説明

車両用シートの表皮材

【課題】貫通孔形成に伴う表皮材の面剛性低下を防止又は低減しつつ、車両用シートに見栄え良く被覆することにある。
【解決手段】表皮材6Sは、銀面層と繊維層を備える皮革10によって部材9の対面箇所を覆う構成であり、皮革10が、対面箇所の少なくとも一部に形成の貫通孔16と、繊維層を被覆する樹脂層20を備えており、樹脂層20が、部材9と対面する第一部位21と、第一部位21周りに形成された第二部位22を有し、第二部位22が、第一部位21よりも少ない樹脂量で構成されて、車両用シート2の外形形状に対応して変形可能な柔軟性を備える構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの表皮材に関し、具体的には、貫通孔を設けた皮革製の表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の皮革(銀面層と繊維層を備える天然皮革や人工皮革)に貫通孔を形成する方法として特許文献1及び特許文献2に記載の技術が公知である。例えば特許文献1では、自動制御されたパンチ機構(物理的手段)によって皮革に効率よく貫通孔を形成する。
また特許文献2の技術は、レーザ(光学的手段)にて皮革に貫通孔を形成する技術であり、冷却媒体を皮革に噴射しつつ貫通孔を形成することで、レーザの熱による皮革の焦げつきを極力低減することができる。
【0003】
そしてこのように孔開け加工を行った皮革を袋状の表皮材としたのち、例えば音響装置や通風装置などの部材を内蔵する車両用シートに被覆する。典型的には袋状の表皮材を一旦裏返したのち、丸みを帯びた湾曲状の車両用シートのパッド部材に沿って表向きに順に直して被せていく。このとき貫通孔の形成箇所が部材を覆う位置配置として、車両用シートに表皮材を被せることにより、表皮材に設けた貫通孔によって部材の音や風を乗員側に伝えることができる。
【特許文献1】特開平10−8100号公報
【特許文献2】特開2001−138081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら表皮材(皮革)に貫通孔を形成すると当該形成箇所の面剛性が低下するのであるが、上記公知技術では、この面剛性低下に関する工夫は何らなされていない。特に車両用シートの表皮材に貫通孔を形成する場合には、この面剛性低下に対する対応が求められていた。
もっとも貫通孔の形成箇所に樹脂層を形成する(樹脂層で補強する)などして面剛性低下を抑えてもよいのであるが、そうすると樹脂層により表皮材の可撓性が部分的に低下する。このため丸みを帯びた湾曲状のパッド部材に沿って表皮材を被せると、湾曲部分において樹脂層の形成箇所が折線状に浮き上がるなどして思いのほか見栄えが悪くなる。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、貫通孔形成に伴う表皮材の面剛性低下を防止又は低減しつつ、車両用シートに見栄え良く被覆することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両用シートの表皮材は、音響装置や通風装置などの部材を内蔵する車両用シートを被覆する表皮材であって、銀面層と繊維層を備える皮革によって部材の対面箇所を覆う構成である。そしてこの皮革が、対面箇所の少なくとも一部に形成の貫通孔と、繊維層を被覆する樹脂層を備えており、この樹脂層の補強によって、貫通孔形成に伴う面剛性低下を抑える構成とされている。
そしてこの表皮材を車両用シートに被せるのであるが、このとき皮革の樹脂層によって見栄えが悪化しないよう配慮すべきである。
【0006】
そこで本発明では、上述の樹脂層が、部材と対面する第一部位と、第一部位周りに形成された第二部位を有する。そして第二部位が、第一部位よりも少ない樹脂量で構成されて、車両用シートの外形形状に対応して変形可能な柔軟性を備える構成とされている。
こうすれば部材の対面個所を皮革(樹脂層の第一部位)で被覆したのち、この部材周りの皮革部分(柔軟な樹脂層の第二部位)を、シートの外形形状に対応して(例えば湾曲状に)変形させて車両用シートに被せることができる。
【0007】
