説明

車両用ローラ装置

【課題】
グリス等の潤滑剤を使用せずに円滑な回転が得られ、経時の使用によるローラ本体の損傷を抑制して長期的に円滑な回転が得られ、良好な操作性を有する車両用ローラ装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
鍔部31を有したローラ軸30と前記ローラ軸30に回転自在に軸支された曲げ弾性率が9000MPa以上有する合成樹脂材料からなる樹脂ローラ20とを備え、前記ローラ軸30の回転軸32の表面にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分とした表面処理材料が表面処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に組みつけられる車両用ローラ装置に関するもので、例えばスライドドア等に使用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドドア等に使用される車両用ローラ装置は、スライドドア等を円滑に作動させるためにスライドドア等と車両との間に設けられ、ローラ軸に円環状のローラ本体を回転自在に軸支した構成となっている。ここで、ローラ本体は、スライドドア等の動作時の異音を抑え、操作性を上げるためにローラ本体に合成樹脂が使用されている。また、ローラ本体をローラ軸に対して円滑に回転させるためにローラ軸の外周とローラ本体の内周の間にグリス等の潤滑剤が塗布されている。
【0003】
ところで、塗装工程前に車両に組み付けられる車両用ローラ装置は車両とともに塗装工程を通過するが、この塗装工程には車両の油分を落とすための洗浄工程と、塗料を車両に塗布する塗装工程と、塗布した塗料を乾燥させる乾燥工程があり、これらの各工程を通過する。この際、車両用ローラ装置に塗布されたグリス等の潤滑剤が洗浄工程に使われる洗浄液によりグリス等の潤滑剤が流れ出すと、この流れ出したグリス等の潤滑剤により塗料がはじかれて塗装不良が発生する場合が起こり得る。さらに、グリス等の潤滑剤は経時により変質が起きると潤滑機能が落ちてローラの回転が悪くなり操作性が損なわれる。
【0004】
グリス等の潤滑剤が塗装工程の洗浄工程で流出する問題や経時により変質する問題に対し、例えば特許文献1によれば、塗装工程で油成分が分離せず、かつ低温時の回転トルクを低く維持するように分子量が調整された高分子化合物よりなる基油に、増ちょう剤を含有したグリスを塗布する技術が示されている。
【特許文献1】特開2004-360354号公報(第3頁11行〜26行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される分子量が調整された高分子化合物よりなるグリスを塗布する技術では、塗布されたグリスはローラ本体の回転により、少しずつローラ軸の外周とローラ本体の内周の間から抜け出して減少する。これにより潤滑機能が落ちてローラ本体の回転が次第に悪くなる。また、経時の使用によりローラにかかる荷重によってはローラ本体が損傷してスライドドア等の動作時の操作性が悪くなる場合が起こり得る。
【0006】
本発明は以上の点を鑑み、グリス等の潤滑剤を使用せずに円滑な回転が得られ、経時の使用でのローラ本体の損傷を抑制して長期的に良好な操作性を有する車両用ローラ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段、作用、効果】
【0007】
請求項1の発明にあっては、鍔部を有し、固定部材に固定されるローラ軸と、前記ローラ軸に回転自在に軸支された合成樹脂材料からなる樹脂ローラとを備え、前記ローラ軸がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分とする表面処理材料により表面処理されている。このように前記ローラ軸には摺動性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分とした表面処理材料で表面処理がされているため、前記樹脂ローラは円滑な回転が得られ、また前記樹脂ローラと前記ローラ軸が接触して回転しても表面処理材料はローラ軸の表面にしっかりと密着しているので、ローラ軸の表面から表面処理材料が剥がれ落ちにくく、長期間円滑な回転が得られ、良好な操作性を維持できる。
【0008】
請求項2の発明にあっては、前記表面処理材料はフッ素樹脂を10重量%〜50重量%含有している。前記表面処理材料にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂よりも摺動性に優れたフッ素樹脂をローラ軸の表面との密着性が悪くならない程度含有させることで、より表面処理材料の摺動性が向上して円滑な回転が得られる。
【0009】
請求項3の発明にあっては、前記樹脂ローラは9000MPa以上の曲げ弾性率を有して曲げに対して強固になっている。これにより、前記樹脂ローラは前記樹脂ローラにかかる荷重に対し、より強固になるため損傷が抑制でき長期間円滑な回転が得られ、良好な操作性を維持できる。
