軟磁性フェライト、磁気回路およびインダクタンス素子
【課題】特定の方向に特に高い透磁率を有し、且つ優れた高周波特性を有する六方晶フェライトを提供する。
【解決手段】軟磁性フェライトであって、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有することを特徴とする。さらには、前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする。
【解決手段】軟磁性フェライトであって、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有することを特徴とする。さらには、前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用磁性材料に係るもので、特に数MHzから数GHzまでの高周波帯域においてチョークコイルやノイズ除去素子などの電子部品や電波吸収体に使用される六方晶フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LAN、パソコンなどの信号の高周波化に伴い、装置内部で使用される素子もまた高周波で使用可能なものが要求されている。このような要求に対し、従来用いられてきたスピネル系フェライトでは高周波帯域においてスネークの限界と呼ばれる周波数限界が存在するため使用することが困難となる。そこで六方晶系の結晶構造を有する六方晶フェライトがかかる周波数限界を超える高周波用材料として検討されている。
【0003】
六方晶系フェライトの中でも特にCoを含有したZ型フェライトおよびY型フェライトが比較的高い透磁率を有し優れた高周波特性を示すことが知られている。またCoを含有するZ型およびY型フェライトはc面を磁化容易面として持つため、成形時に外部から印加される静磁界により結晶のc面を磁場印加方向に平行になるように揃えることができる。c面を磁場印加方向に平行に揃えることで磁場印加方向の透磁率の向上を図ることが可能である(以降この操作を一方向配向とよび、磁場を印加した方向を法線に持つ面をc軸配向面と呼ぶ)。また、成形時に外部から印加する回転磁場により結晶粒子のc軸方向を揃える操作(以降この操作を面配向と呼び、この操作が行なわれた面を配向面と呼ぶ)を行うことが可能である。面配向を行うことにより、配向面内の透磁率の向上を図ることが可能である。
【0004】
特許文献1では回転磁界を印加することにより、Z型フェライトを面配向できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭35−11280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1ではZ型フェライト結晶を面配向させ、配向面内の比透磁率が30である面配向したZ型フェライトの焼結体が得られたとの記述がある。しかしながらスピネルフェライトに比べ高い共鳴周波数を持つZ型フェライトであってもその共鳴周波数は約1GHzに存在し、それより高い周波数では比透磁率は著しく減衰し、1GHz以上の高周波帯域で使用するには十分なものとはいえなかった。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、高い透磁率を高周波帯域まで維持し、周波数特性に優れた軟磁性フェライト、さらにはそれを用いた磁気回路およびインダクタンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性フェライトは、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有することを特徴とする。反磁界係数が0より大きいとは、反磁界が生じる形状を意味し、周方向に面配向して閉磁路を構成しているリング形状のようなものを除く趣旨である。c面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、該方向の反磁界係数が0より大きくなる形状とすることによって、該方向の透磁率が反磁界係数が0の場合に比べて、より高周波側まで維持される。
【0009】
また、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向していることが望ましい。かかる構成は、一方向の直流磁界を印加してフェライト粒子を配向させた場合に得られる構成であり、簡易な方法で得られる低コスト化に有利な構成である。
【0010】
さらに、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向していることが望ましい。かかる構成にすることで、前記他の一の方向に垂直な面内の任意の方向に透磁率の周波数特性向上の効果が得られるため、使用される磁気回路における配置の自由度が上がる。
【0011】
さらに、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする。反磁界係数が0より大きくなるような形状を採用することによって透磁率の周波数特性を向上させることができ、該向上の指標としてのfa70/fp70が1.2以上となれば、前記一の方向の透磁率の周波数特性に特に優れた軟磁性フェライトを提供することができる。
【0012】
さらに、前記軟磁性フェライトはZ型フェライトであり、前記一の方向の比透磁率実数部の絶対値が3GHzで6以上であることを特徴とする。前記構成によって前記一の方向の透磁率の周波数特性を改善し、従来の概念のZ型フェライトでは実現できなかった3GHzで6以上の透磁率を実現することが可能である。これによって従来のZ型フェライトでは、適用できなかった1GHzを超える高周波領域での使用が可能となる。
【0013】
本発明の磁気回路は、前記軟磁性フェライトを用いた磁気回路であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする。軟磁性フェライトの透磁率の周波数特性が向上した方向を磁気回路の磁路方向とすることで、磁気回路をより高い周波数まで機能させることができる。
【0014】
本発明のインダクタンス素子は、軟磁性フェライトを用いたインダクタンス素子であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする。軟磁性フェライトの透磁率の周波数特性が向上した方向を磁路方向として用いることにより、より高い周波数まで高いインピーダンスを発現するインダクタンス素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い透磁率を高周波帯域まで維持し、周波数特性に優れた軟磁性フェライトを提供することができる。本発明の軟磁性フェライトを使用することにより、より高い周波数まで使用可能な磁気回路、およびチョークコイル、インダクタ、電波吸収体、磁性アンテナ、カレントトランスなどのインダクタンス素子を提供することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の軟磁性フェライトについて六方晶Z型フェライトの焼結体の実施形態によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明に係る軟磁性フェライトは、本発明において特に規定する以外は、フェライトの製造に適用される通常の粉末冶金的方法によって製造することができる。通常の粉末冶金的方法とは以下のとおりである。例えば素原料を湿式のボールミルにて混合し、電気炉などを用いて仮焼することにより仮焼粉を得る。また得られた仮焼粉を湿式のボールミルなどを用いて粉砕し、得られた粉砕粉をプレス機により成形し、例えば電気炉などを用いて焼成を行い、六方晶Z型フェライト焼結体を得る。
【0017】
本発明においては、前記成形に供する粉砕粉を、例えば以下のようにして作製する。上述のようにして得られた焼結体をジョークラッシャーやディスクミルなどを用いて粉砕し、粗粉を得る。得られた粗粉は振動ミル、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕を行い、微粉を得る。得られた微粉に水を加えてスラリーとし、磁界を印加しながらプレスする。得られた成形体を乾燥処理した後、再焼結しフェライト焼結体を得る。
【0018】
以下、本発明に係る軟磁性フェライトについて具体的に説明する。本発明では、c面を磁化容易面とするフェライトを対象とする。軟磁性フェライトのうち、磁化容易面を有するものは、その性質を利用して配向させて異方性を持たせることが可能である。磁化容易面を有する軟磁性フェライトとしては、六方晶Z型フェライト、六方晶Y型フェライトがある。これらはc軸に垂直なc面を磁界容易面として持つ。かかる軟磁性フェライトの結晶粒が、そのc面が一の方向に平行になるように配向している状態が本発明に係る軟磁性フェライトの特徴の一つである。かかる構成を具現できる軟磁性フェライトの代表的な態様は、軟磁性フェライト焼結体である。すなわち軟磁性フェライト焼結体を構成する結晶粒が、そのc面が一の方向に平行になるように配向していればよく、結晶粒が大きくなり一つの結晶粒で構成されている状態は単結晶フェライトに相当する。六方晶Z型フェライトおよび六方晶Y型フェライトは代表的にはそれぞれBa3Co2F24O41、Ba2Co2F12O22で表される。また、軟磁性フェライトである六方晶Z型フェライト焼結体および六方晶Y型フェライト焼結体は、かかる六方晶Z型フェライト相または六方晶Y型フェライトを含む焼結体である。Baの一部をSrで置換したり、Coの一部をCu、Zn、Niのうち少なくとも一種で部分的に置換することも可能である。六方晶Z型フェライト焼結体では、前記Z相以外の他の六方晶フェライト相(W相、Y相、M相)、スピネル相、BaFe2O4相などの異相を一部に含んでいても良い。高い焼結体密度を得るうえでは、17〜21mol%のBaO、6〜13mol%のCoO、残部Fe2O3を主成分とすることが好ましい。一方、六方晶Y型フェライト焼結体では、前記Y相以外の他の六方晶フェライト相(W相、Z相、M相)、スピネル相、BaFe2O4相などの異相を一部に含んでいても良い。さらに、前記主成分に対してLiをLi2CO3換算で0.05〜1.0質量%含有させることが好ましい。前記主成分組成範囲と前記Liの含有は、焼結体の高密度化に好適である。
【0019】
六方晶Z型フェライト焼結体の場合、LiとSiを複合的に含有させてもよい。Siと共にLiを含有させる場合には、特有の焼結体密度向上と透磁率向上の相乗効果が得られる。Siは少量でもLiとの複合含有効果、体積抵抗率増加の効果を示すがSiO2換算で0.05質量%未満ではこれらの実質的な効果が発揮されず、一方0.5質量%を超えると体積抵抗率が改善されなくなるとともに、透磁率および焼結体密度の低下を招くので0.05〜0.5質量%の範囲が好ましい。Liと複合で前記範囲のSiを含有させることにより、焼結体密度を4.95×103kg/m3以上、体積抵抗率を104Ω・m以上としつつ、Li含有による初透磁率向上効果を発揮させることができる。さらに、体積抵抗率向上のために、二価の金属イオンとしてMnをMn3O4換算で0.05〜5質量%含有させてもよい。
【0020】
次に、本発明に係る軟磁性フェライトの構成について、六方晶Z型フェライト焼結体を例にしてさらに詳述する。本発明に係る配向した軟磁性フェライトは、例えば下記に詳述する一方向配向、面配向によるものに分けることができるが、本発明の内容はこの2種類の配向方法に限定されるものではなく、特定の方向に高い透磁率を示すような異方性を持つ軟磁性フェライトであれば本発明の効果は発揮される。軟磁性フェライトを構成する全ての結晶粒が完全に一方向配向または面配向している必要はなく、配向の乱れは許容する。例えば、後述するように磁界によって配向させる場合、配向性は印加磁界強度に依存するが、六方晶Z型フェライト焼結体が、X線回折上、一方向配向または面配向の傾向を示していればよい。
【0021】
一方向配向とは、c面が一の方向に平行に配向しているが、その法線であるc軸の配向性は問わない配向であり、一軸性の磁界、すなわち直流磁界によって配向した場合がこれに相当する。この場合c軸は前記一の方向に垂直な平面方向を向いており、代表的には該面内方向にランダムに向く。一方向配向の場合の配向度合いは下記のようにX線回折パターンにて確認することができる。まず、六方晶Z型フェライト焼結体の一平面のX線回折パターンにおいて、2θ=20〜80°の測定範囲範囲に含まれる、六方晶Z型フェライトに由来する全ての回折ピークの積分強度和をとってΣI(HKL)とし、前記範囲に含まれるL=0であるすべての(HK0)面の回折ピークの積分強度和をとってΣI(HK0)とする。すなわち、ΣI(HKL)は、20°〜80°の2θ全体にわたって六方晶Z型フェライトの回折ピークを積分したものである。なお、I(HKL)は、指数(HKL)で表される格子面からの回折ピークの積分強度を示す。ここでは、I(HKL)として、(HKL)面の回折線のピーク角度をθ(HKL)とした時、θ(HKL)−0.4°からθ(HKL)+0.4°までの範囲で積分した値を用いている。上記、ΣI(HKL)およびΣI(HK0)から配向度fc⊥を定義する。配向度fc⊥はfc⊥=ΣI(HK0)/ΣI(HKL)で与えられる。この配向度fc⊥が大きい、すなわち、分子のΣI(HK0)が大きいということは、X線回折を行っている面では、c軸が該面方向を向いている結晶粒が多いということを示している。六方晶Z型フェライトの中でもBa3Co2Fe24O41で表されるような組成ではc軸に垂直な方向、すなわちc面が磁化容易面となるので、c軸がX線回折を行っている面方向を向いている結晶粒が多いということは、該面に垂直な方向の透磁率が高くなるということを意味する。
【0022】
