説明

車両用電源制御システム

【課題】車両の搬送時等において、電源回路中のヒューズを抜き取ることなく、負荷への暗電流の供給を遮断する。
【解決手段】暗電流が供給される全ての負荷へ電源を分配する電源分配器と、前記電源分配器とバッテリとの接続回路に介設する電源供給断続用のリレーと、前記電源分配器と接続されて暗電流が供給されると共に、前記リレーと接続してリレーをオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニットと、前記リレーと前記電子制御ユニットとに一時的に接続する外部制御手段とを備え、電源遮断時には外部制御手段から電子制御ユニットにリレー・オフ信号を送信し、該電子制御ユニットからの信号でリレーをオフして電源分配器および自電子制御ユニットへの暗電流の供給を停止する一方、電源供給開始時には、外部制御手段で直接にリレーをオン状態に切り替えて、電源分配器を介して電子制御ユニットへ暗電流を供給することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源制御システムに関し、詳しくは、自動車メーカーの製造工場から販売地への自動車の船舶輸送時や搬送車に搭載して陸送する際に、バッテリから負荷への暗電流を供給停止してバッテリの消費電力の低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においてイグニッションスイッチがオフのときに負荷に供給される待機電源(暗電流)を低減して、バッテリの負担を軽減することが望まれている。
特に、製造された車両を製造工場からディーラー等へ輸送する際には、長時間にわたって暗電流が流れ続けるため、バッテリの電力が消費され続け、イグニッションスイッチをオンして起動する時に、起動困難となるおそれがある。そのため、バッテリの電源を複数の負荷に分配する電源分配器に収容したヒューズを抜き取って回路を開き、暗電流が流れないようにしている場合がある。
しかしながら、電源分配器に収容したヒューズを抜き取る作業は煩雑であり、かつ、負荷への電源供給を再開するときに抜き取ったヒューズを取り付けなければならず、作業手数が増える問題がある。
【0003】
そこで、特開平4−98925号公報(特許文献1)において、ヒューズを抜き取ることなく前記暗電流を低減することができる通信装置が提供されている。該通信装置1は、図4に示すように、各負荷に接続された電子制御ユニット(ECU)2〜5を備え、バッテリ6と接続されたECU2の電源回路2aと、該電源回路2aと接続される各ECU3〜5の電源回路3a〜5aとの間にリレー回路2bを設け、該リレー回路2bを開成することによりECU3〜5への電源の供給を遮断できるようにしている。
これにより、ECU3〜5への暗電流の供給を遮断して、暗電流を低減し、バッテリ6の消費電力を低減することができる。
しかしながら、特許文献1で提供されている通信装置1では、バッテリ6と接続され、ECU3〜5への電源供給を制御するECU2への暗電流の供給を遮断することができない問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平4−98925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、車両の搬送時等において、電源回路中のヒューズを抜き取ることなく、負荷への暗電流の供給を遮断することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、暗電流が供給される全ての負荷へ電源を分配する電源分配器と、
前記電源分配器とバッテリとの接続回路に介設する電源供給断続用のリレーと、
前記電源分配器と接続されて暗電流が供給されると共に、前記リレーと接続してリレーをオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニットと、
前記リレーと前記電子制御ユニットとに一時的に接続する外部制御手段とを備え、
電源遮断時には、前記外部制御手段から前記電子制御ユニットにリレー・オフ信号を送信し、該電子制御ユニットからの信号で前記リレーをオフして前記電源分配器および自電子制御ユニットへの暗電流の供給を停止する一方、
電源供給開始時には、前記外部制御手段で直接にリレーをオン状態に切り替えて、前記電源分配器を介して前記電子制御ユニットへ暗電流を供給することを特徴とする車両用電源制御システムを提供している。
【0007】
