説明

車両用サスペンション装置

【目的】 コストの低廉価とサスペンション特性制御の両立を高い次元で確保した車両用サスペンション装置を提案する。
【構成】 減衰力をアクチュエータにより変更することのできる可変ダンパを備えた車両用サスペンション装置において、車両の前輪の可変ダンパを駆動するための高速型アクチュエータ(1FL,1FR)と、後輪の可変ダンパを駆動するための低速型アクチュエータ(1RL,1RR)と、前記高速型アクチュエータを車体姿勢信号をフィードバックして制御する一方で、低速型アクチュエータを車速信号VBをフィードフォワードして制御する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、減衰力をアクチュエータにより変更することのできる可変ダンパを備えた車両用サスペンション装置に関し、特に、前輪用と後輪用のいずれかの可変ダンパを高速型アクチュエータにより駆動し、他方の可変ダンパを低速型アクチュエータにより駆動可能とすることにより、安価で簡易なサスペンション装置を提案する。
【0002】
【従来の技術】車両用のサスペンション装置として、従来より、例えば特開平3−182826号公報に開示されるように、車体と各車輪との間にそれぞれ流体シリンダを配設し、該各流体シリンダへの流量を流量制御弁により各車輪毎に独立的に給排制御して、車両のサスペンション特性を運転状態に応じて可変とするいわゆるフルアクティブ・コントロール・サスペンション装置(ACS装置)が知られている。
【0003】しかしながら、このフルアクティブ・コントロール・サスペンション装置は、システムが大規模となり、また高圧の油圧を用いることによりシステム全体が極めて高価なものとなるという欠点を有していた。そこで、減衰力を変更することのできる減衰力可変ダンパを備えた、所謂「セミアクテイブサスペンション装置」が提案されている。この可変ダンパは、内部を2室に分離した流体シリンダを用い、その2室の間をオリフィスで連通し、オリフィスによる絞り量を制御するというものである。オリフィスの絞り量の制御は次のようにして行なう。即ち、例えば、2枚の円板に複数の穴を設け、この2枚の円板を中心を一致させて重ねて、シリンダ内の前記2室の境に位置させる。そして、一方の円板を固定し、他方の円板をステップモータなどで回転させ、前記一方の円盤に設けられた穴と他方の円盤に設けられた穴とが重なることによってオリフィスが形成されることになる。前記一方の円盤に設けられた穴を複数種類の大きさとし、他方の円盤に設けられた穴も同じように複数種類の大きさとする。従って、前記ステップモータの回転位置が絞り量を、即ち、減衰力を表すことになる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】フルアクティブサスペンション制御装置は、高圧の油圧を利用するので車高を積極的に上下でき、精度の良い姿勢制御を実現できる。一方、「セミアクティブサスペンション制御装置」は、減衰力を変更するだけであるので、車高制御(姿勢制御)の精度はフルアクティブサスペンション制御装置に比して落ちるものの、コスト的には有利となる。
【0005】本発明は、コストの低廉価とサスペンション特性制御の両立を高い次元で確保した車両用サスペンション装置を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、減衰力をアクチュエータにより変更することのできる可変ダンパを備えた車両用サスペンション装置において、車体姿勢信号と車速信号とを検出する手段と、車両の前輪若しくは後輪のいずれか一方の可変ダンパを駆動するための高速型アクチュエータと、前記車両の前輪若しくは後輪の他方の可変ダンパを駆動するための低速型アクチュエータと、前記高速型アクチュエータを前記車体姿勢信号をフィードバックして制御する一方で、前記低速型アクチュエータを車速信号をフィードフォワードして制御する制御手段とを具備したことを特徴とする。
【0007】
【作用】上記構成のアクティブサスペンション装置によれば、他方側のアクチュエータを低速化することで低コスト化が可能であり、しかも、そのような低速型のアクチュエータはフィードフォワード制御で十分に追従できる。
【0008】
【実施例】以下、本発明を適用した好適な実施例を3つ(第1実施例〜第3実施例)挙げて説明する。
〈概略〉上記実施例のサスペンション装置では、図2に示したような特性のダンパと図3に示したような特性のダンパとを用いている。図2のダンパ特性は、延び方向と縮み方向の両方で独立に減衰特性を変更できる。従って、このダンパは、細かい段数(実施例では27段階)に亘って減衰特性を変更できるために、所謂「スカイフックモデル」に従った減衰特性制御に適用できる。以下、このようなダンパを「SD」(スカイフックダンパ)ダンパと呼ぶ。また、図3のダンパ特性は、延び方向の減衰特性を制御すると縮み方向の特性も変化するので、粗い段数(実施例では5段階)しか設定できない。そのために、「スカイフックモデル」に従った減衰特性制御に適用できず、便宜上、以下、「AD」(アダプティブダンパ)ダンパと呼ぶ。尚、SDダンパは、27段に亘る段数の減衰特性を高速に切り替える必要があるために、高速のステップモータ(アクチュエータ)を使う必要がある。一方、ADダンパは5段しかないために低速型のステップモータ(アクチュエータ)で十分である。
【0009】図1は、上述の3つの実施例においてサスペンション特性制御を実行するために、共通にどのような信号を入力するかを示している。即ち、これら実施例の制御手段は、車速信号VBと、ハンドル舵角信号θHと、上下方向加速度信号Gと、ブレーキ信号Brとを入力している。制御手段は、これらの信号を入力して、SDダンパを制御する「スカイフック制御」とADダンパを制御する「減衰力切り替え制御」のいずれかを行う。
■:第1実施例では、図7,図8に示すように、左右前輪にSDダンパを用い、左右後輪にはADダンパを用いている。また第2実施例では、図16,図17に示すように、左右前輪にADダンパを用い、左右後輪にはSDダンパを用いている。第1,第2実施例では、高速のSDダンパにはスカイフックモデルを用いた高速のフィードバック制御を用い、低速のADダンパには車速VB,ハンドル舵角θH 等をパラメータとしたフィードフォワード制御を用いているので、安価ではあるが高性能のサスペンション性能を確保することができる。特に、第1実施例では、フロントサスペンションについては、姿勢安定(低周波の領域で5db)と乗り心地の確保を目指し、リアサスペンションについても乗り心地の確保を目指す。
■:また第3実施例では、図22,図23に示すように、左右前輪と左右後輪にSDダンパを用いている。この第3実施例では、車体のピッチ運動、バウンス運動、ロール運動のうち、バウンス制御とピッチ制御にはスカイフックモデルを用いたフィードバック制御を適用しているものの、ロール運動制御(操舵制御)には舵角と車速を用いたフィードフォワード制御を適用しているために、ロール運動制御のために加速度センサが不要となりコスト低下に寄与するというものである。
■:第1実施例〜第3実施例では、共通して、「Gスルー制御」と「大振幅入力制御」という制御を行なっている。
