説明

軟水化装置

【課題】低消費電力で軟水処理し且つガスを含まない処理水を供給し機器の安全性を確保すると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ること。
【解決手段】に陽イオン焼結多孔体シート159及び陰イオン焼結多孔体シート161はイオン交換樹脂を含有し連続した気孔を有する多孔質体であるので、原水中のイオン成分がシートの内部に拡散し易く陽イオン交換樹脂157と効率良くイオン交換されるため、電圧印加によるイオン成分の拡散を行わなくても効率良く軟水化処理することができ、ガスを含まない処理水を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟水処理された水を使用者に提供すること、あるいは機器の配管内のスケール生成を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤を使用せずに電気再生による軟水化技術として、水分解イオン交換膜を用いた脱イオン技術がある。(特許文献1参照)
図4は、従来の水分解イオン交換膜を用いた脱イオン装置の構成図を示すものである。
図4において、脱イオン装置20は、ハウジング25内に水分解膜100が前記ハウジング25内の電極40と45の間におかれる。それぞれの水分解膜100は、隣り合い接触している陽イオン交換面105及び陰イオン交換面110の組合せを少なくとも1つ含む。前記水分解膜100は、膜の陽イオン交換面が第1の電極40に対面し、膜の陰イオン交換面が第2の電極45に対面するように、ハウジング25内に配置されている。
【0003】
ここで、水分解膜100は、同質あるいは異質イオン交換膜が得られる方法によって作製されている。
【0004】
同質膜作成の代表的方法は、ガラス板の間に混合モノマーを流し込み、モノマーまたは溶剤の蒸発に注意しながら加熱硬化することである。そして、イオン交換樹脂と同様に官能基を修飾している。水分解膜は、硬化層の上に第2の混合モノマーを流し込み続いて2つの層の官能基修飾を段階的に行うことにより作成することができる。
【0005】
また、異質水分解イオン交換膜は、イオン交換樹脂とポリエチレン等の熱可塑性ポリマーの溶融混合により作製される方法である。例えば練りロール機あるいは混練押出機を用いる方法が採用されている。それぞれのイオン交換材の薄いシートが、例えば圧縮成形または押出成形により形成され、水分解膜が2枚ないしそれ以上の層から同じ方法により形成されている。
【0006】
上記のような脱イオン装置20について、以下その動作を説明する。
【0007】
脱イオン工程において、陽イオン交換面105に面している第1の電極40が陽極として、陰イオン交換面110に面している第2の電極45が陰極として荷電される。
【0008】
そして、入口30から導入された原水中の陽イオンであるカルシウムイオン等が陰極である電極45に向かって移動し水分解膜100の陽イオン交換面105に吸着して、陽イオン交換面105内でイオン交換して除去される。一方、原水中の陰イオンである塩素イオン等が陽極である電極40に向かって移動し水分解膜100の陰イオン交換面110に吸着して、陰イオン交換面110内でイオン交換して除去される。こうして、脱イオンされた処理水が出口35から流出する。
【0009】
脱イオンにより水分解膜100が飽和状態に近づくと、初期状態に戻す為に再生工程が行われる。
【0010】
再生工程において、ハウジング25内には脱イオン工程と同じように、原水が入口30から導入され、第1の電極40と第2の電極45は極性が逆転され、電極40が陰極、電極45が陽極となる。そして、水分解膜100の陽イオン交換面105と陰イオン交換面110の界面で水解離により水素イオンと水酸化物イオンが生成する。生成した水素イオ
ンは陰極である電極40に向かって移動し陽イオン交換面105内でカルシウムイオンとイオン交換される。一方、水酸化物イオンは陽極である電極45に向かって移動し陰イオン交換面内110内の塩素イオンとイオン交換される。こうして、電極間に逆電圧を印加して水分解膜100の界面における水解離によって水分解膜100は再生され、再生時に生成した塩化カルシウムは出口35から排出される。
【0011】
このように、薬剤を使わずに電気により軟水化処理及び再生を行う脱イオン装置が従来提案されている。
【0012】
また、水分解イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた他の脱イオン技術もある(特許文献2参照)。