前記構成からなる車両用電源制御システムでは、車両の船舶輸送等の輸送開始時に、外部制御手段からの操作で前記電源供給制御用の電子制御ユニットにリレーオフ信号を送信し、該電子制御ユニットによりリレーをオフして電源分配器への電源供給を遮断し、該電源分配器から暗電流が供給される該電子制御ユニット自体への暗電流の供給も遮断でき、輸送期間におけるバッテリーの消費電力の低減を図ることができる。
一方、輸送終了後に電源供給を開始する時には、前記リレーをオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニットにも電源が供給されていないため、該電子制御ユニットによりリレーをオンすることができないが、前記外部制御手段で直接にリレーをオン状態に切り替えて電源分配器へ電源を供給し、該電源分配器を介して前記電源供給制御用の電子制御ユニットを含めて負荷への暗電流の供給を再開することができる。
【0008】
前記リレーの接点を開閉するリレーコイルの出力端および前記電源供給制御用の電子制御ユニットとが接続される車体側コネクタを備え、
前記外部制御手段は、前記車体側コネクタと接続される外部コネクタ及び該外部コネクタと接続した操作器とからなり、
前記操作器は、前記リレーコイルの出力端と前記車体側コネクタおよび外部コネクタを介して接続される操作用の開閉スイッチを備え、該開閉スイッチで開閉される回路の下流端はアース接続され、前記電源遮断時には前記開閉スイッチを開成操作する一方、電源供給開始時は前記開閉スイッチは閉成し前記リレーコイルに通電してリレー接点を閉じ、かつ、前記電源供給制御用の電子制御ユニットにリレーオフ信号を送信する送信スイッチを備える構成とすることが好ましい。
【0009】
前記構成によれば、外部制御手段の開閉操作スイッチを閉成することによりリレーコイルに電流が通電されてリレー接点が閉じられ、負荷への暗電流の供給を再開することができる。このように、外部制御手段の開閉スイッチを閉成操作するだけでリレー接点を閉じて負荷への暗電流の供給を再開することができるため、リレーをオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニットへの暗電流の供給を停止しても、外部制御手段を用いて暗電流の供給を再開することができる。
【0010】
また、外部制御手段のコネクタは、車体側コネクタと着脱自在に接続することにより、1つの外部制御手段を複数の車両に汎用して用いることができる。これにより、車両毎に外部制御手段を設ける必要がなく、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
前述したように、本発明によれば、電源分配器とバッテリとの接続回路に介設した電源供給断続用のリレーをオフする電子制御ユニット自体を、前記電源分配器に接続して暗電流が供給される構成としていることにより、該リレーをオフして電源分配器への電源供給を停止することで、前記リレーをオフする電子制御ユニットを含む全ての電子制御ユニットへの暗電流の供給を停止することができる。これにより、自動車の搬送期間中に暗電流が流れ続けるのを防止でき、電源回路中に設けられたヒューズを抜き取ることなく、バッテリの消費電力の低減を図ることができる。
一方、電源供給開始時には、前記外部制御手段で直接にリレーをオン状態に切り替えて、前記電源分配器に電源を供給しているため、該電源分配器に接続した前記リレー制御用の電源供給制御用の電子制御ユニットを含めて負荷への暗電流の供給を再開することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の実施形態を示す。
本実施形態の車両用電源制御システム10は、車両を製造工場から販売地への輸送期間中は、暗電流供給制御を行う電子制御ユニット自体を含めて暗電流の供給をすべて遮断し、輸送終了後に暗電流の供給再開は外部制御手段30を用いて行うものである。
【0013】
図1に示すように、電源制御システム10は、車両に搭載するバッテリ11と電源分配器13とを接続する接続回路21に電源供給断続用のリレー12を介設し、前記電源分配器13に前記リレー12をオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニット14(以下、電源供給制御用ECUと称す)を接続している。前記リレー12と電源供給制御用ECU14は電源供給再開時に用いる外部制御手段(以下、外部ツールと称す)30の外部コネクタ31と接続される車体側コネクタ15と接続している。
