説明

車両用電源装置

【課題】バッテリ及びオルタネータの出力電圧をPWM制御することに起因して、オルタネータ及びエンジンに異常振動が発生することを防止できる車両用電源装置の提供。
【解決手段】エンジン9に連動して車載発電機1が発電した電力をバッテリ8に充電し、バッテリ8が出力した電圧を検出し、検出した電圧値に応じたデューティ比でバッテリ8の出力電圧をPWM制御して、給電すべき電気負荷7・・へ与える車両用電源装置。エンジン9の回転数を受け付ける受付手段(4)と、受付手段(4)が受け付けたエンジン9の回転数に基づき、PWM制御の周波数を変更する変更手段(4)とを備える構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに連動して車載発電機が発電した電力をバッテリに充電し、車載発電機が発電した電力の電圧、及びバッテリが出力した電圧を検出し、検出した電圧値に応じたデューティ比でPWM制御した前記電圧を、給電すべき電気負荷へ与える車両用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載される電気負荷の種類及びそれらの消費電力は飛躍的に増加する傾向にある。その為、バッテリ及びオルタネータ(車載発電機、交流発電機)という限られた電源を有する車両用電源装置では、電力を確保することは重要な課題となっている。
車両用電源装置では、バッテリの出力電圧は、例えば公称値12Vであり、電気負荷も12Vで作動するようになっているものが多い。しかし、発電機の発電電圧がバッテリを充電するために、14〜12.5Vと高い電圧となっていることから、12Vを超える電圧で電気負荷を作動させていることが多く、その分、無駄な電力を消費することになる。
【0003】
そこで、近時、バッテリの出力電圧が12Vを超えているときは、12VでPWM制御をおこなわない場合の供給電力に相当する電力を各電気負荷へ与えることが提案されている。その際、一定周期及び同一デューティ比でPWM制御が行われる。
また、優先度の高い電気負荷(電動ブレーキ、電動パワーステアリング装置等)への給電を維持する為に、優先度の低い電気負荷(ヒータ等)への電力をPWM制御により制限するようなことも提案されている。
【0004】
特許文献1には、機関本体のクランク軸のトルク変動を検出し、検出されたトルク変動を抑制する為のトルクを補機(モータジェネレータ)によって発生させることにより、トルク変動を制御する内燃機関のトルク変動制御装置が開示されている。補機の回転軸とクランク軸とを複数のギヤ手段によって連結し、各ギヤ手段にそれぞれ発生するスラスト方向の荷重が相殺されるように構成している。
【特許文献1】特開平11−113220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バッテリ及びオルタネータの出力電圧をPWM制御する場合、大電流が流れていると、PWM制御の周波数と同じ周波数のオルタネータのトルク変動が発生する。一方、シリンダ内でピストンが往復しているエンジンでは、エンジンの回転周波数に比例した振動が生じている。一般的に4気筒エンジンでは2倍、3気筒エンジンでは1.5倍の周波数の振動が発生する。
その為、エンジンのこの振動周波数と同じ周波数でバッテリの出力電圧をPWM制御すると、オルタネータのトルク変動とエンジンの振動とが共振して、オルタネータ及びエンジンに異常振動が発生する虞があるという問題がある。
【0006】
特に、回転周波数が低いアイドリング時には、1200rpmで40Hz程度が避けるべき周波数となり、可聴域を避ける為に50Hz近辺とすることが多いPWM周波数と干渉する虞がある。
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、バッテリ及びオルタネータの出力電圧をPWM制御することに起因して、オルタネータ及びエンジンに異常振動が発生することを防止できる車両用電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る車両用電源装置は、エンジンに連動して車載発電機が発電した電力をバッテリに充電し、該バッテリが出力した電圧を検出し、検出した電圧値に応じたデューティ比で前記電圧をPWM制御して、給電すべき電気負荷へ与える車両用電源装置において、前記エンジンの回転数を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けたエンジンの回転数に基づき、前記PWM制御の周波数を変更する変更手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
この車両用電源装置では、エンジンに連動して車載発電機が発電した電力をバッテリに充電し、バッテリが出力した電圧を検出し、検出した電圧値に応じたデューティ比でバッテリの出力電圧をPWM制御して、給電すべき電気負荷へ与える。受付手段がエンジンの回転数を受け付け、変更手段が、その受け付けたエンジンの回転数に基づき、PWM制御の周波数を変更する。
これにより、エンジンの振動周波数とバッテリの出力電圧のPWM制御の周波数とが近づくのを防止する為に、PWM制御の周波数を設定変更することができる。
【0009】
第2発明に係る車両用電源装置は、前記変更手段は、前記受付手段が受け付けたエンジンの回転数が第1回転数より低いか否かを判定する第1判定手段と、前記回転数が、前記第1回転数より高い第2回転数より高いか否かを判定する第2判定手段とを備え、前記第1判定手段が第1回転数より低いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数とし、前記第2判定手段が第2回転数より高いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数より低い第2周波数とするように構成してあることを特徴とする。
【0010】
