説明

軟組織インプラント

軟組織インプラントは、その場で硬化させることのできる液状生体材料を満たしたシェルを有する。軟組織インプラントを埋め込む方法は、軟組織の中にポケットを作り出すことによってインプラントの位置を規定し;満たされていないシェルをそのポケットの中に挿入し;そのシェルに生体材料を所定の体積まで満たし;その生体材料をその場で硬化させる操作を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟組織インプラントと、軟組織インプラントを埋め込む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
美容整形または再建手術を目的とした人体用インプラントが長年にわたって用いられてきたが、成功の程度はさまざまである。最もよく埋め込まれるインプラントは、大きな乳房を形成するための乳房インプラントである。シリコーン製弾性シェルに収容されたシリコーン・ゲルが、最も広く利用されている1つのタイプの乳房インプラントを形成する。
【0003】
シリコーン・ゲル製乳房インプラントを用いた外科手術には、そのインプラントを一般には5cm以上の長さの切り込みを通じて配置する操作が含まれる。このインプラントはこの手術の間に押し込まれ、この手術によってこのインプラントに及ぼされる応力が、シェルの強度に影響を与えるとともに、このタイプのインプラントが失敗する重要な1つの因子であることがわかっている。それに加え、この手術は、インプラントのレシピエントが全身麻酔下に置かれる大きな手術である。
【0004】
シリコーン・ゲル製インプラントに関しては時間が経つにつれて健康上の不安が増大していることが観察されているため、所定の権限を有する規制当局によってインプラントの使用に対して厳しい制限が課されるに至った。特に、ゲルを満たしたインプラントはシェルから漏れる傾向があるため、レシピエントの健康に影響する可能性がある。
【0005】
広く利用されている別のタイプのインプラントは生理食塩水を満たしたインプラントであり、漏れの問題に対処するために考え出された。しかし生理食塩水式インプラントは、自然な乳房組織のコンシステンシーと触感を再現できず、しかもインプラントの縁部で“折り畳まれた流れ”または波打った状態になる傾向があるため、一般に不自然な感触と形状になる。
【0006】
乳房インプラント、より一般に組織インプラントに付随する上記の問題は、本発明のインプラントと埋め込み法によって解決される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、その場で硬化させることのできる液状生体材料を満たしたシェルを有する軟組織インプラントが提供される。
【0008】
本発明によれば、軟組織インプラントを埋め込む方法であって、
軟組織の中にポケットを作り出すことによってインプラントの位置を規定し;
満たされていないシェルをそのポケットの中に挿入し;
そのシェルに生体材料を所定の体積まで満たし;
その生体材料をその場で硬化させる操作を含む方法がさらに提供される。
【0009】
添付の図面を参照し、本発明を実施例によってさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施態様による軟組織インプラントを埋め込む方法の概略図である。
【図2(a)】軟組織内に位置する軟組織インプラントの一実施態様の概略側面図である。
【図2(b)】図2(a)の軟組織インプラントに充填材料を満たしている図である。
【図3】軟組織インプラントの別の一実施態様の一部に関する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
軟組織インプラント10と、侵襲をできるだけ少なくして軟組織インプラント10を埋め込む方法を図面に概略図として示してある。インプラントは、哺乳動物(ヒトが好ましい)の適切な任意の一部を再建または変更するのに使用できる。部分としては、乳房、臀部、脚、腕、顔面(例えば頬、顎)などがある。インプラントは、再建する身体領域の自然なコンシステンシーに匹敵するコンシステンシーと触感を持つ生体材料を含む弾性シェル12を、その場に、すなわち埋め込まれた軟組織の中に備えている。
【0012】
以下の説明と図面では、本発明の一例として、乳房インプラントと、乳房インプラントを埋め込む方法に特に言及するが、このインプラントと方法は、いかなる軟組織インプラントにも同様に適用できることが理解されよう。
【0013】
軟組織という用語には、骨と歯を除くあらゆる結合組織が含まれる。
【0014】
シェル12に装填するのに用いられる生体材料はシリコーン含有生体材料であり、好ましい実施態様では、インプラントが埋め込まれる軟組織の中においてその場で硬化させることのできる生体安定シリコーン含有ゲルである。シリコーン含有ゲルの形態になった生体材料は、生体安定性と正しいコンシステンシーを実現するために硬化させる必要がある。公知の技術では、シリコーン含有ゲルをシェルの内部で硬化させた後、埋め込まれる。生理食塩水を満たしたインプラントは硬化を必要としない。