前記配向度fc⊥を0.4以上とすると、X線回折を行っている面に垂直な方向の透磁率が特に高くなる。なお、本発明においては、かかる配向度を有する面をc軸配向面と称している。より好ましくは、0.45以上である。より多くの結晶粒のc軸がX線回折を行っている面方向に向いていることが好ましい。理想的な状態として、全ての結晶粒のc軸がX線回折を行っている面方向に向いている状態を図1に示す。図1から明らかなように、各結晶粒のc面は、X線回折を行っている面に垂直になっている。この場合磁化容易面であるc面がX線回折を行っている面に垂直でありさえすれば、c軸の方向がどちらを向いていてもX線回折を行っている面に垂直な方向の透磁率は高くなることがわかる。この場合にさらにc軸の方向も一の方向に揃えた状態が特許文献1にあるような面配向させた場合に相当する。すなわち、面配向とは、c軸が一方向に揃っているため、c面が一の面内方向に平行に揃っている配向状態である。回転磁界によって配向した場合がこれに相当する。
【0023】
上記特定の方向にc面を平行配向させた一方向配向の場合と面配向とを区別するために以下のようなX線回折による評価を行えばよい。図1のようにX線回折を行っている面に垂直な方向にc面が配向(c面が該方向に平行)しているとともに、該方向に垂直な面方向において、c軸がランダム状に向いている状態を判断する指標として、少なくとも、前記c軸配向面(上述のX線回折を行っている面に相当)に垂直で且つ互いに垂直な2つの面において、X線回折におけるfc//=I(0018)/I(110)から算出される配向度fc//を採用する。該配向度fc//が0.3以上という構成が好ましい。該配向度fc//が大きいということは、観察面に垂直な方向にc軸が向いた結晶粒が多いということを示している。これが、少なくとも互いに垂直な2つの面において満たされることによって、c軸がランダムに向いていることを担保している。このようにすることによって、c軸配向面に平行な方向においても、高い透磁率を得ることができる。c軸配向面に垂直な方向の透磁率に対する比においても、0.25以上とすることも可能であり、透磁率のバランスに優れた六方晶Z型フェライト焼結体が提供できる。面配向の場合は、c軸配向面に垂直な一面(面配向方向の面)ではfc//0.3以上を満たす可能性があるが、互いに垂直な2つの面においてfc//0.3以上を満たすことはできない。
【0024】
前記のような条件を満たすc軸配向面を六方晶Z型フェライト焼結体が有していればよい。焼結体が直方体である場合には、例えば、その表面のうちの一つの面においてX線回折を行って配向度fc⊥を評価した結果、該面がc軸配向面となれば、それと直角をなす、互いに垂直な2つの他の表面において配向度fc//を評価すればよい。
【0025】
また本発明では上記のような一方向配向の方法に加え次に詳述する面配向と呼ばれる配向によってもその効果を充分発揮することができる。一方向配向は、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒の該c面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性に加えて、該一の方向に垂直な面内方向のうち一の方向にc軸が配向している構成である。
【0026】
高い透磁率および高い焼結体強度を得るためには、六方晶Z型フェライト焼結体の密度を4.7×103kg/m3以上とすることが好ましく、5.0×103kg/m3以上の焼結体密度がより好ましい。
【0027】
上述のように配向性の向上により透磁率を改善した六方晶Z型フェライトは、組成や組織などの他の因子を制御して透磁率の向上を図った場合に比べて、透磁率の周波数特性においても有利である。他の因子を制御して透磁率の向上を図る場合は、磁気異方性等も変化するため、周波数特性が劣化し、より低い周波数で透磁率が低下してしまう。これに対して、配向性を制御して透磁率の改善を図る場合は、磁気異方性は変化していないので、周波数特性に与える影響が小さくなる。
【0028】
また、透磁率の周波数特性が向上の観点からは、焼結体の平均結晶粒径を3〜50μmの範囲とすることが好ましい。ここで焼結体の結晶粒径は、観察した結晶粒の内部に引くことのできる線分の内、最も長いもの(最大径)を長軸とし、長軸に直交し結晶粒の内部に引くことのできる線分の内、最も長いものを短軸とし、短軸および長軸の平均を個々の粒子の結晶粒径とした。平均結晶粒径は、任意の100個の粒子を評価しそれらの平均をとって求めればよい。
【0029】
上述の配向した六方晶Z型フェライト焼結体は、例えば以下に示す六方晶Z型フェライト焼結体の製造方法を用いて得られる。すなわち、比表面積が800〜4000m2/kgの範囲内である六方晶Z型フェライト粉末を一軸性の磁界中で成形を行い成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結する焼成工程とを経て、六方晶Z型フェライト焼結体を得る。通常、フェライト粉末は、焼結性を上げるため細かく粉砕したものを用いる。これに対して、本発明に係る六方晶Z型フェライト焼結体の製造方法では、六方晶Z型フェライト粉末の比表面積を800〜4000m2/kgに制御することが好ましい。これによって、高配向性、高透磁率を実現する。前記比表面積が小さすぎると焼結体密度が上がりにくく、配向性も低い。一方、比表面積が大きすぎると配向が低下する他、粗大粒が発生しやすくなる。
【0030】
成形方法としては、加圧成形、押出し成形、射出成形などを用いることができるが、特に簡便な加圧成形が望ましい。加圧成形の場合、磁界印加方向と加圧方向が平行である縦磁場成形法や、磁界印加方向と加圧方向が直角である横磁場成形法などを用いることができるが、高い配向を得るためには横磁場成形法が好ましい。また面配向材を作製する場合も同様であるが、この場合加圧方向と回転磁界の方向が直交していることが望ましい。
【0031】
配向は磁界中成形によって行う。磁界の印加方法は、上述のように一軸性の磁界、または回転磁界などを用いればよい。また、成形は、乾粉状の粉末を用いる乾式成形で行うことも可能であるが、配向性を上げるためには、六方晶Z型フェライト粉末を水などの媒体と混合して得られたスラリーを用いる湿式成形で行うことが好ましい。媒体として水の種類は、これを特に限定するものではないが、例えば安価な水道水を用いればよい。また、イオン交換水や蒸留水などを用いて不純物イオンの低減を図ることもできる。スラリー濃度、すなわちスラリー中の六方晶Z型フェライト粉末の重量割合は、85wt%以下とすればよい。85wt%超となると粒子間の摩擦が増加し、粒子の回転が十分行なわれず、配向度が低くなるためである。高い配向を得る観点からは、前記スラリー中の六方晶Z型フェライト粉末の濃度を65wt%以下として成形を行うことがより好ましい。一方、該スラリー濃度は、50wt%以上とすることが好ましい。50%未満だと成形時に脱水のため多くの時間がかかり生産性が低下するからである。また、金型キャビティ内で磁界を印加しながら乾粉状またはスラリー状の前記六方晶Z型フェライト粉末を攪拌した後に、成形すると、六方晶Z型フェライト粉末の凝集を解き、配向性をいっそう高めることができる。
【0032】
また、スラリーを用いた加圧による湿式成形法の場合、スラリーの供給法としては、磁界印加中に金型キャビティ内へスラリーを加圧注入する方法でもよいし、キャビティ内にスラリーを投入後磁界を印加する方法でもよい。スラリー中の媒体は、加圧する際にキャビティに形成される脱水孔やクリアランスから除去される。成形後の六方晶Z型フェライト粉末、すなわち成形体は、十分乾燥後焼結に供される。
【0033】
前記六方晶Z型フェライト粉末は、通常のプロセスのように粉末の状態で仮焼を行い、粉砕することによって得ることも可能であるが、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して得る方法が粉砕性の観点から好ましい。配向するためには、六方晶Z型フェライト粉末を構成する粒子は、単結晶であることが好ましい。この点、焼結体においては粒成長が進んでいるため、該焼結体を粉砕すれば単結晶である粒子を多く含んだ粉末を得やすい。したがって、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して粉末を得る方法は、磁界中配向に好適な粉末調整方法である。この場合、かかる粉砕に供する六方晶Z型フェライト焼結体の平均結晶粒径は5〜200μmであることが好ましい。なお、通常のプロセスのように仮焼後の粉末を粉砕した六方晶Z型フェライト粉末を用いて成形することも可能であるが、この場合も仮焼後の粉末における六方晶Z型フェライトの平均結晶粒径が5〜200μmであることが好ましい。さらに、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して粉末を得る方法、仮焼後の粉末を粉砕した六方晶Z型フェライト粉末を用いる方法も含めて、いずれにおいても、成形に供する粉末は実質的に六方晶M型フェライト相を含有しないことがより好ましい。六方晶M型フェライト相は、c軸を磁化容易軸とする一軸異方性を示し、一軸性の印加磁界方向に配向してしまい、焼結において六方晶Z型フェライト相に変わっても、本発明に係る配向状態とは異なる配向状態(面配向)を生じるからである。ここで、実質的に六方晶M型フェライト相を含有しないとは、X線回折において、六方晶Z型フェライトの強度最大のピークである(1016)ピークの強度に対する、六方晶M型フェライトのピークである(006)ピークの強度の比が5%以下であることをいう。また、軟磁性フェライトは、六方晶Z型フェライトとY型フェライトの混相であってもよいが、特性ばらつきを抑えるためには、Z型フェライトまたはY型フェライトを主体として構成されていることが好ましい。六方晶Z型フェライトを主体とする場合は、成形に供する粉末は実質的にY型フェライトおよびスピネルフェライトも含まない六方晶Z型フェライトであることが特に好ましい。実質的にY型フェライトおよびスピネルフェライトも含まないとは、六方晶Z型フェライトの強度最大のピークである(1016)ピークの強度に対するY型フェライトの(0012)ピークの強度の比が5%以下であり、スピネルフェライトの(440)のピークの強度の比が7%以下であることをいう。一方、六方晶Y型フェライトを主体とする場合は、成形に供する粉末は実質的にZ型フェライトおよびスピネルフェライトも含まない六方晶Y型フェライトであることが特に好ましい。実質的にZ型フェライトおよびスピネルフェライトも含まないとは、六方晶Y型フェライトの強度最大のピークである(110)ピークの強度に対するZ型フェライトの(1016)ピークの強度の比が5%以下であり、スピネルフェライトの(440)のピークの強度の比が7%以下であることをいう。
【0034】
上記のように磁界中成形して得られた六方晶Z型フェライトの焼結体は、表面付近に配向の乱れが生じる場合がある。したがって、表面を加工で除去することで、焼結体全体において配向度の高い部分の割合が増え、高い透磁率を得る上で有利である。また表面を加工で削除することは、焼結体内における配向、ひいては透磁率のばらつきを抑制することにつながる。加工は、焼結体の少なくとも一部が加工されていればよい。研磨、切断いずれによる加工面であっても、表面を削除することになる。
【0035】
上記のようにして作製した、結晶を配向させた六方晶フェライトの焼結体をダイサー、スライサーまたは平行研削機などを用いて0より大きい反磁界係数が生じ得る形状に加工する。加工する形状は例えば、直方体、立方体、薄板形状、円柱棒、角柱棒に加え、ギャップが挿入されたリング形状など、使用する磁路に対し、0より大きな反磁界係数が発生するような形状であればどのような形状でも構わない。このような形状で用いることにより、Z型フェライトの優れた透磁率の周波数特性がより一層、高周波側まで使用な可能なものとなる。
【0036】
上記のように加工された、配向した六方晶フェライトの焼結体の中でも特に無反磁界での評価を行ったとき高い透磁率が得られた方向が磁路に沿うように用いることが特に望ましい。これは例えば一方向配向の、磁場印加方向に相当する。または面配向の場合では配向させた面内の方向を用いることに相当する。面配向の場合は環状面が配向面と平行になるようなリング試料に磁路を横断するギャップを設けても良い。また上記のように面配向、一方向配向のみではなく、c面が磁路に沿うように配向していれば、その磁路を妨げるような反磁界が発生するような形状であればよい。これによって透磁率の周波数特性が大きく改善される。本発明は、このように結晶粒のc面が一の方向に平行になるように配向した軟磁性フェライトにおいて、反磁界が生じる形状にしたときに周波数特性が向上し、さらに該周波数特性向上の効果に顕著な異方性があるという知見に基づくものである。c面が少なくとも一の方向に平行になるように配向している該一の方向と、反磁界が生じる方向とを一致させること、言い換えれば無反磁界での評価で透磁率の高い方向、すなわち成形時の磁界印加方向に反磁界を導入することが、透磁率をより高周波側まで維持することに関し極めて効果的であることを見出した。すなわち無反磁界での評価において透磁率の低い方向にギャップを設けるなどの加工を行った場合に比べ極めて大きな周波数特性向上効果が得られることを見出したものである。c面が、使用する磁路に対し平行に配向している場合、磁路に対し実効的に反磁界を生じさせうる形状で使用することで、特に顕著な効果が得られる。かかる構成を用いれば、一の方向において共鳴周波数以上の帯域においても高い透磁率を有する六方晶フェライトを提供することも可能となる。
【0037】
上記のように配向方向によって反磁界が与える効果が異なる理由については未だ明らかではないが、反磁界の導入によりc面が平行である方向のみ磁壁の移動といった周波数特性を悪化させる透磁率成分が除去され、回転磁化による磁化のモードが支配的になるためと推測される。このような現象は以下に実施例として示した一方向配向したZ型フェライトおよび面配向したZ型フェライトに加え、同じく磁化容易面を持つY型フェライトにおいても生じる。また、六方晶フェライトのような磁化容易面を有する軟磁性フェライトだけでなく同様の結晶磁気異方性が巨視的に発現する例えば薄い円板状の金属磁性粉が配向した圧粉体や結晶配向した薄膜、または磁化容易面を持つ単結晶などでも同様な効果が生じうる。また本発明は材料が高密度化しても回転による磁化のモードが支配的であり、特に高密度化した試料において飽和磁化が増加し、透磁率も増加する。例えば理論密度の90%以上で用いることが更に望ましい。
