説明

車載カメラ姿勢検出装置および方法

【課題】カメラの姿勢を正確に検出することができる車載カメラ姿勢検出装置および方法を提供すること。
【解決手段】カメラ10で撮影されたキャリブレーションシート200の画像を移動前画像として格納する移動前画像格納部20と、移動前画像に基づいてカメラ10の姿勢を推定する移動前カメラ姿勢推定部24と、車両を所定距離移動させた後に撮影したキャリブレーションシートの画像を移動後画像として格納する移動後画像格納部22と、移動後画像に基づいてカメラ10の姿勢を推定する移動後カメラ姿勢推定部26と、2つの推定結果に基づいてキャリブレーションシートのずれ量を算出するずれ量算出部32と、カメラ10の姿勢推定値とキャリブレーションシートのずれ量に基づいてカメラ10の姿勢を決定するカメラ姿勢決定部34とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて周辺画像を撮影するカメラの取り付け角度等を検出する車載カメラ姿勢検出装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたカメラで撮影した画像に基づいてこの画像に含まれる被写体の位置や大きさを正確に検出する場合や、複数のカメラで隣接した領域を撮影し、得られた画像を領域が連続するように合成する場合などでは、カメラの正確な設置位置および角度を知る必要がある。
【0003】
一般に、カメラの設置位置や角度は、カメラを含むシステム全体を設計する際にあらかじめ決められることが多いが、実際には取り付け誤差が含まれるため、取り付け後にキャリブレーションを行って正確な設置位置や角度を検出することが行われている。例えば、従来から、車両近傍の所定位置に、複数の校正指標が含まれるキャリブレーションパターンが印刷されたキャリブレーションシートを配置し、このキャリブレーションシートをカメラで撮影した結果得られた画像を用いてカメラの設置位置や角度を検出するようにしたカメラ取り付け角度算出方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−183265号公報(第2−11頁、図1−23)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来手法では、キャリブレーションシートが所定位置に正確に配置されることが前提となっており、キャリブレーションシートの設置位置にずれがあると、カメラの姿勢(位置および角度)を正確に検出することができないという問題があった。例えば、車両後方であって、設置位置がリアバンパーの端部に接するようにキャリブレーションシートを配置し、これを車両後方に設置されたカメラで撮影するものとする。このようにキャリブレーションシートの位置が指定された場合であっても、リアバンパーは地面から離れた位置にあるため、その端部にキャリブレーションシートの位置を合わせることは難しい。キャリブレーションの左右位置についても同様であり、車両の中心とキャリブレーションシートの中心を正確に合わせることも容易ではない。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、カメラの姿勢を正確に検出することができる車載カメラ姿勢検出装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の車載カメラ姿勢検出装置は、車両に搭載されたカメラで車両周辺に配置されたキャリブレーションシートに含まれる複数の校正指標を撮影し、得られた画像に基づいてカメラの姿勢を検出する車載カメラ姿勢検出装置であって、カメラで撮影されたキャリブレーションシートの画像を移動前画像として格納する移動前画像格納手段と、移動前画像格納手段に格納された移動前画像に基づいてカメラの姿勢を推定する第1の姿勢推定手段と、車両を所定距離移動させた後にカメラで撮影されたキャリブレーションシートの画像を移動後画像として格納する移動後画像格納手段と、移動後画像格納手段に格納された移動後画像に基づいてカメラの姿勢を推定する第2の姿勢推定手段と、第1および第2の姿勢推定手段による推定結果に基づいてキャリブレーションシートの所定位置からのずれ量を算出するシートずれ量算出手段と、第1および第2の姿勢推定手段の少なくとも一方によって推定された姿勢推定値と、シートずれ量算出手段によって算出されたずれ量とに基づいて、カメラの姿勢を決定するカメラ姿勢決定手段とを備えている。
【0008】