第2発明の車両用シートの表皮材は、第1発明に記載の車両用シートの表皮材であって、上述の樹脂層が、第一部位から第二部位に向かって、連続的又は段階的に樹脂量が少なくなる規則性を有して形成されている。このため表皮材を、車両用シートの外形形状に対応して、より自然に(例えば自然な外観や手触りを備えて)車両用シートに被覆することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1発明の表皮材によれば、貫通孔形成に伴う面剛性低下を防止又は低減しつつ、車両用シートに見栄え良く被覆することができる。そして第2発明の表皮材によれば、さらに見栄えよく車両用シートに被覆することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図5を参照して説明する。なお図1においては、便宜上一つの貫通孔にのみ符号を付すこととする。
図1に示す車両用シート2は、シートクッション4とシートバック6とヘッドレスト8を備え、これら各構成要素が表皮材(4S、6S、8S)にて被覆されている。
このシートバック6は、全体的に丸みを帯びた縦長矩形状であり、その両肩口に一対の音響装置9,9が内蔵されている。そしてシートバック6両側が若干湾曲して構成されており、一対の音響装置9,9の隣接箇所がシート後方に向けて湾曲状とされている(図3を参照)。この音響装置9は、コーン紙9a、スピーカ本体9b及びスピーカグリル9cを備えている。
【0010】
また表皮材6Sは、図1を参照して、複数の天然皮革のピースが袋状に縫着されて構成されており、音響装置9を覆う天然皮革のピース(以下、天然皮革10と呼ぶ)に複数の貫通孔16が形成されている。そして本実施例では、この天然皮革10が、後述する樹脂層(樹脂フィルム20,樹脂コーティング40)の補強によって、貫通孔形成に伴う面剛性低下を抑える構成とされている。
この天然皮革10は、図2を参照して、表皮(銀面層12)と真皮(繊維層14)を備える皮革であり、例えば、牛革、馬革、豚革、鹿革、羊革、山羊革、カンガルー革などの動物系天然皮革や虫類系天然皮革を例示することができる。
【0011】
そしてこの表皮材6S(天然皮革10)を、後述するように、湾曲状のシートバック6に被せるのであるが、このとき天然皮革10の樹脂層によって見栄えが悪化しないよう配慮すべきである。
そこで後述の各実施例では、「繊維層に樹脂層を被覆する第一工程」と「貫通孔を形成する第二工程」により製造の天然皮革10によって、表皮材6Sの面剛性低下を抑えつつ、見栄えよくシートバック6を被覆することとしたものである。
【0012】
[実施例1]
(第一工程)
本実施例の第一工程では、図2を参照して、薄膜状の樹脂フィルム20(樹脂層の一例)を接着剤23にて、天然皮革10の繊維層14に貼着(被覆)してほつれにくくなるよう比較的強固に一体化する。そして本実施例では、後述する貫通孔16に対面する部分及びその周り(天然皮革10の一部)に樹脂フィルム20を貼着する構成である(図1を参照)。
この接着剤23は、樹脂フィルム20と繊維層14を接着可能な樹脂であり、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アミノプラスト樹脂、エポキシ樹脂、グリオキザール系樹脂及びエチレン尿素樹脂を例示することができる。例えば接着剤23として、風合い及び耐久性に優れるウレタン系樹脂又はアクリル系樹脂を使用することが好ましい。
【0013】
(樹脂フィルム)
そして樹脂フィルム20には、図1及び図2を参照して、音響装置9と対面する第一部位21と、第一部位21周りに形成された第二部位22を有する。
この第一部位21は、樹脂フィルム20の中央部分に形成されており、後述する貫通孔16が形成される部位である。
また第二部位22には複数の孔部24が設けられており、孔部24の形成されていない無地状態の第一部位21と比較して少ない樹脂量で構成されている。この孔部24は、後述するレーザ照射装置やパンチ機構によって比較的簡単に形成することができる。
【0014】
そして本実施例では、第二部位22に設けた複数の孔部24が、樹脂フィルム20周縁に向かって(第一部位21から第二部位22に向かって)、連続的に径寸法が大きくなる規則性を有して形成されている。すなわち第二部位22には、孔部24の径寸法の違いによるグラデーションが設けられており、径寸法の大きい孔部24が形成された周端側ほどシートバック6の外形形状に対応して変形しやすい柔軟性を備える。
【0015】
この樹脂フィルム20は、繊維層14を一体化可能な樹脂(典型的には熱硬化性樹脂)にて構成される。そして樹脂フィルム20は、伸び変形可能な樹脂にて構成されていることが好ましく、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレン(PE)からなる群より選択される一種以上の樹脂にて構成される。
