説明

車両駆動制御装置および、車両駆動装置の異常検知方法。

【課題】駆動トルク検知器を用いずに空転と車両駆動装置の異常とを識別可能な車両駆動制御装置を提供する。
【解決手段】一実施形態によれば、車両駆動制御装置は、インバータ10と、制御部11と、を備える。インバータは、車両を駆動するための複数の電動機201に、受電した直流電力を交流電力に変換し当該交流電力を供給する。制御部は、インバータを制御信号CSにより制御する。制御部は、インバータが電力を供給する複数の電動機の回転速度を演算し、何れかの電動機の回転速度が、当該複数の電動機の回転速度から演算された基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させる制御信号を出力し、所定時間後に、当該何れかの電動機の回転速度が基準速度より高い場合に異常信号MSを出力する、電動機回転速度演算部12を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両駆動制御装置および、車両駆動装置の異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電車において、電動機の回転を歯車装置や車軸を介してレール上の車輪に伝達し、これにより車両を駆動する車両駆動装置が用いられている。このような車両では、加速時等に車輪とレールの摩擦力が減少することによって空転が生じることがある。そこで、車両駆動装置を制御する車両駆動制御装置は、車輪の空転を検知すると、車輪をレールに再粘着させるために、電動機の駆動トルクを絞り込むように構成されている。
【0003】
一方、車両駆動装置の歯車装置や車軸等が破断した場合にも、電動機の負荷が急減するため、電動機の回転速度は急上昇し、空転と似た状態になる。車両駆動制御装置は、このような破断と空転とを識別できず、破断した場合にも電動機の駆動トルクを絞り込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のように破断時に駆動トルクを絞り込んでも電動機は動作し続けるので、歯車装置等にダメージを与える恐れがある。
【0006】
このとき、駆動トルク検知器を用いることでこのような破断と空転とを識別できるが、通常動作に必要ない駆動トルク検知器を一般的な電車用車両駆動装置に設けることは部品点数・コストの増加につながってしまう。
【0007】
本発明の目的は、駆動トルク検知器を用いずに空転と車両駆動装置の異常とを識別することが可能な車両駆動制御装置および、車両駆動装置の異常検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によれば、車両駆動制御装置は、インバータと、制御部と、を備える。インバータは、車両を駆動するための複数の電動機に、受電した直流電力を交流電力に変換し当該交流電力を供給する。制御部は、インバータを制御信号により制御する。制御部は、インバータが電力を供給する複数の電動機の回転速度を演算し、何れかの電動機の回転速度が、当該複数の電動機の回転速度から演算された基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させる制御信号を出力し、所定時間後に、当該何れかの電動機の回転速度が基準速度より高い場合に異常信号を出力する、電動機回転速度演算部を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る車両駆動制御装置の概略的な構成を示す構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る車両駆動装置の概略的な構成を示す構成図である。
【図3】第1の実施形態に係る車両駆動装置の故障時及び空転時の電動機回転速度の変化を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る車両駆動制御装置による車両駆動装置の異常検知動作を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係る車両駆動制御装置の概略的な構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両駆動制御装置100の概略的な構成を示す構成図である。図1に示すように、車両駆動制御装置100は、インバータ10と、制御部11と、を備える。制御部11は電動機回転速度演算部12を有する。
【0012】
車両駆動制御装置100のインバータ10は、受電部101と、4つの電動機201−1〜201−4と、に電気的に接続されている。各電動機201−1〜201−4は、対応する回転速度検出器202−1〜202−4に接続されている。4つの回転速度検出器202−1〜202−4からの回転速度データは、制御部11の電動機回転速度演算部12に供給されている。
【0013】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る車両駆動装置200の概略的な構成を示す構成図である。図2に示すように、車両駆動装置200は、車両駆動部210−1,210−4を備える。車両駆動装置200は、図1に示した4つの電動機201−1〜201−4に対応した4組の車両駆動部210−1〜210−4を有するが、各車両駆動部210−1〜210−4は同一の構成を有しているため、ここでは2組のみを図示し、他の2組については図示及び説明を省略する。この車両駆動装置200は、例えば、電車の1両の車両に設けられている。
【0014】
