説明

車両乗降用リフト装置に用いる車椅子

【課題】車両に装備した車椅子リフト装置に使用する車椅子において、車両に昇降させるときにドアの開口部を支障なく通過できるよう、車椅子の横幅を減少させる。
【解決手段】車椅子の走行時に車軸6に取付けられる両輪5は取外し可能となっており、リフト装置によって車室内に昇降させるときは、両輪5を取外してフレーム7の片側に取付ける。そのために、車椅子の両側に配置されたフレーム7の一方には、車軸6よりも上方の位置に車輪の取付部9が形成されており、取外した車輪の一方をこの取付部に取付ける。また、この取付部に装着する車輪には、他方の車輪を保持するための固定部が形成されており、他方の車輪はこの固定部に装着される。両輪5を片側にまとめて取付けることにより、リフト装置で昇降させる際に車椅子の幅を減少することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体障害者など車椅子の利用者が、容易に運転室等の車室内に乗降しシートに着座できるよう、リフト装置を装備し車椅子を車室内まで上昇させる車両において、そのリフト装置に適する車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
身体障害者が健常者と同様に働き生活すること、つまり、身体障害者の社会進出は、高福祉社会の実現に向けて一つの重要な課題である。車両の運転の面においても、ペダル等の足で操作する部品を手動で操作可能とするなど、身体障害者のための運転補助具等の開発が進められている。こうしたことから、下肢が不自由で車椅子を利用する身体障害者であっても、車両の運転を業務とすることができるようになってきている。
【0003】
車両を運転するには運転室にあるシートに座る必要があるが、身体障害者が運転室に上がるには相当な困難を伴う。特に、キャブオーバ車と呼ばれる大型のトラック又はトラクタのような車両の運転室はエンジンの上方に配置されている関係上、運転室の床面の地上高が大きい。キャブオーバの大型車両には、運転室に昇降するステップが取付けられているけれども、車椅子を利用する身体障害者が自力で運転室に上がりシートに着座するのは、まず不可能である。
【0004】
動力によるリフト装置を用いて車椅子を運転室の床面まで持ち上げ、車椅子のまま車両に乗降できる装置は知られており、例えば特開2003−275251号公報に開示されている。この公報に記載された装置は、図6に図示されるように、スライド式ドアを有する車両に適用されたものである。車椅子30は、その利用者を乗せたまま車両も運転席に配置されており、平板形状の台31に載置されている。台31の下部にはリフター32と駆動モータ33が配置され、車椅子の乗降に際しては、ドア34を全開とした後リフター32により台31を助手席側に平行に移動させる。さらに、点線に示すように、台31を地上に降ろし車椅子が地上を走行できる状態とする。また、車椅子30は、そのフレームが折りたためるように構成されており、車両の運転席には折りたたんで全高を低くした状態で移動させる。
【0005】
この種のリフト装置としては、車椅子ではなく、車両のシートを地上付近まで下降させその後床面まで持ち上げる装置も知られており、その中には、特開平7−300037号公報に開示されるように、車両の前向きとなったシートを横向きに回転させた後に、これを昇降させる装置がある。この装置においては、シートを載置した枠体を昇降時にはドアの開口部に向け90度回転させ、ねじ機構によって枠体を移動させ、地上まで降ろすようにしている。
【0006】
このように、車椅子に座ったままの状態で車両に乗降できる装置は、公知のものであるが、車椅子を車両の前向きとした状態で運転台に引き上げるためには、リフト装置を車両の横方向に相当引き出す必要があり、キャブオーバ車のように運転室が高い車両に採用するのは事実上困難である。また、車両のシート自体を昇降させるのは、シートを特殊な構造とする必要があると同時に、一般的には車両のシートは車椅子よりも重く寸法も大きいので、リフト装置のストロークを大きくする必要があるキャブオーバ車に用いるのは、やはり困難である。
【0007】