この樹脂フィルム20(第一部位21)の厚み(剛性)は、後述する貫通孔16の形成箇所の面剛性と、貫通孔16が形成されていない箇所の面剛性が極力同等となるよう設定することが望ましい。例えば天然皮革10の厚み寸法T1を100とすると、樹脂フィルム20(第一部位21)の厚み寸法T2を、貫通孔16の数や径寸法に応じて、0.1〜100程度に設定する。こうすれば樹脂フィルム20(貫通孔を形成した第一部位21)に、天然皮革10が本来有する面剛性や伸縮性を付与することができる。
【0016】
(第二工程)
そして第二工程では、図2を参照して、第一工程後の天然皮革10を、その銀面層12を表側として基台(図示省略)に載置する。そして天然皮革10上方に配置のレーザ照射装置30からレーザを照射して、天然皮革10(無地状態の第一部位21)に複数の貫通孔16を形成する。このとき天然皮革10に形成された貫通孔16は、樹脂フィルム20によって繊維層14のほつれが防止又は低減されることから、その切断面が比較的シャープとなる。そして本実施例では、仮に樹脂フィルム20に繊維層14の焦げつきが原因の煤が付着しても、樹脂フィルム20表面を拭うことで簡単に煤を払拭することができる。
【0017】
(被覆作業)
そして孔開け加工を行った天然皮革10を他の天然皮革ピースとともに袋状に縫着して、シートバック6の表皮材6Sとして使用する(図1を参照)。
そして図3を参照して、表皮材6Sの裏面を、パッド部材6Pよりも柔軟なカバーパッド6CPにて被覆したのち、音響装置9との対面部分に、音のぬけを良くするクッション材7を配設して面出しを行う。このクッション材7は、通気性及び弾力性を備えており、音の減衰防止作用を有するとともにシートバック6の意匠表面形状を保持する部材であることが好ましい。例えばクッション材7として、3Dネット、繊維マット、繊維素材を交絡してなる繊維交絡体(たわし様体)を用いることができる。
そして貫通孔16の形成箇所(クッション材7)が音響装置9を覆う位置配置として、シートバック6(パッド部材6P)に表皮材6Sを被せる。具体的には貫通孔16の形成箇所(第一部位21)が音響装置9を覆う位置配置として、湾曲状のパッド部材6Pに表皮材6Sを被せる。このとき音響装置9の隣接箇所(湾曲部分)には、第一部位21周りに形成の第二部位22が配置する。
そしてこの第二部位22を、パッド部材6Pの湾曲形状に対応して変形させることにより、表皮材6Sをより自然に(例えば自然な外観や手触りを備えて)シートバック6に被覆することができる。
【0018】
このように本実施例では、天然皮革10(孔部24を形成の第二部位22)が、湾曲状に変形可能な柔軟性を備えるように、第一部位21よりも少ない樹脂量で構成されている。このため表皮材6Sを、湾曲状のシートバック6に沿って見栄え良く被覆することができる。
そして天然皮革10(貫通孔16を形成の第一部位21)には、天然皮革10が本来有する面剛性や伸縮性が付与されている。このため樹脂フィルム20によれば、表皮材6Sの面剛性低下を防止又は低減することができるとともに、シートバック6の着座性能がより良いものとなる。
【0019】
さらに天然皮革10の不均一な繊維層14(毛羽立ちのある真皮)を平滑な樹脂フィルム20(第一部位21)にて被覆することで、音質の低下を招く天然皮革10の吸音性能を極力抑えることができる。よって本実施例によれば、天然皮革特有の不具合を改善して、シートバック6の表皮材6Sとして好適に使用することができる。
そして本実施例では、貫通孔16の形成箇所に対応して、天然皮革10の一部に樹脂フィルム20を貼着する(余分な樹脂層を極力形成しない)構成であり、樹脂フィルム20の接着作業が簡便である。また本実施例では、貫通孔16のほつれが極力抑えられるため、天然皮革10の焦げつきが原因の臭気発生を防止又は低減することができる。
【0020】
[実施例2]
本実施例の各部材及び天然皮革は、上述の実施例1とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして本実施例の樹脂フィルム20は、図4を参照して、音響装置9と対面する第一部位21と、第一部位21周りに形成された第二部位22を有する。この第二部位22には複数の切欠き部26(三角状)が設けられており、切欠き部26の形成されていない無地の第一部位21と比較して少ない樹脂量で構成されている。
【0021】
そして本実施例では、これら複数の切欠き部26(三角状)が、樹脂フィルム20周縁を底辺として形成されており、樹脂フィルム20周縁に向かって(第一部位21から第二部位22に向かって)、連続的に切欠き面積が大きくなる規則性を有して形成されている。すなわち第二部位22には、切欠き面積の違いによるグラデーションが設けられており、切欠き面積の大きい周端側ほど柔軟であり、シートバック6の外形形状に対応して変形容易な構成である。このため本実施例の表皮材6Sも、切欠き部26を形成の第二部位22によって、シートバック6の湾曲形状に対応して見栄え良く被覆することができる。
