説明

転位構造、環状および線形オリゴマーを備え流動性が改良されたポリカーボネート

本発明は、転位構造と、環状および線形オリゴマーを有するポリカーボネートに基づいて、流動性が改良された組成物に関し、およびこれらのポリカーボネート組成物からなる成形物および押出物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転位構造と、環状および線形オリゴマーを備えたポリカーボネートに基づいて、流動性が改良された組成物、およびこれらのポリカーボネート組成物の成形物品および押出物を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート合成法は一般的に公知であり、多くの刊行物に記載される。
【0003】
欧州特許公開第EP−A 0 517 044号公報、国際特許出願第WO 2006/072344号公報および欧州特許公開第EP−A 1 609 818号公報およびそこで示される文書はたとえば、ポリカーボネートの調製について、界面および溶融法を記載する。
【0004】
芳香族オリゴ−およびポリカーボネートの溶融エステル交換法による調製は主に文献から公知であり、さらに前に、たとえば、エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス(Encyclopedia of Polymer Science),vol.10(1969),ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ(Chemistry and Physics of Polycarbonates),ポリマー・レビューズ(Polymer Reviews),H.シュネル(Schnell),vol.9,ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons),Inc.(1964)に、および ドイツ特許登録第DE−C 10 31 512号公報、米国特許公開第US−A 3,022,272号公報、米国特許公開第US−A 5,340,905号公報および米国特許公開第US−A 5,399,659号公報に記載されている。
【0005】
熱可塑性プラスチックにおいて、低分子量の構成要素(オリゴマー、環状構造または添加剤)は溶融粘度の低下につながり、故に、先天的可塑剤としての役割を果たすことで公知である。したがって、欧州特許公開第EP−A 0953605号公報は、線形芳香族ポリカーボネートの形状転写性を改良するために、環状芳香族カーボネートを流動性改良剤および流動剤として使用することを記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
驚くべきことに、オリゴマー含有量、すなわち、線形および環状オリゴマーの合計を減らし、さらに、カーボネート構造から形成されたしばしば多官能性の転位構造が所定量存在し、かつポリカーボネートが好ましくはより狭い分子量分布、すなわちより低い不均質性係数U=(Mw/Mn)−1を有するなら、ポリカーボネート組成物は同程度しかこれらの不都合を有さないと同時に、より低い溶融粘度を有し、すなわち、より良好な流動性を示し、したがって射出成形時の処理特性が改良されることを、新たに見出した。このことは、オリゴマー含有量をより高くかつ減らさないことが流動性の改良につながるものとして知られていので、非常に驚きである。さらに、多官能性転位構造は分岐につながり、したがって溶融粘度が高く、分子量分布が幅広くなり、同時に不所望に劣悪な流動性を伴うものとして知られている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって本発明は、一般式(I)〜(IV)の1以上の構造を有するポリカーボネートを提供し、
【0008】
【化1】


ここで、フェニル環は互いに独立して、C〜C−アルキルまたはハロゲンたとえば、塩素または臭素、好ましくはC〜C−アルキル、特にメチルによって、1または2置換されてもよく、Xは式(1a)の場合に与えられる意味を有し、
ここで、構造ユニット(I)〜(IV)の量は、基礎となるポリカーボネートに基づいて、全体で一般的に50〜900ppmであり、さらに、全組成物に基づいて、線形および環状オリゴマーを全体で0.1〜2重量%の量で含有し、ここで、
線形オリゴマーは式(V)〜(IX)のものであり、
【0009】
【化2】


ここで、構造(VIII)および(IX)の量は、0.001重量%以下であり、
環状オリゴマーは一般式(X)のものであり、
【0010】
【化3】


ここで、
nは2〜6の整数であり、
Zは式(1a)の基を表し、
【0011】
【化4】


ここで、RおよびRは互いに独立して、HまたはC〜C−アルキル、好ましくはHまたはC〜C−アルキル、特に好ましくは水素またはメチルを表し、
Xは単結合、C〜C−アルキレン、C〜C−アルキリデンまたはC〜C−シクロアルキリデンを表し、C〜C−アルキル、好ましくはメチルまたはエチルで置換されてもよい。
【0012】
本願の内容では、式(I)〜(IV)の構造ユニットは、簡略化のために、転位構造とも呼ばれる。この構造ユニットは、ポリカーボネートの調製用に使用されるジフェノールまたはジフェノール混合物から誘導され生じたものである。したがってたとえば、ジフェノールとしてビスフェノールAの場合には、転位構造のフェニル環は置換されない。
【0013】
本発明によるポリカーボネート組成物に含まれる一般式(X)の環状オリゴマーは、好ましくは、0.2〜1.2、特に好ましくは0.2〜1.1および非常に特に好ましくは0.3〜1重量%の量で含まれる。
【0014】
組成物に含まれる環状構造は、n=2〜6ならば、本質的に95%以上の程度ですなわち環の寸法となる。好ましくはn=3および/またはn=4、特に好ましくはn=3ならば、環の寸法となる。
【0015】
本発明によるポリカーボネート組成物中に含まれる一般式(V)〜(VII)の線形オリゴマーは、好ましくは、0.2〜1.2、特に好ましくは0.3〜1.1および非常に特に好ましくは0.4〜0.9重量%の量で含まれる。
【0016】
上で規定される転位構造は互いに関して、様々な量および割合となる。その量はポリカーボネート組成物全体の加水分解によって決定され得る。
【0017】
分析目的の分解で、特定の転位構造についての特徴を有する式(Ia)〜(IVa)の低分子量分解生成物を形成し、その量をHPLCによって決定するが、
【0018】
【化5】


