説明

転倒防止装置

【課題】前後方向の揺れが発生した場合に、設置物3を積極的に後方に傾けることにより、設置物3が前方に倒れるのを防止する。
【解決手段】上前方レール部材200Aと回転体支持部500を備えた上レールユニット100Aを設置物3の下面に固定し、下前方レール部材200Bと後方レール部材300を備えた下レールユニット100Bを設置面に設置固定し、上前方レール部材200Aと下前方レール部材200Bの間に前方回転体400Aを配置し、後方レール部材300に回転体支持部500に支持された後方回転体400Bを配置し、上レールユニット100Aが下レールユニット100Bに対して前方に移動すると、前方回転体400Aが後方回転体400Bよりも高位となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面方向への移動が規制されている設置物に用いられる転倒防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震などの揺れが発生した場合に手前側に倒れてくるのを防止するための措置としては、設置物を床面や壁面に耐震金具で固定することや、設置物の上面と天井との間に伸縮自在な棒を介在させテンションを与えることにより設置物を床と天井の間に固定することが行われている。しかし、これらの方法では、設置物を撤去した際に床や壁や天井に固定具の跡が残るため美観上問題があり、また、揺れが大きい場合には、金具で固定された設置物により床や壁が破壊されたり、横方向の揺れによって伸縮棒の位置がずれ、十分なテンションを保持できなくなって設置物が倒れたりしてしまうおそれがあり、安全性も万全とはいえない。
【0003】
これに対して、特許文献1に示すように、設置物を固定せずに、免震装置によって揺れを吸収し設置物の転倒を防止することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−179303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、背面を壁に添わせて設置する書棚やタンスなどの設置物においては、特に、横幅に対して前後方向の厚みが小さい場合、左右方向に倒れることはほとんど無く、背面側には壁があるため背面側にも倒れることはない。一方、設置物は、後方に傾いた状態では、重心が後方にずれるため前方に倒れることはない。
そこで本願発明は、背面方向への移動が規制されている設置物において、床や壁に設置物を固定することなく、前後方向の揺れが発生した場合に、設置物を積極的に後方に傾けることにより、設置物が前方に倒れるのを防止することができる転倒防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本願発明の特徴点を以下に述べる。
なお、括弧内の符号は、発明の実施の形態において用いた符号を示し、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(請求項1)
請求項1に記載された発明は、背面方向への移動が規制されている設置物(棚本体3)に用いられる転倒防止装置(1)に係る。本発明における設置物(3)には、書棚や陳列棚など収納具の他、自動販売機などの機械装置も含まれる。また、「背面方向への移動が規制されている」とは、背面方向に壁面や柱がある場合の他、複数の設置物が背面合わせに設置されている場合も含まれる。
【0007】
そして、本発明における転倒防止装置(1)は、前記設置物(3)の下面に固定される上レールユニット(10A,100A)と、設置面に設置固定される下レールユニット(10B,100B)と、前記上レールユニット(10A,100A)及び下レールユニット(10B,100B)の間に配置される回転体(球体40,400)とを備えている。前記上レールユニット(10A,100A)は、前記設置物(3)の正面側に位置し下側にレール部(22,220)を有する上前方レール部材(20A,200A)を少なくとも備え、前記下レールユニット(10B,100B)は、前記上前方レール部材(20A,200A)の下方に位置し上側にレール部(22,220)を有する下前方レール部材(20B,200B)を少なくとも備えている。また、前記上前方レール部材(20A,200A)のレール部(22,220)と前記下前方レール部材(20B,200B)のレール部(22,220)の間には、前記回転体(40,400)が前後方向に移動可能に挟持されている。そして、少なくとも前記下前方レール部材(20B,200B)のレール部(22,220)は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記上レールユニット(10A,100A)が前記下レールユニット(10B,100B)に対して前方に移動した場合には、前記回転体(40,400)が前方に回転移動し、前記上レールユニット(10A,100A)の前端部が後端部よりも高位となるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る転倒防止装置(1)において、レール部材及び回転体は、設置物(3)の底面両端部に配置するのが好適である。
ここで、上レールユニット(10A,100A)及び下レールユニット(10B,100B)は、レール部材(20,200)を支持する支持部材(支持板11,支持枠120,130)を有していてもよい。また、上前方レール部材(20A,200A)と下前方レール部材(20B,200B)は、同一形状の部材の上下前後方向を反転させたものとすることができ、上後方レール部材(30A)及び下後方レール部材(30B)は、同一形状の部材の上下前後方向を反転させたものとすることができる。また、前記「回転体」は、好ましくは球体であるが、円筒形の「ころ」や、円板状、俵型、ラグビーボール型のローラであってもよい。さらに、レール部(22,32)を移動する回転体が空回りしないように、レール部(22,32)にラック(26)を形成し、回転体として、前記ラック(26)に噛合するピニオン(41)を設けてもよい。
【0009】
ここで、下前方レール部材(20B,200B)のレール部(22,220)は、円弧状(所定の曲率半径を有している)であっても直線状(曲率半径が無限大)であってもよく、円弧部分と直線部分の双方を備えていてもよい。
また、「回転体(40,400)が前方に回転移動し、前記上レールユニット(10A,100A)の前端部が後端部よりも高位となるように形成されている」とは、レール部材(20,200,300)及び回転体(40,400)が、上レールユニット(10A,100A)の前方への移動に伴い、例えば回転体(40,400)の表面とレール面との摩擦力によって回転移動可能となるような材質で形成されており、かつ、この転倒防止装置(1)が、回転体(40,400)が回転移動したときに、回転体(40,400)の高さ位置が高くなることにより、上レールユニット(10A,100A)の前端部が押し上げられ、後端部よりも高くなることを可能とするような構造を有していることである。
【0010】
本発明においては、設置面(F)が設置物(3)を正面視したときの前後方向に揺れた場合、設置面(F)に固定されている下レールユニット(10B,100B)に対して上レールユニット(10A,100A)が前後に移動することとなる。そして、設置面(F)が後方に揺れて下レールユニット(10B,100B)に対して上レールユニット(10A,100A)が前方に移動した場合には、回転体(40,400)の高さ位置が高くなった上レールユニット(10A,100A)は前側が後ろ側よりも高くなり、上レールユニット(10A,100A)を固定した設置物(3)の全体が後方に傾くこととなる。一方、設置面(F)が前方に揺れて下レールユニット(10B,100B)に対して上レールユニット(10A,100B)が後方に移動した場合であっても、上レールユニット(10A,100A)を固定した設置物(3)も後方に移動するが、背面の壁面(P)や柱にぶつかるため跳ね返って前方に移動する。そうすると、上記と同様に上レールユニット(10A,100A)は前側が後ろ側よりも高くなり、上レールユニット(10A,100A)を固定した設置物(3)の全体が後方に傾くこととなる。
【0011】