■−1:「Gスルー制御」(図33)は、比較的に大きな振幅の上下G運動があった場合に、ダンパ特性をソフト方向に補正して乗り心地を確保すると共に、そのような上下G運動が高速運転中とか旋回中に合った場合には、ソフト方向への補正を制限して操縦安定性を確保するというものである。
■−2:また、「大振幅入力制御」(図29)はさらに大きな振幅の上下G運動があった場合には、操縦安定性の確保を第一に考えて、減衰力を高めるのであるが、そのような上下G運動が高速運転中とか旋回中に合った場合には、ハード方向への補正を更に高めてより一層の操縦安定性を確保するというものである。
■−3:「Gスルー制御」と「大振幅入力制御」とは、上下G運動を問題にするので、互いに干渉する可能性があるが、この実施例では、「Gスルー制御」よりも「大振幅入力制御」に高い優先順位を与えているのでその問題はない。
〈ダンパ〉図2,図3に、夫々、SDダンパ特性とADダンパ特性を示す。横軸は、ステップモータの回転位置Pであり、縦軸は減衰力を示す。また、前述したように、SDダンパには27位置が設定されており、ADダンパには5位置が設定されている。
【0010】図2のSDダンパは、回転位置Pが正方向に移動すると、伸び方向の減衰力が増加するが縮み方向の減衰力は僅かとなる。また、回転位置Pが負の位置にあれば、伸び方向の減衰力が僅かとなるが縮み方向の減衰力は増加する。即ち、ステップモータがより正の位置にあれば、車体を上昇させようとする運動に対しては、伸び方向の減衰力が働いて所謂「ハード」特性となるが、車体を低下させようとする運動に対しては所謂「ソフト」特性となる。また、ステップモータがより負の位置にあれば、車体を低下させようとする運動に対しては、縮み方向の減衰力が働いて所謂「ハード」特性となるが、車体を上昇させようとする運動に対しては所謂「ソフト」特性となる。
【0011】一方、ADダンパは、図3に示すように、ステップモータの回転位置Pが大きくなればなるほど、伸び方向と縮み方向の両方で「ハード」特性となり、回転位置が小さくなればなるほど「ソフト」特性となる。
〈制御システムの全体構成〉第1実施例〜第3実施例には共通して、操縦安定性に関する「操安制御」、大きな振幅の上下方向加速度を検知したときにサスペンション特性をハードにすることにより安全性を高める「大入力振幅制御」、高周波の上下方向加速度(悪路走行時の加速度)を検知したときにサスペンション特性をソフトにすることによりこのような加速度を「スルー」させる「Gスルー制御」、小さな振幅の上下方向加速度を検知したときにサスペンション特性を比較的ソフトにする「小振幅制御」等が実施されている。図4,図5は、これらの制御の優先順位と動作領域の関係を概略的に示すマップである。図5において、横軸は車体の上下方向加速度Gを、縦軸は車速VBを示す。
【0012】図6は、上記各種の制御の相互の関係を示す制御ブロック図である。
〈第1実施例〉図7は、前輪サスペンションにSDダンパ(不図示)を、後輪サスペンションにADダンパ(不図示)を用いた第1実施例を示す。図中、2L,2Rは夫々左右に設けられた上下方向加速度センサであり、加速度信号GL,GRを発生する。この加速度信号はコントローラ10に送られる。また、左右のSDダンパの夫々を、高速のステップモータ1FL,1FRが駆動し、後輪用の左右のADダンパを、夫々低速のステップモータ1RL,1RRが駆動する。ハンドル舵角θHは舵角センサ3が検知し、コントローラ10に送る。また、車速センサ4により検知された車速VB、ブレーキスイッチ5により検知された信号BRは夫々コントローラ10に送られる。
【0013】図8はこの第1実施例の制御の概略を示すブロック図である。図8に示すように、スカイフックモデルを用いた操舵制御(操安制御)部SHは加速度信号GL,GR、舵角信号θH,ブレーキ信号BR,車速信号VB等を入力し、前輪の左右のSDダンパを制御する。この制御部SHの実際の動作は、図9のフローチャートに従った制御手順をコントローラ10が実行することにより実現される。また、2つの減衰力切替制御部AAは、舵角信号θH,ブレーキ信号BR,車速信号VBを入力して2つの左右後輪用のADダンパを制御する。制御部AAの実際の動作は、図13のフローチャートに従った制御手順をコントローラ10が実行することにより実現される。このように、後輪の制御には、高速の動作を要求されるフィードバック制御を適用していないので、後輪側には高価な上下Gセンサは不要となり、また、安価な低速型のADダンパで十分となる。
【0014】また、前輪用のSDダンパにも、後輪用のADダンパにも、上下G信号に基づいて行なう「Gスルー制御」(図33)と「大入力振幅制御」(図29)が適用される。
前輪サスペンション制御(SH・操安制御):第1実施制御部SHの制御手順は図9に示される。この図9のフローチャートに従って、第1実施例の操安制御を説明する。
【0015】ステップS2において、加速度信号GL,GR、舵角信号θH,ブレーキ信号BR,車速信号VB等の各種信号を入力する。ステップS4では、加速度信号GL,GR を夫々積分して、車体の上下方向速度VGL,VGRを求める。ステップS6では、車速VBに基づいて図10R>0の特性図に従って速度の閾値VG0を求める。ステップS8では、上下方向速度VGn(nはL左,R右を示す)を、夫々、前記閾値VG0 と比較する。ステップS8で|VGn|≧VG0と判断されたならばステップS12に進むが、反対に|VGn|<VG0と判断されたならば、ステップS10において、VGn=0とすることにより、車体は上下方向に動いていないと見做し、そしてステップS12に進む。後述するように、VGnはダンパの位置を決定する重要な要素となるので、|VGn|<VG0であるような車体の上下方向速度VGnの領域は制御の不感帯となる。
【0016】ステップS12では、ダンパ位置Pを決定するための制御ゲインK1を演算する。この制御ゲインK1は、車速VBが大きいほど、またハンドル舵角速度(=時間変化)θ'H(=dθH/dt)が大きいほど大きな値を示す。即ち、車速VBや舵角速度θ'Hが大きいときは、高速にSDダンパ位置を変更しようとする。ステップS14では、現時点の車体の上下方向の移動速度をキャンセルするような目標車体上下速度VGTRnを(nはL左,R右を示す)、VGTRn=VGn・K1 …(1)
を演算する。このVGTRnが正のときは、ステップS20に進んで、前輪SDダンパの目標位置PFTRn(nはL左,R右を示す)を、PFTRn=PFn−1 …(2)
に従って演算する。(2)式は、伸び方向の車体変位を抑制するように、減衰特性を1段だけハードに変更するものである。反対に、VGTRnが負のときは、ステップS18に進んで、前輪SDダンパの目標位置PFTRnを、PFTRn=PFn+1 …(3)
に従って演算する。(3)式は、縮み方向の車体変位を抑制するように、減衰特性を1段だけソフトに変更するものである。ステップS18,ステップS20におけるPFnはステップS2で求められた前輪SDダンパのステップモータの現在の位置である。
【0017】ステップS22では、車速VBに基づいて図12に示すような限界値PLMTを求める。限界値PLMTは図12に示すように車速VBが増大するに従って大きくなる傾向を有する。車速が高いほど制御の変化の許容度を大きくすることによって応答性を上げる必要があるからである。ステップS24では、この限界値PLMTと目標位置PFTRnとを比較し、この限界値を目標値PFTRnが越えていればステップS26で目標値をこの限界値にクリップする。
