説明

車両の走行制御機構

【課題】 エンジン回転数が高精度に目標回転数となるよう制御できるとともに、エンストの発生も確実に防止できる走行制御機構を提供する。
【解決手段】 エンジン回転数SEを算出しS81、さらに、過去5サイクルに検知した歯車の歯数から平均エンジン回転数SEa を算出するS82。そして、所定の目標エンジン回転数DSEより下であって、かつ、エンジン回転数SEエンスト回転数SE0 以下であるかの判断を行うS83。そして、DSEを下回っており、かつSE0 以下であれば、HSTの速度比を最大速度で下げることによりエンスト防止制御を行うS84。DSEを超えているか、SE0 に至っていない場合は、SEaが、DSEを超えているか否かを判断しS85、超えている場合は、速度比を増大させS86、超えていない場合は、減少させるS87。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車、トラック、フォークリフト等の車両の走行を無段変速機を用いて制御する車両の走行制御機構に関する。
【0002】
【従来の技術】図1は、無段変速機を用いた車両の走行制御機構のブロック図であり、アクセル4の開度に応じて目標車速が設定され、車速センサ3cで検出された実車速が目標車速となるようエンジン2のスロットル開度がスロットル開度駆動手段2aを介して演算制御手段5により制御される。そして、この演算制御手段5により、スロットル開度に応じた目標エンジン回転数が設定され、回転数センサ3bで検出された実エンジン回転数が前記目標エンジン回転数となるよう偏心駆動手段6を介して無断変速機(以下「HST」という。)1の速度比が制御されるよう構成されている。
【0003】従来、かかる構成の車両の走行制御機構において、回転数センサ3bは、エンジン2の駆動軸に配設した歯車2bを介した歯車2cの歯の通過を1パルスとして検出する電磁式回転検出器等が用いられており、回転数の検出精度向上のため複数制御サイクルで平均した検出信号から算出したエンジン回転数が速度比制御のために用いられている。
【0004】すなわち、1制御サイクルを8msec、歯車2cの歯数を39、エンジン回転数を700rpmとすると、対応するパルス数は、39〔歯数〕×700〔rpm〕×0.008〔sec〕/60〔sec〕=3.64パルスとなり、実際に1制御サイクル平均で検出できるのは、3パルスか4パルスとなる。このため、1制御サイクル平均でエンジン回転数は、577rpmまたは769rpmと算出され、エンジン回転数の検出誤差が大きくなる。
【0005】これに対して、図6のようにエンジン回転数が変化して現時点の回転数である700rpmとなったとすると、例えば、5制御サイクル分の対応するパルス数は、(720+710+680+690+700)×39×0.008×5/60=90.74パルスとなり、実際に5制御サイクル平均で検出できるのは、90パルスか91パルスとなる。このため、5制御サイクル平均でエンジン回転数は、692rpmまたは700rpmと算出され、実際のエンジン回転数700rpmに近い値となり、測定精度が向上することがわかる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、エンジンのエンスト寸前には、図7に示すように、エンジン回転数の下降が急激に生じるため、エンジン回転数がエンストが生じると考えられる回転数、例えば、300rpm以下となるとエンストを防止するためのHSTの速度比制御を行う必要があるが、従来の車両走行制御機構では、回転数センサ3bから5制御サイクル平均で得られるパルス数は、(800+700+600+500+300)×39×0.008×5/60=75.4パルスとなる。このため、5制御サイクル平均で算出されるエンジン回転数は、577rpmまたは584rpmとなり、実際にエンスト回転数以下となった場合であっても、その回転数を検出できず、エンスト防止制御の遅れにより、実際にエンストが生じてしまうという問題があった。
【0007】本発明は、上記課題を解決するために創案されたもので、実エンジン回転数が高精度に目標エンジン回転数となるよう制御できるとともに、エンストの発生も確実に防止できる車両の走行制御機構を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、エンジンと車輪の間に介在して速度比を無段階に変化させる無断変速機と、前記エンジンの所定の目標回転数を与える目標回転数設定手段と、前記エンジンの実回転数を検出する回転数検出手段と、検出された実回転数から前記無断変速機の速度比を制御する制御手段と、を具備する車両の走行制御機構において、前記演算制御手段は、前記回転数検出手段の信号を前記制御サイクルの短サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数からエンストが起こらないよう前記速度比を制御すると共に、前記回転数検出手段の信号を前記制御サイクルの長サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数から前記エンジンが前記目標回転数で動作するよう前記速度比を制御することを特徴とする車両の走行制御機構。