態を実線で示し、ここでは左リヤドア10bを270度回動して開放した状態を二点鎖線で示す。
【0026】
また、各リヤドア10a,10bは、その内方縁部11dの内部に円柱状のシャフト16を上下方向に内挿されている。
シャフト16の下端には、シャフト16を一定量だけ上下動操作可能に設けられたレバー18が接続されている。また、このレバー18を着脱可能とするレバーホルダ(図示略)がリヤアンダ14に固設されている。レバー18がレバーホルダに係着された状態では、シャフト16の上端はリヤドア10の上端面から突出し、レバー18が係脱されて下方又は上方へ操作されると、シャフト16全体が下方に移動し、シャフト16の上端はリヤドア10の上端面から突出しない。
【0027】
リヤアッパ13には、シャフト16の上端の突出箇所に対応した位置にシャフトホルダ17が固設される。このシャフトホルダ17は、シャフト17を下方から挿通可能に設けられ、挿入されたシャフト16を保持する。
つまり、シャフトホルダ17にシャフト16の上端が挿入された状態では、リヤドア10が閉鎖された状態が確実に保持される。また、レバー18をレバーホルダから係脱してシャフト16を下方へ移動操作すると、リヤドア10の閉鎖保持状態が解かれ、リヤドア10の開放可能となる。
このようなリヤドア10の閉鎖及び閉鎖解除操作は、リヤドア10よりも下方に配設されたレバー18により行なうことができる。
【0028】
〔空気低減装置の構成〕
次に、空気抵抗低減装置30の構成を、図1及び図2を用いて説明する。
空気抵抗低減装置30は、格納された格納状態と使用時の展開状態との2つの状態を切り替え可能に構成される。
【0029】
格納状態とは、後述する平面部40が後面6の一部を構成するリヤドア10に近接し格納される状態をいう。
展開状態とは、後述する平面40が後面6の一部を構成するリヤドア10と平行又は略平行に後方に離隔し、後述する突出部50,60,70,80が車両後方へ突出する状態をいう。
【0030】
まず展開状態において四角錐台形の空気抵抗低減装置30を説明する。
この空気抵抗低減装置30は、各リヤドア10a,10bのそれぞれに装備されており、一方の空気抵抗低減装置30aと他方の空気抵抗低減装置30bとから構成される。これらの空気抵抗低減装置30a,30bは左右対象であり、ここでは右リヤドア10a(以下、単にリヤドア10aともいう)に装備される一方(右側)の空気低減装置30aを説明する。
【0031】
空気抵抗低減装置30aは、平面部40と、上縁突出部(周縁突出部)50と、側縁突出部(周縁突出部)60と、下周縁突出部(周縁突出部)70と、中央突出部80とを有する。
平面部40は、リヤドア10aから所定長さだけ後方に配置される長方形の平板のパネルであって、リヤドア10aと平行又は略平行(以下、単に平行という)に設けられる。ここで、略平行とは、平面部40の加工誤差(公差)に応じた平行からのズレを許容し、車両の走行時に平面部40が揺動して生じる平行からのズレは許容することを意味する。
【0032】
また、平面部40は、リヤドア10aの後面よりも小さく、後面図においてリヤドア10aに収まるような大きさに設定される。この平面部40は、ミリ波等の電磁波を反射する樹脂パネルや薄い金属板等の素材を用いて構成される。なお、この平面部40に用いられる素材は、軽量であることが好ましい。
上縁突出部50は、リヤドア10aの上方周縁部11aから中心方向且つ後方へ傾斜しながら突出する突出部である。すなわち、上縁突出部50は、上面8の後方延長面に対して、下方へ所定角度だけ傾斜して所定長さだけ延在する上方案内面51を有する。
【0033】
なお、中心とは、後面6の上下左右方向の中心をいい、以下同様である。
側縁突出部60は、リヤドア10aの側方周縁部11bから中心方向且つ後方へ傾斜しながら突出する突出部である。すなわち、側縁突出部60は、側面7の後方延長面に対して、内方へ所定角度だけ傾斜して所定長さだけ延在する側方案内面61を有する。
下縁突出部70は、リヤドア10aの下方周縁部11dから中心方向且つ後方へ傾斜しながら突出する突出部である。すなわち、下縁突出部70は、上面8の後方延長面に対向して、上方へ所定角度だけ傾斜して所定長さだけ延在する下方案内面71を有する。
【0034】
これらの案内面部51,61,71の中心方向へ傾斜する所定角度及び所定長さについては後述する。
中央突出部80は、平面部40の内方端部とリヤドア10aの内方縁部11dとの間に介装され、内方縁部11dから後方へ真直ぐ突出する。すなわち、リヤドア10に対して略直角に後方へ突出する。
【0035】