また、本発明の車載カメラ姿勢検出方法は、車両に搭載されたカメラで車両周辺に配置されたキャリブレーションシートに含まれる複数の校正指標を撮影し、得られた画像に基づいてカメラの姿勢を検出する車載カメラ姿勢検出方法であって、カメラで撮影されたキャリブレーションシートの画像に基づいてカメラの姿勢を第1の姿勢推定手段によって推定し、車両を所定距離移動させた後にカメラで撮影されたキャリブレーションシートの画像に基づいてカメラの姿勢を第2の姿勢推定手段によって推定し、第1および第2の姿勢推定手段による推定結果に基づいてキャリブレーションシートの所定位置からのずれ量をシートずれ量算出手段によって算出し、第1および第2の姿勢推定手段の少なくとも一方によって推定された姿勢推定値と、シートずれ量算出手段によって算出されたずれ量とに基づいて、カメラの姿勢をカメラ姿勢決定手段によって決定する。
【0009】
車両を移動させる前後の画像に基づいてキャリブレーションシートの所定位置(設計位置)からのずれ量を算出しているため、このキャリブレーションシートのずれによる影響を取り除くことができ、カメラの姿勢を正確に検出することが可能となる。
【0010】
また、上述した車両を移動させる所定距離は、第1および第2の姿勢推定手段によって得られた姿勢推定値に基づいて算出することが望ましい。これにより、車両の移動距離を正確に把握することが可能となり、移動後画像に基づくカメラ姿勢推定の誤差を低減することが可能となる。
【0011】
また、上述したシートずれ量算出手段は、カメラが設計位置に設置されている場合を想定し、カメラの設計位置と、第1および第2の姿勢推定手段による推定結果と、キャリブレーションシートの所定位置からのずれ量との関係に基づいて、ずれ量の算出を行うことが望ましい。この関係において、カメラの設計位置と姿勢推定値が既知の値となるため、残りのずれ量を計算で求めることが可能となる。
【0012】
また、上述したカメラ姿勢決定手段は、第1および第2の姿勢推定手段によって推定されたカメラ角度と、実際のカメラ角度と、シートずれ量算出手段によって算出されたキャリブレーションシートの回転方向のずれ量との関係に基づいて、実際のカメラ角度を決定することが望ましい。この関係において、推定されたカメラ角度とキャリブレーションシートの回転方向のずれ量とが既知の値となるため、残りの実際のカメラ角度を計算で求めることが可能となる。
【0013】
また、上述したカメラ姿勢決定手段は、第1の姿勢推定手段によって推定された姿勢推定値を用いてカメラの姿勢を決定することが望ましい。車両に近い位置に配置されたキャリブレーションシートを用いて推定された値を用いることにより、カメラの姿勢を決定する際の誤差を少なくすることができる。
【0014】
また、上述した車両の移動は直線状に行われることが望ましい。これにより、移動の前後でキャリブレーションシートを撮影した際に、キャリブレーションシートの回転方向のずれを一定にすることができ、算出するパラメータの数を減らすことができるため、処理の簡略化が可能となる。
【0015】
また、上述した車両の所定距離の移動の有無を確認可能な確認用画像を表示装置に表示する表示処理手段をさらに備えることが望ましい。これにより、車両の運転者は確認用画像を見ながら車両を移動させることができるため、車両を所定距離だけ移動させることが容易となる。
【0016】
また、上述した確認用画像には、車両の移動とともに確認用画像内で移動する目印マークと確認用画像内で表示位置が固定された補助線とが含まれており、車両の所定距離の移動が終了するタイミングで、目印マークが補助線を超えるように表示が行われることが望ましい。あるいは、上述したカメラによって撮影された画像に基づいて、車両の所定距離の移動が終了したか否かを判定し、移動が終了したときに所定の通知を行う移動終了判定手段をさらに備えることが望ましい。これにより、車両を所定距離移動させたことを確実に車両の運転者に知らせることができ、車両の移動距離が必要以上に長くなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態の車載カメラ姿勢検出装置の構成を示す図である。
【図2】カメラの具体的な設置例を示す図である。
【図3】キャリブレーションシートの具体例を示す図である。
【図4】カメラの姿勢を決定する概略的な動作手順を示す流れ図である。
【図5】3つのずれ量の関係を示す図である。
【図6】移動前カメラ姿勢推定部の詳細構成を示す図である。
【図7】座標変換の説明図である。
【図8】車両を所定距離移動させた際に通知を行う変形例の動作手順を示す流れ図である。