ここで、フェニル環は、式(I)〜(IV)の記載において上で示されるように置換されてもよい。
【0019】
この手順によって放出される式(Ia)の化合物の量は典型的に、50〜800ppm、好ましくは70〜700ppm、特に好ましくは100〜600ppmおよび非常に特に好ましくは100〜550ppmである。
【0020】
この手順によって放出される式(IIa)の化合物の量は典型的に、0(<5ppmの検出限界未満)〜100ppm、好ましくは0〜90ppm、特に好ましくは0〜80ppmおよび非常に特に好ましくは0〜70ppmである。
【0021】
この手順によって放出される式(IIIa)の化合物の量は典型的に、0(<5ppmの検出限界未満)〜60ppm、好ましくは0〜50ppm、特に好ましくは5〜40ppmおよび非常に特に好ましくは5〜30ppmである。
【0022】
この手順によって放出される式(IVa)の化合物の量は典型的に、0(<5ppmの検出限界未満)〜300ppm、好ましくは5〜280ppm、特に好ましくは5〜270ppmおよび非常に特に好ましくは10〜260ppmである。
【0023】
簡略化のために、式(I)〜(IV)構造の量は、放出される式(Ia)〜(IVa)の化合物量と等しいとする。
【0024】
好ましくは、ポリカーボネートは以下の不均質性係数を有し、各種分子量範囲についての不均質性係数は次の通りである:
本発明による低粘度PCは18,000〜22,000g/molの平均分子量(重量平均)を有し、Uは1.08〜1.18、好ましくは1.10〜1.16であり、
本発明による中粘度PCは22,000より大きく〜26,000g/molの平均分子量(重量平均)を有し、Uは1.18〜1.60、好ましくは1.20〜1.55、特に好ましくは1.20〜1.50、非常に特に好ましくは1.20〜1.45であり、
本発明による高粘度PCは26,000より大きく〜30,000g/molの平均分子量(重量平均)を有し、Uは1.25〜1.65、好ましくは1.25〜1.60、特に好ましくは1.25〜1.50および非常に特に好ましくは1.30〜1.45であり、
本発明による非常に高粘度PCは30,000g/molより大きく好ましくは50,000g/mol以下の平均分子量(重量平均)を有し、Uは1.50〜1.95、好ましくは1.55〜1.90、特に好ましくは1.55〜1.85、非常に特に好ましくは1.55〜1.80である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
転位構造を備え、かつ本発明に不可欠な(環状および線形)オリゴマー含有量を減らし、好ましくは比較的狭い分子量分布(比較的低い不均質性係数U)を有する本発明による組成物を調製するために、芳香族ジヒドロキシ化合物を、溶融中で、特定の触媒および任意にさらなる添加剤の助けを借りて、炭酸ジエステルとエステル交換する。
【0026】
環状カーボネート含有量を減らし、転位構造を備えかつ比較的狭い分子量分布(比較的低い不均質性係数U)を有する本発明によるポリカーボネート組成物を、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルから、触媒としてアンモニウムまたはホスホニウム塩の存在中で、溶融エステル交換法によって調製する。
【0027】
ポリカーボネートの調製に好適なジフェノールは式(1)のものであり、
HO−ZOH (1)
ここで、Zは式(1a)の基を表し、
【0028】
【化6】

ここで、RおよびRは互いに独立して、H、C〜C−アルキル、好ましくはHまたはC〜C−アルキル、特に好ましくは水素またはメチルを表し、
Xは単結合、C〜C−アルキレン、C〜C−アルキリデンまたはC〜C−シクロアルキリデンを表し、C〜C−アルキル、好ましくはメチルまたはエチルで置換されてもよい。
【0029】
好ましくは、Xは単結合、メチレン、イソプロピリデン、シクロヘキシリデンまたは3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン、特に好ましくはイソプロピリデンまたは3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデンを表す。
【0030】
このようなジヒドロキシアリール化合物の例は:ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシジフェニル、ビス−(ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(ヒドロキシフェニル)−シクロアルカンおよびその核アルキル化化合物である。
【0031】
ジヒドロキシアリール化合物は一般的に公知であり、一般的に公知の方法(たとえば、国際特許出願第WO 2006/072344号公報、欧州特許公開第EP−A 1609818号公報およびそこで示される文献)によって調製され得る。
【0032】
式(1)の好ましいジフェノールは:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルである。
【0033】
1個のジヒドロキシアリール化合物を用いてホモポリカーボネートを形成することも、または各種ジヒドロキシアリール化合物を用いてコポリカーボネートを形成することもできる。特定の特性の組み合わせを有する生成物を調製する場合には、特に後者は重要である。
【0034】
モノマー状ジヒドロキシアリール化合物の代わりに、OH末端基で主に終わらせた低分子量オリゴカーボネートを出発化合物として使用することもできる。
【0035】
また、ジヒドロキシアリール化合物は、このジヒドロキシアリール化合物を調製したモノヒドロキシアリール化合物の残留物を含有したまま使用されてもよく、低分子量オリゴカーボネートは、オリゴマーの調製で分離されたモノヒドロキシアリール化合物の残留物を含有したまま使用されてもよい。モノヒドロキシアリール化合物の残留物含有量は20%以下、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下および非常に特に好ましくは2%以下であってもよい(たとえば、欧州特許公開第EP−A 1 240 232号公報参照)。
【0036】
使用されるジヒドロキシアリール化合物、合成に添加される全ての他の原材料、化学物質および補助物質等は、それ自身の合成、取り扱いおよび貯蔵から生じた不純物で汚染されていてもよいが、可能な限り純粋な原材料、化学物質および補助物質を用いて作業するのが望ましく意図される。
【0037】
ジヒドロキシアリール化合物と反応させるのに好適なジアリールカーボネートは式(2)のものであり、
【0038】
【化7】

ここでR、R’およびR”は互いに独立して同じでも異なっていてもよく、水素、任意に分岐したC〜C34−アルキル、C〜C34−アルキルアリールまたはC〜C34−アリールを表し、RはさらにーCOO−R”’を示してもよく、ここでR”’は水素、任意に分岐したC〜C34−アルキル、C〜C34−アルキルアリールまたはC〜C34−アリールを表す。
【0039】
このようなジアリールカーボネートはたとえば、欧州特許公開第EP−A 1 609 818号公報に記載される。好ましいジアリール化合物は、ジフェニルカーボネート、4−tert−ブチルフェニルフェニルカーボネート、ジ−(4−tert−ブチルフェニル)カーボネート、ビフェニル−4−イルフェニルカーボネート、ジ−(ビフェニル−4−イル)カーボネート、4−(1−メチル−1−フェニルエチル)−フェニルフェニルカーボネートおよびジ−[4−(1−メチル−1−フェニルエチル)−フェニル]カーボネートである。
【0040】
ジフェニルカーボネートは特に好ましい。
【0041】
また、ジアリールカーボネートは、ジアリールカーボネートを調製したモノヒドロキシアリール化合物の残留物を含有したまま使用されてもよい。モノヒドロキシアリール化合物の残留物含有量は20%以下、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下および非常に特に好ましくは2%以下であってもよい。
【0042】
ジヒドロキシアリール化合物に基づいて、ジアリールカーボネートは一般的に、ジヒドロキシアリール化合物1mol当たり1.02〜1.30mol、好ましくは1.04〜1.25mol、特に好ましくは1.06〜1.22mol、非常に特に好ましくは1.06〜1.20molで使用される。上記ジアリールカーボネートの混合物を用いてもよい。
【0043】
ジアリールカーボネートの調製に使用されなかったモノヒドロキシアリール化合物をさらに用いて、末端基を制御または変更してもよい。次の一般式(3)によって表され:
【0044】
【化8】

