説明

車両用電源装置

【課題】負荷電流の急激な変動を抑制し、車載発電機のトルク変動によるエンジンの負荷変動、及び電源電圧変動を抑制することができる車両用電源装置の提供。
【解決手段】車載発電機1と、車載発電機1が発電した電力により充電される車載バッテリ4とを備え、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷6,7に電力を供給する車両用電源装置。電気負荷6,7が始動されることを検知する手段13,SW2,SW3と、検知する手段13,SW2,SW3が電気負荷6,7が始動されることを検知したときに、車載発電機1及び車載バッテリ4が電気負荷6,7へ印加する電圧を、所定時間周期的に断続させる手段13,16,17とを備える構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載発電機と、車載発電機が発電した電力により充電される車載バッテリとを備え、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に電力を供給する車両用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用電源装置では、パワーウインドウ、EPS(電動パワーステアリング装置)、エアコンディショナ、デフォッガ、シートヒータ等、多くの電気負荷に電力を供給している。これらの電気負荷のうち、パワーウインドウ、EPS、エアコンディショナ等では、モータ始動時に突入電流が発生するので、車両用電源装置の電流が大きく変動する。
従来、このような電流変動が、車載発電機のトルク変動を招き、これに連動してエンジンの回転変動が大きくなって、エンジンストップ、エンジンの息つき等が発生するのを抑制する為に、車載発電機のレギュレータに徐励(磁)機能を搭載するものがあった。
【0003】
特許文献1には、エンジンの動力によって、トラクション方式のトロイダル形無段変速機を介して、発電機を回転駆動する発電装置が開示されている。この発電装置は、無段変速機のパワーローラの傾斜角を駆動する油圧シリンダの為のサーボ弁開度指令値を、目標回転速度とエンジン回転速度との変速比指令と、発電機回転速度とエンジン回転速度との実変速比とに応答し、オブザーバを有するフィードバック制御手段によって制御する。さらに、発電機の負荷の検出値が与えられるフィードフォワード制御手段によって、フィードバック制御手段の動作を補正し、これらにより、発電機の回転速度を、電力負荷の急激な、または大きな変化にかかわらず、安定に維持する。
【特許文献1】特開2004−364459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の車載発電機のレギュレータに搭載された徐励(磁)機能では、車載発電機のトルク変動によるエンジンの負荷変動を抑制することができるものの、発電の応答を遅延させることから、電気負荷の電流変動に発電量が追随できず、電源電圧変動が大きくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、負荷電流の急激な変動を抑制し、車載発電機のトルク変動によるエンジンの負荷変動、及び電源電圧変動を抑制することができる車両用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る車両用電源装置は、車載発電機と、該車載発電機が発電した電力により充電される車載バッテリとを備え、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に電力を供給する車両用電源装置において、前記電気負荷が始動されることを検知する手段と、該手段が前記電気負荷が始動されることを検知したときに、前記車載発電機及び車載バッテリが前記電気負荷へ印加する電圧を、所定時間周期的に断続させる手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
この車両用電源装置では、車載バッテリが、車載発電機が発電した電力により充電され、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に、車載バッテリ及び車載発電機が電力を供給する。検知する手段が、電気負荷が始動されることを検知し、その電気負荷が始動されることを検知したときに、車載発電機及び車載バッテリが電気負荷へ印加する電圧を、断続させる手段が、所定時間周期的に断続させる。
【0008】
第2発明に係る車両用電源装置は、車載発電機と、該車載発電機が発電した電力により充電される車載バッテリと、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に、前記車載発電機及び車載バッテリからそれぞれ電力を供給する為の各スイッチング素子とを備える車両用電源装置において、前記スイッチング素子の前記車載バッテリ側に、該スイッチング素子に直列接続された第2スイッチング素子及び抵抗の並列回路と、前記電気負荷が始動されることを検知する手段とを備え、該手段が前記電気負荷が始動されることを検知したときに、前記スイッチング素子をオンにした後、所定時間が経過したときに、前記第2スイッチング素子をオンにするように構成してあることを特徴とする。
【0009】
