車両制御装置
【課題】車両構成が変更される場合に、車両モードに応じた制御手段による制御対象に対する挙動制御の変更が容易な車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置100のモード設定手段110は、車両が置かれた車両環境に基づいて車両モードを設定する。モード情報記憶手段130は、車両モード毎に、機能ドメインECU20、30、40、50およびサブドメインECU60、62、64、66が制御対象に対して実行する挙動制御を車両構成に応じてモード情報として記憶している。制御管理手段120は、モード設定手段110が設定した車両モードに応じて、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、各機能ドメインECUおよび各サブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を管理する。
【解決手段】車両制御装置100のモード設定手段110は、車両が置かれた車両環境に基づいて車両モードを設定する。モード情報記憶手段130は、車両モード毎に、機能ドメインECU20、30、40、50およびサブドメインECU60、62、64、66が制御対象に対して実行する挙動制御を車両構成に応じてモード情報として記憶している。制御管理手段120は、モード設定手段110が設定した車両モードに応じて、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、各機能ドメインECUおよび各サブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を管理する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された制御対象の挙動を車両モードに応じて制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された制御対象の挙動を、車両の運転状態等に応じて設定されたモードに基づいて制御する車両制御装置が知られている。例えば、特許文献1においては、中央制御ユニット等から通信系統を介して供給される状態信号に基づいて、制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御の作動モード、例えば運転前チェック、非常作動等の作動モードが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−104189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、状態信号により選択される作動モードに応じてどのような挙動制御を制御対象に対して実行するかを制御手段が選択する必要がある。したがって、制御対象または制御手段の変更により車両構成が変更される場合に制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を変更する必要が生じると、制御手段において、作動モードに応じて制御対象に対してどのような挙動制御を実行するかを考慮して、制御対象に対する挙動制御を変更する必要がある。
【0005】
その結果、特許文献1では、車両構成が変更される場合に、制御手段において作動モードに応じた挙動制御の変更が煩雑になる。さらに、複数の制御手段により制御対象の挙動を連携制御している場合、車両構成が変更されると、作動モードを考慮した連携制御の変更が個々の制御手段において必要になるので、挙動制御の変更が煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、車両構成が変更される場合に、車両モードに応じた制御手段による制御対象に対する挙動制御の変更が容易な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1から20に記載の発明によると、車両に搭載され、車両の置かれた車両環境に基づいてモード設定手段が設定する車両モードに応じて制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびに制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて車両モード毎にモード情報としてモード情報記憶手段は記憶している。そして、制御管理手段は、制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報記憶手段に記憶されているモード情報に基づいて管理する。
【0008】
このように、制御対象、および制御対象に対して挙動制御を実行する制御手段を含む車両構成に応じて車両モード毎に記憶されているモード情報に基づいて、制御管理手段は、制御手段が制御対象に対して車両モードに応じて実行する挙動制御を統合して管理し、制御対象に対する車両モードに応じた挙動制御を制御手段に指示する。そして、車両構成が変更になると、車両構成の変更に応じてモード情報記憶手段に記憶されているモード情報が変更されることにより、制御管理手段は、車両構成の変更に基づいて車両モードに応じた挙動制御を制御手段に指示できる。
【0009】
このように、車両モードに応じて制御対象に対して実行する挙動制御を制御管理手段が制御手段に指示するので、制御手段は、制御管理手段からの指示に基づいて制御対象に対する挙動制御を実行すればよい。したがって、例えば、制御対象が変更になり制御対象に対する挙動制御を制御手段において変更する場合、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを制御手段側では考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合に、制御対象に対する挙動制御を制御手段において容易に変更できる。
【0010】
さらに、制御手段が実行する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段が統合して管理するので、制御手段は制御管理手段により変更される他の制御手段の挙動制御の変更を意識する必要がない。したがって、車両構成が変更になっても、制御手段が実行する挙動制御を車両モードに応じて容易に変更できる。
【0011】
尚、車両構成の変更とは、同一車両における構成の変更に限らず、車種の異なる車両における構成の違いも含んでいる。例えば、同一車種においてバッテリが鉛バッテリからリチウムイオンバッテリに変更になること、ならびに異なる車種においてガソリンエンジンとディーゼルエンジンとのエンジンの違いの両方が車両構成の変更に相当する。
【0012】
また、車両構成が変更されても、車両の置かれる車両環境は変化しないので、車両環境に基づいて設定される車両モードは変化しない。また、車両構成が変更されても、車両モードに応じて車両において実現すべき機能、例えばエネルギー等の資源を生成、消費するという資源管理の機能は変化しない。変化するのは、機能を実現するために、制御手段が制御対象に対して具体的にどのような挙動制御を実行するかである。
【0013】
そして、本発明では、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報が車両構成の変更に応じて変更され、車両モードに応じて制御対象に対する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段が制御手段に指示することにより、前述した車両モードに応じて車両において実現すべき実現機能を設定するシステム設計者は、車両構成の変更に伴い、車両モードに応じて制御対象に対してどのような挙動制御を制御手段に実行させるかを意識する必要がない。
【0014】
一方、制御対象および制御手段等により構成される車両の設計者は、車両構成の変更に伴い、車両モードに応じて、制御手段が制御対象に対してどのような挙動制御を実行するかを、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報、ならびに制御管理手段から指示される挙動制御に関して意識すればよく、車両モードに応じて実現すべき実現機能を意識する必要はない。その結果、システム設計者と車両設計者との分業を促進できる。
【0015】
具体的には、例えば、車両がエンジンとして内燃機関の駆動力を採用する場合、内燃機関に対する挙動制御に関し予め決められた「車軸トルク」というAPI(Application Interface)により、必要な車軸トルクが、所定のデータ定義、例えばデータの単位、範囲で車両モードに応じて設定されており、制御管理手段は、車両モードに応じて、内燃機関に対する挙動制御を実行するエンジン制御手段に設定された車軸トルクを所定のタイミングで指示する。エンジン制御手段は、例えば、制御管理手段から指示された車軸トルクを発生するように、燃料噴射弁の噴射量等の制御対象に依存した挙動制御を実行する。
【0016】
ここで、車両システムが内燃機関の駆動力から電気モータを駆動力とするシステムに置き換わると、駆動力発生制御手段としてのエンジン制御手段による挙動制御の対象は内燃機関から電気モータに変る。
【0017】
しかし、エンジンが異なるにも関わらず、先程と同一の予め決められた「車軸トルク」というAPIで所定のLSBやタイミングで必要な車軸トルクが車両モードに応じて設定されており、設定された車軸トルクを電気モータに対する挙動制御を実行するエンジン制御手段に指示するという制御管理手段の処理は変化せず同一である。
【0018】
これに対し、内燃機関または電気モータという異なるエンジンに対して、制御管理手段から指示される車軸トルクを発生するためにエンジン制御手段が具体的に実行する挙動制御は、内燃機関に対する制御と電気モータに対する制御とでは異なる。
【0019】
このように、本発明によると、エンジンの上位である車両全体を設計するシステム設計者は、例えば、予め決められた「車軸トルク」というAPIにより、必要な車軸トルクを所定のデータ定義で車両モードに応じて設定し、エンジン制御手段に所定のタイミングで指示する作業までを設計するだけでよい。システム設計者は、内燃機関または電気モータ等の実際のエンジンに対して、指示される車軸トルクを発生するために具体的にどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要はない。
【0020】
一方、内燃機関または電気モータという個別のエンジンの制御機能または制御装置の設計者は、「車軸トルク」というAPIで所定のLSBやタイミングで必要な車軸トルクが指示されることにより、上位の車両システムの設計に全く依存せず下位の個別のエンジンの設計のみを行うだけでよくなる。したがって、車両構成が変更される場合に、制御対象に対する挙動制御を制御手段において容易に変更できる。
【0021】
これにより、従来は、エンジン等の個別の装置を設計変更すると車両システムまで再評価したり、車両システム側を変更すると逆に個別の装置側の変更が必要であったことに対し、本発明では、車両システムと個別の装置とに対する設計を相互に干渉することなく実施できる。
【0022】
本発明の請求項2に記載の発明によると、車両環境は、車両の走行状態および車両の周辺状況の少なくともいずれか一方である。
車両の走行状態とは、例えば車両の走行速度、運転者により設定される省エネモードおよびスポーツモード等の運転モードを表し、車両の周辺状況とは、車両の周囲の天候、走行道路の種別、走行地域、駐車中、車両移送中、盗難等を表す。このような種々の車両環境毎に、制御管理手段は、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を車両構成の変更に応じて変更する。
【0023】
本発明の請求項3に記載の発明によると、共有記憶手段は、制御手段が挙動制御のために使用する作業記憶領域を車両モード毎に各制御手段に対して設けている。
これにより、車両モード毎に、制御手段が他の制御手段の作業記憶領域に対して誤ったデータの書き込み、データの読み出しを実行することを防止できる。
【0024】
また、車両モードが移行するときに、移行前の車両モードにおいて制御手段が実行した挙動制御による学習値、異常診断カウント数等のデータを移行前の車両モードの該当する作業記憶領域に保存できるので、移行前の車両モードに戻って制御手段が挙動制御を実行する場合に、作業記憶領域に保存されたデータに基づいて該当する車両モードに応じた挙動制御を実行できる。
【0025】
本発明の請求項4に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、車両モード毎に、制御手段が実行する挙動制御毎に設定された異なる識別子をモード情報として記憶している。
【0026】
これにより、制御手段が制御対象に対して車両モードに応じて実行する挙動制御を制御管理手段が識別子に基づいて管理できるので、車両モード毎に、不適切な挙動制御が設定されることを容易に防止できる。
【0027】
本発明の請求項5に記載の発明によると、制御管理手段は、車両上の資源をモード情報に基づいて管理する資源管理手段を有する。
これにより、車両モードに基づいて、例えば資源の生成、消費等を適切に管理することができる。その結果、例えば資源の消費量を極力低減することができる。また、メモリ容量またはCPU等の資源の余裕度が低下している場合には、余裕度が低下している資源の交換を指示できる。
【0028】
本発明の請求項6に記載の発明によると、制御管理手段の資源管理手段は、資源として車両上のエネルギーを管理する。
これにより、車両構成が変更になっても、モード情報に基づいて、資源としてエネルギーの生成、消費等を適切に管理することができる。また、エネルギーを発生するエンジンとして、例えば、内燃機関、ハイブリッドエンジン、電動モータを考える場合、資源管理手段が車両上のエネルギーを管理するので、エンジン形式の違いを制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象としてエンジンの形式が変更されても、制御管理手段の資源管理手段が形式の異なるエンジンの変更を管理するので、制御手段において、車両モードに応じてエンジンの挙動を制御する挙動制御を容易に変更できる。
【0029】
本発明の請求項7に記載の発明によると、制御管理手段の異常管理手段は、制御対象の挙動異常をモード情報に基づいて検出する。
このように、制御対象が変更になっても、制御対象の挙動異常を制御管理手段の異常管理手段がモード情報に基づいて検出するので、制御対象の変更を制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象が変更されても、制御手段において、制御対象の挙動異常に対する挙動制御を容易に変更できる。
【0030】
本発明の請求項8に記載の発明によると、異常管理手段は、挙動異常に対する是正処理をモード情報に基づいて管理する。
このように、制御対象が変更になっても、制御対象の挙動異常に対する処理を異常管理手段がモード情報に基づいて管理するので、制御対象の変更を制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象が変更されても、制御手段において、制御対象の挙動異常に対する是正処理を容易に変更できる。尚、制御対象の挙動異常に対する是正処理とは、挙動異常を発生している制御対象に対する制御指令値の補正量を算出し、算出した補正量に基づく制御を制御手段に指令したり、挙動異常の制御対象を切り離す等の処理を意味する。
【0031】
本発明の請求項9に記載の発明によると、制御手段は車外通信手段により車外と通信し、制御管理手段の情報管理手段は、制御手段が車外通信手段により通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて管理する。
【0032】
このように、制御手段または車外との通信仕様が変更になっても、制御手段が車外通信手段により車外と通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて情報管理手段が管理するので、制御手段または車外との通信仕様の変更を制御管理手段の情報管理手段が吸収できる。その結果、制御手段が変更されても、制御手段において、通信情報の安全性に関する処理を容易に変更できる。
【0033】
本発明の請求項10に記載の発明によると、制御手段は車両上の他の制御手段と車内通信手段により通信し、制御管理手段の情報管理手段は車内通信手段による通信情報の安全性をモード情報に基づいて管理する。
【0034】
このように、制御手段が変更になっても、制御手段が車内通信手段により車両上の他の制御手段と通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて情報管理手段が管理するので、制御手段の変更を制御管理手段の情報管理手段が吸収できる。その結果、制御手段が変更されても、制御手段において、通信情報の安全性に関する処理を容易に変更できる。
【0035】
本発明の請求項11に記載の発明によると、車両に搭載されている制御対象および制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、制御管理手段は、制御手段が車両に搭載された場合、搭載された制御手段が通信する通信情報の安全性を情報管理手段が確認した後に、搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を変更し、搭載情報の変更に応じてモード情報を変更する。
【0036】
これにより、通信の安全性を確認された制御手段だけが、該当する搭載情報およびモード情報を変更され、車両への搭載を許可される。
本発明の請求項12に記載の発明によると、車両に搭載されている制御対象および制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、制御管理手段は、制御対象および制御手段の少なくともいずれかが変更されると、搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を変更し、搭載情報の変更に応じてモード情報を変更する。
【0037】
このように、車両構成が変更になった場合に、変更になった製品が搭載情報として記憶されるので、制御管理手段は、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を変更できる。その結果、車両モードに応じて制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御の抜け、または挙動制御のバージョンアップ等の抜けを防止できる。
【0038】
本発明の請求項13に記載の発明によると、車両モードはモード設定手段により階層構造で設定されている。
このように車両モードを階層構造にすることにより、階層化された車両モード毎に、制御対象、ならびに制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報として記憶し、モード情報に基づいて制御手段が実行する挙動制御を管理するとともに、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を車両構成に応じて変更できる。
【0039】
また、例えば、ある車両モードで電力消費量を管理する場合、四輪のブレーキが電気制御される場合に、各ブレーキアクチュエータの電力消費量を個別に管理する下位階層の車両モードと、四輪のブレーキアクチュエータの電力消費量を一括して管理する上位階層の車両モードとを設定できる。このように、一括して挙動制御を管理できる場合には、上位階層の車両モードを設定することにより、挙動制御の管理が容易になる。そして、制御対象に対して個別に挙動制御が必要な場合には、下位階層の車両モードを設定すればよい。
【0040】
本発明の請求項14に記載の発明によると、車両モードの階層構造はモード設定手段によりデータの階層構造で設定されている。
このように、車両モードの階層構造をデータの階層構造で設定することにより、車両モードの階層毎に車両モードに応じた挙動制御の管理が容易になる。
【0041】
ところで、車両モードが移行するときには、移行先の車両モードにおいて、制御対象に対する挙動制御が同時に実行を開始する訳ではなく、実行制約条件として挙動制御を開始する順番が決められることがある。例えば、挙動制御1の実行により移行先の車両モードにおける制御環境が整ってから、挙動制御2が実行されることがある。
【0042】
そこで、本発明の請求項15に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、車両モードの移行時に、制御手段による挙動制御の実行を制約する実行制約条件をモード情報として記憶している。
【0043】
このように、車両モードの移行時に、挙動制御の実行制約条件をモード情報として記憶しておくことにより、車両モードの移行時において、挙動制御の実行順序を適切に管理できる。
【0044】
本発明の請求項16に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御対象に対して実行の必要な挙動制御をモード情報として記憶している。