そして、全体が後方に傾いた設置物(3)の背面上端部が壁面などにぶつかることにより、あるいは設置面(F)が前方に揺れることにより、上レールユニット(10A,100A)は元の位置に戻り設置物(3)は直立姿勢となる。すなわち、設置物(3)は、後方に傾くことはあっても前方に傾くことがなく、結果、前方に倒れることがない。
なお、原点位置にある上レールユニット(10A,100A)は下レールユニット(10B,100B)に対して後方へは移動しないように形成してもよい。また、上レールユニット(10A,100A)が前方に移動して下レールユニット(10B,100B)から外れてしまわないようにするためのストッパーやロック機構を設けると好ましい。さらに、本発明に係る転倒防止装置(1)を装着した設置物(3)を設置する際には、背面側の障害物(壁面や他の設置物)との間に、上レールユニット(10A,100A)の移動により設置物(3)が後方に傾斜した状態となることを許容するだけの間隙(C)を設けるのが好ましい。
【0012】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の特徴点に加え、前記上レールユニット(100A)は、前記設置物(3)の背面側に位置し前記回転体(40,400)としての後方回転体(後方ローラ400B)を回転自在に支持する回転体支持部(ローラ支持部500)をさらに備え、前記下レールユニット(100B)は、前記回転体支持部(500)の下方に位置し上側にレール部(320)を有する下後方レール部材をさらに備えている。また、前記上前方レール部材(200A)のレール部(220)と前記下前方レール部材(200B)のレール部(220)の間には、前記回転体(400)としての前方回転体(前方球体400A)が前後方向に移動可能に挟持され、前記下後方レール部材(300)のレール部(320)には、前記回転体支持部(500)に支持された後方回転体(400B)が前後方向に移動可能に載置されている。そして、少なくとも前記下前方レール部材(200B)のレール部(220)は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記上レールユニット(100A)が前記下レールユニット(100B)に対して前方に移動した場合には、前記前方回転体(400A)及び後方回転体(400B)が前方に回転移動し、かつ前方回転体(400A)が後方回転体(400B)よりも高位となることを可能とする形状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
ここで、「後方回転体」は、ローラや球体とすることができ、「回転体支持部」は、後方回転体としてのローラや球体を上レールユニット(100A)の例えば支持枠(120)の下面に軸止するためのブラケットや垂下片とすることができる。
またここで、下後方レール部材(300)のレール部(320)は、下前方レール部材(200B)と同様に後方から前方に向かって高さが増すように形成されていてもよい。この場合は、下前方レール部材(200B)よりも高さの増し方が緩やかとなるように形成するのが好ましい。あるいは、下後方レール部材(300)のレール部(300)を水平に形成してもよい。さらには、下後方レール部材(300)のレール部300)を後方から前方に向かって高さが低くなるように形成してもよい。
【0014】
そして、「前方回転体(400A)及び後方回転体(400B)が前方に回転移動し、かつ前方回転体(400A)が後方回転体(400B)よりも高位となることを可能とする形状に形成されている」とは、レール部材(200,300)及び回転体(400)が、レールユニット(10A)の前方への移動に伴い、例えば回転体(400)の表面とレール面との摩擦力によって、前後の回転体(400A,400B)が回転移動可能となるような材質で形成されており、かつ、前後のレール部(220,320)のレール面の曲率又は傾斜角度が異なることにより、回転体(400)が回転移動したときに、前方回転体(400A)の高さ位置が後方回転体(400B)の高さ位置よりも高くなるような形状に形成されていることである。
【0015】
本発明によれば、前後の回転体(400A,400B)の連動により、上レールユニット(100A)の移動をよりスムーズにすることができる。
(請求項3)
請求項3に記載の発明は、上記した請求項2に記載の発明の特徴点に加え、前記下前方レール部材(200B)のレール部(220)は、所定の角度で前方に上り傾斜し、前記下後方レール部材(300)のレール部(320)は、所定の角度で前方に下り傾斜するように形成され、前記下後方レール部材(300)のレール部(320)の傾斜角度は、下前方レール部材(200A)のレール部(220)の傾斜角度よりも大きく形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明は、下レールユニット(100B)に設けられる前後のレール部材(200A,300)の形状を限定したものである。本発明によれば、上レールユニット(100A)が前方に移動するに伴い、後方回転体(400B)の高さ位置が低くなるので、上レールユニット(100A)の後傾姿勢(前端部が高くなり後端部が低くなった状態)を作りやすく、設置物(3)を後ろ側に倒しやすくなる。
なお、下後方レール部材(300)のレール部(320)は、水平部分を有していてもよい。
(請求項4)
請求項4に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。すなわち、請求項4に記載の発明は、背面方向への移動が規制されている設置物(棚本体3)に用いられる転倒防止装置(1)に係る。本発明における設置物(3)には、書棚や陳列棚など収納具の他、自動販売機などの機械装置も含まれる。また、「背面方向への移動が規制されている」とは、背面方向に壁面や柱がある場合の他、複数の設置物が背面合わせに設置されている場合も含まれる。
【0017】
そして、本発明においては、前記転倒防止装置(1)は、前記設置物(3)の下面に固定される上レールユニット(10A)と、設置面(F)に設置固定される下レールユニット(10B)と、前記上レールユニット(10A)及び下レールユニット(10B)の間に配置される回転体(球体40)とを備えている。前記上レールユニット(10A)は、前記設置物(3)の正面側に位置し下側にレール部(22)を有する上前方レール部材(20A)と、前記設置物(3)の背面側に位置し下側にレール部(32)を有する上後方レール部材(30A)とを少なくとも備え、前記下レールユニット(10B)は、前記上前方レール部材(20A)の下方に位置し上側にレール部(22)を有する下前方レール部材(20B)と、前記上後方レール部材(30B)の下方に位置し上側にレール部(32)を有する下後方レール部材(30B)とを少なくとも備えている。また、前記上前方レール部材(20A)のレール部(22)と前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)の間には、前記回転体(40)としての前方回転体(前方球体40A)が前後方向に移動可能に挟持され、前記上後方レール部材(30A)のレール部(32)と前記下後方レール部材(30B)のレール部(32)の間には、前記回転体(40)としての後方回転体(後方球体40B)が前後方向に移動可能に挟持されている。
【0018】
本発明に係る転倒防止装置(1)は、設置物(3)の底面両端部に配置するのが好適である。
ここで、上レールユニット(10A)及び下レールユニット(10B)は、前後のレール部材(20,30)を一体的に支持する支持板(11)を有していてもよい。また、上前方レール部材(20A)と下前方レール部材(20B)は、同一形状の部材の上下前後方向を反転させたものとすることができ、上後方レール部材(30A)及び下後方レール部材(30B)は、同一形状の部材の上下前後方向を反転させたものとすることができる。また、前記「回転体」は、好ましくは球体であるが、円筒形の「ころ」や、円板状、俵型、ラグビーボール型のローラであってもよい。さらに、レール部(22,32)を移動する回転体が空回りしないように、レール部(22,32)にラック(26)を形成し、回転体として、前記ラック(26)に噛合するピニオン(41)を設けてもよい。なお、前方回転体(40A)と後方回転体(40B)は同一径であるのが望ましいが、異なる径であってもよい。