ここで、R、R’およびR”は式(Ia)の場合のRおよびRについて与えられる意味を有する。フェノールが好ましく、すなわち(3)における基は全てHを表す。
【0045】
本内容では、使用されるジアリールカーボネートの調製用に使用されたモノヒドロキシアリール化合物の沸点よりも高い沸点を有するモノヒドロキシアリール化合物が、選択される。このモノヒドロキシアリール化合物を、反応過程のいずれの時点で添加してもよい。好ましくは、反応出発時に添加するが、処理過程のいずれの所望地点でもよい。フリーのモノヒドロキシアリール化合物の含有量はジヒドロキシアリール化合物に基づいて、0.2〜20mol%、好ましくは0.4〜10mol%であってもよい。
【0046】
また、主に使用されるジアリールカーボネートの基となるモノヒドロキシアリール化合物より高い沸点を有するモノヒドロキシアリール化合物に基づくジアリールカーボネートを共に使用することによって、末端基を変更してもよい。ここでも、ジアリールカーボネートを、反応過程のいずれの時点で添加してもよい。好ましくは、反応出発時に添加するが、処理過程のいずれの所望地点でもよい。使用されるジアリールカーボネートの全量中での高沸点モノヒドロキシアリール化合物に基くジアリールカーボネートの含有量は、1〜40mol%、好ましくは1〜20mol%および特に好ましくは1〜10mol%であってもよい。
【0047】
以後オニウム塩と呼ばれるアンモニウムまたはホスホニウム塩を、本発明に不可欠な溶融エステル交換法における触媒として使用する。好ましくはホスホニウム塩が使用される。本発明の内容でホスホニウム塩は一般式(4)のものであり、
【0048】
【化9】

