説明

車両用放射線防護装置

【課題】平常時では極めてコンパクトで、収納に要するスペースも取らず、また、一旦事件が発生すると、車両に極めて簡単に短時間の間に取り付けて放射線の侵入を防止でき、放射線の発生源に対して近づく場合も避難する場合も速やかな移動を可能とした車両用放射線防護装置を提供する。
【解決手段】放射線の発生源Gに対し対向する車体1のガラス部2を全面的に覆うように設けられ放射線を遮蔽する透明な第1遮蔽部材3と、第1遮蔽部材3を支持する支持部材6,10と、車体1のガラス部2以外であって放射線の発生源Gに対し対向する車体1の側部4を全面的に覆うように設けられ放射線を遮蔽する第2遮蔽部材20と、第2遮蔽部材20の上端を車両1に固定的に保持する保持部材21と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の車室内への侵入を防止する車両用放射線防護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故や原子爆弾の爆発等あるいはテロ行為等により、放射性汚染物質が大気中に飛散し放射線が放射される状態に至った場合の処理対策としては、人が放射線を遮蔽するプレートを持って、放射線の発生源に近づき発生源を処理する。また、このような事故現場から避難する場合には、各人が避難用の衣服を着用して避難するか、シェルタに避難することになる。
【0003】
このシェルタに関しては、従来から個人用や居住用のものあるいは地下式やカプセル式など、種々のものが提案されているが、例えば、下記特許文献1では、閉鎖された収容空間内にベッドを内蔵したものが、また、下記特許文献2では、大きな閉鎖空間を有し、その内部で相当期間居住できる居住用のものが開示されている。
【特許文献1】特開平8−294430号公報(要約参照)
【特許文献2】特開2005−16216号公報(要約参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、人が放射線遮蔽プレートを持って移動したり、避難用衣服を着用して避難すれば、移動に時間がかかる虞があり、多数の人を速やかに移動させることは困難である。また、シェルタに避難する場合であっても、位置固定的であるため、事件が発生した場所から遠く離れた安全な場所に素早く移動することはできない。特に、シェルタは、事件のない平常時では、不必要にスペースをとり、しかも平常時には使用しない種々の装置を有しているため、生産コストあるいは維持コストも高く、実用的でないという問題もある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、平常時では極めてコンパクトで、収納に要するスペースも取らず、また、一旦事件が発生すると、車両に極めて簡単に短時間の間に取り付けて放射線の侵入を防止でき、放射線の発生源に対して近づく場合も避難する場合も速やかな移動を可能とした車両用放射線防護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の車両用放射線防護装置は、放射線の発生源に対し対向する車体のガラス部を全面的に覆うように設けられ前記放射線を遮蔽する透明な第1遮蔽部材と、当該第1遮蔽部材を支持する支持部材と、前記車体の前記ガラス部以外であって前記放射線の発生源に対し対向する前記車体の側部を全面的に覆うように設けられ前記放射線を遮蔽する第2遮蔽部材と、当該第2遮蔽部材の上端を前記車両に固定的に保持する保持部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明は、車両のフロントガラスやサイドガラスに、放射線を遮蔽する透明な第1遮蔽部材を支持部材を用いて取付け、車体のガラス部以外の板部を、放射線を遮蔽する第2遮蔽部材を保持部材を用いて取付けるので、外部を目視することができ、極めて簡単にかつ速やかに放射線を遮蔽する車室内空間を形成できる。したがって、車両を操縦し移動すれば、放射線発生源の処理や、事件発生場所からの避難を極めて簡単に短時間の間に行なうことができる。また、平常時では、第1遮蔽部材や第2遮蔽部材、各種支持部材などの小物部品を車両に搭載あるいは適当な場所に準備すればよく、特別な大きなスペースを要することがなく、極めてコンパクトで、コスト的にも極めて有利となる。
【0008】
請求項2の発明は、第1遮蔽部材を支持する支持部材を、下端で位置調整し、上部で位置固定的に支持する構成としたので、第1遮蔽部材の取付けが極めて迅速にでき、しかも、種々の車両に汎用的に取付けることができ、位置調整により放射線の遮蔽をより安全に行うことができる。
【0009】
請求項3の発明は、第1支持部材を基板や固定具などにより構成し、第2支持部材を吸盤やマグネット部材により構成したので、第1遮蔽部材の取付けが極めて迅速にできるのみでなく、遮蔽部材の固定を安価でかつ安全に行うことができる。
【0010】
請求項4の発明は、第2遮蔽部材を、差込プレート部材と固定具により保持する構成にすれば、取付けが極めて迅速にできるのみでなく、遮蔽部材の固定を安価でかつ安全に行うことができる。
【0011】
請求項5の発明は、第1遮蔽部材を高密度のセラミック、第2遮蔽部材をポリウレタンとPVCを主成分とする合成高分子樹脂により構成とすると、コスト的に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態の車両用放射線防護装置を示す概略斜視図、図2は第1遮蔽部材を示し、図1の2−2線に沿う断面図、図3は図2の3−3線に沿う矢視図、図4は第2遮蔽部材を示し、図1の4−4線に沿う断面図である。