つまり、突出部50,60,70及び80は後面6の周縁部に相当する各リヤドア10a,10bの縁部11a〜11c及び後面6の左右中心部に相当する各リヤドア10a,10bの縁部11dに設けられ、後方に突出する。また、周縁突出部50,60,70は一対のリヤドア10の周縁部11に設けられ、後方に突出し中心方向へ傾斜する案内面51,61,71を有する
次に、空気抵抗低減装置30aの内部構造を、図1のA−A矢視断面図である図3(a)を用いて説明する。
【0036】
側縁突出部60は、その内部に圧縮空気を充填可能な袋状構造に形成され、この袋状構造の内部である空気室65を有する。なお、図3(a)に示す展開状態では、この空気室65に圧縮空気が充填された状態である。
側縁突出部60は、その外側の側方案内面61と、その内側のインナ側方部62と、これらを接続する基部63及び先端部64を有する。
【0037】
基部63はリヤドア10a側のドア側基部63であり、先端部64は平面部40側の平面部側先端部64である。
これらの側方案内面61,インナ側方部62,基部63及び先端部64に囲まれる空間は密閉されており、圧縮空気を充填することができる。すなわち、側方案内面61,インナ側方部62基部63及び先端部64により、側縁突出部60の内部に圧縮空気を充填可能な空気室65を有する袋状の構造が形成される。この空気室65は、側縁突出部60の内部に上下方向に連続して形成されている。
【0038】
ドア側基部63は、リヤドア10aの側方周縁部11bにボルト等により取り付けられ、平面部側先端部64は、平面部40の外方周縁にボルト等により着脱可能に取り付けられている。
側方案内面61は、リヤドア10aの側方端部から中心方向且つ後方へ傾斜して突出する。すなわち、側方案内面61は、側面7の後方延長面に対して、内方へ所定角度で傾斜し、所定長さだけ後方に延在する。この側方案内面61は、側縁突出部60の内部(空気室65)に圧縮空気が充填されると形成される。
【0039】
ここで、側方案内面61の傾斜角度について説明する。
一般に、バンボデーの側面に沿って流れる気流は、バンボデーの側面と直角に内方へ向かう後面の後方に渦流が発生する。本実施形態の案内面61のように、バンボデーの側面及び後面の交差箇所に、車両後方且つ車両中心へ傾斜して突出する案内面を形成すると、バンボデーの後面に発生する渦流の大きさが変化する。
【0040】
案内面の傾斜角度が小さければ、バンボデーの側面に沿って流れる気流は案内面に引き寄せられて案内され、車両後方における渦流の発生を抑制する効果が大きい。したがって、空気抵抗低減効果が大きい。
一方、案内面の傾斜角度が大きければ、バンボデーの側面に沿って流れる気流の大部分は案内面に引き寄せられず切り離されて、側面の後方延長面と案内面との間に渦流を発生する。また、一部の引き寄せられた気流は、後面の後方において渦流を発生する。このため、車両後方における渦流の発生を抑制する効果が小さい。したがって、空気抵抗低減効果が小さい。
【0041】
上記の案内面の傾斜角度と空気抵抗低減量との関係を図5に示す。図5は、横軸に案内面の傾斜角度を規定し、縦軸に空気抵抗の大きさに対応する空気抵抗係数を規定する。この図5では、案内面の長さを基準として300mmに固定したものを示すが、案内面の長さが例えば200mmや600mmであっても下記と同様の特性を示す。
空気抵抗係数は、案内面の傾斜角度を0度から15度に向けて減少する。また、傾斜角度が15度よりも大きくなる程空気抵抗係数は増大する。詳細には、案内面の傾斜角度が15度から30度まで空気抵抗係数は増大し、傾斜角度が30度よりも大きくなると空気抵抗係数は微増する。
【0042】
この空気抵抗係数は、案内面に傾斜角度を持たせると、案内面を傾斜させない場合(傾斜角度が0度)よりも小さくなる。
また、空気抵抗係数が、燃費改善に効果があらわれる目標係数αよりも小さい案内面の角度は10度から20度である。
したがって、側方案内面61の傾斜角度は、好ましくは10度から20度、より好ましくは空気抵抗低減効果の最も高い15度に設定される。
【0043】
次に、側方案内面61の所定長さについて、図6を用いて説明する。
図6は、案内面の内方への傾斜角度を基準として15度に固定し、横軸に案内面の長さを規定し、縦軸に空気抵抗の大きさに対応する空気抵抗係数を規定する。
図6に示すように、側方案内面61に例示される案内面の長さを大きくすればするほど空気抵抗係数は減少する。ただし、この空気抵抗係数の減少度合は、2つの領域(第1領域及び第2領域)に区別できる。
【0044】
第1領域は、案内面の長さが0mmから300mmの領域であり、第2領域は、案内面の長さが300mmよりも大きい領域である。これらの領域を比較すると、第2領域の空気抵抗係数の減少度合よりも第1領域の空気抵抗係数の減少度合の方が大きい。