【0038】
上記のように、使用する磁路に対し配向した六方晶フェライトの反磁界係数は0より大きい方が好ましい。透磁率の周波数特性向上の観点からは、反磁界係数は0.005より大きく、0.3以下であることがより好ましい。これは0.005以下では本発明が提供する高周波化の効果が発揮されにくいためであり、周波数特性向上の観点からは上限は特に定めないが、0.3以下であることが望ましい。これは使用する磁路に対し反磁界係数が0.3を超えると得られる透磁率の絶対値自体が極端に低下してしまうためである。反磁界係数が0.005より大きく、0.3以下であるために例えば円板、角板などの薄板形状にて板面内の方向を磁路方向として用いることが望ましい。また円柱棒や角棒などの棒形状にて長手方向を磁路方向として用いれば所望の反磁界係数を得ることができる。またはこれらに類する形状であっても実効的な反磁界係数が上記の範囲にあればよい。面配向の場合は無反磁界での評価にて透磁率の高い方向が配向面内の任意の方向に存在するので、環状面が配向面と平行となるようなリング形状またはそれに類する形状に磁路を横断するギャップを挿入しても前記効果が発揮される。このように配向された異方性フェライトの配向方向と形状との関係を制御することによって、同一の材料を用いているにもかかわらず、該材料の材料特性として捉えられている水準を超える透磁率の周波数特性を実現できるのである。これにより、例えば従来六方晶Z型フェライトでは、適用が困難と考えられていた2GHz以上、さらには3GHz以上での使用を可能とする。
【0039】
反磁界係数は以下のようにして算出する。直方体形状の軟磁性フェライトのうち、測定方向をX方向、板面垂直方向をZ方向、X,Zに共に直交する方向をY方向とし、測定方向の反磁界係数をNx、測定方向の試料寸法をL、板面厚さをT、Y方向の寸法をWとして、
Nx=T/(L(1+(T(1+L/W)/L)))
として近似する。本関係式を用いることにより例えば薄い直方体板、直方体などの反磁界係数を算出することができる(参考文献:Journal of Applied Physics, Volume 94, Number 6, P4013-4017 )。
【0040】
本発明の六方晶Z型フェライトを作製することにより、100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をf70としたとき、一方向配向の場合は磁場印加方向である一の方向のf70をfa70とし、磁場印加方向である該一の方向に直交する方向におけるf70をfp70としたときfa70/fp70として1.2以上の値を得ることができる。磁場印加方向である該一の方向に直交する方向は、面方向になるが、最も低いf70を示す方向との関係でfa70/fp70として1.2以上が得られればよいので、そのいずれかの方向でfa70/fp70として1.2以上を満たせばよい。また同様に面配向の場合は、磁場印加方向である配向面内方向のうちの一の方向のf70をfa70とし、該一の方向に直交する方向におけるf70をfp70としたときfa70/fp70として1.2以上の値を得ることができる。面配向の場合、fp70を取る方向は配向面方向に直交する方向の他、配向面内にも該方向を取りうるが、最も低いf70を示す方向との関係でfa70/fp70として1.2以上が得られればよいので、前記一の方向に直交する方向のいずれかの方向で、少なくともfa70/fp70として1.2以上を満たせば、前記条件は満たされる。fa70/fp70が大きいということは、磁場印加方向によって、周波数特性の伸びの変化が異なり、磁界印加方向である一の方向の伸びが特に大きいことを示している。fa70/fp70が1.2以上となれば、磁界印加方向である一の方向の周波数特性の伸びの効果が十分な有意差として発揮されるため、該周波数の伸びを利用して、従来想定されていた使用周波数を超える周波数帯域への適用を可能とする。このことは、材料設計を変えることなく、周波数特性を制御できるという利点も有する。さらに好ましい態様として、配向方向と形状の使用方向を適正化することによってfa70/fp70の値が1.5以上、さらには2.0以上とすることも可能であり、周波数特性を顕著に改善することができる。
【0041】
また、前記構成を具備する本発明に係る六方晶Z型フェライトにおいては、f70が1GHz以上の優れた値が得られる。一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向している一方向配向の場合、反磁界係数を0.03以上とすることでf70は1.5GHz以上となり、周波数特性がより向上する。また、一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向している一方向配向の場合、および前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向している面配向の場合とも、反磁界係数を0.05以上とすることによりf70は2.0GHz以上の更に高い値が得られるようになる。なお、3GHzまでの比透磁率実数部の絶対値はキーコム株式会社製の(高周波磁性材料測定システム)を用いて、ワンターンコイル法の原理で測定したものを用いている。
【0042】
本発明の軟磁性フェライトは、例えば磁気回路用、インダクタンス素子用の磁性コアとして用いることができ、磁性コアとして優れた周波数特性を示す。結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるように配向した軟磁性フェライトを上記のような形状にして、該一の方向が磁束が流れる磁路方向となるようにして高周波用の磁気回路やインダクタンス素子を構成すれば、極めて優れた周波数特性を示す。磁気回路やインダクタンス素子におけるかかる使用方法によれば、配向した軟磁性フェライトの周波数特性を効果的に利用することができる。例えば、インダクタやチョークコイル、磁性アンテナやカレントトランスなどに用いることができる。
【実施例】
【0043】
先ず、主成分組成がFe2O3:70.2mol%、BaO:18.8mol%、CoO:11.0mol%のような割合となるよう、Fe2O3、BaCO3、Co3O4を秤量し、この主成分に対しMn3O4:3.0質量%、Li2CO3:0.4質量%、SiO2:0.13質量%の割合になるようにMn3O4、Li2CO3、SiO2をそれぞれ添加し、湿式ボールミルにて16時間混合した。なお、Mn3O4、Li2CO3、SiO2については仮焼後に行う粉砕時に加えてもよい。次にこれを大気中1200℃で2時間仮焼した。この仮焼粉を湿式ボールミルにて18時間粉砕した。作製した粉砕粉にバインダー(PVA)を添加し、造粒した。造粒後圧縮成形し、その後、酸素雰囲気中1300℃で3時間焼結した。得られた焼結体をジョークラッシャーで砕きディスクミルにて粗粉砕を行い、粗粉砕粉を得た。更に粗粉砕粉を振動ミルにて3時間粉砕した。粉砕後、得られたスラリーを沈降が生じるまで静置し、上澄み液を除去しスラリー濃度が73%になるように調整した。スラリーを乾燥させた粉体をXRDにより評価したところ、この粉体はほぼZ型単相であり、Y型フェライトの(0012)のピーク、M型フェライトの(006)ピークおよびスピネルフェライトの(440)のピークのZ型フェライトの(0016)のピークに対する強度比は何れも3%以下であった。また、Macsorb社製Model−1201を用いてガス吸着法(BET法)により、この粉砕粉の比表面積を評価したところ粉体比表面積は2350m2/kgであった。上記のように作製したスラリーを磁界中で湿式成形した。ここで成形圧は87.5MPaとし、0.85MA/mの1軸性の磁界をプレス方向と直交する方向に印加した。本成形方法を成形方法1と呼ぶ。得られた成形体を再度上記焼結と同条件にて再焼結し、約10mm角の立方体状焼結体を得た。以降、磁界印加方向をH方向と呼び、H方向の透磁率をμH、H方向を法線に持つ面をH−planeと呼び、同様にプレス方向の場合はP方向、μP、P−plane、磁界印加方向及びプレス方向に共に直交する方向の場合はL方向、μL、L−planeと呼ぶことにする。さらに、スラリーを、回転磁界中で湿式成形した。ここで成形圧は29.1MPaとし、0.48MA/mの回転磁界をプレス方向と直交する方向に印加した。回転磁界を印加後、1軸性の磁界を成形方向と直交させる方向に印加しながら成形した。本成形法を成形方法2と呼ぶ。得られた成形体を1310℃で焼結し、40×40×7mm3の焼結体を得た。以降、成形方法2にてプレス中に印加した1軸磁界印加方向をH方向と呼び、H方向の透磁率をμH、H方向を法線に持つ面をH−planeと呼び、同様にプレス方向の場合はP方向、μP、P−plane、1軸磁界印加方向及びプレス方向に共に直交する方向の場合はL方向、μL、L−planeと呼ぶことにする。
【0044】
成形方法1および成形方法2にて作製した焼結体は1軸性の磁界を印加した磁界印加方向を法線に持つ断面が得られるように試料を切断し、切断面におけるX線回折(XRD:X ray diffraction)測定を行い、配向度fc⊥を評価した。すなわち、2θ=20〜80°の測定範囲でXRDを行い、得られたX線回折パターンにおいて、六方晶Z型フェライトの全ての回折ピークの積分強度和をΣI(HKL)とし、L=0であるすべての(HK0)の回折ピークの積分強度和をΣI(HK0)とした。fc⊥=ΣI(HK0)/ΣI(HKL)の式から配向度fc⊥を算出した。一方、プレス方向を法線に持つ断面並びに磁場印加方向およびプレス方向に直行する方向を法線に持つ断面が得られるように試料を切断し、これらの切断面におけるXRD測定を行い、fc//を評価した。これらの面は、上述の磁界印加方向を法線に持つ断面に垂直で且つ互いに垂直な2つの面となる。ここで定義する配向度fc//とはZ型フェライトの指数(0018)の格子面から生じる回折ピーク強度を指数(110)の格子面から生じる回折強度で除した値である。
【0045】
比較用試料として等方性のスピネルフェライトであるNi−Znフェライトも作製した。本試料は等方的なのでリング形状の試料を成形、焼結しインピーダンスメータ4291B(Agilent社製)にて10MHz〜1.8GHzまでの無反磁界での複素透磁率の周波数特性を測定した。本試料の100MHzでの比透磁率実数部は14.3であった。本試料を比較例1とする。
【0046】
上記のように作製された成形方法1および成形方法2によって作製された配向型Z型フェライトの焼結体密度、配向度を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
成形方法1にて作製した試料はL−plane、P−planeともにfc//が1.4以上であり、磁界印加方向に直角の方向(c軸配向面に平行な方向)においてもc軸がランダムに向いており、c軸配向面内における配向の異方性の小さい一方向配向した六方晶Z型フェライト焼結体が得られている。一方で、成形方法2にて作製した試料のP−planeのfc//はI(0018)が非常に強く観測され(110)面の回折ピークが(0018)面の回折ピークに隠れ評価することができなかったが、fc//が0.3を超えることは明白であった。またH−planeにおけるfc⊥は0.7以上である。一方でL−planeにおけるfc//は0.1以下の小さい値となり、P−planeのfc//と比べると小さく、H面内においてc軸は特定の方向に集中して向いていることが確かめられた。このことから成形方法2によって作製された焼結体は面配向していることが確かめられた。
【0049】
成形方法1および成形方法2により作製した六方晶Z型フェライト焼結体の、反磁界が生じない形状における、一方向の比透磁率の周波数特性は以下に述べる手法にて評価した。すなわち、磁界配向させたフェライト焼結体の一方向の透磁率は、リング試料では単純に測定できないため、リング環状面がH−plane、P−planeまたはL―planeに平行な3つのリング試料を切り出し、これらのリング試料の透磁率測定結果からH方向、P方向およびL方向の透磁率を算出した。
【0050】
評価手法に触れる前に、必要な関係式を導出する。異方性の存在する磁性板の板面に沿った縦方向、横方向をそれぞれY方向(例えばP方向)、X方向(例えばH方向)と定義し、該磁性板から外径と内径との差が充分小さいリング試料を切り出し、該リング試料にN回巻線を施し、巻き線に電流Iを流して初透磁率を測定すると仮定する。なお、リング試料の断面積はSとする。図2のように原点にリング試料をθ、rを定義すると、下記式が得られる。
【0051】
【数1】
【0052】
また、リング試料からの磁束の漏洩が無いものとし、リング試料内部の磁束密度ベクトルの大きさが一定であるとすると下記式が得られる。
【0053】
【数2】
【0054】
ここでX方向の透磁率、Y方向の透磁率をそれぞれμx、μyとおけば(μx、μyおよび下に示すμxyplaneは比透磁率とする。)
【0055】
【数3】
【0056】
数1〜数3の式とアンペールの法則から
B0=(1/μx+1/μy)−1×NI/πr (式4)
の関係が得られる。ここで自己インダクタンスLは鎖交する磁束と電流との比であるから、
、式4の関係を用いて、
L=NΦ/I=NB0S/I=S(1/μx+1/μy)−1×N2/πが得られる。真空中(μx=μy =1)の場合は、L0=SN2/2πrであるから、リング試料から観測される透磁率をμxyplaneとおくと
μxyplane=L/L0=2×(1/μx+1/μy)−1 (式5)
の関係が得られる。
【0057】
式5のような関係を考慮し、環状面がH−plane、L−planeまたはP−planeになるように3種類のリング試料を切り出し、インピーダンスメータ4291B(Agilent社製)にて10MHz〜1.8GHzまでの複素比透磁率(μH−plane、μL−plane、μP−plane)を測定した。試料の寸法は、外形6.8mm、内径3.2mm、厚さ1.5mmとした。測定値から以下の式を用いて各方向の透磁率を算出した。