【0019】
そして、少なくとも前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記下後方レール部材(30B)のレール部(32)と前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)は、前記上レールユニット(10A)が前記下レールユニット(10B)に対して前方に移動した場合には、前記前方回転体(40A)及び後方回転体(40B)が前方に回転移動し、かつ前方回転体(40A)が後方回転体(40B)よりも高位となるように形成されていることを特徴とする。
ここで、下前方レール部材(20B)のレール部(22)は、円弧状(所定の曲率半径を有している)であっても直線状(曲率半径が無限大)であってもよく、円弧部分と直線部分の双方を備えていてもよい。またここで、下後方レール部材(30B)のレール部(32)は、下前方レール部材(20B)と同様に後方から前方に向かって高さが増すように形成されていてもよい。この場合は、下前方レール部材(20B)よりも高さの増し方が緩やかとなるように形成するのが好ましい。あるいは、下後方レール部材(30B)のレール部(32)を水平に形成してもよい。
【0020】
また、「前方回転体(40A)及び後方回転体(40B)が前方に移動し、かつ前方回転体(40A)が後方回転体(40B)よりも高位となるように形成されている」とは、レール部材(20,30)及び回転体(40)が、レールユニット(10A)の前方への移動に伴い、例えば回転体(40)の表面とレール面との摩擦力によって、前後の回転体(40A,40B)が回転移動可能となるような材質で形成されており、かつ、前後のレール部(22,32)のレール面の曲率又は傾斜角度が異なることにより、回転体(40)が回転移動したときに、前方回転体(40A)の高さ位置が後方回転体(40B)の高さ位置よりも高くなるような形状に形成されていることである。具体的には、前後の回転体(40A,40B)の直径が同一である場合、上レールユニット(10A)が前方に移動すると、回転体(40)の表面とレール面との摩擦力によって前後の回転体(40A,40B)が同時に回転移動し、前後の回転体(40A,40B)が同一回転数移動したときに、前方回転体(40A)の方が後方回転体(40B)よりも高さ位置が高くなるような曲率又は傾斜に、レール部(22,32)の曲率又は傾斜が設定されているものである。
【0021】
本発明においては、設置面(F)が設置物(3)を正面視したときの前後方向に揺れた場合、設置面(F)に固定されている下レールユニット(10B)に対して上レールユニット(10A)が前後に移動することとなる。そして、設置面(F)が後方に揺れて下レールユニット(10B)に対して上レールユニット(10A)が前方に移動した場合には、前方回転体(40A)の高さ位置が高くなった上レールユニット(10A)は前側が後ろ側よりも高くなり、上レールユニット(10A)を固定した設置物(3)の全体が後方に傾くこととなる。一方、設置面(F)が前方に揺れて下レールユニット(10B)に対して上レールユニット(10A)が後方に移動した場合であっても、上レールユニット(10A)を固定した設置物(3)も後方に移動するが、背面の壁面(P)や柱にぶつかるため跳ね返って前方に移動する。そうすると、上記と同様に上レールユニット(10A)は前側が後ろ側よりも高くなり、上レールユニット(10A)を固定した設置物(3)の全体が後方に傾くこととなる。
【0022】
そして、全体が後方に傾いた設置物(3)の背面上端部が壁面などにぶつかることにより、あるいは設置面(F)が前方に揺れることにより、上レールユニット(10A)は元の位置に戻り設置物(3)は直立姿勢となる。すなわち、設置物(3)は、後方に傾くことはあっても前方に傾くことがなく、結果、前方に倒れることがない。
なお、原点位置にある上レールユニット(10A)は下レールユニット(10B)に対して後方へは移動しないように形成してもよい。また、上レールユニット(10A)が前方に移動して下レールユニット(10B)から外れてしまわないようにするためのストッパーやロック機構を設けると好ましい。さらに、本発明に係る転倒防止装置(1)を装着した設置物(3)を設置する際には、背面側の障害物(壁面や他の設置物)との間に、上レールユニット(10A)の移動により設置物(3)が後方に傾斜した状態となることを許容するだけの間隙(C)を設けるのが好ましい。
【0023】
ところで、本発明においては、前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)及び下後方レール部材(30B)のレール部(32)は、前記上レールユニット(10A)及び下レールユニット(10B)が原点位置にあるときに前記回転体(10)の位置する原点部(23,33)は略水平に形成し、前記下前方レール部材(20A)のレール部(22)には、前記原点部(23)から前方にいくほど曲率半径が小さくなる湾曲面(中間湾曲部24)を設け、前記下後方レール部材(30B)のレール部(32)には、前記原点部(33)から前方に上り傾斜する傾斜面(中間傾斜部34)を設けることができる。
前記下前方レール部材(20A)のレール部(22)の湾曲面は、側面視したとき回転体(40)の直径よりもやや大きい直径の円を回転させたときに円周上の一点が描くサイクロイド曲線となるよう形成することができる。
【0024】
このように形成することにより、回転体(40)の初動時の摩擦を少なくして上レールユニット(10A)をスムーズに移動させることができるとともに、上レールユニット(10A)の傾斜角度が最大となるまでのストロークを短くでき、転倒防止装置(1)を装着した設置物(3)の必要な設置スペースを小さくすることができる。
なお、前記回転体として球体(40)を設け、少なくとも前記下前方レール部材(20B)及び下後方レール部材(30B)は、横断面が前記球体(40)の半径よりも大きい曲率半径を有する凹状に形成することができる。このように形成することにより、球体(40)が前後方向だけでなく左右方向にも若干移動可能であるため、設置面(F)が設置物(3)の左右方向に揺れたときに、回転体がレール部(22,32)に係止され上レールユニット(10A)が下レールユニット(10B)に対して移動不能になるのを防止することができる。
【0025】
また、前記下後方レール部材(30B)の前端部及び前記上後方レール部材(30A)の後端部に、前記後方回転体としての後方球体(40B)を前後から抱え込んで保持し、前記上レールユニット(10A)のさらなる前方への移動を阻止するための保持部(終点湾曲部35)を設け、前記後方球体(40B)が前記保持部(35)に保持される位置まで前記上レールユニット(10A)が移動しても、前記前方球体(40A)は前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)から外れないように形成することができる。ここで、前記「保持部」は、球体(40)の半径とほぼ同一の曲率半径を有する湾曲面とすることができる。このように形成することにより、保持部(35)によって球体(40)が移動不能となるため、球体(40)によって上レールユニット(10A)が下レールユニット(10B)にロックされ、上レールユニット(10A)と下レールユニット(10B)が分離してしまうことがない。また、後方球体(40B)が前記保持部(35)に保持される位置、すなわち最大突出位置まで上レールユニット(10A)が移動したときでも、前方球体(40A)は下前方レール部材(20B)のレール部(22)によって最高位置に支持されているため、上レールユニット(10A)の傾斜状態を維持することができる。
【0026】
さらに、前記下前方レール部材(20B)のレール部(22)を、所定の角度で前方に上り傾斜させ、前記下後方レール部材(30B)のレール部(32)を水平に形成してもよい。これは、レール部(22)にラック(26)を形成し、回転体としてラック(26)に噛合するピニオン(41)を設けた場合に最適な構成であるが、面状のレール部(22)と摩擦の大きい素材で形成した「ころ」などを用いたものにも応用できる。ここで、「所定の角度」は5〜10度とするのが好ましい。このように形成することにより、特に下後方レール部材(30B)の製造が容易であるため、コスト削減を図ることができる。
