説明

転倒回避爪先上げ警告具付き歩行活性具、ならびに前記警告具付き履物。

【課題】 つまずき性転倒骨折は、寝たきり生活への移行を孕む現代医療の新しい課題であるため、つまずき性転倒をほぼ完全に防ぐ転倒回避警告具付き歩行活性具。
【解決手段】 歩行動力学の盲点、爪先上げの運動的起因は、歩行の推進力である後方蹴り出し直後の、足首を支点とする振り子的運動による爪先の前方振り出しにある。したがって解決手段はこの爪先上げの起因、後方蹴り出し一点に絞られる。本考案は後方蹴り出しに同調し、ミニ爪先となる弾性材質の小片を履物裏爪先部に装着することにより、後方蹴り出し不足、即ち爪先上げ不足の場合はミニ爪先が地面を引き摺り警告装置として爪先上げを催促する。爪先上げ歩行は必ず行なわれ、つまずき性転倒は99パーセント以上回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
弾性素材の弾性力活用による舌状薄厚小片、ならびに爪先上げ歩行の運動的起因となる後方蹴り出し歩行の力学的背景、両者にもとづく転倒回避爪先上げ警告具付き歩行活性具、ならびに同警告具付き履物。
【背景技術】
【0002】
従来の転倒防止への解決手段は、いずれも加齢に従い爪先が上がらなくなることを理由に挙げてはいるものの、スリッパの先端を上方に湾曲させる、あるいは靴の先端に足へのフィット感の強い材質を使用する等であり、転倒防止にたいする解決のための、確実性という点においては低い段階に留まっている。
【特許文献1】 特開平10−14602号 公報
【特許文献2】 特開平11−221103号 公報
【0003】
一方、歩行動力学における現代歩行の概要は、踵からの着地、重心の踵から爪先への移動、後脚の蹴り出しによる推進と述べるにとどまり、爪先上げに対する論理的分析は殆どみられない。従来の転倒解決への技術が確実性において低い段階に留まっているのは、爪先上げにたいする明確にして論理的な運動分析が欠如していたことも一因としてあげられよう。
【非特許文献1】 「歩きの科学」藤原健装着 講談社 1995年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
爪先上げ歩行はもともと若い人がごく自然に日常行なっているように、現代の一般的歩行の中に顕在している。しかし加齢と共に鈍化するのは、爪先上げが鈍化するのではなく爪先を上げさせる起因となる運動の鈍化にその原因がある。この起因となる運動を見るために、一般的な歩行運動論を振り返れば、踵からの着地、重心の爪先への移動、後脚の後方への蹴り出しによる推進、さらに後脚は前方に繰り出されて再び踵からの着地に戻るとされる。いまここで問題にしようとする、爪先上げの起因となる知られざる運動的メカニズムは、この後方蹴り出しと踵からの着地の間にある。すなわち後方蹴り出しによる推進運動の直後には、足首より下の部分は,足首を支点として,後方蹴り出しの反動による振り子的運動を行なっており、このことにより爪先もまた前方に振り出され、さらにこの振り子的反動運動の最後の結果のように爪先上げがある。
【0005】
解決しようとする課題としての爪先上げは、振り子的反動運動の結果として現れるのであり、したがって解決のための真の課題は、この振り子的反動運動を確実に起こすに足る運動ネルギーを有する後方蹴り出しにある。さらには、歩行中の実感としての運動エネルギーの源は、蹴り出しよりむしろ蹴り上げの方が強い。いずれにしても、このエネルギーが十分なほど前方への振り子的反動運動が十分となり、爪先上げもまた十分となる。
【0006】
転倒の確実な防止のためには前記の蹴り出し、とくに蹴り上げを、1歩ごとに遺漏なく行なうことが必要であり、この一歩ごとの蹴り上げを、余儀なく行なわせる手段こそ求められている実際上の課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の弾性体舌状薄厚小片を、靴裏爪先部に、同小片の爪先方向部を垂れ下がり状態のまま、踵方向部のみを着脱自在に装着する(図1参照。)。
【0008】
前記、弾性体舌状薄厚小片の弾性疲労軽減化を目的とする、請求項2記載の対策を講じる。
【発明の効果】
【0009】
舌状薄厚小片は靴裏に対してその一部を装着するため、同小片の歩行運動にたいする反応は、装着部分が瞬時であるのにたいし、垂れ下がり部分、特にその先端は、振り子的運動を伴いながら時間差を持って反応する。このような歩行運動に対する反応は、すでに見てきた足首を支点としつつ、足首より下の部分が振り子的運動を行なったことに対比する。すなわち装着部分がミニ支点に当たり、垂れ下がり部分がミニ爪先に当たる。言い換えれば、歩行運動にたいする反応を、小片はミニマル化して靴裏で行うことになり、このことが発明の効果を引き出すことになる。
【0010】