車両駆動部210−1は、電動機201−1と、回転速度検知器202−1と、継手203−1と、歯車装置204−1と、車軸205−1と、2つの車輪206−1,206−1と、を有する。同様に、車両駆動部210−4は、電動機201−4と、回転速度検知器202−4と、継手203−4と、歯車装置204−4と、車軸205−4と、2つの車輪206−4,206−4と、を有する。
【0015】
車両駆動部210−1において、電動機201−1の回転軸は、継手203−1を介して歯車装置204−1の入力軸に機械的に連結されている。歯車装置204−1の出力軸は、車軸205−1を介して2つの車輪206−1,206−1に機械的に連結されている。車両駆動部210−4についても同様に連結されているため、説明は省略する。
【0016】
[作用]
次に、本実施形態による作用について説明する。
【0017】
車両駆動装置200は、4つの電動機201−1〜201−4により車両を駆動する。車両駆動部210−1では、電動機201−1が回転動作すると、その回転は継手203−1を介して歯車装置204−1に加えられる。歯車装置204−1は、加えられた回転を複数の歯車によって車軸205−1に伝達し、車軸205−1の回転によって2つの車輪206−1,206−1を回転させる。他の車両駆動部についても同様に動作する。つまり、各電動機201−1〜201−4の回転は、対応する車輪206−1〜206−4に伝達される。
【0018】
車両駆動制御装置100は、以下に説明するように、車両駆動装置200を制御する。
【0019】
架線等からパンタグラフにより受電された交流電力がインバータ(図示せず)によって一旦直流電力に変換され、受電部101は、その変換された直流電力を受電する。あるいは、受電部101は、架線等からパンタグラフにより受電された直流電力を受電してもよい。
【0020】
インバータ10は、受電部101で受電した直流電力を制御信号CSに応じて交流電力(パルス幅制御された可変電圧・可変周波数の3相の交流電圧Vu,Vv,Vw)に変換する。そして、インバータ10は、当該交流電力を複数の電動機201−1〜201−4に供給する。
【0021】
各電動機201−1〜201−4は、供給された交流電力によって回転動作する。
【0022】
各回転速度検出器202−1〜202−4は、対応する電動機201−1〜201−4の回転速度を検出して、検出された回転速度データを電動機回転速度演算部12に供給する。
【0023】
制御部11は、制御信号CSを生成して、この制御信号CSによりインバータ10を制御する。例えば、制御部11は、外部から入力された運転指令信号等(図示せず)に応じて、車両が加速するよう制御信号CSを生成する。
【0024】
電動機回転速度演算部12は、供給された4つの回転速度データを用いて、4つの電動機201−1〜201−4の回転速度を演算する。そして、電動機回転速度演算部12は、当該4つの電動機201−1〜201−4の回転速度から基準速度を演算する。基準速度の演算方法は、既知の様々な方法を用いることができる。例えば、4つの電動機201−1〜201−4の回転速度のうち、2番目および3番目に高い回転速度の平均を基準速度としてもよい。
【0025】
さらに、電動機回転速度演算部12は、何れかの電動機が空転すると空転した車輪の回転速度は基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなり空転を検知し、当該電動機のトルクを低下させるよう制御部11に制御信号CSを出力させる。空転検知速度差は、例えば、基準速度に比例してもよい。その上で、電動機回転速度演算部12は、その所定時間後に、当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高い場合に異常信号MSを出力する。この所定時間は、実験やシミュレーション等によって決定すればよい。
【0026】
インバータ10は、電動機回転速度演算部12から異常信号MSが出力されると、電動機201−1〜201−4への交流電力の供給を停止する。
【0027】
車両駆動制御装置100の具体的な動作の一例について、図3を参照して以下に説明する。
【0028】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る車両駆動装置200の異常時及び空転時の電動機201−1の回転速度の変化を示す図である。図3(a)は、車両駆動装置200の異常時を示し、図3(b)は、車両駆動装置200の車輪206−1の空転時を示す。
【0029】
図3(a)の例では、電動機201−1の回転速度が時間と共に増加している時(即ち、車両の加速時)、時刻Aにおいて、車両駆動装置200の車軸205−1等に破断が発生している。つまり、電動機201−1の回転軸と、車輪206−1との機械的接続が切断されて、電動機201−1の負荷が減少している。このため、図示するように、電動機201−1の回転速度は急上昇する。よって、電動機回転速度演算部12は、電動機201−1の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、空転を検知して、電動機201−1の回転速度を低下させるよう、即ちそのトルクを絞り込むよう、制御部11に制御信号CSを出力させる(時刻B)。
【0030】
しかし、図3(a)の例では、電動機201−1の負荷が減少しているため、電動機201−1のすべりは電動機201−2〜201−4のすべりよりも小さくなるので、トルクが絞り込まれてもすべり差分だけ基準速度よりも回転速度が高い状態が維持される。即ち、電動機201−1の回転速度は高いままである。よって、電動機回転速度演算部12は、時刻Bから所定時間後の時刻Dに、電動機201−1の回転速度がその時点の基準速度より高いため、異常信号MSを出力する。