(請求項5)
請求項5に記載された発明は、上記した請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明の特徴点に加え、次の点を特徴とする。
【0027】
すなわち、前記下レールユニット(100B)には、前後方向に水平移動可能な移動体(突出アーム80)が配置され、前記移動体(80)は、その後端部側が前記上レールユニット(100A)に係止されており、上レールユニット(100A)が前方に移動するに伴い、その前端部が前記下レールユニット(100B)の正面から前方に突出するように形成され、前記前端部が突出したときには前端部の下面が設置面(F)に接触又は極めて近接するように形成されていることを特徴とする。
前記「移動体」は、下レールユニット(100B)に摺動自在に支持されており、上レールユニット(100A)が傾斜しながら前方に移動するに伴い、前方に水平方向に突出するように形成されているものである。移動体(80)には、ローラやベアリングなどの摺動部材を設けるのが好ましく、「前端部の下面」には、前端部に設けられたローラの下面も含まれる。
【0028】
本発明によれば、上レールユニット(100A)が前方に移動するに伴い移動体(80)が突出するので、上レールユニット(100A)及び設置物(3)を支える下レールユニット(100B)の奥行きが実質的に延びることとなる。このため、設置物(3)の重心が上の方にある場合でも、下レールユニット(100B)の安定状態を保つことができ、長周期、短周期の幅広い地振動に対応することが可能となる。加えて、下レールユニット(100B)の前後方向の奥行き寸法を無駄に大きくする必要が無くなり、設置スペースを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以上のように構成されているので、背面方向への移動が規制されている設置物において、床や壁に設置物を固定することなく、前後方向の揺れが発生した場合に、設置物を積極的に後方に傾けることにより、設置物が前方に倒れるのを防止することができる転倒防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一の実施の形態であって、設置物としての棚本体の斜視図である。
【図2】第一の実施の形態における棚本体のベースの斜視図である。
【図3】第一の実施の形態における転倒防止装置の外観斜視図である。
【図4】第一の実施の形態における転倒防止装置の分解斜視図である。
【図5】第一の実施の形態におけるレール部材の斜視図である。
【図6】第一の実施の形態におけるレール部材の断面図である。
【図7】第一の実施の形態における転倒防止装置の縦断面図である。
【図8】第一の実施の形態における転倒防止装置の位置移動を示す側面図である。
【図9】第一の実施の形態における転倒防止装置の位置移動を示す側面図である。
【図10】第一の実施の形態における棚本体の設置状態を示す側面図である。
【図11】第一の実施の形態における棚本体の他の設置状態を示す側面図である。
【図12】第一の実施の形態における棚本体のベースの他の例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第二の実施の形態であって、転倒防止装置の分解斜視図である。
【図14】第二の実施の形態における転倒防止装置の縦断面図である。
【図15】第二の実施の形態における転倒防止装置の位置移動を示す側面図である。
【図16】本発明の第三の実施の形態であって、転倒防止装置の分解斜視図である。
【図17】第三の実施の形態におけるレール部材の断面図である。
【図18】第三の実施の形態におけるレール部材の斜視図である。
【図19】第三の実施の形態における突出アームの斜視図である。
【図20】第三の実施の形態におけるガイド片の斜視図である。
【図21】第三の実施の形態における転倒防止装置の縦断面図である。
【図22】第三の実施の形態における下レールユニットの斜視図である。
【図23】第三の実施の形態における転倒防止装置の位置移動を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好適な実施の形態を、第一の実施の形態及び第三の実施の形態に分けて、図面に基づき説明する。
(第一の実施の形態)
図1乃至図12は、本発明の第一の実施の形態を示すものである。
(棚本体3)
本実施の形態における設置物としての棚本体3は、例えばスチール製の書棚や陳列棚であって、図1に示すように、左右の側板3Aと、底板3B及び天板3Dと、側板3Aに両端を支持される複数の棚板3Cを有している。そして、底板3Bは、ベース2に固定されており、このベース2の下方には転倒防止装置1が固定されている。
【0032】
ベース2は、図2に示すように、前後方向(棚本体3を正面視したときの前後方向)に配置される横枠2Aと、横枠2Aの側端部をつなぐ左右の側方枠2Bとから成る方形枠状の支持部材であり、側方枠2Bの下面に、転倒防止装置1が固定されている。すなわち、転倒防止装置1は、ベース2を介して棚本体3の底部両側端部に固定されている(図1参照)。
(転倒防止装置1)
転倒防止装置1は、図3に示すように、大きく分けて、長さ方向が棚本体3の前後方向となるように配置される上下2つのレールユニット10(上レールユニット10A及び下レールユニット10B)と、2つのレールユニット10の間に配置される球体40とを備えている。
【0033】
(レールユニット10)
レールユニット10は、図4に示すように、長方板状の支持板11と、支持板11に固定されるレール部材としての前方レール部材20及び後方レール部材30とから構成されている。
また、レールユニット10としては、支持板11に上前方レール部材20A及び上後方レール部材30Aを固定した上レールユニット10Aと、支持板11に下前方レール部材20B及び下後方レール部材30Bとを固定した下レールユニット10Bとが設けられている。
そして、本実施の形態においては、支持板11、前方レール部材20及び後方レール部材30は、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bにおいて、同一形状のものが用いられている。具体的には、レールユニット10は、支持板11の手前側(棚本体3の正面側)下面に前方レール部材20を固定し後側(棚本体3の背面側)下面に後方レール部材30を固定した上レールユニット10Aと、この上レールユニット10Aの支持板11の前後及び上下を反転させた支持板11の、手前側上面に前方レール部材20を上レールユニット10Aの前方レール部材20とは反対向きに固定し、後側上面に後方レール部材30を上レールユニット10Aの後方レール部材30とは反対向きに固定した下レールユニット10Bとから構成され、設置時において、上レールユニット10Aの前後のレール部材20,30と、下レールユニット10Bの前後のレール部材20,30との間にそれぞれ、球体40としての前方球体40A及び後方球体40Bが配置されているものである。
【0034】
なお、支持板11はスチール鋼板などの金属により形成されている。レール部材20,30は例えばABS樹脂、球体40は例えばフェノール樹脂などの硬質プラスチックにより形成することができる。
以下、上レールユニット10A及び下レールユニット10Bの共通部材としての支持板11、前方レール部材20、後方レール部材30の詳細を説明する。
(支持板11)
支持板11は、図4に示すように、長方形の板部材であって、長さ方向の両端部から板面と直交方向に突出する立設片12,13がそれぞれ形成されているとともに、立設片12,13の間には、板面を切り欠いて立設片12,13と平行に、かつ立設片12,13の突出方向と同方向に折り曲げて形成した4つの折曲片14,15,16,17が形成されている。
【0035】
また、立設片12と折曲片14の間には、長孔11A及びネジ孔11Bが長さ方向に並んで形成され、折曲片15と折曲片16の間には、前記長孔11A及びネジ孔11Bと同寸法のネジ孔11C及び長孔11Dが長さ方向に並んで形成されている。そして、前記折曲片17の、立設片12と対向する側には、高減衰ウレタンゴムなどの弾性部材からなる緩衝部材18が設けられている。そして、支持板11において、立設片12と折曲片14の間、及び折曲片15と折曲片16の間には、それぞれ、前方レール部材20及び後方レール部材30から成るレール部材が固定されるようになっている。
