説明

車両用駆動トルク制御装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は車両の駆動輪に最適な駆動トルクを配分することが可能な車両用駆動トルク制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より車両の駆動トルクを制御する装置としては、例えば特開昭58−16947号公報に開示されるものがある。この装置は、転動輪速度と駆動輪速度を比較することにより駆動輪の加速スリップ状態を検出し、このスリップ状態を検出した時に全駆動輪または一部の駆動輪に働く駆動力を低減する制御を行うものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の装置では加速スリップを検出してから制御を開始するので、例えば操舵旋回中に加速スリップが発生した場合、制御開始前後で車両のステア特性が、オーバーステアからアンダーステアへと切り替わり、操縦者の操舵に対する追従性が悪化してしまうという問題がある。さらに上記従来の装置では、定常状態(加速スリップ発生していない状態)では駆動トルク制御を行うことが出来ないという問題がある。
【0004】
そこで本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、いかなる走行状態においても駆動輪に最適な駆動トルクを配分し、操縦追従性を向上させることができる車両用駆動トルク制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の車両用駆動トルク制御装置は、
駆動輪の速度を検出する駆動輪速度検出手段と、
前記駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクを検出する駆動トルク検出手段と、
前記駆動トルク検出手段によって検出されるそれぞれの駆動輪の駆動トルクに基づいて左右駆動輪に伝達される駆動トルクの比を検出する実トルク比検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段によって検出される車両の走行状態に応じて左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出する目標トルク比算出手段と、
前記車両の駆動輪のそれぞれに構成され、車輪制動力を発生するホイールシリンダと、
各駆動輪におけるそれぞれのホイールシリンダにかかる圧力を各々独立して増減圧保持調整可能なアクチュエータと、
前記実トルク比検出手段によって検出される駆動トルクの比を前記目標トルク比算出手段によって算出される目標比に収束するように、駆動トルクを、前記アクチュエータを用いて前記ホイールシリンダにかかるブレーキ圧力を調整することにより制御する駆動トルク制御手段と、
を備え、前記駆動トルク制御手段は、一方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を増大制御して駆動トルクを減少する場合、他方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を減圧制御して駆動トルクを増大するように駆動トルク補正量を求め、この駆動トルク補正量に基づいて駆動トルク調整を行うとともに、前記駆動輪の実駆動トルク比が駆動輪トルクの目標比よりも大きい場合には旋回内輪のホイールシリンダへの圧力を増大し、旋回外輪のホイールシリンダへの圧力を減少させることを特徴とする。
【0006】
また、上記記載の車両用駆動トルク制御装置において、前記目標トルク比算出手段は、転動輪の速度を検出する転動輪速度検出手段を備え、前記転動輪速度に基づく見かけ上の駆動トルクを算出し、前記見かけ上の駆動トルクを補正係数により補正することにより左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出することを特徴とする。
【0007】
【作用】
上記のように構成された本発明の車両用駆動トルク制御装置は、本発明の目的である操舵追従性を向上させるために、左右の駆動輪の駆動トルクに着目している。
【0008】
定常円旋回を考えた場合、ニュートラル特性は操舵量で決定される内外輪の旋回半径と回転数比、つまり速度比を一致させた場合に得られる。この概念を加速円旋回まで拡張した場合、加速により同ー操舵量に対する速度比は1に近づくため、旋回半径もそれに応じて大きくなり、車両のステア特性はニュートラルからアンダステア側に移行する。そこで、速度変化後の旋回半径比を加速前と同じ状態に維持するためには、加速前の速度比を維持できるような加速状態を作り出す必要がある。このような加速を得るためには、各駆動輪の加速の比を加速直前の駆動輪速度比に合わせることで実現できる。つまり駆動輪に伝達される駆動トルク比を操舵量で決まる旋回半径比に追従させてやれば良いことになる。このようにして操舵状態が変化する場合にも変化分に比例した駆動トルク比を維持してやれば常にドライバーの意思に即した車両追従性を確保することが可能となる。