【図9】車両移動の前後で表示される確認用画像の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態の車載カメラ姿勢検出装置について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、一実施形態の車載カメラ姿勢検出装置の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の車載カメラ姿勢検出装置100は、カメラ10、画像取込部12、画像メモリ14、移動前画像格納部20、移動後画像格納部22、移動前カメラ姿勢推定部24、移動後カメラ姿勢推定部26、移動距離算出部30、ずれ量算出部32、カメラ姿勢決定部34、表示装置40、表示処理部42、補助線作成部44、移動終了判定部46、操作部50を含んで構成されている。なお、この車載カメラ姿勢検出装置100によって検出されるカメラ姿勢は、カメラを用いた他の装置においてその検出結果を用いるためのものであり、車載カメラ姿勢検出装置100の構成を他の装置に含ませるようにしてもよい。
【0020】
カメラ10は、車両後方の所定位置に所定の角度で取り付けられ、魚眼レンズや広角レンズを通して車両後方を撮影する。図2は、カメラ10の具体的な設置例を示す図である。図2に示す例では、カメラ10は、リアバンパーの中央に、水平から下向きに30°の角度で取り付けられている。本実施形態では、このカメラ10の撮影範囲に含まれるように、車両後方の地面上にキャリブレーションシート200が配置されている。
【0021】
図3は、キャリブレーションシート200の具体例を示す図である。図3に示すキャリブレーションシート200は、校正指標(キャリブレーションマーク)としての12個の小黒丸210、6個の大白丸220を含んでいる。大白丸220は、車両側から見て2列に、各列に3個が含まれるように配置されている。また、車両から遠い側の列を構成する3個の大白丸220のそれぞれには、2行2列に配置された4個の小黒丸210が含まれている。これらの小黒丸210や大白丸220は、撮影により取り込まれた画像に基づいて識別され、それぞれの中心(円心)座標が求められて各種の演算に用いられる。
【0022】
画像取込部12は、カメラ10によって車両後方を撮影した画像を取り込む。この取り込んだ画像は、画像メモリ14に一旦格納される。本実施形態では、キャリブレーションシート200を車両後方の所定位置に配置した状態でカメラ10で車両移動前の1回目の撮影を行い、次に、所定距離だけ車両を前進させた後にカメラ10で車両移動後の2回目の撮影を行う。
【0023】
移動前画像格納部20は、車両の移動前に取り込んで画像メモリ14に格納された画像を読み出して移動前画像として格納する。また、移動後画像格納部22は、車両の移動後に取り込んで画像メモリ14に格納された画像を読み出して移動後画像として格納する。
【0024】
移動前カメラ姿勢推定部24は、移動前画像格納部20に格納された移動前画像に基づいて、キャリブレーションシート200内の校正指標の位置を基準にしてカメラ10の姿勢を推定する。姿勢の推定値として、カメラ位置x1,y1,z1とカメラ角度rv1,rh1,rr1が得られる。ここで、x1はX座標値、y1はY座標値、z1はZ座標値、rv1はピッチ角、rh1はヨー角、rr1はロール角である。また、キャリブレーションシート200が配置された地面と平行な面に沿って、互いに直交するX方向とY方向が設定され、地面と垂直な向きにZ方向が設定されている。
【0025】
移動後カメラ姿勢推定部26は、移動後画像格納部22に格納された移動後画像に基づいて、キャリブレーションシート200内の校正指標の位置を基準にしてカメラ10の姿勢を推定する。姿勢の推定値として、カメラ位置x2,y2,z2とカメラ角度rv2,rh2,rr2が得られる。x2等の意味は、x1等の意味と同じである。
【0026】
移動距離算出部30は、移動前カメラ姿勢推定部24によって得られた姿勢の推定値と移動後カメラ姿勢推定部26によって得られた姿勢の推定値とに基づいて、実際に車両が移動した距離dを算出する。
【0027】
ずれ量算出部32は、移動前カメラ姿勢推定部24によって得られた姿勢の推定値と移動後カメラ姿勢推定部26によって得られた姿勢の推定値とに基づいて、キャリブレーションシート200の正規位置(製品設計時に想定した理想的な設計位置)からのずれ量を算出する。
【0028】
カメラ姿勢決定部34は、移動前カメラ姿勢推定部24および移動後カメラ姿勢推定部26の少なくとも一方によって得られた推定値と、ずれ量算出部32によって算出されたずれ量とに基づいて、カメラ10の姿勢を決定する。
【0029】
表示処理部42は、車両を移動させる際に、カメラ10で撮影された画像を表示装置40に表示する。補助線作成部44は、車両を移動させる際の距離の目安となる補助線を作成する。この補助線は、表示処理部42によって撮影画像に重ねられて表示される。移動終了判定部46は、車両を所定距離移動させる際に移動の終了判定を行う。
【0030】
