車両用衝突補強材
【課題】車両衝突時の荷重入力の際にも、断面高さを極力維持して曲げ剛性の低下を極力防止することができる車両用衝突補強材を提供する。
【解決手段】衝突補強材の本体部10は、相対向する一対のウェブ(腹板部)11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有し、第1部分P1、二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3から構成されている。P1及び両P2の中央天板部12には溝20が設けられている。P1における溝の底板部22Aは、一対のフランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置されると共に、中央天板部12と平行に形成されている。P2における溝の底板部22Bは、P1の底板部22Aの一端とP3の中央天板部12の一端とを連結するように傾斜形成されている。P1及びP2の各横断面にあっては、溝20がウェブの前端部側に開口し、ウェブと内板部との間の開口領域Rがウェブの後端部側に開口する。
【解決手段】衝突補強材の本体部10は、相対向する一対のウェブ(腹板部)11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有し、第1部分P1、二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3から構成されている。P1及び両P2の中央天板部12には溝20が設けられている。P1における溝の底板部22Aは、一対のフランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置されると共に、中央天板部12と平行に形成されている。P2における溝の底板部22Bは、P1の底板部22Aの一端とP3の中央天板部12の一端とを連結するように傾斜形成されている。P1及びP2の各横断面にあっては、溝20がウェブの前端部側に開口し、ウェブと内板部との間の開口領域Rがウェブの後端部側に開口する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアインパクトビームやバンパーリインフォースメント等に代表される車両用衝突補強材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用衝突補強材の一種であるドアインパクトビーム(ドアガードともいう)は、当初は丸パイプ状本体の両端部にブラケットを溶接したものが用いられていたが、最近では、ビーム本体とブラケットとを一体プレス成形可能になったことから、ビーム本体の横断面形状がハット形をした開放断面形状のドアインパクトビームが主流になっている。
【0003】
例えば、特許文献1の車両用ドアガードは鋼板をプレス成形して一体に形成されたものであり、その本体部分には断面R山型の屈曲部1a(ウェブが含まれる)が全長に亘って一体に形成され、その屈曲部の基部の上下には平坦なフランジ部1b(側部フランジに相当)がそれぞれ形成されている。つまり、屈曲部1aと一対のフランジ部1bとによって形作られるハット断面形状が本体部の全長に亘って一様に形成されている。
【0004】
特許文献2に開示されたドアインパクトビームは、隆起部2と、その幅方向両側の底部3(側部フランジに相当)と、起立部6(ウェブに相当)とを備え、これらによって本体部におけるハット断面形状が形作られている。このドアインパクトビームの幅寸法は、長さ方向の中央において最も大きくなっており、その中央から長さ方向の両端に向かって幅寸法は次第に小さくなり、中央から所定距離離れた箇所からは最小の幅寸法が長さ方向の両端まで連続している。各部におけるハット断面形状の寸法もほぼこれに準じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−19559号公報(第0016段落、図1)
【特許文献2】特開2004−168141号公報(第0040〜43段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来例のような開放断面形状のドアインパクトビームには、側面衝突時の荷重入力に対してウェブ及び側部フランジが外方向(互いに離間する方向)に開き易いという欠点があった。即ち、荷重入力時にハット形の開放断面が開いて断面高さ(荷重入力方向に沿った奥行き)が小さくなる結果、ビームの変形が進むに連れて曲げ剛性が低下し、耐えられる荷重値も急激に低下するという欠点があった。そして、従来のドアインパクトビームでは、このような欠点を補うためにハット形断面の大型化を図る等の対策を講じる必要があり、重量増等の不都合を招いていた。
【0007】
本発明の目的は、車両衝突時の荷重入力の際にも、断面高さを極力維持して曲げ剛性の低下を極力防止することができる車両用衝突補強材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、相対向する一対のウェブと、前記両ウェブの前端部同士を連結する中央天板部と、前記両ウェブの各々の後端部からそれぞれ外方向に延出した一対の側部フランジとを有してなる長尺な本体部を備え、当該本体部の横断面が開放断面形状をなすと共に、前記中央天板部と前記側部フランジとの離間長が前記横断面の断面高さに相当する車両用衝突補強材において、
前記長尺な本体部は、その長手方向両端間に位置する第1部分(P1)、前記第1部分の両端部にそれぞれつながる二つの第2部分(P2)、及び、前記両第2部分の各端部にそれぞれつながると共に当該本体部の長手方向両端まで延びる二つの第3部分(P3)から構成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられ、その溝は、前記一対のウェブと対向する一対の内板部と、前記両内板部を連結する底板部とによって区画されており、
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも前記側部フランジの側にあるいずれかの高さ位置に配置されると共に、前記中央天板部と略平行に形成されており、
前記第2部分(P2)における溝の底板部は、前記第1部分の溝の底板部の一端と前記第3部分の中央天板部の一端とを連結するように傾斜形成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の横断面は、前記溝が前記ウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)が前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしており、
前記両第3部分(P3)の各々の横断面は、当該第3部分の一対のウェブ及び中央天板部により区画されることで前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている、ことを特徴とする車両用衝突補強材である。
【0009】
本発明の車両用衝突補強材は、その本体部横断面の断面高さの方向が衝突時の荷重入力方向と一致するような配置で車両に取り付けられる。そして車両の衝突時には、中央天板部、一対のウェブ及び一対の側部フランジからなる衝突補強材本体部が荷重点(荷重受承箇所)を中心として湾曲変形することにより、荷重分散及び衝突エネルギーの吸収が図られる。上述のように、長尺な本体部は、第1部分(P1)、二つの第2部分(P2)及び二つの第3部分(P3)から構成され、第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられている。更に、第1部分(P1)における溝の底板部は、上記のような高さ位置にて中央天板部と略平行に形成されると共に、第2部分(P2)における溝の底板部は、第1部分の底板部と第3部分の中央天板部とを連結するように傾斜形成され、第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各横断面は、溝がウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)がウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている。それ故、第1部分(P1)よりも、その両側の二つの第2部分(P2)の方が相対的に低剛性となっている。このため、荷重点を中心とした本体部の湾曲変形が進行し、当該本体部の変形が弾性域(形状復元可能に弾性変形可能な状態)を超えて塑性域(塑性変形した状態)に達すると、相対的に低剛性の二つの第2部分の変形が、第1部分の変形に先んじて発生する。換言すれば、第1部分の両側に位置する二つの第2部分に湾曲変形の開始点が分散される。従って、第1部分への応力の早期集中が回避され、第1部分における断面崩れ(断面形状の潰れ又は扁平化)が極力遅延される。
【0010】
本発明の車両用衝突補強材において、前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分(P1)での断面高さにおいて前記側部フランジとほぼ同じ高さ位置に配置されていることは好ましい。なお、「側部フランジとほぼ同じ高さ位置」とは、第1部分の溝の底板部の高さと第1部分の側部フランジの高さとが完全一致する場合を含むことはもちろんのこと、第1部分の溝の底板部の高さ位置が、側部フランジの高さ位置よりも若干(例えば0〜3mm)中央天板部に近寄った位置にある場合と、側部フランジの高さ位置よりも若干(例えば0〜3mm)中央天板部とは反対方向に離れた位置にある場合とを含む意味である。