この車両用電源装置では、車載バッテリが、車載発電機が発電した電力により充電され、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に、各スイッチング素子が、車載発電機及び車載バッテリからそれぞれ電力を供給する。第2スイッチング素子及び抵抗の並列回路が、スイッチング素子の車載バッテリ側に、スイッチング素子に直列接続され、検知する手段が、電気負荷が始動されることを検知する。検知する手段が、電気負荷が始動されることを検知したときに、スイッチング素子をオンにした後、所定時間が経過したときに、第2スイッチング素子をオンにする。
【発明の効果】
【0010】
第1,2発明に係る車両用電源装置によれば、負荷電流の急激な変動を抑制し、車載発電機のトルク変動によるエンジンの負荷変動、及び電源電圧変動を抑制することができる車両用電源装置を実現することができる。また、車載発電機のレギュレータに徐励(磁)機能を搭載する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明に係る車両用電源装置の実施の形態1の概略構成を示すブロック図である。
この車両用電源装置は、エンジン8に連動して、オルタネータ(車載発電機、交流発電機)1が発電し、その発電電圧は、オルタネータ1に付設されたレギュレータ2が、オルタネータ1の界磁電流を調節することにより定電圧制御され、また昇降圧制御される。
【0012】
オルタネータ1が発電した電力は、オルタネータ1内で整流され、リレーボックス11内のヒューズF1を通じて、車載バッテリ4に充電される。電流検出器3が、車載バッテリ4の充放電電流値を検出して、充電制御ECU(Electronic Control Unit)12に与え、充電制御ECU12内の電圧検出手段5が、車載バッテリ4の入出力電圧値を検出する。
【0013】
充電制御ECU12は、車両の速度値を与えられ、与えられた速度値に基づき、アイドリング、加速走行、定常走行及び減速走行の各車両状態を判定し、判定した車両状態に応じた発電モードで発電するように、レギュレータ2及びオルタネータ1を制御する充電制御を行う。
発電モードは、加速走行のようにエンジンの負荷が大きいときは、発電電圧を降下させ、減速走行のようにエンジンの負荷が小さいときは、発電電圧を上昇させるように定められており、これによりエンジンの負荷を軽減し、車両の燃費向上を図っている。
【0014】
車載バッテリ4の出力電圧は、例えば、ヒューズF2及びFET(電界効果トランジスタ)16を通じてモータ6(例えばパワーウインドウ用モータ)に、ヒューズF3及びFET17を通じてモータ7(例えばエアコンディショナのコンプレッサ用モータ)にそれぞれ印加される。FET16,17及びモータ6,7には、それぞれ環流ダイオードが逆並列に接続されている。車載バッテリ4の出力電圧は、その他の電気負荷へもそれぞれのヒューズを通じて印加される。FET16,17は、リレーボックス11内に設置されている。
【0015】
モータ6のスイッチSW2、及びモータ7のスイッチSW3の各オン/オフ信号は、リレーボックス11内に設置された制御部13に与えられる。
制御部13は、マイクロコンピュータを備えており、スイッチSW2のオン信号を与えられている期間、モータ6の始動時の突入電流が生じている期間を含む所定時間(例えば1秒間)、FET16を周期的にオン/オフ(PWM制御)した後、FET16を周期的にオンにする。また、スイッチSW3のオン信号を与えられている期間、モータ7の始動時の突入電流が生じている期間を含む所定時間(例えば1秒間)、FET17を周期的にオン/オフ(PWM制御)した後、FET17をオンにする。
【0016】
以下に、このような構成の車両用電源装置の電気負荷(モータ6,7)毎の動作の例を、それを示す図2のフローチャートを参照しながら説明する。
制御部13は、スイッチ(例えばスイッチSW2,SW3の何れか)がオンにされるのを待機しており(S1)、スイッチがオンにされると、そのスイッチに対応するFET(スイッチング素子)(例えばFET16,17の何れか)を、所定時間(例えば1秒間)周期的にオン/オフ(PWM制御)する(S3)。その後、そのFETをオンにする(S5)。
【0017】
制御部13は、そのFETをオンにした(S5)後、そのFETに対応するスイッチがオフにされるのを待機する(S7)。制御部13は、そのスイッチがオフにされると(S7)、そのスイッチに対応するFET(例えばFET16,17の何れか)をオフにした(S9)後、スイッチ(例えばスイッチSW2,SW3の何れか)がオンにされるのを待機する(S1)。
【0018】
以上により、オンにされたスイッチに対応するモータ(例えばモータ6,7の何れか)が作動するが、その始動時の図3(a)に示す突入電流を、FETを所定時間周期的にオン/オフ(PWM制御)することにより、(b)に示すように抑制することができ、電源電圧への影響を抑制することができる。
また、実測によれば、例えば、FETを単純にオンにした場合、図4(a)に示すように、突入電流は最大64Aであり、これにより電源電圧は12.4Vから11.7V迄低下して、0.7V変動する。これに対して、FETを約0.7秒間、350Hzでオン/オフ(PWM制御)した場合、(b)に示すように、突入電流は最大30Aであり、これにより電源電圧は12.1V迄しか低下せず、突入電流の最大値は34A減少し、電源電圧の変動分は0.3Vに抑制される。
【0019】
(実施の形態2)
図5は、本発明に係る車両用電源装置の実施の形態2の概略構成を示すブロック図である。
この車両用電源装置は、モータ6へ通じるヒューズF2及びFET16間に、FET18及び抵抗Rが並列接続された並列回路が接続されており、FET18には、環流ダイオードが逆並列に接続されている。