μH ={(-1/μH−plane)+(1/μL−plane)+(1/μP−plane)}-1
μL ={(1/μH−plane)+(-1/μL−plane)+(1/μP−plane)}-1
μP ={(1/μH−plane)+(1/μL−plane)+(-1/μP−plane)}-1
以下本手法をリング法と呼ぶこととする。本測定手法は方向透磁率算出に用いた元のデータであるμH−plane、μL−plane、μP−planeが無反磁界での評価であることから、上記式によって与えられる方向透磁率も無反磁界での値を示すものである。
【0058】
上記したリング法を用いて成形方法1および成形方法2にて作製した焼結体のH、L、P方向の透磁率の周波数特性を評価した。結果を図3、4に示す。図3より成形方法1ではH方向に100MHzで50を超える高い透磁率が得られていることが分かる。また直交するL、P方向には10程度の透磁率が得られることが分かる。上記によって得られた各方向の透磁率は、一つの焼結体から異なる方位を環状面の法線にもつリング試料を切り出したものを評価し、算出したものであるが、各方向透磁率を与えた試料を仮に比較例2〜4と呼ぶこととする(比較例2:H方向、比較例3:L方向、比較例4:P方向)。一方、成形方法2にて作製した試料ではH,L方向にそれぞれ100MHzで35、25を超える高い透磁率が得られていることが分かる。また成形方法2の場合P方向の透磁率が100MHzで4という低い値であることがわかる。一つの焼結体から異なる方位を環状面の法線にもつリング試料を切り出したものを評価し、算出したものであるが、各方向透磁率を与えた試料を仮に比較例6〜8と呼ぶこととする。(比較例6:H方向、比較例7:L方向、比較例8:P方向)
【0059】
反磁界影響下での透磁率の方向依存性の評価を行うため高周波薄膜透磁率測定装置PMF−3000(凌和電子社製)により評価を行った。試料は表2に示した3種類の板状形状の試料を作製した。透磁率の評価方向は加工形状1および3では8mm方向、加工形状2では5mm方向の透磁率の周波数特性を評価した。
【0060】
【表2】
【0061】
3種類の薄板形状での予想される測定方向の反磁界係数を下記のように算出した。算出の仕方は上述の通りである。
【0062】
成形方法1によって作製した焼結体から加工形状1の試料を切り出した。このとき加工形状1の長手方向(8mm方向)とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例1とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状1の長手方向(8mm方向)と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例2、3と呼ぶ。成形方法1によって作製した焼結体から加工形状2の試料を切り出した。このとき加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例4とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例5、6とする。成形方法1によって作製した焼結体から加工形状3の試料を切り出した。このとき加工形状3の長手方向(8mm方向)とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例7とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状1の長手方向(8mm方向)と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例8、9とする。成形方法2によって作製した焼結体から加工形状2の試料を切り出した。このとき加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例10とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例11、12と呼ぶ。またNi−Znフェライトから加工形状2の試料を無作為な方位にて切り出した。これを比較例5とする。
【0063】
PMF−3000により実施例1〜12、比較例5の方向の複素透磁率の周波数特性を評価した。透磁率の評価方向は表3に示した。測定した比透磁率実数部を100MHzの比透磁率実数部が1となるように規格化した。実施例1〜12、比較例1〜8の評価結果を図5〜図11に示す。
【0064】
図5〜11の周波数特性から100MHzの透磁率値が70%となる周波数特性f70を評価した。上記、実施例1〜12、比較例1〜8の成形方法、加工形状、切り出し方位、測定方向の反磁界係数、f70の値を表3にそれぞれ示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3および図11に示したように比較例1および比較例5を比較すると、透磁率の周波数特性が反磁界の効果によって高周波側にシフトしていることが分かり、f70は0.36GHzから0.8GHzと増加するが1GHzは超えない。一方で、図5および表3に示したように、一方向配向に係る成形方法1の実施例4では、f70は2.47GHzと比較例5に比べて同じ反磁界係数(0.054)であるが特に高い値を示す。また比較例2、実施例1、4、7と反磁界係数の増加に伴い、f70が増加することが分かり、反磁界係数が0.039以上で1.6GHz以上、と1GHzを超える高い値が得られる。さらに、反磁界係数が0.054以上で2.47GHz以上、反磁界係数が0.097以上で2.76GHz以上の優れた透磁率の周波数特性を示している。比較例3、4、実施例2,3,5,6,8,9に示したように反磁界係数の増加に伴い、f70はL、P方向に評価した場合でも増加する。しかし実施例2、3に示したようにL、P方向の場合、1.14GHz、1.07GHzと同じ反磁界係数である実施例1(f70は1.6GHz)に比べるとf70の増加は小さい。反磁界係数が0.097である実施例8,9でもf70は1.87GHz、1.59GHzと同じ反磁界係数である実施例7に比べると低い値であることがわかる。これらのことから反磁界係数の増加によりf70の増加が最も顕著であったのは無反磁界評価において最も高いμを持つH方向であることがわかる。
【0067】
表3および図8、9に示したように成形方法2にて作製した焼結体でも比較例6、7に比べると反磁界係数の高い実施例11,12はf70の増加が見られ、実施例11、12(反磁界係数0.054)ではf70が1.82GHz、2.27GHzと高い値を示すことが分かる。すなわち、面配向に係る成形方法2についても、反磁界係数が0.054以上で2.27GHz以上の優れた透磁率の周波数特性が得られることが示唆されている。一方でP方向の評価である比較例8、実施例12を比較すると反磁界係数の増加に伴い、f70の値は低下した。これらのことから成形方法2において作製した焼結体において反磁界係数の増加によりf70が増加したのは無反磁界評価においてμの高い方向であるH、L方向であることがわかる。なお、L方向は磁界印加方向でもあり、かかる点でL方向はH方向と挙動が類似している。
【0068】
成形方法1によって作製された焼結体は上述したXRDにより、H方向(磁場印加方向)にc面が平行になっているものと考えられる。ここでH方向の比透磁率実数部が100MHzにおける比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70、LおよびP方向の比透磁率実数部が100MHzにおける比透磁率実数部の70%になる周波数をfp70とすると表3より、fa70/fp70を算出することができる。また成形方法2によって作製された焼結体は上述したXRD回折により、P面内の全ての方向にc面が平行になっているものと考えられる。この場合、fa70は面内の任意の方向の透磁率に関して評価できるが、以下ではH方向、L方向をfa70とした場合を別個に計算して表した。以上のように算出されたfa70/fp70を以下の表4に示した。
【0069】
表4より成形方法1では反磁界係数0の評価ではfa70/fp70はL、P方向共に1.0と低い値であった。しかし反磁界係数0.039の場合L方向、P方向ではそれぞれfa70/fp70は、1.4、1.5と1.2を超える値が得られた。また反磁界係数が0.054では最大で2.2と更に高い値を示し、反磁界係数0.097では最大1.7という値が得られた。また表4より成形方法2では反磁界係数0の評価では、faをHまたはL方向のどちらにとるかによって異なるが、最大で1.1という低いであった。また反磁界係数0.054ではL方向でfa70にとった場合、最大で2.1という高い値が得られることが分かった。上記のように結晶のc面が平行な方向に対して評価したfa70とそれに直交する方向のfp70との比の最大値は反磁界係数の導入により増加し、特に反磁界係数0.054付近では2を超える値が得られる。
【0070】
【表4】
【0071】
3GHzまでの比透磁率実数部の絶対値をキーコム株式会社製の(高周波磁性材料測定システム)を用いて、ワンターンコイル法の原理で測定した。比較例5、実施例4、5、6および実施例10、11、12の0.1GHz、0.5GHz、1GHz、2GHzおよび3GHzの比透磁率実数部の値を評価し、表5に示した。
【0072】
【表5】
【0073】
表5より実施例のうちc面が一の方向に平行になるように配向し、該一の方向が直方体の長手方向と一致している実施例4では、透磁率は1GHzでもほとんど低下することなく、16以上の透磁率を示している。表4に示した実施例は非常に優れた透磁率の周波数特性を示しており、2GHzでも11以上、3GHzでも5以上の透磁率を示している。特に配向方向と形状の使用方向を適正化することによって、2GHzで13以上、3GHzでも8以上の従来にない透磁率の周波数特性を発揮している。実施例4を例にとれば、3GHzにて9.3と比較例5に比べ3倍近い高い値が得られることが分かる。一方で実施例5,6のようにL、P方向の場合では表3のf70は大きい値が得られているが、絶対値として比較例5に比べ優位性は認められない。すなわち、配向の方向によって、周波数特性の変化の挙動が著しく異なることを示している。成形方法2によって作製された実施例10〜12を例にとれば、実施例10、11は比較例に比べ各周波数にて高い透磁率を示し、特に3GHzでは5.6および8.8と比較例5の2〜3倍の値が得られた。一方でP方向に係る実施例12では各周波数にて比較例5より低い透磁率を示し優位性は認められなかった。すなわち、面配向である成形方法2の場合においても配向の方向によって、周波数特性の変化の挙動が著しく異なることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】結晶粒のc軸が観察面方向に向いている状態を示す概念図である。
【図2】リング試料におけるr、θ、線要素の定義を示す図である。
【図3】成形方法1にて作製した比較例の焼結体のH、L、P方向の複素透磁率の周波数特性を図である。
【図4】成形方法2にて作製した比較例の焼結体のH、L、P方向の複素透磁率の周波数特性を図である。
【図5】実施例1、4、7および比較例2でのH方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図6】実施例2、5、8および比較例3でのL方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図7】実施例3、6、9および比較例4でのP方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図8】実施例10および比較例6でのH方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図9】実施例11および比較例7でのL方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図10】実施例12および比較例8でのP方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図11】比較例1および比較例5での複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用磁性材料に係るもので、特に数MHzから数GHzまでの高周波帯域においてチョークコイルやノイズ除去素子などの電子部品や電波吸収体に使用される六方晶フェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LAN、パソコンなどの信号の高周波化に伴い、装置内部で使用される素子もまた高周波で使用可能なものが要求されている。このような要求に対し、従来用いられてきたスピネル系フェライトでは高周波帯域においてスネークの限界と呼ばれる周波数限界が存在するため使用することが困難となる。そこで六方晶系の結晶構造を有する六方晶フェライトがかかる周波数限界を超える高周波用材料として検討されている。
【0003】
六方晶系フェライトの中でも特にCoを含有したZ型フェライトおよびY型フェライトが比較的高い透磁率を有し優れた高周波特性を示すことが知られている。またCoを含有するZ型およびY型フェライトはc面を磁化容易面として持つため、成形時に外部から印加される静磁界により結晶のc面を磁場印加方向に平行になるように揃えることができる。c面を磁場印加方向に平行に揃えることで磁場印加方向の透磁率の向上を図ることが可能である(以降この操作を一方向配向とよび、磁場を印加した方向を法線に持つ面をc軸配向面と呼ぶ)。また、成形時に外部から印加する回転磁場により結晶粒子のc軸方向を揃える操作(以降この操作を面配向と呼び、この操作が行なわれた面を配向面と呼ぶ)を行うことが可能である。面配向を行うことにより、配向面内の透磁率の向上を図ることが可能である。
【0004】