操作部50は、利用者の操作指示を受け付けるためのものであり、各種のキーを備えている。例えば、画像取込部12による2回の画像の取り込みは、利用者が操作部50を操作して行った取込指示に対応して行われる。
【0031】
上述した移動前画像格納部20が移動前画像格納手段に、移動後画像格納部22が移動後画像格納手段に、移動前カメラ姿勢推定部24が第1の姿勢推定手段に、移動後カメラ姿勢推定部26が第2の姿勢推定手段に、ずれ量算出部32がシートずれ量算出手段に、カメラ姿勢決定部34がカメラ姿勢決定手段に、表示処理部42が表示処理手段に、移動終了判定部46が移動終了判定手段にそれぞれ対応する。
【0032】
本実施形態の車載カメラ姿勢検出装置100はこのような構成を有しており、次に、カメラ10によってキャリブレーションシート200を撮影して最終的にカメラ10の姿勢を決定するまでの動作について説明する。
【0033】
図4は、カメラ10の姿勢を決定する概略的な動作手順を示す流れ図である。まず、車両後方の所定位置にキャリブレーションシート200を配置した状態で、カメラ10による1回目の撮影が行われる(ステップ100)。例えば、利用者が操作部50を操作して1回目の取込指示を行う。画像取込部12は、この取込指示に応じてカメラ10で撮影された画像を取り込み、画像メモリ14に格納する。また、移動前画像格納部20は、画像メモリ14から画像を読み出して移動前画像として格納する。
【0034】
また、移動前カメラ姿勢推定部24は、移動前画像格納部20から移動前画像を読み出し、カメラ10の姿勢を推定する(ステップ102)。これにより、カメラ10の姿勢の推定値として、カメラ位置x1,y1,z1とカメラ角度rv1,rh1,rr1が得られる。
【0035】
次に、車両を所定距離だけ移動させる(ステップ104)。この車両の移動は、車両を直線状に所定距離前進させることにより行われる。所定距離としては、想定している理想値(例えば20cm)があるが、その近傍であれば理想値から多少ずれていても特に問題はない。
【0036】
次に、カメラ10による2回目の撮影が行われる(ステップ106)。例えば、利用者が操作部50を操作して2回目の取込指示を行う。画像取込部12は、この取込指示に応じてカメラ10で撮影された画像を取り込み、画像メモリ14に格納する。また、移動後画像格納部22は、画像メモリ14から画像を読み出して移動後画像として格納する。
【0037】
また、移動後カメラ姿勢推定部26は、移動後画像格納部22から移動後画像を読み出し、カメラ10の姿勢を推定する(ステップ108)。これにより、カメラ10の姿勢の推定値として、カメラ位置x2,y2,z2とカメラ角度rv2,rh2,rr2が得られる。
【0038】
次に、移動距離算出部30は、ステップ102、108の推定動作によって得られた2つのカメラ位置に基づいて車両の移動距離dを算出する(ステップ110)。具体的には、移動距離算出部30は、1回目の推定結果であるカメラ位置x1,y1と2回目の推定結果であるカメラ位置x2,y2を用いて、距離dを以下の式により算出する。
【0039】
d=√((x1−x2)2+(y1−y2)2) …(1)
次に、ずれ量算出部32は、キャリブレーションシート200の設計位置からのずれ量X,Y,Rを算出する(ステップ112)。ここで、XはX方向のずれ量、YはY方向のずれ量、Rは回転方向のずれ量である。図5は、3つのずれ量X,Y,Rの関係を示す図である。図5において、Aは設計位置に配置されたキャリブレーションシート200内の一点を示しており、Bは実際に配置されたキャリブレーションシート200内の対応点を示している。
【0040】
車両を移動させる前にキャリブレーションシート200を設計位置に配置したと仮定したときに得られるカメラ10の位置(この位置を「移動前の設計位置」と称する)をx,yとする。なお、z方向の位置はキャリブレーションシート200のずれに関係なく一定であるため、説明を省略する。車両移動前に推定されたカメラ10の位置x1,y1と移動前の設計位置x,yとの間には、
【0041】
【数1】

【0042】
の関係がある。
【0043】
同様に、車両を移動させた後にキャリブレーションシート200を設計位置に配置したと仮定したときに得られるカメラ10の位置(この位置を「移動後の設計位置」と称する)をx’,y’とする。車両移動後に推定されたカメラ10の位置x2,y2と移動後の設計位置x’,y’との間には、
【0044】
【数2】

【0045】
の関係がある。(2)式と(3)式を展開すると、
【0046】
【数3】

【0047】
となる。(4)式をキャリブレーションシート200のずれ量(X,Y,R)に着目して行列式で表すと、
【0048】
【数4】

【0049】
となる。この(5)式を変形すると以下の(6)式を得る。