【0015】
本発明では、インプラントのシェルを人体に挿入した後、硬化していない流体状のシリコーン含有ゲルをそのシェルに供給してその場で硬化させることが有利である。したがって、組織に空のポケットと液状生体材料が通過するのにちょうど十分な大きさの小さな切り込みを設けるという最少侵襲外科手術が必要とされるだけである。
【0016】
“流体”という用語は、生体材料が、シェルの中に送り込める状態であることを意味する。この用語には、液体やそれ以外の流動可能な生体材料が含まれる。例として、粘性のある生体材料や一部が硬化した生体材料がある。
【0017】
“生体材料”という用語は、生きている哺乳動物(例えばヒトや動物)の細胞および/または体液と接触する状況で使用される材料を意味する。生体材料は、生体安定性であることが好ましい。生体安定性とは、生きている哺乳動物の細胞および/または体液と接触するときに安定であることを意味する。生体材料は、発熱が少なくて4℃までに限定され、硬化時に周囲の組織を加熱したり損傷させたりしないことと、抽出可能物が35%未満と少ないことも好ましい。
【0018】
“抽出可能物”という用語は、生体材料のうちで一般に流体であって35℃の体温で生体材料から自由に出ていく反応しない部分を意味する。より詳細には、生体材料のうちで20℃〜40℃の範囲の温度で有機溶媒を用いて抽出される反応しない流体部分を意味する。
【0019】
生体材料は、天然組織のコンシステンシーと触感を再現するゲルの形態であることが好ましい。ゲルは、化学的ゲルまたは物理的ゲルが可能だが、化学的ゲルのほうが好ましい。流体であってその場で硬化させることのできる生体安定性シリコーン含有ゲルの代表例を以下に示す。
【0020】
1.末端にイソシアネートを持ち、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリジメチルシロキサン(Mwが1000/2000)から合成されるプレポリマー(NCOの割合はさまざま)。分子量がより大きな合成されたT-トリオール(約40000〜70000)の必要量を添加し、数滴の金属触媒とともに機械的に約5分間にわたって混合した後、約15分間にわたって室温に維持してゲル化させる。
【0021】
2.末端にヒドロキシエトキシプロピルを有する3.55%-(メチルメタクリルオキシプロピルメチルシロキサン)(ジメチルシロキサン)コポリマー(Mwが約50000〜100000)と、合成されたジアクリル酸シリコーンの中に希釈した光開始剤(Irgacure 2022)とを5分間にわたって機械的に混合し、約5分間にわたって超高強度のUV-Aランプ(365nm)のもとに置いて硬化させる。
【0022】
3.末端に高分子量のイソシアネートを有する(プロピルメチルシロキサン)(ジメチルシロキサン)コポリマーとジオール(Mwが100〜2000)を数滴の金属触媒とともに約5分間にわたって機械的に混合した後、約15分間にわたって室温に維持してゲル化させる。
【0023】
4.末端にヒドロキシを持ち、ポリマー鎖の中にビニル基を有するシロキサンジオールとシロキサントリオールを合成し、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリジメチルシロキサン(Mwが1000/2000)から合成したNCOの割合がさまざまなプレポリマーと反応させた後、UVを照射して硬化させる。
【0024】
5.α,ω-ビス(γ-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンと、0.6%の光開始剤を含むメタクリル酸イソシアノエチルと、反応性希釈剤(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸、メタクリル酸メチル、ビニルピリジン)の混合物をアルミニウム製の皿の中に注ぐ。照射源として一列の20W水銀ランプ(λ=365nm)を用いて窒素雰囲気下でこの混合物に一方の側から照射する。30分間という照射時間で混合物が完全に硬化することがわかる。
【0025】
6.末端にヒドロキシエトキシプロピルを有する(エポキシグリシジルエーテルシロキサン)コポリマー(Mwが約50000〜100000)とα,ω-ビス(γ-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサンを機械的に約5分間にわたって混合した後、約15分間にわたって室温に維持してゲル化させる。
【0026】
7.末端にエポキシグリシジルエーテルシロキサンを有する(メチルメタクリルオキシプロピルメチルシロキサン)(ジメチルシロキサン)コポリマー(Mwが約50000〜100000)と、合成されたジアクリル酸シリコーンの中に希釈した光開始剤(Irgacure 2022)とを5分間にわたって機械的に混合し、約5分間にわたって超高強度のUV-Aランプ(365nm)のもとに置いて硬化させる。