【0022】
[実施例3]
本実施例の各部材及び天然皮革は、上述の実施例1とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして第一工程では、図5を参照して、天然皮革10の繊維層14に対して後述の樹脂組成物(詳細構成は後述)を付与して樹脂コーティング40(樹脂層の他例)で被覆する。この樹脂コーティング40では、天然皮革10の繊維層14が被覆されるとともに、繊維層14内部にも若干の樹脂組成物が侵入して硬化するため、より強固に繊維層14を一体化することができる。
【0023】
(樹脂コーティング)
この樹脂コーティング40には、図5を参照して、音響装置9と対面する第一部位41と、第一部位41周りに形成された第二部位42を有する。この第一部位41は、樹脂フィルム20の中央部分に形成されており、後述する貫通孔16が形成される部位である。
また第二部位42には複数の孔部24が設けられており、孔部24の形成されていない無地の第一部位41と比較して少ない樹脂量で構成されている。
そして本実施例では、第二部位42に設けた複数の孔部24が、樹脂コーティング40周縁に向かって(第一部位41から第二部位42に向かって)、連続的に径寸法が大きくなる規則性を有して形成されている。すなわち第二部位42には、孔部24の径寸法の違いによるグラデーションが設けられており、径寸法の大きい孔部24が形成された周端側ほど柔軟であり、シートバック6の外形形状に対応して変形容易な構成である。
【0024】
この樹脂コーティング40は、例えばスクリーン印刷、スプレー塗布、漬け込みによる含浸等の手法を用いて樹脂組成物を繊維層14に付与することにより形成可能である。
特にスクリーン印刷では、コーティング作業が極めて簡便であり、所望の面剛性を天然皮革10(第一部位41)に比較的簡単に付与することができるとともに、第二部位42の孔部24を比較的簡単に形成することができるため好ましい。さらにスクリーン印刷(典型的にはコンピュータ制御)では、例えば樹脂コーティング40(第一部位41)の厚み寸法を制御することで、貫通孔16の形成箇所(樹脂コーティング40の形成箇所)と、貫通孔16が形成されていない箇所との面剛性や伸縮性をより簡単に同等とすることができる。
【0025】
ここで樹脂組成物とは、繊維層14(真皮)表面に比較的平滑な樹脂層を形成可能な樹脂組成物であり、付加重合系樹脂組成物、エポキシ・ウレタン系樹脂組成物及び縮合重合系樹脂組成物を例示することができる。
より詳しくは付加重合系樹脂組成物として、アクリル樹脂(熱可塑性アクリル樹脂,熱硬化性アクリル樹脂)、ビニル樹脂、炭化水素樹脂又はゴムを例示することができる。またエポキシ・ウレタン系樹脂組成物として、エポキシ樹脂(グリシジルエーテル系,グリシジルエステル系,グリシジルアミン系)、ウレタン樹脂(一液型,二液型)又はポリ尿素樹脂を例示することができる。また縮合重合系樹脂組成物として、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂又はケトン樹脂を例示することができる。またこれら樹脂又はその誘導体からなる群より選択される一種以上の樹脂を樹脂組成物としてもよい。
【0026】
そして第二工程では、第一工程後の天然皮革10を基台54に載置する。この基台54上方には、先端に刃先を備えるパンチ部材50(円柱状)が配置しており、このパンチ部材50が、基台54に設けた凹部52に向かって昇降自在とされて支持部(図示省略)に取付けられている。
そして基台54に載置された天然皮革10に向かってパンチ部材50を下降させて、天然皮革10に貫通孔16を形成する。このとき天然皮革10は、樹脂コーティング40によって繊維層14がより強固に一体化されているため、パンチ部材50により銀面層12及び繊維層14をきれいに打ち抜くことができる。このため貫通孔16周りの繊維層14のほつれがより確実に防止又は低減されて、貫通孔16の切断面がよりシャープとなる。
【0027】
このように本実施例では、天然皮革10の第二部位42が、湾曲状に変形可能な柔軟性を備えるように、第一部位41よりも少ない樹脂量で構成されている。このため表皮材6Sを、湾曲状のシートバック6に沿って見栄え良く被覆することができる。
そして本実施例によれば、天然皮革10の繊維層14を、より強固な樹脂コーティング40(第一部位41)で被覆することで、天然皮革10の面剛性低下を更に確実に防止又は低減することができる。