【0018】ステップS28では、フラグINHIBITがセットされているかを調べる。このフラグがセットされていなければ、ステップS30で、前輪SDダンパを目標減衰力が達成できるようにモータ1FL,1FRを回転する。ここで、フラグINHIBITは、「Gスルー制御」(図3333のステップS276)や「大振幅入力制御」(図29R>9のステップS218)においてセットされるフラグであり、前輪サスペンション特性と後輪のサスペンション特性とが過度に異なったものになるおそれがある場合にセットされる。従って、このフラグがセットされていればステップS30は実行されずに、(前輪の)ダンパのモータ位置を変更されない。
後輪サスペンション制御(第1実施例)後輪のサスペンション特性は5段のAAダンパによって決定される。換言すれば、このダンパの減衰力はモータ1RL,1RRの回転位置によって決まる。図13は後輪のAAダンパのモータ1RL,1RRの制御手順である。
【0019】第1実施例の後輪サスペンション制御は、図9の制御手順によって決定された前輪のサスペンション特性に対して後輪がアンダステア気味になるようにフィードフォワード制御により決定するものである。フィードフォワード制御にした理由は、制御速度が早いこと、AAダンパには、高度なフィードバック制御は不要であることなどによる。
【0020】即ち、ステップS40において、車速VBに応じた後輪の目標減衰力PR(VB)を、図14に示すような特性に従って決定する。ここで、図14において、実線は車速VBが上昇している最中における後輪の減衰特性であり、破線は車速が減少している最中における後輪の減衰特性を示す。車速が減速時には、増速時に比して、より低い減衰力が得られるような特性になっている。図14の特性は、減速時には車体姿勢を安定させるために、よりアンダステア傾向を得るものである。
【0021】ステップS42では、旋回中であるか否かを判断するために、現在の舵角θHを所定の閾値θH0と比較する。旋回中でない(|θH|<θH0)場合には、ステップS52以下に進む。ステップS52は「大振幅入力制御」を現在実行しているか否かをフラグ(F=2)を調べるもので、ステップS54は「Gスルー制御」を現在実行しているか否かをフラグ(F=3)を調べるものである。「大振幅入力制御」も「Gスルー制御」も実行していないときは、ステップS54からメインルーチンにリターンするので、図9のステップS30が実行された時点で、ステップS40で設定された目標位置PRが後輪ダンパのモータ1RL,1RRに設定される。
【0022】旋回中の(|θH|≧θH0)場合には、ステップS44以下に進む。ステップS44では、旋回外側の前輪のダンパの現在のモータ位置をモニタする。このモータ位置をPOFとする。ステップS46では、図15R>5の特性に従って、後輪のダンパの目標減衰力(即ち、モータ位置PRTRn)を決定する。図15の特性は、ステップS44で得た旋回外輪の減衰力POFよりも低い減衰力が後輪側に設定されるような特性である。尚、前輪側のSDダンパは27段で、後輪側のAAダンパは5段であるので、図15の横軸は、後輪ダンパの前輪ダンパに対する相対的な減衰強度となっている。即ち、例えば、前輪の減衰力が後輪側ダンパの減衰力の4段目に相当するような減衰力(例えば、25段目)にあるときは、後輪側ダンパの減衰力を4段よりも1段低い3段に減少させるというものである。
【0023】尚、図15の特性は車速を加味するように変更してもよい。ステップS48では、ステップS40で車速VBに応じて求めた目標減衰力PRとステップS46で前輪の減衰力との関係で求めた目標減衰力PRTRnとを比較する。もし後者が大きいならば(PR≦PRTRn)、ステップS50で後輪減衰力の目標値を車速との関係で求めた減衰力PRとする。即ち、PRTRn=PR …(4)
とする。このPRTRnが、図9のステップS30が実行された時点で、後輪のステップモータにセットされる。一方、ステップS48でPR>PRTRnと判断されたならば、前輪のダンパ特性との関係でステップS46で求めた目標値PRTRnがモータに設定される。このようにするのは、第1実施例の後輪のサスペンション制御は、旋回中においてはアンダステア特性になることを確保するためのものである。即ち、例えば、ステップS40で車速VBに応じて決定された減衰力PRが“3段目”であって、ステップS46で決定された減衰力PRTRnが“2段目”である場合には、PRTRn<PRであるので、PRを減衰力として採用すると前輪に対して後輪がアンダステアという関係が成立しない場合がある。従って、ステップS48でPR≦PRTRnのときにのみ、即ち、アンダステアの関係が確保される場合に限り、ステップS50で後輪減衰力として車速VBに応じて決定したPRを採用するのである。
【0024】ステップS52で「大振幅入力制御」中(F=2)と判断されたときには、ステップS60で、減衰力を1段高める。直進中の「大振幅入力制御」中は、アンダステア特性を保つよりも、障害物などに乗り上げたときの大きな加速度の上下運動に対処することができるように、後輪側もダンパ特性をハード側に高める必要があるからである。ステップS62では、この後輪の特性をハード側に補正する制御を所定時間継続するようにする。これは、後述するように、「大振幅入力制御」(図29)においては、前輪もサスペンション特性を所定時間ハード側に変更しているからである。
【0025】また、直進中に「Gスルー制御」を実行しているとき(ステップS54でYES)は、ステップS56で後輪ダンパ力を1段低める。1段低めるのは、後述するように、「Gスルー制御」(図33)においては、前輪もサスペンション特性をソフト側に変更しているからである。
第1実施例の効果以上説明したように、この第1実施例のサスペンション装置によれば、■:後輪側のダンパは段数の少ないAAダンパを採用し、そのダンパの駆動には、低速のステップモータ(1RL,1RR)を採用しているので、コスト低下が図れる。このような低速のダンパには、高速制御を必要とする加速度信号に基づいたフィードバック制御は適用が困難なので、この第1実施例では、車速信号VBに基づいたフィードフォワード制御(図13のステップS40)を採用している。このフィードフォワード制御の採用により制御が簡素化できるので、コスト低下に寄与する。フィードフォワード制御や低速ダンパの採用は、操安性の低下をもたらすおそれがあるが、この第1実施例では、前輪側に高速のSDダンパを採用し、上下方向加速度信号に基づいたスカイフック制御(図9のステップS12,ステップS14)を実施しているので操安性を確保できる。
■:旋回時における後輪のダンパ特性の決定に際しては、前輪のダンパ特性が参照される。旋回時における後輪のダンパ特性は、操安性に影響を与えるので、後輪のダンパ特性は前輪のダンパ特性に対して所定の関係が成立するように決定されるべきであるからである。特にこの実施例では、後輪が前輪に対してアンダステア傾向が維持されるように後輪のダンパ特性が決定される(図13R>3のステップS48、ステップS50)。
■:前輪及び後輪のダンパ特性の決定に際しての制御ゲインの設定は、車速VBが高くなるほど、また減速されているほど(図14の破線の特性)、また舵角速度が大きいほど(図11のK1)、ハード傾向になるように設定している。車速VBが高いほど、また減速されているほど、また舵角速度が大きいときほど、サスペンション特性を上げて応答性が向上する必要があるからである。