【0009】
そこで本発明の車両用駆動トルク制御装置では、駆動輪速度検出手段によって駆動輪の速度が検出される。検出されたこの駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクが駆動トルク算出手段によって算出される。また、駆動トルク比算出手段によって算出された駆動トルクの左右駆動輪に伝達される比が実トルク比検出手段によって検出される。さらに、走行状態検出手段によって車両の走行状態が検出される。そして、検出された走行状態に最適な駆動トルク比となる目標トルク比を算出する。そして、この算出された目標トルク比に実トルク比を収束させるように駆動トルクを制御する。この際、一方の駆動輪の駆動トルクを増大するように付与される圧力を減少したら、他方の駆動輪に付与される駆動トルクを減少するように付与される圧力を増大する。逆に、一方の駆動輪の駆動トルクを減少するように付与される圧力を増大したら、他方の駆動輪に付与される駆動トルクを増大するように付与される圧力を減少する。そして具体的には、駆動輪の実駆動トルク比が駆動輪トルクの目標比よりも大きい場合には旋回内輪のホイールシリンダへ圧力を増大し、旋回外輪のホイールシリンダへ圧力を減少させる。この制御により、駆動トルク比は車両の走行状態に応じたものとなり、操縦追従性を向上させることができる。
【0010】
【実施例】
以下、本発明を適用した実施例を図面に基づいて説明する。
この実施例は、本発明を後輪駆動車(FR車)において、駆動輪別個に設けられたブレーキ装置、及びそれらブレーキ装置に働く制動力をコントロールするアクチュエータを駆動することにより駆動トルクを制御する駆動トルク制御装置に適用したものである。
【0011】
図1は本実施例の構成図である。
図1に示すように、本実施例の駆動トルク制御装置は、車両の各車輪1,2,3,4の回転速度を検出して車輪速度信号を出力する車輪速度センサ5,6,7,8、エンジン9、エンジン9の出力を駆動輪であるRR輪3とRL輪4に伝達するプロペラシャフト10とディファレンシャル11、RR輪3、及びRL輪4に別個に設けられたブレーキ装置14,15、ブレーキ装置14,15に働く制動力を個々にコントロールするアクチュエータ13、これらを集中制御する電子制御装置(以下、「ECU」と言う。)12から構成されている。
【0012】
次に、図1に示す装置の作動を図2、図3に示すフローチャートに従って説明する。図1に示す装置は電源の供給とともに作動を開始し、電源の遮断とともに作動を終了する。
【0013】
ECU12に電源が供給され、ステップ00に至ると以後の演算処理のためECU12内のROM/RAM等の初期化及び初期値のセットを行う。ステップ10では車輪速度センサ5,6,7,8から出力された信号を演算処理することによって、車輪速度VW*、車輪加速度dVW*を算出する。ただし、*=FR,FL,RR,RLである。ステップ20では、ステップ10で算出された車輪速度VW*のうち転動輪速度VWFR ,VWFに基づいて次式から車体速度Vを算出する。
【0014】
【数1】
=MAX(VWFR ,VWFL
ステップ30では車輪に伝達される駆動トルクCを車輪速度VW*、車輪加速度dVW*に基づいて次式から算出する。
【0015】
【数2】
=K×VW*+K×dVW*
但し、K及びKは重み付け係数である。
【0016】
数2で算出する駆動トルクCは、車輪速度VW*、車輪加速度dVW*に基づいて演算した疑似的なものである。従って、実際に駆動トルクが伝達されない転動輪においても見かけ上の駆動トルクCFR,CFLが算出される。
【0017】
また数2で算出する駆動トルクCの重み付けは、車両加速中や操舵角が変化している状態では、駆動トルクに比例する車輪加速度dVW*を主体とした情報を多く利用すべく、重み付け係数Kの重み付けを大きくする。また、操舵角が固定されている定常状態では車輪加速度dVW*は利用できないので、車輪加速度dVW*の積分値である車輪速度VW*を主体として情報を多く利用すべく重み付け係数Kの重み付けを大きくする。
【0018】
ステップ35では、ステップ30で求めた各輪の駆動トルクCから転動輪に関する見かけ上の左右トルク比を演算することにより目標駆動トルク比PTTのベースとなる転動輪駆動トルク比Sを算出する。この転動輪駆動トルク比Sは次式にて演算される。
【0019】
【数3】



ただし、CFIは転動輪内輪の見かけ上の駆動トルク、CFOは転動輪外輪の見かけ上の駆動トルクである。
【0020】
ステップ40では、車両が下記の▲1▼〜▲4▼に示す走行状態にあるか否かを検出する。
▲1▼.操舵(直進→旋回)
▲2▼.定常旋回
▲3▼.操舵(旋回→直進)