ここで、R7〜10は同じまたは異なったC〜C10−アルキル、C〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキルまたはC〜C−シクロアルキル、好ましくはメチルまたはC〜C14−アリール、特に好ましくはメチルまたはフェニルであってもよく、Xは陰イオン、たとえば、ヒドロキシド、スルフェート、水素スルフェート、ビカーボネート、カーボネートまたはハライド、好ましくはクロライドまたはアルキレートまたは式−ORのアルキレートであってもよく、ここでRはC〜C14−アリール、C〜C15−アリールアルキルまたはC〜C−シクロアルキル、好ましくはフェニルであってもよい。
【0049】
特に好ましくは、触媒はテトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムヒドロキシドおよびテトラフェニルホスホニウムフェノレートであり、テトラフェニルホスホニウムフェノレートが特に好ましい。
【0050】
好ましくはこれらを、ジヒドロキシアリール化合物1mol当たり10−8〜10−3molの量で、特に好ましくは10−7〜10−4molの量で使用する。
【0051】
縮重合の速度を増加させるために、さらなる触媒を、上記タイプのオニウム塩に加えて、共触媒として使用することができる。
【0052】
これらにはアルカリ金属およびアルカリ土金属のアルカリ活性塩、たとえば、リチウム、ナトリウムおよびカリウムのヒドロキシド、アルコキシドおよびアリールオキシド、好ましくはナトリウムのヒドロキシド、アルコキシドまたはアリールオキシドがある。水酸化ナトリウムおよびナトリウムフェノレートは最も好ましく、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンのジナトリウム塩も好ましい。
【0053】
共触媒としてのアルカリ金属およびアルカリ土金属のアルカリ活性塩の量は、各場合ナトリウムとして計算しかつ形成されるポリカーボネートに基づいて、1〜500ppb、好ましくは5〜300ppbおよび最も好ましくは5〜200ppbの範囲であってもよい。
【0054】
アルカリ金属およびアルカリ土金属のアルカリ活性塩をオリゴカーボネートの調製時、言わば合成開始時にすでに使用してもよいが、不所望な副反応を抑制するために、縮重合の前にのみ混合してもよい。
【0055】
縮重合の前に、同じタイプまたは異なるタイプのオニウム触媒を補足的量で添加することも可能である。
【0056】
触媒は、有害に過剰な濃度となるのを避けるために、計量添加時に溶液で添加される。溶媒は、システムおよび処理に本来的な化合物、たとえば、ジヒドロキシアリール化合物、ジアリールカーボネートまたはモノヒドロキシアリール化合物である。ジヒドロキシアリール化合物およびジアリールカーボネートは僅かな高温でも特に触媒活性下では非常に容易に変化し分解するといったことが、当業者に周知であるので、モノヒドロキシアリール化合物が特に好ましい。ポリカーボネートの品質はこの方法の影響を受ける。ポリカーボネートの調製のために工業的に重要なエステル交換法では、フェノールが好ましい化合物である。フェノールはまた、好ましく使用される触媒のテトラフェニルホスホニウムフェノレートを、調製時にフェノールとの混晶として単離させるので、必然的に非常に好適となる。
【0057】
ポリカーボネートの重量平均分子量は一般的に15,000〜50,000、好ましくは17,000〜40,000、特に好ましくは17,000〜34,000g/molであり、ポリカーボネートキャリブレーションに対するGPCによって決定される。
【0058】
ポリカーボネートは一般的に、各場合、60ppb以下、好ましくは<40ppbおよび特に好ましくは<20ppb(Na陽イオンとして計算)の非常に低含有量で陽イオンおよび陰イオンを有し、存在する陽イオンはアルカリおよびアルカリ土金属の陽イオンであるが、これはたとえば、使用される原材料およびホスホニウムおよびアンモニウム塩からの不純物として生じ得る。さらなるイオン、たとえば、Fe、Ni、Cr、Zn、Sn、MoおよびAlイオンおよびその同族物が原材料に含まれる場合や、または使用される装置材料からの磨耗または腐食によって生じる場合がある。これらのイオン含有量は全体で、2ppm以下、好ましくは1ppm以下および特に好ましくは0.5ppm以下である。
【0059】
存在する陰イオンは無機酸または有機酸と等量の陰イオン(たとえば、クロライド、スルフェート、カーボネート、ホスフェート、ホスフィト、オキサレート他)である。
【0060】
非常に少量にすることは、非常に純粋な原材料を使用することによってしか達成することができないのだが、故にこれが目的である。このような純度の原材料は、たとえば、精製処理、たとえば、洗浄等と共に再結晶、蒸留、再沈殿によってしか得ることができない。
【0061】
エステル交換法によるポリカーボネートの調製についての本発明による方法は、考案では不連続でもまたは連続でもよい。ジヒドロキシアリール化合物およびジアリールカーボネートと、任意にさらなる化合物とが溶融物として存在する場合には、反応を本発明に不可欠な触媒の存在中で開始する。好適な設備および装置内で減圧下で温度を上げ、分離されたモノヒドロキシアリール化合物を除去することによって、目的の最終状態に達するまで、転移または分子量を増加させる。ジヒドロキシアリール化合物のジアリールカーボネートに対する割合、ポリカーボネートを調製するための手順または装置の選択によって決定される気体を介したジアリールカーボネートの損失速度、および任意に添加される化合物、たとえば、より高沸点のモノヒドロキシアリール化合物を選択することによって、末端基の性質および濃度を決定する。
【0062】
どんな手法および方法によって、いかなる装置内で、いかなる手順で処理が行われるかに関して、限定や制限はない。
【0063】
さらに、ジヒドロキシアリール化合物とジアリールカーボネート、およびまた任意に添加される他の反応物間で溶融エステル交換反応を行うために、使用される温度、圧力および触媒に関しても、特別の限定や制限はない。
【0064】
選択される温度、圧力および触媒は、分離されるモノヒドロキシアリール化合物に対応して即座に除去しながら溶融エステル交換することができるなら、いかなる条件も可能である。
【0065】
処理全体にわたって温度は一般的に、15barアブソリュート〜0.01mbarアブソリュートの圧力下で、180〜330℃である。
【0066】
生成物の品質について有益であるので、連続手順が通常選択される。
【0067】
好ましくは、ポリカーボネート調製用の連続法は、1以上のジヒドロキシアリール化合物と、ジアリールカーボネート、さらに任意に添加される他の反応物とを、触媒を用いて、形成されるモノヒドロキシアリール化合物を分離除去することなく予め縮合した後、いくつかその後の反応蒸発器ステージにおいて、温度を段階的に上げ、圧力を段階的に減らしながら、分子量を所望レベルまで仕上げることを特徴とする。
【0068】
個々の反応蒸発器ステージに好適な装置、設備および反応器は、処理過程に従って、熱交換器、圧力放出設備、セパレータ、カラム、蒸発器、攪拌タンクおよび反応器または選択される温度および圧力で必要な滞留時間を与える他の市販入手可能な設備である。選択される装置は、連続的に増加する溶融粘度の要求に合うように、必要な熱を導入し作成することができねばならない。
【0069】
装置は全て、互いにポンプ、パイプラインおよびバルブを介して接続される。不必要に滞留時間が伸びるのを排除するために、全ての装置間のパイプラインはもちろんできるだけ短く、ラインの曲率をできるだけ小さく維持するべきである。本内容では、化学設備の組み立てについての外部、言わば技術的な枠組み条件および要求を考慮している。
【0070】
好ましい連続手順によって処理を行うために、反応パートナーをいっしょに溶融してもよく、固体のジヒドロキシアリール化合物をジアリールカーボネート溶融物中に溶解してもよく、または固体のジアリールカーボネートをジヒドロキシアリール化合物の溶融物中に溶解してもよく、2つの原材料を共に溶融物として、好ましくは直接調製から生じたものであってもよい。個々の原材料溶融物の滞留時間、特にジヒドロキシアリール化合物の溶融物の滞留時間は、できるだけ短くする。逆に、溶融混合物は、個々の原材料に比べて原材料混合物の融点は低くなるので、品質を落とすことなく、それに合わせてより低温でより長く滞留させることができる。
【0071】
その後、好ましくはフェノールに溶解させた触媒を混合し、溶融物を反応温度まで加熱する。2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとジフェニルカーボネートからのポリカーボネートの調製について、工業的に重要な方法の開始時には、これは180〜220℃、好ましくは190〜210℃、非常に特に好ましくは190℃である。15〜90分、好ましくは30〜60分の滞留時間で、形成されたヒドロキシアリール化合物を除去せずに反応の平衡を定着させる。反応は大気圧下で行われてもよいが、技術的理由のために加圧下でもよい。工業的設備での好ましい圧力は2〜15barアブソリュートである。
【0072】
溶融混合物を第1の真空チャンバー内に放出し、その圧力を100〜400mbar、好ましくは150〜300mbarに設定し、その後好適な装置内で同じ圧力下で最初の温度まで直接再度加熱する。放出作業時に、形成されたヒドロキシアリール化合物を、依然として存在するモノマーと共に蒸発させる。任意にポンプで循環させながら同じ圧力下で同じ温度で、底部生成物容器内で5〜30分の滞留時間の後、反応混合物を第2の真空チャンバー内に放出し、その圧力は50〜200mbar、好ましくは80〜150mbarであり、その後好適な装置内で同じ圧力下で、190〜250℃、好ましくは210〜240℃、特に好ましくは210〜230℃の温度まで直接加熱する。ここでも、形成されたヒドロキシアリール化合物を、依然として存在するモノマーと共に蒸発させる。任意にポンプで循環させながら同じ圧力下で同じ温度で、底部生成物容器内で5〜30分の滞留時間の後、反応混合物を第3の真空チャンバー内に放出し、その圧力は30〜150mbar、好ましくは50〜120mbarであり、その後好適な装置内で同じ圧力下で、220〜280℃、好ましくは240〜270℃、特に好ましくは240〜260℃の温度まで直接加熱する。ここでも、形成されたヒドロキシアリール化合物を、依然として存在するモノマーと共に蒸発させる。任意にポンプで循環させながら同じ圧力下で同じ温度で、底部生成物容器内で5〜20分の滞留時間の後、反応混合物をさらなる真空チャンバー内に放出し、その圧力は5〜100mbar、好ましくは15〜100mbar、特に好ましくは20〜80mbarであり、その後好適な装置内で同じ圧力下で、250〜300℃、好ましくは260〜290℃、特に好ましくは260〜280℃の温度まで直接加熱する。ここでも、形成されたヒドロキシアリール化合物を、依然として存在するモノマーと共に蒸発させる。
【0073】