特許文献1では回転磁界を印加することにより、Z型フェライトを面配向できることが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭35−11280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1ではZ型フェライト結晶を面配向させ、配向面内の比透磁率が30である面配向したZ型フェライトの焼結体が得られたとの記述がある。しかしながらスピネルフェライトに比べ高い共鳴周波数を持つZ型フェライトであってもその共鳴周波数は約1GHzに存在し、それより高い周波数では比透磁率は著しく減衰し、1GHz以上の高周波帯域で使用するには十分なものとはいえなかった。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、高い透磁率を高周波帯域まで維持し、周波数特性に優れた軟磁性フェライト、さらにはそれを用いた磁気回路およびインダクタンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性フェライトは、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有することを特徴とする。反磁界係数が0より大きいとは、反磁界が生じる形状を意味し、周方向に面配向して閉磁路を構成しているリング形状のようなものを除く趣旨である。c面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、該方向の反磁界係数が0より大きくなる形状とすることによって、該方向の透磁率が反磁界係数が0の場合に比べて、より高周波側まで維持される。
【0009】
また、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向していることが望ましい。かかる構成は、一方向の直流磁界を印加してフェライト粒子を配向させた場合に得られる構成であり、簡易な方法で得られる低コスト化に有利な構成である。
【0010】
さらに、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向していることが望ましい。かかる構成にすることで、前記他の一の方向に垂直な面内の任意の方向に透磁率の周波数特性向上の効果が得られるため、使用される磁気回路における配置の自由度が上がる。
【0011】
さらに、前記軟磁性フェライトにおいて、前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする。反磁界係数が0より大きくなるような形状を採用することによって透磁率の周波数特性を向上させることができ、該向上の指標としてのfa70/fp70が1.2以上となれば、前記一の方向の透磁率の周波数特性に特に優れた軟磁性フェライトを提供することができる。
【0012】
さらに、前記軟磁性フェライトはZ型フェライトであり、前記一の方向の比透磁率実数部の絶対値が3GHzで6以上であることを特徴とする。前記構成によって前記一の方向の透磁率の周波数特性を改善し、従来の概念のZ型フェライトでは実現できなかった3GHzで6以上の透磁率を実現することが可能である。これによって従来のZ型フェライトでは、適用できなかった1GHzを超える高周波領域での使用が可能となる。
【0013】
本発明の磁気回路は、前記軟磁性フェライトを用いた磁気回路であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする。軟磁性フェライトの透磁率の周波数特性が向上した方向を磁気回路の磁路方向とすることで、磁気回路をより高い周波数まで機能させることができる。
【0014】
本発明のインダクタンス素子は、軟磁性フェライトを用いたインダクタンス素子であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする。軟磁性フェライトの透磁率の周波数特性が向上した方向を磁路方向として用いることにより、より高い周波数まで高いインピーダンスを発現するインダクタンス素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い透磁率を高周波帯域まで維持し、周波数特性に優れた軟磁性フェライトを提供することができる。本発明の軟磁性フェライトを使用することにより、より高い周波数まで使用可能な磁気回路、およびチョークコイル、インダクタ、電波吸収体、磁性アンテナ、カレントトランスなどのインダクタンス素子を提供することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の軟磁性フェライトについて六方晶Z型フェライトの焼結体の実施形態によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明に係る軟磁性フェライトは、本発明において特に規定する以外は、フェライトの製造に適用される通常の粉末冶金的方法によって製造することができる。通常の粉末冶金的方法とは以下のとおりである。例えば素原料を湿式のボールミルにて混合し、電気炉などを用いて仮焼することにより仮焼粉を得る。また得られた仮焼粉を湿式のボールミルなどを用いて粉砕し、得られた粉砕粉をプレス機により成形し、例えば電気炉などを用いて焼成を行い、六方晶Z型フェライト焼結体を得る。
【0017】
本発明においては、前記成形に供する粉砕粉を、例えば以下のようにして作製する。上述のようにして得られた焼結体をジョークラッシャーやディスクミルなどを用いて粉砕し、粗粉を得る。得られた粗粉は振動ミル、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕を行い、微粉を得る。得られた微粉に水を加えてスラリーとし、磁界を印加しながらプレスする。得られた成形体を乾燥処理した後、再焼結しフェライト焼結体を得る。
【0018】
以下、本発明に係る軟磁性フェライトについて具体的に説明する。本発明では、c面を磁化容易面とするフェライトを対象とする。軟磁性フェライトのうち、磁化容易面を有するものは、その性質を利用して配向させて異方性を持たせることが可能である。磁化容易面を有する軟磁性フェライトとしては、六方晶Z型フェライト、六方晶Y型フェライトがある。これらはc軸に垂直なc面を磁界容易面として持つ。かかる軟磁性フェライトの結晶粒が、そのc面が一の方向に平行になるように配向している状態が本発明に係る軟磁性フェライトの特徴の一つである。かかる構成を具現できる軟磁性フェライトの代表的な態様は、軟磁性フェライト焼結体である。すなわち軟磁性フェライト焼結体を構成する結晶粒が、そのc面が一の方向に平行になるように配向していればよく、結晶粒が大きくなり一つの結晶粒で構成されている状態は単結晶フェライトに相当する。六方晶Z型フェライトおよび六方晶Y型フェライトは代表的にはそれぞれBa3Co2F24O41、Ba2Co2F12O22で表される。また、軟磁性フェライトである六方晶Z型フェライト焼結体および六方晶Y型フェライト焼結体は、かかる六方晶Z型フェライト相または六方晶Y型フェライトを含む焼結体である。Baの一部をSrで置換したり、Coの一部をCu、Zn、Niのうち少なくとも一種で部分的に置換することも可能である。六方晶Z型フェライト焼結体では、前記Z相以外の他の六方晶フェライト相(W相、Y相、M相)、スピネル相、BaFe2O4相などの異相を一部に含んでいても良い。高い焼結体密度を得るうえでは、17〜21mol%のBaO、6〜13mol%のCoO、残部Fe2O3を主成分とすることが好ましい。一方、六方晶Y型フェライト焼結体では、前記Y相以外の他の六方晶フェライト相(W相、Z相、M相)、スピネル相、BaFe2O4相などの異相を一部に含んでいても良い。さらに、前記主成分に対してLiをLi2CO3換算で0.05〜1.0質量%含有させることが好ましい。前記主成分組成範囲と前記Liの含有は、焼結体の高密度化に好適である。
【0019】
六方晶Z型フェライト焼結体の場合、LiとSiを複合的に含有させてもよい。Siと共にLiを含有させる場合には、特有の焼結体密度向上と透磁率向上の相乗効果が得られる。Siは少量でもLiとの複合含有効果、体積抵抗率増加の効果を示すがSiO2換算で0.05質量%未満ではこれらの実質的な効果が発揮されず、一方0.5質量%を超えると体積抵抗率が改善されなくなるとともに、透磁率および焼結体密度の低下を招くので0.05〜0.5質量%の範囲が好ましい。Liと複合で前記範囲のSiを含有させることにより、焼結体密度を4.95×103kg/m3以上、体積抵抗率を104Ω・m以上としつつ、Li含有による初透磁率向上効果を発揮させることができる。さらに、体積抵抗率向上のために、二価の金属イオンとしてMnをMn3O4換算で0.05〜5質量%含有させてもよい。
【0020】
次に、本発明に係る軟磁性フェライトの構成について、六方晶Z型フェライト焼結体を例にしてさらに詳述する。本発明に係る配向した軟磁性フェライトは、例えば下記に詳述する一方向配向、面配向によるものに分けることができるが、本発明の内容はこの2種類の配向方法に限定されるものではなく、特定の方向に高い透磁率を示すような異方性を持つ軟磁性フェライトであれば本発明の効果は発揮される。軟磁性フェライトを構成する全ての結晶粒が完全に一方向配向または面配向している必要はなく、配向の乱れは許容する。例えば、後述するように磁界によって配向させる場合、配向性は印加磁界強度に依存するが、六方晶Z型フェライト焼結体が、X線回折上、一方向配向または面配向の傾向を示していればよい。
【0021】
一方向配向とは、c面が一の方向に平行に配向しているが、その法線であるc軸の配向性は問わない配向であり、一軸性の磁界、すなわち直流磁界によって配向した場合がこれに相当する。この場合c軸は前記一の方向に垂直な平面方向を向いており、代表的には該面内方向にランダムに向く。一方向配向の場合の配向度合いは下記のようにX線回折パターンにて確認することができる。まず、六方晶Z型フェライト焼結体の一平面のX線回折パターンにおいて、2θ=20〜80°の測定範囲範囲に含まれる、六方晶Z型フェライトに由来する全ての回折ピークの積分強度和をとってΣI(HKL)とし、前記範囲に含まれるL=0であるすべての(HK0)面の回折ピークの積分強度和をとってΣI(HK0)とする。すなわち、ΣI(HKL)は、20°〜80°の2θ全体にわたって六方晶Z型フェライトの回折ピークを積分したものである。なお、I(HKL)は、指数(HKL)で表される格子面からの回折ピークの積分強度を示す。ここでは、I(HKL)として、(HKL)面の回折線のピーク角度をθ(HKL)とした時、θ(HKL)−0.4°からθ(HKL)+0.4°までの範囲で積分した値を用いている。上記、ΣI(HKL)およびΣI(HK0)から配向度fc⊥を定義する。配向度fc⊥はfc⊥=ΣI(HK0)/ΣI(HKL)で与えられる。この配向度fc⊥が大きい、すなわち、分子のΣI(HK0)が大きいということは、X線回折を行っている面では、c軸が該面方向を向いている結晶粒が多いということを示している。六方晶Z型フェライトの中でもBa3Co2Fe24O41で表されるような組成ではc軸に垂直な方向、すなわちc面が磁化容易面となるので、c軸がX線回折を行っている面方向を向いている結晶粒が多いということは、該面に垂直な方向の透磁率が高くなるということを意味する。
【0022】
前記配向度fc⊥を0.4以上とすると、X線回折を行っている面に垂直な方向の透磁率が特に高くなる。なお、本発明においては、かかる配向度を有する面をc軸配向面と称している。より好ましくは、0.45以上である。より多くの結晶粒のc軸がX線回折を行っている面方向に向いていることが好ましい。理想的な状態として、全ての結晶粒のc軸がX線回折を行っている面方向に向いている状態を図1に示す。図1から明らかなように、各結晶粒のc面は、X線回折を行っている面に垂直になっている。この場合磁化容易面であるc面がX線回折を行っている面に垂直でありさえすれば、c軸の方向がどちらを向いていてもX線回折を行っている面に垂直な方向の透磁率は高くなることがわかる。この場合にさらにc軸の方向も一の方向に揃えた状態が特許文献1にあるような面配向させた場合に相当する。すなわち、面配向とは、c軸が一方向に揃っているため、c面が一の面内方向に平行に揃っている配向状態である。回転磁界によって配向した場合がこれに相当する。
【0023】
上記特定の方向にc面を平行配向させた一方向配向の場合と面配向とを区別するために以下のようなX線回折による評価を行えばよい。図1のようにX線回折を行っている面に垂直な方向にc面が配向(c面が該方向に平行)しているとともに、該方向に垂直な面方向において、c軸がランダム状に向いている状態を判断する指標として、少なくとも、前記c軸配向面(上述のX線回折を行っている面に相当)に垂直で且つ互いに垂直な2つの面において、X線回折におけるfc//=I(0018)/I(110)から算出される配向度fc//を採用する。該配向度fc//が0.3以上という構成が好ましい。該配向度fc//が大きいということは、観察面に垂直な方向にc軸が向いた結晶粒が多いということを示している。これが、少なくとも互いに垂直な2つの面において満たされることによって、c軸がランダムに向いていることを担保している。このようにすることによって、c軸配向面に平行な方向においても、高い透磁率を得ることができる。c軸配向面に垂直な方向の透磁率に対する比においても、0.25以上とすることも可能であり、透磁率のバランスに優れた六方晶Z型フェライト焼結体が提供できる。面配向の場合は、c軸配向面に垂直な一面(面配向方向の面)ではfc//0.3以上を満たす可能性があるが、互いに垂直な2つの面においてfc//0.3以上を満たすことはできない。
【0024】
前記のような条件を満たすc軸配向面を六方晶Z型フェライト焼結体が有していればよい。焼結体が直方体である場合には、例えば、その表面のうちの一つの面においてX線回折を行って配向度fc⊥を評価した結果、該面がc軸配向面となれば、それと直角をなす、互いに垂直な2つの他の表面において配向度fc//を評価すればよい。
【0025】