詳細には、第1領域の空気抵抗係数の減少度合は、案内面の長さが0mmから250mmまで略一定に(一次の減少関数で)減少する。また、第2領域の空気抵抗係数の減少度合は、案内面の長さが350mmより大きくなるに連れて第1領域の減少度合よりも小さく略一定に(一次の減少関数で)減少する。案内面の長さが250mmから350mmの間の領域では、第1領域の減少度合が小さくなって第2領域の減少度合へと変化する遷移領域である。すなわち、案内面の長さを延長して得られる空気抵抗低減効果の度合が、案内面の長さが350mmまでは大きい。
【0045】
したがって、側方案内面61の長さは、案内面を所定角度で突出させ続けると接合するまで後方に突出される(尖らせる)のではなく、より短い所定長さ分だけ突出される。この案内面61の長さは、好ましくは、遷移領域の長さであって空気抵抗低減効果の度合が大きく空気抵抗係数の小さい250mmから350mmであり、より好ましくは空気抵抗低減効果の度合が大きい第1領域から第2領域への遷移中心といえ空気抵抗係数の小さい長さである300mmである。
【0046】
もちろん、上縁突出部50の上方案内面51及び下縁突出部70の下方案内面71も、所定角度(好ましくは10度から20度、より好ましくは15度)に傾斜して形成され、所定長さ(250mmから350mm、より好ましくは300mm)だけ延在するように形成される。
以下、再び図3(a)を用いて空気抵抗低減装置30aを説明する。
【0047】
インナ側方部62は、リヤドア10aの側方周縁部11bから後方へ突出する。インナ側方部62には、例えば、蛇腹形のゴムやゴム引きのキャンバス、PVC(塩化ポリビニール)製等のベローズやダイヤフラムを用いることができる。
これらの側方案内面61及びインナ側方部62は、例えばゴムやゴム引きのキャンパス、PVC(塩化ポリビニール)等の気密性があり伸縮又は折畳可能な素材を用いて構成することができる。これらの側方案内面61及びインナ側方部62は、同一の素材を用いて構成してもよいし、それぞれ異なる素材を用いて構成してもよい。
【0048】
中央突出部80は、その内部に圧縮空気を充填可能な袋状構造に形成され、空気室85を有する。なお、図3(a)に示す展開状態では、この空気室85に圧縮空気が充填された状態である。
中央突出部80は、その左右方向に配設される中央突出本体部81と、その前後方向に配設されるドア側の中央突出基部82及びその平面部40側の中央突出先端部83とを有する。
【0049】
これらの中央突出本体部81,基部82及び先端部83により囲まれる空間は密閉されており、圧縮空気を充填することができる。すなわち、これらの本体部81,基部82及び先端部83により、中央突出部80の内部に圧縮空気を充填可能な空気室85を有する袋状構造が形成される。この空気室85は、中央突出部80の内部に上下方向に連続して形成されている。
【0050】
中央突出本体部81は、リヤドア10aの内方縁部11dから後方へ突出する。この中央突出本体部81は、蛇腹形のベローズやダイヤフラムを用いることができ、例えばゴムやゴム引きのキャンパス、PVC(塩化ポリビニール)等の気密性があり伸縮又は折畳可能な素材を用いて構成される。
中央突出基部82は、リヤドア10aの内方縁部11dにボルト等により取り付けられ、中央突出先端基部83は、平面部40の内方周縁部にボルト等により着脱可能に取り付けられている。
【0051】
これらの側縁突出部60及び中央突出部80の基部63,82とリヤドア10aとが着脱可能に取り付けられるため、本実施形態の空気抵抗低減装置30aをバンボデー4へと着脱可能に装備することができる。
リヤドア10と平面部40との間には、リターンスプリング90が介装される。このリターンスプリング90の一端はリヤドア10aに係止され、その他端は平面部40に係止される。
【0052】
リターンスプリング90は、展開状態で平面部40をドアパネル10の方へ張力を作用させる引っ張りバネである。
なお、上縁突出部50及び下縁突出部70の構成は、側縁突出部60と同様である。つまり、上縁突出部50の空気室55及び下縁突出部70の空気室75についても、側縁突出部60の空気室65と略同様に構成され、突出部50,70の長手方向に沿ってそれらの内部に袋状構造である空気室55,75を有している。
【0053】
側縁突出部60の空気室65と上縁突出部50及び下縁突出部70の空気室55,75とは連通しており、また、中央突出部80の空気室85と上縁突出部50及び下縁突出部70の空気室55,75とは連通している。すなわち、これらの空気室55,65,75,85は、一方の空気抵抗低減装置30aの周縁内部において一周に亘って連通している。