【0027】
8.末端に高分子量のトリ-ビニルを有するシロキサン・コポリマー(Mwが約50000〜100000)と、合成されたジアクリル酸シリコーンの中に希釈した光開始剤(Irgacure 2022)とを5分間にわたって機械的に混合し、約5分間にわたって超高強度のUV-Aランプ(365nm)のもとに置いて硬化させる。
【0028】
生体安定性シリコーン含有ゲルは、WO 2006/034547とオーストラリア国特許AU 2006902072に開示されているタイプであることが好ましい(これら特許文献の全内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。
【0029】
シェル12は、ポリウレタン、ポリウレタン尿素、ポリカーボネート(例えばシリコーン含有ポリウレタン、ポリウレタン尿素、ポリカーボネート)のいずれかから作られた弾性シェルであるか、適切な手段(浸漬、ブロー成形、シェルの互いに向かい合った側の融合など)で作られたシリコーン製シェルである。シリコーン含有ポリウレタン、ポリウレタン尿素、ポリカーボネートの例として、WO 92/00338、WO 98/13405、WO 98/54242、WO 99/03863、WO 00/64971に開示されているものがある(これら特許文献の全内容は参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)。好ましい実施態様では、シェルはElast-Eon(登録商標)ポリマーから形成されるか、Elast-Eon(登録商標)ポリマーで裏打ちしたシリコーン製シェルである。シェルは、対称であるか、特定の形状のインプラントとなる輪郭を持つ。シェルの外面は滑らかでもざらざらしていてもよい。ざらざらした面にすると、インプラントの周囲に形成される傷痕組織の量が少なくなる。
【0030】
インプラントの形状は、Elast-Eonなどのシェルを用いることによって決定できる。このシェルは、軟組織インプラントとして適切なように十分に伸長できる弾性率を持つが、伸長限界は、生体材料充填物がインプラントの望ましい形状を歪めることができるほど大きくはない。
【0031】
図面に示してあるように、シェル12は開口部14を備えていて、その開口部を通って充填物送達ツール(この実施態様では狭い貫通孔を持つ柔軟なスタイレット20)が挿入されてインプラントのシェルにシリコーン含有ゲルが満たされる。
【0032】
シリコーン含有ゲルは、硬化していない状態では、粘性率の大きな、または小さな液状モノマーであるため、スタイレットを通じて送達または注射できる。シリコーン含有ゲルは、硬化するとポリマーに、すなわち粘弾性ゲルになる。
【0033】
弁30(特に逆止め弁または一方向弁)を開口部に組み込み、液状のシリコーン含有ゲルが完全に硬化する前に漏れないようにすることができる。図2(b)は、使用可能な1つのタイプの弁、すなわちダックビル弁31を示している。図3はシェルの別の一実施態様を示しており、ここでは外部栓33を有するダイアフラム・バルブ32が用いられている。これらの弁により、充填用スタイレットは気密な状態でアクセスすることができる。充填が終わるとスタイレットは取り出され、液状ゲルが漏れてシェルに戻るのを弁が阻止する。
【0034】
栓33は、ダイアフラム・バルブなしで単独で使用することができる。その場合には、手術者は、充填した後に漏れが起こる前に素早く栓をせねばならない。図示したような外部栓33を用いること、または内部栓を用いることができる。
【0035】
シェルに組み込める別のタイプの弁として、リード弁、リーフ弁、クロス・スリット弁などがある。弁は、製造プロセスの間に弾性シェルと一体化して形成される。図1は、製造中に形成されて接合材料を規定するパッチ16を示している。インプラントのいくつかの応用では、シェルの形状に応じ、開口部14を接合材料の位置に配置すると適切である可能性がある。
【0036】
弁30の使用に対する別の方法は、弁を用いないというものである。この場合には、過剰な液状ゲルを開口部14から自由に流出させる。シリコーン含有ゲルが硬化するにつれて流出が止まるため、硬化した過剰な糸状の生体材料ゲルを開口部の位置で除去する。
【0037】
軟組織インプラント10を埋め込むための外科手術では、ポケット40を作り出し、その中に空のシェル12を配置する必要がある。インプラントの性質と、患者の体内でそのインプラントを配置すべき領域がどこであるかに応じ、患者に局所麻酔または全身麻酔をする。
【0038】
ポケット40を作り出すため、標準的な手術道具を用いてアクセス地点の皮膚と組織35を切開して小さな穴42を設ける。乳房インプラントの手術に関しては、穴は直径/長さがほんの約1cmあればよい。他の手術ではより小さな穴またはより大きな穴が必要となる可能性があるが、穴の大きさは、挿入する空のポケットのサイズによってほぼ決まる。平均として、穴のサイズは0.5〜5cmの範囲になると考えられる。