これらのステージの数は、たとえば、ここでは4個であるが、2〜6個の間で変更してもよい。比較できる結果を得るためにステージ数が変われば、それに合わせて温度および圧力を適合させる。これらのステージで達成されるオリゴマー状カーボネートの相対粘度(rel.viscosity)は、1.04〜1.20の間、好ましくは1.05〜1.15の間、特に好ましくは1.06〜1.10の間である。
【0074】
このようにして生成されるオリゴカーボネートを、任意にポンプで循環させながら直近のフラッシュ/蒸発器ステージと同じ圧力下で同じ温度で、底部生成物容器で5〜20分の滞留時間の後、ディスクまたはバスケット反応器へと移し、250〜310℃、好ましくは250〜290℃、特に好ましくは250〜280℃で、1〜15bar、好ましくは2〜10mbarの圧力下で、30〜90分、好ましくは30〜60分間の過剰滞留時間で、さらなる縮合反応を施す。
【0075】
この反応器を出た溶融物は、さらなるディスクまたはバスケット反応器で、所望の最終粘度または最終分子量にされる。温度は270〜330℃、好ましくは280〜320℃、特に好ましくは280〜310℃であり、圧力は0.01〜3mbar、好ましくは0.2〜2mbarであり、過剰滞留時間は60〜180分、好ましくは75〜150分である。相対粘度は想定される使用に必要なレベルに設定され、1.18〜1.40、好ましくは1.18〜1.36、特に好ましくは1.18〜1.34である。
【0076】
2つのバスケット反応器またはディスク反応器の機能を1つのバスケット反応器またはディスク反応器に合わせることもできる。
【0077】
全ての処理ステージからの気体を直接除去、回収およびワークアップする。回収した物質の純度を高めるために、このワークアップは一般的に蒸留によって行われる。これは、たとえば、ドイツ特許出願第10 100 404号公報に従って行われてもよい。分離されたモノヒドロキシアリール化合物の非常に純粋な形態での回収および単離は、経済的および生態学的側面から当然である。モノヒドロキシアリール化合物を、ジヒドロキシアリール化合物またはジアルキルカーボネートの調製に直接使用してもよい。
【0078】
ディスクまたはバスケット反応器は、長期滞留時間にわたって非常に大きく、絶えず新しい表面を真空にするといった特徴を有する。ディスクまたはバスケット反応器は、生成物の溶融粘度に従って幾何学的に構成される。ドイツ特許第DE44 47 422 C2号公報および欧州特許公開第EP A 1 253 163号公報に記載されるような反応器、またはたとえば、国際特許出願第WO A 99/28 370号公報に記載されるような二軸性反応器が好ましい。
【0079】
非常に低分子量のオリゴカーボネートを含むオリゴカーボネートと、最終のポリカーボネートは一般的に、ギアポンプ、大部分の各種設計のスクリューまたは特定の設計の排気ポンプによって運搬される。
【0080】
装置、反応器、パイプライン、ポンプおよび設備の製造に特に好適な材料は、Cr Ni(Mo)18/10タイプの非錆スチール、たとえば、1.4571または1.4541(スタールシュリューゼル(Stahlschluessel)2001、ベラグ(Verlag):スタールシュリューゼル(Stahlschluessel)ベグスト(Wegst)GmbH,Th−Heuss−Strasse 36,D−71672 マルバック(Marbach))およびNiベースのCタイプの合金、たとえば、2.4605または2.4610(スタールシュリューゼル(Stahlschluessel)2001、ベラグ(Verlag):スタールシュリューゼル(Stahlschluessel)ベグスト(Wegst)GmbH,Th−Heuss−Strasse 36,D−71672 マルバック(Marbach))である。非錆スチールを約290℃の処理温度までで使用し、Niベースの合金を約290℃以上の処理温度で使用する。
【0081】
得られたポリカーボネートに、本発明による抑制剤の添加後に、さらなる常套の添加剤および追加の物質(たとえば、補助物質および促進物質)をさらに与えてもよい。添加剤および追加物質を添加することは、有用寿命を伸ばし(たとえば、加水分解または劣化安定剤)、色安定性を改良し(たとえば、熱およびUV安定剤)、処理を簡素化し(たとえば、モールド剥離剤、流動補助剤)、使用特性を改良し(たとえば、帯電防止剤)難燃性を改良し、視覚的印象に影響を与え(たとえば、有機着色剤、顔料)またはポリマー特性を特定のストレスに適合させる(衝撃改良剤、微粉砕された鉱物、繊維物質、石英砂、ガラスファイバおよびカーボンファイバ)といった役割を果たす。所望の特性を調整し達成するために、記載されるようなことを全て組み合わせてもよい。このような追加の物質および添加剤はたとえば、「プラスチック添加剤」,R.ガクター(Gaechter)とH.ミュラー(Mueller),ハンサー・パブリッシャーズ(Hanser Publishers)1983に記載される。
【0082】
好適な熱安定剤は好ましくは、トリス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフィト(イルガフォス(Irgafos)168)、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホニト、トリスオクチルホスフェート、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(イルガノックス(Irganox)1076)、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフィト(ドベルホス(Doverphos)S−9228)、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル)−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフィト(dihosphite)(ADK STAB PEP−36)またはトリフェニルホスフィンである。これらはこれら自体を用いるかまたは、混合物で用いる(たとえば、イルガノックスB900またはドベルホスS−92228と、イルガノックスB900またはイルガノックス1076)。
【0083】
好適なモールド剥離剤は好ましくは、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセロールモノステアレート、ステアリルステアレートまたはプロパンジオールステアレートである。これらはこれら自体を用いるかまたは、混合物で用いる。
【0084】
好適な光安定剤は好ましくは、ベンゾトリアゾール、トリアジン、ベンゾフェノン、シアノアクリレート、けい皮酸エステルまたはオキサルアニリド(oxalanilide)である。これらはこれら自体を用いるかまたは、混合物で用いる。
【0085】
これらの添加剤および追加の物質を、特にポリマーの単離時またはいわゆる化合工程での粒剤の溶融後に、ポリマー溶融物に個々に添加しても、いずれか所望の混合物またはいくつかの異なる混合物で添加してもよい。
【0086】
本内容では、添加剤および追加の物質またはその混合物を、ポリマー溶融物に、固体として、すなわちパウダーとして、または溶融物として添加してもよい。計量添加の別のタイプは、添加剤または添加剤混合物のマスターバッチまたはマスターバッチ混合物を使用するものである。
【0087】
これらの物質を最終のポリカーボネートに常套のユニットで添加するのが好ましいが、要求に従って、ポリカーボネートの調製方法における別のステージで添加してもよい。
【0088】
好適な添加剤はたとえば、プラスチック用添加剤ハンドブック,ジョン・マーフィ(John Murphy),エルセビア(Elsevier),オックスフォード1999またはプラスチック添加剤ハンドブック,ハンス・ザイフェル(Hans Zweifel),ハンサー(Hanser),ムニッヒ(Munich)2001に記載される。
【0089】
触媒残留物を非活性化するための抑制剤(クエンチング剤)を、さらにポリマー溶融物に純粋な形態で、不活性溶媒に溶解して、またはマスターバッチとして添加してもよい。好適な抑制剤は、酸成分、たとえば、ルイス酸またはブレンステッド酸(Broensted acid)または強酸のエステルである。抑制剤のpKa値は、5以下、好ましくは3以下であるべきである。反応混合物を非活性化するために、すなわち理想的な場合には反応を完全に終結させるために、酸成分またはそのエステルを添加する。酸成分を、<20ppm、好ましくは<10ppm、特に好ましくは<5ppmおよび非常に特に好ましくは≦2.5ppmの濃度で添加する。所望の分子量に達したら、検出可能なPの量が1ppm範囲となる。言うまでもないが、本発明に従って使用される抑制剤のモル量は、P値から予想される触媒の残留モル量以下である。
【0090】
好適な酸成分の例は:オルトリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、次リン酸、ポリリン酸、ベンゼンホスホン酸、リン酸二水素ナトリウム、ホウ酸、アリールボロン酸、塩酸(塩化水素)、硫酸、アスコルビン酸、シュウ酸、安息香酸、サリチル酸、蟻酸、酢酸、アジピン酸、クエン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸および他の全てのフェニル置換ベンゼンスルホン酸、硝酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ステアリン酸および他の脂肪酸、酸塩化物、たとえば、クロロ蟻酸フェニルエステル、ステアリン酸クロライド、アセトキシ−BP−Aおよびベンゾイルクロライドおよび上記酸のエステル、ハーフエステルおよび架橋エステル、たとえば、トルエンスルホン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ジメチルスルフェート、ホウ酸エステル、アリールボロン酸エステルおよび水の影響下で酸を生じる他の成分、たとえば、トリイソオクチルホスフェート、ウルトラノックス(Ultranox(登録商標))640およびBDP(ビスフェノールジホスフェートオリゴマー)である。
【0091】
本内容で可能な好ましい酸成分は、オルトリン酸、亜リン酸、ピロリン酸、次リン酸、ポリリン酸、ベンゼンホスホン酸、リン酸二水素ナトリウム、ホウ酸、アリールボロン酸、安息香酸、サリチル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸および他の全てのフェニル置換ベンゼンスルホン酸、酸塩化物、たとえば、クロロ蟻酸フェニルエステル、ステアリン酸クロライド、アセトキシ−BP−Aおよびベンゾイルクロライドおよび上記酸のエステル、ハーフエステルおよび架橋エステル、たとえば、トルエンスルホン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホウ酸エステル、アリールボロン酸エステルおよび水の影響下で酸を生じる他の成分、たとえば、トリイソオクチルホスフェート、ウルトラノックス(Ultranox(登録商標))640およびBDPである。
【0092】
好ましく好適な抑制剤は、式(5)の少なくとも1つの化合物a)
【0093】
【化10】