また本発明では上記のような一方向配向の方法に加え次に詳述する面配向と呼ばれる配向によってもその効果を充分発揮することができる。一方向配向は、c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒の該c面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性に加えて、該一の方向に垂直な面内方向のうち一の方向にc軸が配向している構成である。
【0026】
高い透磁率および高い焼結体強度を得るためには、六方晶Z型フェライト焼結体の密度を4.7×103kg/m3以上とすることが好ましく、5.0×103kg/m3以上の焼結体密度がより好ましい。
【0027】
上述のように配向性の向上により透磁率を改善した六方晶Z型フェライトは、組成や組織などの他の因子を制御して透磁率の向上を図った場合に比べて、透磁率の周波数特性においても有利である。他の因子を制御して透磁率の向上を図る場合は、磁気異方性等も変化するため、周波数特性が劣化し、より低い周波数で透磁率が低下してしまう。これに対して、配向性を制御して透磁率の改善を図る場合は、磁気異方性は変化していないので、周波数特性に与える影響が小さくなる。
【0028】
また、透磁率の周波数特性が向上の観点からは、焼結体の平均結晶粒径を3〜50μmの範囲とすることが好ましい。ここで焼結体の結晶粒径は、観察した結晶粒の内部に引くことのできる線分の内、最も長いもの(最大径)を長軸とし、長軸に直交し結晶粒の内部に引くことのできる線分の内、最も長いものを短軸とし、短軸および長軸の平均を個々の粒子の結晶粒径とした。平均結晶粒径は、任意の100個の粒子を評価しそれらの平均をとって求めればよい。
【0029】
上述の配向した六方晶Z型フェライト焼結体は、例えば以下に示す六方晶Z型フェライト焼結体の製造方法を用いて得られる。すなわち、比表面積が800〜4000m2/kgの範囲内である六方晶Z型フェライト粉末を一軸性の磁界中で成形を行い成形体を得る成形工程と、前記成形体を焼結する焼成工程とを経て、六方晶Z型フェライト焼結体を得る。通常、フェライト粉末は、焼結性を上げるため細かく粉砕したものを用いる。これに対して、本発明に係る六方晶Z型フェライト焼結体の製造方法では、六方晶Z型フェライト粉末の比表面積を800〜4000m2/kgに制御することが好ましい。これによって、高配向性、高透磁率を実現する。前記比表面積が小さすぎると焼結体密度が上がりにくく、配向性も低い。一方、比表面積が大きすぎると配向が低下する他、粗大粒が発生しやすくなる。
【0030】
成形方法としては、加圧成形、押出し成形、射出成形などを用いることができるが、特に簡便な加圧成形が望ましい。加圧成形の場合、磁界印加方向と加圧方向が平行である縦磁場成形法や、磁界印加方向と加圧方向が直角である横磁場成形法などを用いることができるが、高い配向を得るためには横磁場成形法が好ましい。また面配向材を作製する場合も同様であるが、この場合加圧方向と回転磁界の方向が直交していることが望ましい。
【0031】
配向は磁界中成形によって行う。磁界の印加方法は、上述のように一軸性の磁界、または回転磁界などを用いればよい。また、成形は、乾粉状の粉末を用いる乾式成形で行うことも可能であるが、配向性を上げるためには、六方晶Z型フェライト粉末を水などの媒体と混合して得られたスラリーを用いる湿式成形で行うことが好ましい。媒体として水の種類は、これを特に限定するものではないが、例えば安価な水道水を用いればよい。また、イオン交換水や蒸留水などを用いて不純物イオンの低減を図ることもできる。スラリー濃度、すなわちスラリー中の六方晶Z型フェライト粉末の重量割合は、85wt%以下とすればよい。85wt%超となると粒子間の摩擦が増加し、粒子の回転が十分行なわれず、配向度が低くなるためである。高い配向を得る観点からは、前記スラリー中の六方晶Z型フェライト粉末の濃度を65wt%以下として成形を行うことがより好ましい。一方、該スラリー濃度は、50wt%以上とすることが好ましい。50%未満だと成形時に脱水のため多くの時間がかかり生産性が低下するからである。また、金型キャビティ内で磁界を印加しながら乾粉状またはスラリー状の前記六方晶Z型フェライト粉末を攪拌した後に、成形すると、六方晶Z型フェライト粉末の凝集を解き、配向性をいっそう高めることができる。
【0032】
また、スラリーを用いた加圧による湿式成形法の場合、スラリーの供給法としては、磁界印加中に金型キャビティ内へスラリーを加圧注入する方法でもよいし、キャビティ内にスラリーを投入後磁界を印加する方法でもよい。スラリー中の媒体は、加圧する際にキャビティに形成される脱水孔やクリアランスから除去される。成形後の六方晶Z型フェライト粉末、すなわち成形体は、十分乾燥後焼結に供される。
【0033】
前記六方晶Z型フェライト粉末は、通常のプロセスのように粉末の状態で仮焼を行い、粉砕することによって得ることも可能であるが、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して得る方法が粉砕性の観点から好ましい。配向するためには、六方晶Z型フェライト粉末を構成する粒子は、単結晶であることが好ましい。この点、焼結体においては粒成長が進んでいるため、該焼結体を粉砕すれば単結晶である粒子を多く含んだ粉末を得やすい。したがって、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して粉末を得る方法は、磁界中配向に好適な粉末調整方法である。この場合、かかる粉砕に供する六方晶Z型フェライト焼結体の平均結晶粒径は5〜200μmであることが好ましい。なお、通常のプロセスのように仮焼後の粉末を粉砕した六方晶Z型フェライト粉末を用いて成形することも可能であるが、この場合も仮焼後の粉末における六方晶Z型フェライトの平均結晶粒径が5〜200μmであることが好ましい。さらに、六方晶Z型フェライト焼結体を粉砕して粉末を得る方法、仮焼後の粉末を粉砕した六方晶Z型フェライト粉末を用いる方法も含めて、いずれにおいても、成形に供する粉末は実質的に六方晶M型フェライト相を含有しないことがより好ましい。六方晶M型フェライト相は、c軸を磁化容易軸とする一軸異方性を示し、一軸性の印加磁界方向に配向してしまい、焼結において六方晶Z型フェライト相に変わっても、本発明に係る配向状態とは異なる配向状態(面配向)を生じるからである。ここで、実質的に六方晶M型フェライト相を含有しないとは、X線回折において、六方晶Z型フェライトの強度最大のピークである(1016)ピークの強度に対する、六方晶M型フェライトのピークである(006)ピークの強度の比が5%以下であることをいう。また、軟磁性フェライトは、六方晶Z型フェライトとY型フェライトの混相であってもよいが、特性ばらつきを抑えるためには、Z型フェライトまたはY型フェライトを主体として構成されていることが好ましい。六方晶Z型フェライトを主体とする場合は、成形に供する粉末は実質的にY型フェライトおよびスピネルフェライトも含まない六方晶Z型フェライトであることが特に好ましい。実質的にY型フェライトおよびスピネルフェライトも含まないとは、六方晶Z型フェライトの強度最大のピークである(1016)ピークの強度に対するY型フェライトの(0012)ピークの強度の比が5%以下であり、スピネルフェライトの(440)のピークの強度の比が7%以下であることをいう。一方、六方晶Y型フェライトを主体とする場合は、成形に供する粉末は実質的にZ型フェライトおよびスピネルフェライトも含まない六方晶Y型フェライトであることが特に好ましい。実質的にZ型フェライトおよびスピネルフェライトも含まないとは、六方晶Y型フェライトの強度最大のピークである(110)ピークの強度に対するZ型フェライトの(1016)ピークの強度の比が5%以下であり、スピネルフェライトの(440)のピークの強度の比が7%以下であることをいう。
【0034】
上記のように磁界中成形して得られた六方晶Z型フェライトの焼結体は、表面付近に配向の乱れが生じる場合がある。したがって、表面を加工で除去することで、焼結体全体において配向度の高い部分の割合が増え、高い透磁率を得る上で有利である。また表面を加工で削除することは、焼結体内における配向、ひいては透磁率のばらつきを抑制することにつながる。加工は、焼結体の少なくとも一部が加工されていればよい。研磨、切断いずれによる加工面であっても、表面を削除することになる。
【0035】
上記のようにして作製した、結晶を配向させた六方晶フェライトの焼結体をダイサー、スライサーまたは平行研削機などを用いて0より大きい反磁界係数が生じ得る形状に加工する。加工する形状は例えば、直方体、立方体、薄板形状、円柱棒、角柱棒に加え、ギャップが挿入されたリング形状など、使用する磁路に対し、0より大きな反磁界係数が発生するような形状であればどのような形状でも構わない。このような形状で用いることにより、Z型フェライトの優れた透磁率の周波数特性がより一層、高周波側まで使用な可能なものとなる。
【0036】
上記のように加工された、配向した六方晶フェライトの焼結体の中でも特に無反磁界での評価を行ったとき高い透磁率が得られた方向が磁路に沿うように用いることが特に望ましい。これは例えば一方向配向の、磁場印加方向に相当する。または面配向の場合では配向させた面内の方向を用いることに相当する。面配向の場合は環状面が配向面と平行になるようなリング試料に磁路を横断するギャップを設けても良い。また上記のように面配向、一方向配向のみではなく、c面が磁路に沿うように配向していれば、その磁路を妨げるような反磁界が発生するような形状であればよい。これによって透磁率の周波数特性が大きく改善される。本発明は、このように結晶粒のc面が一の方向に平行になるように配向した軟磁性フェライトにおいて、反磁界が生じる形状にしたときに周波数特性が向上し、さらに該周波数特性向上の効果に顕著な異方性があるという知見に基づくものである。c面が少なくとも一の方向に平行になるように配向している該一の方向と、反磁界が生じる方向とを一致させること、言い換えれば無反磁界での評価で透磁率の高い方向、すなわち成形時の磁界印加方向に反磁界を導入することが、透磁率をより高周波側まで維持することに関し極めて効果的であることを見出した。すなわち無反磁界での評価において透磁率の低い方向にギャップを設けるなどの加工を行った場合に比べ極めて大きな周波数特性向上効果が得られることを見出したものである。c面が、使用する磁路に対し平行に配向している場合、磁路に対し実効的に反磁界を生じさせうる形状で使用することで、特に顕著な効果が得られる。かかる構成を用いれば、一の方向において共鳴周波数以上の帯域においても高い透磁率を有する六方晶フェライトを提供することも可能となる。
【0037】
上記のように配向方向によって反磁界が与える効果が異なる理由については未だ明らかではないが、反磁界の導入によりc面が平行である方向のみ磁壁の移動といった周波数特性を悪化させる透磁率成分が除去され、回転磁化による磁化のモードが支配的になるためと推測される。このような現象は以下に実施例として示した一方向配向したZ型フェライトおよび面配向したZ型フェライトに加え、同じく磁化容易面を持つY型フェライトにおいても生じる。また、六方晶フェライトのような磁化容易面を有する軟磁性フェライトだけでなく同様の結晶磁気異方性が巨視的に発現する例えば薄い円板状の金属磁性粉が配向した圧粉体や結晶配向した薄膜、または磁化容易面を持つ単結晶などでも同様な効果が生じうる。また本発明は材料が高密度化しても回転による磁化のモードが支配的であり、特に高密度化した試料において飽和磁化が増加し、透磁率も増加する。例えば理論密度の90%以上で用いることが更に望ましい。
【0038】
上記のように、使用する磁路に対し配向した六方晶フェライトの反磁界係数は0より大きい方が好ましい。透磁率の周波数特性向上の観点からは、反磁界係数は0.005より大きく、0.3以下であることがより好ましい。これは0.005以下では本発明が提供する高周波化の効果が発揮されにくいためであり、周波数特性向上の観点からは上限は特に定めないが、0.3以下であることが望ましい。これは使用する磁路に対し反磁界係数が0.3を超えると得られる透磁率の絶対値自体が極端に低下してしまうためである。反磁界係数が0.005より大きく、0.3以下であるために例えば円板、角板などの薄板形状にて板面内の方向を磁路方向として用いることが望ましい。また円柱棒や角棒などの棒形状にて長手方向を磁路方向として用いれば所望の反磁界係数を得ることができる。またはこれらに類する形状であっても実効的な反磁界係数が上記の範囲にあればよい。面配向の場合は無反磁界での評価にて透磁率の高い方向が配向面内の任意の方向に存在するので、環状面が配向面と平行となるようなリング形状またはそれに類する形状に磁路を横断するギャップを挿入しても前記効果が発揮される。このように配向された異方性フェライトの配向方向と形状との関係を制御することによって、同一の材料を用いているにもかかわらず、該材料の材料特性として捉えられている水準を超える透磁率の周波数特性を実現できるのである。これにより、例えば従来六方晶Z型フェライトでは、適用が困難と考えられていた2GHz以上、さらには3GHz以上での使用を可能とする。
【0039】
反磁界係数は以下のようにして算出する。直方体形状の軟磁性フェライトのうち、測定方向をX方向、板面垂直方向をZ方向、X,Zに共に直交する方向をY方向とし、測定方向の反磁界係数をNx、測定方向の試料寸法をL、板面厚さをT、Y方向の寸法をWとして、
Nx=T/(L(1+(T(1+L/W)/L)))
として近似する。本関係式を用いることにより例えば薄い直方体板、直方体などの反磁界係数を算出することができる(参考文献:Journal of Applied Physics, Volume 94, Number 6, P4013-4017 )。
【0040】