▲4▼.(路面)外乱発生
これらの各走行状態は、各輪の駆動トルクCに基づく転動輪駆動トルク比S、及び左右駆動輪速度比から、各走行状態に対応する下記の条件を満たすか否かを判定することにより検出される。
▲1▼.操舵(直進→旋回)─転動輪駆動トルク比Sの時間変化が増大傾向にある。▲2▼.定常旋回─転動輪駆動トルク比Sの時間変化が1.0でない所定値に収束。▲3▼.操舵(旋回→直進)─転動輪駆動トルク比Sの時間変化が減少傾向にある。▲4▼.(路面)外乱発生─転動輪駆動トルク比Sの時間変化がほぼ1.0であり、
かつ左右駆動輪速度比が所定値よりも大。
【0021】
転動輪駆動トルク比S、及び左右駆動輪速度比が上記の各条件を満たす時、各条件に対応する走行状態が検出される。
さらにステップ40では、左右の車輪速度の差を比較し、両者の差が所定値以上の時、大きい方を外輪、小さい方を内輪とする。また、両者の差が所定値以下の時、右側車輪を外輪、左側車輪を内輪とする。
【0022】
ステップ50では路面の摩擦係数μを車輪速度VW*、車輪加速度dVW*に基づいて算出する。具体的には、加速状態での転動輪・駆動輪間の速度差、または減速状態での車輪減速度から算出する。
【0023】
ステップ55では、現在ステップ70における制御が行われているか否かの判断を行う。ここでYESと判定するとステップ65に進み、NOと判定するとステップ60に進む。
【0024】
ステップ65では現在ステップ70における制御が終了したか否かの判断を行う。ここでYESと判定するとステップ130に進み、ブレーキ圧力強制減圧制御を行う。ステップ130におけるブレーキ圧力強制減圧制御では、まずブレーキ圧が駆動輪に発生しているか否かの判定を行う。ブレーキ圧が駆動輪に発生している場合には、所定の勾配により徐々にブレーキ圧を減圧するバックアップ制御を行い、制御終了した後、ステップ10に戻る。一方、ブレーキ圧が駆動輪に発生していない場合は、上記バックアップ制御を行わずステップ10に戻る。
【0025】
また、ステップ65でNOと判定するとステップ70に進む。
ステップ60では、車両がステップ45における▲1▼〜▲4▼の走行状態に該当するか否かの判定を行うことにより、制御を開始すべきか否かの判断を行う。この結果▲1▼〜▲4▼のいずれの走行状態にも該当しない場合は、制御を開始すべきでないと判断しステップ10に戻る。ステップ45で、▲1▼〜▲4▼のいずれか走行状態に該当し、制御を開始すべきと判した時は、ステップ70に進み▲1▼〜▲4▼の操舵状態に最適な駆動力配分を設定するための制御目標を演算する。このステップ70の詳細な処理を図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0026】
まず、ステップ310〜330において目標駆動トルクを演算するため、走行状態に見合った各種補正係数を設定する。ステップ310では、転動輪駆動トルク比Sの変化率、転動輪駆動トルク比Sの収束する値、及び駆動輪速度比に基づいて図4〜図7に示すマップを用いてステップ030で検出された▲1▼〜▲4▼の走行状態における補正係数Kを設定する。例えば、ステップ45で▲1▼操舵中(直進→旋回)の走行状態が検出されたならば、図4のマップを用いて▲1▼操舵中(直進→旋回)の走行状態における転動輪駆動トルク比Sの変化率から補正係数Kを設定する。
【0027】
図4のマップでは、転動輪駆動トルク比Sの変化率が大きい時、すなわち操舵開始時など操舵量の時間変化が大きい時ほど補正係数Kが大きくなる特性としている。図5のマップでは、定常旋回での転動輪駆動トルク比Sの収束する値の大小により補正係数Kを設定しており、転動輪駆動トルク比Sの収束する値が大きくなる時、すなわち大きな操舵による旋回時には補正係数Kを小さくして車両安定性を確保している。図6のマップは図4のマップとは対照に、操舵中(旋回→直進)の転動輪駆動トルク比Sの変化率に逆比例した補正係数Kの特性を持つことによりハンドル戻し操作におけるヨーレイトの収束効率を向上可能としている。図7のマップは路面の外乱発生時の制御応答性を向上させるために駆動輪速度比に逆比例した特性としている。
【0028】
次にステップ320では、ステップ50で算出された路面の摩擦係数μに基づいて図8に示すマップを用いて補正係数Kμを設定する。この補正係数Kμを設定することにより、低μ路では操舵追従性を鈍化することにより車両安定性を向上させることができる。
【0029】
同様にステップ330では、ステップ20で算出された車体速度Vによる補正係数KVを図9に示すマップを用いて設定する。この補正係数KVの設定により、車両の低・高速のステア特性を調節可能とし、低速時には操舵追従性を、高速時には車両安定性を重視した車両特性を可能とする。
【0030】
ステップ350では、ステップ35で算出された転動輪駆動トルク比Sを用いて制御目標としての目標駆動トルク比PTTを算出する。
【0031】