【0010】
請求項4の発明にあっては、前記鍔部は前記ローラ軸と一体になっていて、かつ、前記ローラ軸の軸方向に対する前記樹脂ローラの動きを規制している。このため、前記鍔部は前記ローラ軸に対し移動することが無く、前記樹脂ローラをいつも同じ状態に規制しているため、樹脂ローラの前記ローラ軸の軸方向に対する位置が変わる事による回転の変化が起きにくく、良好な操作性が維持できる。
【0011】
請求項5の発明にあっては、前記鍔部の外周部は前記鍔部が無いとした時に前記樹脂ローラに荷重が作用して前記樹脂ローラが弾性変形した時、荷重が作用した方向の前記樹脂ローラの外周部より大きく設定している。このため、前記樹脂ローラに荷重が作用して前記樹脂ローラの外周部が弾性変形して前記鍔部の外周部に当接した時、前記樹脂ローラと前記鍔部に前記荷重が分散して作用するとともに前記鍔部の外周部が支えるため、前記樹脂ローラの損傷を抑制することができ、また、前記樹脂ローラの変形が弾性変形内のため前記樹脂ローラは元に戻ることができるため、長期間円滑な回転が得られ良好な操作性が維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、車両のスライドドアのセンターヒンジ部に本発明の車両用ローラ装置を設けた適用例を示す。 以下、本発明の車両用ローラ装置について説明するが、本発明の車両用ローラ装置はスライドドアへの適用に限定するものではない。
【0013】
図2には図1に示した本実施形態の車両用ローラ装置の斜視図を示し、図3は本実施形態の車両用ローラ装置の縦断面図を示す。図2、図3に示すように、車両用ローラ装置は車両用ローラ装置を車両に設置するヒンジに設けられた固定部材(ブラケット)10に固着されるローラ軸(ガイドピン)30とローラ軸(ガイドピン)30に回転自在に軸支された樹脂ローラ20から構成され、ローラ軸(ガイドピン)30の回転部32の表面には、表面処理材料が焼き付け塗装によりコーティングされていて、樹脂ローラ20の摺動性を向上させている。
【0014】
以下、夫々について説明する。
【0015】
(A)ガイドピン
図3に示すように、ガイドピン30は例えばS45Cの炭素鋼の円柱部材によって形成され、樹脂ローラ20が自由に回転できる回転部32と、回転部32から突設した固定部33と、固定部33と反対に回転部32に隣接した鍔部31を有し、鍔部31は回転部32と同軸上の円形をしており、鍔部31、回転部32、固定部33は一体に形成されている。これにより、鍔部31のガイドピン30に対する位置関係は変化することがない。
【0016】
回転部32の軸長L1は、樹脂ローラ20が鍔部31とブラケット10との間で規制された時、樹脂ローラ20が自由に回転でき、かつ樹脂ローラ20の回転部32の軸方向への動きが最小になる程度に樹脂ローラ20の軸長L2より大きく設定している。
【0017】
次に鍔部31について図4により説明する。図4(A)に示すように樹脂ローラに荷重が作用していない時、鍔部31の外周部311は後述する樹脂ローラ20の太径部21の外周部211に比べて小さく設定している。これにより、樹脂ローラ20は鍔部31の外周部311の影響を受けずに円滑な回転が得られる。樹脂ローラ20が荷重を受けて変形した時、図4(B)に示すように樹脂ローラ20の太径部21の外周部211が鍔部31の外周部311と同じ位置まで弾性変形すると、鍔部31の外周部311が荷重を受けて支えるため変形がこれ以上進行するのを抑制することができる。ここで、図4(C)に示すように鍔部31が無い時には樹脂ローラ20の太径部21の外周部211は作用した荷重によりさらに弾性変形が進行し、作用した荷重によっては樹脂ローラ20が損傷することも有り得る。
【0018】
このように鍔部31の外周部311は、樹脂ローラ20の太径部21の外周部211が荷重を受けていない時の前記外周部211より小さく、鍔部31が無い時に樹脂ローラ20の太径部21の外周部211が荷重を受けて弾性変形した時の荷重を受けた方向の前記外周部211より大きく設定することで、樹脂ローラ20の太径部21に荷重が作用して太径部21の外周部211が鍔部31の外周部311と当接するまで弾性変形すると、これ以上の変形は鍔部31の外周部311が支えて進行を抑制する。この時、樹脂ローラ20の太径部21は弾性変形内の変形であるため、荷重の作用がなくなった時には樹脂ローラ20の太径部21は元の形に戻ることができる。
【0019】
本実施形態では、後述する合成樹脂材料で作製した樹脂ローラ20の太径部21の外周部211は鍔部31が無い時には1mm以上の弾性変形量を有しているため、鍔部31の外周部311を、荷重が作用していない時の樹脂ローラ20の太径部21の外周部211より約1mm小さく設定している。これにより、樹脂ローラ20の太径部21の外周部211は荷重が作用した時に弾性変形内の変形量で留まるため、元の形に戻ることができ円滑な回転が維持できる。