ここで、上レールユニット10Aの支持板11は、立設片13を手前側にし、立設片12,13及び折曲片14,15,16,17が下方に突出した状態となるよう配置されるものであり、折曲片15と折曲片16の間には前方レール部材20が固定され、立設片12と折曲片14の間には後方レール部材30が固定される。一方、下レールユニット10Bの支持板11は、立設片12を手前側にし、立設片12,13及び折曲片14,15,16,17が上方に突出した状態となるよう配置されるものであり、折曲片15と折曲片16の間には後方レール部材30が固定され、立設片12と折曲片14の間には前方レール部材20が固定されるようになっている。
【0036】
(前方レール部材20)
前方レール部材20は、図5(A)及び図6(A)に示すように、側面視略三角形状の本体21に、支持板11に固定する面を下側にして設置したときに長さ方向の一端側から他端側に向かって徐々に高さが高くなるレール部22を形成したものである。
本体21の支持板11への固定面には、図4に示すように、ピン21B及びネジ孔21Cが設けられており、本体21を支持板11の立設片12と折曲片14の間、又は折曲片15と折曲片16の間に設置して、ピン21Bを支持板11の長孔11A又は長孔11Cに挿入すると、ネジ孔21Cが支持板11のネジ孔11B又はネジ孔11Dと合致するようになっている。また、本体21の支持板11への固定面の一方の端部には、側面視L字型の切欠部21Aが設けられており、この切欠部21Aは、本体21を支持板11の立設片12と折曲片14の間、又は折曲片15と折曲片16の間に設置したときに、折曲片14又は折曲片15と係合可能となっている。
【0037】
前記レール部22は、図6(A)に示すように、レール部22を上側にして配置し、側面視したときに高さが低い方の端部側(図示した例では右側)にある原点部23から、中間の位置にある中間湾曲部24を経て、前記原点部23の反対側にある終点湾曲部25に連続する湾曲面で形成されている。そして、この湾曲面は、原点部23の最も低い高さ位置の部分はほぼ水平状態であり、原点部23から終点湾曲部25に向かって徐々に高さが増すように形成され、高さ位置が高くなるにつれ曲率半径が小さくなるように形成されている。具体的には、例えば球体40の直径が1.5インチ(38.1mm)である場合、側面視したときφ40(mm)のサイクロイド曲線を描く湾曲面とすることができる。さらに、レール部22は、図6(C)に示すように、横断面が湾曲した凹形の溝状に形成されており、この溝の曲率半径r'は、球体40の半径rよりも大きく形成されている。
【0038】
前方レール部材20は、図7に示すように、上レールユニット10Aにおいては、レール部22を下向きにし原点部23が正面側となるよう配置され、切欠部21Aを折曲片15に係止させ切欠部21Aの反対側の立面(背面)を折曲片16に当接させた状態で、ピン21Bを長孔11Cに挿入しネジ孔21Cとネジ孔11Dにネジ70を螺号させて(図4参照)、支持板11の手前側下面に固定される。上レールユニット10Aの前方レール部材20を上前方レール部材20Aというものとする。
一方、下レールユニット10Bにおいては、前方レール部材20は、レール部22を上向きにし終点湾曲部25が正面側となるよう配置され、切欠部21Aを折曲片14に係止させ切欠部21Aの反対側の立面(正面)を立設片12に当接させた状態で、ピン21Bを長孔11Aに挿入しネジ孔21Cとネジ孔11Bにネジ70を螺号させて、支持板11の手前側上面に固定される。下レールユニット10Bの前方レール部材20を下前方レール部材20Bというものとする。下前方レール部材20Bは、後方から前方に向かってレール部23の高さが増すように配置されるものとなる。
【0039】
そして、図7に示すように、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bを重ね合わせ上レールユニット10Aの立設片13を下前方レール部材20Bの正面に当接させた状態では、上下の前方レール部材20の原点部23が相対向する位置となり、ここに前方球体40Aが配置される。また、この状態で、上前方レール部材20Aの背面には、下レールユニット10Bの折曲片17に固定された緩衝部材18が当接するようになっている。
(後方レール部材30)
後方レール部材30は、図5(B)及び図6(B)に示すように、側面視略三角形状の本体31に、支持板11に固定する面を下側にして設置したときに長さ方向の一端側から他端側に向かって徐々に高さが高くなるレール部32を形成したものである。
【0040】
本体31の支持板11への固定面には、図4に示すように、ピン31B及びネジ孔31Cが設けられており、本体31を支持板11の立設片12と折曲片14の間、又は折曲片15と折曲片16の間に設置して、ピン31Bを支持板11の長孔11A又は長孔11Cに挿入すると、ネジ孔31Cが支持板11のネジ孔11B又はネジ孔11Dと合致するようになっている。また、本体31の支持板11への固定面の一方の端部には、側面視L字型の切欠部31Aが設けられており、この切欠部31Aは、本体31を支持板11の立設片12と折曲片14の間、又は折曲片15と折曲片16の間に設置したときに、折曲片14又は折曲片15と係合可能となっている。
前記レール部22は、図6(B)に示すように、レール部32を上側にして配置し、側面視したときに高さが低い方の端部側(図示した例では右側)にある原点部33から、中間の位置にある中間傾斜部34を経て、前記原点部33の反対側にある終点湾曲部35に連続する面で形成されている。ここで、原点部23の最も低い高さ位置の部分はほぼ水平状態であり、中間傾斜部34は、側面視したとき終点湾曲部35の方向に上り傾斜する直線状に形成されている。また、終点湾曲部35は、球体40の半径とほぼ同一の曲率半径を有する湾曲面であり、終点湾曲部35の上端部は、曲面が反り返るように形成された反返部35Aとなっている。この反返部35Aがあることにより、後方球体40Bが終点湾曲部35に嵌り込み、それ以上前方へは移動できなくなる。さらに、レール部32は、図6(C)に示すように、横断面が湾曲した凹形の溝状に形成されており、この溝の曲率半径r'は、球体40の半径rよりも大きく形成されている。
【0041】
後方レール部材30は、図7に示すように、上レールユニット10Aにおいては、レール部32を下向きにし原点部33が正面側となるよう配置され、切欠部31Aを折曲片14に係止させ切欠部31Aの反対側の立面(背面)を立設片12に当接させた状態で、ピン31Bを長孔11Aに挿入しネジ孔31Cとネジ孔11BにネジPを螺号させて(図4参照)、支持板11の後側下面に固定される。上レールユニット10Aに固定された後方レール部材30を上後方レール部材30Aというものとする。
一方、下レールユニット10Bにおいては、後方レール部材30は、レール部32を上向きにし終点湾曲部35が正面側となるよう配置され、切欠部31Aを折曲片15に係止させ切欠部21Aの反対側の立面(正面)を折曲片16に当接させた状態で、ピン31Bを長孔11Cに挿入しネジ孔31Cとネジ孔11Dにネジ70を螺号させて、支持板11の後側上面に固定される。下レールユニット10Bに固定された後方レール部材30を下後方レール部材30Bというものとする。下後方レール部材30Bは、後方から前方に向かってレール部32の高さが増すように配置されるものとなる。
【0042】
そして、図7に示すように、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bを重ね合わせ上レールユニット10Aの立設片13を下後方レール部材30Bの背面に当接させた状態では、上下の後方レール部材30の原点部33が相対向する位置となり、ここに、前方球体40Aと同一径の後方球体40Bが配置される。また、この状態で、下後方レール部材30Bの正面には、上レールユニット10Aの折曲片17に固定された緩衝部材18が当接するようになっている。