さらに天然皮革10の不均一な繊維層14(毛羽立ちのある真皮)をより平滑な樹脂コーティング40(第一部位41)にて被覆することで、音質の低下を招く天然皮革10の吸音性能を抑えることができる。
【0028】
本実施形態の表皮材(皮革)は、上述した実施例に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施例では、樹脂フィルム20(樹脂コーティング40)に、孔部24や切欠き部26を設けて第二部位22(42)の樹脂量を少なくする例(樹脂層の面積を減少することにより樹脂量を少なくする構成)を説明した。
これとは異なり、第一部位21に対して第二部位22の厚み寸法を小さく(薄く)して、連続的又は段階的に樹脂量を少なくする構成(樹脂層の厚みを減少することにより樹脂量を少なくする構成)としてもよい。この場合には、第一部位21に対して第二部位22に向かって、連続的に樹脂層の厚みを薄くする(グラデーションを設ける)ことが好ましい。
【0029】
(2)また本実施例では、第一部位21の全周に第二部位22を設ける例(合理的な例)を説明した。これとは異なり、音響装置9の隣接箇所に対応する部分(第一部位21の一部)にのみ第二部位22を設けるシンプルな構成としてもよい。
(3)また本実施例では、孔部24の径寸法を連続的に少なくする例を説明したが、孔部24の径寸法を段階的に変化させて樹脂量を少なくする構成としてもよい。
また孔部24を同一として、第一部位21に対して第二部位22の樹脂量を極端に低減する構成としてもよい。そして孔部24の形状は、上記各実施例に示す円形のほか、楕円形などの略円形状、ひし形,三角形,四角形,五角形又は星形等の多角形状でもよい。
(4)また実施例2においては、樹脂フィルム20に切欠き部26を設ける例を説明したが、樹脂コーティング40に切欠き部26を設けてもよい。そして切欠き部の形状は、上記各実施例に示す三角状のほか、例えば、半円状,半楕円状,R付け三角状などの連続的に切欠き面積が大きくなる形状や、階段付け三角形状や四角状などの切欠き面積が段階的に大きくなる形状としてもよい。
【0030】
(5)また実施例1では、レーザ照射装置30により、樹脂フィルム20で被覆した天然皮革10に貫通孔16を形成する例を説明した。これとは異なり、パンチ機構により、樹脂フィルム20で被覆した天然皮革10に貫通孔16を形成する構成としてもよい。なお第一部位には、一つの貫通孔16が形成される構成でもよく、また複数形成してもよい。
(6)また実施例3では、パンチ機構により、樹脂コーティング40で被覆した天然皮革10に貫通孔16を形成する例を説明した。これとは異なり、レーザ照射装置30により、樹脂コーティング40で被覆した天然皮革10に貫通孔16を形成する構成としてもよい。樹脂コーティング40で被覆した天然皮革10は、その繊維層14がより強固に一体化されているため、繊維層14の焦げつきが原因の臭気発生がほとんどない。
【0031】
(7)また本実施例では、天然皮革10を一例として表皮材の構成を説明した。本実施例の方法は、少なくとも繊維層14を備える皮革であれば適用可能な技術であり、例えば人工皮革(銀面層及び繊維層を樹脂にて構成した皮革)に適用することができる。
また本実施例では、複数の天然皮革10のピースを袋状に縫着して表皮材6Sを構成する例(表皮材6S全てを天然皮革にて構成する例)を説明した。これとは異なり、貫通孔16に対面する部分及びその周り(天然皮革10の一部)を天然皮革10で構成するとともに、その他の部分を他の素材(例えば織物や人工皮革)で構成してもよい。
(8)また本実施例では、貫通孔16に対面する部分及びその周り(天然皮革10の一部)を樹脂層で被覆する例を説明したが、表皮材6Sを構成する天然皮革全てを樹脂層で被覆する構成としてもよい。この場合には、貫通孔16に対面する部分を除く部分を第二部位として構成する。
(9)また本実施例の樹脂コーティング40や接着剤23に、活性炭やチタンなどの消臭剤を混入しておけば、より確実に天然皮革10の臭気を除去することができる。
【0032】
(10)また本実施例では、専ら音響装置9を内蔵する車両用シート2を一例として説明した。本実施例の技術は、皮革にて被覆される各種の部材に適用可能な技術である。特に通気装置、光源又は音響装置を内蔵する各種部材(車両用シートやドアトリム等の車両内装部材)に好適に使用することができる。また皮革表面に貫通孔16によって飾り文字を作成する場合にも、本実施例の技術を適用することができる。
