説明

車両用タイヤ

【目的】 耐摩耗性、機械的強度等を低下させることなく、水に対する親和性を低下せしめることにより、優れた泥捌け性を付与した車両用タイヤを提供する。
【構成】 ジエン系ゴム成分に、一般式 Y−Si(OR)3 (式中 YはC6H5−,CH3C6H4−, ClC3H6−,CF2C2H4−, NCC3H6−, 又はBrC6H4−を表し、式中 Rは CH3−又はC2H5−を表す)で示される有機シランと補強剤とを含有するゴム組成物を、トレッドゴムとして用いた車両用タイヤであって、前記有機シランの含有量が、前記補強剤の含有量をカーボンブラックに換算したカーボン換算含有量に対して5〜15重量%となる量である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主に、農耕用、建設用車両のタイヤに関する。さらに詳述すると、粘結質土壌を含むような泥ねい地帯や湿田のような圃場地域での走行の際に、泥土が付着するのを防止した車両用タイヤに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】農耕用車両が舗装道路を横断したり、走行する際、泥ねい地帯や湿田で車両用タイヤに付着した泥土を舗装道路に散乱し、路面を汚すことが多々ある。また、病原菌で汚染された圃場の泥土をタイヤに付着したまま病原菌で汚染されていない圃場に移動すると、病原菌で汚染されていない農作物が汚染されるなど、病原菌の伝染により被害を増大させる場合がある。
【0003】このように、泥土が農耕用タイヤのラグ溝間に詰まったり、タイヤトレッド表面に粘着すると、上記のような種々の問題を惹起し、その傾向は、軟弱地域、湿田で特に著しい。このような問題を解決するために、タイヤのトレッドパターンを改良することが考えられる。例えば、ラグ溝を大きくすることで泥捌け性を向上させることができる。しかし、ラグ溝を大きくする等のトレッドパターンの変更は、泥ねい地での車両トラクション性、及びタイヤの摩耗寿命の低下を招く。
【0004】一方、タイヤのトレッド部に用いられるゴム(以下、単に「トレッドゴム」という)と泥との粘着は、泥に含まれている水分を介して発生するため、タイヤのトレッドゴムの水分に対する親和性を減少させることにより、泥捌け性を改善することができる。例えば、トレッド表面にはっ水性、非粘着性に優れたシリコーンゴムシート等を貼着した車両タイヤが提案されている。しかし、シリコーンゴムは機械的強度、特に引っ張り強度に劣ること、耐摩耗性が黒色ゴムに比べて低いこと、さらにジエン系ゴムとシリコーンゴムとは共加硫できないこと等の問題がある。
【0005】また、シリコーンゴムとジエン系ゴムとをブレンドしたゴム組成物をトレッドゴムとして用いることも考えられるが、シリコーンゴムとジエン系ゴムとは相溶性が悪いため、強度の高いトレッドゴムが得られない。さらに、シリコーンゴムはジエン系ゴムに比べて高価なためシリコーンゴムの使用は車両用タイヤの価格アップにつながる。
【0006】本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐摩耗性、機械的強度等を低下させることなく、水に対する親和性を低下せしめることにより、優れた泥捌け性を付与した車両用タイヤを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の車両用タイヤは、ジエン系ゴム成分に、一般式 Y−Si(OR)3 (式中 YはC6H5−,CH3C6H4−, ClC3H6−,CF2C2H4−, NCC3H6−, 又はBrC6H4−を表し、式中 Rは CH3−又はC2H5−を表す)で示される有機シランと、補強剤とを含有するゴム組成物を、トレッドゴムとして用いた車両用タイヤであって、前記有機シランの含有量が、前記補強剤の含有量をカーボンブラックに換算したカーボン換算含有量に対して5〜15重量%となる量であることを特徴とする。
【0008】前記補強剤は、カーボンブラックと、シリカ又はクレーの少なくとも1種とを含む混合物であって、ゴム成分100重量部に対するカーボンブラックの含有量をB、シリカの含有量をS、クレーの含有量をCとして、下記式B≧(S/1.2)+(C/1.4)
を満たしていることが好ましい。
【0009】また、ゴム成分100重量部あたりの有機シランの含有量は、2.5〜7.5重量部とすることが好ましい。
【0010】
【実施例】本発明の車両用タイヤのトレッド面に用いられるゴム、すなわちトレッドゴムを構成するゴム成分としては、通常トレッドゴムに使用されるジエン系ゴム、例えば、天然ゴム、BR、SBR等が用いられる。本発明に係るゴム組成物に配合される補強剤としては、カーボンブラックのみの他、カーボンブラックとシリカの混合物、カーボンブラックとクレーの混合物、又はカーボンブラックとシリカとクレーとの混合物を用いることができる。
【0011】ゴム組成物の補強剤の含有量は、ゴム成分100重量部あたり、カーボンブラックに換算した含有量(以下、「カーボン換算含有量」という)として、35〜65重量部が好ましい。ここで、カーボン換算含有量とは、シリカ又はクレーを配合する際に、シリカ又はクレーによる補強効果と同等の補強効果を発揮できるカーボンブラックの量に換算した量をいう。シリカの補強効果は、実際の配合量の1/1.2倍量のカーボンブラックと同程度であり、クレーの補強効果は、実際の配合量の1/1.4倍量のカーボンブラックと同程度である。従って、補強剤含有量のカーボン換算含有量(WB )は、■式で求めることができる。
【0012】
B =B+(S/1.2)+(C/1.4) ……■式中、Bはカーボンブラックの配合量、Sはシリカの配合量、Cはクレーの配合量を示す。補強剤の一部として、シリカ又はクレーを使用すると、トレッドゴムのはっ水性を一層向上することができる。一方、耐摩耗性、耐引裂抵抗性の低下を防止する観点から、補強剤全体におけるシリカ又はクレーの配合量と、カーボンブラックの配合量とのバランスは、■式を満たすように選択することが好ましい。
【0013】
B≧(S/1.2)+(C/1.4) ……■本発明に用いられる有機シランとは、一般式 Y−Si(OR)3 (式中Y はC6H5−,CH3C6H4−, ClC3H6−,CF2C2H4−, NCC3H6−, 又はBrC6H4−を表し、R は CH3−,C2H5−を表す)で示される化合物である。具体的には、フェニルトリメトキシシラン (C6H5Si(OCH3)3)、フェニルトリエトキシシラン (C6H5Si(OC2H5)3) 、トルイルトリメトキシシラン(CH3C6H4Si(OCH3)3)、トルイルトリエトキシシラン(CH3C6H4Si(OC2H5)3) 、塩化プロピルトリメトキシシラン(ClC3H6Si(OCH3)3) 、塩化プロピルトリエトキシシラン(ClC3H6Si(OC2H5)3)、1,1 ジフルオロプロピルトリメトキシシラン(CF2C2H4Si(OCH3)3)、1,1 ジフルオロプロピルトリエトキシシラン(CF2C2H4Si(OC2H5)3) 、ブロモフェニルトリメトキシシラン(BrC6H4Si(OCH3)3) 、ブロモフェニルトリエトキシシラン(BrC6H4Si(OC2H5)3)、シアノプロピルトリメトキシシラン(NCC3H6Si(OCH3)3) 、シアノプロピルトリエトキシシラン (NCC3H6Si(OC2H5)3) である。
【0014】有機シランの配合量は、補強剤の前記カーボン換算含有量(WB )に対して5〜15重量%となる量である。5重量%未満でははっ水効果が不十分となり、15重量%を越える量を配合しても効果は変わらないこと及び価格アップとなるためである。具体的には、ゴム成分100重量部あたり、2.5〜7.5重量部程度が好ましい。
【0015】さらに、本発明に使用するゴム組成物は、通常のゴム工業で用いられる配合剤である加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤等が適宜配合される。以上のような要件を満たすゴム組成物が、はっ水性に優れていることを説明する。表1に示すようなゴム組成に、補強剤としてカーボンブラック(N220)を50重量部配合した。
【0016】
【表1】