〈第2実施例〉前記第1実施例は、前輪にSDダンパを、後輪にADダンパを採用したものであった。第2実施例は、図16に示すように、前輪にはADダンパを、後輪にSDダンパを採用したものである。従って、この第2実施例は、前輪には低速のステップモータ1'FL,1'FRが設けられ、後輪には高速のステップモータ1'RL,1'RRが設けられている。図17は、この第2実施例の制御ブロック図を示す。
【0026】図18は後輪のサスペンション制御を、図1919は前輪のサスペンション制御を示す。実施例においては、後輪はSDダンパ制御を行なうために、図18は第1実施例の図9と実質的に類似し、前輪はAD制御を行なうために、第x図は第1実施例の図13と実質的に類似する。
後輪サスペンション制御(第2実施例)図18のフローチャートに従って、第2実施例の後輪における操安制御を簡単に説明する。
【0027】ステップS60において、後輪位置における上下方向加速度信号GL,GR、並びに、舵角信号θH,ブレーキ信号BR,車速信号VB等の各種信号を入力する。ステップS62では、加速度信号GL,GR を夫々積分して、車体の後輪位置における上下方向速度VGL,VGRを求める。ステップS64では、車速VBに基づいて図10のような特性図に従って速度の閾値VG0を求める。ステップS66では、上下方向速度VGn(nはL左,R右を示す)を、夫々、前記閾値VG0 と比較する。ステップS66で|VGn|≧VG0と判断されたならばステップS70に進むが、反対に|VGn|<VG0と判断されたならば、ステップS68において、VGn=0とすることにより、車体は上下方向に動いていないと見做し、そしてステップS70に進む。
【0028】ステップS70では、ダンパ位置Pを決定するための制御ゲインK1を演算する。この制御ゲインは、車速VBが大きいほどハンドル舵角速度θ'H(=dθH/dt)が大きいほど大きな値を示す。ステップS72では、現時点の車体の上下方向の移動速度をキャンセルするような目標車体上下速度VGTRnを、VGTRn=VGn・K1 …(5)
を演算する。このVGTRnが正のときは、ステップS76に進んで、後輪SDダンパの目標位置PRTRnを、PRTRn=PRn−1 …(6)
に従って演算する。(6)式は、伸び方向の車体変位を抑制するように、減衰特性を1段だけハードに変更するものである。反対に、VGTRnが負のときは、ステップS76に進んで、後輪SDダンパの目標位置PRTRnを、PRTRn=PRn+1 …(7)
に従って演算する。(7)式は、縮み方向の車体変位を抑制するように、減衰特性を1段だけソフトに変更するものである。ステップS76,ステップS78におけるPRnはステップS60で求められた後輪SDダンパのステップモータの現在の位置である。
【0029】ステップS80では、車速VBに基づいて図12に示すような限界値PLMTを求める。ステップS82では、この限界値PLMTと目標位置PFTRnとを比較し、この限界値を目標値PRTRnが越えていればステップS84で目標値をこの限界値にクリップする。ステップS86では、フラグINHIBITがセットされているかを調べる。このフラグがセットされていなければ、ステップS88で、前輪SDダンパを目標減衰力が達成できるように後輪ダンパのモータ1'FL,1'FRを回転する。ここで、フラグINHIBITは第1実施例と同じように「Gスルー制御」や「大振幅入力制御」においてセットされるフラグであり、これらの制御手順が、これらの「Gスルー制御」や「大振幅入力制御」をそのまま実行すると、前輪サスペンション特性と後輪のサスペンション特性とが過度に異なったものになるおそれがある場合には、前輪のダンパのモータ位置を変更させないようにするためのものである。
前輪サスペンション制御(第2実施例)前輪のサスペンション特性は5段のAAダンパによって決定される。換言すれば、このダンパの減衰力はモータ1'RL,1'RRの回転位置によって決まる。図19は後輪のAAダンパのモータ1'RL,1'RRの制御手順である。
【0030】第2実施例の前輪サスペンション制御は、前輪のサスペンション特性に対して、図18の制御手順によって決定された後輪のサスペンション特性がアンダステア気味になるように、その前輪のサスペンション特性をフィードフォワード制御により決定するものである。即ち、ステップS100において、車速VBに応じた前輪の目標減衰力PF(VB)を、図20に示すような特性に従って決定する。ここで、図20の特性図において、実線は車速VBが上昇している最中における前輪の減衰特性であり、破線は車速が減少している最中における前輪の減衰特性を示す。車速が減速時には、増速時に比して、より低い減衰力が得られるような特性になっている。図20の特性は、減速時には車体姿勢を安定させるために、よりアンダステア傾向を得るものである。
【0031】ステップS102では、旋回中であるか否かを判断するために、現在の舵角θHを所定の閾値θH0と比較する。旋回中でない(|θH|<θH0)場合には、ステップS102以下に進む。ステップS102は「大振幅入力制御」を現在実行しているか否かをフラグ(F=2)を調べるもので、ステップS104は「Gスルー制御」を現在実行しているか否かをフラグ(F=3)を調べるものである。「大振幅入力制御」も「Gスルー制御」も実行していないときは、ステップS104からメインルーチンにリターンするので、図18のステップS88が実行された時点で、ステップS100で設定された目標位置PFが前輪ダンパのモータ1'FL,1'FRに設定される。
【0032】旋回中の(|θH|≧θH0)場合には、ステップS104以下に進む。ステップS104では、後輪の内、旋回外輪の車輪のダンパの現在のモータ位置をモニタする。このモータ位置をPOFとする。ステップS106では、図21の特性に従って、前輪のダンパの目標減衰力(即ち、モータ位置PFTRn)を決定する。図21R>1の特性は、後輪がアンダステア特性になるように、ステップS104で得た旋回外輪の減衰力POFよりも高い減衰力が前輪側に設定されるような特性である。
【0033】ステップS108では、ステップS100で車速VBに応じて求めた目標減衰力PFとステップS06で後輪の減衰力との関係で求めた目標減衰力PFTRnとを比較する。もし後者が小さいならば(PF>PFTRn)、ステップS110で前輪減衰力の目標値を車速との関係で求めた減衰力PFとする。即ち、PFTRn=PF …(8)
とする。このPFTRnが、図18のステップS880が実行された時点で、前輪のステップモータにセットされる。一方、ステップS108でPF≦PFTRnと判断されたならば、後輪のダンパ特性との関係でステップS106で求めた目標値PFTRnがモータに設定される。
【0034】第2実施例の前輪のサスペンション制御は、旋回中においては、後輪の減衰特性が前輪の減衰特性に比してアンダステアになるように、前輪のサスペンション特性を設定するものである。即ち、例えば、ステップS100で車速VBに応じて決定された減衰力PFが“2段目”であって、ステップS06で決定された減衰力PFTRnが“3段目”である場合には、PFTRn>PFであるので、PFを減衰力として採用すると前輪に対して後輪がアンダステアという関係が成立しない場合がある。従って、ステップS108でPR>PRTRnのときにのみ、即ち、アンダステアの関係が確保される場合に限り、ステップS110で後輪減衰力として車速VBに応じて決定したPFを採用するのである。