【0013】
図5は、従来の水分解イオン交換膜とイオン交換樹脂を用いた電気透析槽の構成図を示すものである。
【0014】
図5において、1は電気透析槽、2は陽イオン脱塩室、3は陰イオン脱塩室、4は濃縮室、5は電極室、6は水分解イオン交換膜、7は陽イオン交換膜、8は陰イオン交換膜、9は陽イオン交換樹脂、10は陰イオン交換樹脂、11は通液管、12は被脱塩液の供給管、13は被脱塩液の排出管、14は濃縮液の供給管、15は濃縮液の排出管、16は緩衝室、17は緩衝室液の給排管を夫々示す。
【0015】
この電気透析槽において、被脱塩液は陽イオン脱塩室2に供給される。被脱塩液の陽イオンは選択的に陽イオン交換膜7を透過するか、陽イオン交換樹脂9に吸着される。そして、陽イオン交換樹脂9に吸着された陽イオンは、電極の通電時に水分解イオン交換膜6から発生する水素イオンにより脱着され、陽イオン交換膜7を透過する。次いで、陽イオンを排除した被脱塩液は通液管11を通り、陰イオン脱塩室3に供給される。被脱塩液の陰イオンは選択的に陰イオン交換膜8を透過するか、陰イオン交換樹脂10に吸着される。しかし、陰イオン交換樹脂に吸着された陰イオンは、水分解イオン交換膜6から発生する水酸化物イオンにより脱着され、陰イオン交換膜8を透過し排除される。陽,陰イオンを排除した被脱塩液は高純度の純水として得られる。一方、排除された陽,陰イオンは濃縮室4で中性塩として排出される。
【0016】
このように、水分解イオン膜とイオン交換樹脂を併用して、電気透析により軟水化処理及び再生を行う脱イオン装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4044148号公報
【特許文献2】特公平7−57308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に示した前記従来の構成では、水分解膜100はイオン交換樹脂と熱可塑性ポリマーを溶融混合して混錬押し出し成型されるか、あるいはガラス板の間に混合モノマーを流し込み、モノマーを加熱硬化した後官能基を修飾して作製されていることから、膜内部は比較的緻密な構造である。この為、再生時の電圧印加による水分解膜界面での水解離が起き易いので水分解膜の再生は効率良く行われる。しかし、脱イオン工程においては、膜内部が緻密な構造である為、原水中のイオン成分が膜内部に拡散し難いので、脱イオン処理の効率が低い。この為、電圧印加により膜内部へ積極的にイオン成分を拡散して処理効率を維持しており再生工程以外に脱イオン処理時も電力消費を伴うという課題があっ
た。
さらに、脱イオン処理時に電圧印加されると、処理水には水の電気分解により電極40、45から生成する水素あるいは酸素が混入し、脱イオン装置の下流側に設置される機器内にガスが蓄積してしまうので機器の安全性に問題が生じるという課題もあった。
【0019】
一方、特許文献2に示した従来の構成は、陽イオン交換樹脂9及び陰イオン交換樹脂10により脱イオンし、脱イオンと同時に電極への通電により水分解イオン交換膜6から生成する水素イオンと水酸化物イオンによりイオン交換樹脂を再生する技術であり、通電により電極から生成するガスが処理水中に混入する構成にはなっておらず安全上の問題は無い。ここで、このような脱塩室にイオン交換樹脂を充填した構成で脱塩処理の処理速度を向上する為には、微粒化したイオン交換樹脂適用する必要がある。しかし、従来の構成では微粒化したイオン交換樹脂を適用すると、圧力損失の増加により必要な流量を確保することができないという課題があった。
【0020】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、軟水化処理時には無通電で効率良く軟水化することで、低消費電力で軟水処理し且つガスを含まない処理水を供給し機器の安全性を確保することができると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる軟水化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した少なくとも1対の水分解イオン交換膜と、陽イオン交換樹脂とプラスチック樹脂を含有した陽イオン焼結多孔体シートと、陰イオン交換樹脂とプラスチック樹脂とを含有した陰イオン焼結多孔体シートとを備え、前記1対の電極間に、水分解イオン交換膜、陽イオン焼結多孔体シート、陰イオン焼結多孔体シート、水分解イオン交換膜の順に配置し、さらに前記陽イオン焼結多孔体シートは前記陽イオン交換面と接し、前記陰イオン焼結多孔体シートは前記陰イオン交換面と接して配置し、前記電極は陰極側と前記陽イオン交換面が対向し陽極側と前記陰イオン交換面がするように配置したことにより、陽イオン焼結多孔体シート及び陰イオン焼結多孔体シートはイオン交換樹脂を含有し連続した気孔を有する多孔質体であるので、原水中のイオン成分がシートの内部に拡散し易く軟水化工程で陽イオン交換樹脂の水素イオンとカルシウムイオン及び陰イオン交換樹脂の水酸化物イオンと塩素イオンが効率良くイオン交換される。