ここで、前方レール部材20と後方レール部材30と前方レール部材20のレール部32,22を比較すると、図6(A)(B)に示すように、レール部32,22を上側にして本体31,21を設置した状態で、後方レール部材30の原点部33の最も低い位置の高さ(t)は、前方レール部材20の原点部23の最も低い位置の高さ(t)と同じである。一方、中間傾斜部34の曲率半径は、中間湾曲部24の曲率半径よりも大きく形成されている(中間傾斜部34の曲率半径は無限大)。すなわち、レール部22よりも、レール部32の方が、高さの増し方が緩やかに形成されている。従って、原点部23,33の最も低い位置に設置された前後の球体40がレール面を転がり、同じ距離だけ転動した場合には、前方球体40Aの方が後方球体40Bよりも高位に位置することになる。
【0043】
(転倒防止装置1の作動)
次に、上記構成を有する転倒防止装置1の動きについて、図8及び図9に基づき説明する。なお、図面上、左側が前方、右側が後方である。
図8(A)は、転倒防止装置1の初期位置を示す。初期位置においては、上レールユニット10Aの支持板11と下レールユニット10Bの支持板11とは、上下に重なっている。つまり、二つの支持板11の前端部と後端部の前後方向の位置は合致している。またこのとき、前方球体40Aは、上前方レール部材20Aの原点部23の最も高い位置と下前方レール部材20Bの原点部23最も低い位置に挟持され、後方球体40Bは、上後方レール部材30Aの原点部33の最も高い位置と下後方レール部材30Bの原点部33の最も低い位置に挟持された状態となっている。そして、上レールユニット10Aに正面方向への力が掛けられると、上レールユニット10Aが下レールユニット10Bに対して前方に移動し、球体40は、レール部材20,30のレール面に押し付けられた状態で上レールユニット10Aの移動に伴い回転しながら前方に移動する。
【0044】
なお、上レールユニット10Aを後方に移動させようとしても、上レールユニット10Aの緩衝部材18が下後方レール部材30Bの正面に、下レールユニット10Bの緩衝部材18が上前方レール部材20Aの背面に当接しており、緩衝部材18がストッパーとなって上レールユニット10Aを後方に動かすことはできない。しかし、上レールユニット10Aは球体40により下レールユニット10Bに支持されているだけなので、上レールユニット10Aを後方に移動させる力が働いた場合には、その反動で逆に前方に移動するものとなっている。
図8(B)は、下レールユニット10Bに対して上レールユニット10Aがやや前方にずれた場合、例えば、支持板11の長さが450mmである場合に、上レールユニット10Aが初期位置から40mm前方に移動した状態を示す。このとき、前方球体40Aは、上前方レール部材20Aの中間湾曲部24の前側部分と下前方レール部材20Bの中間湾曲部24の後側部分に挟持され、後方球体40Bは、上後方レール部材30Aの中間傾斜部34の前側部分と下後方レール部材30Bの中間傾斜部34の後側部分に挟持された状態となっている。この状態では、前方球体40Aが後方球体40Bよりも僅かに高位であるが、上レールユニット10Aは略水平状態である。
【0045】
図8(C)は、上レールユニット10Aが上記した(B)からさらにやや前方にずれた場合、例えば、上レールユニット10Aが初期位置から60mm前方に移動した状態を示す。このとき、前方球体40Aは、上前方レール部材20Aの中間湾曲部24の中間部分と下前方レール部材20Bの中間湾曲部24の中間部分に挟持され、後方球体40Bは、上後方レール部材30Aの中間傾斜部34の中間部分と下後方レール部材30Bの中間傾斜部34の中間部分に挟持された状態となっている。この状態では、前方球体40Aが後方球体40Bよりもやや高位となり、上レールユニット10Aは手前側が若干高くなり、支持板11の上面が後方に向かって僅かに下り傾斜した状態となる。
【0046】
図9(A)は、上レールユニット10Aが上記した図8(C)からさらにやや前方にずれた場合、例えば、上レールユニット10Aが初期位置から85mm前方に移動した状態を示す。このとき、前方球体40Aは、上前方レール部材20Aの終点湾曲部25と下前方レール部材20Bの終点湾曲部25に挟持され、後方球体40Bは、上後方レール部材30Aの中間傾斜部34の後側部分と下後方レール部材30Bの中間傾斜部34の前側部分に挟持された状態となっている。この状態では、前方球体40Aが後方球体40Bよりもさらに高位となり、上レールユニット10Aの前端部は初期位置の2倍程度の高さとなり、支持板11の傾斜角が大きくなる。
そして、図9(B)は、上レールユニット10Aが最大限前方に移動した状態を示す。このとき、前方球体40Aは、上前方レール部材20Aのレール部22の縁部22Aと下前方レール部材20Bのレール部22の縁部22Aに挟持され、後方球体40Bは、上後方レール部材30Aの終点湾曲部35と下後方レール部材30Bの終点湾曲部35に包み込まれた状態となっている。すなわち、後方球体40Bは、反返部35Aを有する終点湾曲部35に保持された状態となっている。この状態では、前記図9(A)よりもさらに前方球体40Aと後方球体40Bとの高さ位置の差が大きくなり、上レールユニット10Aの前端部は初期位置の2倍を超える高さとなり、支持板11の傾斜角がより大きくなる。そして、後方球体40Bが終点湾曲部35に保持されているため、上レールユニット10Aのそれ以上の前方への移動が阻止され、上レールユニット10Aがロックされた状態となる。このため、前方球体40Aが下前方レール部材20Bのレール部22の縁部22Aを乗り越え、あるいは上前方レール部材20Aのレール部22の縁部22Aが前方球体40Aを乗り越えて、レールユニット10から外れてしまうことはない。なお、最大限前方に移動した上レールユニット10Aは、背面方向への力が掛かることにより元の位置に戻る。
【0047】
以上のようにして、転倒防止装置1は、上レールユニット10Aに固定される棚本体3が前後方向の力を受けた場合には、上レールユニット10Aが前方に移動することにより、棚本体3の全体を、後方に傾けることができるようになっている(図10、図11参照)。このため、棚本体3が前側に倒れることがないのである。
(転倒防止装置1の取り付け及び棚本体3の設置)
転倒防止操作1は、下レールユニット10Bを、前方レール部材20が棚本体3の正面側となるように、棚本体3の横幅寸法に合わせて横方向に二つ並べて床などの設置面に設置固定し、前後のレール部材20,30の原点部23,33に球体40を載せるとともに、その上から上レールユニット10Aを、図8(A)に示す原点位置となるように載置する。このようにしてセットした一対の転倒防止装置1の上にベース2を固定し、ベース2の上に棚本体3の底板3Bを固定する。このようにして、転倒防止操作1が棚本体3に装着される。ここで、棚本体3の背面側上端部、例えば天板3Dの背面側隅角部には、断面略L字型のゴムなどの保護材50を取り付けておく。保護材50は天板3Dの背面側上縁部にわたって設けてもよい。
【0048】
上記したように転倒防止装置1を装着した棚本体3の設置例について説明する。
まず、棚本体3の背面を、水平な設置面Fに垂直な壁面P(柱でもよい)に添わせて設置する場合を図10(A)に示す。なお、図10は棚本体3を側面視した図である。そして、転倒防止装置1をベース2(図2参照)に固定した棚本体3を、背面(転倒防止装置1の背面に同じ)と壁面Pとの間に間隙Cをあけて設置する。間隙Cは、転倒防止装置1の上レールユニット10Aが最大限前方に移動する前に、後方に傾いた棚本体3の保護材50が壁面Pと当接しない寸法に設定する。つまり、後方に傾いた棚本体3が壁面Pと衝突して、上レールユニット10Aの最大突出長さまで移動することを阻害することがないような間隙Cを設ける。具体例を挙げると、例えば、保護材50の厚さが15mm、棚本体3の奥行き(レールユニット10の長さ)が450mmとした場合、棚本体3の高さHが1000mmであれば間隙Cは16mm、Hが1200mmであればCは28mm、Hが1800mmであればCは78mm、Hが2100mmであればCは102mm、のように、棚本体3の高さが高いほど、間隙Cの値は大きくなる。
【0049】