【0035】ステップS02で「大振幅入力制御」中(F=2)と判断されたときには、ステップS120で、減衰力を1段高める。直進中の「大振幅入力制御」中は、アンダステア特性を保つよりも、障害物などに乗り上げたときの大きな加速度の上下運動に対処することができるように、後輪側もダンパ特性をハード側に高める必要があるからである。ステップS122では、この前輪の特性をハード側に補正する制御を所定時間継続するようにする。これは、後述するように、「大振幅入力制御」(図29)においては、前輪もサスペンション特性を所定時間ハード側に変更しているからである。
【0036】また、直進中に「Gスルー制御」を実行しているとき(ステップS104でYES)は、ステップS106で後輪ダンパ力を1段低める。1段低めるのは、後述するように、「Gスルー制御」(図33)においては、前輪もサスペンション特性をソフト側に変更しているからである。
〈第3実施例〉この第3実施例は、前輪と後輪にSDダンパを用い、そして上下方向Gの検出を、前輪側に設けられた1つのGセンサ6と、後輪側に設けられた1つのGセンサ7により行うものである。図22に示すように、前輪側にも後輪側にも夫々1つだけのセンサを用いたのでは、車体のロール運動の検出は困難になる。しかしながら、ロール(操舵)制御はそもそも旋回時に最も必要になるのであって、しかも旋回時には例えば前輪特性をハードにするなどすれば、必要にして十分な操安特性を得ることができる。そして、従来では、3つ以上(左右方向に1対のセンサ、前若しくは後に1つのセンサ)のセンサが必要であったが、第3実施例では、2つのセンサで十分であるので、コスト低下に役立つのである。
【0037】図23はこの第3実施例の制御システムの全体構成を示す。ロール(操舵)制御は、舵角信号θHと車速信号VBとに基づいて行ない、車体姿勢のバウンス,ピッチ成分については、車速信号VB,前後のGセンサからの加速度信号に基づいて行なう。
バウンス,ピッチ制御(第3実施例)図24は、第3実施例において、全ての車輪のSDダンパについて行なわれるバウンス,ピッチ制御部分についての制御フローチャートを示す。図25は、同じく全輪のSDダンパについて行なわれるロール制御の制御手順を示すフローチャートである。
【0038】図24において、ステップS132からステップS160までは、図9のステップS2〜ステップS30と実質的に同じであり、異なるのは、第3実施例では、ステップS132において前部Gセンサからの信号GFと後部Gセンサ7からの信号GRを入力し、ステップS134では車体前部の上下運動速度VFと車体後部の上下運動速度VRとを入力する点で異なっている。また、図24のフローチャートと大きく異なる点は、ステップS130において、フラグFが1のときはステップS132〜ステップS160のバウンス/ピッチ制御を実行しないということである。このフラグFが1に等しい場合については図25のロール制御によって明らかになる。
ロール制御図25は、前後輪の各輪のSDダンパに対して行なわれるロール制御(操舵制御)の制御手順を示すフローチャートである。ステップS170において、車体が旋回中(|θH|≧θH0)か直進中(|θH|<θH0)かを調べる。直進中であれば(ステップS170でNO)、ステップS192で舵角の時間変化θ'H(=dθ/dt)を調べる。ステップS170で旋回中(YES)と判断されるか、又はステップS192で舵角が変化している(NO)と判断されれば、ステップS172に進んで、これからロール制御を行なうことを示すためにフラグFを1にする。旋回中でもなく、舵角が変化しているわけでもない場合は、ステップS194でフラグを0にリセットする。従って、フラグFが0の場合は、各輪に対しては、図24のバウンス/ピッチ制御(図24)が行なわれて、図25のロール制御は行なわれないことになる。この理由は、前述したように、ロール(操舵)制御はそもそも旋回時に最も必要になるのであって、しかも旋回時には例えば前輪特性をハードにするなどすれば、必要にして十分な操安特性を得ることができるからである。
【0039】旋回開始若しくは旋回中と判断された場合について説明する。かかる場合は、ステップS172→ステップS174と進んで、ステップS174において、前輪についての目標減衰力PFを車速VB,舵角θHに基づいて決定する。目標減衰力PFは例えば、図26に示したような特性に従って車速VB,舵角θHに基づいて決定される。即ち、同図の特性は、舵角θHが高いほどまた車速VBが高いほど減衰力が大きくなる(ダンパ特性をハードにする)というものである。また、ステップS178では係数Aを舵角速度θ'Hに基づいて決定する。係数Aは例えば図27のような、舵角速度θ'Hが大きい程大きくなるという特性を有する。ステップS178では、目標減衰力PFAn(nは右又は左を表す)を演算する。
【0040】PFAn=PF・A …………(9)
かくして、ステップS174〜ステップS178では、前輪の目標減衰力PFAnは、車速が高いほど、舵角が大きいほど、舵角速度が大きいほど、大きな値となるように決定される。ステップS180では、後輪のための係数Kを決定する。この係数Kは例えば、図28に示すように、1よりも小さな係数で、車速VBが大きくなればなる程小さくなる特徴を有する。
【0041】ステップS182では、前輪に対する目標減衰力PFAnと後輪の実際の現在の減衰力PRnとを比較する。前輪目標減衰力PFAnが後輪の現在の減衰力PRnよりも大きい場合、即ち、PFAn≦PRnの場合は、ステップS184に進んで、目標減衰力PFAnを前輪の最終目標減衰力PFTRnとするために、PFTRn=PFAn …………(10)
とし、ステップS186では、後輪が前輪に対してアンダステア傾向となるように、ステップS180で求めた係数Kを用いて、PRTRn=PFAn・K …………(11)
とする。即ち、図28に示すように、係数Kは1よりも小さな数なので、(11)式によれば、後輪は常に前輪の減衰力よりも小さくなるように設定されるからである。
【0042】一方。ステップS182で、現在の後輪の減衰力PRnが前輪の目標減衰力PFAnよりも小さい場合には、後輪がオーバステアになる可能性があるので、ステップS188において、PFTRn=P+- ……(12)
とする。この(12)式の意味するところは、前輪の減衰力PFTRnを、旋回外側の前輪については縮み方向についてハード特性になるように、旋回内側の前輪については伸び方向でハード特性になるように設定するというものである。また、ステップS190では、後輪の特性がアンダステア傾向が確保されるように、現在の減衰力よりも低い減衰力となるように、PRTRn=PRn・K …(13)
とする。
第3実施例の効果かくして、第3実施例によれば、■:車幅方向において略中央で、且つ車長方向で前後に夫々設けられた2つのGセンサ(6,7)からの夫々の信号GF,GRと舵角センサからの信号θHとに基づいて、バウンス/ピッチを抑制するような制御(図24)を行ない、舵角信号θHに基づいてフィードフォワード形式で旋回制御(ロール制御)を行なうようにしている。このようにすることにより、従来に比して、Gセンサを1つ減らすことができ、それでいて、バウンス/ピッチ制御とロール制御とを併せて実現することができる。