【0054】
これらの空気室55,65,75,85に充填された圧縮空気により、リヤドア10と平面部40とを互いに平行に前後方向に遠ざけるよう圧力が作用しており、車両の空気抵抗低減装置30aは、展開状態を保持される。
これらの空気室55,65,75,85には、圧縮空気が供給される供給穴と、圧縮空気が排出される排出穴とが設けられている。
【0055】
次に、空気抵抗低減装置30へと圧縮空気を供給する、車両本体2に装備された圧縮空気を流通するエア回路を図4を用いて説明する。
エア回路は、既存の装備を利用しており、既存の第1回路部と、本実施形態の空気抵抗低減装置30への圧縮空気の給排に用いられる第2回路部(圧縮空気給排機構)とに大別される。この第2回路部は、第1回路部をも用いて動作する。
【0056】
第1回路部は、エンジン回転を利用して外気をエアクリーナ100を介して吸入し圧縮するエアコンプレッサ101と、エアガバナ102と、圧縮空気を所定量貯蔵するエアタンク103とを有し、これらの各要素100,101,102,103はそれぞれエア配管により接続されている。
エアガバナ102は、エアタンク103の調圧機構であり、エアタンク103内の気圧が所定気圧(例えば、9気圧)より大きくなるとエアコンプレッサ101の作動を制限する。
【0057】
エアタンク103は、圧縮空気を貯蔵するものであって、圧縮空気が流入される入口と、貯蔵された圧縮空気を流出する複数の出口とを有する。これらの複数の出口は、第1出口103aと第2出口103bとであり、第1出口103aの一部から流出される圧縮空気は、エアブレーキやエアサスペンション、排気ガス後処理装置等の圧縮空気を用いる装置109に供給され用いられる。
【0058】
なお、第1回路部は、上記の構成に限らず、エアタンク103に圧縮空気を貯蔵する構成であればよい。
第2回路部は、エアタンク103と、減圧弁(レギュレータ)104と、供給弁105と、空気抵抗低減装置30と、排出弁106とを有する。
エアタンク103には、貯蔵された圧縮空気を流出する第2出口103bが設けられ、この第2出口103bと減圧弁104とがエア配管により接続されている。
【0059】
エアタンク103から流出された圧縮空気は、減圧弁104により所定気圧に減圧され調整される。
供給弁105は、開閉弁であり、空気抵抗低減装置30への圧縮空気の供給及び供給停止を行なう。この供給弁105としては、例えば、遠隔操作可能な電磁開閉弁を適用することができる。この供給弁105と減圧弁104とは、エア配管により接続されている。
【0060】
供給弁105は、空気抵抗低減装置30の供給穴と接続されている。この供給穴と供給弁105とはエア配管により接続されてもよいし、供給穴に供給弁105を一体に設けても良い。
排出弁106は、空気抵抗低減装置30からの圧縮空気の排出及び排出停止を行なう開閉弁である。この排出弁105としては、例えば遠隔操作可能な電磁開閉弁等を適用することができる。
【0061】
なお、空気抵抗低減装置30の排出穴に、所定の圧力を超えると開放して所定の圧力を維持する安全弁を適用してもよい。
この排出弁106は、空気抵抗低減装置30の排出穴と接続されている。この排出穴と排出弁106とはエア配管により接続されてもよいし、排出穴に排出弁106を一体に設けても良い。
なお、図3(a)及び(b)に示す展開及び格納状態を維持している場合は、供給弁105及び排出弁106は閉鎖されている。
【0062】
〔作用・効果〕
本発明の第1実施形態にかかる車両の空気抵抗低減装置30は上述のように構成されるため、以下のように展開状態と格納状態とを切り替える。
【0063】
まず、車両の空気抵抗低減装置30の展開状態から格納状態への切り替えを説明する。
図3(a)に示すように、車両の空気抵抗低減装置30が展開状態では、周縁突出部50,60,70及び中央突出部80の空気室55,65,75,85に圧縮空気が充填されている状態である。
この展開状態において、供給弁105を閉鎖し排出弁106は開放すれば、空気室55,65,75,85から充填された圧縮空気が外部へ排出される。
【0064】
圧縮空気が排出されると、空気室55,65,75,85に充填された圧縮空気によるリヤドア10と平面部40とを互いに前後方向に遠ざける圧力が作用しなくなり、空気室55,65,75,85は収縮又は折り畳まれ、リターンスプリング90により平面部40がドアパネル10の方へ引っ張られる。
平面部40とドアパネル10とが平行に近接する状態であって、平面部40がヒンジ部20のピン部材21よりも前後方向において前方に位置する状態となると、排出弁106を閉鎖し、もちろん供給弁105の閉鎖状態も維持し、車両の空気抵抗低減装置30は、図3(a)に示す展開状態から図3(b)に示す格納状態への切り替えが完了する。