【0017】このゴム組成物に含有される有機シランのカーボン換算含有量に対する含有率(重量%)と吸水率比(%)との関係は図1のグラフに示すようになる。図1R>1のグラフにおいて、縦軸は吸水率比(%)であり、横軸は有機シランのカーボン換算含有量に対する含有率(重量%)である。図1からわかるように、有機シランの含有率が約5重量%の場合に吸水率比が約50%以下となり、有機シランの含有率が15重量%を越えると吸水率比低減の効果はそれ程変わらない。なお、図1のような傾向は、ゴム組成の種類により多少の相違はあるが、一般に類似の傾向を示す。
【0018】ここで、吸水率比とは、有機シランを全く含まない以外は同等のゴム組成物の吸水率を100としたときの当該試料の吸水率を指数で表したものである。吸水率は、縦×横×厚みが1cm×1cm×2mmのゴム試料片を、室温にて48時間、水中に浸漬した後取り出し、試料片表面に付着している水分をすばやく拭き取った後の試料片の重量を測定し、浸漬による増加量(増加量=浸漬後の重量−浸漬前の重量)を求め、当該増加量を浸漬前の試料片の重量で除して求めた(吸水率=(増加量/浸漬前の重量)×100)。
【0019】次に、本発明の効果を具体的実施例に基づいて説明する。表1に示すゴム組成に、表2に示す補強剤及び有機シランを表2に示す量だけ配合して、実施例1〜9のゴム組成物及び比較例1〜3のゴム組成物を調製した。なお、有機シランとして、東レダウコーニングシリコン株式会社製のフェニルトリメトキシシランを、シリカとして日本シリカ製のニプシルVN3(商品名)を、クレーとして白石カルシウム社製のハードクレークラウンを用いた。
【0020】実施例1〜9のゴム組成物及び比較例1〜3のゴム組成物を用いて、試験片を作製し、上記方法に基づいて吸水率を測定した。結果を表2に示す。また、これらのゴム組成物をトレッドゴムに用いたタイヤを作製し、摩耗比、引張り抵抗比、圃場からの泥の持ち出し量を、下記方法にて評価した。その評価結果も合わせて表2に示す。
〔評価方法〕
摩耗比;作製したタイヤで300時間、舗装路面を走行した後、トレッド面の摩耗量を測定した。補強剤としてカーボンブラックのみを配合し、さらに有機シランを全く配合しないゴム組成物(比較例1)の場合の摩耗状態を100として、前記走行後の摩耗量を指数で表した。摩耗比の値が小さい程、摩耗量が大きいことを示している。
【0021】引裂抵抗比;JIS K6301に基づいて測定し、引裂抵抗を測定した。補強剤としてカーボンブラックのみを配合し、さらに有機シランを全く配合しないゴム組成物(比較例1)の場合の引裂抵抗値を100として、試料の引裂抵抗値を指数で表した。引裂抵抗比の値が小さい程、試料の引裂抵抗が小さいことを示している。
【0022】圃場からの泥の持ち出し量;作製したタイヤで圃場を6時間走行し、走行後のタイヤのトレッド表面状態を目視で観察し、泥の付着量を、○(ほとんど付着していない)〜×(たくさん付着している)の3段階で評価した。
【0023】
【表2】