【0020】
次に車両用ローラ装置のブラケット10への固定について説明する。
【0021】
図3に示すように、樹脂ローラ20の貫通穴23にガイドピン30の回転部32を、太径部21が鍔部31に向くように軸通した後、ガイドピン30の固定部33をブラケット10に穿設した固定穴に挿嵌して、かしめ固着する。このようにガイドピン30に組みつけられた樹脂ローラ20はガイドピン30の回転部32に対し自由に回転ができるが、回転部32の軸方向の動きは鍔部31とブラケット10で最小限に規制されている。
【0022】
(B)表面処理材料
表面処理材料は、塗装工程における乾燥工程での乾燥温度で変質しにくい耐熱性を有し、摺動性に優れた合成樹脂材料を主成分とした材料が使用でき、特にガイドピン30の回転部32との密着性が良好で剥れが生じにくいポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂が好ましい。さらに、摺動性を向上させる目的でフッ素樹脂を混合することができる。フッ素樹脂の混合量は10重量%〜50重量%が好ましい。樹脂ローラ20の合成樹脂材料の種類によってはフッ素樹脂の混合量が10重量%未満だと、異音の発生が起き易くなり、50重量%を超えるとガイドピンとの密着性が悪くなり剥れが起こり易くなる。フッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)などが使用できるが、摺動性、耐熱性が優れるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0023】
このように、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分としてフッ素樹脂を10重量%〜50重量%混合した材料をガイドピン30の回転部32の表面に塗装した後、焼き付けることで回転部32の表面に表面処理材料がコーティングされる。この際、高温で焼き付けることにより回転部32と表面処理材料はしっかりと密着し剥れにくくなる。
【0024】
ここで、本実施形態では環境への影響を配慮してポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂の粉末とフッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末を水に分散混合させた材料をスプレーにて塗装した。なお、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂とフッ素樹脂を水以外の溶媒に溶解または分散させて使用することも可能であり、回転部32への塗装はスプレー塗装以外にも浸漬塗装等の従来使用される塗装法が使用できる。またポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂とフッ素樹脂との粉末を直接ガイドピン30の回転部32の表面に粉体塗装することも可能である。
【0025】
(C)樹脂ローラ
樹脂ローラ20は図3に示すように、段付の円環状で鍔部31の外周部311より大きな径を有する前述した太径部21とブラケット10の端面11と略同じ径を有する細径部22から成り、中心部にはガイドピン30の回転部32を軸通する貫通穴23が形成されている。樹脂ローラ20の合成樹脂材料は、ISO 75、ASTM D648、JIS K7191に規定される荷重たわみ温度が塗装工程の乾燥温度以上の耐熱性を有する合成樹脂材料が使用でき、例えば結晶性の合成樹脂材料であるナイロン(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサフファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が適している。これら荷重たわみ温度が塗装工程の乾燥温度以上の耐熱性を有する合成樹脂材料を使用することで塗装工程における乾燥工程で高温に保持された時、熱による変形を抑制することができ円滑な回転が得られる。
【0026】
また、樹脂ローラ20に使用する合成樹脂材料は単独で使用することもできるが補強材を混合して曲げ弾性率を上げた材料を使用することもできる。補強材には補強効果が高い繊維状の材料が使用でき、特に摺動性に悪影響を与えにくい炭素繊維が好ましい。ここで、曲げ弾性率としては、JIS K7171、ASTM D790、ISO 178に規定される方法により測定され、9000MPa以上が好ましい。曲げ弾性率が9000MPa以上の合成樹脂材料を使用すれば、後述する圧縮評価で樹脂ローラ20に2000Nの荷重が作用しても損傷しないため、経時の使用で樹脂ローラ20が損傷するのを抑制することが可能となる。
【0027】
次に、表面処理材料および樹脂ローラ20の材料に関して行った異音試験および圧縮試験について説明する。
【0028】
<異音試験>