また、複数の棚本体3を、背面合わせにして設置面Fに設置する場合を図11に示す。この場合には、一方の棚本体3の背面と他方の棚本体3’の背面との間に、間隙C’を設けて設置することになる。この場合の間隙C’は、棚本体3を壁面Pに配置する場合よりも大きい寸法に設定する。
以上のように設置した棚本体3の地震発生時の動きを、図10に基づき説明する。
棚本体3は、前後方向の揺れが発生した場合において、設置面Fが棚本体3に対して前方(図10(A)の黒矢印方向)に移動することにより、上部に後方(同図の白矢印方向)へ倒れる力が働き、逆に、設置面Fが棚本体3に対して後方に移動することにより、上部に前方へ倒れる力が働く。そして、棚本体3の上部が後方へ倒れる力が働いた場合には、棚本体3の下部には前方に移動する力が働き、上レールユニット10Aは下レールユニット10Bに対して前方に移動する。そうすると、上述したように、棚本体3は後方に傾くが(図10(B)参照)、背面には壁面Pがあるため(すなわち保護材50が壁面Pに当たるため)、後ろ側に転倒することはない。
【0050】
一方、上部が前方に倒れる力が働いた場合には、棚本体3の下部には後方に移動する力が働くが、前述したように、上レールユニット10Aは下レールユニット10Bに対して後方へは移動しないようになっているので、反動によって前方に移動するものとなる。そして、この場合にも、棚本体3は後方に傾くが、後ろ側に転倒することはない。
そして、後方に傾いた棚本体3は、保護材50が壁面Pに衝突する反動により、あるいは設置面Fの前方への移動により、上レールユニット10Aが下レールユニット10Bに対して後方に移動して、直立姿勢に戻る。
このようにして、転倒防止装置1は、棚本体3が前後のいずれの方向に揺れた場合でも後側に倒すようにして、棚本体3が前側に倒れることを防止することができる。
【0051】
以上のことは、図11に示す設置例においても同様である。図11の設置例の場合には、設置面Fが黒矢印方向に移動した場合にも、白矢印方向に移動した場合にも、背面合わせに配置されている棚本体3、3’はいずれも、若干の時間差をつけて後方に傾いた状態となり、相対向する位置にある保護材50どうしが衝突する。例えば、設置面Fが黒矢印方向に移動した場合には、左側に位置している棚本体3の上部には後方へ倒れる力が働き、直後に上レールユニット10Aが移動開始する。一方、右側に位置している棚本体3’の上部には前方へ倒れる力が働くが、その反動により、上レールユニット10Aは、棚本体3の上レールユニット10Aが移動開始してから僅かなタイムラグをおいて移動開始する。このため、棚本体3が最大傾斜角度まで後方に傾いたときには、棚本体3’は最大傾斜角度まで傾いていない状態で、保護材50どうしが衝突することとなる。なお、棚本体3、3’の間の間隙C’は、かかる両者の傾き方を考慮して、棚本体3を壁面Pに添わせて設置する場合の間隙Cの寸法よりも大きく、Cの2倍よりは小さい寸法に設定するのが好ましい。
【0052】
(変形例)
上記した実施の形態では、方形枠状のベース2の下面に転倒防止装置1を固定してあったが、図12に示すように、転倒防止装置1のレールユニット10の支持板11を、ベース2の側方枠2Bと共通にして、左右に配置したレールユニット10の支持板11の間を横枠2Aで繋いでベース2を形成してもよいものである。この場合、背面側の横枠2Aに、後方に突出する伸縮自在な60を設けてもよい。このスペーサー60の長さ調節により、棚本体3の設置時において高さに応じた背面側の間隙Cを容易かつ確実に確保することができる。また、下レールユニット10Bの支持板11の下面に、高さ調節可能な脚部2Cを設けてもよい。これにより、設置面が水平面でない場合でも、棚本体3を設置することができる。
【0053】
なお、特に図示しないが、ベース2の下面に転倒防止装置1を固定する場合においても、支持板11の背面に前記したようなスペーサー60を設けても良く、支持板11の下面に前記したような脚部2Cを設けてもよい。
また、下前方レール部材20Bの正面に当接する上レールユニット10Aの支持板11の立設片13の内側、及び上後方レール部材30Aの背面に当接する下レールユニット10Bの支持板11の立設片13の内側に、それぞれ、緩衝部材を設けてもよい。このように形成することにより、上レールユニット10Aが前方に移動した位置から原点位置に戻ったときの衝撃を吸収させて、レール部材20,30の破損を防止することができる。
【0054】
(総括)
以上のように、本実施の形態によれば、設置面Fに固定する下レールユニット10Bと、棚本体3に固定する上レールユニット10Aのレール部材20,30の間に球体40を配置した構成としてあり、下レールユニット10Bにおいては、レール部材20,30のレール部22,32が、後方から前方に向かって徐々に高さが高くなるよう形成されているとともに、前方レール部材20のレール部22の曲率よりも後方レール部材30のレール部32の曲率(傾斜)を大きくしてあるため、上レールユニット10Aの前方への移動によって棚本体3の正面下部が前方に移動すると同時に上方に持ち上がり、棚本体3を後方に傾いた状態とすることができる。そして、上レールユニット10Aは下レールユニット10Bに対して後方へは移動しないので、設置面Fが棚本体3の前後方向のどちらの方向に揺れた場合でも、棚本体3は後方に傾いた状態となり、前側に倒れることがない。従って、棚本体3に収納されている本や陳列物などが棚から飛び出すことはあっても、棚本体3の全体が倒れてくることはないので、地震発生時の安全を確保することができる。
【0055】
また、下レールユニット10Bにおいて前方レール部材20のレール面をサイクロイド曲線、後方レール部材30のレール面を傾斜直線としたことにより、短いストロークでかつ滑らかに上レールユニット10Aの前端部を上昇移動させることができ、棚本体3の設置スペースを節約できるとともに、棚本体3をスムーズに傾けることができる。
さらに、本実施の形態では、レールユニット10の各構成部品は、同一形状のものを使用しているため、製造が容易であり、必要な部品数を少なくでき、製造コストの削減を図ることができる。
なお、本発明に係る転倒防止装置1としては、上下のレールユニット10の形状がそれぞれ異なるものであっても構わない。例えば、上前方レール部材20Aと下前方レール部材20B、上後方レール部材30Aと下後方レール部材30Bは、それぞれ異なる形状のものであってもよく、支持板11も、各レール部材20,30を固定可能に上レールユニット10A用と下レールユニット10B用とで異なる形状とすることができる。
【0056】
また、上記した実施の形態では、前方レール部材20のレール部22の中間部分を湾曲面、後方レール部材30のレール部32の中間部分を傾斜面としてあったが、この部分、すなわち、球体40が回転移動する部分については、前後のレール部材20,30の双方共に湾曲面とすることもでき、あるいは双方共に傾斜面としてもよい。
さらに、上記した実施の形態では、回転体として球体40を用いているが、本発明における回転体としては、球体40に限られず、円柱形の「ころ」や、円板状のローラや球又は楕円球の側面を切り落とした俵型のローラやラグビーボール型のローラであってもよい。ただ、横方向の揺れをある程度吸収しつつレール面を移動できるように、球体を用いるのが最も好適である。
【0057】
(第二の実施の形態)
図13乃至図15は、本発明の第二の実施の形態を示すものである。なお、棚本体3や棚本体3の設置、地震発生時の動きに関しては、第一の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
本実施の形態に係る転倒防止装置1は、図13に示すように、大きく分けて、上下2つのレールユニット10(上レールユニット10A及び下レールユニット10B)と、2つのレールユニット10の間に配置される回転体としてのピニオン40と、ストッパー70とを備えている。
【0058】
(レールユニット10)
レールユニット10は、図13に示すように、水平板111及び側面板112からなる支持枠110と、支持枠110の水平板111に固定されるレール部材としての前方レール部材20及び後方レール部材30とから構成されている。また、レールユニット10としては、水平板111の下面に上前方レール部材20A及び上後方レール部材30Aを固定した上レールユニット10Aと、水平板111の上面に下前方レール部材20B及び下後方レール部材30Bとを固定した下レールユニット10Bとが設けられている。ここで、本実施の形態においては、上レールユニット10Aよりも下レールユニット10Bの方が支持枠110の側面板112の高さ寸法が大きく形成されている。