具体的にその推移をみれば、1)後方蹴り上げ時には、ミニ爪先は垂れ下がり状態にある。2)後方蹴り上げ後、足首より下部は再び前方に繰り出すために、後方蹴り上げの反動を生かした振り子的運動を伴いながら前方へ繰り出されるが、この時、蹴り上げが強いほど反動としての振り子的運動も強くなる。この時点でミニ爪先は、それ以前の垂れ下がり状態から時間差振り子的運動として反応し、その後歩行の前方推進の間は、足首より下部が強い振り子的運動であるほど、靴裏に密着状態となる。したがって歩行は、ミニ爪先が邪魔になることなく快適に行なわれる。3)反対に弱い蹴り上げの場合は、反動としての足首より下部の振り子的運動も弱く、ひいてはミニ爪先の反応も弱いため、垂れ下がり状態のまま歩行の推進が行なわれる。このためミニ爪先の先端がズルズルと地面を引き摺り、またミニ爪先が後方に捲き込まれる等で快適な歩行は阻害される。逆に言えば、これらのことが爪先上げ不十分の警告のサインとなる。4)最後に前記2と3の中間の場合を見れば、ミニ爪先は靴裏への密着状態と垂れ下がり状態の中間、すなわち垂れ下がってはいないが両者の間に多少の隙間がある。したがって歩行における前方推進の次に起る、爪先が爪先上げの上行の限界に達し、上行が止まった時に、ミニ爪先は追従していた惰性のカセを外されたように振り子的反動運動を起こして靴裏にぶつかる。これが強くぶつかるほど「パン」という小音を発し、その後少時靴裏にとどまる。「パン」という小音は爪先上げ歩行が中程度に行なわれていることを示し、安全歩行中のサインともなる。
【0011】
歩行者は前掲の歩行を阻害される要素、小片が地面を引き摺る、後方に捲き込まれる等のことから、快適な歩行を得るために後方蹴り上げによってこれらの阻害要素を避けなければならなくなり、結果として爪先上げが催促される。警告に従う限り爪先上げ歩行は必ず行なわれるために、つまずき性転倒に関する限り99%以上の回避が可能になる。
【0012】
爪先上げ歩行の運動的起因は後方蹴り上げにあり、歩行の要領は後方蹴り上げ一点に絞られ、爪先上げのための歩行感覚は実際上は極めてシンプルとなる。一見煩わしさを伴うかの如き爪先上げだが、若い人が日常のものとしているように、しかも誰もが若かりし頃身体に染み込ませた歩行のリズムであるだけに、その再習慣化は比較的早く、その再活性化には若返りの気持ちさえ蘇る爽やかさが伴う。さらには、つまずき性転倒から解放された歩行時の安心感、夜道さえ恐れのない歩行に至るとき、舌状薄厚小片を装着していない履物には危惧感を抱くに至り、安心歩行を手中にした安堵感は多少の手間をいとわない必需感に至る。
なお、後方蹴り上げと連係運動を持たない、単なる一歩ずつの爪先上げ歩行は非常に煩わしく、言うまでもなく実際的ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
舌状薄厚小片は、板状のゴムを1ミリ厚とするとき、その2枚を爪先方向は半円型に裁断し、その開に弾性疲労軽減化を目的とする素材の小片を任意の数、任意の方向に挿入し、全体を接合する。その際挿入小片周囲に現れる僅かな空間は、上記軽減化の一端となるためこれを生かす。
【0014】
前掲の挿入小片は、材質、大きさ、厚さ、枚数、方向、挿入位置等によって垂下度と関係してくるが、挿入小片を舌状薄厚小片と同素材、同厚とするとき、その挿入位置は、生ずる空間の約五分の一を小片の装着部分とし、残部五分の四は垂下部分とする。(図2は、挿入小片を1枚、縦方向に挿入した男性用実寸の例。図4は、その断面図。)
【0015】
舌状薄厚小片を靴裏へ装着するとき、装着位置は垂れ下がり具合、歩き易さ、警告能力等と深く関係する。靴裏への装着位置は、靴裏先端部より踵方向へ約1.5センチ寄った所に舌状薄厚小片の半円形の先端部を揃える。但し、小片の形態、サイズは図2によった場合とする。
【0016】
舌状薄厚小片は過度に垂下すれば地面を引き摺るため歩きにくく、過少な垂下は引き摺らないため警告装置としての機能を失う。垂下度は本考案の重要なポイントであり、凡その垂下度は、小片の半円形先端部が、靴裏面より約1センチ下がった位置とする。但し使用者の快適な歩行と警告機能とを両立させるためには、垂下度の微妙な調整が必要であり、そのために垂下度を多めに設定し(垂れ下がる部分を長めに設定し)、使用者が試用しつつ、自身に適合した垂下度を、自身で先端部のカットにより得る方法が望ましい。(図2、垂れ下がる部分を僅かに長めに設定した寸法による。ならびに自身でのカット用線、参照。)
【0017】
舌状薄厚小片の靴裏への装着法は、1)舌状薄厚小片ならびに靴裏面に、両者相互の着脱自在を可能にする凸型、凹型装着具を設ける(図4参照)。2)ビスによる装着。(1は舌状薄厚小片と履物とのユニット商品。2は舌状薄厚小片のみの、凸型装着具を具えない、ビス穴を設け、ビスを添加した商品。)
【0018】
前記2に当たる、舌状薄厚小片のみを靴裏へ装着する場合は、装着位置が本考案の効果と深く関わるため、前記15項を参照の上、靴底の厚いものを選び、あらかじめ設けられてあるビス穴5ヶ所によりビスにて装着する。なお、ビス留め作業を容易にするために、仮止めのための両面テープを付着させておく(図2参照。)。
【実施例】
【0019】