【0050】
【数5】

【0051】
ところで、車両の移動をY方向に沿って行うものとすると、カメラ10の移動前の設計位置x,yと移動後の設計位置x’,y’との間には以下の関係がある。
【0052】
x’=x
y’=y+d …(7)
すなわち、(6)式の右辺は全て既知の値であり、ずれ量算出部32は(6)式を用いることでずれ量X,Y,Rを算出することができる。
【0053】
次に、カメラ姿勢決定部34は、未知の値であるカメラ10の角度rv(ピッチ角)、rh(ヨー角)、rr(ロール角)を算出する(ステップ114)。カメラ10の実際の角度rv,rh,rrと、推定値rv1,rh1,rr1と、キャリブレーションシート200のずれ量Rとの関係は以下のように表すことができる。
【0054】
Ry(R)・Rx(rv)・Ry(rh)・Rz(rr)
=Rx(rv1)・Ry(rr1)・Rz(rh1) …(8)
ここで、Rx(rv)、Ry(rh)、Rz(rr)は、以下に示す回転行列である。
【0055】
【数6】

【0056】
(8)式を変形すると、以下のようになる。
【0057】
Rx(rv)・Ry(rh)・Rz(rr)
=Ry(−R)・Rx(rv1)・Ry(rh1)・Rz(rr1) …(12)
(12)式の右辺は全て既知の値なので、展開して以下のように置く。
【0058】
【数7】

【0059】
また、(12)式の左辺を展開して(13)式とともに解くと、以下のようになる。
【0060】
【数8】

【0061】
カメラ姿勢決定部34は、このようにしてカメラ10の角度rv,rh,rrを算出する。
【0062】
次に、移動前カメラ姿勢推定部24および移動後カメラ姿勢推定部26によるカメラ姿勢の推定動作について説明する。なお、移動前カメラ姿勢推定部24と移動後カメラ姿勢推定部26は同じ構成を有しており、以下では移動前カメラ姿勢推定部24の詳細について説明を行うものとする。
【0063】
図6は、移動前カメラ姿勢推定部24の詳細構成を示す図である。図6に示すように、移動前カメラ姿勢推定部24は、校正指標中心位置検出部60、校正指標座標記憶部61、63、座標変換部62、構成指標間距離調整部64、構成指標位置調整部65、カメラ姿勢調整部66とを含んで構成されている。
【0064】
校正指標中心位置検出部60は、移動前画像格納部20に格納された移動前画像を読み出して、この移動前画像に含まれるキャリブレーションシート200内の校正指標の中心位置を検出する。例えば、校正指標中心位置検出部60は、キャリブレーションシート200に含まれる校正指標としての12個の小黒丸210を画像認識により抽出し、それぞれの中心位置の座標値を校正指標座標記憶部61に保存する。なお、この中心位置の座標値は、カメラ10の光軸Sに垂直に画像平面(U−V座標系)が設定された魚眼座標系によって表されたものである。
【0065】
座標変換部62は、各校正指標の中心座標値を、魚眼座標系から、地面をX−Y平面、地面に垂直な向きをZ方向とする基準座標系に変換し、校正指標座標記憶部63に保存する。
【0066】
図7は、座標変換の説明図である。図7において、X−Y−Zは基準座標系を、U−V−Sは魚眼座標系をそれぞれ示している。また、図7において、x1,y1,z1を魚眼座標系U−V−Sと基準座標系X−Y−Zの原点間の距離、rx,ry,rzを基準座標系X−Y−Zに対するカメラ10の各軸周りの回転量とすると、以下の式が成立する。但し、u,v,sは校正指標の魚眼座標系における中心座標値で既知、λは基準座標系の単位を実際の校正指標間距離からmmに変換するための係数である。
【0067】
【数9】

【0068】
図7(B)より、カメラ10の光軸がX−Y平面上のP点に向いているときのX軸周りの回転量はrv(=rx)、Y軸周りの回転量はrh(=ry)、Z軸周りの回転量はrr(=rz)である。これらのそれぞれが、ピッチ角、ヨー角、ロール角である。
【0069】
以後、校正指標間距離調整部64、校正指標位置調整部65、カメラ姿勢調整部66は、校正指標間の各軸方向距離が実際の各軸方向距離と等しくなるように、かつ、校正指標位置が実際の校正指標位置と等しくなるようにrv,rh,rr,x1,y1,z1を決定する。すなわち、最初に、校正指標間距離調整部64およびカメラ姿勢調整部66は、x1,y1,z1を固定した状態でrv,rh,rrを変更しながら各校正指標間の中心座標値を(15)式を用いて計算し、各校正指標間の各軸方向距離を計算し、各校正指標間の各軸方向距離が等しくなるrv,rh,rrを求め、これらrv,rh,rrをカメラ角度として出力する。また、校正指標位置調整部65およびカメラ姿勢調整部66は、(15)式より各校正指標の中心座標値を計算し、実際の校正指標の中心位置(既知)と等しくなるx1,y1,z1を求め、カメラ位置として出力する。