本発明の六方晶Z型フェライトを作製することにより、100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をf70としたとき、一方向配向の場合は磁場印加方向である一の方向のf70をfa70とし、磁場印加方向である該一の方向に直交する方向におけるf70をfp70としたときfa70/fp70として1.2以上の値を得ることができる。磁場印加方向である該一の方向に直交する方向は、面方向になるが、最も低いf70を示す方向との関係でfa70/fp70として1.2以上が得られればよいので、そのいずれかの方向でfa70/fp70として1.2以上を満たせばよい。また同様に面配向の場合は、磁場印加方向である配向面内方向のうちの一の方向のf70をfa70とし、該一の方向に直交する方向におけるf70をfp70としたときfa70/fp70として1.2以上の値を得ることができる。面配向の場合、fp70を取る方向は配向面方向に直交する方向の他、配向面内にも該方向を取りうるが、最も低いf70を示す方向との関係でfa70/fp70として1.2以上が得られればよいので、前記一の方向に直交する方向のいずれかの方向で、少なくともfa70/fp70として1.2以上を満たせば、前記条件は満たされる。fa70/fp70が大きいということは、磁場印加方向によって、周波数特性の伸びの変化が異なり、磁界印加方向である一の方向の伸びが特に大きいことを示している。fa70/fp70が1.2以上となれば、磁界印加方向である一の方向の周波数特性の伸びの効果が十分な有意差として発揮されるため、該周波数の伸びを利用して、従来想定されていた使用周波数を超える周波数帯域への適用を可能とする。このことは、材料設計を変えることなく、周波数特性を制御できるという利点も有する。さらに好ましい態様として、配向方向と形状の使用方向を適正化することによってfa70/fp70の値が1.5以上、さらには2.0以上とすることも可能であり、周波数特性を顕著に改善することができる。
【0041】
また、前記構成を具備する本発明に係る六方晶Z型フェライトにおいては、f70が1GHz以上の優れた値が得られる。一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向している一方向配向の場合、反磁界係数を0.03以上とすることでf70は1.5GHz以上となり、周波数特性がより向上する。また、一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向している一方向配向の場合、および前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向している面配向の場合とも、反磁界係数を0.05以上とすることによりf70は2.0GHz以上の更に高い値が得られるようになる。なお、3GHzまでの比透磁率実数部の絶対値はキーコム株式会社製の(高周波磁性材料測定システム)を用いて、ワンターンコイル法の原理で測定したものを用いている。
【0042】
本発明の軟磁性フェライトは、例えば磁気回路用、インダクタンス素子用の磁性コアとして用いることができ、磁性コアとして優れた周波数特性を示す。結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるように配向した軟磁性フェライトを上記のような形状にして、該一の方向が磁束が流れる磁路方向となるようにして高周波用の磁気回路やインダクタンス素子を構成すれば、極めて優れた周波数特性を示す。磁気回路やインダクタンス素子におけるかかる使用方法によれば、配向した軟磁性フェライトの周波数特性を効果的に利用することができる。例えば、インダクタやチョークコイル、磁性アンテナやカレントトランスなどに用いることができる。
【実施例】
【0043】
先ず、主成分組成がFe2O3:70.2mol%、BaO:18.8mol%、CoO:11.0mol%のような割合となるよう、Fe2O3、BaCO3、Co3O4を秤量し、この主成分に対しMn3O4:3.0質量%、Li2CO3:0.4質量%、SiO2:0.13質量%の割合になるようにMn3O4、Li2CO3、SiO2をそれぞれ添加し、湿式ボールミルにて16時間混合した。なお、Mn3O4、Li2CO3、SiO2については仮焼後に行う粉砕時に加えてもよい。次にこれを大気中1200℃で2時間仮焼した。この仮焼粉を湿式ボールミルにて18時間粉砕した。作製した粉砕粉にバインダー(PVA)を添加し、造粒した。造粒後圧縮成形し、その後、酸素雰囲気中1300℃で3時間焼結した。得られた焼結体をジョークラッシャーで砕きディスクミルにて粗粉砕を行い、粗粉砕粉を得た。更に粗粉砕粉を振動ミルにて3時間粉砕した。粉砕後、得られたスラリーを沈降が生じるまで静置し、上澄み液を除去しスラリー濃度が73%になるように調整した。スラリーを乾燥させた粉体をXRDにより評価したところ、この粉体はほぼZ型単相であり、Y型フェライトの(0012)のピーク、M型フェライトの(006)ピークおよびスピネルフェライトの(440)のピークのZ型フェライトの(0016)のピークに対する強度比は何れも3%以下であった。また、Macsorb社製Model−1201を用いてガス吸着法(BET法)により、この粉砕粉の比表面積を評価したところ粉体比表面積は2350m2/kgであった。上記のように作製したスラリーを磁界中で湿式成形した。ここで成形圧は87.5MPaとし、0.85MA/mの1軸性の磁界をプレス方向と直交する方向に印加した。本成形方法を成形方法1と呼ぶ。得られた成形体を再度上記焼結と同条件にて再焼結し、約10mm角の立方体状焼結体を得た。以降、磁界印加方向をH方向と呼び、H方向の透磁率をμH、H方向を法線に持つ面をH−planeと呼び、同様にプレス方向の場合はP方向、μP、P−plane、磁界印加方向及びプレス方向に共に直交する方向の場合はL方向、μL、L−planeと呼ぶことにする。さらに、スラリーを、回転磁界中で湿式成形した。ここで成形圧は29.1MPaとし、0.48MA/mの回転磁界をプレス方向と直交する方向に印加した。回転磁界を印加後、1軸性の磁界を成形方向と直交させる方向に印加しながら成形した。本成形法を成形方法2と呼ぶ。得られた成形体を1310℃で焼結し、40×40×7mm3の焼結体を得た。以降、成形方法2にてプレス中に印加した1軸磁界印加方向をH方向と呼び、H方向の透磁率をμH、H方向を法線に持つ面をH−planeと呼び、同様にプレス方向の場合はP方向、μP、P−plane、1軸磁界印加方向及びプレス方向に共に直交する方向の場合はL方向、μL、L−planeと呼ぶことにする。
【0044】
成形方法1および成形方法2にて作製した焼結体は1軸性の磁界を印加した磁界印加方向を法線に持つ断面が得られるように試料を切断し、切断面におけるX線回折(XRD:X ray diffraction)測定を行い、配向度fc⊥を評価した。すなわち、2θ=20〜80°の測定範囲でXRDを行い、得られたX線回折パターンにおいて、六方晶Z型フェライトの全ての回折ピークの積分強度和をΣI(HKL)とし、L=0であるすべての(HK0)の回折ピークの積分強度和をΣI(HK0)とした。fc⊥=ΣI(HK0)/ΣI(HKL)の式から配向度fc⊥を算出した。一方、プレス方向を法線に持つ断面並びに磁場印加方向およびプレス方向に直行する方向を法線に持つ断面が得られるように試料を切断し、これらの切断面におけるXRD測定を行い、fc//を評価した。これらの面は、上述の磁界印加方向を法線に持つ断面に垂直で且つ互いに垂直な2つの面となる。ここで定義する配向度fc//とはZ型フェライトの指数(0018)の格子面から生じる回折ピーク強度を指数(110)の格子面から生じる回折強度で除した値である。
【0045】
比較用試料として等方性のスピネルフェライトであるNi−Znフェライトも作製した。本試料は等方的なのでリング形状の試料を成形、焼結しインピーダンスメータ4291B(Agilent社製)にて10MHz〜1.8GHzまでの無反磁界での複素透磁率の周波数特性を測定した。本試料の100MHzでの比透磁率実数部は14.3であった。本試料を比較例1とする。
【0046】
上記のように作製された成形方法1および成形方法2によって作製された配向型Z型フェライトの焼結体密度、配向度を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
成形方法1にて作製した試料はL−plane、P−planeともにfc//が1.4以上であり、磁界印加方向に直角の方向(c軸配向面に平行な方向)においてもc軸がランダムに向いており、c軸配向面内における配向の異方性の小さい一方向配向した六方晶Z型フェライト焼結体が得られている。一方で、成形方法2にて作製した試料のP−planeのfc//はI(0018)が非常に強く観測され(110)面の回折ピークが(0018)面の回折ピークに隠れ評価することができなかったが、fc//が0.3を超えることは明白であった。またH−planeにおけるfc⊥は0.7以上である。一方でL−planeにおけるfc//は0.1以下の小さい値となり、P−planeのfc//と比べると小さく、H面内においてc軸は特定の方向に集中して向いていることが確かめられた。このことから成形方法2によって作製された焼結体は面配向していることが確かめられた。
【0049】
成形方法1および成形方法2により作製した六方晶Z型フェライト焼結体の、反磁界が生じない形状における、一方向の比透磁率の周波数特性は以下に述べる手法にて評価した。すなわち、磁界配向させたフェライト焼結体の一方向の透磁率は、リング試料では単純に測定できないため、リング環状面がH−plane、P−planeまたはL―planeに平行な3つのリング試料を切り出し、これらのリング試料の透磁率測定結果からH方向、P方向およびL方向の透磁率を算出した。
【0050】
評価手法に触れる前に、必要な関係式を導出する。異方性の存在する磁性板の板面に沿った縦方向、横方向をそれぞれY方向(例えばP方向)、X方向(例えばH方向)と定義し、該磁性板から外径と内径との差が充分小さいリング試料を切り出し、該リング試料にN回巻線を施し、巻き線に電流Iを流して初透磁率を測定すると仮定する。なお、リング試料の断面積はSとする。図2のように原点にリング試料をθ、rを定義すると、下記式が得られる。
【0051】
【数1】
【0052】
また、リング試料からの磁束の漏洩が無いものとし、リング試料内部の磁束密度ベクトルの大きさが一定であるとすると下記式が得られる。
【0053】
【数2】
【0054】
ここでX方向の透磁率、Y方向の透磁率をそれぞれμx、μyとおけば(μx、μyおよび下に示すμxyplaneは比透磁率とする。)
【0055】
【数3】
【0056】
数1〜数3の式とアンペールの法則から
B0=(1/μx+1/μy)−1×NI/πr (式4)
の関係が得られる。ここで自己インダクタンスLは鎖交する磁束と電流との比であるから、
、式4の関係を用いて、
L=NΦ/I=NB0S/I=S(1/μx+1/μy)−1×N2/πが得られる。真空中(μx=μy =1)の場合は、L0=SN2/2πrであるから、リング試料から観測される透磁率をμxyplaneとおくと
μxyplane=L/L0=2×(1/μx+1/μy)−1 (式5)
の関係が得られる。
【0057】
式5のような関係を考慮し、環状面がH−plane、L−planeまたはP−planeになるように3種類のリング試料を切り出し、インピーダンスメータ4291B(Agilent社製)にて10MHz〜1.8GHzまでの複素比透磁率(μH−plane、μL−plane、μP−plane)を測定した。試料の寸法は、外形6.8mm、内径3.2mm、厚さ1.5mmとした。測定値から以下の式を用いて各方向の透磁率を算出した。
μH ={(-1/μH−plane)+(1/μL−plane)+(1/μP−plane)}-1
μL ={(1/μH−plane)+(-1/μL−plane)+(1/μP−plane)}-1
μP ={(1/μH−plane)+(1/μL−plane)+(-1/μP−plane)}-1
以下本手法をリング法と呼ぶこととする。本測定手法は方向透磁率算出に用いた元のデータであるμH−plane、μL−plane、μP−planeが無反磁界での評価であることから、上記式によって与えられる方向透磁率も無反磁界での値を示すものである。
【0058】
上記したリング法を用いて成形方法1および成形方法2にて作製した焼結体のH、L、P方向の透磁率の周波数特性を評価した。結果を図3、4に示す。図3より成形方法1ではH方向に100MHzで50を超える高い透磁率が得られていることが分かる。また直交するL、P方向には10程度の透磁率が得られることが分かる。上記によって得られた各方向の透磁率は、一つの焼結体から異なる方位を環状面の法線にもつリング試料を切り出したものを評価し、算出したものであるが、各方向透磁率を与えた試料を仮に比較例2〜4と呼ぶこととする(比較例2:H方向、比較例3:L方向、比較例4:P方向)。一方、成形方法2にて作製した試料ではH,L方向にそれぞれ100MHzで35、25を超える高い透磁率が得られていることが分かる。また成形方法2の場合P方向の透磁率が100MHzで4という低い値であることがわかる。一つの焼結体から異なる方位を環状面の法線にもつリング試料を切り出したものを評価し、算出したものであるが、各方向透磁率を与えた試料を仮に比較例6〜8と呼ぶこととする。(比較例6:H方向、比較例7:L方向、比較例8:P方向)
【0059】
反磁界影響下での透磁率の方向依存性の評価を行うため高周波薄膜透磁率測定装置PMF−3000(凌和電子社製)により評価を行った。試料は表2に示した3種類の板状形状の試料を作製した。透磁率の評価方向は加工形状1および3では8mm方向、加工形状2では5mm方向の透磁率の周波数特性を評価した。
【0060】
【表2】
【0061】
3種類の薄板形状での予想される測定方向の反磁界係数を下記のように算出した。算出の仕方は上述の通りである。
【0062】