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は、本発明にかかる車両の走行制御機構を示すブロック図であり、エンジン2と車輪7の間には速度比を無段階に変化させるHST1が配設されている。HST1は、可変容量ポンプ1aと可変容量モータ1bとを組み合わせてなり、それぞれの偏心量を適宜変更することでエンジン回転数を無段階に変速して車輪7に伝えることを可能とする。また、エンジン2の動力で駆動する固定容量ポンプ1dにより、チェック弁1cを介して接続されたHST1の高圧路と低圧路に、作動液が供給されている。
【0010】エンジン2のスロットル開度及びHST1の速度比は、それぞれスロットル駆動手段2a及び偏心駆動手段6を介して演算制御手段5によって制御される。すなわち、演算制御手段5は、アクセル開度センサ3dにより検出されたアクセル4の開度に応じて所定の目標車速を設定し、車速センサ3cにより検出された実車速がこの目標車速となるようスロットル駆動手段2aに指示を与えると共に、スロットル開度センサ3aにより検出されたスロットル開度に応じて所定の目標エンジン回転数を設定し、回転数センサ3bにより検出された実エンジン回転数が前記目標エンジン回転数となるよう偏心駆動手段6に指示を与える。
【0011】ここで、回転数センサ3bは、エンジン2の駆動軸に配設した歯車2bを介在して固定ポンプ1dを駆動するための歯車2cの歯数を検出するよう構成されており、電磁式回転検出器等が用いられる。
【0012】次に、本発明の作用を演算制御手段5の動作を示す図2のフローチャートに基づいて説明する。まず、アクセル開度センサ3dによりアクセル開度を検出し(S1)、検出した開度に対応する目標車速を設定する(S2)。ここで、目標車速の設定は、車速マップに基づいて行われるが、通常はアクセル開度に比例する目標車速が設定される。
【0013】次に、車速センサ3cにより実車速を検出し(S3)、上記S2で設定された目標車速と検出された実車速とを比較する(S4)。そして、目標車速が実車速を上回っていればスロットル開度を増大させ(S5)、目標車速が実車速を下回っていればスロットル開度を減少させる(S6)。
【0014】スロットル開度が増大或いは減少すると、図3に示される目標エンジン回転数マップに基づいて、スロットル開度センサ3aにより検出されたスロットル開度に対応する目標エンジン回転数DSEを設定する(S7)。
【0015】ここで、図4に示される目標エンジン回転数マップは、例えば、車両の走行時に最適燃費が達成できるようにスロットル開度とエンジン回転数とを対応づけるものが考えられる。すなわち、図4に示されるように、エンジン回転数SEに対して、得られるエンジントルクTEは、スロットル開度THLに応じて定まり、また、エンジン回転数SEとエンジントルクTEとの関係で最適燃費ラインも一意的に定まる。このため、スロットル開度THLが定まれば、そのエンジンの最適燃費条件を満足するエンジン回転数SEが、一意的に定まることとなり、これらの関係づけたのが図4に示される目標エンジン回転数マップである。なお、これらは、製造されたエンジン毎に固有の特性を有するものである。
【0016】目標エンジン回転数DSEが設定されると、エンジン回転数の制御が行われる(S8)。エンジン回転数の制御の詳細を図5に示すフローチャートに基づいて説明すると、まず、エンジン回転数SEをエンジンの駆動軸に設けた歯車の歯数を1制御サイクル分検知することにより算出し(S81)、さらに、現検出データも含めて過去5サイクル分検知した歯車の歯数から平均エンジン回転数SEaを算出する(S82)。
【0017】そして、算出した平均エンジン回転数SEa が、図2のフローチャートのS7で設定した目標エンジン回転数DSEより下であって、かつ、エンスと寸前の状態、即ち、算出したエンジン回転数SEがエンストが生じると考えられるエンスト回転数SE0 以下であるかの判断を行う(S83)。目標回転数DSEを下回っており、かつエンスト回転数SE0 以下と判断された場合は、HSTの速度比を最大速度で下げることによりエンスト防止制御を行う(S84)。
【0018】ここで、図7に示されるように、エンジン回転数の下降が急激に生じるエンジン2のエンスト寸前状態にある場合に、本発明を適用した例を上述した「発明が解決しようとする課題」で示した例、すなわち、1制御サイクルを8msec、エンジンの駆動軸介在する歯車の歯数を39として説明する。
【0019】本発明の場合、5制御サイクル平均のエンジン回転数の算出とは別に、1制御サイクル平均のエンジン回転数の算出を行っているため、1制御サイクル中に1パルスカウントすれば、エンジン回転数N1 は、N1 =1×60/(39×0.008)
=192rpm1制御サイクル中に2パルスカウントすれば、エンジン回転数N2 は、N2 =2×60/(39×0.008)