本出願人は、このような事情を考慮し、地上高の大きいキャブオーバ車等における車椅子のリフト装置をコンパクトとするため、車両運転室のドア近傍に回転軸を設置してこれに直接リフト装置を取付けた乗降装置を開発した。開発した装置では、図2に示すとおり、運転室のドア開閉部近傍には、下部が前記運転室の床面に、上部が前記運転室の側壁にそれぞれ回転可能に支持された回転軸20を設置して、これにリフト装置1を連結する。リフト装置は車椅子の取付板4に連結された油圧シリンダ22が設けられ、車椅子を昇降するときは、アクチュエータ23によりリフト装置1を横向きとして、車両側方のドア開口部から車椅子を油圧シリンダ22を用いて昇降させる。
【特許文献1】特開2003−275251号公報
【特許文献2】特開平7−300037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両においては、一般的に、なるべくコンパクトとなるような設計が行われるから、ドアの開口部も幅の狭いものとなっている。この幅の狭い開口部から車椅子を昇降させるには、車椅子自体の横幅がなるべく短いものが好ましい。殊に、本出願人が開発したリフト装置又は特許文献2に開示されるリフト装置では、ドアの開口部でリフト装置を90度回転させる。このときに支障なく回転させるためには、車椅子の幅はより一層小さくする必要がある。本発明は、車両に装備された車椅子リフト装置用の車椅子の、横幅を極力短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、リフト装置で昇降するときの車椅子の幅を小さくすることを目的とし、車椅子の両輪を取外し可能とするとともに、取外した両輪を片側のフレームに取付けるものである。すなわち、本発明は、
「車両に装備され、車椅子を車室内に昇降する車椅子リフト装置に用いられる車椅子であって、
前記車椅子は、取外し可能な2個の車輪と前記車椅子の両側に配置された2個のフレームとを有し、前記フレームは、車椅子の走行時に前記車輪を取付ける車軸を備え、
前記フレームの一方には、前記車軸の上方に取外した前記車輪の一方を取付ける取付部が形成され、かつ、前記車輪の一方には、取外した他方の車輪を取付ける固定部が形成されている」
ことを特徴とする車椅子リフト装置用の車椅子となっている。
【0010】
請求項2に記載のように、前記車輪の一方に設けられた固定部は、車輪の中心軸付近に設けられることが望ましい。
【0011】
本発明の車椅子は、請求項3に記載のように、その車椅子リフト装置が車室内に垂直方向に設置された回転軸に取付けられ、車室内に車椅子を昇降する際に90度回転可能となっているリフト装置に使用することができる。そして、このようなリフト装置を使用する場合には、請求項4に記載のように、取外した車輪を取付ける前記取付部を、車室内に車椅子を収納したときに車両のドア側に位置するフレームに形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車椅子は、その両輪が取外し可能に車軸に取付けてある。車椅子の両輪は走行のためのものであるから、車両に装備したリフト装置を用いて車椅子を昇降するときは、両輪を取外すようにする。車椅子の両側に配置されたフレームの一方には、車軸よりも上方の位置に車輪の取付部、例えば車軸と同径の短軸、が形成されており、取外した車輪の一方をこの取付部に取付ける。また、この取付部に装着する車輪には、他方の車輪を保持するための固定部が形成されており、他方の車輪はこの固定部に装着される。こうして車椅子の両輪を片側にまとめて取付けることにより、リフト装置で昇降させる際に車椅子の幅を減少させ、車両のドア開口部が狭いものであっても、車椅子を通過させることが可能となる。さらに、両輪が車椅子のフレームに装着されているため、身体障害者等の車椅子の利用者は、昇降の際に両手を自由に使用でき、リフト装置を制御するリモートコントロール装置の操作などにも支障をきたさない。
【0013】
請求項2の発明のように、車輪の一方に設けられた固定部を車輪の中心軸付近に設け、他方の車輪をこれに取付けるときは、両方の車輪は重なり合うように配置され、昇降の際に車椅子はよりコンパクトなものに変形できる。
【0014】