【0014】
一般に、放射線は、中性子線、α線、β線、γ線、X線などがあるが、これらは、水平に照射されるものが人体に悪影響を及ぼし、放射方向に照射されるものは、人体に悪影響を及ぼさないことが知られている。したがって、本実施形態の車両用放射線防護装置は、基本的には放射線の発生源に対し対向する部分を遮蔽するように構成している。
【0015】
まず、車両用放射線防護装置について概説すれば、図1に示すように、車体1のガラス部2を透明な第1遮蔽部材3により覆い、車体1の側部4を布状の第2遮蔽部材20により覆う構成であり、放射線の発生源に対し対向する位置に設けられている。
【0016】
さらに詳述する。第1遮蔽部材3は、図1,2に示すように、車体1のフロントガラス部2aを全面的に覆う透明なプレートであり、2枚のプレート3a,3bが中央部で折曲可能に連結部材5により連結され、その側部にも、同様の連結部材5を介して連結された補助プレート3cが設けられている。したがって、これらプレート3a,3b,3cは、折曲げ可能となることから、コンパクトに収納できる。
【0017】
これらプレート3a,3b,3cと連結部材5とは、ビスあるいはボルトなどにより連結されているが、接着剤などを使用してもよい。なお、連結部材5は、後述する第2遮蔽部材20のように遮蔽機能を有する布製のものが好ましい。
【0018】
また、第1遮蔽部材3の下端部は、第1支持部材6により支持され、上部は、第2支持部材10により車体1のフロントガラス部2aに固定的に保持されているが、場合によっては、第1支持部材6のみにより第1遮蔽部材3を支持することもできる。
【0019】
第1支持部材6は、図2に示すように、車体1に取り付けられる断面U字状で車幅方向に伸延する2つの基板7と、基板7に第1遮蔽部材3を締め付ける固定具8とを有し、基板7には、図3に示すように、長孔9が形成され、第1遮蔽部材3の高さ位置を調節可能としている。なお、長孔9は、基板7又は第1遮蔽部材3のいずれに設けてもよい。
【0020】
第2支持部材10は、図2に示すように、車体1のフロントガラス部2aに吸着する吸盤11と、第1遮蔽部材3の頂部にヒンジ部材12を介して取り付けられたマグネット部材13とから構成されている。このような吸盤11により構成すれば、フロントガラスを傷つけることなく第1遮蔽部材3を簡単にかつ迅速に車体1のフロントガラス部2aに取付けることができ、また、マグネット部材13を設けると、第1遮蔽部材3の高さ位置を調節しても車両のトッププレート14を利用して確実に第1遮蔽部材3を固定することができる。
【0021】
本実施形態の第1遮蔽部材3は、具体的には、高密度のセラミックが用いられている。高密度のセラミックは、γ線およびX線と中性子線とを同時に遮蔽できるとともに、耐熱性、疎水性、耐薬品性の点で優れた材料である。ただし、これのみでなく純セラミック、複合セラミックであってもよい。
【0022】
第1遮蔽部材3の寸法は、フロントガラス部2aを完全に覆うことができる大きさであればよく、厚さtは、放射線を遮蔽する能力や質量を考慮して適宜決めればよいが、本実施形態では25mm程度である。
【0023】
ただし、これのみでなく、たとえば、中性子線、γ線、β線、α線、X線を遮蔽する機能を有する、鉛含有ガラス、鉛アクリル樹脂板、鉛含有透明樹脂板、ホウ素含有ガラスなどの放射線遮蔽部材であってもよい。また、γ線、β線、α線、X線を遮蔽する機能を有する、ストロンチウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有透明樹脂板、バリウム含有透明樹脂板などの放射線遮蔽部材であってもよい。
【0024】
一方、第2遮蔽部材20は、図4に示すように、放射線の発生源Gからの水平方向の放射線に対し対向する車体1の側部4を全面的に覆う布部材であり、第1遮蔽部材3との間に隙間が生じないように保持部材21を用いて取付けられている。ここに、車体1の側部4とは、ドアのみでなく側部の板材を包含するものである。なお、ドアは、開くことにより放射線の発生源Gからの水平方向の放射線に対向する位置となり、第1遮蔽部材3と共に広い範囲で遮蔽機能を発揮することもできる。
【0025】
図4では、第1遮蔽部材3と第2遮蔽部材20とを連続的に連結したものが示されているが、保持部材21は、サイドガラス2bとドアとの間に差し込まれる差込プレート22と、第2遮蔽部材20と差込プレート22との間に設けられ第2遮蔽部材20が固定される連結プレート23と、固定具24,25とから構成されている。
【0026】
第2遮蔽部材20は、上端部が連結プレート23の側端に固定具25により固定され、垂下されている。保持部材21の差込プレート22と連結プレート23の内端との間にサイドガラス2bを遮蔽するように、第1遮蔽部材3が固定具24により固定的に保持されている。
【0027】
なお、第1遮蔽部材3の上部に、フロントガラス2aの場合と同様、サイドガラス2bに吸着する吸盤11を設けてもよい。また、図中、符号「26」は、サイドガラスを昇降させる昇降機構である。
【0028】
本実施形態の第2遮蔽部材20は、具体的には、ポリウレタンとポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする合成高分子樹脂が用いられている。ただし、これのみでなく、例えば、中性子線、γ線、β線、α線、X線を遮蔽する機能を有する、鉛板、鉛含有繊維、鉛合板、タングステンシート、高密度ポリエチレン系中性子遮蔽材あるいはシリコーンゴム系中性子遮蔽材などを組み合わせてもよい。