【0070】
具体的には、rrを変更することにより校正指標の傾斜を調整することができ、rhを変更することにより校正指標間の垂直方向の距離を調整することができ、rvを変更することにより校正指標間の水平方向の距離を調整することができる。
【0071】
したがって、最初、校正指標傾斜調整量決定部64aはx1,y1,z1を一定値(例えば0)としたときの各校正指標の中心座標値を用いて校正指標傾斜角度を計算する。校正指標の並びが傾斜している場合には傾斜角=0となるようにrrを調整し、調整量Δrrをカメラ姿勢調整部66に入力する。カメラ姿勢調整部66は、rr=rr+Δrrにより、新rrを計算して座標変換部62に入力する。これにより、座標変換部62は、(15)式により各校正指標の中心座標を計算し、校正指標傾斜調整量決定部64aは、これらの各校正指標の中心座標値を用いて校正指標傾斜角度を計算する。以後、校正指標傾斜角が0となるまで以上の処理を継続してrrの調整が行われる。
【0072】
校正指標傾斜角度が0となるようにrrの調整が終了すれば、校正指標間距離算出部64bは、各校正指標間のX軸方向の距離を計算し、校正指標間距離調整完了決定部64dは各校正指標間のX軸方向距離が等しいか調べ、等しくなければ校正指標間距離調整量決定部64cに調整指示信号を入力する。これにより、校正指標間距離調整量決定部64cはrhを調整し、調整量Δrhをカメラ姿勢調整部66に入力する。カメラ姿勢調整部66は、rh=rh+Δrhより、新rhを計算して座標変換部62に入力する。これにより、座標変換部62は、(15)式により各校正指標の中心座標値を計算し、校正指標間距離算出部64bは各校正指標の中心座標値を用いて各校正指標間のX軸方向距離を計算し、各校正指標間のX軸方向距離が等しくなるまでrhの調整を行う。
【0073】
rhの調整が終了すれば、校正指標間距離算出部64bは各校正指標間のY軸方向の距離を計算し、校正指標間距離調整完了決定部64dは各校正指標間のY軸方向距離が等しいか調べ、等しくなければ校正指標間距離調整量決定部64cに調整指示信号を入力する。これにより、校正指標間距離調整量決定部64cはrvを調整し、調整量Δrvをカメラ姿勢調整部66に入力する。カメラ姿勢調整部66はrv=rv+Δrvにより、新rvを計算して座標変換部62に入力する。これにより、座標変換部62は(15)式により各校正指標の中心座標値を計算し、校正指標間距離算出部64bは各校正指標の中心座標値を用いて各校正指標間のY軸方向距離を計算し、各校正指標間のY軸方向の距離が等しくなるまでrvの調整を行う。
【0074】
以上により、rv(=rv1),rh(=rh1),rr(=rr1)の調整が完了すれば、校正指標間距離調整完了決定部64dは取り付け角度調整完了信号DAJEDを出力する。
【0075】
校正指標位置調整部65は、取り付け角度調整完了信号DAJEDが発生すると、実際の校正指標中心位置(Xs,Ys)と等しくなるx1,y1を(15)式より求め、また、校正指標のサイズ(あるいは校正指標間距離)が実際の校正指標サイズ(あるいは校正指標間距離)と等しくなるようにz1を調整し、カメラ位置として出力する。その後、カメラ姿勢調整部66は、算出したカメラ角度rv1,rh1,rr1とカメラ位置x1,y1,z1を、移動前カメラ姿勢推定部24から出力する。
【0076】
このように、本実施形態の車載カメラ姿勢検出装置100では、車両を移動させる前後の画像に基づいてキャリブレーションシート200の所定位置(設計位置)からのずれ量を算出しているため、このキャリブレーションシート200のずれによる影響を取り除くことができ、カメラ10の姿勢を正確に検出することが可能となる。
【0077】
また、車両を移動させる所定距離dは、移動前カメラ姿勢推定部24と移動後カメラ姿勢推定部26によって得られた推定値に基づいて算出しているため車両の移動距離dを正確に把握することが可能となり、移動後画像に基づくカメラ姿勢推定の誤差を低減することが可能となる。
【0078】
ところで、図4のステップ104では車両を所定距離移動させるものとしたが、移動距離を理想値(設計値)に近づけるためには、所定距離車両の移動が完了した際に運転者に対して何らかの案内を行うことが望ましいと考えられる。
【0079】
図8は、車両を所定距離移動させた際に通知を行う変形例の動作手順を示す流れ図である。表示処理部42は、車両の移動(図4のステップ104)に先だって、カメラ10で撮影された画像(確認用画像)を表示装置40の画面に表示する(ステップ200)。また、補助線作成部44は、ステップ200において表示された画像に重ねる補助線を作成する(ステップ202)。この補助線は、表示処理部42によって確認用画像に重ねて表示される。