ガイドピン30をアルカリ脱脂、洗浄してガイドピン30に付着している油分を落とした後、ガイドピン30の回転部32に、表1〜表3に示した表面処理材料をスプレー塗装した後10分間室温にて予備乾燥させた後120℃のオーブンにて10分間乾燥させた。その後約400℃のオーブンに15分〜20分間焼き付けて、膜厚が40μm〜50μmのコーティング膜を得た。ここで、表1、表2の表面処理材料は耐熱性および摺動性が優れるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を表1、および表2に記載した量を混合し、表3の表面処理材料はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂と同様に耐熱性および摺動性に優れたポリアミドイミド(PAI)樹脂を主成分としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を30%混合した材料を使用した。
【0029】
以上表1〜表3に示した表面処理材料でコーティングしたガイドピン30の回転部32に、表1〜表3に示した合成樹脂材料を射出成形して作製した樹脂ローラ20を太径部21がガイドピンの鍔部31に向くように軸通した後、ガイドピン30の固定部33をブラケット10に穿設した固定穴に挿嵌して、かしめ固着することで実施例1〜20および比較例1〜15の評価用ローラを作製した。
【0030】
実施例1〜20、比較例1〜15に示した評価用ローラの樹脂ローラ20の太径部21の外周部211に100Nのラジアル負荷をかけた状態で樹脂ローラ20を回転させて、回転による移動距離が約5kmになるまで移動させた時の剥れと回転時の異音の有無を確認し、その結果を表1〜表3に示した。
【0031】
表1の実施例2、3、16、17と表3の比較例13〜15の結果を比較すると、樹脂ローラ20の合成樹脂材料に46ナイロン(PA46)樹脂を使用した場合と、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を使用した場合とで同じ結果を示し、表面処理材料がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分にした材料では剥れが発生していないが、ポリアミドイミド(PAI)樹脂を主成分にした材料では剥れが発生しており、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分にした材料はガイドピン30の回転部32との密着性が優れていることが判る。
【0032】
また、表1、表2の結果から明らかなように、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分にした表面処理材料に混合するフッ素樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合量は、樹脂ローラ20の合成樹脂材料の種類によって異なるが、混合しないと異音の発生が起こり易く、混合量が50%を超えると剥れおよび異音の発生が起こり易くなっている。
【表1】

【表2】

【表3】

【0033】
<圧縮試験>
【表4】

【0034】
表4に示した合成樹脂材料を射出成形して、実施例1〜6、および比較例1の評価用の樹脂ローラ20を作製した。前記樹脂ローラ20の貫通穴23に鍔部31を削除したガイドピン30を挿通して、回転部32に前記樹脂ローラ20を配置した後、アムスラー型万能試験機に前記樹脂ローラ20の太径部21の外周部211が上下方向に向くように置き、1mm/分の速度にて2000Nの荷重が作用するまで太径部21の外周部211を圧縮させた時に前記樹脂ローラ20の損傷の有無を確認し、その結果を表4に示した。
【0035】
表4の結果から明らかなように樹脂ローラ20は、JIS K7171、ASTM D790、ISO 178に規定される方法で測定された曲げ弾性率で9000MPa以上を有する合成樹脂材料で作製された樹脂ローラ20は、合成樹脂材料の種類に関係が無く2000Nの荷重で損傷していないことが判る。ここで、2000Nの荷重は車両で使われる時の最大荷重を想定していて、この2000Nの荷重で損傷が無いことは、標準的な使われ方では、曲げ弾性率が9000MPa以上の合成樹脂材料を使用すれば樹脂ローラ20は損傷しにくいと予想できる。
【0036】
以上説明したように本発明の実施形態の車両用ローラ装置では、ローラ軸(ガイドピン)30は鍔部31を有して、回転部32の表面には耐熱性および摺動性に優れたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分とした表面処理材料が約400℃の高温で表面処理されている。これにより、車両用ローラ装置はグリス等の潤滑剤を用いなくても良好な摺動性が得られ、また、グリス等の潤滑剤を塗布するのとは違って回転部32の表面にしっかりと表面処理されて剥れにくくなっているので、長期的に円滑な回転が得られ良好な操作性が維持できる。