【0011】
この構成によれば、第1部分における溝の底板部が当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置又はそれに近い高さ位置にある場合に比べて、第1部分(P1)の剛性が各第2部分(P2)の剛性よりも明らかに高くなる。従って、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散(ひいては第1部分の断面崩れの遅延)がより確実なものとなる。
【0012】
本発明の車両用衝突補強材において、前記本体部の全長(LT)に対して、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)の長さ(LP1+LP2)が占める割合((LP1+LP2)/LT)が30%〜60%であることは好ましい。仮に、上記割合((LP1+LP2)/LT)が30%未満になると、第1部分の中心位置と各第2部分の外端位置との距離が短くなる結果、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散効果が小さくなり、第1部分の断面崩れを十分に遅延させることが難しくなる。他方、上記割合((LP1+LP2)/LT)が60%を超えると、各第2部分の外端位置が第3部分の外端位置(即ち本体部の長手方向両端)に近くなる結果、やはり、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散効果が小さくなり、第1部分の断面崩れを十分に遅延させることが難しくなる。
【0013】
本発明の車両用衝突補強材において、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)において、相対向する一対の内板部の間隔(f)と、相対向する内板部及びウェブ間の間隔(g)との比(f/g)が、1/3〜4/3の範囲に設定されていることは好ましい。仮に、上記比(f/g)が1/3未満になると、中央天板部の全幅(f+2g)に対する溝の幅(f)が小さくなり、溝の底板部の高さ位置を、第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも側部フランジ側のいずれかの高さ位置に設定する設計が難しくなる。他方、上記比(f/g)が4/3を超えると、中央天板部に溝を付与することによる第1及び第2部分の高剛性化が不十分となり、第1部分の断面崩れを遅延させることが難しくなる。
【0014】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
イ.本発明の車両用衝突補強材において、前記長尺な本体部の長手方向両端には、それぞれブラケット部が一体成形されていること。
ロ.本発明の車両用衝突補強材において、前記長尺な本体部は、その長手方向の全体にわたってほぼ均一な幅を有すること。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用衝突補強材によれば、車両衝突時の荷重入力に際し、第1部分の両側に位置する二つの第2部分に湾曲変形の開始点が分散されて、第1部分への応力の早期集中が回避され、第1部分の断面崩れが遅延される。このため、断面高さを極力維持して曲げ剛性の低下を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)はドアアウタパネルを外した状態でのドア内部の正面図、(b)はドア内部の概略を示すドアの横断面図。
【図2】実施形態のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図3】(a)は図2(a)のX−X線での拡大横断面図、(b)は図2(a)のY−Y線での拡大横断面図。
【図4】ビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図5】(a)は性能評価試験の概要を示す正面図、(b)は(a)のZ−Z線での拡大概略断面図。
【図6】実施形態のドアインパクトビーム(実施例)の性能特性を示すグラフ。
【図7】実施形態のドアインパクトビーム(実施例)の変形状況の概略を示す図。
【図8】(a)及び(b)は、実施形態のドアインパクトビームにおける性能評価試験前後の様子を示す斜視図及び中央位置での横断面図。
【図9】比較例1のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図10】比較例1と実施例の性能特性を示すグラフ。
【図11】比較例1のドアインパクトビームの変形状況の概略を示す図。
【図12】(a)及び(b)は、比較例1のドアインパクトビームにおける性能評価試験前後の様子を示す斜視図及び中央位置での横断面図。
【図13】比較例2のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図14】比較例2のビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図15】比較例2と実施例の性能特性を示すグラフ。
【図16】比較例3のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図17】比較例3のビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図18】比較例3と実施例の性能特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を車両用衝突補強材の一種であるドアインパクトビームに具体化した一実施形態を図面を参照しつつ説明する。このドアインパクトビームは乗用自動車のサイドドアに取り付けられる。図1(a)及び(b)に示すように乗用自動車のサイドドアは、車体の内側に位置するドアインナパネル1と、車体の外側に位置するドアアウタパネル2とを備え、両ドアパネル1,2の間にはウインドウガラス3及びガラスホルダー4が配置される。ドアインナパネル1の下半部周縁域には、ドアインパクトビーム5を固着すべくドアアウタパネル2側にやや盛り上がった段部1aが形成されている。この段部1aは、ウインドウガラス3及びガラスホルダー4と、ドアアウタパネル2との中間に位置する。
【0018】
図2及び図3に示すように、ドアインパクトビーム5は、図2(a)及び(b)の左右方向に延びる長尺な本体部10を備える。この本体部10の長手方向両端にはそれぞれブラケット部9が一体成形されている。この長尺な本体部10は、相対向する一対のウェブ11(「腹板部」ともいう)と、両ウェブ11の前端部11a同士を連結する中央天板部12(「中央フランジ」ともいう)と、各ウェブ11の後端部11bからそれぞれの外方向(図2(a)の上及び下方向、図3の左及び右方向)に延出した一対の側部フランジ13とを有している。その結果、一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13により、本体部10の横断面形状が開放断面形状をなしている。なお、この開放断面では、中央天板部12と側部フランジ13との離間長が個々の位置での横断面における断面高さになる。
【0019】
本実施形態のドアインパクトビーム5の本体部10は、一つの第1部分P1、二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3から構成されている。第1部分P1は、本体部10の長手方向両端間にあって、本体部10の長手方向中央部及びその近傍を占めている。二つの第2部分P2は、第1部分P1の両端部にそれぞれつながっている。二つの第3部分P3は、二つの第2部分P2の各端部にそれぞれつながると共に、当該本体部10の長手方向両端まで延びている。つまり、両第3部分P3は、本体部10の長手方向両端に位置する各ブラケット部9と、各第2部分P2とをそれぞれ連結している。
【0020】
尚、第1部分P1の長さをLP1、第2部分P2の長さをLP2、第3部分P3の長さをLP3とすると(図4参照)、本体部10の全長LTは、LT=LP1+2×LP2+2×LP3となる。本発明では、本体部10の全長LTに対して、第1部分P1と第2部分P2との長さの和(LP1+LP2)が占める割合(LP1+LP2)/LTが30%〜60%の範囲に設定されることが好ましい。図2に示した本実施形態では(LP1+LP2)/LT=1/3=約33%に設定されている。
【0021】
第1部分P1及び両第2部分P2の中央天板部12には、長手方向に延びる一連且つ一条の溝20が設けられている。この溝20は、前記一対のウェブ11間にあってこれらのウェブ11と略平行にそれぞれに対向する一対の内板部21と、これらの内板部21を連結する底板部(第1部分P1の底板部22A,第2部分P1の底板部22B)とによって区画されている。即ち、各内板部21の前端部が中央天板部12につながり、各内板部21の後端部同士が底板部22A又は22Bによって連結されている。このため、第1部分P1及び第2部分P2では、溝20がウェブの前端部11a側に開口している。