また本実施例では、貫通孔16の形成例として、シートバック6(表皮材6S)を説明したが、シートクッション4(表皮材4S)やヘッドレスト8(表皮材8S)に貫通孔16を形成する場合にも本実施例を好適に用いることができる。
【0033】
(11)また本実施例では、天然皮革10の銀面層12側からレーザ等にて貫通孔16を形成する例を説明した。これとは異なり、天然皮革10の繊維層14側からレーザ等にて貫通孔16を形成する構成としてもよい。この場合には、繊維層14に(部分的に)形成された樹脂層部分が一目でわかるため、貫通孔16の形成位置を容易に位置決めすることができる。
(12)また本実施例では、専ら一枚の皮革に貫通孔16を形成する例を説明した。これとは異なり複数枚の皮革を重ねた状態で、それらに同時に貫通孔16を形成することもできる。この場合、皮革と皮革の間には樹脂層が介層された状態となるため、これらの積み重ね安定性が向上した状態となる。このため、例えばパンチ部材50を挿通したとしても皮革に撚れ等が生じにくくなり、きれいな貫通孔16を形成することができる。
また積み重ね状態の皮革を樹脂層(熱硬化性樹脂)で区分けしておけば、レーザの熱により皮革同士が接着することがない。このため貫通孔16形成後において、積み重ね状態の皮革を一枚ずつきれいに分離することができる(仕分作業が容易となる)。
【0034】
(13)また本実施例では、天然皮革10の銀面層12及び繊維層14の両面に、各々樹脂フィルム(第一樹脂フィルム、第二樹脂フィルム)を貼着する構成としてもよい。
そして銀面層12側の第一樹脂フィルムの接着強度を、繊維層14側の第二樹脂フィルムの接着強度(典型的には3.0N/cm〜6.0N/cm程度)よりも弱くして剥離容易な構成とする。例えば第一樹脂フィルムの接着強度を0.15N/cm〜0.5N/cm程度に設定することが好ましく、こうすることで銀面層12を傷めることなく、第一樹脂フィルムを容易に剥離することができる。
このように天然皮革10両面を第一樹脂フィルム及び第二樹脂フィルムにて被覆することで、レーザの熱による繊維層14及び銀面層12のほつれをより確実に防止又は低減することができる。また仮に銀面層12側の第一樹脂フィルムに焦げや煤が付着したとしても銀面層12から第一樹脂フィルムを剥離することで確実に払拭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】車両用シートの一部透視斜視図である。
【図2】(a)樹脂層を形成した皮革の縦断面図であり、(b)貫通孔を形成した皮革の縦断面図であり、(c)湾曲状に変形した皮革の縦断面図である。
【図3】図1のIII−III線横断面図である。
【図4】実施例2に係る車両用シート一部の透視斜視図である。
【図5】貫通孔を形成した実施例3に係る皮革の縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
2 車両用シート
6 シートバック
6P パッド部材
6S 表皮材
9 音響装置
10 天然皮革
12 銀面層
14 繊維層
16 貫通孔
20 樹脂フィルム
21 第一部位
22 第二部位
23 接着剤
24 孔部
26 切欠き部
30 レーザ照射装置
40 樹脂コーティング
41 第一部位
42 第二部位
50 パンチ部材
52 凹部
54 基台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響装置や通風装置などの部材を内蔵する車両用シートを被覆する表皮材において、
前記表皮材は、銀面層と繊維層を備える皮革によって前記部材の対面箇所を覆う構成であり、前記皮革が、前記対面箇所の少なくとも一部に形成の貫通孔と、前記繊維層を被覆する樹脂層を備えており、
前記樹脂層が、前記部材と対面する第一部位と、前記第一部位周りに形成された第二部位を有し、前記第二部位が、前記第一部位よりも少ない樹脂量で構成されて、前記車両用シートの外形形状に対応して変形可能な柔軟性を備える構成とされている車両用シートの表皮材。
【請求項2】
前記樹脂層が、前記第一部位から前記第二部位に向かって、連続的又は段階的に前記樹脂量が少なくなる規則性を有して形成されている請求項1に記載の車両用シートの表皮材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−247435(P2009−247435A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96112(P2008−96112)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)