【0065】
この格納状態は、平面部40とドアパネル10とが平行に近接する状態であって、平面部40がヒンジ部20のピン部材21よりも前後方向において前方に位置する状態である。
次に、車両の空気抵抗低減装置30を格納状態から展開状態への切り替えを説明する。
図3(b)に示すように、車両の空気抵抗低減装置30が格納状態では、周縁突出部50,60,70及び中央突出部80の空気室55,65,75,85から圧縮空気が排出されている状態である。この格納状態では、中心方向且つ後方へ傾斜して突出する案内面は形成されておらず、案内面51,61,71は収縮又は折り畳まれている。
【0066】
この格納状態において、排出弁106を閉鎖し供給弁105を開放すれば、エアタンク103から減圧弁104により調整された圧縮空気が空気室55,65,75,85へ流入される。
圧縮空気が流入されると、空気室55,65,75,85は徐々に圧縮空気で充填され、収縮され又は折り畳まれた空気室55,65,75,85は膨張又は展開され、リヤドア10と平面部40とを互いに平行に前後方向に遠ざけるよう圧力が作用する。
【0067】
圧縮空気が流入される空気室55,65,75,85内の気圧が所定気圧に達すると、供給弁105を閉鎖し、もちろん排出弁106の閉鎖状態も維持し、車両の空気抵抗低減装置30を格納状態から展開状態への切り替えが完了する。また、空気室55,65,75,85内の気圧が所定気圧に達して突出部50,60,70,80の内部に圧縮空気が充填されると、案内面51,61,71が形成される。
【0068】
したがって、本実施形態の車両の空気抵抗低減装置30によれば、リヤドア10の側縁部11b及び上縁部11aから後方且つ中心寄りへ向けて傾斜して突出する案内面51,61,71を有するため、リヤドア10の後方における渦流の発生を低減し、空気抵抗を低減することができる。これにより燃費を向上させることができる。
また、案内面51,61,71は、傾斜角度が所定角度(好ましくは10度から20度、より好ましくは15度)に設定されるため、空気抵抗低減効果を高めることができる。
【0069】
また、案内面51,61,71は、後方へ延在して突出する長さが所定長さ(好ましくは250mmから350mm、より好ましくは300mm)に設定されるため、空気抵抗低減効果の度合を高めることができる。
また、後面6と平行に設けられた平面部40を有するため、後方の他車両のミリ波レーダ等から放射される電磁波を、入射角に応じた反射角で確実に反射することができる。これにより、自車両が、後方の車両のミリ波レーダ等により確実に検出される。例えば後方の他車両の車間制御(Adaptive Cruise Control)や衝突被害軽減ブレーキ制御に対応することができる。
【0070】
また、案内面51,61,71は、案内面を所定角度で突出させ続けると接合する長さよりも短い所定長さ(好ましくは250mmから350mm、より好ましくは300mm)分だけ突出されるため、積載効率の低下を抑制できる。
また、平面部40が後面6から後方に離隔し後面6と平行に形成されていれるため、走行時の空気抵抗が大きくなる高速又は中速走行時に展開状態であれば、空気抵抗が効果的に低減される。また、平面部40を後面6に近接した格納状態であれば、停車時や低速走行時の右左折時に交通を妨げることがなく、後方車両への圧迫感を与えることが無い。
【0071】
また、リヤドア10と平面部40との間にリターンスプリング90が介装されるため、突出部50,60,70,80の内部から圧縮空気を排出するだけで、リターンスプリング90により平面部40が後面6に近接され、平面部40を自動的に展開状態から格納状態へと切り替えることができる。
また、空気抵抗低減装置30への圧縮空気の給排を行なう第2回路部は、第1回路部を用いた構成となっており、既存の構成を用いて、展開状態及び格納状態の維持及び切替を行なうことができる。
【0072】
また、ピン部材21の前後方向の位置は、格納状態の空気低減装置30の平面部40よりも後方になるように形成されるため、リヤドア10に空気抵抗低減装置30が装備されたまま、リヤドア10がバンボデー4の後面6の一部を形成する閉鎖位置とリヤドア10がバンボデー4の側面7に沿って外方に位置する270度回動された全開位置との間を回動自在にすることができる。
【0073】
また、空気抵抗低減装置30の下方に位置し、すなわち後面6の下方に設けられたリヤアンダラン15に空気抵抗低減装置30が被らず、リヤアンダラン15への影響がない。