ステップ350の処理を終了するとステップ80に進む。
【0032】
ステップ80では、次式から駆動輪の実際の駆動輪のトルク比である実駆動トルク比QTTを、QTT=CRI/CROにより演算する。
【0033】
ただし、CRIは駆動輪内輪の駆動トルク、CROは駆動輪外輪の駆動トルクである。
【0034】
ステップ90では、ステップ70及びステップ80で求められた目標駆動トルク比PTTと実駆動トルク比QTTの比較を行う。実駆動トルク比QTTが目標駆動トルク比PTTに収束している(実駆動トルク比QTTと目標駆動トルク比PTTの差の絶対値が所定値以下)場合は、ステップ120に進み、所定の割合でブレーキ圧を減圧する。その後ステップ10に戻る。
【0035】
一方、ステップ90で実駆動トルク比QTTが目標駆動トルク比PTTに収束していない(実駆動トルク比QTTと目標駆動トルク比PTTの差の絶対値が所定値以上)場合は、ステップ100に進み、駆動トルク比を補正すべく駆動トルク補正量ΔT算出する。このステップ100では、駆動トルク比を補正するために、例えば以下に示すように2つの場合に分けて駆動トルク補正量ΔTを算出する。
【0036】
▲1▼.実駆動トルク比QTT>目標駆動トルク比PTTの場合
実駆動トルク比QTTを小さくするために駆動輪内輪の駆動トルクを小さくする。つまり、旋回内輪のブレーキ圧を増圧して制動力を与える。この時、旋回外輪にすでに制動力が与えられている場合には外輪の制動力を減少させることを優先させる。これにより、冗長な制動力が発生することによる車両加速性の低下を防止する。
【0037】
▲2▼.実駆動トルク比QTT<目標駆動トルク比PTTの場合
▲1▼における処理とは対照に、駆動輪外輪の駆動トルクを小さくする。また状況に応じて駆動輪内輪の駆動トルクを増加させる。
【0040】
ステップ100にて駆動トルク補正量ΔTを求めた後、ステップ110に進む。ステップ110では、ステップ100で求められた駆動トルク補正量ΔTに従ってブレーキ制御量を算出する。ステップ110の処理を終了するとステップ010に戻る。
【0041】
このような処理により算出されたブレーキ制御量について、ステップ200で始まる定時割り込み処理において、ステップ210でアクチュエータ13を駆動することにより所定の制動トルク制御を行う。つまり、制御目標への追従制御中は、ブレーキ制御量に基づいた油圧勾配を設定し制御量の正負に従って増・減圧切替えを行い、収束が確認されている場合には、現在の油圧を保持する制御を行う。
【0042】
以上述べたように本実施例においては、駆動トルクを制動トルクにより制御する作動を行っており、駆動トルク補正量ΔTだけ制動トルクを調節することにより、所定の駆動トルクを得ることが出来る。
【0043】
なお、本実施例においては、車輪速度センサ7,8が駆動輪速度検出手段に相当し、車輪速度センサ5,6が転動輪速度検出手段に相当し、図2のフローチャートのステップ30が駆動トルク検出手段に相当し、ステップ40が走行状態検出手段に相当し、ステップ80が実トルク比検出手段に相当し、ステップ70が目標トルク比算出手段に相当し、ステップ90〜ステップ120が駆動トルク制御手段に相当する。
【0044】
次に、本発明の第2実施例を説明する。
第2実施例の構成は、図10に示すように第1実施例の構成に加えて、エンジンの出力を制御する手段として、アクセル16に連動するメインスロットル弁17、モータ18によってメインスロットル弁17と独立に動作可能なサブスロットル弁19、それぞれの弁の開度センサ20,21を備えている。
【0045】
以下、図10に示す装置の作動を図11に示すフローチャートに従って説明する。図10に示す装置は電源の供給とともに作動を開始し、電源の遮断とともに作動を終了する。
【0046】
図11に示すフローチャートにおいて、ステップ130までは第1実施例と同様の処理を行う。そして、ステップ140において、ステップ100で求められた駆動トルク補正量ΔTにより見かけ上減少したエンジン出力を補償するためのエンジン出力補正量ΔTEを次式から算出する。
【0047】
【数
ΔTE=KE×ΔT
ただし、KEは所定の補正係数である。
【0048】
このようにしてエンジン出力補正量ΔTEを算出すると、ステップ400で始まるステップモータ駆動用の定時割り込み処理を許可する。この割り込み処理によりエンジン出力補正量ΔTEに相当するスロットル開度の補正が行われる。
【0049】
このようにしてスロットル開度の補正を行うことにより、制動力の追加等により発生した車両推進力の変化を補正することが可能となり、常に安定した車両加速を実現できる。
【0050】
さらに、また上記第2実施例において、現在の路面状況や車両速度と操舵状態を考慮することにより、これら操舵状態に対して車両が追従可能か否かを判定する追従可能判定処理を行うことができる。
【0051】