【0039】
皮膚の下の軟組織を外科的吸引によって穴42から取り出し、および/またはバルーン式解剖器具によって移動させるなどし、ポケットのための空間を作り出す。ポケット40は一般にバルーン式解剖器具を膨らませることによって大きくなり、埋め込まれるインプラントのサイズに対応するサイズに修正される。ポケットの正しいサイズは、ポケットの測定を行なうことによって、および/または光ファイバー式の開創器または内視鏡を用いてポケットを目視検査することによって確認する。サイズ測定器が付属していて空気が満たされる試験用インプラントも使用できる。
【0040】
ポケットのサイズを確認すると、空のシェル12をコンパクトな状態でそのポケットに挿入する。これは、ポケットが折り畳まれるか丸められた状態で挿入されることを意味する。この実施態様では、シェルは中空で可撓性のある挿入用スタイレット(例えばトロカール)の端部に丸められるか包まれた状態にされている。図2(a)に図示されているように、一端にシェル12が巻き付けられた挿入用スタイレット45が穴42を通じてポケット40に挿入される。
【0041】
この時点で挿入用スタイレットをポケットの一端に位置させ、ポケットの他端に向かって注意深く回転させながらシェルをほどき、スタイレットから離れさせる。潤滑剤を用いてシェルの挿入を容易にすることで、シェルに対して発生する応力を無視できるくらい小さくし、シェルが完全なままで強度を保っているようにする。シェル12は、ほどかれるとポケットの中で実質的に平らになる。開口部14(一般に弁30を有する)は穴42と揃った位置にある。挿入用スタイレット45を取り出す。
【0042】
次に、充填用スタイレット20を弁30を通じて挿入し、液状生体材料をリザーバからチューブを通じてスタイレットに供給し、シェル12の中に入れる。図2(b)は、弁31から突起してシェル12に生体材料22を満たすための充填用スタイレット20を示している。生体材料は、患者の上方から吊り下げられたバッグとの高度差による圧力下で静脈内スタイレットによって供給することができる。あるいは生体材料は、図1に示したように、注射器27から、充填用スタイレット20を取り付けたチューブ25を通じて手で注入することもできる。さらに別の供給形態として、機械式ポンプ(例えば蠕動ポンプ)によって生体材料を供給することが可能である。
【0043】
さまざまな生体材料がシェルを満たし、そのシェルに特有のサイズと形状に合わせて決められた所定の体積にされる。充填が少なすぎたり多すぎたりすることは望ましくない。充填が不十分だと波打ち、一般に不自然な形状になる可能性がある(その中に位置決めの問題も含まれる)。それに対して過剰に充填されると、皺になって(波打って)形状が歪む可能性がある。
【0044】
生体材料はその場で硬化させる。硬化は、生体材料がシェルに入る前(すなわち供給中)に開始してシェルの中で完了させるか、全面的にシェルの中で起こさせる。
【0045】
外部硬化技術を利用することができる。その場合には、硬化をシェルの外部で、したがって体外で開始させる。そのような方法として、生体材料がシェルの中に供給されるとき、通過する生体材料に赤外光、紫外光、超音波エネルギーなどを照射する方法などがある。図1には、生体材料が含まれたチューブ25に照射して硬化を開始させる高エネルギー照射装置50が示されている。硬化は、生体材料がシェルの中に入って数分後に完了する。
【0046】
供給中に硬化を開始させるのではなく、生体材料の充填が完了した後、エネルギーの大きな照射装置を穴42の内部でインプラントの隣に設置することもできる。
【0047】
あるいは硬化は、構成成分であるモノマーの形態の生体材料、またはプレ-ポリマーとしての生体材料を、チューブを通じた供給の間に硬化性架橋剤と混合することによって化学的に開始させることもできる。生体材料は、ポリマー処理に用いられてやはり硬化を助ける他の一般的な添加剤(例えば触媒、開始剤)を含んでいてもよいことがわかるであろう。図1には、注射器27と充填用スタイレット20を接続するチューブ25に直列に配置されたミキサー52が示されている。すでに説明したように、触媒を化学混合物の中に導入して硬化を加速することができる。
【0048】
さらに別の方法では、患者自身の体温だけを利用し、外部の助力を必要とすることなく生体材料を硬化させることができる。上に説明した外部での化学的硬化法では、患者の体温も硬化を加速する助けになる。
【0049】
硬化の間、インプラントの最終的な形状を形成することのできる装置(例えばブラジャー)によってインプラントを外部から支持することも考えられる。
【0050】