【0022】
本実施形態では、第1部分P1における溝20の底板部22Aは、当該第1部分P1での断面高さ位置に関して前記一対の側部フランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置され、且つ、中央天板部12と平行に形成されている。このため、第1部分P1での溝20の深さは、長手方向に沿ったいずれの位置においても一定であり、且つ、その溝深さは中央天板部12と底板部22Aとの離間長hに一致する。なお、本実施形態では、h=30mmである。他方、各第2部分P2における溝20の底板部22Bは、第1部分P1の溝の底板部22Aの一端と第3部分P3の中央天板部12の一端とを連結するように傾斜形成されている。このため、第2部分P2での溝20の深さは、第1部分P1との連結位置において最も深く(即ちその溝深さは第1部分P1での中央天板部12と底板部22Aとの離間長hに一致する)、第3部分P3に接近するに従って次第に浅くなり、第3部分P3との連結位置において最も浅くなっている(即ちその溝深さはゼロである)。つまり第2部分P2においては、その長手方向での位置に応じて溝20の深さが線形的に変化する。これに対応して、当該第2部分P2の溝20を区画している一対の内板部21の側面形状は楔形をなしている。
【0023】
以上のような構成を有するため、本実施形態のドアインパクトビーム5では、第1部分P1及び両第2部分P2での横断面形状は、溝20がウェブの前端部11a側に開口する一方で、ウェブ11と内板部21との間の各開口領域Rがウェブの後端部11b側に開口するような開放断面形状をなしている(図3(a)参照)。これに対し、両第3部分P3での横断面形状は、当該第3部分P3の一対のウェブ11及び中央天板部12により区画されることで、ウェブの後端部11b側に開口した開放断面形状をなしている(図3(b)参照)。
【0024】
図3(a)に示すように、第1部分P1及び第2部分P2において相対向する一対の内板部21間の間隔(つまり溝20の幅)をfとし、相対向する一組のウェブ11及び内板部21間の間隔(つまり開口領域Rの幅)をgとする。本発明では、第1部分P1及び第2部分P2における間隔fと間隔gとの比(f/g)が、好ましくは1/3〜4/3の範囲に、更に好ましくは2/3〜3/3(=1/1)の範囲に設定される。ちなみに本実施形態では、P1及びP2における当該比(f/g)は、ほぼ1/1に設定されている。
【0025】
本実施形態のドアインパクトビーム5の本体部10は、ブラケット部9付近を除いた長手方向のほぼ全体にわたってほぼ均一な幅を有している(図2(a)参照)。また、当該本体部10の断面高さは、第1部分P1において最大断面高さhとなっており(図3(a)及び図4参照)、そこから本体部10の長手方向両端に向かって次第に小さくなっている。
【0026】
なお、本実施形態のドアインパクトビーム5は、金属板材(例えば厚さ1〜4mmの高張力鋼板)をプレスで一体成形することにより製造される。プレス成形の手法は熱間プレス又は冷間プレスのいずれでもよいが、プレス直前に金属板材を所定の高温度まで加熱し、その高温状態の金属板材に対して相対的に冷えたプレス型でプレス加工を施す熱間プレスの方が好ましい。一般に熱間プレスによれば、ダイクエンチ効果による引張り強度の飛躍的向上や成形後の寸法安定性の向上等を図ることができる。金属板材としては、高張力鋼板以外に、亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板などを用いることができる。
【0027】
本実施形態のドアインパクトビーム5は、例えば図1(a)及び(b)に示すような態様でサイドドア内に取り付けられる。即ち、中央天板部12の溝20がドアアウタパネル2に向けて開口するような向きでドアインパクトビーム5を配置すると共に、その両端のブラケット部9をドアインナパネル1の前後の段部1aにスポット溶接することで、ドアインパクトビーム5が固定される。ドアインナパネルの段部1aはドアアウタパネル2側に盛り上がっているため、ドアインパクトビーム5のドアインナパネル1への固定後にドアアウタパネル2の取り付けを完了した段階で、ドアインパクトビームの中央天板部12がドアアウタパネル2の内面に接近配置される。
【0028】
(性能評価):ドアインパクトビームをドア内部に取り付けた状態での側面衝突を想定して、図5に示すような三点曲げ試験に基づき、本実施形態のドアインパクトビーム5の性能特性を評価した。即ち図5(a)に示すように、所定間隔を隔てた二つの支脚6間に評価対象物たるドアインパクトビームを架け渡すと共に、両支脚6の中間に位置するビーム本体部の第1部分P1の中央部に対し、略蒲鉾型の押圧具7を用いて上から下に向かう垂直荷重を入力した。なお、図1に示すドアビーム取り付け構造に対応させるべく、図5(b)に示すように、中央天板部12の溝20が押圧具7に対向して上向きに開口すると共に、中央天板部12が押圧具7下側の押圧面7aに接するような姿勢でドアインパクトビームを両支脚6上に配置し、その状態でドアインパクトビームの第1部分P1に対し、押圧具7により垂直荷重を入力した。このようにして計測されたドアインパクトビーム5の性能特性を図6のグラフに実線(「実施例」と表記)で示す。
【0029】
図6のグラフは、垂直荷重に対するドアインパクトビームの反力の大きさ(グラフでは「荷重」と表記)と、押圧点におけるドアインパクトビームの変形ストローク量(グラフでは「変位」と表記)との関係を示す。このグラフからわかるように本実施形態では、荷重が最大値(Max)にほぼ達するまでの範囲(即ち変位が0から約80mmになるまでの範囲)では、右上がり傾向、つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向を示した。変位が約80mmを超えたあとも荷重は前記最大値(Max)とさほど変わらない水準をほぼ維持し、変位が約120mmを超えるあたりから荷重が極めて緩慢に低下する傾向を示した。つまり本実施形態のドアインパクトビーム5によれば、側面衝突時にビーム本体部の変形量が増大していっても、衝突エネルギーの吸収性能が急に低下することがなく、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0030】
図7及び図8は、上記三点曲げ試験において垂直荷重の入力に伴いドアインパクトビーム5が湾曲変形した様子を模式的に示したものである。これらの図面が示すように、第2部分P2と第3部分P3との二つの境界位置(r)、つまりP2とP3との各連結位置(r)あたりにおいてビーム本体部10の曲げが顕著になっている。そして、荷重入力の前後において、荷重受承部たる第1部分P1の断面形状の崩れ(変形)はあまりなく、第1部分P1における断面高さhも荷重入力の前後においてほぼ維持された。これが、ドアインパクトビーム5が安定したエネルギー吸収性能を発現する理由である。
【0031】
荷重の入力にもかかわらず、第1部分P1の断面形状があまり崩れず、断面高さhがほぼ維持される理由については次のように考えられる。即ち、押圧具7が第1部分P1の押圧を開始した当初、つまり本体部10が弾性変形可能な状況下では、応力が第1部分P1から、その両側に位置する第2部分P2を介して二つの第3部分P3に向かって分散する。その後、押圧具7による第1部分P1の押圧が更に進行し、本体部10の変形が弾性域を超えて塑性域(塑性変形した状態)に達すると、分散していた応力が各第3部分P3から第2部分P2に向けて戻ってくる(いわゆる「戻り応力」)。このドアインパクトビーム5では、第1部分P1よりも第2部分P2の方が相対的に低剛性であるため、上記戻り応力により二つの第2部分P2の変形が第1部分P1の変形に先んじて発生する。即ち、押圧具7による荷重の入力点が第1部分P1の中心位置であるにもかかわらず、第1部分P1の両側に位置する二つの第2部分P2に湾曲変形の開始点が事実上分散される。従って、第1部分P1の中心部への戻り応力の早期集中(早すぎる集中)が回避され、P1における断面崩れ(断面形状の潰れ又は扁平化)の発生が極力遅延され、衝突エネルギーの吸収性能が高いレベルで安定化される。
【0032】
このように本実施形態のドアインパクトビーム5によれば、側面衝突時においても、第1部分P1での断面崩れを極力阻止して断面高さを極力維持することにより、ビーム本体部全体として曲げ剛性の低下を防止することができる。
【0033】
[比較例1]
図9〜図12は、本発明と対比されるべき比較例1を示す。図9(a)〜(c)に示すように、比較例1のドアインパクトビーム51は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、この点は上記実施形態と同じである。但し、比較例1のドアインパクトビーム51には上記実施形態における溝20が存在せず、比較例1の本体部10は、上記実施形態の第1及び第2部分P1,P2を持たないもの(即ち第3部分P3だけからなるもの)に相当する。
【0034】
