説明

車輌内装用パイル布帛

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、車輌内装材として用いられるポリエステルパイル布帛に関するものである。
[従来の技術]
車輌内装材は、レザー調の素材、織編物あるいは起毛地やモケット地などのパイル布帛と様々な形態の布帛が用いられており、近年特に高級化を望む声がつよい。中でも、車輌内装材として多く使われているパイル布帛は、表面に立毛を有しているので高級素材として広く受け入れられているが、より高級化・豪華さを求めるニーズが高まっている。
車輌内装用に用いられるパイル布帛は、トリコットの起毛によるもの、パイル編地の剪毛によるもの、ダブルラッセル編みやモケット織によるパイル布等があるが、これらの多くにはナイロンとがポリエステルといった合成繊維が用いられている。とりわけ、車輌内装材には、高い耐光堅牢性が用応急されるので、ポリエステル繊維の応用が増えつつある。
使用素材の豊富さや取扱性の点でポリエステルに代表される合成繊維は、ウールなどの天然繊維に比較して、圧倒的に優位な特徴を持っているが、反面、一見単調に見えるとかプラスティックライクであるという言葉で表現されるように、天然繊維のパイル布帛の代表であるウールのパイル布帛の外観と比較すると見た目の豪華さという点では見劣りがすると言われている。特に、見る方向や角度によって白っぽく見えるいわゆる白ボケ現象は、合成繊維を用いたパイル布帛の豪華かさを損う大きな欠点であるし、また特にポリエステル繊維をパイル糸に用いたパイル布帛では、シートベルトの金具などの跡が残り、凹部状の毛倒れ現象となる現象も品位面での問題として大きくクローズアップされ始めた。
ここでいう白ボケ現象は、パイル布帛のパイル糸が方向性を持っておれば、その程度が大きい程強く現れ易い。即ち、パイル糸の立毛角度が見る人の側に傾いておれば見ている人には濃く見えるが、反対にパイル糸の立毛方向が見る人の側に傾いていなければ、見ている人には本来のパイルの持っている色相よりもかなり淡く、色によってはむしろ白っちゃけた色に見えることもある。
この白ボケ現象を改良する試みは最近多く提案されている。例えば、特開昭62−268855号公報あるいは特開昭63−105143号公報はパイル糸として用いられるポリエステル繊維が芯鞘型構造で、鞘成分は芯成分より濃染されるよう設計されたものである。しかしながら、これらの手段は車輌内装材に要求される例えば耐光堅牢性などの重要な性能を犠牲にせざるを得ない等の欠点を有している。
一方、ポリエステル繊維を染色した際の色の深みや鮮明性を改良するために、平均の一時粒子径が100mμ未満の微粒子を含有せしめたポリエステル繊維をアルカリ減量処理して、繊維表面に可視光線の波長域またはそれ以上のオーダーの微細な凹凸を多数形成せしめる方法が知られている(例えば、特開昭55−107512号公報、特開昭57−139118号公報)。これらの方法を立毛布帛に適用することにより、得られたパイル布帛をある方向から見たときの色の深みは向上し、顕著な効果が奏される。しかしながら、かかる方法によっても、上記の白ボケ現象は解消できていない。
また、シートベルトの金具などの跡が残るいわゆる毛倒れ現象については、改良の試みはあまりなされていない。
[発明の目的]
本発明の目的は、白ボケ現象と共に毛倒れ現象の改良にあり、従来のポリエステル繊維を用いたパイル布帛の問題であった品位を改善し、より高級感のあるパイル布帛を提供することにある。
[発明の構成]
ここに本発明は、1) パイル糸全体が、単糸繊度2デニール以上のポリエステル異形断面糸からなり、かつ該パイル糸の立毛角度が50゜以上である車両内装用パイル布帛において、該パイル糸が、単一組成のポリエステルからなり、2ケの凹部と4ケ以上の凸部とからなる繊維断面を有する異形断面糸であることを特徴とする車輌内装用パイル布帛。
である。
ここに、ポリエステル繊維とは、例えばテレフタル酸を主たる酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、好ましくは、エチレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。ポリエステル繊維はフィラメントでも紡績糸でも良い。また、必要に応じて安定剤,酸化防止剤,難燃剤,帯電防止剤,蛍光増白剤,触媒,着色防止剤,耐熱剤,着色剤,無機粒子等を併用してもよい。