上記の例は、穴42を閉じる前に硬化を開始させる方法を説明している。硬化は、穴を閉じた後に起こさせることもできる。これは、患者の体温だけを利用して、またはインプラントの領域全体に外部から熱、超音波、光照射の形態になった高エネルギー照射をすることによって実現できる。
【0051】
侵襲ができるだけ少ない手術にするには、特に局所麻酔を利用するのであれば、硬化時間を20分間未満にして患者にとっての不便さや不快さをできるだけ少なくすることが考えられる。
【0052】
シェルは、埋め込み後と、ポケットを閉じる前および閉じた後に患者の体内に正確に設置されたことを確認するための放射線不透過性マークをさらに備えることができる。
【0053】
ポケットの封鎖は、標準的な手段(例えば縫合または医用接着剤)を利用して穴42を密封することによって行なわれる。
【0054】
本発明の軟組織インプラントとそのインプラントを埋め込む方法により、美容整形と再建手術の分野に大きな利点がもたらされる。手術の侵襲性をできるだけ少なくすることで、患者にとっての傷がより少なくなり、公知の方法よりも効果的かつ迅速に手術を行なうことが可能になる。
【0055】
本発明のインプラントの別の利点は、硬化した生体材料充填物の粘性率を制御し、埋め込まれる領域のコンシステンシーに合うように変えられることである。例えば顔面領域のためのインプラントは、硬化したときに乳房インプラントよりも硬くなろう。
【0056】
本発明のインプラントは、漏れが起こらないため信頼性よく安全に使用できる。さらに、本発明のインプラントは、公知のインプラントよりも定期的に交換する頻度がはるかに少なくて済むであろう。公知のインプラントは平均して5年ごとに交換する必要がある。本発明の軟組織インプラントは、20年ごとに交換するだけでよいと考えられる。
【0057】
以下の請求項と本発明に関する上記の説明において、表現や必要な含意のために別の意味に取ることが文脈から必要とされる場合を除き、“備える”という用語またはそのバリエーションである“備えている”などは、包括的な意味で用いている。すなわちこの用語は、記載した特徴が存在していることを示すが、本発明のさまざまな実施態様におけるさらに別の特徴の存在または追加が除外されることはない。
【0058】
本発明の当業者には、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、多くの変更が可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その場で硬化させることのできる液状生体材料を満たしたシェルを有する軟組織インプラント。
【請求項2】
上記生体材料が生体安定性である、請求項1に記載の軟組織インプラント。
【請求項3】
上記生体材料がシリコーンを含んでいる、請求項1または2に記載の軟組織インプラント。
【請求項4】
上記生体材料がシリコーン含有ゲルである、請求項3に記載の軟組織インプラント。
【請求項5】
上記ゲルの発熱特性が、最大温度差+4℃に限定されている、請求項4に記載の軟組織インプラント。
【請求項6】
上記ゲルに含まれる抽出可能物が35%未満である、請求項4に記載の軟組織インプラント。
【請求項7】
上記シェルが開口部を備えていて、その開口部を通じて上記生体材料が満たされる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の軟組織インプラント。
【請求項8】
上記開口部が逆止め弁によって規定されている、請求項7に記載の軟組織インプラント。
【請求項9】
上記弁が、ダイアフラム・バルブ、ダックビル弁、リード弁、リーフ弁、クロス・スリット弁、プラグ弁のいずれかである、請求項8に記載の軟組織インプラント。
【請求項10】
上記シェルが弾性材料でできている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の軟組織インプラント。
【請求項11】
上記弾性材料が、ポリウレタン、および/またはポリウレタン尿素、および/またはポリカーボネート、および/またはシリコーンである、請求項10に記載の軟組織インプラント。
【請求項12】
上記弾性材料がElast-Eon(登録商標)ポリマーである、請求項10に記載の軟組織インプラント。
【請求項13】
上記シェルが、位置を確認するための放射線不透過性マークを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の軟組織インプラント。
【請求項14】
上記弾性シェルが、生体材料を満たしたときにそのシェルが変形することなく広がるような伸び弾性率を持つ、請求項10〜13のいずれか1項に記載の軟組織インプラント。
【請求項15】
軟組織インプラントを埋め込む方法であって、
軟組織の中にポケットを作り出すことによってインプラントの位置を規定し;
満たされていないシェルをそのポケットの中に挿入し;
そのシェルに生体材料を所定の体積まで満たし;
その生体材料をその場で硬化させる操作を含む方法。
【請求項16】