比較例1のドアインパクトビーム51に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図10のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例1では、変位が0から約50mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約50mmを超えてからは、荷重が単調減少傾向を示した。つまり比較例1のドアインパクトビーム51では、側面衝突時にドアインパクトビームの変形量が増大していくと、比較的早い時期に衝突エネルギーの吸収性能が低下し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0035】
比較例1のドアインパクトビーム51では、図11に示すように、荷重入力時に荷重の入力点である本体部長手方向中心位置で中折れしてしまった。また、図12(a)及び(b)に示すように、荷重の入力に伴いドアインパクトビーム51が湾曲変形する過程で、特に本体部長手方向中心位置(図12のP1位置)の両ウェブ11が外方向に倒れ、押圧具7による押圧が終了するまでの間に当該両ウェブ11の後端部11bが外方向に開いて(座屈して)しまった。このように、荷重入力時において、荷重入力点付近での断面高さを維持できず、曲げ剛性の低下を防止できないために、比較例1のドアインパクトビーム51の衝突エネルギー吸収性能は上記実施形態よりも低くなるものと考えられる。
【0036】
[比較例2]
図13〜図15は、本発明と対比されるべき比較例2を示す。図13(a)〜(c)に示すように、比較例2のドアインパクトビーム52は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、且つ、中央天板部12には長手方向に延びる溝20が設けられている。つまり、比較例2のビーム本体部10は、上記実施形態と同様、第1、第2及び第3部分P1,P2,P3を具備する。但し、比較例2では、中央天板部12と底板部22Aとの離間長h(=30mm)に対して、第1部分P1での溝20の深さdは5mmに設定されている(図14参照)。つまり第1部分P1での溝深さdは前記離間長hの1/6に過ぎず、それ故、第1部分P1での溝20の底板部22Aは、第1部分P1での断面高さhを2等分する高さ位置(即ち15mmの高さ)よりも中央天板部12側(即ち側部フランジ13側とは反対側)寄りの高さ位置にある。
【0037】
比較例2のドアインパクトビーム52に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図15のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例2では、変位が0から約60mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約60mmを超えてからは、荷重が急激に低下する傾向を示した。つまり比較例2のドアインパクトビーム52では、側面衝突時にドアインパクトビームの変形量が増大していくと、比較的早い時期に衝突エネルギーの吸収性能が低下し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0038】
このように、上記実施形態と同じく中央天板部12に溝20を設けてビーム本体部10の中心部付近に第1部分P1及び第2部分P2を確保したとしても、第1部分P1での溝20の底板部22Aが中央天板部12側寄りの高さ位置にあると、上記実施形態のような衝突エネルギー吸収性能を実現することはできない。
【0039】
[比較例3]
図16〜図18は、本発明と対比されるべき比較例3を示す。図16(a)〜(c)に示すように、比較例3のドアインパクトビーム53は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、且つ、中央天板部12には長手方向に延びる溝20が設けられている。また、第1部分P1における溝20の底板部22Aは、一対の側部フランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置されている。つまり、比較例3のビーム本体部10は、上記実施形態と同様の第1及び第2部分P1,P2を有する。但し、比較例3の溝20は、左右のブラケット部9間の距離に相当する長さを有するため、比較例3のビーム本体部10は、上記実施形態の第3部分P3に相当する部分を有していない。
【0040】
比較例3のドアインパクトビーム53に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図18のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例3では、変位が0から約80mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約80mmを超えてからは荷重が緩慢な低下傾向となり、変位が120mm付近で荷重が急峻な低下傾向を示した。つまり比較例3のドアインパクトビーム53では、変位120mm付近が限界点となるような衝突エネルギー吸収性能の急激な低下があり、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0041】
このように、上記実施形態と同じく中央天板部12に溝20を設けてビーム本体部10に第1部分P1及び第2部分P2を確保したとしても、第3部分P3が存在しない場合には、上記実施形態のような衝突エネルギー吸収性能を実現することはできない。その理由としては、適度な長さの第3部分P3が存在しないことで第2部分P2の外端r(図16(c)及び図17参照)がブラケット部9とほぼ同じ位置になってしまう結果、ビーム本体部10の長手方向の全体にわたって曲げ剛性がほぼ均等化するために、荷重入力時において、上記実施形態におけるような荷重分散が図られず、比較例1の場合と同様にビーム本体部10の中心位置付近に荷重が集中してしまうためと考えられる。
【0042】
[変更例]上記実施形態では、第1部分P1を本体部10の長手方向中央部に配置して左右対称な形状としたが、第1部分P1を本体部10の長手方向におけるいずれか一方の端部寄りに配置して左右非対称な形状としてもよい。その場合でも、第1部分P1の両側に二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3を確保できる限り、本発明の作用及び効果を奏し得る。
【0043】
[変更例]本発明は、ドアインパクトビーム以外の他の車両用衝突補強材(例えば、バンパーリインフォースメント)にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
5…ドアインパクトビーム
9…ブラケット部
10…本体部
11…ウェブ(腹板部)
11a…ウェブの前端部
11b…ウェブの後端部
12…中央天板部
13…側部フランジ
20…溝
21…内板部
22A…第1部分における溝の底板部
22B…第2部分における溝の底板部
R…ウェブと内板部との間の開口領域
P1…本体部の第1部分
P2…本体部の第2部分
P3…本体部の第3部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドアインパクトビームやバンパーリインフォースメント等に代表される車両用衝突補強材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用衝突補強材の一種であるドアインパクトビーム(ドアガードともいう)は、当初は丸パイプ状本体の両端部にブラケットを溶接したものが用いられていたが、最近では、ビーム本体とブラケットとを一体プレス成形可能になったことから、ビーム本体の横断面形状がハット形をした開放断面形状のドアインパクトビームが主流になっている。
【0003】
例えば、特許文献1の車両用ドアガードは鋼板をプレス成形して一体に形成されたものであり、その本体部分には断面R山型の屈曲部1a(ウェブが含まれる)が全長に亘って一体に形成され、その屈曲部の基部の上下には平坦なフランジ部1b(側部フランジに相当)がそれぞれ形成されている。つまり、屈曲部1aと一対のフランジ部1bとによって形作られるハット断面形状が本体部の全長に亘って一様に形成されている。
【0004】
特許文献2に開示されたドアインパクトビームは、隆起部2と、その幅方向両側の底部3(側部フランジに相当)と、起立部6(ウェブに相当)とを備え、これらによって本体部におけるハット断面形状が形作られている。このドアインパクトビームの幅寸法は、長さ方向の中央において最も大きくなっており、その中央から長さ方向の両端に向かって幅寸法は次第に小さくなり、中央から所定距離離れた箇所からは最小の幅寸法が長さ方向の両端まで連続している。各部におけるハット断面形状の寸法もほぼこれに準じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−19559号公報(第0016段落、図1)
【特許文献2】特開2004−168141号公報(第0040〜43段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来例のような開放断面形状のドアインパクトビームには、側面衝突時の荷重入力に対してウェブ及び側部フランジが外方向(互いに離間する方向)に開き易いという欠点があった。即ち、荷重入力時にハット形の開放断面が開いて断面高さ(荷重入力方向に沿った奥行き)が小さくなる結果、ビームの変形が進むに連れて曲げ剛性が低下し、耐えられる荷重値も急激に低下するという欠点があった。そして、従来のドアインパクトビームでは、このような欠点を補うためにハット形断面の大型化を図る等の対策を講じる必要があり、重量増等の不都合を招いていた。