この車両用電源装置では、変更手段は、第1判定手段が、受付手段が受け付けたエンジンの回転数が第1回転数より低いか否かを判定し、第2判定手段が、そのエンジンの回転数が、第1回転数より高い第2回転数より高いか否かを判定する。第1判定手段が第1回転数より低いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数とし、第2判定手段が第2回転数より高いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数より低い第2周波数とする。
これにより、エンジンの振動周波数とバッテリの出力電圧のPWM制御の周波数とが近づくことを防止できる。
【0011】
第3発明に係る車両用電源装置は、前記変更手段は、前記第1判定手段が第1回転数より低くないと判定し、かつ、前記第2判定手段が第2回転数より高くないと判定したときは、そのときのPWM制御の周波数を維持するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
この車両用電源装置では、変更手段は、第1判定手段が第1回転数より低くないと判定し、かつ、第2判定手段が第2回転数より高くないと判定したときは、そのときのPWM制御の周波数を維持する。
これにより、バッテリの出力電圧のPWM制御の周波数が、第1周波数及び第2周波数間で頻繁に変動することを防止できる。
【0013】
第4発明に係る車両用電源装置は、前記受付手段はエンジンの回転数を時系列的に受け付け、前記変更手段は、前記第1判定手段が第1回転数より低いと第1の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を前記第1周波数とし、前記第2判定手段が第2回転数より高いと第2の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を前記第2周波数とするように構成してあることを特徴とする。
【0014】
この車両用電源装置では、受付手段はエンジンの回転数を時系列的に受け付けている。変更手段は、第1判定手段が第1回転数より低いと第1の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を第1周波数とし、第2判定手段が第2回転数より高いと第2の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を第2周波数とする。
これにより、バッテリの出力電圧のPWM制御の周波数が、第1周波数及び第2周波数間で頻繁に変動することを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両用電源装置によれば、バッテリ及びオルタネータの出力電圧をPWM制御することに起因して、オルタネータ及びエンジンに異常振動が発生することを防止できる車両用電源装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る車両用電源装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
この車両用電源装置は、バッテリ8を備えており、バッテリ8は、オルタネータ(車載発電機、交流発電機)1が発電した電力により充電される。オルタネータ1は、エンジン9に連動して発電し、発電した電力は、オルタネータ1内で整流されて出力される。
【0017】
バッテリ8に充電された電力、及びオルタネータ1が出力した電力は、半導体スイッチ2を通じて、車両に搭載された複数の負荷(電気負荷)7・・に与えられる。
半導体スイッチ2は、PWM制御部6を通じて、制御部4からオン/オフ制御される。制御部4は、バッテリ8の出力電圧を、電圧入力回路3を通じて与えられており、与えられた出力電圧値は、内蔵するA/Dコンバータ5でデジタル値に変換して読込む(サンプリングする(検出する))。
【0018】
制御部4は、読込んだバッテリの出力電圧値に応じてデューティ比を決定し、PWM制御部6に与える。PWM制御部6は、与えられたデューティ比で、半導体スイッチ2をPWM制御する。
制御部4(受付手段)は、エンジン9の燃料噴射、点火及び回転数等を制御するエンジン制御部10から、エンジン回転数を与えられる。
制御部4(変更手段、第1判定手段、第2判定手段)は、PWM制御の周波数を高/低2つの周波数から選択的に設定する。与えられたエンジン回転数が比較的低いときは、PWM制御の周波数を高い方の周波数に設定する。エンジン回転数が比較的高いときは、低い方の周波数に設定する。設定した周波数はPWM制御部6に指示する。PWM制御部6は、指示された周波数で、半導体スイッチ2をPWM制御する。
【0019】
以下に、このような構成の車両用電源装置の動作を、PWM制御の周波数の変更制御を示す図2のフローチャートを参照しながら説明する。
尚、図2のフローチャートで使用するパラメータ及び定数は、以下のように定めてある。
f;PWM制御の周波数。比較的高い周波数FHi、比較的低い周波数FLo(FLo<FHi)の何れかに設定される。
【0020】
up;PWM制御部の周波数をFLoからFHiへ上げる為の閾値となるエンジン回転数。
down;PWM制御部の周波数をFHiからFLoへ下げる為の閾値となるエンジン回転数(Rdown>Rup)。
up;エンジン回転数がRupより低いと連続して判定された回数。所定回数Tupに達したときは、PWM制御部の周波数がFHiに設定される。
down;エンジン回転数がRdownより高いと連続して判定された回数。所定回数Tdownに達したときは、PWM制御部の周波数がFLoに設定される。
【0021】
制御部4は、バッテリ8及びオルタネータ1の出力電圧をPWM制御する際、先ず、パラメータをf=FLo、tup=tdown=0として初期化する(S1)。