これにより、車両モード毎に、制御対象に対して実行する必要のある挙動制御が抜けることを防止できる。
【0045】
本発明の請求項17に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御対象に対する実行の不要な挙動制御をモード情報として記憶している。
これにより、車両モード毎に、制御対象に対して実行する必要のない挙動制御が実行されることを防止できる。
【0046】
ところで、制御管理手段によるモード情報の管理等に異常が発生し、車両モードにおいて、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されることが考えられる。制御対象に対して必要な挙動制御は、車両制御として実行すべき制御である。一方、制御対象に対して不要な挙動制御は、車両制御として実行しないことが望ましい制御である。
【0047】
そして、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されている場合には、必要な挙動制御を優先して実行することが車両制御にとって望ましい場合がある。例えば、エネルギーを消費する制御対象に対して、エネルギーを消費する挙動制御と、エネルギーを消費しない挙動制御とがモード情報として両方ともに記憶されている場合、エネルギーの残量および余裕度を管理するエネルギー管理としては、フェイルセーフの観点からエネルギーを消費する挙動制御が優先されることが望ましいことがある。
【0048】
そこで、本発明の請求項18に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御手段による制御対象に対する必要な挙動制御と不要な挙動制御とをモード情報として記憶しており、制御管理手段は、車両モードにおいて、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御がモード情報記憶手段に記憶されている場合、必要な挙動制御を優先する。
【0049】
このように、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されている場合には、必要な挙動制御を優先することにより、例えばフェイルセーフの観点から、望ましい結果になることがある。
【0050】
ところで、制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段よりも、制御対象の挙動を機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段の方が、制御対象に対して緊密な挙動制御を実行し、制御対象とともに一つの車載製品として構成されていることが多い。したがって、制御対象が変更される場合には、サブドメイン制御手段による挙動制御が変更されることが多くなる。
【0051】
そこで、本発明の請求項19に記載の発明によると、制御手段は、制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で前記制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段と、制御対象の挙動を機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段とを有し、モード情報記憶手段は、サブドメイン制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびにサブドメイン制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて車両モード毎にモード情報として記憶している。
【0052】
これにより、車両構成が変更されるときに、モード情報として、サブドメイン制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびにサブドメイン制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を容易に変更できる。
【0053】
本発明の請求項20に記載の発明によると、サブドメイン制御手段は、制御対象の挙動制御だけを実行する。
これにより、制御対象とともにサブドメイン制御手段が変更されることに伴い、モード情報として記憶されているサブドメイン制御手段による制御対象に対する挙動制御を変更しても、他の制御手段による挙動制御に影響が及ばない。したがって、制御対象とともにサブドメイン制御手段を容易に変更できる。
【0054】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1実施形態による車両制御システムを示すブロック図。
【図2】モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を示す模式図。
【図3】車両モードの階層構造を示す模式図。
【図4】車両モード移行時の制約条件を示す模式図。
【図5】不要な挙動制御の登録例を示す模式図。
【図6】必要な挙動制御と不要な挙動制御との衝突例を示す模式図。
【図7】挙動制御の管理ルーチンを示すフローチャート。
【図8】搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を示す模式図。
【図9】制御管理手段による搭載管理を説明するブロック図。
【図10】搭載管理ルーチンを示すフローチャート。
【図11】車両構成変更時におけるインタフェースの変更例を示すブロック図。
【図12】車両構成変更時におけるインタフェースの他の変更例を示すブロック図。
【図13】共有記憶手段における作業記憶領域を示す模式図。
【図14】資源管理手段の構成を示すブロック図。
【図15】エネルギー管理手段の構成を示すブロック図。
【図16】資源管理ルーチンを示すフローチャート。
【図17】情報管理手段の構成を示すブロック図。
【図18】異常管理手段の構成を示すブロック図。
【図19】異常管理ルーチンを示すフローチャート。
【図20】第2実施形態による車両制御システムを示すブロック図。
【図21】第3実施形態によるECUの構成例を示すブロック図。
【図22】第3実施形態によるECUの詳細な構成例を示すブロック図。
【図23】第3実施形態によるモード情報を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による車両制御システムを図1に示す。
【0057】
(車両制御システム10)
車両制御システム10は、パワートレイン(Power Train)ECU(Electronic Control Unit)20、シャーシ(Chassis)ECU30、ボディ(Body)ECU40、インフォテインメント(Infotainment)ECU50、サブドメインECU60、62、64、66、イントラボックス(Intra Box)100等から構成されている。パワートレインECU20、シャーシECU30、ボディECU40、インフォテインメントECU50は、それぞれ車両に搭載されている制御対象の機能、言い換えれば車両における制御対象の役割に応じて分類された機能ドメインであるパワートレインドメイン、シャーシドメイン、ボディドメイン、インフォテインメントドメイン単位で、実装した処理プログラムにより制御対象の挙動を制御するために、機能ドメイン内のサブドメインECUまたは制御対象に対して制御処理を実行する機能ドメインECUである。
【0058】
各機能ドメインは、制御対象の機能に応じて機能ドメインよりも詳細なサブドメインに分類されている。そして、各機能ドメインにおいて、サブドメインECU60、62、64、66は、実装した処理プログラムによりサブドメイン毎に制御対象の挙動を制御する。
【0059】
パワートレインECU20とシャーシECU30とボディECU40とインフォテインメントECU50とイントラボックス100とは、例えばFlexRay(登録商標)によるグローバルネットワーク300により互いに通信可能に接続されている。また、各機能ドメインECUとそのサブドメインECUとは、例えばCAN(Controller Area Network)、MOST(Media Oriented Systems Transport)等によるローカルネットワーク310により互いに通信可能に接続されている。グローバルネットワーク300とローカルネットワーク310とは、同じ通信仕様のネットワークでもよい。また、各機能ドメインECUは、車外通信手段320により、VICS(登録商標)等の車外の設備と通信する。図1では、シャーシECU30およびボディECU40の車外通信手段320を省略している。
【0060】
尚、機能ドメインの分類は上記に限るものではなく、機能ドメインに含まれる制御対象も種々の組み合わせが考えられる。また、すべての制御対象を機能ドメインに分類する必要はなく、一部の制御対象だけを機能ドメインに統合してもよい。
【0061】
(機能ドメインECU、サブドメイECU)
パワートレインECU20は、制御対象である燃料ポンプ、インジェクタ、変速機等の挙動をパワートレインドメイン単位で統合して制御する。
【0062】
シャーシECU30は、制御対象であるステアリング、ブレーキ等の挙動をシャーシドメイン単位で統合して制御する。
ボディECU40は、制御対象である空調、ドア等の挙動をボディドメイン単位で統合して制御する。
【0063】
インフォテインメントECU50は、制御対象であるオーディオ装置、ナビゲーション装置等の挙動をインフォテインメントドメイン単位で統合して制御する。
サブドメインECU60、62、64、66は、各機能ドメインを構成するサブドメインの制御対象の挙動を、例えば高圧ポンプの吐出量、各車輪のブレーキ、ステアリング、各ドア、CDプレイヤー毎に個別に制御する。例えば、パワートレインのサブドメインECU60は、燃料ポンプ60a、インジェクタ60bや点火プラグ(図示せず)等の挙動を個別に制御する。サブドメインECU60、62、64、66には、制御対象に対する挙動制御だけを実行し、その他の制御処理を実行しない専用装置も含まれる。サブドメインECUが専用装置の場合、制御対象が交換されるとサブドメインECUも交換される。
【0064】
各機能ドメインECUおよびサブドメインECUは、図示しないCPU、ROM、RAM、およびフラッシュメモリ等からなるマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」とも言う。)により主に構成されている。そして、ROMまたはフラッシュメッモリに記憶されている処理プログラムにより、制御対象に対する挙動制御を実行する。
【0065】
(イントラボックス100)
イントラボックス100は、モード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150等から構成されており、機能ドメインECUおよびサブドメインECUに共通する共通処理を実行する。そして、イントラボックス100は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUとは異なるマイコンにより構成されている。
【0066】
このように、イントラボックス100は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUとは独立したマイコンにより構成されているので、機能ドメインECU、サブドメインECUおよび制御対象を含む車両構成が変化しても、車両構成の変更による影響を殆ど受けない。
【0067】
(モード設定手段110)
(1)車両環境
モード設定手段110は、車両の置かれた車両環境に基づいて車両モードを設定する。車両環境とは、車両の走行状態および周辺状況のうち少なくともいずれか一方を表している。車両の走行状態とは、走行速度、あるいは運転者により設定される運転モードである省エネモードおよびスポーツモード等の車両自体に基づいた環境を表す。車両の周辺状況とは、車両の周囲の天候、走行道路の種別、走行地域、駐車中、車両移送中、盗難等の車両が置かれた車両以外の環境を表す。
【0068】
(2)履歴
モード設定手段110は、車両が現在置かれている車両環境だけではなく、過去から現在までの車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定してもよい。これにより、モード設定手段110は、一時的な車両環境ではなく、継続した車両環境の履歴に基づいて適切な車両モードを設定できる。
【0069】
モード設定手段110は、予め初期設定されている既存の車両モードから適切な車両モードを選択することに加え、車両環境の履歴情報に基づいて、既存の車両モードを変更したり、新規の車両モードを追加することにより車両モードを設定してもよい。
【0070】
(3)運転者毎の履歴
モード設定手段110は、運転者毎の車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定してもよい。これにより、モード設定手段110は、車両毎、あるいは同じ車両であっても運転者毎に蓄積された車両環境の履歴に基づいて、運転者の運転特性に応じた適切な車両モードを設定できる。車両を運転する運転者の識別は、運転者の指紋、走行パターン等によって行われる。
【0071】
例えば、信号が赤から青に変わった後の停止から発進時の加速度、もしくは一般の発進時の加速度、定速度走行中の車間距離、前方車両が停止時の減速加速度、通常停車時の減速加速度等、これら車両走行に影響を与える運転者のパラメータの履歴情報収集と分類分けとにより、モード設定手段110は車両モードの切替え、または修正等を実施して車両モードを設定する。
【0072】
運転者毎の車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定する場合、モード設定手段110は、少なくとも一つの車両環境、例えば走行速度の運転者毎の履歴に基づいて走行速度の使用確率を解析し、この解析結果に基づいて車両モードを順次変更して設定してもよい。
【0073】
モード設定手段110は、運転者毎に解析した結果に基づいて車両モードを設定することにより、車両環境の変化を予測して車両モードを設定できる。これにより、車両環境の変化予測に合わせ、初期設定の車両モードから派生させて、例えば運転者毎に資源消費量を低減する適切な車両モードを設定できる。
【0074】
また、モード設定手段110は、少なくとも一つの車両環境、例えば走行地域、走行道路種別を運転者毎にインフォテインメントECU50のナビゲーション装置の地図情報から取得し、この取得結果から車両モードを順次変更して設定してもよい。
【0075】
(制御管理手段120)
制御管理手段120は、資源管理手段200、情報管理手段210および異常管理手段220を有している。そして、制御管理手段120は、モード設定手段110が設定した車両モードに応じて、後述するモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を管理し、車両モードに応じて制御対象に対して実行する挙動制御を機能ドメインECUおよびサブドメインECUに指示する。
【0076】
(モード情報記憶手段130)
図2において、車両モードとしては、走行状態における車両モードを、発進・急加速モード(M1)、高速一定走行モード(M2)、市街地における加減速走行モード(M3)、停止時の充電モード(M4)を例として示している。図2において「−」は、該当する車両モードにおいて制御対象に対して挙動制御を実行しないアイドル処理を表している。
【0077】
図2に示すように、モード情報記憶手段130には、車両モード毎に、制御対象であるエンジン、モータ、電源等と、制御対象に対して機能ドメインECUおよびサブドメインECUが実行する挙動制御とがモード情報として記憶されている。モード情報として記憶されている各挙動制御には、車両モード毎に異なる識別子が「Mxx」として設定されている。例えば、図2に示す「発進・急加速モード(M1)」において、エンジンに対する「所定回転出力に対する効率運転」にはM11、モータに対する「エンジン始動と不足動力のアシスト」にはM12、「市街地加減速走行モード(M3)」において、エンジンに対する「所定回転出力での断続運転」にはM31、モータに対する「エンジン出力時の過不足補正」にはM32が設定されている。「−」で表されるアイドル処理にも、それぞれ異なる識別子が設定されている。制御管理手段120は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する各挙動制御を識別子で管理することにより、車両モード毎に、不適切な挙動制御が設定されることを容易に防止できる。
【0078】
制御管理手段120は、車両において制御対象、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが追加、交換、削除等により変更されると、モード情報記憶手段130にモード情報として記憶されている制御対象または制御対象に対する挙動制御を変更に応じて書き換える。このとき、制御管理手段120は、車両構成が変更されると、後述する搭載情報記憶手段140の搭載情報を変更し、変更された搭載情報に基づいてモード情報を変更する。
【0079】
複数の機能ドメインECUおよびサブドメインECUが連携して制御対象に対して挙動制御を実行し、連携制御を実行するECUの一部が変更される場合には、制御管理手段120は、必要であれば、変更されなかったECUのモード情報記憶手段130に記憶されている連携制御に関するモード情報を変更する。そして、制御管理手段120は、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUによる制御対象に対する挙動制御を管理する。
【0080】
図2には、エンジンがマイルドHV(Hybrid Vehicle)であり、電源であるバッテリにプラグから充電する車両システム1におけるモード情報を示した。マイルドHVは、内燃エンジンの出力が不足するときに、モータで出力を補う構成である。これに対し、エンジンがモータであるEV(Electric Vehicle)の車両システム2の場合には、モード情報記憶手段130に記憶されるモード情報は異なる。ただし、発進・急加速モード、高速一定走行モード、市街地における加減速走行モード、停止時の充電モードなどの車両モードは同じである。
【0081】
(車両モードの階層化)
図2においては、モード情報記憶手段130に記憶されている車両モードは、発進・急加速モード、高速一定走行モード、市街地における加減速走行モード、停止時の充電モードのように同じ階層にある。これに対し、車両モードを上位の階層と、それに含まれる下位の階層のように階層構造にすることが考えられる。例えば、ある車両モードで電力消費量を管理する場合、四輪のブレーキが電気制御される場合に、各ブレーキアクチュエータの電力消費量を個別に管理する下位階層の車両モードと、四輪のブレーキアクチュエータの電力消費量を一括して管理する上位階層の車両モードとを設定できる。このように、一括して挙動制御を管理できる場合には、上位階層の車両モードを設定することにより、挙動制御の管理が容易になる。そして、制御対象に対して個別に挙動制御が必要な場合には、下位階層の車両モードを設定すればよい。
【0082】
このように、車両モードを階層化する場合、図3に示すように、階層に応じて各モード(MODE)に数字を設定してデータの階層構造にすることが望ましい。これにより、車両モードの階層構造をデータの階層構造に基づいて容易に管理できる。
【0083】
図3において、数字の桁数が増えるほど下位の階層になる。数字が同じ場合には同じ車両モードを表し、数字は異なるが桁数が同じ場合には同じ階層において異なる車両モードを表している。各階層の車両モードにおいて、制御手段であるECU70(ECU1)、ECU80(ECU2)がそれぞれ制御対象に対して実行する挙動制御がモード情報記憶手段130に記憶されている。図3において、ECU70は、例えばモード1においてモード1に応じた挙動制御を制御対象1に対して実行し、モード12においてモード12に応じた挙動制御を制御対象12に対して実行する。例えば、電力消費を管理するモード1においては、4輪全てのブレーキアクチュエータの電力消費量が一括して管理され、それよりも下位の階層であるモード12においては、右側の前輪および後輪のブレーキアクチュエータの電力消費量が一括して管理される。
【0084】
モード1、モード2は最上位の階層である。そして、モード1の下位の階層としてモード11、モード12が設定されている。さらに、モード11の下位の階層としてモード111、モード112、モード113が設定され、モード12の下位の階層としてモード121、モード122が設定されている。車両モードの階層は、数字以外にもどのようなデータで表してもよい。
【0085】
(車両モードの移行時の実行制約条件)
図4に示すように、車両モードがモード1からモード2に移行する場合、ECU70は、モード1の下位の階層であるモード12において制御対象12に対する挙動制御を終了し、モード12から上位の階層であるモード1に移行する。図4では、[1]で表されている。そして制御対象1に対する挙動制御を終了してから、モード2に移行して制御対象2に対する挙動制御を開始する。図4では、[2]で表されている。