【0007】
本発明の目的は、車両衝突時の荷重入力の際にも、断面高さを極力維持して曲げ剛性の低下を極力防止することができる車両用衝突補強材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、相対向する一対のウェブと、前記両ウェブの前端部同士を連結する中央天板部と、前記両ウェブの各々の後端部からそれぞれ外方向に延出した一対の側部フランジとを有してなる長尺な本体部を備え、当該本体部の横断面が開放断面形状をなすと共に、前記中央天板部と前記側部フランジとの離間長が前記横断面の断面高さに相当する車両用衝突補強材において、
前記長尺な本体部は、その長手方向両端間に位置する第1部分(P1)、前記第1部分の両端部にそれぞれつながる二つの第2部分(P2)、及び、前記両第2部分の各端部にそれぞれつながると共に当該本体部の長手方向両端まで延びる二つの第3部分(P3)から構成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられ、その溝は、前記一対のウェブと対向する一対の内板部と、前記両内板部を連結する底板部とによって区画されており、
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも前記側部フランジの側にあるいずれかの高さ位置に配置されると共に、前記中央天板部と略平行に形成されており、
前記第2部分(P2)における溝の底板部は、前記第1部分の溝の底板部の一端と前記第3部分の中央天板部の一端とを連結するように傾斜形成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の横断面は、前記溝が前記ウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)が前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしており、
前記両第3部分(P3)の各々の横断面は、当該第3部分の一対のウェブ及び中央天板部により区画されることで前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている、ことを特徴とする車両用衝突補強材である。
【0009】
本発明の車両用衝突補強材は、その本体部横断面の断面高さの方向が衝突時の荷重入力方向と一致するような配置で車両に取り付けられる。そして車両の衝突時には、中央天板部、一対のウェブ及び一対の側部フランジからなる衝突補強材本体部が荷重点(荷重受承箇所)を中心として湾曲変形することにより、荷重分散及び衝突エネルギーの吸収が図られる。上述のように、長尺な本体部は、第1部分(P1)、二つの第2部分(P2)及び二つの第3部分(P3)から構成され、第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられている。更に、第1部分(P1)における溝の底板部は、上記のような高さ位置にて中央天板部と略平行に形成されると共に、第2部分(P2)における溝の底板部は、第1部分の底板部と第3部分の中央天板部とを連結するように傾斜形成され、第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各横断面は、溝がウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)がウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている。それ故、第1部分(P1)よりも、その両側の二つの第2部分(P2)の方が相対的に低剛性となっている。このため、荷重点を中心とした本体部の湾曲変形が進行し、当該本体部の変形が弾性域(形状復元可能に弾性変形可能な状態)を超えて塑性域(塑性変形した状態)に達すると、相対的に低剛性の二つの第2部分の変形が、第1部分の変形に先んじて発生する。換言すれば、第1部分の両側に位置する二つの第2部分に湾曲変形の開始点が分散される。従って、第1部分への応力の早期集中が回避され、第1部分における断面崩れ(断面形状の潰れ又は扁平化)が極力遅延される。
【0010】
本発明の車両用衝突補強材において、前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分(P1)での断面高さにおいて前記側部フランジとほぼ同じ高さ位置に配置されていることは好ましい。なお、「側部フランジとほぼ同じ高さ位置」とは、第1部分の溝の底板部の高さと第1部分の側部フランジの高さとが完全一致する場合を含むことはもちろんのこと、第1部分の溝の底板部の高さ位置が、側部フランジの高さ位置よりも若干(例えば0〜3mm)中央天板部に近寄った位置にある場合と、側部フランジの高さ位置よりも若干(例えば0〜3mm)中央天板部とは反対方向に離れた位置にある場合とを含む意味である。
【0011】
この構成によれば、第1部分における溝の底板部が当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置又はそれに近い高さ位置にある場合に比べて、第1部分(P1)の剛性が各第2部分(P2)の剛性よりも明らかに高くなる。従って、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散(ひいては第1部分の断面崩れの遅延)がより確実なものとなる。
【0012】
本発明の車両用衝突補強材において、前記本体部の全長(LT)に対して、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)の長さ(LP1+LP2)が占める割合((LP1+LP2)/LT)が30%〜60%であることは好ましい。仮に、上記割合((LP1+LP2)/LT)が30%未満になると、第1部分の中心位置と各第2部分の外端位置との距離が短くなる結果、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散効果が小さくなり、第1部分の断面崩れを十分に遅延させることが難しくなる。他方、上記割合((LP1+LP2)/LT)が60%を超えると、各第2部分の外端位置が第3部分の外端位置(即ち本体部の長手方向両端)に近くなる結果、やはり、第1部分の両側に位置する二つの第2部分への湾曲変形開始点の分散効果が小さくなり、第1部分の断面崩れを十分に遅延させることが難しくなる。
【0013】
本発明の車両用衝突補強材において、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)において、相対向する一対の内板部の間隔(f)と、相対向する内板部及びウェブ間の間隔(g)との比(f/g)が、1/3〜4/3の範囲に設定されていることは好ましい。仮に、上記比(f/g)が1/3未満になると、中央天板部の全幅(f+2g)に対する溝の幅(f)が小さくなり、溝の底板部の高さ位置を、第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも側部フランジ側のいずれかの高さ位置に設定する設計が難しくなる。他方、上記比(f/g)が4/3を超えると、中央天板部に溝を付与することによる第1及び第2部分の高剛性化が不十分となり、第1部分の断面崩れを遅延させることが難しくなる。
【0014】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
イ.本発明の車両用衝突補強材において、前記長尺な本体部の長手方向両端には、それぞれブラケット部が一体成形されていること。
ロ.本発明の車両用衝突補強材において、前記長尺な本体部は、その長手方向の全体にわたってほぼ均一な幅を有すること。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用衝突補強材によれば、車両衝突時の荷重入力に際し、第1部分の両側に位置する二つの第2部分に湾曲変形の開始点が分散されて、第1部分への応力の早期集中が回避され、第1部分の断面崩れが遅延される。このため、断面高さを極力維持して曲げ剛性の低下を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)はドアアウタパネルを外した状態でのドア内部の正面図、(b)はドア内部の概略を示すドアの横断面図。
【図2】実施形態のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図3】(a)は図2(a)のX−X線での拡大横断面図、(b)は図2(a)のY−Y線での拡大横断面図。
【図4】ビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図5】(a)は性能評価試験の概要を示す正面図、(b)は(a)のZ−Z線での拡大概略断面図。
【図6】実施形態のドアインパクトビーム(実施例)の性能特性を示すグラフ。
【図7】実施形態のドアインパクトビーム(実施例)の変形状況の概略を示す図。
【図8】(a)及び(b)は、実施形態のドアインパクトビームにおける性能評価試験前後の様子を示す斜視図及び中央位置での横断面図。