この為、電圧印加によるイオン成分の拡散を行わなくても効率良く軟水化処理することができる。また、再生工程では電圧印加により水分解イオン交換膜の界面で水解離が起き、生成した水素イオンが陽イオン焼結多孔体シートの陽イオン交換樹脂のカルシウムイオンとイオン交換し、生成した水酸化物イオンが陰イオン焼結多孔体シートの陰イオン交換樹脂の塩素イオンとイオン交換して再生することができる。
【0022】
さらに、焼結多孔体シートはプラスチック樹脂により多孔質構造を保持した状態で微粒化したイオン交換樹脂を保持することができるので、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【0023】
こうして、軟水化処理時には無通電で効率良く軟水化することで、低消費電力で軟水処理し且つガスを含まない処理水を供給して機器の安全性を確保することができると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
軟水化処理時には無通電で効率良く軟水化することで、低消費電力で軟水処理することができ、且つガスを含まない処理水を供給して機器の安全性を確保することができると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態の軟水工程時の軟水化装置の断面図
【図2】本発明の第1の実施の形態の再生工程時の軟水化装置の断面図
【図3】本発明の第2の実施の形態の再生工程時の軟水化装置の断面図
【図4】従来の脱イオン装置の構成図
【図5】従来の電気透析槽の構成図
【発明を実施するための形態】
【0026】
第1の発明は、ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した少なくとも1対の水分解イオン交換膜と、陽イオン交換樹脂とプラスチック樹脂を含有した陽イオン焼結多孔体シートと、陰イオン交換樹脂とプラスチック樹脂とを含有した陰イオン焼結多孔体シートとを備え、前記1対の電極間に、水分解イオン交換膜、陽イオン焼結多孔体シート、陰イオン焼結多孔体シート、水分解イオン交換膜の順に配置し、さらに前記陽イオン焼結多孔体シートは前記陽イオン交換面と接し、前記陰イオン焼結多孔体シートは前記陰イオン交換面と接して配置し、前記電極は陰極側と前記陽イオン交換面が対向し陽極側と前記陰イオン交換面が対向するように配置したことにより、陽イオン焼結多孔体シート及び陰イオン焼結多孔体シートはイオン交換樹脂を含有し連続した気孔を有する多孔質体であるので、原水中のイオン成分がシートの内部に拡散し易く軟水化工程で陽イオン交換樹脂の水素イオンとカルシウムイオン及び陰イオン交換樹脂の水酸化物イオンと塩素イオンが効率良くイオン交換される。この為、電圧印加によるイオン成分の拡散を行わなくても効率良く軟水化処理することができる。また、再生工程では電圧印加により水分解イオン交換膜の界面で水解離が起き、生成した水素イオンが陽イオン焼結多孔体シートの陽イオン交換樹脂のカルシウムイオンとイオン交換し、生成した水酸化物イオンが陰イオン焼結多孔体シートの陰イオン交換樹脂の塩素イオンとイオン交換して再生することができる。
【0027】
さらに、焼結多孔体シートはプラスチック樹脂により多孔質構造を保持した状態で微粒化したイオン交換樹脂を保持することができるので、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【0028】
こうして、軟水化処理時には無通電で効率良く軟水化することで、低消費電力で軟水処理し且つガスを含まない処理水を供給して機器の安全性を確保することができると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【0029】
第2の発明は、特に第1の発明において、水分解イオン交換膜、陽イオン焼結多孔体シート、陰イオン焼結多孔体シートの順に配置した積層シートを電極間に複数備えたことにより、多量の処理量が必要な場合、陽イオン焼結多孔体シートと陰イオン焼結多孔体シートを厚膜化し大型化して処理するよりも積層シートを複数積層することでそれぞれの積層シートの水分解イオン交換膜によって焼結多孔体シートを再生することができるので、装置を大型化した場合でも効率的に再生処理することができる。