【0037】
さらに、表面処理材料には摺動性を向上させる目的でポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂よりも摺動性に優れたフッ素樹脂をローラ軸の表面との密着性が悪くならない程度で10重量%〜50重量%含有させている。これにより、さらに摺動性が向上し円滑な回転が得られる。
【0038】
また、樹脂ローラ20の合成樹脂材料の種類は、荷重たわみ温度が塗装工程の乾燥温度より高く、かつ曲げ強度が9000MPa以上有する合成樹脂材料である。荷重たわみ温度が塗装工程の乾燥温度より高いので、塗装工程における熱変形を抑制して円滑な回転が得られ、さらに曲げ弾性率が9000MPa以上有しているので曲げに対し強固になり、経時の使用により樹脂ローラ20が損傷して操作性が悪くなることを抑制することができる。
【0039】
また、鍔部31はガイドピン30と一体に形成されていて、樹脂ローラ20はこの鍔部31と固定部材(ブラケット)10によりガイドピン30の回転部32の軸方向の動きが規制されるようになっている。これにより鍔部31がガイドピン30に対し移動することが無く樹脂ローラ20をいつも同じ状態に規制しているため、樹脂ローラ20がガイドピン30の回転部32に対し位置が変わる事による回転の変化が起こりにくく、良好な操作性が維持できる。
【0040】
さらに鍔部31の外周部311は樹脂ローラ20の外周部211より約1mm小さくしている。この約1mm小さくした外周部311は、鍔部31が無い時に樹脂ローラ20の外周部211に荷重が作用して弾性変形した時に荷重が作用した方向の外周部211よりは大きくなっている。これにより、樹脂ローラ20の外周部211に荷重が作用して前記外周部211が弾性変形し、鍔部31の外周部311に当接すると、樹脂ローラ20の外周部211と鍔部31の外周部311に前記荷重が分散して作用するとともに鍔部31の外周部311が支えるのでこれ以上の変形の進行が抑制され、さらに荷重の作用がなくなった時には樹脂ローラ20は元に戻ることができる。このことから経時の使用において樹脂ローラ20が損傷するのを抑制することができるので、良好な操作性を維持できる。
【0041】
以上、本発明を上記実施の態様に則して説明したが、本発明は上記態様にのみ限定されるものではなく、本発明の原理に準ずる各種態様を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】車両のスライドドアに本実施形態の車両用ローラ装置を設けた適用例である。
【図2】本実施形態の車両用ローラ装置の斜視図である。
【図3】本実施形態の車両用ローラ装置の縦断面図である。
【図4】本実施形態の車両用ローラ装置に荷重が作用した時の模式図である。
【符号の説明】
【0043】
10…固定部材(ブラケット)、20…樹脂ローラ、21…太径部、22…細径部、
30…ローラ軸(ガイドピン)、31…鍔部、211,311…外周部、32…回転部、
33…固定部、40…車両、50…スライドドア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍔部を有し、固定部材に固定されるローラ軸と、前記ローラ軸に回転自在に軸支された合成樹脂材料からなる樹脂ローラとを備え、前記ローラ軸がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を主成分とする表面処理材料により表面処理されていることを特徴とする車両用ローラ装置。
【請求項2】
前記表面処理材料はフッ素樹脂を10重量%〜50重量%含有したことを特徴とする請求項1に記載の車両用ローラ装置。
【請求項3】
前記樹脂ローラの前記合成樹脂材料は、曲げ弾性率が9000MPa以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ローラ装置。
【請求項4】
前記鍔部は、前記ローラ軸と一体になっていて、かつ前記ローラ軸の軸方向に対する前記樹脂ローラの動きを規制していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用ローラ装置。
【請求項5】
前記鍔部の外周部は、前記鍔部が無いとした時に前記樹脂ローラに荷重が作用して前記樹脂ローラが弾性変形した時、荷重が作用した方向の前記樹脂ローラの外周部より大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用ローラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−52195(P2009−52195A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216848(P2007−216848)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)