■:ロール制御のためのフィードフォワード制御は、前輪については車速VBと舵角速度θ'Hによって補正される(ステップS174,ステップS178)。
■:まず、前輪についてのダンパ力が決定され、その後に、後輪のダンパ特性が前輪よりもアンダステア特性となるように決定される(ステップS182〜ステップS190)。
■:フラグFを用いることによって、ロール制御(旋回制御)をバウンス/ピッチ制御よりも優先させている。これにより、旋回時におけるロール方向における姿勢制御が確保される。
■:ロール制御においては、旋回時においてのみフィードフォワード制御によって行なわれる。
〈大振幅入力制御とGスルー制御〉以上、3つの実施例(図8,図17,図23)を説明した。次に、これらの実施例のサスペンション装置に共通して適用されているところの大振幅入力制御とGスルー制御について説明する。
大振幅入力制御大振幅入力制御は、例えば、車体が障害物に乗り上げたときなどに安全性を確保するために、上下加速度信号Gが大振幅で入力されたことを検出し減衰力を高めるようにする制御である。
【0043】図29はこの大振幅入力制御の制御手順を示す。この大振幅入力制御(図29)と、例えば第1実施例におけるSH制御との制御の調停は、前述のフラグFによって行なわれる。即ち、大振幅入力制御が行なわれるときは、ステップS210,ステップS222においてフラグFが2にセットされる。一方、第1実施例の後輪制御(図13)においては、フラグF=2が検出されるとステップS60以下が実行される。
【0044】まず、図29のフローチャートを参照しながら、Gセンサ出力が大振幅入力であった場合にどのような制御を実行するかを説明する。ステップS200では、Gセンサからの信号を積分して、上下方向における車体速度VGを得る。ステップS202では、旋回中であるか否かを判断するために舵角θHと閾値θH0とを比較する。旋回中と判定された場合と直進中と判定された場合とでは制御は異なる。また、後述するように、車体速度VGの大きさによっても制御は異なる。
【0045】図32は、大振幅入力制御の制御の態様を表としてまとめたものである。同図において、制御間隔とは、例えば第1実施例の図13の制御手順が実行される時間間隔を言う。この時間間隔が短くなれば、制御は早く行なわれ、その結果、入力に対して敏感に対応するようになる。図29の制御手順では、制御間隔が「ゆっくり」とは、制御間隔txを、t0>t1>t2とした場合に、tx=t0に設定し、「早く」とは、tx=t2に設定し、「通常」とは、tx=t1に設定するものとする。また、図32において、上限値PLMTを「拡大」するとは図12の特性をさらに1.2倍に広げることを言う。
【0046】直進中の場合(|θH|<θH0)には、ステップS219に進んで、大振幅入力があったか否かの判断のための閾値GAを決定する。この閾値GAは例えば図30のような特性に従って車速VBに基づいて決定される。図30の閾値GAの特性は、車速VBが大きくなればなるほど大きくなるような閾値である。上下方向の車体速度VGがGAよりも小さい場合、即ち、|VG|<GAの場合は、ステップS230に進んで、フラグFを0にして、ステップS232において制御サイクル時間txを通常間隔(t1)に設定し、またPLMTは変更しないので、「通常」の値(図12)が設定される。
【0047】ステップS220において車体速度VGが閾値GAよりも大きいと判断されたときには、ステップS222でフラグFを2に設定する。そして、ステップS224で制御間隔を「早く」(tx=t2)に設定し、ステップS226で上限値PLMTを1.2倍に広げる。一方、直進中に大振幅の入力があったときは、図13(第1実施例の後輪制御)の制御手順のステップS42において直進中と判断されてステップS52に進み、フラグFの値が調べられる。前述したように、図29のステップS222によりフラグFは2に設定されているから、ステップS52ではYESと判断されてステップS60に進むこととなる。ステップS60では、後輪ダンパの減衰力目標値PRTRnを現在の値よりもハード傾向にするために、PRTRn=PRn+1 ……(14)
とする。ステップS62では、このような後輪の減衰力制御を所定時間継続する。継続する理由はこのような大振幅入力状態が前記所定時間継続すると考えられるからである。
【0048】このようにして、直進中に大振幅の入力があったときは、後輪のためのダンパ力制御(図13)と「大振幅入力制御」(図29)とが協調して動作して対処する。即ち、直進中に大振幅の入力があったときは、後輪については減衰力を高めるとともに(ステップS60)、前輪の制御(図9)と後輪の制御(図13)の制御間隔を短め(時間間隔t2)にすることにより衝撃入力に対して反応を鋭くするようにしている。また、反応を早めることにより減衰力を大きくせざるを得ない場合がある。そのような場合に対しては、上限値PLMTを大きくする(ステップS226)ことにより、衝撃入力に対する応答としての減衰力強化により減衰力が大きくなってもそれがクリップされないようにしている。
【0049】旋回時(ステップS202で|θH|≧θH0)と判断されたときは、ステップS208において所定の閾値GBと車体の上下方向速度VGと比較することにより、衝撃の大きさを測る。この閾値GBは、ステップS206において、ハンドル舵角θHと舵角速度θ'Hとに基づいて例えば図31のような特性に従って決定される。この特性は、ハンドル舵角θHが大きいほど、また舵角速度θ'Hが大きいほど、GBの値が大きくなるというものである。
【0050】車体に加わった衝撃入力が|VG|≧GBであるように大きいときは、ステップS210でフラグFを2にセットし、制御間隔をステップS212において長くし、即ち、衝撃入力に対するダンパ制御の反応を鈍くする。そして、ステップS214,ステップS216においては、目標の減衰力が前輪−後輪間で、あるいは右輪−左輪間において、3段以上の差が発生しないようにする。前輪−後輪間で3段以上の差が発生しようとしているときは、|Pf−Pr|≧3 ……(15)
であり、右輪−左輪間において3段以上の差が発生しようとしているときは、|PL−PR|≧3 ……(16)
である筈である。但し、Pfは前輪の最終目標減衰力PFTRnであり、Prは後輪の目標減衰力RTRnである。かかる場合には、ステップS218に進んで信号INHIBITを出力する。信号INHIBITは、例えば図24のステップS158において、前輪、後輪の各ダンパに対する減衰力信号を実際に出力するか否かを制御する信号である。この信号INHIBITが発生すると減衰力の変更は停止されるので、発生する減衰力が前輪−後輪間で、あるいは右輪−左輪間において3段以上の差となることはない。
【0051】他方、旋回中であっても、衝撃力が小さいとき(ステップS208でNO)は、ステップS242で通常の制御間隔(t1)とする。以上説明したように、本システムの「大振幅入力制御」によれば、■:通常の走行中(ステップS202でNO)に、車体の上下速度VG(即ち上下加速度)が所定の閾値(GA)を越えた(ステップS220でYES)ときは、後輪のダンパ力をハードにしている(図13のステップS60)。また更に、減衰力の上限値PLMTも拡張している。