=384rpmとなる。かかる場合、1制御サイクル中に2パルス分カウントされなければ、エンジン回転数は、エンストが生じる回転数に近い384rpmよりも低いこととなるため、1制御サイクル中に2パルス分カウントされない場合をエンスト寸前状態と判断すれば、図7に示した例では、エンジン回転数が300rpmとなった現時点でのエンスト寸前状態の検知が可能となる。このため、エンスト寸前状態から遅れることなくエンスト防止制御を行うことができ、エンジン2のエンスト発生を確実に防止することが可能となる。
【0020】次に、過去5制御サイクル分検知した歯車の歯数から算出した平均エンジン回転数SEa が、目標エンジン回転数DSEを超えているか、または、1制御サイクルの信号から算出したエンジン回転数が、エンスト回転数SE0 に至っていない場合は、算出した平均エンジン回転数SEa が、設定された目標エンジン回転数DSEを超えているか否かを判断し(S85)、超えている場合は、HST1の速度比を増大させ(S86)、超えていない場合は、HSTの速度比を減少させる(S87)。そして、図2におけるS1〜S8の動作をくり返し行う。
【0021】なお、上述した実施例では、エンジン回転数を目標エンジン回転数に一致させるための制御に、5制御サイクル平均の信号から得られるエンジン回転数を用い、エンスト防止の制御を行うのに1制御サイクル平均の信号から得られるエンジン回転数を用いたが、本発明はこれに限らず、エンジン駆動軸に取り付けた歯車の歯数との関係で適宜エンジン回転数を求めるための制御サイクルを定めればよい。
【0022】また、エンジン回転数として、エンジンの回転数検出手段から得られるパルス数を用い、目標エンジン回転数DSE、エンスト回転数SE0 、およびエンスト寸前状態とするエンジン回転数を全て換算したパルス数として用いてもよいことはいうまでもない。
【0023】
【発明の効果】本発明によれば、回転数検出手段の信号を短制御サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数からエンジンのエンストが起こらないよう前記速度比を制御すると共に、長制御サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数から前記エンジン回転数が前記目標回転数となるよう前記速度比を制御するようにしたため、実エンジン回転数が目標エンジン回転数となるよう高精度に制御できるとともに、エンストの発生も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車両の走行制御機構の概略図である。
【図2】本発明にかかる演算制御手段の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明にかかる目標エンジン回転数マップである。
【図4】エンジンの最適燃費ラインを示す図である。
【図5】本発明にかかるエンジン回転数制御にかかる演算制御手段の動作を示すフローチャートである。
【図6】エンジン回転数変化の例を示す図である。
【図7】エンジン回転数変化の例を示す図である。
【符号の説明】
1・・・・・・HST
2・・・・・・エンジン
2a・・・・・スロットル駆動手段
3a・・・・・スロットル開度センサ
3b・・・・・回転数センサ
3c・・・・・車速センサ
3d・・・・・アクセル開度センサ
4・・・・・・アクセル
5・・・・・・演算制御手段
6・・・・・・偏心駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンと車輪の間に介在して速度比を無段階に変化させる無断変速機と、前記エンジンの所定の目標回転数を与える目標回転数設定手段と、前記エンジンの実回転数を検出する回転数検出手段と、検出された実回転数から前記無断変速機の速度比を制御する演算制御手段と、を具備する車両の走行制御機構において、前記演算制御手段は、前記回転数検出手段の信号を前記制御サイクルの短サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数からエンストが起こらないよう前記速度比を制御すると共に、前記回転数検出手段の信号を前記制御サイクルの長サイクルで平均してエンジン回転数を求め、求めたエンジン回転数から前記エンジンが前記目標回転数で動作するよう前記速度比を制御することを特徴とする車両の走行制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平9−42446
【公開日】平成9年(1997)2月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−190270
【出願日】平成7年(1995)7月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成7年4月1日発行の「金属Vol.65,No.4」に発表
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)