制御部13は、スイッチSW2のオン信号を与えられている期間、FET16をオンにし、モータ6の始動時の突入電流が生じている期間を含む所定時間(例えば0.1秒間)、FET18をオフに止めて、突入電流を抵抗Rに流した後、FET18をオンにする。その他の構成は、上述した実施の形態1の概略構成(図1)と同様であるので、説明を省略する。
【0020】
以下に、このような構成の車両用電源装置のモータ6に関連する動作の例を、それを示す図6のフローチャートを参照しながら説明する。
制御部13は、スイッチSW2がオンにされるのを待機しており(S11)、スイッチSW2がオンにされると、FET(下流側スイッチング素子)16をオンにする(S13)。次いで、所定時間(例えば0.1秒間)待機した(S15)後、FET(上流側スイッチング素子)18をオンにする(S17)。
制御部13は、次に、スイッチSW2がオフにされるのを待機し(S19)、スイッチSW2がオフにされると、FET16,18をオフにした(S21)後、スイッチSW2がオンにされるのを待機する(S11)。尚、モータ7に関連する動作は、上述した実施の形態1の動作の例(図2)と同様であるので、説明を省略する。
【0021】
以上により、スイッチSW2に対応するモータ6が作動するが、その始動時にFET18を所定時間、オフに止めることにより、突入電流は抵抗R(図5)を流れて減衰し、図7(a)に示すような突入電流を、(b)に示すように抑制することができ、電源電圧への影響を抑制することができる。
また、実測によれば、例えば、FET18及び抵抗Rが存在しない場合、図8(a)に示すように、突入電流は最大105Aであり、これにより電源電圧は12.4Vから11.4V迄低下して、1.0V変動する。これに対して、FET18及び抵抗Rの並列回路を接続し、始動時にFET18を約50ミリ秒間オフに止めて、突入電流を抵抗Rに流した場合、(b)に示すように、突入電流は最大55Aであり、これにより電源電圧は11.9V迄しか低下せず、突入電流の最大値は50A減少し、電源電圧の変動分は0.5Vに抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両用電源装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷毎の動作の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷毎の動作を説明する為の説明図である。
【図4】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷毎の動作の実測例を示す波形図である。
【図5】本発明に係る車両用電源装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷に関連する動作の例を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷に関連する動作を説明する為の説明図である。
【図8】本発明に係る車両用電源装置の電気負荷の動作の実測例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0023】
1 オルタネータ(車載発電機、交流発電機)
2 レギュレータ
4 車載バッテリ
6,7 モータ(電気負荷)
8 エンジン
11 リレーボックス
12 充電制御ECU
13 制御部(検知する手段、断続させる手段)
16,17 FET(スイッチング素子、断続させる手段)
18 FET(スイッチング素子)
R 抵抗
SW2,SW3 スイッチ(検知する手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載発電機と、該車載発電機が発電した電力により充電される車載バッテリとを備え、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に電力を供給する車両用電源装置において、
前記電気負荷が始動されることを検知する手段と、該手段が前記電気負荷が始動されることを検知したときに、前記車載発電機及び車載バッテリが前記電気負荷へ印加する電圧を、所定時間周期的に断続させる手段とを備えることを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
車載発電機と、該車載発電機が発電した電力により充電される車載バッテリと、始動時に突入電流を発生させる複数の電気負荷に、前記車載発電機及び車載バッテリからそれぞれ電力を供給する為の各スイッチング素子とを備える車両用電源装置において、
前記スイッチング素子の前記車載バッテリ側に、該スイッチング素子に直列接続された第2スイッチング素子及び抵抗の並列回路と、前記電気負荷が始動されることを検知する手段とを備え、該手段が前記電気負荷が始動されることを検知したときに、前記スイッチング素子をオンにした後、所定時間が経過したときに、前記第2スイッチング素子をオンにするように構成してあることを特徴とする車両用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−40192(P2009−40192A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206772(P2007−206772)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)