■:その一方、旋回中(ステップS202でYES)などのときの大きなG入力のとき(ステップS208でYES)は、減衰力を過度に急速に高めることが操安性に影響を与えるので、ステップS212で減衰力をハードにする応答速度を遅くしている。
Gスルー制御Gスルー制御は、悪路走行中等において、上下加速度信号Gに含まれる変動成分がそのまま乗り心地に反映されないように、ダンパ特性をソフトに変更するものである。
【0052】このGスルー制御の詳細は図33に示される。図33のステップS250において、フラグFの値を調べるフラグFの値が2のときはこのGスルー制御を行なわずにメインルーチンにリターンする。F=2のときにステップS252以下に進む。即ち、前述の大振幅入力制御はダンパをハードにする制御であるし、このGスルー制御はダンパをソフトに変更する制御であるので、この2つの制御が干渉しないように、フラグFの値によって互いに排他制御となるようにしているのである。また、ステップS250の存在によって、大振幅入力制御の方がGスルー制御に比して優先順位が高い。これは、本実施例では乗り心地よりも安全性を優先したためである。
【0053】大振幅入力制御が行なわれていない場合を説明する。この場合は、ステップS252以下に進み、ステップS252〜ステップS256において閾値補正係数G0,G1,G2を演算し、ステップS258で最終閾値GTRを、GTR=G0・G1・G2 ……(17)
を演算する。ステップS260では、この閾値と上下方向加速度Gとを比較し、大きな加速度入力があったかを判断する。G0は車速VBに基づいて例えば図34のごとき特性に従って決定され、G1は舵角θHに基づいて例えば図35のごとき特性に従って決定され、G2は舵角速度θ'Hに基づいて例えば図36のごとき特性に従って決定される。
【0054】ここで、ステップS258の加速度Gとは、第1実施例,第2実施例では、3つの加速度センサからの出力信号の平均値でも、あるいはそれらの最大値を示すものをGとするようにしてもよい。大きな加速度の入力があったときはステップS262に進んで、「Gスルー制御」が実行されることを示すためにフラグFを3にする。ステップS264ではスラローム走行を行なっているかを判定する。この判定は、例えば、ハンドル舵角θHの単位時間当たりの変化量に基づいて判断することができる。スラローム走行を行なっていると判断された場合には、ステップS278において上限値PLMTを通常時の1.2倍に拡張する。スラローム走行を行なっている場合には、ハード方向への減衰力の大きな変更を可能にして車体の安定性を保つためである。スラローム走行を行なっていない場合には、図13のステップS56において、PRTRnを1段減衰(ソフトに)している。ダンパ力がハード方向に大きく変更されることを禁止することにより、乗り心地を確保するためである。また、スラローム走行を行なっていないと判断された(ステップS264)場合には、ステップS266において上限値PLMTを通常時の0.8倍に縮小する。
【0055】ステップS264でスラローム走行を行なっていないと判断された場合には、横方向加速度Gの値によって制御間隔txを変えている。即ち、横方向Gが閾値横G0よりも大きい(|横G|≧横G0)と判断されたような場合には、ステップS270において短い制御間隔(t0)を設定し、横方向Gが閾値横G0よりも小さい(|横G|<横G0)と判断されたような場合には、ステップS282において長めの制御間隔(t1)を設定する。但し、t1>t2である。ステップS272〜ステップS276における制御は、前述の「大振幅入力制御」におけるステップS214〜ステップS218と同じで、即ち、目標の減衰力が前輪−後輪間で、あるいは右輪−左輪間において、3段以上の差が発生しないようにする。
【0056】他方、ステップS268で横方向Gが閾値横G0よりも小さい(|横G|<横G0)と判断されたような場合には、ステップS282において通常の制御間隔(t1)を設定する。かくして、この「Gスルー制御」によれば、■:車体の上下加速度(即ち、上下速度)が所定値GTRよりも大きいときは、ステップS262でフラグFを3にセットすることにより、ステップS56で減衰力をソフト方向に修正せしめている。また、上限値PLMTを縮小することにより過大な入力を阻止している。
■:しかし、スラローム中は上限値を拡張してソフト方向への変更が大きくセットされることを許容する。
■:また、横方向に加速度が発生している(ステップS268)ときは、制御間隔を長くすることにより減衰力のソフト化を遅くしている。更に、前項林間、又は左右車輪感での減衰力の差が大きくならないようにして走行安定性を高めている。
■:「大振幅入力制御」を「Gスルー制御」よりも優先することにより、操安性を優先する。
【0057】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のサスペンション装置によれば、コストの低廉価とサスペンション特性制御の両立を高い次元で確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のサスペンション制御装置に入力される信号と制御手段との関係を概念的に示す図。
【図2】実施例のサスペンション装置に使用されるSDダンパの特性を示す図。
【図3】実施例のサスペンション装置に使用されるADダンパの特性を示す図。。
【図4】実施例のサスペンション制御システムに適用されている各種制御間の優先順位を示すテーブル図。
【図5】実施例のサスペンション制御システムに適用されている各種制御間の適用領域を示すマップ図。
【図6】実施例のサスペンション制御システムに適用されている各種制御間の関係を示すブロック図。
【図7】第1実施例にかかるサスペンション装置における、アクチュエータと車輪位置との関係を示す図。
【図8】第1実施例にかかるサスペンション装置における、各種信号、各種制御、アクチュエータとの関係を示す図。
【図9】第1実施例にかかる前輪の減衰力制御のためのフローチャート。
【図10】閾値VG0の車速VBに対する特性を示すグラフ図。
【図11】係数K1の車速VBに対する特性を示すグラフ図。
【図12】減衰力の上限値PLMTの車速VBに対する特性を示すグラフ図。
【図13】第1実施例にかかる後輪の減衰力制御のためのフローチャート。
【図14】第1実施例における、車速VBから規定される後輪の目標減衰力PRの特性を示すグラフ図。
【図15】第1実施例における、前輪減衰力POFから規定される後輪の目標減衰力PRTRの特性を示すグラフ図。
【図16】第2実施例にかかるサスペンション装置における、アクチュエータと車輪位置との関係を示す図。
【図17】第2実施例にかかるサスペンション装置における、各種信号、各種制御、アクチュエータとの関係を示す図。
【図18】第2実施例にかかる後輪の減衰力制御のためのフローチャート。
【図19】第2実施例にかかる前輪の減衰力制御のためのフローチャート。
【図20】第2実施例における、車速VBから規定される前輪の目標減衰力PFの特性を示すグラフ図。
【図21】第2実施例における、後輪減衰力PORから規定される前輪の目標減衰力PFTRの特性を示すグラフ図。