制御部4は、逐次、電圧入力回路3を通じて与えられたバッテリ8の出力電圧を、A/Dコンバータ5でデジタル値に変換して読込み、読込んだバッテリの出力電圧値に応じてデューティ比を決定する。決定したデューティ比及びパラメータf(初期値はFLo)をPWM制御部6に与え、PWM制御部6は、与えられたデューティ比及び周波数f=FLoで、半導体スイッチ2をPWM制御する。
【0022】
制御部4は、逐次、エンジンの回転数を読込み(S3)、エンジンの回転数が回転数Rupより低いか否かを判定する(S5)。エンジンの回転数が回転数Rupより低ければ、カウント数tupに1を加算した(S7)後、カウント数tupが所定回数Tupに達しているか否かを判定する(S9)。
制御部4は、カウント数tupが所定回数Tupに達していなければ(S9)、エンジンの回転数を読込む(S3)。カウント数tupが所定回数Tupに達していれば、PWM制御部の周波数fをFHiに設定し(S11)、カウント数tupをリセット(=0)した(S13)後、エンジンの回転数を読込む(S3)。
制御部4は、PWM制御部の周波数fをFHiに設定した(S11)ときは、f=FHiをPWM制御部6に指示する。
【0023】
制御部4は、エンジンの回転数が回転数Rupより低くなければ(S5)、カウント数tupをリセット(=0)した(S15)後、エンジンの回転数が回転数Rdownより高いか否かを判定する(S17)。エンジンの回転数が回転数Rdownより高ければ、カウント数tdownに1を加算した(S19)後、カウント数tdownが所定回数Tdownに達しているか否かを判定する(S21)。
制御部4は、カウント数tdownが所定回数Tdownに達していなければ(S21)、エンジンの回転数を読込む(S3)。カウント数tdownが所定回数Tdownに達していれば、PWM制御部の周波数fをFLoに設定し(S23)、カウント数tdownをリセット(=0)した(S25)後、エンジンの回転数を読込む(S3)。
【0024】
制御部4は、PWM制御部の周波数fをFLoに設定した(S23)ときは、f=FLoをPWM制御部6に指示する。
制御部4は、エンジンの回転数が回転数Rdownより高くなければ(S17)、カウント数tdownをリセット(=0)した(S27)後、エンジンの回転数を読込む(S3)。
以上により、図3に示すように、エンジンの回転数が回転数Rupより低いと判定したときは、PWM制御の周波数をFHiとし、回転数Rdownより高いと判定したときは、PWM制御の周波数をFLoとすることができる。また、エンジンの回転数が回転数Rupより低くないと判定し、かつ、回転数Rdownより高くないと判定したときは、そのときのPWM制御の周波数を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両用電源装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両用電源装置の動作の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る車両用電源装置の動作の例を説明する為の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 オルタネータ(車載発電機)
2 半導体スイッチ
3 電圧入力回路
4 制御部(受付手段、変更手段、第1判定手段、第2判定手段)
5 A/Dコンバータ
6 PWM制御部
7 負荷(電気負荷)
8 バッテリ
9 エンジン
10 エンジン制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連動して車載発電機が発電した電力をバッテリに充電し、該バッテリが出力した電圧を検出し、検出した電圧値に応じたデューティ比で前記電圧をPWM制御して、給電すべき電気負荷へ与える車両用電源装置において、
前記エンジンの回転数を受け付ける受付手段と、該受付手段が受け付けたエンジンの回転数に基づき、前記PWM制御の周波数を変更する変更手段とを備えることを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記受付手段が受け付けたエンジンの回転数が第1回転数より低いか否かを判定する第1判定手段と、前記回転数が、前記第1回転数より高い第2回転数より高いか否かを判定する第2判定手段とを備え、前記第1判定手段が第1回転数より低いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数とし、前記第2判定手段が第2回転数より高いと判定したときは、PWM制御の周波数を第1周波数より低い第2周波数とするように構成してある請求項1記載の車両用電源装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記第1判定手段が第1回転数より低くないと判定し、かつ、前記第2判定手段が第2回転数より高くないと判定したときは、そのときのPWM制御の周波数を維持するように構成してある請求項2記載の車両用電源装置。
【請求項4】
前記受付手段はエンジンの回転数を時系列的に受け付け、前記変更手段は、前記第1判定手段が第1回転数より低いと第1の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を前記第1周波数とし、前記第2判定手段が第2回転数より高いと第2の回数連続して判定したときに、PWM制御の周波数を前記第2周波数とするように構成してある請求項2又は3記載の車両用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120516(P2010−120516A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295941(P2008−295941)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)