【0080】
図9は、車両移動の前後で表示される確認用画像の具体例を示す図であり、図9(A)には移動前の画像が、図9(B)には移動後の画像が示されている。図9に示す例では、キャリブレーションシート200の車両側角部に目印マークSが含まれている。この目印マークSは、実際にキャリブレーションシート200の一部に特定の色および形状の目印マークを追加してもよいが、補助線作成部44が、キャリブレーションシート200の角部を認識して、合成画像としての目印マークSを作成するようにしてもよい。また、補助線作成部44は、図9(A)に示すように、目印マークSから後方に所定距離の位置に補助線Hを作成する。なお、この所定距離は、地面に沿った距離であって車両を移動させる距離に等しい長さを設定する必要があるが、目印マークSの位置が決まればその位置から後方に所定距離隔たった位置を算出することができる。また、この算出を、移動前カメラ姿勢推定部24による推定結果(カメラ角度)を用いて行うようにしてもよい。
【0081】
このような画像表示が行われた後、車両の移動が行われる(ステップ204)。車両の移動とともに、表示画像に含まれるキャリブレーションシート200の位置は後方に移動するが、図9(A)に示した補助線Hの位置は画面内で固定されている。
【0082】
車両の移動と並行して、移動終了判定部46は、画面内で後方に移動するキャリブレーションシート200内の目印マークSの位置が補助線Hを超えたか否かを判定する(ステップ206)。超えない場合には否定判断が行われ、この判定が繰り返される。
【0083】
また、目印マークSの位置が補助線Hを超えた場合、すなわち、車両が所定距離移動した場合にはステップ206の判定において肯定判断が行われる。図9(B)には、目印マークSが補助線Hと重なった状態が示されている。次に、移動終了判定部46は、車両の移動が終了した旨の通知を行う(ステップ208)。例えば、移動終了判定部46は、表示処理部42を介して表示装置40に移動終了を知らせるメッセージを表示する。あるいは、ブザーやスピーカから移動終了を知らせるブザー音やメッセージ音声を出力するようにしてもよい。この通知を受け取った車両の運転者は、車両の移動を停止する(ステップ210)。
【0084】
このように、本実施形態の車載カメラ姿勢検出装置100では、車両の運転者は、表示装置40に表示されている確認用画像を見ることで、目印マークSと補助線Hとの位置関係を確認することができるため、この後どの程度車両を移動させればよいかを容易に確認することができる。特に、確認用画像に目印マークと補助線を含ませたり、所定距離の移動が終了したときに通知を行うことにより、車両を所定距離移動させたことを確実に車両の運転者に知らせることができ、車両の移動距離が必要以上に長くなることを防止することができる。
【0085】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では、移動前画像格納部20および移動前カメラ姿勢推定部24と、移動後画像格納部22および移動後カメラ姿勢推定部26とを別々に設けたが、これらは基本的に同じ処理を行っているため、一方を省略して他方において同じ処理を繰り返し行うようにしてもよい。
【0086】
また、上述した実施形態では、車両後方を撮影するカメラ10について説明したが、車両前方あるいは車両側方を撮影するカメラの姿勢を決定する場合にも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上述したように、本発明によれば、車両を移動させる前後の画像に基づいてキャリブレーションシート200の所定位置(設計位置)からのずれ量を算出しているため、このキャリブレーションシート200のずれによる影響を取り除くことができ、カメラ10の姿勢を正確に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
10 カメラ
12 画像取込部
14 画像メモリ
20 移動前画像格納部
22 移動後画像格納部
24 移動前カメラ姿勢推定部
26 移動後カメラ姿勢推定部
30 移動距離算出部
32 ずれ量算出部
34 カメラ姿勢決定部
40 表示装置
42 表示処理部
44 補助線作成部
46 移動終了判定部
50 操作部
100 車載カメラ姿勢検出装置
200 キャリブレーションシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたカメラで車両周辺に配置されたキャリブレーションシートに含まれる複数の校正指標を撮影し、得られた画像に基づいて前記カメラの姿勢を検出する車載カメラ姿勢検出装置であって、