【0030】
第3の発明は、特に第1または第2の発明において、陽イオン焼結多孔体シートは強酸性陽イオン交換樹脂を含有することとしたことにより、原水の水質が酸性あるいはアルカリ性に関わらず高いイオン交換能力を有するので、原水の水質に依らず効率良く軟水化処理することができる。
【0031】
第4の発明は、特に第1または第2の発明において、陽イオン焼結多孔体シートは弱酸性陽イオン交換樹脂を含有することとしたことにより、軟水処理時のイオン交換能力は低いが、水分解イオン交換膜により生成した水素イオンが弱酸イオン交換樹脂とイオン交換
され易いので、再生工程時に陽イオン焼結多孔体シートを効率良く再生することができる。
【0032】
第5の発明は、陽イオン焼結多孔体シートは弱酸性陽イオン交換樹脂を、陰イオン焼結多孔体シートは強塩基性陰イオン交換樹脂を含有することとしたことにより、軟水化処理時に処理水中のpHをアルカリ領域へシフトするので、弱酸性樹脂を適用した場合でもイオン交換能力を向上し、より効率良く軟水化処理することができる。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態1)
図1には、本発明の第1の実施の形態の軟水工程時の軟水化装置の断面図を示す。図2には、本発明の第1の実施の形態の再生工程時の軟水化装置の断面図を示す。
【0035】
図1において、軟水化装置151は、ケーシング152内に1対の電極153が両端に設けられている。電極153はチタンに白金がメッキされたものであり、電極の耐消耗性を確保している。
【0036】
電極153の間には、1対の水分解イオン交換膜154が設けられている。水分解イオン交換膜154は、強酸性あるいは弱酸性のイオン交換基を持つ陽イオン交換面155と強塩基性あるいは弱塩基性のイオン交換基を持つ陰イオン交換面156が1枚に張り合わされた2層構造となっている。ここで、水分解イオン交換膜154は、PEあるいはPVA等の熱可塑性樹脂と溶融混合して混錬押し出し成型されて作製される。したがって、膜は緻密な構造であり、陽イオン交換面155と陰イオン交換面156の接着面積が大きい。この為、膜間に電圧印加した時の陽イオン交換面155と陰イオン交換面156の接着界面における水解離が効率良く行われる。但し、膜内部が緻密構造である為、膜内部を水が通過することはできないので、水分解イオン交換膜154のイオン交換基による軟水化あるいは脱イオン処理は比較的処理効率が低い。
【0037】
一対の水分解イオン交換膜154は、陽イオン交換面155と陰イオン交換面156が向き合うように設置されている。さらに、水分解イオン交換膜154は再生時に陽極となる電極153に対向する側に陰イオン交換面156が配置し、陰極となる電極153に対向する側に陽イオン交換面155が配置するように配置されている。
【0038】
一対の水分解イオン交換膜154の間に、強酸性陽イオン交換樹脂157とプラスチック樹脂である低密度PE158を含有した陽イオン焼結多孔体シート159と、強塩基性陰イオン交換樹脂160と低密度PE158を含有した陰イオン焼結多孔体シート161とが備えられている。陽イオン焼結多孔体シート159は水分解イオン交換膜154の陽イオン交換面155に接して配置され、陰イオン焼結多孔体シート161は陰イオン交換面156に接して配置されている。ここで、強酸性陽イオン交換樹脂157と強塩基性陰イオン交換樹脂160は粉砕加工されて微粒化しており、粒径は50〜300μmに分級されている。粒径は100μm〜250μmがさらに望ましい。低密度PE158についても同等の粒径を用いることで、イオン交換樹脂が焼結されたPE158間に保持される為、脱落することなくシート内に固定化することができる。また、通水に必要な空孔径を確保しており、低圧力損失で陽イオン焼結多孔体シート159及び陰イオン焼結多孔体シート161内部を大流量で通水することができる。
【0039】
陽イオン焼結多孔体シート159及び陰イオン焼結多孔体シート161の製造方法は、以下のプロセスで製造される。
【0040】