【図9】比較例1のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図10】比較例1と実施例の性能特性を示すグラフ。
【図11】比較例1のドアインパクトビームの変形状況の概略を示す図。
【図12】(a)及び(b)は、比較例1のドアインパクトビームにおける性能評価試験前後の様子を示す斜視図及び中央位置での横断面図。
【図13】比較例2のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図14】比較例2のビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図15】比較例2と実施例の性能特性を示すグラフ。
【図16】比較例3のドアインパクトビームを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はドアインパクトビームの片側半分の斜視図。
【図17】比較例3のビーム本体部の幅方向中心位置での長手方向に沿った部分拡大縦断面図。
【図18】比較例3と実施例の性能特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を車両用衝突補強材の一種であるドアインパクトビームに具体化した一実施形態を図面を参照しつつ説明する。このドアインパクトビームは乗用自動車のサイドドアに取り付けられる。図1(a)及び(b)に示すように乗用自動車のサイドドアは、車体の内側に位置するドアインナパネル1と、車体の外側に位置するドアアウタパネル2とを備え、両ドアパネル1,2の間にはウインドウガラス3及びガラスホルダー4が配置される。ドアインナパネル1の下半部周縁域には、ドアインパクトビーム5を固着すべくドアアウタパネル2側にやや盛り上がった段部1aが形成されている。この段部1aは、ウインドウガラス3及びガラスホルダー4と、ドアアウタパネル2との中間に位置する。
【0018】
図2及び図3に示すように、ドアインパクトビーム5は、図2(a)及び(b)の左右方向に延びる長尺な本体部10を備える。この本体部10の長手方向両端にはそれぞれブラケット部9が一体成形されている。この長尺な本体部10は、相対向する一対のウェブ11(「腹板部」ともいう)と、両ウェブ11の前端部11a同士を連結する中央天板部12(「中央フランジ」ともいう)と、各ウェブ11の後端部11bからそれぞれの外方向(図2(a)の上及び下方向、図3の左及び右方向)に延出した一対の側部フランジ13とを有している。その結果、一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13により、本体部10の横断面形状が開放断面形状をなしている。なお、この開放断面では、中央天板部12と側部フランジ13との離間長が個々の位置での横断面における断面高さになる。
【0019】
本実施形態のドアインパクトビーム5の本体部10は、一つの第1部分P1、二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3から構成されている。第1部分P1は、本体部10の長手方向両端間にあって、本体部10の長手方向中央部及びその近傍を占めている。二つの第2部分P2は、第1部分P1の両端部にそれぞれつながっている。二つの第3部分P3は、二つの第2部分P2の各端部にそれぞれつながると共に、当該本体部10の長手方向両端まで延びている。つまり、両第3部分P3は、本体部10の長手方向両端に位置する各ブラケット部9と、各第2部分P2とをそれぞれ連結している。
【0020】
尚、第1部分P1の長さをLP1、第2部分P2の長さをLP2、第3部分P3の長さをLP3とすると(図4参照)、本体部10の全長LTは、LT=LP1+2×LP2+2×LP3となる。本発明では、本体部10の全長LTに対して、第1部分P1と第2部分P2との長さの和(LP1+LP2)が占める割合(LP1+LP2)/LTが30%〜60%の範囲に設定されることが好ましい。図2に示した本実施形態では(LP1+LP2)/LT=1/3=約33%に設定されている。
【0021】
第1部分P1及び両第2部分P2の中央天板部12には、長手方向に延びる一連且つ一条の溝20が設けられている。この溝20は、前記一対のウェブ11間にあってこれらのウェブ11と略平行にそれぞれに対向する一対の内板部21と、これらの内板部21を連結する底板部(第1部分P1の底板部22A,第2部分P1の底板部22B)とによって区画されている。即ち、各内板部21の前端部が中央天板部12につながり、各内板部21の後端部同士が底板部22A又は22Bによって連結されている。このため、第1部分P1及び第2部分P2では、溝20がウェブの前端部11a側に開口している。
【0022】
本実施形態では、第1部分P1における溝20の底板部22Aは、当該第1部分P1での断面高さ位置に関して前記一対の側部フランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置され、且つ、中央天板部12と平行に形成されている。このため、第1部分P1での溝20の深さは、長手方向に沿ったいずれの位置においても一定であり、且つ、その溝深さは中央天板部12と底板部22Aとの離間長hに一致する。なお、本実施形態では、h=30mmである。他方、各第2部分P2における溝20の底板部22Bは、第1部分P1の溝の底板部22Aの一端と第3部分P3の中央天板部12の一端とを連結するように傾斜形成されている。このため、第2部分P2での溝20の深さは、第1部分P1との連結位置において最も深く(即ちその溝深さは第1部分P1での中央天板部12と底板部22Aとの離間長hに一致する)、第3部分P3に接近するに従って次第に浅くなり、第3部分P3との連結位置において最も浅くなっている(即ちその溝深さはゼロである)。つまり第2部分P2においては、その長手方向での位置に応じて溝20の深さが線形的に変化する。これに対応して、当該第2部分P2の溝20を区画している一対の内板部21の側面形状は楔形をなしている。
【0023】
以上のような構成を有するため、本実施形態のドアインパクトビーム5では、第1部分P1及び両第2部分P2での横断面形状は、溝20がウェブの前端部11a側に開口する一方で、ウェブ11と内板部21との間の各開口領域Rがウェブの後端部11b側に開口するような開放断面形状をなしている(図3(a)参照)。これに対し、両第3部分P3での横断面形状は、当該第3部分P3の一対のウェブ11及び中央天板部12により区画されることで、ウェブの後端部11b側に開口した開放断面形状をなしている(図3(b)参照)。
【0024】
図3(a)に示すように、第1部分P1及び第2部分P2において相対向する一対の内板部21間の間隔(つまり溝20の幅)をfとし、相対向する一組のウェブ11及び内板部21間の間隔(つまり開口領域Rの幅)をgとする。本発明では、第1部分P1及び第2部分P2における間隔fと間隔gとの比(f/g)が、好ましくは1/3〜4/3の範囲に、更に好ましくは2/3〜3/3(=1/1)の範囲に設定される。ちなみに本実施形態では、P1及びP2における当該比(f/g)は、ほぼ1/1に設定されている。
【0025】
本実施形態のドアインパクトビーム5の本体部10は、ブラケット部9付近を除いた長手方向のほぼ全体にわたってほぼ均一な幅を有している(図2(a)参照)。また、当該本体部10の断面高さは、第1部分P1において最大断面高さhとなっており(図3(a)及び図4参照)、そこから本体部10の長手方向両端に向かって次第に小さくなっている。
【0026】
なお、本実施形態のドアインパクトビーム5は、金属板材(例えば厚さ1〜4mmの高張力鋼板)をプレスで一体成形することにより製造される。プレス成形の手法は熱間プレス又は冷間プレスのいずれでもよいが、プレス直前に金属板材を所定の高温度まで加熱し、その高温状態の金属板材に対して相対的に冷えたプレス型でプレス加工を施す熱間プレスの方が好ましい。一般に熱間プレスによれば、ダイクエンチ効果による引張り強度の飛躍的向上や成形後の寸法安定性の向上等を図ることができる。金属板材としては、高張力鋼板以外に、亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムメッキ鋼板などを用いることができる。
【0027】
本実施形態のドアインパクトビーム5は、例えば図1(a)及び(b)に示すような態様でサイドドア内に取り付けられる。即ち、中央天板部12の溝20がドアアウタパネル2に向けて開口するような向きでドアインパクトビーム5を配置すると共に、その両端のブラケット部9をドアインナパネル1の前後の段部1aにスポット溶接することで、ドアインパクトビーム5が固定される。ドアインナパネルの段部1aはドアアウタパネル2側に盛り上がっているため、ドアインパクトビーム5のドアインナパネル1への固定後にドアアウタパネル2の取り付けを完了した段階で、ドアインパクトビームの中央天板部12がドアアウタパネル2の内面に接近配置される。
【0028】
