説明

車両用便器洗浄水の添加薬剤

【目的】 一過式に使用される洗浄水に添加される車両用便器洗浄水の添加薬剤であって、汚水タンクからの臭気の発生を十分に防止することができる車両用便器洗浄水の添加薬剤を提供する。
【構成】 液状アルデヒド化合物10〜200g、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール5〜50g及び、消臭成分を含有したバチルス属、ストレプトコッカス属、リゾープス属、エンテロバクター属あるいはアスペルギルス属等の微生物の培養液の遠心分離上清50〜500ccよりなる車両用便器洗浄水の添加薬剤。
【効果】 一過式の洗浄方式の車両用洗浄水に添加されることにより、優れた防臭作用を発揮する。液状アルデヒド化合物は殺菌、消臭作用を発揮し、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールは抗菌防腐作用を発揮する。また、汚物の腐敗を防止し、悪臭ガス成分の発生を抑制する。微生物培養液の遠心分離上清は、中和あるいは酵素分解反応によってアンモニア等の悪臭成分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両の便器洗浄水に添加される添加薬剤に係り、特に、殺菌、防腐及び消臭機能に優れた該添加薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】車両(特に列車)の水洗トイレ設備においては、洗浄水を洋風便器又は和風便器に供給して該洋風便器又は和風便器の洗浄を行なっている。
【0003】この洗浄方式の1つとして、貯水タンク内の洗浄水を便器に導き、次いで汚水タンクに落とし込み、汚水タンク内の汚水を車両基地にて排出するものがある。
【0004】別の洗浄方式として、汚水タンク内の上澄液を循環するものがある。
【0005】後者の循環式の洗浄方式のものにおいては、汚水タンク内に水が多量に存在しており、汚物が水没するから臭気発生は少ない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これに対し、前者の水を一過式に使用するタイプの洗浄方式においては、洗浄水が清潔で衛生的であるというメリットがあるものの、洗浄水量を少なくしているところから汚水タンク内に流入する汚物に対する洗浄水量が少なく、汚物が大気に晒され易い。そして、このため、強い臭気が発生し易くなるという問題があった。
【0007】本発明は、上記従来の問題点を解決するものであって、一過式に使用される洗浄水に添加される車両用便器洗浄水の添加薬剤であって、汚水タンクからの臭気の発生を十分に防止することができる車両用便器洗浄水の添加薬剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の車両用便器洗浄水の添加薬剤は、液状アルデヒド化合物10〜200g2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール5〜50g及び消臭成分を含有した、微生物の培養液の遠心分離上清50〜500ccよりなるものである。
【0009】請求項2の車両用便器洗浄水の添加薬剤は、請求項1において、前記微生物は、バチルス属、ストレプトコッカス属、エンテロバクター属、リゾープス属及びアスペルギルス属よりなる群から選ばれる少なくとも一種よりなることを特徴とするものである。
【0010】請求項3の車両用便器洗浄水の添加薬剤は、請求項1又は2において、前記培養液は、前記微生物2.0〜10.0gを塩化アンモニウム0.2〜1.0g、グルコース2.0〜10.0g及び水1〜5リットルの割合よりなる液中で培養した培養液であることを特徴とするものである。
【0011】以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】本発明によって、液状アルデヒド化合物としては、グルタルアルデヒド、グリオキザール、ベンズアルデヒド等が好適であるが、中でもグルアルアルデヒドが最も好ましい。この液状アルデヒド化合物は、殺菌作用及び消臭作用を発揮する。
【0013】2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールは、抗菌作用及び防腐作用を発揮する。微生物培養液の微生物としては、バチルス(Bacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus )属、エンテロバクター(Enterobacter)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus )属のいずれか1又は2以上の組合せが好適である。
【0014】具体的な微生物としては、次のものが挙げられる。
■バチルス(Bacillus)属の微生物として、特にバチルス・ズブチルス(B.subtilis)[IAM ( Institute of Applied Microbiology; 東京大学応用微生物研究所有用菌株保存施設の略称; 以下同様にこの略称で示す)1168] が好適であるが、この他に、バチルス・ナットウ(B.natto )[IFO(Institute for Fermentation Osaka: 財団法人発酵研究所:の略称:以下同様にこの略称で示す)3009] 、バチルス・コアギュラス(B.coagulans )[IAM 1115]、バチルス・マセランス(B.macerans) [IAM 1243] も利用できる。
【0015】■ストレプトコッカス(Streptococcus )属の微生物としては、ストレプトコッカス・ファカリス(S.faecalis)[IAM 1119]、ストレプトコッカス・クレモリス(S.cremoris)[IAM 1150]及びストレプトコッカス・ラクチス(S.lactis)[IFO12546] などを用いることができる。