ここでいうパイル布帛とは、モケット,ベルベット及び別珍等のパイル織物,トリコットの起毛地,ダブルラッセル,パイルを有するまたはパイルを剪毛した編物等のパイル編物をいう。
本発明でいう2ケの凹部と4ケ以上の凸部を有する異形断面糸とは、凸部が4ケ以上あり、かつ隣り合う凸部の頂点を結んだときに生じる凹部が2ケある異形断面糸をいう。
具体的な断面形状の例を第2図に示す。
これらの異形断面形状を持つパイル糸は白ボケ/毛倒れの改良に効果があるのは凹凸のある断面形状によってパイル糸の曲げ剛性が高くなり、パイル糸の立毛角度を高く保つので、見る方向によるパイル表面の色相がパイル糸の方向によって大きく変るという白ボケ現象が少なくなることと、パイル糸がパイル表面に受ける力による変形が起こり難くなるためである。
パイル糸の繊維断面の凹部は2ケであることが必要である。3ケ以上の凹部をもつ異形断面糸は曲げ剛性がより高くなるので毛倒れを防止する効果は高いが、曲げ剛性が高くなりすぎるためにパイル表面のタッチが粗硬になり、車輌内装用としては風合面で問題が生じてぐる。このような問題をより少なくするためには、繊度をより小さくする試みもあるが、繊度を小さくして繊維断面の凹凸を多く形成させると車輌内装用として使用を繰り返したとき形態変形の問題も起こるので必ずしも好ましいとはいえない。
一方、パイル布帛のパイルの平均立毛角度は50゜以上であることが必要である。平均立毛角度が50゜未満だと、より毛倒れしやすくなるので好ましくない。
更に、白ボケ現象及び毛倒れ現象をより改良するためには、ポリエステル繊維中の艶消剤量を0.1〜2.0重量%とするのが極めて有効である。
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
尚、実施に当っては、それぞれの特性は次の方法で評価した。
i.毛倒れ特性 i−1.毛倒れ処理 パイル布帛の上に真鍮製の重り(8cmφ,2000gr)を置き、80℃に調整した熱風乾燥機中に入れて、2時間放置した。2時間後に、熱風乾燥機より試料を取り出し重りを除いた。
i−2.毛倒れ性の評価 (株)村上色彩技術研究所製の変角分光測色システムCCMS−3型を用いて測定した。毛倒れした部分が白っぽく見える方向、即ち倒れたパイル糸の先端が向いている方向と反対の方向からパイル布帛表面を見ると、パイルは白っぽく見えるが、この方向に受光器を置き(θ=70゜)、入光は受光器側からパイル糸の先端が向いている方向に沿って変えながらCIE表色系のL値を求めた。この測定を、毛倒れ部分と毛倒れしていない部分とで測定し、両者の差が大きいほど毛倒れによる白っぽさが目立つということになる。
パイル布帛に対する垂線を0゜とし、パイル糸の傾いている方向に対して50゜〜−50゜の範囲内で10゜毎に毛倒れ部分のL値(L)および毛倒れしていない部分のL値(L)を読み取り、毛倒れ部分と正常部分の色差すなわちΔL(=L−L)の最大値を求め、これを毛倒れ性値とした。毛倒れ性値が大きい程、毛倒れが目立つことになる。
ii.立毛角度 パイル布帛の拡大断面を電子顕微鏡で写真撮影し、パイル先端部分の地組織部に対する角度を実測し、少なくとも20ケのパイル糸角度を平均し、パイル糸の立毛角度とした。
実施例1,比較例1〜3 固有粘度が0.64でTiO2を0.5重量%が含有するポリエチレンテレフタレートを第1図(1)〜(3)に示す形状のホール数200の口金を用いて紡糸温度296℃、表1に示す吐出量の条件で紡糸し、1500m/分の速度で巻取り未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を合糸し、1万デニールのトウとした後に80℃の水浴で表1に示す倍率で延伸、180℃のローラーで熱セットし、次いで捲縮を付与し、140℃で乾熱処理し、51ミリにカットし、3デニールの単糸繊維のH型の断面を有するポリエステル短繊維を得た。
比較例1として表1に示す条件とそれ以外は実施例1と同じ条件で4つの凹部を持つ十字型異形断面を有するポリエステル短繊維を得た。比較例2はT型の異形断面糸でデニールが1.5のポリエステル短繊維である。また、比較例3として、常法により丸断面のポリエステル短繊維を作成した。
得られたポリエステル短繊維を、通常の方法で梳毛紡績して1/52番手の紡績糸を得た。次いでこの紡績糸を通常の糸染工程で分散染料により、ベージュ色に染色し、モケット用の先染糸とした。