この時、操舵状態を検出するため、装置の構成用件として操舵角を検出するステアリングセンサを備える。上記実施例においては、操舵状態を検出するためには、転動輪駆動トルク比Sを用いて検出していた。しかしながら、転動輪駆動トルク比Sを用いて操舵状態を検出する場合は、ステアリングセンサから操舵角を検出することにより操舵状態を検出する場合に比べて検出に時間が掛かるため、追従可能判定処理が充分に行えない可能性が生じる。従って、ここではステアリングセンサから操舵角を検出することにより操舵状態を検出する。
【0052】
以下に追従可能判定処理について図12に示すフローチャートに従って説明する。
ステップ10〜50までの各状態量を求めた後に、ステップ52において旋回時に発生する実際のヨーレイトYRTと目標とするヨーレイトTRPとを比較する。実ヨーレイトYRT、目標ヨーレイトTRPは次式から算出する。
【0053】
【数



【0054】
【数



ただし、ΔVは転動輪速度差(=|VWFR −V WFL|),dはトレッド、Lはホイールベース、θは操舵角、Nはステアリングレシオ、Kは所定の補正係数である。
【0055】
ここでは、ステップ52において実ヨーレイトYRT、目標ヨーレイトTRPの差の絶対値ΔYR(=YRP−YRT)が発散傾向を示す(所定時間毎のΔYRが所定値を上回っている)場合に車両の操舵追従性が限界領域を越えたことを検出する。ステップ52で操舵追従性の限界が検出された場合にはステップ54に進んで評価関数LIMの値が0以上となるような車体速度を達成するためのエンジン出力補正量ΔTEを演算する。
【0056】
このようにしてエンジン出力補正量ΔTEが発生した場合には、ステップ400で始まるステップモータ駆動用の定時割り込み処理を許可する。この割り込み処理によりエンジン出力補正量ΔTEに相当するスロットル開度の補正が行われ、車両がオーバースピードで旋回路に突入した場合などの車両スピン等を事前に防止することができる。
【0057】
なお、本発明の車両用駆動トルク制御装置は、上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限り例えば以下の如く種々変形可能である。
▲1▼.本発明の車両用駆動トルク制御装置は、FR車のみならず、FF車、4輪駆動車に採用することができる。
【0058】
▲2▼.ステップ40における車両の走行状態を検出するために、車両にヨーレイトセンサ、ステアリングセンサ、横Gセンサ等を備え、これらから出力される信号に基づいて検出しても良い。
【0059】
▲3▼.ステップ350にて算出される目標駆動トルク比PTTを車両の操舵特性に合わせて設定しても良い。例えば、アンダーステア傾向の強いFF車、4輪駆動車では、オーバーステア側に設定し、オーバーステア傾向の強いFR車では、アンダーステア側に設定する。
【0060】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の車両用駆動トルク制御装置は、車両の走行状態に応じて、駆動トルクの比をブレーキ系による増減圧制御によって実行するので、いかなる走行状態においても駆動輪に最適な駆動トルクを配分し、操舵追従性を向上させることができる。。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の構成図である。
【図2】第1実施例の作動を示すフローチャートである。
【図3】第1実施例の作動を示すフローチャートである。
【図4】補正係数を求めるためのマップである。
【図5】補正係数を求めるためのマップである。
【図6】補正係数を求めるためのマップである。
【図7】補正係数を求めるためのマップである。
【図8】補正係数を求めるためのマップである。
【図9】補正係数を求めるためのマップである。
【図10】第2実施例の構成図である。
【図11】第2実施例の作動を示すフローチャートである。
【図12】旋回限界判定を考慮した実施例の作動を示すフローチャートである。
【符号の説明】
5 車輪速度センサ
6 車輪速度センサ
7 車輪速度センサ
8 車輪速度センサ
12 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪の速度を検出する駆動輪速度検出手段と、
前記駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクを検出する駆動トルク検出手段と、
前記駆動トルク検出手段によって検出されるそれぞれの駆動輪の駆動トルクに基づいて左右駆動輪に伝達される駆動トルクの比を検出する実トルク比検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段によって検出される車両の走行状態に応じて左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出する目標トルク比算出手段と、