【0086】
一方、ECU80は、ECU70がモード12において制御対象12に対する挙動制御を終了し、モード12から上位の階層であるモード1に移行して制御対象1に対する挙動制御を終了してからモード2に移行するまで、モード1において制御対象21に対する挙動制御の実行を継続する。そして、ECU70がモード2に移行すると、ECU80は、モード1において制御対象21に対する挙動制御を終了し、モード2に移行して制御対象22に対する挙動制御を開始する。図4では、[3]で表されている。
【0087】
このように、車両モードが移行するときには、移行先の車両モードにおいて、複数の制御対象に対してそれぞれの挙動制御が同時に実行を開始する訳ではなく、挙動制御を実行する順番が決められることがある。そして、車両モードの移行時に、挙動制御を実行する順番等の実行制約条件をモード情報として記憶しておくことにより、車両モードの移行時において、挙動制御の実行順序を適切に管理できる。
【0088】
(不要な挙動制御)
図5に示すように、車両構成に変更があり、ECU80がモード2において制御対象22に対して実行する挙動制御が不要になることがある。例えば、アイドルストップを実行する車両制御システムに変更になったことにより、停止時においてインジェクタに対する噴射制御は不要になる。
【0089】
挙動制御が不要になる場合、モード情報として、ECU80がモード2において制御対象22に対して実行する挙動制御のモード情報を削除してもよいし、該当するモード情報に対して「不要」と登録してもよい。
【0090】
該当する挙動制御がモード情報として「不要」と登録される場合、図5において、モード1からモード2に移行するときに、ECU80は、モード2において制御対象22に対する挙動制御が不要と登録されているので、モード2において制御対象22に対する挙動制御を実行しない。そして、例えば、モード2に移行せずモード1において挙動制御を実行しないアイドル処理を実行する。
【0091】
このように、不要になった挙動制御をモード情報として「不要」と登録することにより、制御対象に対して不要な挙動制御を実行することを確実に防止できる。
(必要な挙動制御と不要な挙動制御の衝突)
図6に示すように、例えば車両構成の変更にともない制御対象2が削除される場合、本来ならば、モード2において制御対象2に対する挙動制御は不要と登録されるところ、モード情報の書き換えの誤りで、制御対象2に対する挙動制御が必要であるモード情報と、不要であるモード情報とが混在することが考えられる。この場合、モード2において制御対象2に対する挙動制御は必要であるとのモード情報を優先し、モード2において制御対象2に対する挙動制御を実行する。
【0092】
例えば、ガソリンエンジンで使用していたイントラボックス100をディーゼルエンジンに移植する場合、ガソリンエンジンでエネルギー管理に組み込まれていた点火プラグの電力消費量の管理は、ディーゼルエンジンでは考慮する必要がない。したがって、ディーゼルエンジンにおけるモード情報として、点火プラグの電力消費の管理は不要になるべきである。しかし、モード情報の書き換えの誤りで、点火プラグの電力消費の管理が必要であるとのモード情報と、不要であるとのモード情報とが混在する場合、制御管理手段120は、点火プラグの電力消費の管理が必要であるとのモード情報を優先し、点火プラグの電力消費を管理する。これにより、ディーゼルエンジンを搭載している車両全体の電力消費量として、本来不要な点火プラグの消費量が含まれることになる。しかし、本来不要な点火プラグの消費量を含めて消費量が増える方向に算出することは、電力消費量の管理としてはフェイルセーフ側に機能することになる。
【0093】
全ての挙動制御について、必要な挙動制御と不要な挙動制御とが混在する場合に必要な挙動制御を優先すると決定することはできないが、挙動制御によっては、必要な挙動制御を優先することが望ましい場合もある。
【0094】
(挙動制御管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の制御管理手段120が実行する、前述した車両モードに応じた挙動制御の管理について、図7に示す挙動制御管理ルーチンに基づいて説明する。図7に示す挙動制御管理ルーチンは常時実行される。図7において、「S」はステップを表している。
【0095】
図7のS400においてイントラボックス100は、車両環境の履歴を収集し、その履歴を解析することにより、車両モードの切り替えを解析結果に基づいて修正する。
S402においてイントラボックスは、S400における車両モードの修正結果に基づいて車両モードを設定する。
【0096】
イントラボックス100は、S404において、S402で設定した車両モードを判定し、車両モードに基づいて分岐したS406、S408、S410において、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理し、本ルーチンを終了する。
【0097】
(搭載情報記憶手段140)
図8に示すように、搭載情報記憶手段140には、制御対象としてNEセンサ、水温センサ、インジェクタ、燃料ポンプ、ならびに制御手段としてサブドメインECU、機能ドメインECUの製造会社名、型式、ハードウェエアバージョンまたはソフトウェアバージョンが搭載情報として記憶されている。搭載情報記憶手段140に記憶されている搭載情報は、車両に搭載可能な制御対象、サブドメインECU、機能ドメインECUを特定するための情報である。
【0098】
例えば、インジェクタが別の製造会社のインジェクタに交換されたことを制御管理手段120がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して検出すると、制御管理手段120は、交換前のインジェクタと同じ記憶領域に次のインジェクタの搭載情報を上書きする。
【0099】
また、図9に示すように、制御管理手段120は、車両制御システム10のシステム構成を管理する。図9において、符号230、232、234、236、240、242、244、246は、例えば機能ドメインECUを表している。
【0100】
制御管理手段120は、機能ドメインECU230、232の供給元1、2の違い、機能ドメインECU234、236のオプション搭載の有無、機能ドメインECU240の後付搭載、機能ドメインECU242のうち一部のソフトウェア(SW)のV(バージョン)1.0からV1.1へのアップデート、不具合等によるV2.0の機能ドメインECU244からV3.0の機能ドメインECU246への製品の交換等を検出する。
【0101】
そして、変更された製品がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310により他の製品と通信する際の通信情報、ならびに変更された製品が車外通信手段320によりVICS等の車外の設備と通信する際の通信情報の安全性が後述する情報管理手段210により確認されると、制御管理手段120は、初めて該当する搭載情報を書き換えて変更する。制御管理手段120は、搭載情報を変更すると、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段130に記憶されている該当するモード情報を変更する。
【0102】
また、制御管理手段120は、変更された製品が接続するネットワークの通信設定を管理する通信設定手段としても機能する。
(搭載管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の制御管理手段120が実行する搭載情報の管理について、図10に示す搭載管理ルーチンに基づいて説明する。図10に示す搭載管理ルーチンは常時実行される。図10において、「S」はステップを表している。
【0103】
図10のS420においてイントラボックス100は、グローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して車両構成に変更があるかを判定する。車両構成に変更がない場合(S420:No)、イントラボックス100は本ルーチンを終了する。
【0104】
車両構成に変更がある場合(S420:Yes)、S422においてイントラボックス100は、搭載された製品が車内通信手段であるグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して、あるいは車外通信手段320を介して通信する通信情報が正常であり安全であるかを判定する。通信情報が正常であるか否かの判定は、後述する制御管理手段120の情報管理手段210が実行する。
【0105】
搭載された製品による通信情報が安全である場合(S422:Yes)、イントラボックス100は、搭載された製品に該当する搭載情報記憶手段140の記憶領域の搭載情報を変更し(S424)、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段130に記憶されている該当するモード情報を変更する(S426)。
【0106】
搭載された製品による通信情報が正常でなく安全ではない場合(S422:No)、S428においてイントラボックス100は、該当する製品の搭載を禁止する。
(車両構成変更時のソフトウェア・インタフェースの変更)
ここで、図9に示すように車両構成が変更になり、ECUの間のソフトウェア・インタフェースが変更になる場合の調整について、図11および図12に基づいて説明する。
【0107】
車両構成が変更になり、ECUの間のソフトウェア・インタフェースが車両モードに関わらず変更になる場合、ECUの間でソフトウェア・インタフェースを調整し、制御管理手段120の処理負荷を低減することが考えられる。
【0108】
図11は、ECU162(ECU2からECU2’に変更)に変更があり、ECU162側でECU160から送信されるデータ Cが不要になった例である。データ A、Bのインタフェースに変更はない。この場合、ECU162は、ECU160から送信されるデータ Cを無視してもよいし、データ Cが不要になったことをECU160に通知してもよい。
【0109】
図12は、ECU160(ECU1からECU1’に変更)に変更があり、ECU162が必要なデータ CをECU160が送信しなくなった例である。データ A、Bのインタフェースに変更はない。この場合、ECU162は、ECU160から送信されないデータ Cの値として予め設定した初期値を使用してもよいし、データ Cの初期値をECU160に要求してもよい。
【0110】
尚、車両構成が変更になり、車両モードに応じてECUの間のソフトウェア・インタフェースが変更になる場合は、制御管理手段120がソフトウェア・インタフェースを調整する。
【0111】
(共有記憶手段150)
図13に示す共有記憶手段150は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対する挙動制御のために共有する記憶手段である。各ECUには、車両モード毎に専用の作業記憶領域が割り当てられている。したがって、ECUが他のECUの作業記憶領域に対して誤ったデータの書き込み、データの読み出しを実行することを防止できる。
【0112】
また、車両モードが移行するとき、例えば図2において「市街地加減速走行モード」から「高速一定走行モード」に移行するとき、エンジンECUは、「市街地加減速走行モード」において実行した学習値、異常診断カウント数等のデータを「市街地加減速走行モード」におけるエンジンECUの作業記憶領域に保存してから、「高速一定走行モード」の作業記憶領域を使用して「高速一定走行モード」における挙動制御を実行する。そして、「高速一定走行モード」から「市街地加減速走行モード」に移行し、エンジンECUがエンジンに対して挙動制御を実行するときに、作業記憶領域に保存されたデータを読み出すことにより、エンジンECUは、車両モードの移行前に「市街地加減速走行モード」で実行していた環境を継続して挙動制御を実行できる。
【0113】
制御管理手段120は、新規に制御対象およびECUが追加されるときには、共有記憶手段150の空き領域に新たに作業記憶領域を設ける。これに対し、ECUが変更されても、例えば変更前のECUと同じ制御対象に対して挙動制御を実行する場合、制御管理手段120は、変更前のECUと同じ作業記憶領域を割り当てる。
【0114】
(資源管理手段200)
(1)資源管理
制御管理手段120に設けられた資源管理手段200は、図1に示す車両制御システム10における機能ドメインECUおよびサブドメインECUが使用する資源として、例えば、図14に示すように、グローバル電力340、グローバルRAM342、グローバルフラッシュメッモリ344、CPU等のグローバル演算手段346、グローバル熱348等を車両モードに基づいて管理する。イントラボックス100が共通に管理する資源であるから、各資源の名前にグローバルが付している。図14に示す機能ドメインECU330、332、334、336は、例えば図1の各機能ドメインECUに相当する。
【0115】
資源管理手段200は、変化する車両モードに基づいて、機能ドメインECUによる挙動制御を管理して資源の消費量を適宜調整し、機能ドメインECUが消費する資源の残量を適切に管理することができる。その結果、資源の低減を極力抑えることができる。
【0116】
また、資源管理手段200は、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、資源を分配する機能ドメインECUに優先順位を設定したり、分配量を設定することにより、機能ドメインECUに適切に資源を分配することが望ましい。
【0117】
(2)エネルギー管理
資源管理手段200は、車両上のエネルギーである電気、熱、燃料等の資源、およびその他の資源の消費量、残量、分配量、分配するときの優先順位を管理する。例えば、車両の移送時を表す車両モードである移送モードでは、ボディECU40、インフォテインメントECU50等の車両の駆動系以外への電力供給をすべて停止することにより、電力消費を極力低減できる。
【0118】
また、高速走行中を表す高速走行モードにおいては、例えば、車両のトランクの開閉制御およびドアの開閉制御は不要である。したがって、高速走行モードにおいてトランクの開閉制御およびドアの開閉制御を停止することにより、ボディECU40のトランクの開閉制御ECUおよびドアの開閉制御ECUの消費電力を高速走行以外の車両モードよりも低減できる。
【0119】
また、車両モードに応じて各種制御をスリープ状態とウェイクアップ状態とに切り替えれば、スリープ状態においてはウェイクアップさせるための制御以外の消費電力を削減できる。
【0120】
このように資源管理手段200は、車両モード毎に稼働の必要な制御と不必要な制御とを分類し、不必要な制御には電力を供給しないことにより、車両上で主に保管される電気エネルギーの消費を車両モードに基づいて適切に管理できる。
【0121】
また、各種制御を実行するECUがスリープ状態において定期的にウェイクアップ状態に移行するかを自身で判定する場合には、スリープ状態のECUの動作速度を低速にしてもよい。これにより、電気エネルギーの消費抑制を車両モードに基づいて適切に管理できる。
【0122】
また、図15に示すように、資源管理手段200は、車上エネルギーの管理処理として、グローバル生成350、グローバル供給352、グローバル保存354、グローバル消費356、グローバル回生358の各管理処理を実行する。車上エネルギーとしては、前述したように、電力、熱等が考えられる。
【0123】
資源管理手段200は、グローバル生成350およびグローバル保存354による車上エネルギーの生成量および保存量に基づいて、機能ドメインECUからのエネルギー消費要求をグローバル消費356として車両全体の観点から管理し、重要性および必要性に応じて消費量を調整する。そして、保存されている車上エネルギーを車両全体の観点からグローバル供給352として要求元に供給する。また、資源管理手段200は、車両のトルク発生源の少なくとも一部としてモータを使用する車両において、バッテリの残容量、車両の走行状態等の車両全体の観点から、モータによる電気エネルギーのグローバル回生358を適切に管理する。このように、資源管理手段200は、並列して実行されるエネルギーの生成、供給、保存、消費、回生を管理する。
【0124】
(3)履歴による資源管理
資源管理手段200は、モード設定手段110が車両環境の履歴に基づいて設定した車両モードに基づいて資源を管理する。資源管理手段200は、車両環境の履歴に応じて、例えば資源消費量を抑制することで、資源を適切に管理できる。
【0125】
(4)運転指示
資源管理手段200は、モード設定手段110が設定した車両モードに基づいて、資源消費量を低減する運転を、音声またはディスプレイ等により指示してもよい。
【0126】
(5)資源消費量の切り替え
資源管理手段200は、資源消費量を切り替え可能な機能ドメインECUに対し、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、機能ドメインECUの消費量の切り替えを指示してもよい。
【0127】
資源管理手段200は、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、資源消費量を大、中、小から選択して機能ドメインECUに指示することにより、機能ドメインECUのエネルギー消費を適切に管理できる。
【0128】
例えば、車両のエアコンの挙動を制御する機能ドメインECUとしてのエアコンECUに対し、資源管理手段200は、エアコンECUよりも優先順位の高い他の機能ドメインECUによる電力消費量が多くエアコン制御手段に使用要求値のすべての電力を供給すると電力の残量が所定値以下になる場合には、エアコン制御手段の電力消費量を使用要求値よりも一時的に低減するように指示する。その後、資源管理手段200は、電力の残量に余裕度に応じて制限していた電力使用量を補填することにより、エアコン能力を維持することも可能である。
【0129】
(6)電力の入出力時間応答特性
資源管理手段200は、車両モードに基づき、電力を供給する緊急度および容量に応じて、電力を供給する電源としてキャパシタまたはバッテリのいずれかを選択する。速やかに電力を供給する場合には、電力の入出力時間応答特性の早いキャパシタから電力を供給し、急ぐ必要はないが多くの電力を供給する場合には、電力の入出力時間応答特性がキャパシタよりも遅いバッテリから電力を供給する。
【0130】
電力の入出力時間応答特性以外にも、発電機および回生ブレーキによる電力生成の時間自由度および生成効率、機能ドメイン制御手段毎の電力消費特性等を考慮し、資源管理手段200は、電力の生成と消費との収支が車両モードに基づいて適切となるように電力を管理することが望ましい。
【0131】
(資源管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の資源管理手段200が車両の資源を管理する資源管理ルーチンについて図16に基づいて説明する。図16に示す資源管理ルーチンは常時実行される。図16において、「S」はステップを表している。
【0132】
図16のS430においてイントラボックス100は、車両環境の履歴を収集し、その履歴を解析することにより、車両モードの切り替え、個々の車両モードにおける資源の分配量、資源を分配する優先順位等を解析結果に基づいて修正する。
【0133】
S432においてイントラボックス100は、資源の残量を把握する。S434においてイントラボックスは、S430における車両モードの修正結果と、S432で把握した資源残量とに基づいて車両モードを設定し、車両モード毎に、分配する資源と、資源を分配する機能ドメインECUをモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて決定する。
【0134】
イントラボックス100は、S436において、S434で設定した車両モードを判定し、車両モードに基づいて分岐したS438、S440、S442において、機能ドメインECUに車両モードに基づいて適切な量の資源を分配する。
【0135】
このときイントラボックス100は、資源使用量を切り替え可能な機能ドメインECUに対し、設定した車両モードに応じて資源の使用量の切り替えを指示する。例えば、イントラボックス100は、機能ドメインECUに対し、要求値のすべての資源を分配するか、要求値のすべてではないが正常な制御に必要な許容できる程度の資源を分配するか、正常な制御には不足するが制御不能ではない程度の資源を分配するなど、資源の分配量を管理することにより、設定した車両モードに応じて資源の使用量の切り替えを機能ドメインECUに指示する。
【0136】
また、イントラボックス100は、機能ドメインECUの使用要求値および消費特性に応じた最適な供給元から資源を供給させることが望ましい。例えば、前述したように、緊急であればキャパシタから電力を供給し、緊急を要しない場合にはバッテリから電力を供給する。