キャブオーバ車のような運転室の地上高の高い車両にあっては、前述したとおり、車室内に車椅子を昇降する際に90度回転可能となっているリフト装置に使用することが望ましい。こうしたリフト装置では、開放されたドア部分に干渉することなく通過するような幅の狭い車椅子が要求され、請求項3の発明のように、このリフト装置に本発明の車椅子を使用したときには、本発明の車椅子は特に有効なものとなる。
【0015】
そして、回転させるリフト装置を使用する場合に、請求項4の発明のように、車室内に車椅子を収納したときに車両のドア側に位置するフレームに両輪を装着したときは、身体障害者等が車両のシートを移動する際に車輪が障害になることがない。つまり、トラック等の座席面は通常フラットとなっているので、下肢の不自由な身体障害者であっても、車椅子の車輪に邪魔されることなく、上肢を使って例えば助手席から運転者側の席に移動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の車椅子について説明する。まず、リフト装置による車椅子の昇降手段の全体的な作動について理解を容易にするため、図1に、本発明の車椅子を運転室に引き上げる手順を、複数の斜視図によって示す。これらの斜視図では助手席側のドアは図示を省略されているが、ドア開閉装置により全開位置に保たれている。
【0017】
キャブオーバ車の助手席側には、図2に示すリフト装置1が装備され、図1(a)では、リフト装置1のインナフレーム2及び油圧シリンダ22のロッドが伸張していて、車椅子3の取付板4は地上付近にある。図1(a)の左側に図示するように、車椅子3は後退しながら取付板4に向けて進み、車椅子3の下部フレ−ムに設けた固定ロッドが、取付板4の溝にはまり込み、定位置となると車椅子3の固定ロッドは取付板4の溝から外れないようロックされる。
【0018】
本発明の車椅子3は、両側の車輪は取外しが可能であって、取外した車輪は、図1(b)の左側に図示するように、両輪をまとめて横のフレームに取付ける。この作業は、リフト装置1により車椅子3を地上から少し持ち上げた状態、つまり図1(b)の状態で行われる。これが終了すると、リフト装置1の油圧シリンダにより車椅子3は引き上げられて、図1(c)の状態となる。
【0019】
車椅子3が運転室の床面の位置まで上昇すると、リフト装置1のアウタフレームに連結されたアクチュエータ23により、車椅子を搭載したリフト装置は90度回転し、図1(d)に示すように、運転室の中に収納される。このとき車椅子3の車輪は片側にまとめられているので、ドア開口部を支障なく通過することができる。運転室に収納された車椅子は。両輪がドア側のフレームに取付けられているので、身体障害者等が車椅子からシートに移動する妨げになることはない。
【0020】
本発明の車椅子3の構造について、図3乃至図5を参照して説明する。図3は、通常の走行状態における車椅子を示すもので、両方の車輪5は車軸6にはめ込まれて回転可能となっている。車椅子3はその両側にフレーム7を有し、各々のフレームは、車椅子利用者の座席を支持する下部フレーム71、肘掛等のための上部フレーム72及び後部フレーム73から構成される。車軸6は、取付けられた車輪の下方が少し広がり走行時の安定性を確保するよう、少し上向きに下部フレーム71に溶接等で固着される。また、車軸6の端部には、雌ねじが形成された孔61が設けられている。
【0021】
車輪5の取付は、図3の上方の図に示されるように、車輪5のハブ部分51を貫通する孔に車軸6をはめ込み、車軸6の孔61に、雄ねじ部が設けられたロック部材8をねじ込むことにより行われ、車輪5はロック部材8の端面によって軸方向に位置決めされる。したがって、ロック部材8を外すと車輪5を車軸6から取外すことができる。
【0022】
本発明の車椅子3には、取外した車輪5を装着するための取付部となる取付軸9が上部フレーム72に設けられている。取付軸9は、車軸6と同じ径を有する短軸であって、場合によっては、車軸6の孔61を形成していない素材を上部フレーム72に溶接してもよい。また、一方の車輪5には、図4に図示するように、取外した他方の車輪を装着する固定部であるブラケット10が取付けられる。ブラケット10は、図4の右図に示すとおり、車輪5のハブ部分51を貫通する孔にはめ込まれる短軸11を上方に固着した部材であり、この部材の下部の凹部とキャップ12の凹部との間に車輪5のハブ部分51を挟み、キャップ12をボルト締めして、車輪5の中心のハブ部分51に固定されている。