また、リヤドア10の外周のリヤアンダ14にリヤドア10の開閉操作を行なうレバー18が装備されるため、リヤドア10に空気低減装置30が装備されたまま、リヤドア10の開閉操作を行なうことができる。
【0074】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる車両の走行抵抗低減装置130について、図7を用いて説明する。なお、第1実施形態と重複する説明は省略する。
本車両の走行抵抗低減装置130が装備される車両は、第1実施形態と同様に、図8に例示されるトラック1である。図7は、トラック1のリヤドア10に装備され、空気抵抗低減装置130の展開状態を実線で示し、格納状態を破線で示す図1のA−A矢視部に対応する断面図である。
【0075】
この空気抵抗低減装置130は、右リヤドア10a及び左リヤドア10bからなる左右一対のリヤドア10のそれぞれに装備されており、右リヤドア10aに装備される一方の空気抵抗低減装置130aと左リヤドア10bに装備される他方の空気抵抗低減装置130bとから構成される。これらの空気抵抗低減装置130a,130bは左右対象であり、ここでは一方(右側)の空気低減装置130aを説明する。
【0076】
空気抵抗低減装置130aは、その上下左右の周縁に後方かつ中心方向へ向けて傾斜して突出する傾斜部(周縁突出部)160と、この傾斜部の後方突出端に結合されて、リヤドア10aと平行又は略平行に形成される平面部140と、平面部140の内方端部とリヤドア10aの内方縁部(先端側縁部)11dとの間に介装され、内方縁部11dから後方へ真直ぐ突出する中央突出部180とを有する。なお、中心方向の中心とは、後面6の上下左右方向の中心をいう。
【0077】
ここでは、傾斜部160について、空気抵抗低減装置130aの右方の傾斜部160を例示して説明するが、左方の空気抵抗低減装置130bの傾斜部の構成は左右対象に同様である。
傾斜部160は、リヤドア10aの側方周縁部11bから中心方向且つ後方へ傾斜しながら突出する突出部である。すなわち、傾斜部160は、側面7の後方延長面に対して、内方へ所定角度(好ましくは10度から20度、より好ましくは15度)だけ傾斜して所定長さ(好ましくは250mmから350mm、より好ましくは300mm)だけ延在する傾斜案内面161を有する。
【0078】
この傾斜部160は、その内部に圧縮空気を充填可能な袋状構造に形成され、空気室165を有する。
また、傾斜部160は、リヤドア10aの側方周縁部11bと空気室165のドア側端との間に傾斜基部163を有する。この基部163は、リヤドア10aの側方周縁部11bにボルト等により着脱可能に取り付けられる。
【0079】
平面部140は、図7に実線で示す展開状態において、リヤドア10aから所定長さだけ後方に配置される長方形の平板状のものであって、リヤドア10aと平行又は略平行に設けられる。この平面部140は、傾斜部160の内部に圧縮空気が充填されると形成される。
ここで、平行又は略平行(以下、単に平行という)とは、平面部140の加工誤差(公差)に応じた平行からのズレや、走行時に平面部140が揺動して生じる平行からのズレは許容することを意味する。なお、図7に破線で示す格納状態において、平面部140は、ヒンジ部材20のピン部材21よりも前方に位置するように形成される。
【0080】
また、平面部140は、リヤドア10aの後面よりも小さく、後面図においてリヤドア10aに収まるような大きさに設定される。この平面部140は、ミリ波等の電磁波を反射する素材を用いて構成される。なお、この平面部140に用いられる素材は、軽量であることが好ましい。
この平面部140は、その内部に圧縮空気を充填可能な袋状構造に形成され、空気室145を有する。この空気室145は、傾斜部160の空気室165と連通している。
【0081】
中央突出部180は、平面部140の内方端部とリヤドア10aの内方縁部11dとの間に介装され、内方縁部11dから後方へ真直ぐ突出する。すなわち、リヤドア10aに対して略直角に後方へ突出する。
この中央突出部180は、その内部に圧縮空気を充填可能な袋状構造に形成され、空気室185を有する。この空気室185は、平面部140の空気室145と連通している。すなわち、平面部140、傾斜部160及び中央突出部180の空気室145,165,185は連通している。
【0082】
中央突出部180は、リヤドア10aの内方縁部11dと空気室185のドア側端との間に中央突出基部182を有する。この基部182は、リヤドア10aの内方縁部11dにボルト等により着脱可能に取り付けられる。
すなわち、傾斜部160及び中央突出部180の基部163,182とリヤドア10aとが着脱可能に取り付けられるため、本実施形態の空気抵抗低減装置130aをバンボデー4へと着脱可能に装備することができる。