まず、粉砕分級した強酸性陽イオン交換樹脂157と低密度PE158を混合機で混合する。十分混合した後、樹脂混合原料を内寸0.5mm〜2.0mmの厚みの金型に投入する。そして、この金型をトンネル焼成炉あるいはバッチ焼成炉で原料品温が100〜150℃に5〜10分間保持される条件で加熱する。加熱後放冷し金型から陽イオン焼結多孔体シート159を取り出す。これで、薄厚の陽イオン焼結多孔体シート159が形成される。陽イオン焼結多孔体シート159の厚みは0.5mm〜2.0mmが望ましく、強度維持と再生を効果的に行う為には厚み1.0mmがさらに望ましい。
【0041】
陰イオン焼結多孔体シート161についても、強塩基性陰イオン交換樹脂160と低密度PE158を用いて同様の方法で製造される。
【0042】
また、軟水化装置151のケーシング152には、原水を供給する入口162と処理水を流出する出口163が開口して設けられている。
【0043】
以上のように構成された軟水化装置について、以下その動作について説明する。
【0044】
図1において、まず高硬度の原水が入口162を通じてケーシング152内に供給される。ここで、原水には硬度成分のカルシウムやマグネシウムの陽イオンが含まれており、水源が地下水を利用している地域や温泉地などでは硬度は200ppm以上の硬水となっている。また、陰イオンとしては塩素イオン、重炭酸イオン、硫酸イオン等のイオン成分を含んでいる。
【0045】
ケーシング152内に流入した原水は、陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161の内部へ流入する。そして、硬度成分のカルシウムイオン等が強酸性陽イオン交換樹脂157の強酸性イオン交換基−SOHの水素イオンとイオン交換する。一方、陰イオンの塩素イオン等は強塩基性陰イオン交換樹脂160の強塩基性イオン交換基の−NROHの水酸化物イオンとイオン交換する。こうして、陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161を通過することで硬度成分は除去されて軟水化される。ここで、陽イオン交換樹脂157は強酸性、陰イオン交換樹脂160は強塩基性である為、原水のpHに関わらず陽イオン成分と陰イオン成分をイオン交換して除去することができる。また、陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161は多孔質構造であることからイオン交換樹脂と硬度成分が接触し易い。さらに、イオン交換樹脂の粒径は100μm〜250μmに微粒化されていることから、接触面積が大きく硬度成分の除去速度が高い。また、焼結体は通水に必要な空孔径を確保しているので低圧力損失あり、焼結多孔体シート内部を大流量で通水して処理することができる。
【0046】
こうして、陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161で処理された軟水は、ケーシング152の出口163から流出し、軟水化装置151の下流側に設置される機器へ導入される。
【0047】
このように、焼結多孔体シートで高効率に硬度成分を除去することができるので、軟水化工程で通電する必要が無い為処理水中にガスは含まれない。この為、軟水が供給される下流側の機器の安全性を確保することができる。
【0048】
軟水化工程の終了後、再生工程が開始する。再生運転時、軟水化装置151の外部に設けられた弁が切り換えられ、出口163側から原水がケーシング152内に供給される。そして図2に示すように、電極153間に電圧が印加される。ここで、電極153は、水分解イオン交換膜154の陰イオン交換面156に対向する側が陽極となり、陽イオン交
換面155に対向する側が陰極となって電圧印加される。電圧を印加すると、水分解イオン交換膜154の陽イオン交換面155と陰イオン交換面156の界面中のイオン成分が減少して抵抗が高くなり、ある時点で水の解離が行われ、水素イオン及び水酸化物イオンが生成する。そして、生成した水素イオン及び水酸化物イオンは陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161の内部へ移動する。そして、軟水化時に強酸性陽イオン交換樹脂157でイオン交換されたカルシウムイオン等が、生成した水素イオンとイオン交換し再生される。一方、陰イオン交換樹脂160でイオン交換された塩素イオン等が、生成した水酸化物イオンとイオン交換し再生される。
【0049】
ここで、陽イオン焼結多孔体シート159及び陰イオン焼結多孔体シート161は厚みが1.0mmと薄厚なので、水分解イオン交換膜154で生成した水素イオン及び水酸化物イオンがイオン交換樹脂に有効に作用する。また、電極間距離を短くできるので、低電圧で再生することができる。
【0050】