【0023】
車椅子3をリフト装置1により車室内に引き上げる時は、図1(b)に示す位置で両方の車輪5を取外し、まず、ブラケット10を取付けた車輪を取付軸9に装着する。次いで、他方の車輪のハブ部分をブラケット10の短軸11に嵌め込んで固定すると、両方の車輪5は、図5に示されるように、車椅子3の片側のフレームに取付けられる。このときの車椅子3の横幅は、車輪5を両側に取付けた走行時の横幅と比べて相当減少することとなり、リフト装置1を90度旋回するときの、車両のドアとの干渉を回避することができる。なお、車椅子3のフレームの下方には、中央前方と左右の後方に3本のロッド13が固着されており、車椅子3を昇降するときにはこれらのロッド13が取付板4に形成された3個の溝41内(図2参照)に、それぞれ入り込む。中央の溝41に入り込んだロッド14は定位置になると自動的にロックされ、取付板4に載置された車椅子3は、これから外れないようになる。
【0024】
以上詳述したように、車両に装備した車椅子リフト装置において使用される車椅子の幅を小さくするため、車椅子の両輪を取外し可能とするとともに、取外した両輪を片側のフレームに装着するものである。したがって、車椅子リフト装置としては、昇降の際に横向きに回転させる実施例のリフト装置に限らず、その他のリフト装置用の車椅子としても本発明のものを使用することができる。また、車輪を片側のフレームに装着する手段についても、例えば、ハブ部分を固定する変わりにスポーク部分を保持するなど、種々の変形が可能なことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の車椅子を用いたリフト装置の作動手順を示す斜視図である。
【図2】リフト装置の概略を示す斜視図である。
【図3】本発明の車椅子の走行時における状態を示す図である。
【図4】本発明の車椅子の固定部を設けた車輪を示す図である。
【図5】本発明の車椅子の昇降時における状態を示す図である。
【図6】従来の車椅子リフト装置を示すである。
【符号の説明】
【0026】
1 リフト装置
3 車椅子
4 取付板
41 溝
5 車輪
51 ハブ部分
6 車軸
7 フレーム
71 上部フレーム
72 下部フレーム
9 取付軸(取付部)
10 ブラケット(固定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装備され、車椅子を車室内に昇降する車椅子リフト装置(1)に用いられる車椅子(3)であって、
前記車椅子(3)は、取外し可能な2個の車輪(5)と前記車椅子の両側に配置された2個のフレーム(7)とを有し、前記フレーム(7)は、車椅子の走行時に前記車輪(5)を取付ける車軸(6)を備え、
前記フレーム(7)の一方には、前記車軸(6)の上方に、取外した前記車輪(5)の一方を取付ける取付部(9)が形成され、かつ、前記車輪の一方には、取外した他方の車輪を取付ける固定部(10)が形成されていることを特徴とする車椅子リフト装置用の車椅子。
【請求項2】
前記車輪の一方に設けられた固定部(10)は、車輪の中心軸付近に設けられる請求項1に記載の車椅子リフト装置用の車椅子。
【請求項3】
前記車椅子を昇降する車椅子リフト装置(1)は車室内に垂直方向に設置された回転軸(20)に取付けられ、車室内に車椅子を昇降する際に90度回転可能となっている請求項1又は請求項2に記載の車椅子リフト装置用の車椅子。
【請求項4】
前記フレームの一方に形成され取外した車輪を取付ける前記取付部(9)は、車室内に車椅子を収納したときに車両のドア側に位置するフレームに形成された請求項3に記載の車椅子リフト装置用の車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−122568(P2006−122568A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317896(P2004−317896)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)