説明

車載機器制御システム

【課題】マスタ装置の共通化による低コスト化を図るとともに設定が容易な車載機器制御システムを提供する。
【解決手段】マスタ装置100による第1のスレーブ装置200に接続された機器の制御に用いられる制御用データを第2のスレーブ装置300に記憶しておく。マスタ装置100はシステム起動時に第2のスレーブ装置300から制御用データを取得し、該制御用データを用いて第1のスレーブ装置200に接続された機器を制御する。また、マスタ装置100には予備の制御用データを記憶しておき、第2のスレーブ装置300からの制御用データの取得に失敗した場合には該予備の制御用データを用いて制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスター装置とスレーブ装置がバス接続された車載機器制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載機器制御システムにおいては車内に車載LANが設置され、該車載LANに多数の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)が接続されている。ここでECUは、車載LANに接続されたノードに該当し、制御対象となる車載機器が接続されているノードも含む。車載LANの規格には例えばCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)などがある。LIN規格においてはシングルマスタ方式が採用されており、1つのECUがマスタ装置として動作し、他のECUはスレーブ装置として動作する。通常、マスタ装置として動作するECU(以下、単に「マスタ装置」と言う。)は、バスとの通信インタフェイス回路と、マイクロコンピュータやメモリ等からなる制御回路とを備えている。スレーブ装置として動作するECU(以下、単に「スレーブ装置」と言う。)は、バスとの通信インタフェイス回路と、車載機器の制御回路及び該車載機器やセンサとのインタフェイス回路とを備えている。
【0003】
マスタ装置のメモリには、スレーブ装置に接続された車載機器の制御に必要なパラメータが記憶されている。マスタ装置の制御回路は、該パラメータに基づき車載機器の制御を行う(特許文献1参照)。例えば、エアコンのダンパを開閉するアクチュエータを制御する場合について説明する。該アクチュエータには回転角度を検出するセンサとしてポテンションメータが付設されている。マスタ装置のメモリには、ダンパの開放時及び閉鎖時のポテンションメータの値が記憶されている。マスタ装置はスレーブ装置に対してポテンションメータの値を送信することによりアクチュエータの動作を指示する。スレーブ装置は、ポテンションメータの検出値がマスタ装置から受信した値となるようにアクチュエータをフィードバック制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−335607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでマスタ装置に記憶する制御用のパラメータは、スレーブ装置の仕様や種類や出荷先などによって異なる値となるものがある。そこで、マスタ装置に設定切替スイッチを設けるとともにメモリに複数のパラメータを記憶しておき、前記設定切替スイッチに対応するパラメータに基づきスレーブ装置の制御を行う方法が提案されている。このような方法を採用することによりマスタ装置を共通化することができるので低コスト化を図ることができる。しかし、設定切替スイッチの操作ミスにより、実際に接続されたスレーブ装置にとって適切でないパラメータが用いられる、これにより動作不良が生じる恐れがあるという問題がある。
【0006】
また前記設定切替スイッチに替えて、スレーブ装置の仕様や種類や出荷先などの区別をハードウェアとして実装する方法も提案されている。例えば抵抗器による分圧回路と該分圧回路により分圧された電圧値をA/Dコンバータで読み取る方法である。この方法では検出された電圧値に対応するパラメータに基づきスレーブ装置の制御を行う。また例えばマイクロコンピュータの入力ポートのハイ・ローを回路として固定的に作り込んでおき、該入力ポートの入力値に対応するパラメータに基づきスレーブ装置の制御を行う。このような方法では実装する部品やジャンパ線を変更することによりスレーブ装置の仕様や種類や出荷先などによって異なる動作を実現できるとともに、ハードウェアにより予め作り込んでおくので前記設定切替スイッチの操作ミスを防止できる。しかし、この場合には部品点数が増加するためコストが高いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マスタ装置の共通化による低コスト化を図るとともに設定が容易な車載機器制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明は、車両内に設置されるマスタ装置と該マスタ装置にバス接続された第1のスレーブ装置とを備え、第1のスレーブ装置に接続された車載機器を制御する車載機器制御システムにおいて、前記マスタ装置にバス接続された第2のスレーブ装置を備え、該第2のスレーブ装置は、第1のスレーブ装置に接続した車載機器の制御に用いられる制御用データを記憶した記憶手段を備え、前記マスタ装置は、第2のスレーブ装置から制御用データを取得し、該制御用データに基づき第1のスレーブ装置に接続した車載機器を制御することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、車載機器の制御用データが、該車載機器が接続された第1のスレーブ装置とは別の第2のスレーブ装置に記憶されており、マスタ装置は制御用データを第2のスレーブ装置から取得して制御処理で用いるので、マスタ装置を共通化することができる。また、制御用データの変更や国別に異なる制御用データを使用したい場合等には第2のスレーブ装置の交換を行えばよいので、設定作業が容易であり且つ保守性に優れたものとなる。