【図22】第3実施例にかかるサスペンション装置における、アクチュエータと車輪位置との関係を示す図。
【図23】第3実施例にかかるサスペンション装置における、各種信号、各種制御、アクチュエータとの関係を示す図。
【図24】第3実施例にかかるバウンス,ピッチ制御の際の減衰力制御のためのフローチャート。
【図25】第3実施例にかかるロール制御の際の減衰力制御のためのフローチャート。
【図26】第3実施例における、前輪目標減衰力PFの舵角θHに対する特性を示すグラフ図。
【図27】第3実施例における、係数Aの舵角変化θ'Hに対する特性を示すグラフ図。
【図28】第3実施例における、係数Kの車速VBに対する特性を示すグラフ図。
【図29】第1実施例〜第3実施例のサスペンション装置に用いられる、大振幅入力制御のフローチャート。
【図30】大振幅入力制御において用いられる係数GAの車速VBに対する特性を示すグラフ図。
【図31】大振幅入力制御において用いられる係数GBの舵角θHに対する特性を示すグラフ図。
【図32】大振幅入力制御の動作を概略的に説明する図。
【図33】第1実施例〜第3実施例のサスペンション装置に用いられる、Gスルー制御のフローチャート。
【図34】Gスルー制御に用いられる係数G0の特性を示すグラフ図。
【図35】Gスルー制御に用いられる係数G1の特性を示すグラフ図。
【図36】Gスルー制御に用いられる係数G2の特性を示すグラフ図。
【符号の説明】
1FL,1FR…高速モータ、1RL,1RR…低速モータ、1'FL,1'FR…低速モータ、1'RL,1'RR…高速モータ、2L,2R,2'L,2'R…上下Gセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 減衰力をアクチュエータにより変更することのできる可変ダンパを備えた車両用サスペンション装置において、車体姿勢信号と車速信号とを検出する手段と、車両の前輪若しくは後輪のいずれか一方の可変ダンパを駆動するための高速型アクチュエータと、前記車両の前輪若しくは後輪の他方の可変ダンパを駆動するための低速型アクチュエータと、前記高速型アクチュエータを前記車体姿勢信号をフィードバックして制御する一方で、前記低速型アクチュエータを車速信号をフィードフォワードして制御する制御手段とを具備したことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】 請求項1の車両用サスペンション装置において、前記一方の可変ダンパ上に上下方向加速度センサを設け、前記制御手段は、このセンサの出力信号を前記車体姿勢信号として入力して前記高速型アクチュエータをフィードバック制御することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項3】 請求項1の車両用サスペンション装置において、前記高速型アクチュエータは複数位置の減衰段を有し、前記制御手段は、前記一方の可変ダンパの高速型アクチュエータの減衰段位置を表す信号を前記他方の可変ダンパの低速型アクチュエータのフィードフォワード制御のために用いることを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項4】 請求項1の車両用サスペンション装置において、前記一方の可変ダンパのフィードバック制御はスカイフックモデルに基づいた制御であることを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項5】 請求項2の車両用サスペンション装置において、検出された上下方向加速度の大きさに応じて、前記他方の可変ダンパに対する前記フィードフォワード制御を補正することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項6】 請求項1の車両用サスペンション装置において、前記他方の可変ダンパのためのフィードフォワード制御は、車速が大きくなるほど、または制動力が大きくなるほど、または舵角が大きくなるほど、減衰特性をハードに補正することを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項7】 請求項1の車両用サスペンション装置において、前記一方の可変ダンパの減衰率の左右比率に応じて前記他方の可変ダンパの減衰率を補正することを特徴とする車両用サスペンション装置。

【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図16】
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【図6】
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【図8】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図13】
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【図30】
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【図34】
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【図17】
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【図22】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図19】
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【図23】
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【図31】
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【図35】
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【図24】
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【図25】
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【図32】
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【図36】
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【図29】
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【図33】
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【公開番号】特開平7−32838
【公開日】平成7年(1995)2月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−176739
【出願日】平成5年(1993)7月16日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)