【0083】
これらの平面部140、傾斜部160及び中央突出部180は、一体に形成されても別体に形成されてもよく、例えばゴムやゴム引きのキャンパス、PVC(塩化ポリビニール)等の気密性があり伸縮又は折畳可能な素材を用いて構成することができる。
なお、一対の空気抵抗低減装置130の周縁に形成される上下左右の傾斜部は何れも、後方へ突出しかつ中心方向へ向けて傾斜し、上方の傾斜部は下方へ傾斜し、下方の傾斜部は上方へ傾斜し、左方の傾斜部は右方へ傾斜する。また、これらの上下左右の傾斜部それぞれは空気室(内部に圧縮空気を充填可能な袋状の構造)を有し、これらの空気室は互いに連通している。また、これらの空気室には、圧縮空気が供給される供給穴と、圧縮空気が排出される排出穴が設けられている。すなわち、排出穴から空気が排出されると何れの空気室からも空気が排出される。
【0084】
次に、空気抵抗低減装置130への圧縮空気の給排を、図4を流用して説明する。
第1回路部は、第1実施形態と同様であり、第2回路部は、排気弁106以外は第1実施形態と同様である。
本実施形態では排気弁106に替えて排気機構を用いる。
排気機構は、空気抵抗低減装置130からの圧縮空気の排出及び排出停止を行なう。かかる圧縮空気の排出は、排気穴と外部とを連通させるだけでなく、空気室145,165,185内の空気を吸引して強制的に排出させて行なわれる。また圧縮空気の排出停止は、排気穴と外部との連通を遮断して行なわれる。
【0085】
この排気機構には、例えばコンプレッサと開閉弁とを組み合わせたものを適用することができる。
上記の構成以外の構成は、第1実施形態の構成と同様である。
【0086】
本実施形態の車両の空気抵抗低減装置130は上述のように構成されるため、以下のように展開状態と格納状態を切り替える。なお、格納状態から展開状態への切り替えは、第1実施形態と同様である。なお、下記の作用では、側方の傾斜部160に着目して説明するが、その他の空気低減装置130の周縁の上下の傾斜部についても同様である。
【0087】
空気抵抗低減装置130の展開状態から格納状態への切り替えは、展開状態において、排気機構により空気室145,165,185内の空気を吸引して強制的に排出することで行なわれる。
空気室145,165,185内の空気が排出されると、平面部140、傾斜部160及び中央突出部180の内部から空気が吸引され、平面部140、傾斜部160及び中央突出部180が収縮して格納状態へと切り替わる。
【0088】
したがって、本実施形態の車両の空気抵抗低減装置130によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
また、平面部140、傾斜部160及び中央突出部180の空気室145,165,185は連通しているため、簡素な構成とすることができる。
【0089】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0090】
側面7及び上面8に沿った走行時の空気の流れは、走行速度に応じた流速になるが、バンボデー4の下面には、駆動輪やガソリンタンク等の各種機器があるため、走行時の空気の流れが遅い。したがって、バンボデー4の下面から後方へと流れる空気が渦流となって走行時の空気抵抗となる成分が小さい。このため、上述の実施形態ではリヤドア10の上方周縁部11a,側方周縁部11b及び下方周縁部11cから後方且つ中心方向へ傾斜して突出する案内面51,61,71を有する空気抵抗低減装置30を説明したが、上方周縁部11a及び側方周縁部11bから突出する案内面51,61が少なくとも形成されていればよく、下方周縁部11cから突出する案内面71の傾斜角度は無くてもよい。
【0091】
また、上述の実施形態では、平面部40とリヤドア10との間にリターンスプリング90が介装されるものを示したが、このリターンスプリング90はなくてもよい。替わりに、突出部50,60,70,80に引っ張りバネの機能を持ったものを用いてもよい。すなわち、突出部50,60,70,80は、例えば排気弁106を開放する等してその内部に圧縮空気が充填されていないと、引っ張り力を作用させる例えばバネ状に形成され、圧縮空気が充填されると伸長するものとしてもよい。
【0092】
また、上述の実施形態では、空気抵抗低減装置30,130が観音開きの各リヤドア10a,10bのそれぞれに装備されるものを示したが、1枚もののリヤドア全面に、又は、バス等のリヤドアのないものの場合は車両後面の全面に装備されるものでもよい。これによれば、空気抵抗低減装置を簡素な構成とすることができる。なお、1枚もののリヤドアの場合、リヤドアの上縁部,下縁部及び左右両側縁部にそれぞれ突出部を設け、リヤドアがない場合、車両後面の周縁部、即ち、車両後面の上縁部,下縁部及び左右両側縁部にそれぞれ突出部を設ける。