この先染糸をパイル糸とし、地糸は通常のポリエステル繊維/レーヨン繊維(混率65/35)の20番手双糸を用い、モケット組織は1越、織のパイル密度は経密度22本/インチ、緯密度44本/インチでモケット織物を作成、これを通常の方法で加工したのちバックコーティングして、モケット織物を得た。
得られたモケット織物の立毛角度およびパイルの毛倒れ特性を評価したのが表2である。


実施例2 固有粘度が0.64でTiO2を0.5重量%含有するポリエチレンテレフタレートを第1図(2)に示す形状のホール数24の口金を用い、紡糸温度295℃、表3に示す吐出量の条件で紡糸し、1300m/分の速度で巻取り未延伸糸を得た。次いで、次の条件で延伸を行い75デニール/24フィラメントのH型断面の異形断面糸を得た。
得られた異形断面ポリエステルフィラメントのSD75デニール/24フィラメントをフロントに、またミドルおよびバックには通常の丸断面のポリエステルフィラメントのSD75デニール/36フィラメントをそれぞれ用いて、フロント1078,ミドル1023,バック1012の組織で28ゲージの密度でトリコット編地を製編した。
得られたトリコット編地を常法により、精練・セットした後にエンジ色に染色した。その後起毛剤をパッドし乾燥した後フロント糸をカット起毛し、次いでシャーリングしてパイル長を2mmに整え、ブラッシングして立毛化処理を行い、次いで170℃で30秒間乾燥処理した。得られたトリコットの平均立毛角度は62゜であった。


[延伸条件]
延伸温度 : 80℃ 熱処理温度:150℃ 延伸速度 :500m/分比較例2 通常の丸断面よりなるポリエステルフィラメントのSD75デニール/36フィラメントをフロントに用いる他は実施例2と同様に編立および加工を行った。得られたトリコットの平均立毛角度は47゜であった。
実施例2および比較例4で得られたパイル編物の立毛特製および毛倒れ挙動を表4に示した。


以上実施例で示したように、実施例1〜2はいずれも毛倒れ特性値が小さく、毛倒れ処理しても毛倒れ部分が目立たず、毛倒れ防止効果が優れていることが判る。
【図面の簡単な説明】
第1図(1),(2),(3)は口金断面図、第2図は繊維の異形断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】パイル糸全体が、単糸繊度2デニール以上のポリエステル異形断面糸からなり、かつ該パイル糸の立毛角度が50゜以上である車両内装用パイル布帛において、該パイル糸が、単一組成のポリエステルからなり、2ケの凹部と4ケ以上の凸部とからなる繊維断面を有する異形断面糸であることを特徴とする車両内装用パイル布帛。

【第2図】
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【第1図】
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【特許番号】第2854070号
【登録日】平成10年(1998)11月20日
【発行日】平成11年(1999)2月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−24059
【出願日】平成2年(1990)2月2日
【公開番号】特開平3−234844
【公開日】平成3年(1991)10月18日
【審査請求日】平成6年(1994)9月8日
【出願人】(999999999)帝人株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭63−50552(JP,A)
【文献】特開 昭63−6133(JP,A)
【文献】特開 平3−97946(JP,A)
【文献】特開 平3−90651(JP,A)
【文献】特開 平3−64550(JP,A)