舌状薄厚小片の靴裏への装着は、右足、左足いずれかの効き足のみとする。片足へ装着したのみで爪先上げ歩行をすれば、他の足も同性格の歩行をしなければ歩きにくく、効果は両足へ及ぶからであり、両足への装着はかえって煩わしさを伴う。但し効き足がどちらであるかの意識は一般には低いので、左右双方の着脱を繰り返しつつ、試し歩きをした上で決定するのが望ましい。
【0020】
履物裏面に小片を装着するための凹型装着具は、左右いずれにも装着が可能なように左右相称とし、且つ不用になった側の凹型装着具隠蔽用の部品を用意する。
【0021】
凹型装着具の材質は、履物裏の材質をそのまま使用することが望ましいが、使用できない場合は、それに適う材質を履物裏面に埋め込みこれに当てる。
【0022】
舌状薄厚小片の使用目的、ならびに効果のためには、小片の弾性材質が必須の条件であり、これに伴う弾性劣化は避けられず、加えて装着位置が靴裏という磨耗の激しい場所であり、交換部品の供給もまた必須となる。
【0023】
履物の男性用、女性用各種サイズに合わせ、舌状薄厚小片もまたL,M,S,等の各種サイズが必要になる。小片にとって重要な垂下度は、小片の厚さ、垂れ下がり部分の縦横の比率によって決まるが、因みに比率については、大型化の場合は図2に対し横寸法の比率が増し、小型化は縦寸法が増す。但し爪先上げ歩行が習慣化するまでは、履物裏面に小片が付着しているという存在感が必要であり、そのための大きさ、ならびに厚さ等が爪先上げ歩行を喚起するという一面があり、必要以上の小型化、薄厚化は望ましくない。
【0024】
靴底が薄くビスによる装着が困難な場合は、凹型装着具を備えた履物、あるいは靴底の厚いものにビス留めし、後方蹴り上げ歩行を行なえばその再習慣化は思いのほか早く、小片が装着されていない靴においても後方蹴り上げ、爪先上げ歩行が日常の習慣となり、つまずき性転倒の回避が可能となる。
【0025】
歩行時に小片が靴底に当たる「パン」という小音がうるさく感じられる場合には、後方蹴り上げを強めにすれば音は止まる。このことは、後方蹴り上げを強めにするほど推進時のミニ爪先と靴底との密着度が増し、両者の隙間が少なくなるためである(第10項参照。)。
【0026】
つまずき性転倒は、骨折治療のための入院が屡々寝たきりの生活に移行するため、老人医療の新しい課題となっている。車の増加による歩行の減少、平坦な舗装路の増加、爪先上げが加齢と共に衰微する等因子は多様とはいえ、爪先上げ歩行が後方蹴り上げ歩行の振子的反動運動として潜在するという歩行のメカニズムの体験的認識がまず必要であり、さらに本考案の舌状薄厚小片による警告機能に従う限り、つまずき性転倒はほぼ完全に回避される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】 舌状薄厚小片の靴裏へ装着後の側面図
【図2】 舌状薄厚小片の平面図(男性用、実寸、下面)
【図3】 図2、A−A線断面図による挿入小片
【図4】 図2、B−B線断面図による舌状薄厚小片と靴底の凸型凹型装着具、ならびに挿入小片
【符号の説明】
【0028】
1.舌状薄厚小片
2.挿入小片
3.凸型装着具
4.装着用ビス穴
5.仮止め用両面テープ
6.凹型装着具
7.靴底
8.自身でのカット用線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物裏面爪先部に、弾性素材による舌状薄厚小片の踵方向部のみを着脱自在に装着し、この舌状薄厚小片の爪先方向部は垂れ下がり状態を保つことによりなる転倒回避爪先上げ警告具。
【請求項2】
前記、弾性体舌状薄厚小片は複数枚を重ねて接合し、弾性疲労軽減化を目的とする素材を、互いに接合する小片の間に挿入してなる請求項1記載の警告具。
【請求項3】
請求項1、ならびに請求項2記載の警告具を着脱自在に備えた履物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物裏面爪先部に取り付けられる弾性素材による舌状薄厚小片であって、小片の踵方向部のみを履物裏面に着脱自在に装着可能であり、装着したときこの小片の爪先方向部は垂れ下がり状態を保つことを特徴とする転倒回避爪先上げ警告具。
【請求項2】
前記、弾性素材による舌状薄厚小片は、弾性疲労軽減化を目的とする素材との合一によりなる請求項1記載の転倒回避爪先上げ警告具。
【請求項3】
同文(請求項1.ならびに請求項2記載の警告具を着脱自在に備えた履物。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−334353(P2006−334353A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188936(P2005−188936)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【特許番号】特許第3793898号(P3793898)
【特許公報発行日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(505244257)
【Fターム(参考)】