【0093】
また、上述の実施形態では、突出部50,60,70,80はそれぞれ空気室55,65,75,85を有するものを説明したが、上縁突出部50の空気室55及び下縁突出部70の空気室75は省略してもよい。この場合、少なくとも側縁突出部60の側方案内面61と上縁突出部50の上方案内面51とが形成される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の車両の走行制御装置は、トラックやバスの大型車両のみならず、乗用車等の小型車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 トラック
2 車両本体
3 キャビン
4 バンボデー
5 前面
6 後面(後端面)
7 側面
8 上面
10 リヤドア
11 周縁部
11a 上方周縁部(上縁部)
11b 側方周縁部(両側縁部,基端側縁部)
11c 下方周縁部(下縁部)
11d 内方縁部(先端側縁部)
12 リヤポスト
13 リヤアッパ
14 リヤアンダ
15 リヤアンダラン
16 シャフト
18 レバー
20 ヒンジ部
21 ピン部材
30,130 空気抵抗低減装置
40,140 平面部
50 上縁突出部(周縁突出部)
51 上方案内面(案内面)
60 側縁突出部(周縁突出部)
61 側方案内面(案内面)
55,65,75,85,145,165,185 空気室
70 下縁突出部(周縁突出部)
71 下方案内面
80,180 中央突出部
90 リターンスプリング
103 エアタンク
105 供給弁
106 排出弁
160 傾斜部(周縁突出部)
161 傾斜案内面(案内面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバンボデーの後端面に装備される車両の空気抵抗低減装置であって、
前記後端面の周縁部に設けられ車両後方へ突出する周縁突出部と、
前記周縁突出部の突出端に結合されて、前記後端面から後方に離隔し前記後端面と平行又は略平行に形成される平面部とを有し、
前記周縁部のうち前記後端面の両側縁部及び上縁部に設けられた前記周縁突出部には、前記周縁部から車両後方且つ車両中心寄りへ向けて傾斜して突出して空気流を案内する案内面が設けられている
ことを特徴とする、車両の空気抵抗低減装置。
【請求項2】
前記周縁突出部は、内部に圧縮空気を充填可能な気密の袋状構造に形成されると共に、
前記周縁突出部の内部に圧縮空気を給排する圧縮空気給排機構を有し、
前記周縁突出部の内部に圧縮空気が充填されると、前記案内面が形成されると共に前記平面部が形成され、
前記周縁突出部の内部から圧縮空気が排出されると、前記平面部が前記後端面に近接して格納される
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の空気抵抗低減装置。
【請求項3】
前記平面部は、平板のパネルにより形成され、
前記後端面と前記平面部との間に、前記周縁突出部の内部の圧縮空気が排出されると前記平面部を前記後端面に近接して格納させるリターンスプリングが介装されている
ことを特徴とする、請求項2記載の空気抵抗低減装置。
【請求項4】
前記平面部は、内部に圧縮空気を充填可能な気密の袋状構造に形成されると共に、
前記周縁突出部の袋状構造と前記平面部の袋状構造とは連通している
ことを特徴とする、請求項2記載の車両の空気抵抗低減装置。
【請求項5】
前記後端面には、前記後端面の前記両側縁部に基端側縁部を枢支されて観音開きに開閉する一対のリヤドアを有し、
前記周縁突出部は、前記後端面の前記上縁部,下縁部及び前記両側縁部に対応する前記各リヤドアの上縁部,下縁部及び前記基端側縁部にそれぞれ設けられると共に、前記各リヤドアの閉鎖時に互いに隣接する前記各リヤドアの先端側縁部にも設けられ、
前記平面部は、前記各リヤドア毎にそれぞれ設けられている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の空気抵抗改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−224188(P2012−224188A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93129(P2011−93129)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)