(ここで、
は独立して、水素またはC〜C20−アルキル、好ましくはC〜C−アルキル、特に好ましくは非置換C〜C−アルキル、非常に特に好ましくはC〜C−アルキルを表し、ここでアルキルはハロゲンで置換されてもよく、特に水素またはメチルを表し、
およびRは互いに独立して、水素、C〜C−アルキルまたはC〜C30−アルキルカルボキシル、好ましくはC〜C−アルキルまたはC〜C25−アルキルカルボキシル、特に好ましくはC〜C20−アルキルカルボキシルを表し、特に水素、C17−アルキルカルボキシルまたはC15−アルキルカルボキシルを表す)、または

【0094】
【化11】

(ここで、
は上記の意味を有し、
nは0〜8、好ましくは0〜6の整数、特に0、1または2を表す)、
から選択される有機硫黄含有酸の架橋エステルである。
【0095】
可能な特に好ましい酸成分は、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、ベンゼンホスホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸および他の全てのフェニル置換ベンゼンスルホン酸、および上記酸のエステル、ハーフエステルおよび架橋エステル、たとえば、トルエンスルホン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、および水の影響下で酸を生じる他の成分、たとえば、トリイソオクチルホスフェート、ウルトラノックス(Ultranox(登録商標))640およびBDPである。
【0096】
可能な非常に特に好ましい酸成分は、オルトリン酸、ピロリン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸および他の全てのフェニル置換ベンゼンスルホン酸、および上記酸のエステル、ハーフエステルおよび架橋エステル、たとえば、トルエンスルホン酸エステル、リン酸エステルである。
【0097】
以下の式(6)の抑制剤は非常に特に好ましい:
【0098】
【化12】