【0031】
これに対して、図3(b)に示すように、車輪206−1の空転時においては、時刻Aに空転が発生して電動機201−1の回転速度は急上昇する。よって、図3(a)と同様に、電動機回転速度演算部12は、電動機201−1の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、空転を検知して、電動機201−1のトルクを低下させるよう制御部11に制御信号CSを出力させる(時刻B)。
【0032】
その後、図3(a)の例とは異なり、電動機201−1のトルクが低下するので、時刻Cにおいて車輪206−1がレールに再粘着する。よって、その後、時刻Dに達する前に、電動機201−1の回転速度が低下して基準速度に復帰する。
【0033】
よって、電動機回転速度演算部12は、時刻Bから所定時間後の時刻Dに、電動機201−1の回転速度がその時点の基準速度より高くないため、異常信号を出力しない。
【0034】
なお、本実施形態では、1つのインバータ10が4つの電動機201−1〜201−4を制御する。即ち、各電動機201−1〜201−4を独立して制御できない。そのため、時刻A以降、トルクが絞り込まれる時刻Bまでは、基準速度は時刻Aまでとほぼ同じ増加率で増加するが、時刻B以降では、他の3つの電動機201−2〜201−4の回転速度(図示せず)の増加率も低下するので、図示するように基準速度の増加率も低下するようになる。
【0035】
図4は、本発明の第1の実施形態に係る車両駆動制御装置100による車両駆動装置200の異常検知動作を示すフローチャートである。
【0036】
まず、電動機回転速度演算部12により、何れかの電動機の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなったか否か判定する(ステップS11)。何れかの電動機の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなっていない場合(ステップS11;No)、ステップS11の判定に戻る。
【0037】
何れかの電動機の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった場合(ステップS11;Yes)、トルクを絞り込む(ステップS12)。即ち、当該電動機の回転速度を低下させるよう制御部11に制御信号CSを出力させる。
【0038】
次に、電動機回転速度演算部12により、ステップS12の処理から所定時間後に、当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高いか否か判定する(ステップS13)。当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高い場合(ステップS13;Yes)、電動機回転速度演算部12により異常信号MSを出力することで、異常を検知する(ステップS14)。異常信号MSを受けたインバータ10は、電動機201−1〜201−4への交流電力の供給を停止する。前述のように、このような場合として、車軸等が破断していた場合がある。
【0039】
一方、当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高くない場合(ステップS13;No)、通常制御に復帰する(ステップS15)。前述のように、このような場合として、車輪が空転していた場合がある。引き続き異常検知を行う場合には、ステップS1に戻る。
【0040】
[効果]
以上で説明したように、本実施形態によれば、何れかの電動機の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させるよう制御部11に制御信号CSを出力させるようにしている。そして、その所定時間後に、当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高い場合に異常信号MSを出力するようにしている。これにより、空転が生じていた場合には、所定時間後に車輪が再粘着することで当該電動機の回転速度は基準速度に復帰するため、異常信号MSは出力されない。一方、車両駆動装置200に車軸等の破断による異常が発生した場合には、当該電動機の負荷が減少しすべりが小さいため、上記所定時間後に当該電動機の回転速度は基準速度より高くなっている。そのため、異常信号MSを出力する。よって、トルク検知器を用いずに空転と車両駆動装置200の異常とを識別できる。また、異常信号MSに応じて電動機201−1〜201−4を動作しないようにできるため、歯車装置等にダメージを与える恐れがなくなると共に、発火等の恐れもなくなる。
【0041】
(第2の実施形態)
本実施形態は、電動機毎にインバータ及び制御部を備える点が、第1の実施形態と異なる。
【0042】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る車両駆動制御装置100aの概略的な構成を示す構成図である。図5に示すように、車両駆動制御装置100aは、インバータ10−1〜10−4と、制御部11−1〜11−4と、を備える。制御部11−1は電動機回転速度演算部12−1を有し、制御部11−2は電動機回転速度演算部12−2を有する。制御部11−3は電動機回転速度演算部12−3を有し、制御部11−4は電動機回転速度演算部12−4を有する。
【0043】