【0016】また、カビの1種の■リゾープス(Rhizopus)属の微生物としては、リゾープス・フォルモサエンシス(Rhizopus formosaensis )[IAM 6250]、リゾープス・オリザエ(Rhizopus oryzae )[IAM 6006]、リゾープス・シュードシネンシス(Rhizopus pseudochinensis)[IAM 6042]などを用いることができる。
【0017】■エンテロバクター(Enterobacter)属の微生物としては、エンテロバクター・サカザキ(E.sakazakii )[IAM 12660] 、エンテロバクター・アグロネランス(E.agglonerans[IAM 12659]などを用いることができる。
【0018】そして■アスペルギルス(Aspergillus )属の微生物としては、アスペルギルス・ニガー(A.niger )[IFO 4066]、アスペルギルス・ウサミイ(A.usamii)[IFO 6082]などを用いることができる。
【0019】以上の微生物は、その増殖培養により、酵素や有機酸が生成される。即ち、悪臭源を中和する有機酸や、悪臭源を分解する酵素が生成される。この消臭有効成分は、基本的に悪臭源の主となるアンモニアを除去するもので、比較的長時間、効力を発揮することができる。
【0020】この微生物を培養する培養液としては、上記微生物粉末2.0〜10.0g、塩化アンモニウム0.2〜1.0g、グルコース2.0〜10.0g及び水1〜5リットルの割合よりなるものが好ましい。この液を25〜35℃程度の温度で10〜50hr程度ゆるやかに撹拌して微生物の培養を行なうのが好ましい。
【0021】本発明において、液状アルデヒド化合物、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール及び微生物培養液の遠心分離上清(以下、単に「上清」という。)の混合割合は次の通りである。
液状アルデヒド化合物:10〜200g、好ましくは20〜100g 2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール: 5〜50g、好ましくは10〜40g 微生物培養液の遠心分離上清: 50〜500cc、好ましくは100〜300cc
【0022】
【作用】本発明の車両用便器洗浄水の添加薬剤は、一過式の洗浄方式の車両用洗浄水に添加されることにより、優れた防臭作用を発揮する。このうち、液状アルデヒド化合物は殺菌、消臭作用を発揮し、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールは抗菌防腐作用を発揮する。なお、汚物の腐敗が進行すると、アンモニアや硫化水素が大量に発生するが、この2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールは、汚物の腐敗を防止し、悪臭ガス成分の発生を抑制する。
【0023】微生物培養液の遠心分離上清は、中和あるいは酵素分解反応によって有機物質やアンモニア等の悪臭成分を除去する。
【0024】
【実施例】以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0025】実施例1塩化アンモニウム 0.5gグルコース 5.0g水 2.5リットル及び微生物粉末としてバチルスズブチルス 5.0gを混合し、30℃にて24hr撹拌した。この培養液を遠心分離して上清を得た。
【0026】この上清150ccに対しグルタルアルデヒド100g及び2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール20gを加えて混合し、本発明の添加薬剤250ccを得た。
【0027】この薬剤250ccを、一過式の洗浄方式の長距離列車のトイレの洗浄水タンク(100リットル)に加え、乗客の使用に伴う臭気の発生を調査したが、列車の始発から終着までの約7Hrにわたって、臭気は全く発生しなかった。
【0028】実施例2実施例1において微生物としてバチルス・ズブチルスとストレプトコッカス・ファカリスとの混合物を用いたこと以外は同様にして車両用便器洗浄水の添加薬剤を製造し、同様の実験を行なったところ、臭気は全く発生しなかった。
【0029】実施例3実施例1において微生物としてエンテロバクター・サカザキを用いたこと以外は同様にして車両用便器洗浄水の添加薬剤を製造し、同様の実験を行なったところ、臭気は全く発生しなかった。
【0030】
【発明の効果】以上の通り、本発明の車両用便器洗浄水の添加薬剤によると、一過式洗浄方式の車両トイレにおいて、汚水タンクからの臭気の発生を防止することができる。しかも、本発明の車両用便器洗浄水の添加薬剤は、界面活性剤を含んでいないので、噴射式洗浄タイプの車両トイレに適用しても、泡が発生しない。
【0031】なお、請求項2、3の車両用便器洗浄水の添加薬剤においては、この臭気防止効果がきわめて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 液状アルデヒド化合物10〜200g2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール5〜50g及び消臭成分を含有した、微生物の培養液の遠心分離上清50〜500ccよりなる車両用便器洗浄水の添加薬剤。
【請求項2】 請求項1において、前記微生物は、バチルス属、ストレプトコッカス属、エンテロバクター属、リゾープス属及びアスペルギルス属よりなる群から選ばれる少なくとも一種よりなることを特徴とする車両用便器洗浄水の添加薬剤。
【請求項3】 請求項1又は2において、前記培養液は、前記微生物2.0〜10.0gを塩化アンモニウム0.2〜1.0g、グルコース2.0〜10.0g及び水1〜5リットルの割合よりなる液中で培養した培養液であることを特徴とする車両用便器洗浄水の添加薬剤。

【公開番号】特開平6−473
【公開日】平成6年(1994)1月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−162704
【出願日】平成4年(1992)6月22日
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)