【0024】〔評価〕表2からわかるように、有機シランを本発明の範囲内、すなわちカーボン換算含有量に対して5〜15重量%となる量を含有するゴム組成物(実施例1〜9)を用いて製造される車両用タイヤは、吸水率が小さくなり、圃場からの泥の持ち出し量も減少していることがわかる。一方、有機シランを全く含有しないか又は含有量が少ない場合(比較例1、2)、吸水率が高く、圃場からの泥の持ち出し量が多く劣っていた。なお、補強剤の一部をシリカ又はクレーに置換することにより、摩耗比、引裂抵抗比が低下する傾向にあるが、シリカ、クレーの含有量とカーボンブラックの含有量とが上述の■式を満たす範囲内では、それ程問題にならない。
【0025】なお、比較例3については、実施例と同程度の性能を有するが、高価格となるため好ましくない。
【0026】
【発明の効果】所定の有機シランを所定量含有するゴム組成物をトレッドゴムとして使用した車両用タイヤは、吸水率が小さく、泥土、湿地帯を走行した場合の泥の付着が大幅に改善される。従って、粘結質土壌を含むような泥ねい地帯や湿田のような圃場地域を走行する農耕用、建設用車両のタイヤに本発明のタイヤを用いれば、泥ねい地を移動する際にも舗装道路を汚染したり、複数の圃場を走行しても病原菌による伝染拡大等することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カーボン換算含有量に対する有機シランの含有率と吸水率比との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジエン系ゴム成分に、一般式 Y−Si(OR)3 (式中 YはC6H5−,CH3C6H4−, ClC3H6−,CF2C2H4−, NCC3H6−, 又はBrC6H4−を表し、式中 Rは CH3−又はC2H5−を表す)で示される有機シランと補強剤とを含有するゴム組成物を、トレッドゴムとして用いた車両用タイヤであって、前記有機シランの含有量が、前記補強剤の含有量をカーボンブラックに換算したカーボン換算含有量に対して5〜15重量%となる量であることを特徴とする車両用タイヤ。
【請求項2】 前記補強剤は、カーボンブラックと、シリカ又はクレーの少なくとも1種とを含む混合物であって、ゴム成分100重量部に対するカーボンブラックの含有量をB、シリカの含有量をS、クレーの含有量をCとして、下記式B≧(S/1.2)+(C/1.4)
を満たしていることを特徴とする請求項1に記載の車両用タイヤ。
【請求項3】 ゴム成分100重量部あたりの有機シランの含有量は、2.5〜7.5重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用タイヤ。

【図1】
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