(性能評価):ドアインパクトビームをドア内部に取り付けた状態での側面衝突を想定して、図5に示すような三点曲げ試験に基づき、本実施形態のドアインパクトビーム5の性能特性を評価した。即ち図5(a)に示すように、所定間隔を隔てた二つの支脚6間に評価対象物たるドアインパクトビームを架け渡すと共に、両支脚6の中間に位置するビーム本体部の第1部分P1の中央部に対し、略蒲鉾型の押圧具7を用いて上から下に向かう垂直荷重を入力した。なお、図1に示すドアビーム取り付け構造に対応させるべく、図5(b)に示すように、中央天板部12の溝20が押圧具7に対向して上向きに開口すると共に、中央天板部12が押圧具7下側の押圧面7aに接するような姿勢でドアインパクトビームを両支脚6上に配置し、その状態でドアインパクトビームの第1部分P1に対し、押圧具7により垂直荷重を入力した。このようにして計測されたドアインパクトビーム5の性能特性を図6のグラフに実線(「実施例」と表記)で示す。
【0029】
図6のグラフは、垂直荷重に対するドアインパクトビームの反力の大きさ(グラフでは「荷重」と表記)と、押圧点におけるドアインパクトビームの変形ストローク量(グラフでは「変位」と表記)との関係を示す。このグラフからわかるように本実施形態では、荷重が最大値(Max)にほぼ達するまでの範囲(即ち変位が0から約80mmになるまでの範囲)では、右上がり傾向、つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向を示した。変位が約80mmを超えたあとも荷重は前記最大値(Max)とさほど変わらない水準をほぼ維持し、変位が約120mmを超えるあたりから荷重が極めて緩慢に低下する傾向を示した。つまり本実施形態のドアインパクトビーム5によれば、側面衝突時にビーム本体部の変形量が増大していっても、衝突エネルギーの吸収性能が急に低下することがなく、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができる。
【0030】
図7及び図8は、上記三点曲げ試験において垂直荷重の入力に伴いドアインパクトビーム5が湾曲変形した様子を模式的に示したものである。これらの図面が示すように、第2部分P2と第3部分P3との二つの境界位置(r)、つまりP2とP3との各連結位置(r)あたりにおいてビーム本体部10の曲げが顕著になっている。そして、荷重入力の前後において、荷重受承部たる第1部分P1の断面形状の崩れ(変形)はあまりなく、第1部分P1における断面高さhも荷重入力の前後においてほぼ維持された。これが、ドアインパクトビーム5が安定したエネルギー吸収性能を発現する理由である。
【0031】
荷重の入力にもかかわらず、第1部分P1の断面形状があまり崩れず、断面高さhがほぼ維持される理由については次のように考えられる。即ち、押圧具7が第1部分P1の押圧を開始した当初、つまり本体部10が弾性変形可能な状況下では、応力が第1部分P1から、その両側に位置する第2部分P2を介して二つの第3部分P3に向かって分散する。その後、押圧具7による第1部分P1の押圧が更に進行し、本体部10の変形が弾性域を超えて塑性域(塑性変形した状態)に達すると、分散していた応力が各第3部分P3から第2部分P2に向けて戻ってくる(いわゆる「戻り応力」)。このドアインパクトビーム5では、第1部分P1よりも第2部分P2の方が相対的に低剛性であるため、上記戻り応力により二つの第2部分P2の変形が第1部分P1の変形に先んじて発生する。即ち、押圧具7による荷重の入力点が第1部分P1の中心位置であるにもかかわらず、第1部分P1の両側に位置する二つの第2部分P2に湾曲変形の開始点が事実上分散される。従って、第1部分P1の中心部への戻り応力の早期集中(早すぎる集中)が回避され、P1における断面崩れ(断面形状の潰れ又は扁平化)の発生が極力遅延され、衝突エネルギーの吸収性能が高いレベルで安定化される。
【0032】
このように本実施形態のドアインパクトビーム5によれば、側面衝突時においても、第1部分P1での断面崩れを極力阻止して断面高さを極力維持することにより、ビーム本体部全体として曲げ剛性の低下を防止することができる。
【0033】
[比較例1]
図9〜図12は、本発明と対比されるべき比較例1を示す。図9(a)〜(c)に示すように、比較例1のドアインパクトビーム51は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、この点は上記実施形態と同じである。但し、比較例1のドアインパクトビーム51には上記実施形態における溝20が存在せず、比較例1の本体部10は、上記実施形態の第1及び第2部分P1,P2を持たないもの(即ち第3部分P3だけからなるもの)に相当する。
【0034】
比較例1のドアインパクトビーム51に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図10のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例1では、変位が0から約50mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約50mmを超えてからは、荷重が単調減少傾向を示した。つまり比較例1のドアインパクトビーム51では、側面衝突時にドアインパクトビームの変形量が増大していくと、比較的早い時期に衝突エネルギーの吸収性能が低下し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0035】
比較例1のドアインパクトビーム51では、図11に示すように、荷重入力時に荷重の入力点である本体部長手方向中心位置で中折れしてしまった。また、図12(a)及び(b)に示すように、荷重の入力に伴いドアインパクトビーム51が湾曲変形する過程で、特に本体部長手方向中心位置(図12のP1位置)の両ウェブ11が外方向に倒れ、押圧具7による押圧が終了するまでの間に当該両ウェブ11の後端部11bが外方向に開いて(座屈して)しまった。このように、荷重入力時において、荷重入力点付近での断面高さを維持できず、曲げ剛性の低下を防止できないために、比較例1のドアインパクトビーム51の衝突エネルギー吸収性能は上記実施形態よりも低くなるものと考えられる。
【0036】
[比較例2]
図13〜図15は、本発明と対比されるべき比較例2を示す。図13(a)〜(c)に示すように、比較例2のドアインパクトビーム52は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、且つ、中央天板部12には長手方向に延びる溝20が設けられている。つまり、比較例2のビーム本体部10は、上記実施形態と同様、第1、第2及び第3部分P1,P2,P3を具備する。但し、比較例2では、中央天板部12と底板部22Aとの離間長h(=30mm)に対して、第1部分P1での溝20の深さdは5mmに設定されている(図14参照)。つまり第1部分P1での溝深さdは前記離間長hの1/6に過ぎず、それ故、第1部分P1での溝20の底板部22Aは、第1部分P1での断面高さhを2等分する高さ位置(即ち15mmの高さ)よりも中央天板部12側(即ち側部フランジ13側とは反対側)寄りの高さ位置にある。
【0037】
比較例2のドアインパクトビーム52に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図15のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例2では、変位が0から約60mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約60mmを超えてからは、荷重が急激に低下する傾向を示した。つまり比較例2のドアインパクトビーム52では、側面衝突時にドアインパクトビームの変形量が増大していくと、比較的早い時期に衝突エネルギーの吸収性能が低下し、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0038】
このように、上記実施形態と同じく中央天板部12に溝20を設けてビーム本体部10の中心部付近に第1部分P1及び第2部分P2を確保したとしても、第1部分P1での溝20の底板部22Aが中央天板部12側寄りの高さ位置にあると、上記実施形態のような衝突エネルギー吸収性能を実現することはできない。
【0039】
[比較例3]
図16〜図18は、本発明と対比されるべき比較例3を示す。図16(a)〜(c)に示すように、比較例3のドアインパクトビーム53は、両端にブラケット部9が一体成形された長尺な本体部10を備え、その本体部10は一対のウェブ11、中央天板部12及び一対の側部フランジ13を有しており、且つ、中央天板部12には長手方向に延びる溝20が設けられている。また、第1部分P1における溝20の底板部22Aは、一対の側部フランジ13とほぼ同じ高さ位置に配置されている。つまり、比較例3のビーム本体部10は、上記実施形態と同様の第1及び第2部分P1,P2を有する。但し、比較例3の溝20は、左右のブラケット部9間の距離に相当する長さを有するため、比較例3のビーム本体部10は、上記実施形態の第3部分P3に相当する部分を有していない。
【0040】