前記カメラで撮影された前記キャリブレーションシートの画像を移動前画像として格納する移動前画像格納手段と、
前記移動前画像格納手段に格納された移動前画像に基づいて前記カメラの姿勢を推定する第1の姿勢推定手段と、
車両を所定距離移動させた後に前記カメラで撮影された前記キャリブレーションシートの画像を移動後画像として格納する移動後画像格納手段と、
前記移動後画像格納手段に格納された移動後画像に基づいて前記カメラの姿勢を推定する第2の姿勢推定手段と、
前記第1および第2の姿勢推定手段による推定結果に基づいて前記キャリブレーションシートの所定位置からのずれ量を算出するシートずれ量算出手段と、
前記第1および第2の姿勢推定手段の少なくとも一方によって推定された姿勢推定値と、前記シートずれ量算出手段によって算出されたずれ量とに基づいて、前記カメラの姿勢を決定するカメラ姿勢決定手段と、
を備えることを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
車両を移動させる前記所定距離は、前記第1および第2の姿勢推定手段によって得られた姿勢推定値に基づいて算出することを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記シートずれ量算出手段は、前記カメラが設計位置に設置されている場合を想定し、前記カメラの設計位置と、前記第1および第2の姿勢推定手段による推定結果と、前記キャリブレーションシートの所定位置からのずれ量との関係に基づいて、前記ずれ量の算出を行うことを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記カメラ姿勢決定手段は、前記第1および第2の姿勢推定手段によって推定されたカメラ角度と、実際のカメラ角度と、前記シートずれ量算出手段によって算出された前記キャリブレーションシートの回転方向のずれ量との関係に基づいて、前記実際のカメラ角度を決定することを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記カメラ姿勢決定手段は、前記第1の姿勢推定手段によって推定された姿勢推定値を用いて前記カメラの姿勢を決定することを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記車両の移動は直線状に行われることを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
車両の所定距離の移動の有無を確認可能な確認用画像を表示装置に表示する表示処理手段をさらに備えることを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記確認用画像には、車両の移動とともに確認用画像内で移動する目印マークと確認用画像内で表示位置が固定された補助線とが含まれており、車両の所定距離の移動が終了するタイミングで、前記目印マークが前記補助線を超えるように表示が行われることを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、
前記カメラによって撮影された画像に基づいて、車両の所定距離の移動が終了したか否かを判定し、移動が終了したときに所定の通知を行う移動終了判定手段をさらに備えることを特徴とする車載カメラ姿勢検出装置。
【請求項10】
車両に搭載されたカメラで車両周辺に配置されたキャリブレーションシートに含まれる複数の校正指標を撮影し、得られた画像に基づいて前記カメラの姿勢を検出する車載カメラ姿勢検出方法であって、
前記カメラで撮影された前記キャリブレーションシートの画像に基づいて前記カメラの姿勢を第1の姿勢推定手段によって推定し、
車両を所定距離移動させた後に前記カメラで撮影された前記キャリブレーションシートの画像に基づいて前記カメラの姿勢を第2の姿勢推定手段によって推定し、
前記第1および第2の姿勢推定手段による推定結果に基づいて前記キャリブレーションシートの所定位置からのずれ量をシートずれ量算出手段によって算出し、
前記第1および第2の姿勢推定手段の少なくとも一方によって推定された姿勢推定値と、前記シートずれ量算出手段によって算出されたずれ量とに基づいて、前記カメラの姿勢をカメラ姿勢決定手段によって決定することを特徴とする車載カメラ姿勢検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1155(P2013−1155A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131323(P2011−131323)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)