前記車両の駆動輪のそれぞれに構成され、車輪制動力を発生するホイールシリンダと、
各駆動輪におけるそれぞれのホイールシリンダにかかる圧力を各々独立して増減圧保持調整可能なアクチュエータと、
前記実トルク比検出手段によって検出される駆動トルクの比を前記目標トルク比算出手段によって算出される目標比に収束するように、駆動トルクを、前記アクチュエータを用いて前記ホイールシリンダにかかるブレーキ圧力を調整することにより制御する駆動トルク制御手段と、
を備え、前記駆動トルク制御手段は、一方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を増大制御して駆動トルクを減少する場合、他方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を減圧制御して駆動トルクを増大するように駆動トルク補正量を求め、この駆動トルク補正量に基づいて駆動トルク調整を行うとともに、前記駆動輪の実駆動トルク比が駆動輪トルクの目標比よりも大きい場合には旋回内輪のホイールシリンダへの圧力を増大し、旋回外輪のホイールシリンダへの圧力を減少させることを特徴とする車両用駆動トルク制御装置。
【請求項2】
駆動輪の速度を検出する駆動輪速度検出手段と、
前記駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクを検出する駆動トルク検出手段と、
前記駆動トルク検出手段によって検出されるそれぞれの駆動輪の駆動トルクに基づいて左右駆動輪に伝達される駆動トルクの比を検出する実トルク比検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段によって検出される車両の走行状態に応じて左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出する目標トルク比算出手段と、
前記車両の駆動輪のそれぞれに構成され、車輪制動力を発生するホイールシリンダと、
各駆動輪におけるそれぞれのホイールシリンダにかかる圧力を各々独立して増減圧保持調整可能なアクチュエータと、
前記実トルク比検出手段によって検出される駆動トルクの比を前記目標トルク比算出手段によって算出される目標比に収束するように、駆動トルクを、前記アクチュエータを用いて前記ホイールシリンダにかかるブレーキ圧力を調整することにより制御する駆動トルク制御手段と、
を備え、前記駆動トルク制御手段は、一方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を増大制御して駆動トルクを減少する場合、他方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を減圧制御して駆動トルクを増大するように駆動トルク補正量を求め、この駆動トルク補正量に基づいて駆動トルク調整を行うとともに、前記駆動輪の実駆動トルク比が駆動輪トルクの目標比よりも小さい場合、旋回外輪の駆動トルクを小さくするよう圧力を増大し、旋回内輪の駆動トルクを大きくするように圧力を減少させることを特徴とする車両用駆動トルク制御装置。
【請求項3】
駆動輪の速度を検出する駆動輪速度検出手段と、
前記駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクを検出する駆動トルク検出手段と、
前記駆動トルク検出手段によって検出されるそれぞれの駆動輪の駆動トルクに基づいて左右駆動輪に伝達される駆動トルクの比を検出する実トルク比検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段によって検出される車両の走行状態に応じて左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出する目標トルク比算出手段と、
前記車両の駆動輪のそれぞれに構成され、車輪制動力を発生するホイールシリンダと、
各駆動輪におけるそれぞれのホイールシリンダにかかる圧力を各々独立して増減圧保持調整可能なアクチュエータと、
前記実トルク比検出手段によって検出される駆動トルクの比を前記目標トルク比算出手段によって算出される目標比に収束するように、駆動トルクを、前記アクチュエータを用いて前記ホイールシリンダにかかるブレーキ圧力を調整することにより制御する駆動トルク制御手段と、
を備え、前記駆動トルク制御手段は、一方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を増大制御して駆動トルクを減少する場合、他方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を減圧制御して駆動トルクを増大するように駆動トルク補正量を求め、この駆動トルク補正量に基づいて駆動トルク調整を行うとともに、