【0137】
S444においてイントラボックス100は、車両モードに応じて資源消費量を低減する運転を運転者に指示し、本ルーチンを終了する。
(情報管理手段210)
図17に示すように、情報管理手段210は、個々の機能ドメインECU330、332、334、336において、または機能ドメインECU間において、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320を介して通信される通信情報が適正に処理されているかを、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理する。例えば、情報管理手段210は、メモリの不正な入れ替え等により処理プログラムが不正に改竄され、その結果として不正な情報がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310において送受信されていないかをチェックする不正改竄チェック360、あるいは、処理プログラムがウィルスに感染している結果、メモリの書き込み禁止領域に書き込み要求が実行されたかをチェックする不正アクセスチェック362を実行する。これ以外にも、情報管理手段210は、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320の通信仕様の変更を管理したり、車両所有者を認識するための個人情報の開示制限などを実行する。
【0138】
このように、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320における通信情報の安全性を情報管理手段210が管理するので、車両構成が変更されても、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUは、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できる。
【0139】
尚、車両構成が変更されても、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できるので、挙動制御の変更量を低減できる場合もある。
【0140】
(異常管理手段220)
図18に示すように、異常管理手段220は、機能ドメインECU330、332、334、336の挙動制御による制御対象の挙動異常をモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理することにより、車両制御システム10の観点から車両のグローバル挙動370の異常を判定し、グローバル診断372により異常原因を診断する。異常管理手段220は、機能ドメインECUに限らず、サブドメインECUの挙動制御による制御対象の挙動異常を管理してもよい。
【0141】
グローバル挙動370は、機能ドメインECU330、332、334、336のうち複数の機能ドメインECUによる挙動制御の結果として生じる車両の挙動である。例えば、各タイヤに対するブレーキ制御およびインジェクタに対する噴射制御の結果として生じる車両の横ずれ、スピンがグローバル挙動370である。また、グローバル診断372は、グローバル挙動370の異常を検出すると、挙動異常の原因を、複数の機能ドメインECUによる挙動制御に基づいて診断する。例えば、各タイヤに対するブレーキ制御およびインジェクタに対する噴射制御が正常であっても、結果として車両がスピンする場合には、グローバル診断372はグローバル挙動370の異常と判定し、グローバル挙動370を是正して正常になるようにブレーキおよびインジェクタに対する制御指令値の補正量を算出し、制動力を制御するシャーシドメインのブレーキECUおよびインジェクタの噴射量を制御するパワートレインドメインのインジェクタECUに補正量に基づく制御を指令する。
【0142】
このように、異常管理手段220が、機能ドメインECUまたはサブドメインECUの挙動制御による制御対象の挙動異常を検出し、挙動異常を是正する処理を管理するので、車両構成が変更されても、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUは、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できる。
【0143】
尚、車両構成が変更されても、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できるので、挙動制御の変更量を低減できる場合もある。
【0144】
(異常管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の異常管理手段220が実行する異常管理について、図19に示す異常管理ルーチンに基づいて説明する。図19に示す異常管理ルーチンは常時実行される。図19において、「S」はステップを表している。
【0145】
図19のS400およびS402は、図7に示す挙動制御管理ルーチンと実質的に同一処理を実行するので、説明を省略する。
異常管理手段220は、車両モードに応じてS450から分岐したS452、S454、S456において、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUの挙動制御により制御対象の挙動異常が生じているか否かを診断する。異常管理手段220は、挙動異常を検出すると、制御対象に対するECUの制御指令値の補正量を算出し、補正量に基づく制御をECUに指令するか、あるいは挙動異常の原因となっている制御対象またはECUを車両構成から切り離す等の挙動異常を是正する適切な異常管理処理を実行し、本ルーチンを終了する。
【0146】
本実施形態では、パワートレインECU20、シャーシECU30、ボディECU40インフォテインメントECU50、サブドメインECU60、62、64、66、ECU70、80、機能ドメインECU230、232、234、236、240、242、244、246、330、332、334、336は本発明の制御手段に相当し、イントラボックス100は車両制御装置に相当する。また、グローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310が本発明の車内通信手段に相当する。また、図7のS400およびS402はモード設定手段としての機能に相当し、S404〜S410は、制御管理手段としての機能に相当する。また、図10のS420、S424〜S428は、制御管理手段としての機能に相当し、S422は情報管理手段としての機能に相当する。また、図16のS430〜S434はモード設定手段としての機能に相当し、S436〜S442は資源管理手段としての機能に相当する。また、図19のS450〜S456は、本発明の異常管理手段としての機能に相当する。
【0147】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による車両制御システムを図20に示す。第1実施形態と実質的に同一部分には同一符号を付す。
【0148】
第2実施形態の車両制御システム250では、機能ドメインECUおよびサブドメインECUに共通する共通処理を実行するイントラボックス100を設けていない。そして、第1実施形態でイントラボックス100に設けたモード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を、機能ドメインECUであるパワートレインECU260に設けている。パワートレインECU260に限らず、他の機能ドメインECUに、モード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を設けてもよい。
【0149】
本実施形態では、パワートレインECU260は本発明の車両制御装置に相当する。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を図21〜図23に示す。第1実施形態および第2実施形態では、制御手段である機能ドメイン毎およびサブドメイン毎に制御対象の挙動を制御するECUをそれぞれ設けた。これに対し、第3実施形態では、複数の機能ドメインまたはサブドメインの制御対象に対する挙動制御を1個のECUで実行している。
【0150】
例えば図21では、図3において、異なるECU70(ECU1)とECU80(ECU2)とにより実現していた制御手段172(制御手段1)および制御手段174(制御手段2)の機能を、1個のECU170に搭載している。制御手段172、174は、機能ドメイン制御手段またはサブドメイン制御手段のいずれでもよいし、機能ドメイン制御手段およびサブドメイン制御手段の両方の機能を1個のECU170に搭載してもよい。
【0151】
図22に、ガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーの挙動を制御するECU170の構成例を示す。1個のECU170に、制御管理手段180とエンジン制御手段182とエアバッグ制御手段184とドア制御手段186とが搭載されている。
【0152】
図22において点線で示されている制御対象は、ガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーでは制御対象にならないが、ディーゼルエンジンを搭載した4ドアのファミリーカーでは制御対象として追加される。ただし、エンジンはガソリンエンジンからディーゼルエンジンに変更になる。
【0153】
図22に示すように、1個のECU170に、制御管理手段180とエンジン制御手段182とエアバッグ制御手段184とドア制御手段186とが搭載される場合も、図23に示すように、ECU170に設けられるモード情報記憶手段190には、車両モード毎に、制御対象であるガソリンエンジン、エアバッグ(運転席・助手席)、ドア(運転席・助手席)等と、制御対象に対して制御手段が実行する挙動制御とがモード情報として記憶されている。図23では、車両モードを示す識別子を省略している。
【0154】
制御管理手段180は、車両システムがガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーからディーゼルエンジンを搭載した4ドアのファミリーカーに変更になると、モード情報記憶手段190にモード情報として記憶されている制御対象または制御対象に対する挙動制御を車両システムの変更に応じて書き換える。
【0155】
第3実施形態では、複数の制御手段の機能を1個のECUに搭載しているので、ECUの個数を低減できる。
第3実施形態では、ECU170が本発明の車両制御装置に相当し、エンジン制御手段182、エアバッグ制御手段184、ドア制御手段186が制御手段に相当する。
【0156】
以上説明したように、本発明の上記各実施形態では、モード設定手段110が車両環境に基づいて車両モードを設定する。そして、制御管理手段120、180が、制御手段としてのECUが制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報記憶手段130、190に記憶されているモード情報に基づいて統合して管理するとともに、モード情報記憶手段130、190に記憶されているモード情報を車両構成に応じて変更する。
【0157】
これにより、車両構成の変更に合わせて、ECUが制御対象に対して実行する挙動制御を制御管理手段120、180が車両モードに応じて適切に設定して指示できる。その結果、車両構成が変更になっても、ECUは、制御管理手段120、180から車両モードに応じて指示される挙動制御に基づいて、制御対象に対する挙動制御を実行できる。したがって、車両構成が変更になっても、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかをECUでは意識する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合に、ECUにおいて制御対象に対する挙動制御を容易に変更できる。さらに、ECUが実行する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段120、180が統合して管理するので、ECUは制御管理手段120、180により変更される他のECUの挙動制御の変更を意識する必要がない。したがって、車両構成が変更になっても、ECUが実行する挙動制御を容易に変更できる。
【0158】
[他の実施形態]
上記実施形態では、機能ドメイン制御手段を複数設置した車両制御システムについて説明した。これに対し、機能ドメイン制御手段が一つだけの車両制御システムであってもよい。
【0159】
また、第1実施形態でイントラボックス100に設け、第2実施形態でパワートレインECU260に設けたモード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を、イントラボックス100および機能ドメインECUとは別の専用の制御装置に設けてもよい。
【0160】
また、第2実施形態においてパワートレインECU260に設けた機能および手段のうち、機能ドメインECUとしてパワートレインドメイン内のサブドメインECUおよび制御対象に対して実行する制御処理の機能と、モード設定手段110と、モード情報記憶手段130と、資源管理手段200および情報管理手段210および異常管理手段220を除いた制御管理手段120とだけをパワートレインECU260に設けてもよい。
【0161】
また、上記実施形態では、制御管理手段は、車両構成が変更されると、搭載情報記憶手段の搭載情報を変更し、変更された搭載情報に基づいてモード情報記憶手段に記憶されているモード情報を変更した。これに対し、車両構成の変更に応じて、制御管理手段以外の他の手段、例えば車両外部のマイコン等の外部装置から搭載情報およびモード情報を変更してもよい。また、搭載情報記憶手段およびモード情報記憶手段を、搭載情報およびモード情報を変更した記憶手段に差し替えてもよい。
【0162】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0163】
10、250:車両制御システム、20:パワートレインECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、30:シャーシECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、40:ボディECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、50:インフォテインメントECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、60、62、64、66:サブドメインECU(制御手段、サブドメイン制御手段)、70、80、160、162:ECU(制御手段)、100:イントラボックス(車両制御装置)、110:モード設定手段、120、180:制御管理手段、130、190:モード情報記憶手段、140:搭載情報記憶手段、150:共有記憶手段、170:ECU(車両制御装置)、172、174:制御手段、182:エンジン制御手段(制御手段)、184:エアバッグ制御手段(制御手段)、186:ドア制御手段(制御手段)、200:資源管理手段、210:情報管理手段、220:異常管理手段、230、232、234、236、240、242、244、246、330、332、334、336:機能ドメインECU(制御手段)、260:パワートレインECU(制御手段、機能ドメイン制御手段、車両制御装置)、300:グローバルネットワーク(車内通信手段)、310:ローカルネットワーク(車内通信手段)、320:車外通信手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された制御対象の挙動を車両モードに応じて制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された制御対象の挙動を、車両の運転状態等に応じて設定されたモードに基づいて制御する車両制御装置が知られている。例えば、特許文献1においては、中央制御ユニット等から通信系統を介して供給される状態信号に基づいて、制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御の作動モード、例えば運転前チェック、非常作動等の作動モードが選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−104189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、状態信号により選択される作動モードに応じてどのような挙動制御を制御対象に対して実行するかを制御手段が選択する必要がある。したがって、制御対象または制御手段の変更により車両構成が変更される場合に制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を変更する必要が生じると、制御手段において、作動モードに応じて制御対象に対してどのような挙動制御を実行するかを考慮して、制御対象に対する挙動制御を変更する必要がある。
【0005】
その結果、特許文献1では、車両構成が変更される場合に、制御手段において作動モードに応じた挙動制御の変更が煩雑になる。さらに、複数の制御手段により制御対象の挙動を連携制御している場合、車両構成が変更されると、作動モードを考慮した連携制御の変更が個々の制御手段において必要になるので、挙動制御の変更が煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、車両構成が変更される場合に、車両モードに応じた制御手段による制御対象に対する挙動制御の変更が容易な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1から20に記載の発明によると、車両に搭載され、車両の置かれた車両環境に基づいてモード設定手段が設定する車両モードに応じて制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびに制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて車両モード毎にモード情報としてモード情報記憶手段は記憶している。そして、制御管理手段は、制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報記憶手段に記憶されているモード情報に基づいて管理する。
【0008】
このように、制御対象、および制御対象に対して挙動制御を実行する制御手段を含む車両構成に応じて車両モード毎に記憶されているモード情報に基づいて、制御管理手段は、制御手段が制御対象に対して車両モードに応じて実行する挙動制御を統合して管理し、制御対象に対する車両モードに応じた挙動制御を制御手段に指示する。そして、車両構成が変更になると、車両構成の変更に応じてモード情報記憶手段に記憶されているモード情報が変更されることにより、制御管理手段は、車両構成の変更に基づいて車両モードに応じた挙動制御を制御手段に指示できる。
【0009】
このように、車両モードに応じて制御対象に対して実行する挙動制御を制御管理手段が制御手段に指示するので、制御手段は、制御管理手段からの指示に基づいて制御対象に対する挙動制御を実行すればよい。したがって、例えば、制御対象が変更になり制御対象に対する挙動制御を制御手段において変更する場合、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを制御手段側では考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合に、制御対象に対する挙動制御を制御手段において容易に変更できる。
【0010】
さらに、制御手段が実行する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段が統合して管理するので、制御手段は制御管理手段により変更される他の制御手段の挙動制御の変更を意識する必要がない。したがって、車両構成が変更になっても、制御手段が実行する挙動制御を車両モードに応じて容易に変更できる。
【0011】
尚、車両構成の変更とは、同一車両における構成の変更に限らず、車種の異なる車両における構成の違いも含んでいる。例えば、同一車種においてバッテリが鉛バッテリからリチウムイオンバッテリに変更になること、ならびに異なる車種においてガソリンエンジンとディーゼルエンジンとのエンジンの違いの両方が車両構成の変更に相当する。
【0012】
また、車両構成が変更されても、車両の置かれる車両環境は変化しないので、車両環境に基づいて設定される車両モードは変化しない。また、車両構成が変更されても、車両モードに応じて車両において実現すべき機能、例えばエネルギー等の資源を生成、消費するという資源管理の機能は変化しない。変化するのは、機能を実現するために、制御手段が制御対象に対して具体的にどのような挙動制御を実行するかである。
【0013】