【0099】
酸成分を組成物に固体、液体または気体形態で計量添加してもよい。好ましい手順では、その後直ちに残留モノマーの蒸発を開始するために、目的の最終分子量に達した直後、酸成分を、調製処理中のモノマーのない生成物ストリームに、均一に連続的に混合する。特に好ましい手順では、酸を計量添加し残留モノマー含有量を減らした後に、生成物の個々の特性を改良するための添加剤の添加を行い、残留モノマー含有量を減らす工程と組み合わせない。なぜなら、残留モノマー含有量を減らすために不可欠な真空中で揮発性であり、それ故ポリマー中での必要濃度の調節が困難となる添加剤を、しばしば使用するからである。
【0100】
酸成分は好ましくは液体形態で添加される。計量添加される量は非常に少ないので、酸成分の溶液を使用するのが好ましい。
【0101】
好適な溶媒は処理を妨害せず、化学的に不活性で、即座に蒸発するものである。
【0102】
可能な溶媒は、常圧下で30〜300℃、好ましくは30〜250℃および特に好ましくは30〜200℃の沸点を有する全ての有機溶媒、さらには水(結晶の水も含む)である。特定の処理で生じるこれらの化合物は好ましくは選択される。調製される生成物の要求事項に依存して、残存するいずれの残留物も品質を低下させるものではない。
【0103】
水以外の溶媒は、アルカン、シクロアルカンおよび芳香族であり、これらは置換されてもよい。置換基は、組み合わせを変えて、脂肪族、脂環族または芳香族基、さらにはハロゲンまたはヒドロキシル基であってもよい。ヘテロ原子、たとえば、酸素が脂肪族、脂環族または芳香族基間の架橋部材となってもよい。これらの基は同じでも異なっていてもよい。また、さらなる溶媒は有機酸、さらには環状カーボネートのケトンおよびエステルでもよい。
【0104】
水以外の例は、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンおよびその異性体、シクロヘキサン、トルエンおよびキシレン、塩化メチレン、塩化エチル、塩化エチレン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよびその異性体、フェノール、o−、m−およびp−クレゾール、ジエチルエーテル、ジメチルケトン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、酢酸エチル、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートである。
【0105】
好ましくは、水、フェノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートおよびトルエンがポリカーボネート処理に好適である。
【0106】
特に好ましくは、水、フェノールおよびプロピレンカーボネートが好適である。
【0107】
たとえば、押出し成形機において均一な混合を生み出す静電ミキサーまたは他のミキサーは、抑制剤の効果的な混合に好適である。
【0108】
本発明によるポリカーボネートに、モノマー(たとえば、ジフェニルカーボネート、フェノール、BPA)および短いオリゴマーおよび小さい環の残留物脱気を、触媒残留物の非活性化(クエンチング)の後に、その前に、またはこれと同時に施してもよい。これは、最終反応器またはその後の脱気ユニットにおいて、気体、たとえば、窒素を流入して達成されても、流入せずに達成されてもよい。
【0109】
また、本願は押出物および成形物品、特に本発明による組成物から得られ得る透明な分野で使用するための物品を提供する。
【0110】
使用分野は次のものであってもよい:安全スクリーン、ヘルメット用シールド、フィルム、ブロー成形物、たとえば中でも、水ボトル、透明シート、たとえば、固体シートまたは、特にたとえば、建物、たとえば、駅、植物園および照明設備を覆うための多孔シート、信号機ハウジングまたは交通標識、開口部または閉鎖された任意に印刷可能な表面を有するフォーム、フィラメントおよびワイヤ(ドイツ特許公開第DE−A 11 37 167号公報参照)、照明用途、半透明の分野の用途用で任意に使用するガラスファイバ、透明および光散乱成形物の製造用の、硫酸バリウムおよび/または二酸化チタンおよび/または酸化ジルコニウムまたは有機ポリマー状アクリレートゴムを含有する半透明配合物(欧州特許公開第EP−A 0 634 445号公報、EP−A 0 269 324号公報)、精密射出成形部品、たとえば、ホルダ、たとえば、レンズホルダ;ガラスファイバと(全成形組成物に基づいて)1〜10重量%の二硫化モリブデンを任意にさらに含有するポリカーボネートを任意に使用する場合には、光学装置の部品、特に写真およびフィルムカメラ用レンズ(ドイツ特許公開第DE−A 27 01 173号公報)、光トランスミッタ、特に光コンダクタケーブル(欧州特許公開第EP−A 0 089 801号公報)および照明パネル、導電体用およびプラグハウジングおよびプラグコネクタ、さらにはコンデンサ用絶縁材料、携帯電話ハウジング、ネットワークインターフェイス装置、ハードディスクおよびデータ記憶システム用ハウジング、有機光導電体用キャリア材料、ランプ、サーチライト、拡散スクリーンまたは内部レンズ、医療用途、たとえば、酸素供給器、透析装置、食品用途、たとえば、ボトル、テーブルウェアおよびチョコレートのモールド、自動車分野での用途、たとえば、グレージングまたはABSとの混合物の形態でバンパーとして、スポーツ物品、たとえば、スラロームポール、スキーブーツバックル、家庭用品、たとえば、キッチンシンク、洗い桶、レターボックス、ハウジングたとえば、配電ボックス、電気設備用ハウジング、たとえば、歯ブラシ、ヘアードライヤー、コーヒーメーカー、機械道具、たとえば、ドリリング、ミリングおよびプランニング装置およびのこぎり、洗浄装置丸窓、安全眼鏡、サングラス、調整眼鏡およびそのレンズ、ランプカバーリング、パッケージングフィルム、チップボックス、チップキャリア、Siウェハー用ボックスおよび他の用途、たとえば、肥育牛床ドアまたは動物ケージ。
【実施例】
【0111】
イータ・レル(eta rel)とも呼ばれる相対溶液粘度ηrelを、塩化メチレン中で、5g/lの濃度で、25℃でウッベローデ(Ubbelohde)粘度計を用いて決定した。
【0112】
フェノール性OHの含有量をIR測定によって得た。この目的のために、50mlの塩化メチレンにおける2gのポリマー溶液と、純粋な塩化メチレン間の差を測定し、3582cm−2での吸光差を決定した。
【0113】
ポリマー溶融物の流動性(溶融粘度)を、ISO 11443に従って、毛管レオメータで、各種温度で決定する。ポリカーボネート試料を、この目的のために130℃で予め一晩乾燥させる。実施例では、s−1でのせん断速度を各場合記載する。
【0114】
試料を塩化メチレンに溶解する。ポリマーの主要内容物をアセトンの添加によって沈殿させる。不溶内容物を濾過除去し濾液を濃縮乾燥する。乾燥した残留物をTHFに溶解し、オリゴマーを、UV検出を用いてHPLCによって決定する。
【0115】
転位構造(I〜IV)の決定:
ポリカーボネート試料を還流下で、ナトリウムメチレートで鹸化する。鹸化した溶液を酸性化し濃縮乾燥する。乾燥した残留物をアセトニトリルに溶解し、フェノール性化合物(Ia〜IVa)を、UV検出を用いてHPLCによって決定する。
【0116】
ポリカーボネート組成物PC1を次のように溶融法で調製した:
4,425kg/hのジフェニルカーボネート(20,658mol/h)と4,175kg/hのビスフェノールA(18,287mol/h)から成る8,600kg/hの溶融混合物に、4.5kg/hのフェノールに溶解した65.5%のテトラフェニルホスホニウムフェノレートを含むテトラフェニルホスホニウムフェノレートのフェノール付加物を0.52kg/h(0.786mol/h;すなわち0.0043mol%)で添加しながら、これをリザーバから熱交換器を通して汲み上げて、190℃に加熱し、190℃で12bar下の滞留カラムに案内する。平均滞留時間は50分である。
【0117】
次に、溶融物を放出バルブを介して、200mbarの圧力下のセパレータへと送る。流れ出た溶融物を、同様に200mbarの圧力下の流下膜式蒸発器において再度190℃に加熱し、レシーバに回収する。20分の滞留時間の後、溶融物を同様の構造の次の3ステージへと汲み上げる。第2/第3/第4ステージにおける条件は、100/74/40mbar;220/225/273℃および20/10/10分である。形成されたオリゴマーは、1.08の相対粘度を有する。気体は全て圧力調節器を介して真空下のカラムへと案内し、凝結物として除去する。
【0118】
その後、オリゴマーに縮合反応を施し、次のディスク反応器において、290℃で0.7mbar下で120分の滞留時間後に高分子量生成物を得る。相対粘度は1.257である。気体を凝結させる。
【0119】
気体を真空ユニットで引き続き凝結させる。
【0120】
ポリカーボネート組成物PC3、PC5およびPC7をPC1と同様に調製し、BPA対DPC比を調節して、より高い粘度イータ・レルが得られるようにする。
【0121】
PC2、PC4、PC6およびPC8は、ポリカーボネート組成物を界面法によって得た比較例である。
【0122】
決定された転位構造とオリゴマーの含有量および不均質性係数Uを含む、上の実験に従って調製されたポリカーボネート組成物のデータを以下の表1に再現する:
【0123】
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】