【0010】
本発明の具体的な態様の一例として、前記車載機器制御システムにおいて、前記マスタ装置は、第2のスレーブ装置から取得した制御用データを記憶する第1の記憶手段を備え、該第1の記憶手段に記憶された制御用データに基づき車載機器を制御することを特徴とするものを提案する。
【0011】
本発明によれば、第2のスレーブ装置からの制御用データの取得はシステム起動時(電源投入時)やリセット動作時などにのみに行えば良く、システム稼働中に当該取得処理を行う必要がない。これによりシステムの安定性が向上する。
【0012】
また、本発明の具体的な態様の一例として、前記車載機器制御システムにおいて、前記マスタ装置は、予備の制御用データを記憶する第2の記憶手段を備え、第2のスレーブ装置から制御用データの取得に失敗した場合には第2の記憶手段に記憶されている制御用データに基づき車載機器を制御することを特徴とするものを提案する。
【0013】
本発明によれば、第2のスレーブ装置からの制御データの取得に失敗した場合であっても、予備の制御用データにより車載機器の制御が可能となる。これによりシステムの安定性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、車載機器の制御用データが、該車載機器が接続された第1のスレーブ装置とは別の第2のスレーブ装置に記憶されており、マスタ装置は制御用データを第2のスレーブ装置から取得して制御処理で用いるので、マスタ装置を共通化することができる。また、制御用データの変更や国別に異なる制御用データを使用したい場合等には第2のスレーブ装置の交換を行えばよいので、設定作業が容易であり且つ保守性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車載機器制御システムの構成図
【図2】車載機器制御システムの初期動作を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態に係る車載機器制御システムについて図面を参照して説明する。図1は車載機器制御システムの構成図である。なお本実施の形態では、車内空調システムの制御システムを例にとって説明する。
【0017】
この車載機器制御システムは、図1に示すように、複数のECUが車載LAN10にバス接続している。本実施の形態では車載LANの規格としてLINを採用する。したがって、1つのECUのみマスタとして動作し、他のECUはスレーブとして動作する。本実施の形態では、マスタ装置100と、複数の第1のスレーブ装置200と1つの第2のスレーブ装置300とが車載LAN10に接続している。なお、図1では説明の簡単のため第1のスレーブ装置200は1つのみ図示した。第1のスレーブ装置200にはダンパを開閉するためのアクチュエータ205が接続されている。マスタ装置100は、各第1のスレーブ装置200に接続されたアクチュエータ205の動作を制御する。一方、第2のスレーブ装置は、後述するように、マスタ装置100で用いられる制御用データを記憶するための装置である。
【0018】
マスタ装置100は、図1に示すように、車載LAN10との接続用のトランシーバ101と、各スレーブ装置200に接続されたアクチュエータ205を制御するための制御回路110とを備えている。制御回路110は、主演算装置111と、不揮発性の記憶手段であるROM112と、揮発性の記憶手段であるRAM115とを備えている。ROM112には制御プログラム113と予備の制御用データ114とが記憶されている。ここで、予備の制御用データ114は、後述する第2のスレーブ装置300に記憶・保持されている制御用データと同じ構造(項目やフォーマットなど)を有している。制御回路110は、ROM112に記憶されている制御プログラム113を実行することにより動作する。
【0019】
第1のスレーブ装置200は、図1に示すように、車載LAN10との接続用のトランシーバ201と、アクチュエータ制御回路202と、アクチュエータ205の回転角度を検出するポテンションメータ203と、前述のアクチュエータ205とを備えている。
【0020】
第2のスレーブ装置300は、図1に示すように、車載LAN10との接続用のトランシーバ301と、通信制御回路302と、不揮発性の記憶手段であるROM303とを備えている。ROM303には、マスタ装置100の制御回路110が各第1のスレーブ装置200の制御に用いる制御用データ304が記憶されている。前述したように該制御用データ304は、マスタ装置100に記憶・保持されている予備の制御用データ114と同じ構造(項目やフォーマットなど)を有している。制御用データ304と予備の制御用データ114の相違点は、制御用データ304は第2のスレーブ装置300とともに接続される各第1のスレーブ装置200に特化したデータである一方、予備の制御用データ114は種々の第1のスレーブ装置100で利用可能な汎用的なデータである点にある。通信制御回路302は、マスタ装置100の制御回路110からの要求を受信すると、ROM303に記憶されている制御用データ304を返信する。
【0021】
次に、本実施の形態に係る車載機器制御システムの動作について図2を参照して説明する。図2は車載機器制御システムの初期動作を説明するフローチャートである。
【0022】