【0014】
前記バッテリ11と電源供給断続用のリレー12を介して接続する電源分配器13は暗電流が供給される全ての負荷と接続している。該電源分配器13はバッテリー側の接続回路21と接続された内部回路を複数に分岐させ、そのうちの1つの分岐回路23Aを電源供給制御用ECU14と接続する一方、残りの他の分岐回路23Bを電子制御ユニット16A、16Bと接続し、これら電子制御ユニット16A、16Bを暗電流が供給される全ての負荷17A、17Bと接続している。なお、電源分配器13内の分岐回路23A、23Bには、それぞれヒューズ13aを介設している。
このように、前記リレー12を開閉する電子制御ユニット14も電源分配器13から暗電流を供給しているため、電源分配器13への電源供給が遮断されると、電子制御ユニット14自体にも暗電流が供給されない構成としている。
【0015】
前記電源供給断続用のリレー12のリレー接点12aはバッテリ11と電源分配器13との接続回路21に介設する一方、リレーコイル12bをバッテリ11と電源供給制御用ECU14との接続回路22に介設している。リレー12は電源供給制御用ECU14からのオフ信号によりリレーコイル12bに電流が通電されるとリレー接点12aが開いて電源分配器13への電源供給が遮断され、それに基づいてリレー12にオフ信号を発信した電源供給制御用ECU14自体への暗電流の供給も遮断している。
【0016】
前記外部ツール30は、前記のように、リレー12および電源供給制御用ECU14と接続する車体側のコネクタ15と接続する外部コネクタ31と、該外部コネクタ31と接続した操作器32とからなる。
【0017】
前記外部ツール30と外部コネクタ31と接続される車体側コネクタ15は、電源供給制御用ECU14と通信線24を介して接続している端子T1aと、リレーコイル12bの出力端と電源線25を介して接続している端子T2a、アース線26に接続した端子T3aを備えている。該コネクタ15は車両のインストルメントパネルに配置されており、操作員が室内側から外部ツール30の外部コネクタ31を車体側コネクタ15に簡単にコネクタ接続できるようにしている。
【0018】
前記外部ツール30の外部コネクタ31は前記車体側コネクタ15の前記端子T1a〜T3aと接続される端子T1b〜T3bを収容しており、端子T1bは通信線41を介して操作器32内の送信スイッチ35と接続し、端子T2bは電線42を介してリレー操作用の常開の開閉スイッチ36の接点36aと接続し、端子T3bは電線43を介して開閉スイッチ36の接点36bと接続し、開閉スイッチ36の閉じ操作で接点36aと36bとを閉成している。該開閉スイッチ36は閉成で、バッテリー10、リレーコイル12b、電源線25、車体側コネクタ15、外部コネクタ31、開閉スイッチ36、アース線26を通る通電経路が成立し、リレーコイル12bに電源が供給され、開動作しているリレー接点12aが閉じられるようにしている。
なお、外部コネクタ31を外部電線を介さずに操作器32に一体的に組みつけてもよい。
【0019】
次に、外部ツール30を用いた電源遮断方法および電源供給開始方法について説明する。
車両を目的地に搬送する際には、外部ツール30を用いて暗電流が供給される全ての負荷への暗電流の供給を遮断する。
詳細には、まず、操作員が車両側のコネクタ15に外部ツール30の外部コネクタ31をコネクタ接続する。
次いで、図2に示すように、操作員の操作により外部ツール30の送信スイッチ35をオンして通信線41、26を介して電源供給制御用ECU14にリレー・オフ信号を送信する。このリレー・オフ信号を受信した電源供給制御用ECU14からの信号でリレー12をオフして、電源分配器13への電源供給を停止し、該電源分配器13から電源が供給されて電源供給制御用ECU14を含む全てのECUへの暗電流の供給を停止する。このとき、外部ツール30の開閉スイッチ36は開成されている。
前記のように待機電源の暗電流がすべての負荷に供給されるのを遮断した後、操作員は外部ツール30の外部コネクタ31をコネクタ15から取り外し、この状態で車両を搬送する。
【0020】
一方、車両を目的地まで搬送した後、外部ツール30を用いて暗電流の供給を開始する。
詳細には、まず、操作員が車両側のコネクタ15に外部ツール30の外部コネクタ31をコネクタ接続する。
次いで、図3に示すように、操作員が外部ツール30の開閉スイッチ36を閉じ操作し、一端がバッテリ11に接続され、他端がアース接続された回路を形成する。