そして、本発明では、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報が車両構成の変更に応じて変更され、車両モードに応じて制御対象に対する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段が制御手段に指示することにより、前述した車両モードに応じて車両において実現すべき実現機能を設定するシステム設計者は、車両構成の変更に伴い、車両モードに応じて制御対象に対してどのような挙動制御を制御手段に実行させるかを意識する必要がない。
【0014】
一方、制御対象および制御手段等により構成される車両の設計者は、車両構成の変更に伴い、車両モードに応じて、制御手段が制御対象に対してどのような挙動制御を実行するかを、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報、ならびに制御管理手段から指示される挙動制御に関して意識すればよく、車両モードに応じて実現すべき実現機能を意識する必要はない。その結果、システム設計者と車両設計者との分業を促進できる。
【0015】
具体的には、例えば、車両がエンジンとして内燃機関の駆動力を採用する場合、内燃機関に対する挙動制御に関し予め決められた「車軸トルク」というAPI(Application Interface)により、必要な車軸トルクが、所定のデータ定義、例えばデータの単位、範囲で車両モードに応じて設定されており、制御管理手段は、車両モードに応じて、内燃機関に対する挙動制御を実行するエンジン制御手段に設定された車軸トルクを所定のタイミングで指示する。エンジン制御手段は、例えば、制御管理手段から指示された車軸トルクを発生するように、燃料噴射弁の噴射量等の制御対象に依存した挙動制御を実行する。
【0016】
ここで、車両システムが内燃機関の駆動力から電気モータを駆動力とするシステムに置き換わると、駆動力発生制御手段としてのエンジン制御手段による挙動制御の対象は内燃機関から電気モータに変る。
【0017】
しかし、エンジンが異なるにも関わらず、先程と同一の予め決められた「車軸トルク」というAPIで所定のLSBやタイミングで必要な車軸トルクが車両モードに応じて設定されており、設定された車軸トルクを電気モータに対する挙動制御を実行するエンジン制御手段に指示するという制御管理手段の処理は変化せず同一である。
【0018】
これに対し、内燃機関または電気モータという異なるエンジンに対して、制御管理手段から指示される車軸トルクを発生するためにエンジン制御手段が具体的に実行する挙動制御は、内燃機関に対する制御と電気モータに対する制御とでは異なる。
【0019】
このように、本発明によると、エンジンの上位である車両全体を設計するシステム設計者は、例えば、予め決められた「車軸トルク」というAPIにより、必要な車軸トルクを所定のデータ定義で車両モードに応じて設定し、エンジン制御手段に所定のタイミングで指示する作業までを設計するだけでよい。システム設計者は、内燃機関または電気モータ等の実際のエンジンに対して、指示される車軸トルクを発生するために具体的にどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要はない。
【0020】
一方、内燃機関または電気モータという個別のエンジンの制御機能または制御装置の設計者は、「車軸トルク」というAPIで所定のLSBやタイミングで必要な車軸トルクが指示されることにより、上位の車両システムの設計に全く依存せず下位の個別のエンジンの設計のみを行うだけでよくなる。したがって、車両構成が変更される場合に、制御対象に対する挙動制御を制御手段において容易に変更できる。
【0021】
これにより、従来は、エンジン等の個別の装置を設計変更すると車両システムまで再評価したり、車両システム側を変更すると逆に個別の装置側の変更が必要であったことに対し、本発明では、車両システムと個別の装置とに対する設計を相互に干渉することなく実施できる。
【0022】
本発明の請求項2に記載の発明によると、車両環境は、車両の走行状態および車両の周辺状況の少なくともいずれか一方である。
車両の走行状態とは、例えば車両の走行速度、運転者により設定される省エネモードおよびスポーツモード等の運転モードを表し、車両の周辺状況とは、車両の周囲の天候、走行道路の種別、走行地域、駐車中、車両移送中、盗難等を表す。このような種々の車両環境毎に、制御管理手段は、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を車両構成の変更に応じて変更する。
【0023】
本発明の請求項3に記載の発明によると、共有記憶手段は、制御手段が挙動制御のために使用する作業記憶領域を車両モード毎に各制御手段に対して設けている。
これにより、車両モード毎に、制御手段が他の制御手段の作業記憶領域に対して誤ったデータの書き込み、データの読み出しを実行することを防止できる。
【0024】
また、車両モードが移行するときに、移行前の車両モードにおいて制御手段が実行した挙動制御による学習値、異常診断カウント数等のデータを移行前の車両モードの該当する作業記憶領域に保存できるので、移行前の車両モードに戻って制御手段が挙動制御を実行する場合に、作業記憶領域に保存されたデータに基づいて該当する車両モードに応じた挙動制御を実行できる。
【0025】
本発明の請求項4に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、車両モード毎に、制御手段が実行する挙動制御毎に設定された異なる識別子をモード情報として記憶している。
【0026】
これにより、制御手段が制御対象に対して車両モードに応じて実行する挙動制御を制御管理手段が識別子に基づいて管理できるので、車両モード毎に、不適切な挙動制御が設定されることを容易に防止できる。
【0027】
本発明の請求項5に記載の発明によると、制御管理手段は、車両上の資源をモード情報に基づいて管理する資源管理手段を有する。
これにより、車両モードに基づいて、例えば資源の生成、消費等を適切に管理することができる。その結果、例えば資源の消費量を極力低減することができる。また、メモリ容量またはCPU等の資源の余裕度が低下している場合には、余裕度が低下している資源の交換を指示できる。
【0028】
本発明の請求項6に記載の発明によると、制御管理手段の資源管理手段は、資源として車両上のエネルギーを管理する。
これにより、車両構成が変更になっても、モード情報に基づいて、資源としてエネルギーの生成、消費等を適切に管理することができる。また、エネルギーを発生するエンジンとして、例えば、内燃機関、ハイブリッドエンジン、電動モータを考える場合、資源管理手段が車両上のエネルギーを管理するので、エンジン形式の違いを制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象としてエンジンの形式が変更されても、制御管理手段の資源管理手段が形式の異なるエンジンの変更を管理するので、制御手段において、車両モードに応じてエンジンの挙動を制御する挙動制御を容易に変更できる。
【0029】
本発明の請求項7に記載の発明によると、制御管理手段の異常管理手段は、制御対象の挙動異常をモード情報に基づいて検出する。
このように、制御対象が変更になっても、制御対象の挙動異常を制御管理手段の異常管理手段がモード情報に基づいて検出するので、制御対象の変更を制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象が変更されても、制御手段において、制御対象の挙動異常に対する挙動制御を容易に変更できる。
【0030】
本発明の請求項8に記載の発明によると、異常管理手段は、挙動異常に対する是正処理をモード情報に基づいて管理する。
このように、制御対象が変更になっても、制御対象の挙動異常に対する処理を異常管理手段がモード情報に基づいて管理するので、制御対象の変更を制御管理手段が吸収できる。その結果、制御対象が変更されても、制御手段において、制御対象の挙動異常に対する是正処理を容易に変更できる。尚、制御対象の挙動異常に対する是正処理とは、挙動異常を発生している制御対象に対する制御指令値の補正量を算出し、算出した補正量に基づく制御を制御手段に指令したり、挙動異常の制御対象を切り離す等の処理を意味する。
【0031】
本発明の請求項9に記載の発明によると、制御手段は車外通信手段により車外と通信し、制御管理手段の情報管理手段は、制御手段が車外通信手段により通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて管理する。
【0032】
このように、制御手段または車外との通信仕様が変更になっても、制御手段が車外通信手段により車外と通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて情報管理手段が管理するので、制御手段または車外との通信仕様の変更を制御管理手段の情報管理手段が吸収できる。その結果、制御手段が変更されても、制御手段において、通信情報の安全性に関する処理を容易に変更できる。
【0033】
本発明の請求項10に記載の発明によると、制御手段は車両上の他の制御手段と車内通信手段により通信し、制御管理手段の情報管理手段は車内通信手段による通信情報の安全性をモード情報に基づいて管理する。
【0034】
このように、制御手段が変更になっても、制御手段が車内通信手段により車両上の他の制御手段と通信する通信情報の安全性をモード情報に基づいて情報管理手段が管理するので、制御手段の変更を制御管理手段の情報管理手段が吸収できる。その結果、制御手段が変更されても、制御手段において、通信情報の安全性に関する処理を容易に変更できる。
【0035】
本発明の請求項11に記載の発明によると、車両に搭載されている制御対象および制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、制御管理手段は、制御手段が車両に搭載された場合、搭載された制御手段が通信する通信情報の安全性を情報管理手段が確認した後に、搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を変更し、搭載情報の変更に応じてモード情報を変更する。
【0036】
これにより、通信の安全性を確認された制御手段だけが、該当する搭載情報およびモード情報を変更され、車両への搭載を許可される。
本発明の請求項12に記載の発明によると、車両に搭載されている制御対象および制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、制御管理手段は、制御対象および制御手段の少なくともいずれかが変更されると、搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を変更し、搭載情報の変更に応じてモード情報を変更する。
【0037】
このように、車両構成が変更になった場合に、変更になった製品が搭載情報として記憶されるので、制御管理手段は、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を変更できる。その結果、車両モードに応じて制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御の抜け、または挙動制御のバージョンアップ等の抜けを防止できる。
【0038】
本発明の請求項13に記載の発明によると、車両モードはモード設定手段により階層構造で設定されている。
このように車両モードを階層構造にすることにより、階層化された車両モード毎に、制御対象、ならびに制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報として記憶し、モード情報に基づいて制御手段が実行する挙動制御を管理するとともに、モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を車両構成に応じて変更できる。
【0039】
また、例えば、ある車両モードで電力消費量を管理する場合、四輪のブレーキが電気制御される場合に、各ブレーキアクチュエータの電力消費量を個別に管理する下位階層の車両モードと、四輪のブレーキアクチュエータの電力消費量を一括して管理する上位階層の車両モードとを設定できる。このように、一括して挙動制御を管理できる場合には、上位階層の車両モードを設定することにより、挙動制御の管理が容易になる。そして、制御対象に対して個別に挙動制御が必要な場合には、下位階層の車両モードを設定すればよい。
【0040】
本発明の請求項14に記載の発明によると、車両モードの階層構造はモード設定手段によりデータの階層構造で設定されている。
このように、車両モードの階層構造をデータの階層構造で設定することにより、車両モードの階層毎に車両モードに応じた挙動制御の管理が容易になる。
【0041】
ところで、車両モードが移行するときには、移行先の車両モードにおいて、制御対象に対する挙動制御が同時に実行を開始する訳ではなく、実行制約条件として挙動制御を開始する順番が決められることがある。例えば、挙動制御1の実行により移行先の車両モードにおける制御環境が整ってから、挙動制御2が実行されることがある。
【0042】
そこで、本発明の請求項15に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、車両モードの移行時に、制御手段による挙動制御の実行を制約する実行制約条件をモード情報として記憶している。
【0043】
このように、車両モードの移行時に、挙動制御の実行制約条件をモード情報として記憶しておくことにより、車両モードの移行時において、挙動制御の実行順序を適切に管理できる。
【0044】
本発明の請求項16に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御対象に対して実行の必要な挙動制御をモード情報として記憶している。
これにより、車両モード毎に、制御対象に対して実行する必要のある挙動制御が抜けることを防止できる。
【0045】
本発明の請求項17に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御対象に対する実行の不要な挙動制御をモード情報として記憶している。
これにより、車両モード毎に、制御対象に対して実行する必要のない挙動制御が実行されることを防止できる。
【0046】
ところで、制御管理手段によるモード情報の管理等に異常が発生し、車両モードにおいて、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されることが考えられる。制御対象に対して必要な挙動制御は、車両制御として実行すべき制御である。一方、制御対象に対して不要な挙動制御は、車両制御として実行しないことが望ましい制御である。
【0047】
そして、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されている場合には、必要な挙動制御を優先して実行することが車両制御にとって望ましい場合がある。例えば、エネルギーを消費する制御対象に対して、エネルギーを消費する挙動制御と、エネルギーを消費しない挙動制御とがモード情報として両方ともに記憶されている場合、エネルギーの残量および余裕度を管理するエネルギー管理としては、フェイルセーフの観点からエネルギーを消費する挙動制御が優先されることが望ましいことがある。
【0048】
そこで、本発明の請求項18に記載の発明によると、モード情報記憶手段は、制御手段による制御対象に対する必要な挙動制御と不要な挙動制御とをモード情報として記憶しており、制御管理手段は、車両モードにおいて、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御がモード情報記憶手段に記憶されている場合、必要な挙動制御を優先する。
【0049】
このように、制御対象に対して必要な挙動制御と不要な挙動制御との相反する挙動制御が記憶されている場合には、必要な挙動制御を優先することにより、例えばフェイルセーフの観点から、望ましい結果になることがある。
【0050】
ところで、制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段よりも、制御対象の挙動を機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段の方が、制御対象に対して緊密な挙動制御を実行し、制御対象とともに一つの車載製品として構成されていることが多い。したがって、制御対象が変更される場合には、サブドメイン制御手段による挙動制御が変更されることが多くなる。
【0051】
そこで、本発明の請求項19に記載の発明によると、制御手段は、制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で前記制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段と、制御対象の挙動を機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段とを有し、モード情報記憶手段は、サブドメイン制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびにサブドメイン制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて車両モード毎にモード情報として記憶している。
【0052】
これにより、車両構成が変更されるときに、モード情報として、サブドメイン制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびにサブドメイン制御手段が制御対象に対して実行する挙動制御を容易に変更できる。
【0053】
本発明の請求項20に記載の発明によると、サブドメイン制御手段は、制御対象の挙動制御だけを実行する。
これにより、制御対象とともにサブドメイン制御手段が変更されることに伴い、モード情報として記憶されているサブドメイン制御手段による制御対象に対する挙動制御を変更しても、他の制御手段による挙動制御に影響が及ばない。したがって、制御対象とともにサブドメイン制御手段を容易に変更できる。
【0054】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1実施形態による車両制御システムを示すブロック図。
【図2】モード情報記憶手段に記憶されているモード情報を示す模式図。
【図3】車両モードの階層構造を示す模式図。
【図4】車両モード移行時の制約条件を示す模式図。
【図5】不要な挙動制御の登録例を示す模式図。
【図6】必要な挙動制御と不要な挙動制御との衝突例を示す模式図。
【図7】挙動制御の管理ルーチンを示すフローチャート。
【図8】搭載情報記憶手段に記憶されている搭載情報を示す模式図。
【図9】制御管理手段による搭載管理を説明するブロック図。
【図10】搭載管理ルーチンを示すフローチャート。
【図11】車両構成変更時におけるインタフェースの変更例を示すブロック図。
【図12】車両構成変更時におけるインタフェースの他の変更例を示すブロック図。
【図13】共有記憶手段における作業記憶領域を示す模式図。
【図14】資源管理手段の構成を示すブロック図。
【図15】エネルギー管理手段の構成を示すブロック図。
【図16】資源管理ルーチンを示すフローチャート。
【図17】情報管理手段の構成を示すブロック図。
【図18】異常管理手段の構成を示すブロック図。
【図19】異常管理ルーチンを示すフローチャート。
【図20】第2実施形態による車両制御システムを示すブロック図。
【図21】第3実施形態によるECUの構成例を示すブロック図。
【図22】第3実施形態によるECUの詳細な構成例を示すブロック図。
【図23】第3実施形態によるモード情報を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による車両制御システムを図1に示す。
【0057】
(車両制御システム10)
車両制御システム10は、パワートレイン(Power Train)ECU(Electronic Control Unit)20、シャーシ(Chassis)ECU30、ボディ(Body)ECU40、インフォテインメント(Infotainment)ECU50、サブドメインECU60、62、64、66、イントラボックス(Intra Box)100等から構成されている。パワートレインECU20、シャーシECU30、ボディECU40、インフォテインメントECU50は、それぞれ車両に搭載されている制御対象の機能、言い換えれば車両における制御対象の役割に応じて分類された機能ドメインであるパワートレインドメイン、シャーシドメイン、ボディドメイン、インフォテインメントドメイン単位で、実装した処理プログラムにより制御対象の挙動を制御するために、機能ドメイン内のサブドメインECUまたは制御対象に対して制御処理を実行する機能ドメインECUである。
【0058】
各機能ドメインは、制御対象の機能に応じて機能ドメインよりも詳細なサブドメインに分類されている。そして、各機能ドメインにおいて、サブドメインECU60、62、64、66は、実装した処理プログラムによりサブドメイン毎に制御対象の挙動を制御する。