硬化の前または後に上記ポケットを閉じる操作を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
充填している間に上記生体材料の硬化を開始させ、その場で硬化を完了させる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
上記シェルに上記生体材料を満たした後に硬化させる操作を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
上記生体材料を外部で硬化させる操作を含む、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
赤外線照射、紫外線照射、超音波エネルギーのいずれかを利用して上記生体材料を外部で硬化させる操作を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記生体材料を化学的に硬化させる操作を含む、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
上記生体材料の構成成分であるモノマーまたはプレポリマーと硬化性架橋剤を混合した後、その生体材料混合物を上記シェルに満たす操作を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
上記生体材料混合物に触媒および/または開始剤を添加する操作を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
硬化の間を通じて上記インプラントを支持してそのインプラントの形状を規定する操作を含む、請求項15〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
上記インプラントをブラジャーで支持する操作を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
上記シェルに、そのシェルの表面に位置する穴を通じて満たす操作を含む、請求項15〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
上記シェルに、上記穴に設けられた弁を通じて満たす操作を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
空になった状態の上記シェルをスタイレットの一端に巻き付け、そのスタイレットを上記ポケットの中に挿入し、その空のシェルをそのスタイレットからほどいて所定の位置に配置する、請求項15〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
加圧下でチューブを通じて流体状の生体材料を上記空のシェルに供給する操作を含む、請求項15〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
重力下で上記生体材料を上記空のシェルに供給する操作を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
注射器を用いて上記生体材料を上記空のシェルに注入する操作を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ポンプを用いて上記生体材料を上記空のシェルに注入する操作を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
最初に軟組織に切り込みを入れ、次いでその軟組織内のある領域をきれいにしてポケットを形成することによってポケットを作り出す操作を含む、請求項15〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
長さが0.5cm〜5cmの切り込みを作る操作を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
測定、および/または視覚的手段、および/または寸法測定器の適用により、シェルを挿入する前にポケットのサイズを確認する操作を含む、請求項15〜34のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−505557(P2010−505557A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531692(P2009−531692)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国際出願番号】PCT/AU2006/001488
【国際公開番号】WO2008/043123
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(501030898)エイオーテク バイオマテリアルズ プロプライアタリー リミティド (6)
【Fターム(参考)】