車両駆動制御装置100aの各インバータ10−1〜10−4は、受電部101と、対応する電動機201−1〜201−4と、に電気的に接続されている。各電動機201−1〜201−4は、対応する回転速度検出器202−1〜202−4に接続されている。各回転速度検出器202−1〜202−4からの回転速度データは、対応する制御部11−1〜11−4の電動機回転速度演算部12−1〜12−4に供給されている。
【0044】
車両駆動制御装置100aは、第1の実施形態と同様に、図2の車両駆動装置200を制御する。
【0045】
[作用]
次に、本実施形態による作用について説明する。
【0046】
受電部101は、第1の実施形態と同様に、直流電力を受電する。
【0047】
インバータ10−1は、受電部101で受電した直流電力を制御信号CS1に応じて交流電力(交流電圧Vu1,Vv1,Vw1)に変換し、当該交流電力を電動機201−1に供給する。電動機201−1は、供給された交流電力によって回転動作する。回転速度検出器202−1は、電動機201−1の回転速度を検出して、検出された回転速度データを電動機回転速度演算部12−1に供給する。制御部11−1は、生成した制御信号CS1によりインバータ10−1を制御する。
【0048】
電動機回転速度演算部12−1は、電動機201−1の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、空転を検知し、当該電動機201−1の回転速度を低下させるよう制御部11−1に制御信号CS1を出力させる。その上で、電動機回転速度演算部12−1は、その所定時間後に、当該電動機201−1の回転速度がその時点の基準速度より高い場合に異常信号MS1を出力する。インバータ10−1は、電動機回転速度演算部12−1から異常信号MS1が出力されると、電動機201−1への交流電力の供給を停止する。
【0049】
他のインバータ10−2、制御部11−2、電動機回転速度演算部12−2、電動機201−2及び回転速度検出器202−2の組と、インバータ10−3、制御部11−3、電動機回転速度演算部12−3、電動機201−3及び回転速度検出器202−3の組と、インバータ10−4、制御部11−4、電動機回転速度演算部12−4、電動機201−4及び回転速度検出器202−4の組と、についても同様に動作する。
【0050】
また、電動機回転速度演算部12−1〜12−4は、演算された回転速度等を互いに通信可能に構成されている。そして、例えば、電動機回転速度演算部12−1は、通信によって得られた4つの電動機201−1〜201−4の回転速度から基準速度を演算する。基準速度の演算方法は、第1の実施形態と同様である。演算された基準速度も、電動機回転速度演算部12−1〜12−4により互いに通信される。他の電動機回転速度演算部12−2〜12−4の何れかが基準速度を演算してもよい。また、図示しない基準速度演算部を設けて、この基準速度演算部が基準速度を演算するように構成してもよい。
【0051】
以上で説明した作用をまとめると、次のようになる。
【0052】
インバータ10−1〜10−4は、それぞれ、受電部101で受電した直流電力を対応する制御信号CS1〜CS4に応じて交流電力(3相の交流電圧Vu1〜Vu4,Vv1〜Vv4,Vw1〜Vw4)に変換する。そして、インバータ10−1〜10−4は、それぞれ、当該交流電力を対応する電動機201−1〜201−4に供給する。
【0053】
各電動機201−1〜201−4は、供給された交流電力によって回転動作する。
【0054】
各回転速度検出器202−1〜201−4は、対応する電動機201−1〜201−4の回転速度を検出して、検出された回転速度データを対応する電動機回転速度演算部12−1〜12−4に供給する。
【0055】
制御部11−1〜11−4は、それぞれ、対応する制御信号CS1〜CS4を生成して、この制御信号CS1〜CS4により対応するインバータ10−1〜10−4を制御する。例えば、各制御部11−1〜11−4は、外部から入力された運転指令信号等(図示せず)に応じて、車両が加速するよう対応する制御信号CS1〜CS4を生成する。
【0056】
各電動機回転速度演算部12−1〜12−4は、供給された対応する回転速度データを用いて、対応する電動機201−1〜201−4の回転速度を演算する。
【0057】
さらに、各電動機回転速度演算部12−1〜12−4は、対応する電動機201−1〜201−4の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、空転を検知し、当該対応する電動機の回転速度を低下させるよう対応する制御部11−1〜11−4に制御信号CS1〜CS4を出力させる。その上で、各電動機回転速度演算部12−1〜12−4は、その所定時間後に、当該対応する電動機の回転速度がその時点の基準速度より高い場合に異常信号MS1〜MS4を出力する。
【0058】
各インバータ10−1〜10−4は、対応する電動機回転速度演算部12−1〜12−4から異常信号MS1〜MS4が出力されると、対応する電動機201−1〜201−4への交流電力の供給を停止する。
【0059】
本実施形態によっても、車両駆動制御装置100aは、図3及び図4を参照して説明した第1の実施形態と同様に動作する。なお、本実施形態では、各インバータ10−1〜10−4が対応する電動機201−1〜201−4を制御する。即ち、各電動機201−1〜201−4は独立して制御可能である。従って、図3とは異なり、トルクが絞り込まれる時刻B以降も、時刻Aまでとほぼ同じ増加率で基準速度は増加する。
【0060】
[効果]