【0059】
パワートレインECU20とシャーシECU30とボディECU40とインフォテインメントECU50とイントラボックス100とは、例えばFlexRay(登録商標)によるグローバルネットワーク300により互いに通信可能に接続されている。また、各機能ドメインECUとそのサブドメインECUとは、例えばCAN(Controller Area Network)、MOST(Media Oriented Systems Transport)等によるローカルネットワーク310により互いに通信可能に接続されている。グローバルネットワーク300とローカルネットワーク310とは、同じ通信仕様のネットワークでもよい。また、各機能ドメインECUは、車外通信手段320により、VICS(登録商標)等の車外の設備と通信する。図1では、シャーシECU30およびボディECU40の車外通信手段320を省略している。
【0060】
尚、機能ドメインの分類は上記に限るものではなく、機能ドメインに含まれる制御対象も種々の組み合わせが考えられる。また、すべての制御対象を機能ドメインに分類する必要はなく、一部の制御対象だけを機能ドメインに統合してもよい。
【0061】
(機能ドメインECU、サブドメイECU)
パワートレインECU20は、制御対象である燃料ポンプ、インジェクタ、変速機等の挙動をパワートレインドメイン単位で統合して制御する。
【0062】
シャーシECU30は、制御対象であるステアリング、ブレーキ等の挙動をシャーシドメイン単位で統合して制御する。
ボディECU40は、制御対象である空調、ドア等の挙動をボディドメイン単位で統合して制御する。
【0063】
インフォテインメントECU50は、制御対象であるオーディオ装置、ナビゲーション装置等の挙動をインフォテインメントドメイン単位で統合して制御する。
サブドメインECU60、62、64、66は、各機能ドメインを構成するサブドメインの制御対象の挙動を、例えば高圧ポンプの吐出量、各車輪のブレーキ、ステアリング、各ドア、CDプレイヤー毎に個別に制御する。例えば、パワートレインのサブドメインECU60は、燃料ポンプ60a、インジェクタ60bや点火プラグ(図示せず)等の挙動を個別に制御する。サブドメインECU60、62、64、66には、制御対象に対する挙動制御だけを実行し、その他の制御処理を実行しない専用装置も含まれる。サブドメインECUが専用装置の場合、制御対象が交換されるとサブドメインECUも交換される。
【0064】
各機能ドメインECUおよびサブドメインECUは、図示しないCPU、ROM、RAM、およびフラッシュメモリ等からなるマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」とも言う。)により主に構成されている。そして、ROMまたはフラッシュメッモリに記憶されている処理プログラムにより、制御対象に対する挙動制御を実行する。
【0065】
(イントラボックス100)
イントラボックス100は、モード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150等から構成されており、機能ドメインECUおよびサブドメインECUに共通する共通処理を実行する。そして、イントラボックス100は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUとは異なるマイコンにより構成されている。
【0066】
このように、イントラボックス100は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUとは独立したマイコンにより構成されているので、機能ドメインECU、サブドメインECUおよび制御対象を含む車両構成が変化しても、車両構成の変更による影響を殆ど受けない。
【0067】
(モード設定手段110)
(1)車両環境
モード設定手段110は、車両の置かれた車両環境に基づいて車両モードを設定する。車両環境とは、車両の走行状態および周辺状況のうち少なくともいずれか一方を表している。車両の走行状態とは、走行速度、あるいは運転者により設定される運転モードである省エネモードおよびスポーツモード等の車両自体に基づいた環境を表す。車両の周辺状況とは、車両の周囲の天候、走行道路の種別、走行地域、駐車中、車両移送中、盗難等の車両が置かれた車両以外の環境を表す。
【0068】
(2)履歴
モード設定手段110は、車両が現在置かれている車両環境だけではなく、過去から現在までの車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定してもよい。これにより、モード設定手段110は、一時的な車両環境ではなく、継続した車両環境の履歴に基づいて適切な車両モードを設定できる。
【0069】
モード設定手段110は、予め初期設定されている既存の車両モードから適切な車両モードを選択することに加え、車両環境の履歴情報に基づいて、既存の車両モードを変更したり、新規の車両モードを追加することにより車両モードを設定してもよい。
【0070】
(3)運転者毎の履歴
モード設定手段110は、運転者毎の車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定してもよい。これにより、モード設定手段110は、車両毎、あるいは同じ車両であっても運転者毎に蓄積された車両環境の履歴に基づいて、運転者の運転特性に応じた適切な車両モードを設定できる。車両を運転する運転者の識別は、運転者の指紋、走行パターン等によって行われる。
【0071】
例えば、信号が赤から青に変わった後の停止から発進時の加速度、もしくは一般の発進時の加速度、定速度走行中の車間距離、前方車両が停止時の減速加速度、通常停車時の減速加速度等、これら車両走行に影響を与える運転者のパラメータの履歴情報収集と分類分けとにより、モード設定手段110は車両モードの切替え、または修正等を実施して車両モードを設定する。
【0072】
運転者毎の車両環境の履歴に基づいて車両モードを設定する場合、モード設定手段110は、少なくとも一つの車両環境、例えば走行速度の運転者毎の履歴に基づいて走行速度の使用確率を解析し、この解析結果に基づいて車両モードを順次変更して設定してもよい。
【0073】
モード設定手段110は、運転者毎に解析した結果に基づいて車両モードを設定することにより、車両環境の変化を予測して車両モードを設定できる。これにより、車両環境の変化予測に合わせ、初期設定の車両モードから派生させて、例えば運転者毎に資源消費量を低減する適切な車両モードを設定できる。
【0074】
また、モード設定手段110は、少なくとも一つの車両環境、例えば走行地域、走行道路種別を運転者毎にインフォテインメントECU50のナビゲーション装置の地図情報から取得し、この取得結果から車両モードを順次変更して設定してもよい。
【0075】
(制御管理手段120)
制御管理手段120は、資源管理手段200、情報管理手段210および異常管理手段220を有している。そして、制御管理手段120は、モード設定手段110が設定した車両モードに応じて、後述するモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を管理し、車両モードに応じて制御対象に対して実行する挙動制御を機能ドメインECUおよびサブドメインECUに指示する。
【0076】
(モード情報記憶手段130)
図2において、車両モードとしては、走行状態における車両モードを、発進・急加速モード(M1)、高速一定走行モード(M2)、市街地における加減速走行モード(M3)、停止時の充電モード(M4)を例として示している。図2において「−」は、該当する車両モードにおいて制御対象に対して挙動制御を実行しないアイドル処理を表している。
【0077】
図2に示すように、モード情報記憶手段130には、車両モード毎に、制御対象であるエンジン、モータ、電源等と、制御対象に対して機能ドメインECUおよびサブドメインECUが実行する挙動制御とがモード情報として記憶されている。モード情報として記憶されている各挙動制御には、車両モード毎に異なる識別子が「Mxx」として設定されている。例えば、図2に示す「発進・急加速モード(M1)」において、エンジンに対する「所定回転出力に対する効率運転」にはM11、モータに対する「エンジン始動と不足動力のアシスト」にはM12、「市街地加減速走行モード(M3)」において、エンジンに対する「所定回転出力での断続運転」にはM31、モータに対する「エンジン出力時の過不足補正」にはM32が設定されている。「−」で表されるアイドル処理にも、それぞれ異なる識別子が設定されている。制御管理手段120は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する各挙動制御を識別子で管理することにより、車両モード毎に、不適切な挙動制御が設定されることを容易に防止できる。
【0078】
制御管理手段120は、車両において制御対象、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが追加、交換、削除等により変更されると、モード情報記憶手段130にモード情報として記憶されている制御対象または制御対象に対する挙動制御を変更に応じて書き換える。このとき、制御管理手段120は、車両構成が変更されると、後述する搭載情報記憶手段140の搭載情報を変更し、変更された搭載情報に基づいてモード情報を変更する。
【0079】
複数の機能ドメインECUおよびサブドメインECUが連携して制御対象に対して挙動制御を実行し、連携制御を実行するECUの一部が変更される場合には、制御管理手段120は、必要であれば、変更されなかったECUのモード情報記憶手段130に記憶されている連携制御に関するモード情報を変更する。そして、制御管理手段120は、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUによる制御対象に対する挙動制御を管理する。
【0080】
図2には、エンジンがマイルドHV(Hybrid Vehicle)であり、電源であるバッテリにプラグから充電する車両システム1におけるモード情報を示した。マイルドHVは、内燃エンジンの出力が不足するときに、モータで出力を補う構成である。これに対し、エンジンがモータであるEV(Electric Vehicle)の車両システム2の場合には、モード情報記憶手段130に記憶されるモード情報は異なる。ただし、発進・急加速モード、高速一定走行モード、市街地における加減速走行モード、停止時の充電モードなどの車両モードは同じである。
【0081】
(車両モードの階層化)
図2においては、モード情報記憶手段130に記憶されている車両モードは、発進・急加速モード、高速一定走行モード、市街地における加減速走行モード、停止時の充電モードのように同じ階層にある。これに対し、車両モードを上位の階層と、それに含まれる下位の階層のように階層構造にすることが考えられる。例えば、ある車両モードで電力消費量を管理する場合、四輪のブレーキが電気制御される場合に、各ブレーキアクチュエータの電力消費量を個別に管理する下位階層の車両モードと、四輪のブレーキアクチュエータの電力消費量を一括して管理する上位階層の車両モードとを設定できる。このように、一括して挙動制御を管理できる場合には、上位階層の車両モードを設定することにより、挙動制御の管理が容易になる。そして、制御対象に対して個別に挙動制御が必要な場合には、下位階層の車両モードを設定すればよい。
【0082】
このように、車両モードを階層化する場合、図3に示すように、階層に応じて各モード(MODE)に数字を設定してデータの階層構造にすることが望ましい。これにより、車両モードの階層構造をデータの階層構造に基づいて容易に管理できる。
【0083】
図3において、数字の桁数が増えるほど下位の階層になる。数字が同じ場合には同じ車両モードを表し、数字は異なるが桁数が同じ場合には同じ階層において異なる車両モードを表している。各階層の車両モードにおいて、制御手段であるECU70(ECU1)、ECU80(ECU2)がそれぞれ制御対象に対して実行する挙動制御がモード情報記憶手段130に記憶されている。図3において、ECU70は、例えばモード1においてモード1に応じた挙動制御を制御対象1に対して実行し、モード12においてモード12に応じた挙動制御を制御対象12に対して実行する。例えば、電力消費を管理するモード1においては、4輪全てのブレーキアクチュエータの電力消費量が一括して管理され、それよりも下位の階層であるモード12においては、右側の前輪および後輪のブレーキアクチュエータの電力消費量が一括して管理される。
【0084】
モード1、モード2は最上位の階層である。そして、モード1の下位の階層としてモード11、モード12が設定されている。さらに、モード11の下位の階層としてモード111、モード112、モード113が設定され、モード12の下位の階層としてモード121、モード122が設定されている。車両モードの階層は、数字以外にもどのようなデータで表してもよい。
【0085】
(車両モードの移行時の実行制約条件)
図4に示すように、車両モードがモード1からモード2に移行する場合、ECU70は、モード1の下位の階層であるモード12において制御対象12に対する挙動制御を終了し、モード12から上位の階層であるモード1に移行する。図4では、[1]で表されている。そして制御対象1に対する挙動制御を終了してから、モード2に移行して制御対象2に対する挙動制御を開始する。図4では、[2]で表されている。
【0086】
一方、ECU80は、ECU70がモード12において制御対象12に対する挙動制御を終了し、モード12から上位の階層であるモード1に移行して制御対象1に対する挙動制御を終了してからモード2に移行するまで、モード1において制御対象21に対する挙動制御の実行を継続する。そして、ECU70がモード2に移行すると、ECU80は、モード1において制御対象21に対する挙動制御を終了し、モード2に移行して制御対象22に対する挙動制御を開始する。図4では、[3]で表されている。
【0087】
このように、車両モードが移行するときには、移行先の車両モードにおいて、複数の制御対象に対してそれぞれの挙動制御が同時に実行を開始する訳ではなく、挙動制御を実行する順番が決められることがある。そして、車両モードの移行時に、挙動制御を実行する順番等の実行制約条件をモード情報として記憶しておくことにより、車両モードの移行時において、挙動制御の実行順序を適切に管理できる。
【0088】
(不要な挙動制御)
図5に示すように、車両構成に変更があり、ECU80がモード2において制御対象22に対して実行する挙動制御が不要になることがある。例えば、アイドルストップを実行する車両制御システムに変更になったことにより、停止時においてインジェクタに対する噴射制御は不要になる。
【0089】
挙動制御が不要になる場合、モード情報として、ECU80がモード2において制御対象22に対して実行する挙動制御のモード情報を削除してもよいし、該当するモード情報に対して「不要」と登録してもよい。
【0090】
該当する挙動制御がモード情報として「不要」と登録される場合、図5において、モード1からモード2に移行するときに、ECU80は、モード2において制御対象22に対する挙動制御が不要と登録されているので、モード2において制御対象22に対する挙動制御を実行しない。そして、例えば、モード2に移行せずモード1において挙動制御を実行しないアイドル処理を実行する。
【0091】
このように、不要になった挙動制御をモード情報として「不要」と登録することにより、制御対象に対して不要な挙動制御を実行することを確実に防止できる。
(必要な挙動制御と不要な挙動制御の衝突)
図6に示すように、例えば車両構成の変更にともない制御対象2が削除される場合、本来ならば、モード2において制御対象2に対する挙動制御は不要と登録されるところ、モード情報の書き換えの誤りで、制御対象2に対する挙動制御が必要であるモード情報と、不要であるモード情報とが混在することが考えられる。この場合、モード2において制御対象2に対する挙動制御は必要であるとのモード情報を優先し、モード2において制御対象2に対する挙動制御を実行する。
【0092】
例えば、ガソリンエンジンで使用していたイントラボックス100をディーゼルエンジンに移植する場合、ガソリンエンジンでエネルギー管理に組み込まれていた点火プラグの電力消費量の管理は、ディーゼルエンジンでは考慮する必要がない。したがって、ディーゼルエンジンにおけるモード情報として、点火プラグの電力消費の管理は不要になるべきである。しかし、モード情報の書き換えの誤りで、点火プラグの電力消費の管理が必要であるとのモード情報と、不要であるとのモード情報とが混在する場合、制御管理手段120は、点火プラグの電力消費の管理が必要であるとのモード情報を優先し、点火プラグの電力消費を管理する。これにより、ディーゼルエンジンを搭載している車両全体の電力消費量として、本来不要な点火プラグの消費量が含まれることになる。しかし、本来不要な点火プラグの消費量を含めて消費量が増える方向に算出することは、電力消費量の管理としてはフェイルセーフ側に機能することになる。
【0093】
全ての挙動制御について、必要な挙動制御と不要な挙動制御とが混在する場合に必要な挙動制御を優先すると決定することはできないが、挙動制御によっては、必要な挙動制御を優先することが望ましい場合もある。
【0094】
(挙動制御管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の制御管理手段120が実行する、前述した車両モードに応じた挙動制御の管理について、図7に示す挙動制御管理ルーチンに基づいて説明する。図7に示す挙動制御管理ルーチンは常時実行される。図7において、「S」はステップを表している。
【0095】
図7のS400においてイントラボックス100は、車両環境の履歴を収集し、その履歴を解析することにより、車両モードの切り替えを解析結果に基づいて修正する。
S402においてイントラボックスは、S400における車両モードの修正結果に基づいて車両モードを設定する。
【0096】
イントラボックス100は、S404において、S402で設定した車両モードを判定し、車両モードに基づいて分岐したS406、S408、S410において、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対して実行する挙動制御を、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理し、本ルーチンを終了する。
【0097】
(搭載情報記憶手段140)
図8に示すように、搭載情報記憶手段140には、制御対象としてNEセンサ、水温センサ、インジェクタ、燃料ポンプ、ならびに制御手段としてサブドメインECU、機能ドメインECUの製造会社名、型式、ハードウェエアバージョンまたはソフトウェアバージョンが搭載情報として記憶されている。搭載情報記憶手段140に記憶されている搭載情報は、車両に搭載可能な制御対象、サブドメインECU、機能ドメインECUを特定するための情報である。
【0098】
例えば、インジェクタが別の製造会社のインジェクタに交換されたことを制御管理手段120がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して検出すると、制御管理手段120は、交換前のインジェクタと同じ記憶領域に次のインジェクタの搭載情報を上書きする。
【0099】
また、図9に示すように、制御管理手段120は、車両制御システム10のシステム構成を管理する。図9において、符号230、232、234、236、240、242、244、246は、例えば機能ドメインECUを表している。
【0100】
制御管理手段120は、機能ドメインECU230、232の供給元1、2の違い、機能ドメインECU234、236のオプション搭載の有無、機能ドメインECU240の後付搭載、機能ドメインECU242のうち一部のソフトウェア(SW)のV(バージョン)1.0からV1.1へのアップデート、不具合等によるV2.0の機能ドメインECU244からV3.0の機能ドメインECU246への製品の交換等を検出する。
【0101】
そして、変更された製品がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310により他の製品と通信する際の通信情報、ならびに変更された製品が車外通信手段320によりVICS等の車外の設備と通信する際の通信情報の安全性が後述する情報管理手段210により確認されると、制御管理手段120は、初めて該当する搭載情報を書き換えて変更する。制御管理手段120は、搭載情報を変更すると、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段130に記憶されている該当するモード情報を変更する。
【0102】
また、制御管理手段120は、変更された製品が接続するネットワークの通信設定を管理する通信設定手段としても機能する。