この初期動作は車載機器制御システムの起動時(電源投入時)やリセット動作時に実行される。マスタ装置100の制御回路110は、第2のスレーブ装置300に対して制御用データの送信要求を送出する(ステップS1)。該送信要求の送出では所定時間(例えば10s)周期的に専用コマンドを送出する。第2のスレーブ装置300の通信制御回路302は、該送信要求に応じてROM303に記憶されている制御用データ304を返信する。マスタ装置100の制御回路110は、制御用データの受信に成功し場合(ステップS2)、該制御用データをRAM115に格納する(ステップS3)。一方、マスタ装置100の制御回路110は、制御用データの受信に失敗した場合(ステップS2)、ROM303に記憶されている予備の制御用データ114をRAM115に格納する(ステップS4)。なお、前記ステップS1の送信要求の送出において所定時間返信がない場合には受信失敗であると判定する。
【0023】
以上の処理によりRAM115には制御用データが格納された状態となるので、以降マスタ装置100の制御回路110は該制御用データを用いて初期設定や第1のスレーブ装置200の制御処理を開始する(ステップS5)。以下に具体的な処理について説明する。
【0024】
マスタ装置100の制御回路110は、第1のスレーブ装置200のアクチュエータ205を制御する際には、制御用データとしてポテンションメータ203の検出値を用いる。具体的には、マスタ装置100の制御回路110は、ダンパ開放時又は閉鎖時のポテンションメータ203の検出値を目標値として第1のスレーブ装置200に送信する。第1のスレーブ装置200のアクチュエータ制御回路202は、ポテンションメータ203の検出値がマスタ装置100から受信した目標値となるようにアクチュエータ205をフィードバック制御する。アクチュエータ制御回路202は、ポテンションメータ203の検出値が目標値に達するとマスタ装置100の制御回路110に対して制御完了の旨を送信する。一方、アクチュエータ制御回路202は、アクチュエータ205を駆動制御しているにもかかわらずポテンションメータ203の検出値が所定時間経過しても目標値に達しない場合、マスタ装置100の制御回路110に対してタイムアウトの旨を送信する。
【0025】
本実施の形態に係る車載機器制御システムによれば、第2のスレーブ装置300に、第1のスレーブ装置200の制御に必要な制御用データを格納しているので、マスタ装置100の共通化を容易に図ることができる。また、制御用データの変更や国別に異なる制御用データを使用したい等の場合においても、第2のスレーブ装置300の交換を行えばよいので、設定作業が容易であり且つ保守性に優れたものとなる。
【0026】
また、本実施の形態に係る車載機器制御システムでは、マスタ装置100に予備の制御用データが記憶されているので、第2のスレーブ装置300から制御用データの取得に失敗した場合であっても、予備の制御用データによる制御が可能となる。これによりシステムの安定性が向上する。
【0027】
以上本発明の一実施の形態について詳述したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、制御用データとしてダンパ開放時及び閉鎖時における目標値のように制御そのもので用いるデータを例示したが、他の機器の制御において用いられるデータや、機器の制御に先だって実施する初期設定において用いられるデータも本願発明の制御用データに含まれる。例えば、エアコンのオンオフや温度を制御する際に必要なデータや、アクチュエータの構成情報など初期設定に用いられるデータ等が挙げられる。また、上記実施の形態では車内空調システムにおける適用例について説明したが、例えばパワーウィンドウやミラーの制御システムなど他のシステムにおいても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0028】
10…車載LAN、100…マスタ装置、110…制御回路、112…ROM、114…予備の制御用データ、200…第1のスレーブ装置、203…ポテンションメータ、205…アクチュエータ、300…第2のスレーブ装置、303…ROM、304…制御用データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に設置されるマスタ装置と該マスタ装置にバス接続された第1のスレーブ装置とを備え、第1のスレーブ装置に接続された車載機器を制御する車載機器制御システムにおいて、
前記マスタ装置にバス接続された第2のスレーブ装置を備え、
該第2のスレーブ装置は、第1のスレーブ装置に接続した車載機器の制御に用いられる制御用データを記憶した記憶手段を備え、
前記マスタ装置は、第2のスレーブ装置から制御用データを取得し、該制御用データに基づき第1のスレーブ装置に接続した車載機器を制御する
ことを特徴とする車載機器制御システム。
【請求項2】
前記マスタ装置は、第2のスレーブ装置から取得した制御用データを記憶する第1の記憶手段を備え、該第1の記憶手段に記憶された制御用データに基づき車載機器を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の車載機器制御システム。
【請求項3】
前記マスタ装置は、予備の制御用データを記憶する第2の記憶手段を備え、第2のスレーブ装置から制御用データの取得に失敗した場合には第2の記憶手段に記憶されている制御用データに基づき車載機器を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の車載機器制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−173609(P2010−173609A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21595(P2009−21595)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】