【0029】
次に、作用を説明する。
【0030】
事件が発生し、放射線の発生源Gから放射線が放射されると、事件現場より離れた安全な場所で、まず、フロントガラス2aを覆うように第1遮蔽部材3を拡げ、第1遮蔽部材3の下端部を車両側の第1支持部材6に嵌合し、高さ位置を調節した後、上部を第2支持部材10の吸盤11とマグネット部材13により車体1のフロントガラス2aに固定する。
【0031】
一方、第2遮蔽部材20においては、保持部材21の差込プレート22と連結プレート23との間に固定具24により第1遮蔽部材3を保持し、第2遮蔽部材20を連結プレート23に固定具25により取付ける。そして、差込プレート22をサイドガラスとドアとの間に差し込む。
【0032】
これにより車両のフロントガラス2a、サイドガラス2b及びドアは、遮蔽部材3及び20により覆われることになる。ボンネット部分に関しても遮蔽することが好ましいが、この場合は、ボンネット部分を第2遮蔽部材20と同様の布材を用いて覆う。なお、広い範囲で放射線を遮蔽するには、ドアを開いた状態としてもよい。
【0033】
この結果、車両の、放射性汚染物質に対向する部分は、全て遮蔽部材により覆われることになり、水平に照射される放射線は、遮蔽部材3及び20により遮断され、車室内空間の安全性が確保される。
【0034】
したがって、平常時では極めてコンパクトで、収納に要するスペースも取らず、また、一旦事件が発生すると、車両に極めて簡単に短時間の間に取り付けて放射線の侵入を防止できる。しかも、この車両用放射線防護装置は、車両に搭載して使用するため、放射線の発生源に対して近づく場合も避難する場合も速やかに移動できるとなる。
【0035】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態では、乗用車について説明したが、このような車両のみでなく、航空機、電車、バスあるいは船舶など、種々の移動体において使用することができるものである。また、場合によっては、布部材である第2遮蔽部材により車体の底面を含む全体あるいは要部を覆うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、汚染物質の侵入を防止し生存空間を簡易に確保することができる車両用放射線防護装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は本発明の一実施形態の車両用放射線防護装置を示す概略斜視図である。
【図2】第1遮蔽部材を示し、図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】図2の3−3線に沿う矢視図である。
【図4】第2遮蔽部材を示し、図1の4−4線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0038】
2a,2b…車体のガラス部、
3…第1遮蔽部材、
6…第1支持部材、
7…基板、
8,24,25…固定具、
9…長孔、
10…第2支持部材、
11…吸盤、
20…第2遮蔽部材、
21…保持部材、
G…放射線の発生源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の発生源に対し対向する車体のガラス部を全面的に覆うように設けられ前記放射線を遮蔽する透明な第1遮蔽部材と、当該第1遮蔽部材を支持する支持部材と、前記車体の前記ガラス部以外であって前記放射線の発生源に対し対向する前記車体の側部を全面的に覆うように設けられ前記放射線を遮蔽する第2遮蔽部材と、当該第2遮蔽部材の上端を前記車両に固定的に保持する保持部材と、を有する車両用放射線防護装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記第1遮蔽部材の下端を位置調節自在に支持する第1支持部材と、前記第1遮蔽部材の上部に設けられ当該第1遮蔽部材を位置固定的に支持する第2支持部材と、を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用放射線防護装置。
【請求項3】
前記第1支持部材は、前記車体に取り付けられる基板と、前記第1遮蔽部材又は前記基板に形成された長孔と、前記第1遮蔽部材を前記基板に締め付ける固定具と、を有し、前記第2支持部材は、車体のガラス部に吸着する吸盤及び/又はマグネット部材により構成したことを特徴とする請求項2に記載の車両用放射線防護装置。
【請求項4】
前記保持部材は、前記車体のガラス部と車体との間の隙間に挿入される差込プレート部材と、当該差込プレート部材に前記第2遮蔽部材を固定する固定具と、より構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用放射線防護装置。
【請求項5】
前記第1遮蔽部材は、高密度のセラミックであり、前記第2遮蔽部材は、ポリウレタンとPVCを主成分とする合成高分子樹脂により構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用放射線防護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−113970(P2007−113970A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303718(P2005−303718)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(599077409)日本特装株式会社 (7)