(搭載管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の制御管理手段120が実行する搭載情報の管理について、図10に示す搭載管理ルーチンに基づいて説明する。図10に示す搭載管理ルーチンは常時実行される。図10において、「S」はステップを表している。
【0103】
図10のS420においてイントラボックス100は、グローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して車両構成に変更があるかを判定する。車両構成に変更がない場合(S420:No)、イントラボックス100は本ルーチンを終了する。
【0104】
車両構成に変更がある場合(S420:Yes)、S422においてイントラボックス100は、搭載された製品が車内通信手段であるグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310を介して、あるいは車外通信手段320を介して通信する通信情報が正常であり安全であるかを判定する。通信情報が正常であるか否かの判定は、後述する制御管理手段120の情報管理手段210が実行する。
【0105】
搭載された製品による通信情報が安全である場合(S422:Yes)、イントラボックス100は、搭載された製品に該当する搭載情報記憶手段140の記憶領域の搭載情報を変更し(S424)、変更された搭載情報に基づいて、モード情報記憶手段130に記憶されている該当するモード情報を変更する(S426)。
【0106】
搭載された製品による通信情報が正常でなく安全ではない場合(S422:No)、S428においてイントラボックス100は、該当する製品の搭載を禁止する。
(車両構成変更時のソフトウェア・インタフェースの変更)
ここで、図9に示すように車両構成が変更になり、ECUの間のソフトウェア・インタフェースが変更になる場合の調整について、図11および図12に基づいて説明する。
【0107】
車両構成が変更になり、ECUの間のソフトウェア・インタフェースが車両モードに関わらず変更になる場合、ECUの間でソフトウェア・インタフェースを調整し、制御管理手段120の処理負荷を低減することが考えられる。
【0108】
図11は、ECU162(ECU2からECU2’に変更)に変更があり、ECU162側でECU160から送信されるデータ Cが不要になった例である。データ A、Bのインタフェースに変更はない。この場合、ECU162は、ECU160から送信されるデータ Cを無視してもよいし、データ Cが不要になったことをECU160に通知してもよい。
【0109】
図12は、ECU160(ECU1からECU1’に変更)に変更があり、ECU162が必要なデータ CをECU160が送信しなくなった例である。データ A、Bのインタフェースに変更はない。この場合、ECU162は、ECU160から送信されないデータ Cの値として予め設定した初期値を使用してもよいし、データ Cの初期値をECU160に要求してもよい。
【0110】
尚、車両構成が変更になり、車両モードに応じてECUの間のソフトウェア・インタフェースが変更になる場合は、制御管理手段120がソフトウェア・インタフェースを調整する。
【0111】
(共有記憶手段150)
図13に示す共有記憶手段150は、機能ドメインECUおよびサブドメインECUが制御対象に対する挙動制御のために共有する記憶手段である。各ECUには、車両モード毎に専用の作業記憶領域が割り当てられている。したがって、ECUが他のECUの作業記憶領域に対して誤ったデータの書き込み、データの読み出しを実行することを防止できる。
【0112】
また、車両モードが移行するとき、例えば図2において「市街地加減速走行モード」から「高速一定走行モード」に移行するとき、エンジンECUは、「市街地加減速走行モード」において実行した学習値、異常診断カウント数等のデータを「市街地加減速走行モード」におけるエンジンECUの作業記憶領域に保存してから、「高速一定走行モード」の作業記憶領域を使用して「高速一定走行モード」における挙動制御を実行する。そして、「高速一定走行モード」から「市街地加減速走行モード」に移行し、エンジンECUがエンジンに対して挙動制御を実行するときに、作業記憶領域に保存されたデータを読み出すことにより、エンジンECUは、車両モードの移行前に「市街地加減速走行モード」で実行していた環境を継続して挙動制御を実行できる。
【0113】
制御管理手段120は、新規に制御対象およびECUが追加されるときには、共有記憶手段150の空き領域に新たに作業記憶領域を設ける。これに対し、ECUが変更されても、例えば変更前のECUと同じ制御対象に対して挙動制御を実行する場合、制御管理手段120は、変更前のECUと同じ作業記憶領域を割り当てる。
【0114】
(資源管理手段200)
(1)資源管理
制御管理手段120に設けられた資源管理手段200は、図1に示す車両制御システム10における機能ドメインECUおよびサブドメインECUが使用する資源として、例えば、図14に示すように、グローバル電力340、グローバルRAM342、グローバルフラッシュメッモリ344、CPU等のグローバル演算手段346、グローバル熱348等を車両モードに基づいて管理する。イントラボックス100が共通に管理する資源であるから、各資源の名前にグローバルが付している。図14に示す機能ドメインECU330、332、334、336は、例えば図1の各機能ドメインECUに相当する。
【0115】
資源管理手段200は、変化する車両モードに基づいて、機能ドメインECUによる挙動制御を管理して資源の消費量を適宜調整し、機能ドメインECUが消費する資源の残量を適切に管理することができる。その結果、資源の低減を極力抑えることができる。
【0116】
また、資源管理手段200は、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、資源を分配する機能ドメインECUに優先順位を設定したり、分配量を設定することにより、機能ドメインECUに適切に資源を分配することが望ましい。
【0117】
(2)エネルギー管理
資源管理手段200は、車両上のエネルギーである電気、熱、燃料等の資源、およびその他の資源の消費量、残量、分配量、分配するときの優先順位を管理する。例えば、車両の移送時を表す車両モードである移送モードでは、ボディECU40、インフォテインメントECU50等の車両の駆動系以外への電力供給をすべて停止することにより、電力消費を極力低減できる。
【0118】
また、高速走行中を表す高速走行モードにおいては、例えば、車両のトランクの開閉制御およびドアの開閉制御は不要である。したがって、高速走行モードにおいてトランクの開閉制御およびドアの開閉制御を停止することにより、ボディECU40のトランクの開閉制御ECUおよびドアの開閉制御ECUの消費電力を高速走行以外の車両モードよりも低減できる。
【0119】
また、車両モードに応じて各種制御をスリープ状態とウェイクアップ状態とに切り替えれば、スリープ状態においてはウェイクアップさせるための制御以外の消費電力を削減できる。
【0120】
このように資源管理手段200は、車両モード毎に稼働の必要な制御と不必要な制御とを分類し、不必要な制御には電力を供給しないことにより、車両上で主に保管される電気エネルギーの消費を車両モードに基づいて適切に管理できる。
【0121】
また、各種制御を実行するECUがスリープ状態において定期的にウェイクアップ状態に移行するかを自身で判定する場合には、スリープ状態のECUの動作速度を低速にしてもよい。これにより、電気エネルギーの消費抑制を車両モードに基づいて適切に管理できる。
【0122】
また、図15に示すように、資源管理手段200は、車上エネルギーの管理処理として、グローバル生成350、グローバル供給352、グローバル保存354、グローバル消費356、グローバル回生358の各管理処理を実行する。車上エネルギーとしては、前述したように、電力、熱等が考えられる。
【0123】
資源管理手段200は、グローバル生成350およびグローバル保存354による車上エネルギーの生成量および保存量に基づいて、機能ドメインECUからのエネルギー消費要求をグローバル消費356として車両全体の観点から管理し、重要性および必要性に応じて消費量を調整する。そして、保存されている車上エネルギーを車両全体の観点からグローバル供給352として要求元に供給する。また、資源管理手段200は、車両のトルク発生源の少なくとも一部としてモータを使用する車両において、バッテリの残容量、車両の走行状態等の車両全体の観点から、モータによる電気エネルギーのグローバル回生358を適切に管理する。このように、資源管理手段200は、並列して実行されるエネルギーの生成、供給、保存、消費、回生を管理する。
【0124】
(3)履歴による資源管理
資源管理手段200は、モード設定手段110が車両環境の履歴に基づいて設定した車両モードに基づいて資源を管理する。資源管理手段200は、車両環境の履歴に応じて、例えば資源消費量を抑制することで、資源を適切に管理できる。
【0125】
(4)運転指示
資源管理手段200は、モード設定手段110が設定した車両モードに基づいて、資源消費量を低減する運転を、音声またはディスプレイ等により指示してもよい。
【0126】
(5)資源消費量の切り替え
資源管理手段200は、資源消費量を切り替え可能な機能ドメインECUに対し、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、機能ドメインECUの消費量の切り替えを指示してもよい。
【0127】
資源管理手段200は、車両モードに基づいて、あるいは車両モードと、資源の残量および機能ドメインECUからの資源の使用要求値の少なくとも一方とに基づいて、資源消費量を大、中、小から選択して機能ドメインECUに指示することにより、機能ドメインECUのエネルギー消費を適切に管理できる。
【0128】
例えば、車両のエアコンの挙動を制御する機能ドメインECUとしてのエアコンECUに対し、資源管理手段200は、エアコンECUよりも優先順位の高い他の機能ドメインECUによる電力消費量が多くエアコン制御手段に使用要求値のすべての電力を供給すると電力の残量が所定値以下になる場合には、エアコン制御手段の電力消費量を使用要求値よりも一時的に低減するように指示する。その後、資源管理手段200は、電力の残量に余裕度に応じて制限していた電力使用量を補填することにより、エアコン能力を維持することも可能である。
【0129】
(6)電力の入出力時間応答特性
資源管理手段200は、車両モードに基づき、電力を供給する緊急度および容量に応じて、電力を供給する電源としてキャパシタまたはバッテリのいずれかを選択する。速やかに電力を供給する場合には、電力の入出力時間応答特性の早いキャパシタから電力を供給し、急ぐ必要はないが多くの電力を供給する場合には、電力の入出力時間応答特性がキャパシタよりも遅いバッテリから電力を供給する。
【0130】
電力の入出力時間応答特性以外にも、発電機および回生ブレーキによる電力生成の時間自由度および生成効率、機能ドメイン制御手段毎の電力消費特性等を考慮し、資源管理手段200は、電力の生成と消費との収支が車両モードに基づいて適切となるように電力を管理することが望ましい。
【0131】
(資源管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の資源管理手段200が車両の資源を管理する資源管理ルーチンについて図16に基づいて説明する。図16に示す資源管理ルーチンは常時実行される。図16において、「S」はステップを表している。
【0132】
図16のS430においてイントラボックス100は、車両環境の履歴を収集し、その履歴を解析することにより、車両モードの切り替え、個々の車両モードにおける資源の分配量、資源を分配する優先順位等を解析結果に基づいて修正する。
【0133】
S432においてイントラボックス100は、資源の残量を把握する。S434においてイントラボックスは、S430における車両モードの修正結果と、S432で把握した資源残量とに基づいて車両モードを設定し、車両モード毎に、分配する資源と、資源を分配する機能ドメインECUをモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて決定する。
【0134】
イントラボックス100は、S436において、S434で設定した車両モードを判定し、車両モードに基づいて分岐したS438、S440、S442において、機能ドメインECUに車両モードに基づいて適切な量の資源を分配する。
【0135】
このときイントラボックス100は、資源使用量を切り替え可能な機能ドメインECUに対し、設定した車両モードに応じて資源の使用量の切り替えを指示する。例えば、イントラボックス100は、機能ドメインECUに対し、要求値のすべての資源を分配するか、要求値のすべてではないが正常な制御に必要な許容できる程度の資源を分配するか、正常な制御には不足するが制御不能ではない程度の資源を分配するなど、資源の分配量を管理することにより、設定した車両モードに応じて資源の使用量の切り替えを機能ドメインECUに指示する。
【0136】
また、イントラボックス100は、機能ドメインECUの使用要求値および消費特性に応じた最適な供給元から資源を供給させることが望ましい。例えば、前述したように、緊急であればキャパシタから電力を供給し、緊急を要しない場合にはバッテリから電力を供給する。
【0137】
S444においてイントラボックス100は、車両モードに応じて資源消費量を低減する運転を運転者に指示し、本ルーチンを終了する。
(情報管理手段210)
図17に示すように、情報管理手段210は、個々の機能ドメインECU330、332、334、336において、または機能ドメインECU間において、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320を介して通信される通信情報が適正に処理されているかを、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理する。例えば、情報管理手段210は、メモリの不正な入れ替え等により処理プログラムが不正に改竄され、その結果として不正な情報がグローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310において送受信されていないかをチェックする不正改竄チェック360、あるいは、処理プログラムがウィルスに感染している結果、メモリの書き込み禁止領域に書き込み要求が実行されたかをチェックする不正アクセスチェック362を実行する。これ以外にも、情報管理手段210は、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320の通信仕様の変更を管理したり、車両所有者を認識するための個人情報の開示制限などを実行する。
【0138】
このように、グローバルネットワーク300、ローカルネットワーク310、および車外通信手段320における通信情報の安全性を情報管理手段210が管理するので、車両構成が変更されても、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUは、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できる。
【0139】
尚、車両構成が変更されても、通信情報の安全性に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できるので、挙動制御の変更量を低減できる場合もある。
【0140】
(異常管理手段220)
図18に示すように、異常管理手段220は、機能ドメインECU330、332、334、336の挙動制御による制御対象の挙動異常をモード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて管理することにより、車両制御システム10の観点から車両のグローバル挙動370の異常を判定し、グローバル診断372により異常原因を診断する。異常管理手段220は、機能ドメインECUに限らず、サブドメインECUの挙動制御による制御対象の挙動異常を管理してもよい。
【0141】
グローバル挙動370は、機能ドメインECU330、332、334、336のうち複数の機能ドメインECUによる挙動制御の結果として生じる車両の挙動である。例えば、各タイヤに対するブレーキ制御およびインジェクタに対する噴射制御の結果として生じる車両の横ずれ、スピンがグローバル挙動370である。また、グローバル診断372は、グローバル挙動370の異常を検出すると、挙動異常の原因を、複数の機能ドメインECUによる挙動制御に基づいて診断する。例えば、各タイヤに対するブレーキ制御およびインジェクタに対する噴射制御が正常であっても、結果として車両がスピンする場合には、グローバル診断372はグローバル挙動370の異常と判定し、グローバル挙動370を是正して正常になるようにブレーキおよびインジェクタに対する制御指令値の補正量を算出し、制動力を制御するシャーシドメインのブレーキECUおよびインジェクタの噴射量を制御するパワートレインドメインのインジェクタECUに補正量に基づく制御を指令する。
【0142】
このように、異常管理手段220が、機能ドメインECUまたはサブドメインECUの挙動制御による制御対象の挙動異常を検出し、挙動異常を是正する処理を管理するので、車両構成が変更されても、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUは、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかを考慮する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できる。
【0143】
尚、車両構成が変更されても、挙動制御の異常管理に関して、機能ドメインECUまたはサブドメインECUによる挙動制御を容易に変更できるので、挙動制御の変更量を低減できる場合もある。
【0144】
(異常管理ルーチン)
次に、イントラボックス100の異常管理手段220が実行する異常管理について、図19に示す異常管理ルーチンに基づいて説明する。図19に示す異常管理ルーチンは常時実行される。図19において、「S」はステップを表している。
【0145】
図19のS400およびS402は、図7に示す挙動制御管理ルーチンと実質的に同一処理を実行するので、説明を省略する。
異常管理手段220は、車両モードに応じてS450から分岐したS452、S454、S456において、モード情報記憶手段130に記憶されているモード情報に基づいて、機能ドメインECUおよびサブドメインECUの挙動制御により制御対象の挙動異常が生じているか否かを診断する。異常管理手段220は、挙動異常を検出すると、制御対象に対するECUの制御指令値の補正量を算出し、補正量に基づく制御をECUに指令するか、あるいは挙動異常の原因となっている制御対象またはECUを車両構成から切り離す等の挙動異常を是正する適切な異常管理処理を実行し、本ルーチンを終了する。
【0146】
本実施形態では、パワートレインECU20、シャーシECU30、ボディECU40インフォテインメントECU50、サブドメインECU60、62、64、66、ECU70、80、機能ドメインECU230、232、234、236、240、242、244、246、330、332、334、336は本発明の制御手段に相当し、イントラボックス100は車両制御装置に相当する。また、グローバルネットワーク300およびローカルネットワーク310が本発明の車内通信手段に相当する。また、図7のS400およびS402はモード設定手段としての機能に相当し、S404〜S410は、制御管理手段としての機能に相当する。また、図10のS420、S424〜S428は、制御管理手段としての機能に相当し、S422は情報管理手段としての機能に相当する。また、図16のS430〜S434はモード設定手段としての機能に相当し、S436〜S442は資源管理手段としての機能に相当する。また、図19のS450〜S456は、本発明の異常管理手段としての機能に相当する。
【0147】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による車両制御システムを図20に示す。第1実施形態と実質的に同一部分には同一符号を付す。
【0148】
第2実施形態の車両制御システム250では、機能ドメインECUおよびサブドメインECUに共通する共通処理を実行するイントラボックス100を設けていない。そして、第1実施形態でイントラボックス100に設けたモード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を、機能ドメインECUであるパワートレインECU260に設けている。パワートレインECU260に限らず、他の機能ドメインECUに、モード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を設けてもよい。
【0149】