そして、焼結多孔体シート内に放出された濃縮水は入口162を通じてケーシング152外へ流出し、軟水化装置151の外部に設けられた弁が切り換えられ外部へ排水される。
【0051】
以上のように、本実施の形態では、電極153と、陽イオン交換面155と陰イオン交換面156を有した1対の水分解イオン交換膜154と、強酸性陽イオン交換樹脂157と低密度PE158を含有した陽イオン焼結多孔体シート159と、強塩基性陰イオン交換樹脂160と低密度PEを含有した陰イオン焼結多孔体シート161とを備え、電極153間に、水分解イオン交換膜154、陽イオン焼結多孔体シート159、陰イオン焼結多孔体シート161、水分解イオン交換膜154の順に配置し、さらに陽イオン焼結多孔体シート159は陽イオン交換面155と接し、陰イオン焼結多孔体シート161は陰イオン交換面156と接して配置し、電極153は陰極側と陽イオン交換面155が対向し陽極側と陰イオン交換面156が対向するように配置したことにより、陽イオン焼結多孔体シート159及び陰イオン焼結多孔体シート161はイオン交換樹脂を含有し連続した気孔を有する多孔質体であるので、原水中のイオン成分がシートの内部に拡散し易く軟水化工程で陽イオン交換樹脂の水素イオンとカルシウムイオン及び陰イオン交換樹脂の水酸化物イオンと塩素イオンが効率良くイオン交換される。この為、電圧印加によるイオン成分の拡散を行わなくても効率良く軟水化処理することができる。また、再生工程では電圧印加により水分解イオン交換膜の界面で水解離が起き、生成した水素イオンが陽イオン焼結多孔体シートの陽イオン交換樹脂のカルシウムイオンとイオン交換し、生成した水酸化物イオンが陰イオン焼結多孔体シートの陰イオン交換樹脂の塩素イオンとイオン交換して再生することができる。
【0052】
さらに、焼結多孔体シートはプラスチック樹脂により多孔質構造を保持した状態で微粒化したイオン交換樹脂を保持することができるので、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【0053】
こうして、軟水化処理時には無通電で効率良く軟水化することで、低消費電力で軟水処理し且つガスを含まない処理水を供給して機器の安全性を確保することができると共に、低圧力損失で処理速度の向上を図ることができる。
【0054】
尚、本実施の形態では、陽イオン交換樹脂157は強酸性を用いた場合について説明したが弱酸性を用いてもよい。弱酸性にすることで硬度成分の除去速度は低くなるが、水分解イオン交換膜により生成した水素イオンが弱酸イオン交換樹脂とイオン交換され易いので、再生工程時に焼結多孔体シートをより効率良く再生することができる。
【0055】
また、陽イオン交換樹脂157を弱酸性、陰イオン交換樹脂160を強塩基性とすることで、軟水化処理時に処理水中のpHがアルカリ領域へシフトするので、弱酸性樹脂を適用した場合でも除去速度の低下を軽減し、より効率良く軟水化処理することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、焼結多孔体シートに用いるプラスチック樹脂158を低密度PEとしたが、高密度PE、PVA、PP等の樹脂を用いても良い。PVAは親水性を有することから、原水を焼結多孔体シート内に吸収し易く軟水化処理能力を向上することができる。
【0057】
(実施の形態2)
図3には、本発明の第2の実施の形態の再生工程時の軟水化装置の断面図を示す。
【0058】
図3において、電極153間には、水分解イオン交換膜154と陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161から成る積層シート164a、164b、164cが3層積層されており、電極153の陰極に陽イオン交換面155が対向するように水分解イオン交換膜154が配設されている。水分解イオン交換膜154及び焼結多孔体シートの材料、構成、製造方法は実施の形態1と同様である。
【0059】
以上のように構成された軟水化装置について、以下その動作について説明する。
【0060】
ケーシング152内に流入した原水は、積層シート164a、164b、164cのそれぞれの陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161の内部へ流入する。そして、実施の形態1と同様に硬度成分のカルシウムイオン等が強酸性陽イオン交換樹脂157の強酸性イオン交換基−SOHの水素イオンとイオン交換する。一方、陰イオンの塩素イオン等は強塩基性陰イオン交換樹脂160の強塩基性イオン交換基の−NROHの水酸化物イオンとイオン交換する。