比較例3のドアインパクトビーム53に対して図5と同様の三点曲げ試験を行い、その性能特性を評価した結果を図18のグラフに破線で示す。このグラフからわかるように比較例3では、変位が0から約80mmの範囲では、上記実施形態と同じように右上がり傾向(つまり変位の増大に伴って荷重も単調増加する傾向)を示したが、変位が約80mmを超えてからは荷重が緩慢な低下傾向となり、変位が120mm付近で荷重が急峻な低下傾向を示した。つまり比較例3のドアインパクトビーム53では、変位120mm付近が限界点となるような衝突エネルギー吸収性能の急激な低下があり、衝突エネルギー吸収性能を安定的に維持することができない。
【0041】
このように、上記実施形態と同じく中央天板部12に溝20を設けてビーム本体部10に第1部分P1及び第2部分P2を確保したとしても、第3部分P3が存在しない場合には、上記実施形態のような衝突エネルギー吸収性能を実現することはできない。その理由としては、適度な長さの第3部分P3が存在しないことで第2部分P2の外端r(図16(c)及び図17参照)がブラケット部9とほぼ同じ位置になってしまう結果、ビーム本体部10の長手方向の全体にわたって曲げ剛性がほぼ均等化するために、荷重入力時において、上記実施形態におけるような荷重分散が図られず、比較例1の場合と同様にビーム本体部10の中心位置付近に荷重が集中してしまうためと考えられる。
【0042】
[変更例]上記実施形態では、第1部分P1を本体部10の長手方向中央部に配置して左右対称な形状としたが、第1部分P1を本体部10の長手方向におけるいずれか一方の端部寄りに配置して左右非対称な形状としてもよい。その場合でも、第1部分P1の両側に二つの第2部分P2及び二つの第3部分P3を確保できる限り、本発明の作用及び効果を奏し得る。
【0043】
[変更例]本発明は、ドアインパクトビーム以外の他の車両用衝突補強材(例えば、バンパーリインフォースメント)にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0044】
5…ドアインパクトビーム
9…ブラケット部
10…本体部
11…ウェブ(腹板部)
11a…ウェブの前端部
11b…ウェブの後端部
12…中央天板部
13…側部フランジ
20…溝
21…内板部
22A…第1部分における溝の底板部
22B…第2部分における溝の底板部
R…ウェブと内板部との間の開口領域
P1…本体部の第1部分
P2…本体部の第2部分
P3…本体部の第3部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する一対のウェブと、前記両ウェブの前端部同士を連結する中央天板部と、前記両ウェブの各々の後端部からそれぞれ外方向に延出した一対の側部フランジとを有してなる長尺な本体部を備え、当該本体部の横断面が開放断面形状をなすと共に、前記中央天板部と前記側部フランジとの離間長が前記横断面の断面高さに相当する車両用衝突補強材において、
前記長尺な本体部は、その長手方向両端間に位置する第1部分(P1)、前記第1部分の両端部にそれぞれつながる二つの第2部分(P2)、及び、前記両第2部分の各端部にそれぞれつながると共に当該本体部の長手方向両端まで延びる二つの第3部分(P3)から構成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられ、その溝は、前記一対のウェブと対向する一対の内板部と、前記両内板部を連結する底板部とによって区画されており、
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも前記側部フランジの側にあるいずれかの高さ位置に配置されると共に、前記中央天板部と略平行に形成されており、
前記第2部分(P2)における溝の底板部は、前記第1部分の溝の底板部の一端と前記第3部分の中央天板部の一端とを連結するように傾斜形成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の横断面は、前記溝が前記ウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)が前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしており、
前記両第3部分(P3)の各々の横断面は、当該第3部分の一対のウェブ及び中央天板部により区画されることで前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている、ことを特徴とする車両用衝突補強材。
【請求項2】
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分(P1)での断面高さにおいて前記側部フランジとほぼ同じ高さ位置に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突補強材。
【請求項3】
前記本体部の全長(LT)に対して、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)の長さ(LP1+LP2)が占める割合((LP1+LP2)/LT)が30%〜60%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用衝突補強材。
【請求項4】
前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)において、相対向する一対の内板部の間隔(f)と、相対向する内板部及びウェブ間の間隔(g)との比(f/g)が、1/3〜4/3の範囲に設定されている、ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の車両用衝突補強材。
【請求項1】
相対向する一対のウェブと、前記両ウェブの前端部同士を連結する中央天板部と、前記両ウェブの各々の後端部からそれぞれ外方向に延出した一対の側部フランジとを有してなる長尺な本体部を備え、当該本体部の横断面が開放断面形状をなすと共に、前記中央天板部と前記側部フランジとの離間長が前記横断面の断面高さに相当する車両用衝突補強材において、
前記長尺な本体部は、その長手方向両端間に位置する第1部分(P1)、前記第1部分の両端部にそれぞれつながる二つの第2部分(P2)、及び、前記両第2部分の各端部にそれぞれつながると共に当該本体部の長手方向両端まで延びる二つの第3部分(P3)から構成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の中央天板部には、長手方向に延びる一連の溝が設けられ、その溝は、前記一対のウェブと対向する一対の内板部と、前記両内板部を連結する底板部とによって区画されており、
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分での断面高さを2等分する高さ位置よりも前記側部フランジの側にあるいずれかの高さ位置に配置されると共に、前記中央天板部と略平行に形成されており、
前記第2部分(P2)における溝の底板部は、前記第1部分の溝の底板部の一端と前記第3部分の中央天板部の一端とを連結するように傾斜形成されており、
前記第1部分(P1)及び両第2部分(P2)の各々の横断面は、前記溝が前記ウェブの前端部側に開口する一方で、ウェブと内板部との間の各開口領域(R)が前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしており、
前記両第3部分(P3)の各々の横断面は、当該第3部分の一対のウェブ及び中央天板部により区画されることで前記ウェブの後端部側に開口する開放断面形状をなしている、ことを特徴とする車両用衝突補強材。
【請求項2】
前記第1部分(P1)における溝の底板部は、当該第1部分(P1)での断面高さにおいて前記側部フランジとほぼ同じ高さ位置に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突補強材。
【請求項3】
前記本体部の全長(LT)に対して、前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)の長さ(LP1+LP2)が占める割合((LP1+LP2)/LT)が30%〜60%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用衝突補強材。
【請求項4】
前記第1部分(P1)及び前記第2部分(P2)において、相対向する一対の内板部の間隔(f)と、相対向する内板部及びウェブ間の間隔(g)との比(f/g)が、1/3〜4/3の範囲に設定されている、ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の車両用衝突補強材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
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【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−195187(P2010−195187A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42143(P2009−42143)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
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