本実施形態では、パワートレインECU260は本発明の車両制御装置に相当する。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を図21〜図23に示す。第1実施形態および第2実施形態では、制御手段である機能ドメイン毎およびサブドメイン毎に制御対象の挙動を制御するECUをそれぞれ設けた。これに対し、第3実施形態では、複数の機能ドメインまたはサブドメインの制御対象に対する挙動制御を1個のECUで実行している。
【0150】
例えば図21では、図3において、異なるECU70(ECU1)とECU80(ECU2)とにより実現していた制御手段172(制御手段1)および制御手段174(制御手段2)の機能を、1個のECU170に搭載している。制御手段172、174は、機能ドメイン制御手段またはサブドメイン制御手段のいずれでもよいし、機能ドメイン制御手段およびサブドメイン制御手段の両方の機能を1個のECU170に搭載してもよい。
【0151】
図22に、ガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーの挙動を制御するECU170の構成例を示す。1個のECU170に、制御管理手段180とエンジン制御手段182とエアバッグ制御手段184とドア制御手段186とが搭載されている。
【0152】
図22において点線で示されている制御対象は、ガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーでは制御対象にならないが、ディーゼルエンジンを搭載した4ドアのファミリーカーでは制御対象として追加される。ただし、エンジンはガソリンエンジンからディーゼルエンジンに変更になる。
【0153】
図22に示すように、1個のECU170に、制御管理手段180とエンジン制御手段182とエアバッグ制御手段184とドア制御手段186とが搭載される場合も、図23に示すように、ECU170に設けられるモード情報記憶手段190には、車両モード毎に、制御対象であるガソリンエンジン、エアバッグ(運転席・助手席)、ドア(運転席・助手席)等と、制御対象に対して制御手段が実行する挙動制御とがモード情報として記憶されている。図23では、車両モードを示す識別子を省略している。
【0154】
制御管理手段180は、車両システムがガソリンエンジンを搭載した2ドアのスポーツカーからディーゼルエンジンを搭載した4ドアのファミリーカーに変更になると、モード情報記憶手段190にモード情報として記憶されている制御対象または制御対象に対する挙動制御を車両システムの変更に応じて書き換える。
【0155】
第3実施形態では、複数の制御手段の機能を1個のECUに搭載しているので、ECUの個数を低減できる。
第3実施形態では、ECU170が本発明の車両制御装置に相当し、エンジン制御手段182、エアバッグ制御手段184、ドア制御手段186が制御手段に相当する。
【0156】
以上説明したように、本発明の上記各実施形態では、モード設定手段110が車両環境に基づいて車両モードを設定する。そして、制御管理手段120、180が、制御手段としてのECUが制御対象に対して実行する挙動制御をモード情報記憶手段130、190に記憶されているモード情報に基づいて統合して管理するとともに、モード情報記憶手段130、190に記憶されているモード情報を車両構成に応じて変更する。
【0157】
これにより、車両構成の変更に合わせて、ECUが制御対象に対して実行する挙動制御を制御管理手段120、180が車両モードに応じて適切に設定して指示できる。その結果、車両構成が変更になっても、ECUは、制御管理手段120、180から車両モードに応じて指示される挙動制御に基づいて、制御対象に対する挙動制御を実行できる。したがって、車両構成が変更になっても、車両モードに応じてどのような挙動制御を実行するかをECUでは意識する必要がない。したがって、車両構成が変更される場合に、ECUにおいて制御対象に対する挙動制御を容易に変更できる。さらに、ECUが実行する挙動制御をモード情報に基づいて制御管理手段120、180が統合して管理するので、ECUは制御管理手段120、180により変更される他のECUの挙動制御の変更を意識する必要がない。したがって、車両構成が変更になっても、ECUが実行する挙動制御を容易に変更できる。
【0158】
[他の実施形態]
上記実施形態では、機能ドメイン制御手段を複数設置した車両制御システムについて説明した。これに対し、機能ドメイン制御手段が一つだけの車両制御システムであってもよい。
【0159】
また、第1実施形態でイントラボックス100に設け、第2実施形態でパワートレインECU260に設けたモード設定手段110、制御管理手段120、モード情報記憶手段130、搭載情報記憶手段140、共有記憶手段150、および制御管理手段120に含まれる資源管理手段200、情報管理手段210、異常管理手段220を、イントラボックス100および機能ドメインECUとは別の専用の制御装置に設けてもよい。
【0160】
また、第2実施形態においてパワートレインECU260に設けた機能および手段のうち、機能ドメインECUとしてパワートレインドメイン内のサブドメインECUおよび制御対象に対して実行する制御処理の機能と、モード設定手段110と、モード情報記憶手段130と、資源管理手段200および情報管理手段210および異常管理手段220を除いた制御管理手段120とだけをパワートレインECU260に設けてもよい。
【0161】
また、上記実施形態では、制御管理手段は、車両構成が変更されると、搭載情報記憶手段の搭載情報を変更し、変更された搭載情報に基づいてモード情報記憶手段に記憶されているモード情報を変更した。これに対し、車両構成の変更に応じて、制御管理手段以外の他の手段、例えば車両外部のマイコン等の外部装置から搭載情報およびモード情報を変更してもよい。また、搭載情報記憶手段およびモード情報記憶手段を、搭載情報およびモード情報を変更した記憶手段に差し替えてもよい。
【0162】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0163】
10、250:車両制御システム、20:パワートレインECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、30:シャーシECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、40:ボディECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、50:インフォテインメントECU(制御手段、機能ドメイン制御手段)、60、62、64、66:サブドメインECU(制御手段、サブドメイン制御手段)、70、80、160、162:ECU(制御手段)、100:イントラボックス(車両制御装置)、110:モード設定手段、120、180:制御管理手段、130、190:モード情報記憶手段、140:搭載情報記憶手段、150:共有記憶手段、170:ECU(車両制御装置)、172、174:制御手段、182:エンジン制御手段(制御手段)、184:エアバッグ制御手段(制御手段)、186:ドア制御手段(制御手段)、200:資源管理手段、210:情報管理手段、220:異常管理手段、230、232、234、236、240、242、244、246、330、332、334、336:機能ドメインECU(制御手段)、260:パワートレインECU(制御手段、機能ドメイン制御手段、車両制御装置)、300:グローバルネットワーク(車内通信手段)、310:ローカルネットワーク(車内通信手段)、320:車外通信手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、車両の置かれた車両環境に基づいてモード設定手段が設定する車両モードに応じて制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびに前記制御手段が前記車両モードに応じて前記制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて前記車両モード毎にモード情報として記憶しているモード情報記憶手段と、
前記制御手段が実行する前記挙動制御を前記モード情報記憶手段に記憶されている前記モード情報に基づいて管理する制御管理手段と、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記車両環境は、前記車両の走行状態および前記車両の周辺状況の少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御手段が前記挙動制御のために使用する作業記憶領域を、前記車両モード毎に各制御手段に対して設けている共有記憶手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記モード情報記憶手段は、前記車両モード毎に、前記制御手段が実行する前記挙動制御毎に設定された異なる識別子を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記制御管理手段は、車両上の資源を前記モード情報に基づいて管理する資源管理手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記資源管理手段は前記資源として車両上のエネルギーを管理することを特徴とする請求項5記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制御管理手段は、前記制御対象の挙動異常を前記モード情報に基づいて検出する異常管理手段を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記異常管理手段は、前記挙動異常に対する是正処理を前記モード情報に基づいて管理することを特徴とする請求項7に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は車外通信手段により車外と通信し、
前記制御管理手段は、前記制御手段が前記車外通信手段により通信する通信情報の安全性を前記モード情報に基づいて管理する情報管理手段を有する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は車両上の他の前記制御手段と車内通信手段により通信し、
前記制御管理手段は、前記制御手段が前記車内通信手段により通信する通信情報の安全性を前記モード情報に基づいて管理する情報管理手段を有する、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項11】
車両に搭載されている前記制御対象および前記制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、
前記制御管理手段は、前記制御手段が車両に搭載された場合、搭載された前記制御手段が通信する通信情報の安全性を前記情報管理手段が確認した後に、前記搭載情報記憶手段に記憶されている前記搭載情報を変更し、前記搭載情報の変更に応じて前記モード情報を変更する、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の車両制御装置。
【請求項12】
車両に搭載されている前記制御対象および前記制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、
前記制御管理手段は、前記制御対象および前記制御手段の少なくともいずれかが変更されると、前記搭載情報記憶手段に記憶されている前記搭載情報を変更し、前記搭載情報の変更に応じて前記モード情報を変更する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項13】
前記車両モードは前記モード設定手段により階層構造で設定されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項14】
前記車両モードの前記階層構造は前記モード設定手段によりデータの階層構造で設定されることを特徴とする請求項13に記載の車両制御装置。
【請求項15】
前記モード情報記憶手段は、前記車両モードの移行時に前記制御手段による前記挙動制御の実行を制約する実行制約条件を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項16】
前記モード情報記憶手段は、前記制御対象に対して実行の必要な前記挙動制御を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項17】
前記モード情報記憶手段は、前記制御対象に対する実行の不要な前記挙動制御を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項18】
前記モード情報記憶手段は、前記制御手段による前記制御対象に対する必要な前記挙動制御と不要な前記挙動制御とを前記モード情報として記憶しており、
前記制御管理手段は、前記車両モードにおいて、前記制御対象に対して必要な前記挙動制御と不要な前記挙動制御との相反する挙動制御が前記モード情報記憶手段に記憶されている場合、必要な前記挙動制御を優先する、
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項19】
前記制御手段は、前記制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で前記制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段と、前記制御対象の挙動を前記機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段とを有し、
前記モード情報記憶手段は、前記サブドメイン制御手段により挙動を制御される前記制御対象、ならびに前記サブドメイン制御手段が前記制御対象に対して実行する前記挙動制御を、車両構成に応じて前記車両モード毎に前記モード情報として記憶している、
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項20】
前記サブドメイン制御手段は、前記制御対象の前記挙動制御だけを実行することを特徴とする請求項19に記載の車両制御装置。
【請求項1】
車両に搭載され、車両の置かれた車両環境に基づいてモード設定手段が設定する車両モードに応じて制御手段により挙動を制御される制御対象、ならびに前記制御手段が前記車両モードに応じて前記制御対象に対して実行する挙動制御を、車両構成に応じて前記車両モード毎にモード情報として記憶しているモード情報記憶手段と、
前記制御手段が実行する前記挙動制御を前記モード情報記憶手段に記憶されている前記モード情報に基づいて管理する制御管理手段と、
を備えることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記車両環境は、前記車両の走行状態および前記車両の周辺状況の少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御手段が前記挙動制御のために使用する作業記憶領域を、前記車両モード毎に各制御手段に対して設けている共有記憶手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記モード情報記憶手段は、前記車両モード毎に、前記制御手段が実行する前記挙動制御毎に設定された異なる識別子を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記制御管理手段は、車両上の資源を前記モード情報に基づいて管理する資源管理手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記資源管理手段は前記資源として車両上のエネルギーを管理することを特徴とする請求項5記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制御管理手段は、前記制御対象の挙動異常を前記モード情報に基づいて検出する異常管理手段を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記異常管理手段は、前記挙動異常に対する是正処理を前記モード情報に基づいて管理することを特徴とする請求項7に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記制御手段は車外通信手段により車外と通信し、
前記制御管理手段は、前記制御手段が前記車外通信手段により通信する通信情報の安全性を前記モード情報に基づいて管理する情報管理手段を有する、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記制御手段は車両上の他の前記制御手段と車内通信手段により通信し、
前記制御管理手段は、前記制御手段が前記車内通信手段により通信する通信情報の安全性を前記モード情報に基づいて管理する情報管理手段を有する、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項11】
車両に搭載されている前記制御対象および前記制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、
前記制御管理手段は、前記制御手段が車両に搭載された場合、搭載された前記制御手段が通信する通信情報の安全性を前記情報管理手段が確認した後に、前記搭載情報記憶手段に記憶されている前記搭載情報を変更し、前記搭載情報の変更に応じて前記モード情報を変更する、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の車両制御装置。
【請求項12】
車両に搭載されている前記制御対象および前記制御手段を特定する搭載情報を記憶している搭載情報記憶手段を備え、
前記制御管理手段は、前記制御対象および前記制御手段の少なくともいずれかが変更されると、前記搭載情報記憶手段に記憶されている前記搭載情報を変更し、前記搭載情報の変更に応じて前記モード情報を変更する、
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項13】
前記車両モードは前記モード設定手段により階層構造で設定されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項14】
前記車両モードの前記階層構造は前記モード設定手段によりデータの階層構造で設定されることを特徴とする請求項13に記載の車両制御装置。
【請求項15】
前記モード情報記憶手段は、前記車両モードの移行時に前記制御手段による前記挙動制御の実行を制約する実行制約条件を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項16】
前記モード情報記憶手段は、前記制御対象に対して実行の必要な前記挙動制御を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項17】
前記モード情報記憶手段は、前記制御対象に対する実行の不要な前記挙動制御を前記モード情報として記憶していることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項18】
前記モード情報記憶手段は、前記制御手段による前記制御対象に対する必要な前記挙動制御と不要な前記挙動制御とを前記モード情報として記憶しており、
前記制御管理手段は、前記車両モードにおいて、前記制御対象に対して必要な前記挙動制御と不要な前記挙動制御との相反する挙動制御が前記モード情報記憶手段に記憶されている場合、必要な前記挙動制御を優先する、
ことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項19】
前記制御手段は、前記制御対象の機能に基づいて分類された機能ドメイン単位で前記制御対象の挙動を制御する機能ドメイン制御手段と、前記制御対象の挙動を前記機能ドメインよりも詳細に分類されたサブドメイン単位で制御するサブドメイン制御手段とを有し、
前記モード情報記憶手段は、前記サブドメイン制御手段により挙動を制御される前記制御対象、ならびに前記サブドメイン制御手段が前記制御対象に対して実行する前記挙動制御を、車両構成に応じて前記車両モード毎に前記モード情報として記憶している、
ことを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項20】
前記サブドメイン制御手段は、前記制御対象の前記挙動制御だけを実行することを特徴とする請求項19に記載の車両制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2010−241298(P2010−241298A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93146(P2009−93146)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
[ Back to top ]