【0061】
こうして、焼結多孔体シートを通過することで硬度成分は除去されて軟水化される。このように、積層シート164を複数積層することで、多量の処理量の軟水化処理することができる。
【0062】
軟水化工程の終了後、図3に示すように、電極153間に電圧が印加される。ここで、電極153は、実施の形態1と同様に水分解イオン交換膜154の陰イオン交換面156に対向する側が陽極となり、陽イオン交換面155に対向する側が陰極となって電圧印加される。電圧を印加すると、積層シート164a、164b、164cのそれぞれの水分解イオン交換膜154で水の解離が行われ、水素イオン及び水酸化物イオンが生成する。そして、生成した水素イオンは各積層シート164a、164b、164cのそれぞれの陽イオン焼結多孔体シート159へ移動し、水酸化物イオンは陰イオン焼結多孔体シート161へ移動する。
【0063】
そして、軟水化時に陽イオン交換樹脂157でイオン交換されたカルシウムイオン等が、生成した水素イオンとイオン交換し再生される。一方、陰イオン交換樹脂160でイオン交換された塩素イオン等が、生成した水酸化物イオンとイオン交換し再生される。このように、積層シート164を複数積層することでそれぞれの積層シートの水分解イオン交換膜154によって焼結多孔体シートを再生することができるので、装置を大型化した場合でも効率的に再生処理することができる。
【0064】
以上のように、本実施の形態においては、電極153間に積層シート164を複数積層することで、多量の処理量が必要な場合、陽イオン焼結多孔体シート159と陰イオン焼結多孔体シート161を厚膜化し大型化して処理するよりも積層シート164を複数積層
することでそれぞれの水分解イオン交換膜によって焼結多孔体シートを再生することができるので、装置を大型化した場合でも効率的に再生処理することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる軟水化装置は、薬剤を使わずにメンテナンスフリーで軟水化することができ、電気分解によって生成したガスがシステム内に滞留することを防止し安全性を向上することができるので、給湯機、温水暖房システム、洗濯機、浄水システムにも適用できる。
【符号の説明】
【0066】
151 軟水化装置
152 ケーシング
153 電極
154 水分解イオン交換膜
155 陽イオン交換面
156 陰イオン交換面
157 陽イオン交換樹脂
158 プラスチック樹脂
159 陽イオン焼結多孔体シート
160 陰イオン交換樹脂
161 陰イオン焼結多孔体シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内部に少なくとも一対の電極と、陽イオン交換面と陰イオン交換面を有した少なくとも1対の水分解イオン交換膜と、陽イオン交換樹脂とプラスチック樹脂を含有した陽イオン焼結多孔体シートと、陰イオン交換樹脂とプラスチック樹脂とを含有した陰イオン焼結多孔体シートとを備え、前記1対の電極間に、水分解イオン交換膜、陽イオン焼結多孔体シート、陰イオン焼結多孔体シート、水分解イオン交換膜の順に配置し、さらに前記陽イオン焼結多孔体シートは前記陽イオン交換面と接し、前記陰イオン焼結多孔体シートは前記陰イオン交換面と接して配置し、前記電極は陰極側と前記陽イオン交換面が対向し陽極側と前記陰イオン交換面がする対向するように配置した軟水化装置。
【請求項2】
水分解イオン交換膜、陽イオン焼結多孔体シート、陰イオン焼結多孔体シートの順に配置した積層シートを電極間に複数備えた請求項1記載の軟水化装置。
【請求項3】
陽イオン焼結多孔体シートは強酸性陽イオン交換樹脂を含有することとした請求項1または2記載の軟水化装置。
【請求項4】
陽イオン焼結多孔体シートは弱酸性陽イオン交換樹脂を含有することとした請求項1または2記載の軟水化装置。
【請求項5】
陽イオン焼結多孔体シートは弱酸性陽イオン交換樹脂を、陰イオン焼結多孔体シートは強塩基性陰イオン交換樹脂を含有することとした請求項1または2記載の軟水化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236171(P2012−236171A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108007(P2011−108007)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】