前記駆動トルク補正量に基づいて、見かけ上減少したエンジン出力を補償するために、エンジン出力調整用のスロットルの開度を補正するスロットル開度補正手段を備えることを特徴とする車両用駆動トルク制御装置。
【請求項4】
駆動輪の速度を検出する駆動輪速度検出手段と、
前記駆動輪速度に基づいてそれぞれの駆動輪の駆動トルクを検出する駆動トルク検出手段と、
前記駆動トルク検出手段によって検出されるそれぞれの駆動輪の駆動トルクに基づいて左右駆動輪に伝達される駆動トルクの比を検出する実トルク比検出手段と、
車両の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段によって検出される車両の走行状態に応じて左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出する目標トルク比算出手段と、
前記車両の駆動輪のそれぞれに構成され、車輪制動力を発生するホイールシリンダと、
各駆動輪におけるそれぞれのホイールシリンダにかかる圧力を各々独立して増減圧保持調整可能なアクチュエータと、
前記実トルク比検出手段によって検出される駆動トルクの比を前記目標トルク比算出手段によって算出される目標比に収束するように、駆動トルクを、前記アクチュエータを用いて前記ホイールシリンダにかかるブレーキ圧力を調整することにより制御する駆動トルク制御手段と、
を備え、前記駆動トルク制御手段は、一方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を増大制御して駆動トルクを減少する場合、他方の駆動輪に対応するホイールシリンダへの圧力を減圧制御して駆動トルクを増大するように駆動トルク補正量を求め、この駆動トルク補正量に基づいて駆動トルク調整を行うとともに、
さらに車両の実ヨーレートと目標ヨーレートとを検出および推定するヨーレート検出・推定手段と、
前記実用−レートと目標ヨーレートとの差が発散傾向を示す場合に前記車両の操舵追従性が限界領域に達したとして、エンジン出力調整用のスロットルの買いどの補正を実行することを特徴とする車両用駆動トルク制御装置。
【請求項5】
前記目標トルク比算出手段は、転動輪の速度を検出する転動輪速度検出手段を備え、前記転動輪速度に基づく見かけ上の駆動トルクを算出し、前記見かけ上の駆動トルクを補正係数により補正することにより左右駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの目標比を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用駆動トルク制御装置。
【請求項6】
前記駆動トルク制御手段は、前記駆動輪の実駆動トルク比が駆動輪トルクの目標比よりも小さい場合、旋回外輪の駆動トルクを小さくするよう圧力を増大し、旋回内輪の駆動トルクを大きくするように圧力を減少させることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動トルク制御装置。
【請求項7】
前記駆動トルク補正量に基づいて、見かけ上減少したエンジン出力を補償するために、エンジン出力調整用のスロットルの開度を補正するスロットル開度補正手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用駆動トルク制御装置。
【請求項8】
車両の実ヨーレートと目標ヨーレートとを検出および推定するヨーレート検出・推定手段と、
前記実用−レートと目標ヨーレートとの差が発散傾向を示す場合に前記車両の操舵追従性が限界領域に達したとして、エンジン出力調整用のスロットルの買いどの補正を実行することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の車両用駆動トルク制御装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【特許番号】特許第3568542号(P3568542)
【登録日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【発行日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−143062
【出願日】平成3年6月14日(1991.6.14)
【公開番号】特開平4−368268
【公開日】平成4年12月21日(1992.12.21)
【審査請求日】平成10年1月30日(1998.1.30)
【審判番号】不服2001−22886(P2001−22886/J1)
【審判請求日】平成13年12月20日(2001.12.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開昭62−94423(JP,A)
【文献】特開平1−103564(JP,A)
【文献】特開昭63−13851(JP,A)