成形方法1によって作製した焼結体から加工形状1の試料を切り出した。このとき加工形状1の長手方向(8mm方向)とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例1とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状1の長手方向(8mm方向)と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例2、3と呼ぶ。成形方法1によって作製した焼結体から加工形状2の試料を切り出した。このとき加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例4とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例5、6とする。成形方法1によって作製した焼結体から加工形状3の試料を切り出した。このとき加工形状3の長手方向(8mm方向)とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例7とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状1の長手方向(8mm方向)と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例8、9とする。成形方法2によって作製した焼結体から加工形状2の試料を切り出した。このとき加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺とH方向が平行となるように切り出した試料を実施例10とする。また同じ焼結体からL方向、およびP方向が加工形状2の5×5mm2の正方形の一辺と平行になるように切り出した試料をそれぞれ実施例11、12と呼ぶ。またNi−Znフェライトから加工形状2の試料を無作為な方位にて切り出した。これを比較例5とする。
【0063】
PMF−3000により実施例1〜12、比較例5の方向の複素透磁率の周波数特性を評価した。透磁率の評価方向は表3に示した。測定した比透磁率実数部を100MHzの比透磁率実数部が1となるように規格化した。実施例1〜12、比較例1〜8の評価結果を図5〜図11に示す。
【0064】
図5〜11の周波数特性から100MHzの透磁率値が70%となる周波数特性f70を評価した。上記、実施例1〜12、比較例1〜8の成形方法、加工形状、切り出し方位、測定方向の反磁界係数、f70の値を表3にそれぞれ示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3および図11に示したように比較例1および比較例5を比較すると、透磁率の周波数特性が反磁界の効果によって高周波側にシフトしていることが分かり、f70は0.36GHzから0.8GHzと増加するが1GHzは超えない。一方で、図5および表3に示したように、一方向配向に係る成形方法1の実施例4では、f70は2.47GHzと比較例5に比べて同じ反磁界係数(0.054)であるが特に高い値を示す。また比較例2、実施例1、4、7と反磁界係数の増加に伴い、f70が増加することが分かり、反磁界係数が0.039以上で1.6GHz以上、と1GHzを超える高い値が得られる。さらに、反磁界係数が0.054以上で2.47GHz以上、反磁界係数が0.097以上で2.76GHz以上の優れた透磁率の周波数特性を示している。比較例3、4、実施例2,3,5,6,8,9に示したように反磁界係数の増加に伴い、f70はL、P方向に評価した場合でも増加する。しかし実施例2、3に示したようにL、P方向の場合、1.14GHz、1.07GHzと同じ反磁界係数である実施例1(f70は1.6GHz)に比べるとf70の増加は小さい。反磁界係数が0.097である実施例8,9でもf70は1.87GHz、1.59GHzと同じ反磁界係数である実施例7に比べると低い値であることがわかる。これらのことから反磁界係数の増加によりf70の増加が最も顕著であったのは無反磁界評価において最も高いμを持つH方向であることがわかる。
【0067】
表3および図8、9に示したように成形方法2にて作製した焼結体でも比較例6、7に比べると反磁界係数の高い実施例11,12はf70の増加が見られ、実施例11、12(反磁界係数0.054)ではf70が1.82GHz、2.27GHzと高い値を示すことが分かる。すなわち、面配向に係る成形方法2についても、反磁界係数が0.054以上で2.27GHz以上の優れた透磁率の周波数特性が得られることが示唆されている。一方でP方向の評価である比較例8、実施例12を比較すると反磁界係数の増加に伴い、f70の値は低下した。これらのことから成形方法2において作製した焼結体において反磁界係数の増加によりf70が増加したのは無反磁界評価においてμの高い方向であるH、L方向であることがわかる。なお、L方向は磁界印加方向でもあり、かかる点でL方向はH方向と挙動が類似している。
【0068】
成形方法1によって作製された焼結体は上述したXRDにより、H方向(磁場印加方向)にc面が平行になっているものと考えられる。ここでH方向の比透磁率実数部が100MHzにおける比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70、LおよびP方向の比透磁率実数部が100MHzにおける比透磁率実数部の70%になる周波数をfp70とすると表3より、fa70/fp70を算出することができる。また成形方法2によって作製された焼結体は上述したXRD回折により、P面内の全ての方向にc面が平行になっているものと考えられる。この場合、fa70は面内の任意の方向の透磁率に関して評価できるが、以下ではH方向、L方向をfa70とした場合を別個に計算して表した。以上のように算出されたfa70/fp70を以下の表4に示した。
【0069】
表4より成形方法1では反磁界係数0の評価ではfa70/fp70はL、P方向共に1.0と低い値であった。しかし反磁界係数0.039の場合L方向、P方向ではそれぞれfa70/fp70は、1.4、1.5と1.2を超える値が得られた。また反磁界係数が0.054では最大で2.2と更に高い値を示し、反磁界係数0.097では最大1.7という値が得られた。また表4より成形方法2では反磁界係数0の評価では、faをHまたはL方向のどちらにとるかによって異なるが、最大で1.1という低いであった。また反磁界係数0.054ではL方向でfa70にとった場合、最大で2.1という高い値が得られることが分かった。上記のように結晶のc面が平行な方向に対して評価したfa70とそれに直交する方向のfp70との比の最大値は反磁界係数の導入により増加し、特に反磁界係数0.054付近では2を超える値が得られる。
【0070】
【表4】
【0071】
3GHzまでの比透磁率実数部の絶対値をキーコム株式会社製の(高周波磁性材料測定システム)を用いて、ワンターンコイル法の原理で測定した。比較例5、実施例4、5、6および実施例10、11、12の0.1GHz、0.5GHz、1GHz、2GHzおよび3GHzの比透磁率実数部の値を評価し、表5に示した。
【0072】
【表5】
【0073】
表5より実施例のうちc面が一の方向に平行になるように配向し、該一の方向が直方体の長手方向と一致している実施例4では、透磁率は1GHzでもほとんど低下することなく、16以上の透磁率を示している。表4に示した実施例は非常に優れた透磁率の周波数特性を示しており、2GHzでも11以上、3GHzでも5以上の透磁率を示している。特に配向方向と形状の使用方向を適正化することによって、2GHzで13以上、3GHzでも8以上の従来にない透磁率の周波数特性を発揮している。実施例4を例にとれば、3GHzにて9.3と比較例5に比べ3倍近い高い値が得られることが分かる。一方で実施例5,6のようにL、P方向の場合では表3のf70は大きい値が得られているが、絶対値として比較例5に比べ優位性は認められない。すなわち、配向の方向によって、周波数特性の変化の挙動が著しく異なることを示している。成形方法2によって作製された実施例10〜12を例にとれば、実施例10、11は比較例に比べ各周波数にて高い透磁率を示し、特に3GHzでは5.6および8.8と比較例5の2〜3倍の値が得られた。一方でP方向に係る実施例12では各周波数にて比較例5より低い透磁率を示し優位性は認められなかった。すなわち、面配向である成形方法2の場合においても配向の方向によって、周波数特性の変化の挙動が著しく異なることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】結晶粒のc軸が観察面方向に向いている状態を示す概念図である。
【図2】リング試料におけるr、θ、線要素の定義を示す図である。
【図3】成形方法1にて作製した比較例の焼結体のH、L、P方向の複素透磁率の周波数特性を図である。
【図4】成形方法2にて作製した比較例の焼結体のH、L、P方向の複素透磁率の周波数特性を図である。
【図5】実施例1、4、7および比較例2でのH方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図6】実施例2、5、8および比較例3でのL方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図7】実施例3、6、9および比較例4でのP方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図8】実施例10および比較例6でのH方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図9】実施例11および比較例7でのL方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図10】実施例12および比較例8でのP方向の複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【図11】比較例1および比較例5での複素透磁率の周波数特性と示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有する軟磁性フェライト。
【請求項2】
前記一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向していることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性フェライト。
【請求項3】
前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向していることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性フェライト。
【請求項4】
前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性フェライト。
【請求項5】
前記軟磁性フェライトはZ型フェライトであり、前記一の方向の比透磁率実数部の絶対値が3GHzで6以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性フェライト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性フェライトを用いた磁気回路であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする磁気回路。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性フェライトを用いたインダクタンス素子であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とするインダクタンス素子。
【請求項1】
c面を磁化容易面とするフェライトの結晶粒を有し、前記結晶粒のc面が少なくとも一の方向に平行になるような配向性を有し、前記一の方向の反磁界係数が0より大きくなるような形状を有する軟磁性フェライト。
【請求項2】
前記一の方向に垂直な面内方向にc軸が配向していることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性フェライト。
【請求項3】
前記一の方向に垂直な他の一方向にc軸が配向していることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性フェライト。
【請求項4】
前記一の方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率実数部の70%になる周波数をfa70とし、前記一の方向に直交する方向の比透磁率実数部が100MHzの比透磁率の70%になる周波数をfp70としたとき、fa70/fp70の最大値が1.2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟磁性フェライト。
【請求項5】
前記軟磁性フェライトはZ型フェライトであり、前記一の方向の比透磁率実数部の絶対値が3GHzで6以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性フェライト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性フェライトを用いた磁気回路であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とする磁気回路。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性フェライトを用いたインダクタンス素子であって、前記一方向を磁路方向として用いることを特徴とするインダクタンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−162845(P2008−162845A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353754(P2006−353754)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】
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