これにより、リレーコイル12bに一定時間以内(1秒程度)通電され、リレー接点12aを閉じてリレーをオン状態に切り替え、電源分配器13に電源を供給し、該電源分配器13を介して電源供給制御用ECU14を含む全てのECUへの暗電流の供給を開始する。
電源供給制御用ECU14への暗電流の供給が開始された後は、該電源供給制御用ECU14からのリレーオン信号でリレー12のオン状態を維持する。
最後に、操作員が外部ツール30の開閉スイッチ30bを開き操作し、外部コネクタ31をコネクタ15から取り外す。
【0021】
前記構成によれば、電源分配器13とバッテリ11との接続回路21に介設した電源供給断続用のリレー12をオフすることにより、該リレー12をオン・オフ制御する電源供給制御用ECU14を含む全てのECUへの暗電流の供給を停止することができる。
これにより、例えば、車両を製造地からディーラー等の目的地まで搬送する間、電源回路中に設けられたヒューズ13aを抜き取ることなく全てのECUへの暗電流の供給を停止でき、バッテリ11の消費電力の低減を図ることができる。
一方、車両を目的地に搬送した後の電源供給開始時には、電源供給制御用ECU14への暗電流の供給を遮断しているため該電源供給制御用ECU14でリレー12をオンすることはできないが、外部ツール30を用いることによって直接にリレー12をオン状態に切り替えて、電源分配器13を介して電源供給制御用ECU14を含む全てのECUへの暗電流の供給を再開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の車両用電源制御システムのブロック図である。
【図2】待機電源遮断時の車両用電源制御システムのブロック図である。
【図3】待機電源供給開始時の車両用電源制御システムのブロック図である。
【図4】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0023】
10 車両用電源制御システム
11 バッテリ
12 電源供給断続用のリレー
12a リレー接点
12b リレーコイル
13 電源分配器
14 電源供給制御用の電子制御ユニット(電源供給制御用ECU)
15 車体側コネクタ
30 外部ツール(外部制御手段)
31 外部コネクタ
32 操作器
35 送信スイッチ
36 開閉スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗電流が供給される全ての負荷へ電源を分配する電源分配器と、
前記電源分配器とバッテリとの接続回路に介設する電源供給断続用のリレーと、
前記電源分配器と接続されて暗電流が供給されると共に、前記リレーと接続してリレーをオン・オフ制御する電源供給制御用の電子制御ユニットと、
前記リレーと前記電子制御ユニットとに一時的に接続する外部制御手段とを備え、
電源遮断時には、前記外部制御手段から前記電子制御ユニットにリレー・オフ信号を送信し、該電子制御ユニットからの信号で前記リレーをオフして前記電源分配器および自電子制御ユニットへの暗電流の供給を停止する一方、
電源供給開始時には、前記外部制御手段で直接にリレーをオン状態に切り替えて、前記電源分配器を介して前記電子制御ユニットへ暗電流を供給することを特徴とする車両用電源制御システム。
【請求項2】
前記リレーの接点を開閉するリレーコイルの出力端および前記電源供給制御用の電子制御ユニットとが接続される車体側コネクタを備え、
前記外部制御手段は、前記車体側コネクタと接続される外部コネクタ及び該外部コネクタと接続した操作器とからなり、
前記操作器は、前記リレーコイルの出力端と前記車体側コネクタおよび外部コネクタを介して接続される操作用の開閉スイッチを備え、該開閉スイッチで開閉される回路の下流端はアース接続され、前記電源遮断時には前記開閉スイッチを開成操作する一方、電源供給開始時は前記開閉スイッチは閉成し、前記リレーコイルを通電してリレー接点を閉じ、かつ、前記電源供給制御用の電子制御ユニットにリレーオフ信号を送信する送信スイッチを備えている請求項1に記載の車両用電源制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−290604(P2008−290604A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138960(P2007−138960)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)