以上で説明したように、本実施形態によれば、何れかの電動機の回転速度が基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させるようにしている。そして、その所定時間後に、当該電動機の回転速度がその時点の基準速度より高い場合に対応する異常信号を出力するようにしている。これにより、空転が生じていた場合には、所定時間後に車輪が再粘着することで当該電動機の回転速度は基準速度に復帰するため、異常信号MS1〜MS4は出力されない。一方、車両駆動装置200に車軸等の破断による異常が発生した場合には、当該電動機の負荷が減少しすべりが小さいため、上記所定時間後に、当該電動機の回転速度は基準速度より高くなっている。そのため、当該電動機に対応する異常信号を出力する。よって、トルク検知器を用いずに空転と車両駆動装置200の異常とを識別できる。また、異常信号MS1〜MS4に応じて対応する電動機を動作しないようにできるため、歯車装置等にダメージを与える恐れがなくなると共に、発火等の恐れもなくなる。
【0061】
このように、以上で説明した実施形態によれば、駆動トルク検知器を用いずに空転と車両駆動装置の異常とを識別できる。
【0062】
(変形例)
上述した各実施形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。
【0063】
例えば、回転速度検出器202−1〜202−4を用いずに、電動機回転速度演算部12,12−1〜12−4は、電動機201−1〜201−4に供給される交流電圧から電動機201−1〜201−4の回転速度を演算してもよい。
【0064】
また、以上の実施形態では、1両の車両が有する車両駆動装置200は、4組の車両駆動部210−1〜210−4を有する一例について説明したが、これに限られない。例えば、6組等、複数組の車両駆動部を有してもよい。このような場合においても、第1の実施形態においては、インバータ10が交流電力を複数の電動機に供給すると共に、電動機回転速度演算部12が複数の電動機の回転速度を演算するようにして、以上の説明と同様に動作可能である。また、第2の実施形態においても、車両駆動制御装置100aが電動機の数と同数の複数の制御部及び複数のインバータを有するようにして、以上の説明と同様に動作可能である。
【0065】
これらの変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0066】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
10,10−1〜10−4 インバータ
11,11−1〜11−4 制御部
12,12−1〜12−4 電動機回転速度演算部
100,100a 車両駆動制御装置
101 受電部
200 車両駆動装置
201−1〜201−4 電動機
202−1〜202−4 回転速度検出器
203−1,203−4 継手
204−1,204−4 歯車装置
205−1,205−4 車軸
206−1,206−4 車輪
210−1,210−4 車両駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するための複数の電動機に、受電した直流電力を交流電力に変換し当該交流電力を供給するインバータと、
前記インバータを、制御信号により制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記インバータが電力を供給する複数の電動機の回転速度を演算し、何れかの電動機の回転速度が、当該複数の電動機の回転速度から演算された基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させる前記制御信号を出力し、所定時間後に、当該何れかの電動機の回転速度が前記基準速度より高い場合に異常信号を出力する、電動機回転速度演算部を有する車両駆動制御装置。
【請求項2】
前記インバータは、前記電動機回転速度演算部から前記異常信号が出力されると、前記複数の電動機への前記交流電力の供給を停止する請求項1に記載の車両駆動制御装置。
【請求項3】
車両を駆動するための複数の電動機に、受電した直流電力を交流電力に変換し当該交流電力を供給する複数のインバータと、
前記インバータを、制御信号により制御する複数の制御部と、を備え、
前記複数の制御部はそれぞれ、対応する電動機の回転速度を演算し、当該対応する電動機の回転速度が、前記複数の電動機の回転速度から演算された基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該対応する電動機のトルクを低下させるよう対応する制御部に前記制御信号を出力させ、所定時間後に、当該対応する電動機の回転速度が前記基準速度より高い場合に異常信号を出力する、電動機回転速度演算部を有する車両駆動制御装置。
【請求項4】
前記複数のインバータはそれぞれ、対応する電動機回転速度演算部から前記異常信号が出力されると、対応する電動機への前記交流電力の供給を停止する請求項3に記載の車両駆動制御装置。
【請求項5】
複数の電動機により車両を駆動する車両駆動装置の異常検知方法であって、
前記複数の電動機のうち何れかの電動機の回転速度が、当該複数の電動機の回転速度から演算された基準速度よりも空転検知速度差だけ高くなった時、当該電動機のトルクを低下させ、所定時間後に、当該何れかの電動機の回転速度が前記基準速度より高い場合に異常信号を出力する車両駆動装置の異常検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−51817(P2013−51817A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188290(P2011−188290)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】