【0124】
オリゴマーおよび多官能性転位構造を含有するPC1、PC3、PC5およびPC7は、これらの構造を有さない比較例の生成物に比べて、各場合、せん断速度が高くても、比較可能な溶液粘度でより低い粘度、すなわち、より良好な流動性を示し、したがって射出成形処理における処理特性が改良されることが、表1から理解され得る。同様にこの効果は、フロースパイラル(flow spirals)による測定でも見られる。官能性の高い転位構造ほど、通常分岐につながり、故に溶融粘度がより高くなるので、これは驚きである。
【0125】
さらに、これらの生成物の不均質性係数は、多官能性転位構造(分岐)にもかかわらず、比較例のポリカーボネートPC2、PC4、PC6およびPC8に比べて著しく低い、すなわち、分子量分布がより狭い。
【0126】
全ての場合で、本発明によるPC1、PC3、PC5およびPC7は、対応する比較例PC2、PC4、PC6およびPC8よりも、環状構造含有量が著しく低い。それにもかかわらず、本発明によるポリカーボネートの流動性が、各場合、より良好であることを見出した。
【0127】
驚くべきことに、本方法は常に実質的に一定して比較的少量の環状構造を生成するが、比較例は環状構造の含有量がより高くなると共に、粘度が増加することを見出した。
【0128】
さらに、本発明によるポリカーボネートは、多官能性転位構造が存在するにもかかわらず、著しく狭いMW分布(より低い不均質性係数U)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)〜(IV)の1以上の構造を有するポリカーボネートであって、
【化1】

ここで、フェニル環は互いに独立して、C〜C−アルキルまたはハロゲンたとえば、塩素または臭素によって、1または2置換されてもよく、Xは式(1a)の場合に与えられる意味を有し、
ここで、構造ユニット(I)〜(IV)の量は、基礎となるポリカーボネートに基づいて、全体で50〜900ppmであり、
さらに、全組成物に基づいて、線形および環状オリゴマーを全体で0.1〜2重量%の量で含有し、ここで、
線形オリゴマーは式(V)〜(IX)のものであり、
【化2】

ここで、構造(VIII)および(IX)の量は、0.001重量%以下であり、
環状オリゴマーは一般式(X)のものであり、
【化3】


ここで、
nは2〜6の整数であり、
Zは式(1a)の基を表し、
【化4】

ここで、RおよびRは互いに独立して、HまたはC〜C−アルキルを表し、
Xは単結合、C〜C−アルキレン、C〜C−アルキリデンまたはC〜C−シクロアルキリデンを表し、C〜C−アルキルで置換されてもよい
ポリカーボネート。
【請求項2】
式(I)の化合物の量は50〜800ppmであり、式(II)の化合物の量は0〜100ppmであり、式(III)の化合物の量は0〜100ppmであり、式(IV)の化合物の量は0〜300ppmである請求項1によるポリカーボネート。
【請求項3】
ポリカーボネートは以下の不均質性係数を有する、すなわち:
18,000〜22,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.08〜1.18であり、
22,000より大きく〜26,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.18〜1.60であり、
26,000より大きく〜30,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.25〜1.65であり、
30,000g/molより大きく好ましくは50,000g/mol以下の平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.50〜1.95である
請求項1によるポリカーボネート。
【請求項4】
不均質性係数は次の通り、すなわち:
18,000〜22,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.10〜1.16であり、
22,000より大きく〜26,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.20〜1.50であり、
26,000より大きく〜30,000g/molの平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.25〜1.50であり、
30,000g/molより大きく好ましくは50,000g/mol以下の平均分子量(重量平均)を有するPCについては、Uは1.55〜1.85である
請求項3によるポリカーボネート。
【請求項5】
Zは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルから誘導され、式(I)〜(IV)におけるXは、単結合、イソプロピリデンまたは3,3,5−トリメチルシクロヘキシルを表す請求項1によるポリカーボネート。
【請求項6】
押出物および成形物品を製造するための請求項1によるポリカーボネートの使用。
【請求項7】
請求項1によるポリカーボネートから得られる押出物および成形物品。
【請求項8】
混合物を調製するための請求項1によるポリカーボネートの使用。

【公表番号】特表2011−516700(P2011−516700A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504358(P2011−504358)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002662
【国際公開番号】WO2009/127366
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】