【0059】
そして、本実施の形態においては、図14に示すように、各レール部材20,30のレール部22,32には、全長にわたり、歯幅が左右方向になるようにラック26,36が形成されており、回転体として、前記ラック26,36に噛合可能なピニオン41(前方ピニオン41A、後方ピニオン41B)が設けられている。
(前方レール部材20)
本実施の形態における前方レール部材20は、図14に示すように、側面視くさび形のベースの傾斜面にラック26を形成したものである。そして、上前方レール部材20Aは、ラック26を下側にして、ラック26が前方から後方に向かって下り傾斜するように上レールユニット10Aの支持枠110の水平板111の手前側下面に固定され、下前方レール部材20Bは、ラック26を上側にして、ラック27が前方から後方に向かって下り傾斜するように下レールユニット10Bの支持枠110の水平板111の手前側上面に固定される。すなわち、下前方レール部材20Bのレール部22は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されている。
【0060】
なお、図示した例では、上前方レール部材20Aと下前方レール部材20Bは、同一形状のものを上下前後に反転させて使用しているものである。レール部22の傾斜角度αは、5〜10度の範囲内とするのが好ましい。
(後方レール部材30)
後方レール部材30は、平板状のベースの表面にラック36を形成したものである。そして、上後方レール部材30Aは、ラック36を下側にして上レールユニット10Aの支持枠110の水平板111の後側下面に固定され、下後方レール部材30Bは、ラック36を上側にして下レールユニット10Bの支持枠110の水平板111の後側上面に固定される。すなわち、下後方レール部材30Bのレール部32は、水平に形成されている。
【0061】
(ストッパー70)
ストッパー70は、上レールユニット10Aの後側が上方に浮き上がるのを防止するとともに、上レールユニット10Aの前方への突出長さを規制するためのものである。
具体的には、ストッパー70は、図13及び図14に示すように、下レールユニット10Bに固定されるガイド部71と、上レールユニット10Aに固定されるローラ73とを備えている。
ガイド部71は、下レールユニット10Bの支持枠110の2つの側面板112に跨って固定される断面コ字型の枠体であって、側面板112に接する側面には前後方向に長いガイド溝72が形成されている。ローラ73は、上レールユニット10Aの支持枠110の2つの側面板112から側方に突設されており、スタッド付きベアリングや、ボルトでブッシュを固定したものとすることができる。ガイド溝72は、下レールユニット10Bの側面板112の上端よりも上側に位置しており、前記ローラ73を嵌入した状態でガイド溝72の内部を摺動可能となるよう形成されている。そして、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bを重ね合わせた状態では、ガイド部71の平面部の下側に上レールユニット10Aの水平板111後方が位置し、ローラ73がガイド溝72に支持される。
【0062】
ここで、ローラ73をガイド溝72の最後部に位置させると、図13に示すように、上前方レール部材20Aの前端部と下前方レール部材20Bの後端部が、やや重複して相対向する位置となり、ここに前方ピニオン41Aが配置される。また、上後方レール部材30Aの前端部と下後方レール部材30Bの後端部が、やや重複して相対向する位置となり、ここに後方ピニオン41Bが配置される。そして、この状態が、転倒防止操作1の初期位置となる。
なお、ストッパー70の作用については、以下の転倒防止装置1の作動の説明とあわせて述べる。
(転倒防止装置1の作動)
次に、上記構成を有する転倒防止装置1の動きについて、図15に基づき説明する。なお、図面上、左側が前方、右側が後方である。
【0063】
図15(A)は、転倒防止装置1の初期位置を示す。初期位置においては、上レールユニット10Aの支持枠110と下レールユニット10Bの支持枠110とは、上下に重なっている。つまり、二つの支持枠110の前端部と後端部の前後方向の位置はほぼ合致している。またこのとき、前方ピニオン41Aは、上前方レール部材20Aの後端部と下前方レール部材20Bの前端部に挟持され上下のラック26と噛合し、後方ピニオン41Bは、上後方レール部材30Aの前端部と下後方レール部材30Bの後端部に挟持され上下のラック36と噛合した状態となっている。さらに、前述したように、ストッパー70のローラ73は、ガイド溝72の最後部に位置している。
【0064】
そして、上レールユニット10Aに正面方向への力が掛けられると、上レールユニット10Aが下レールユニット10Bに対して前方に移動し、球体40は、レール部材20,30のラック26に噛合した状態で上レールユニット10Aの移動に伴い回転しながら前方に移動する。
なお、上レールユニット10Aを後方に移動させようとしても、ストッパー70のローラ73がガイド溝72の後端部に当接して移動が阻止され、上レールユニット10Aをそれ以上後方に動かすことはできない。しかし、上レールユニット10Aはピニオン41により下レールユニット10Bに支持されているだけなので、上レールユニット10Aを後方に移動させる力が働いた場合には、その反動で逆に前方に移動するものとなっている。
【0065】
図15(B)は、下レールユニット10Bに対して上レールユニット10Aが前方にずれた状態、具体的には、最大突出長さの半分程度、初期位置から移動した状態を示す。このとき、前方ピニオン41Aは、上前方レール部材20Aのやや前方寄りの位置と下前方レール部材20Bのほぼ中間の位置で上下のラック26と噛合しており、後方ピニオン41Bは、上後方レール部材30Aのやや前方寄りの位置と下後方レール部材30Bのほぼ中間の位置で上下のラック36と噛合した状態となっている。また、ストッパー70のローラ73は、ガイド溝72のほぼ中間に位置している。この状態では、前方ピニオン41Aが後方ピニオン41Bよりもやや高位となり、上レールユニット10Aは、ローラ73を中心に前端部が上方向に回動した位置となっている。
【0066】
図15(C)は、上レールユニット10Aが最大限前方に移動した状態を示す。このとき、前方ピニオン41Aは、上前方レール部材20Aの前端近くの位置と下前方レール部材20Bの後端部近くの位置で上下のラック26と噛合しており、後方ピニオン41Bは、上後方レール部材30Aの後端部近くの位置と下後方レール部材30Bの前端部近くの位置で上下のラック36と噛合した状態となっている。また、ストッパー70のローラ73は、ガイド溝72の最前部に位置している。この状態では、前方ピニオン41Aと後方ピニオン41Bとの高さ位置の差が大きくなり、上レールユニット10Aの回動角度が大きくなる。そして、ローラ73がガイド溝72の最前部にあるため、上レールユニット10Aのそれ以上の前方への移動が阻止され、上レールユニット10Aがロックされた状態となる。このため、前方ピニオン41Aと上前方レール部材20A及び下前方レール部材20Bのラック26との噛合が外れてしまうことはない。なお、最大限前方に移動した上レールユニット10Aは、背面方向への力が掛かることにより元の位置に戻る。
【0067】
以上のようにして、転倒防止装置1は、上レールユニット10Aに固定される棚本体3が前後方向の力を受けた場合には、上レールユニット10Aが前方に移動することにより、棚本体3の全体を、後方に傾けることができるようになっている。このため、棚本体3が前側に倒れることがないのである。
(総括)
以上のように、第二の実施の形態においても、第一の実施の形態と同様の効果を得られるものであるが、レール部材20,30とそのレール部22,32の間に挟持される回転体として、ラック・ピニオン構造を用いているので、回転体が空回りしてしまうことがなく、回転体のトルクを確実に上レールユニット10Aの前方移動へと変えることができる。
【0068】
さらに、第二の実施の形態では、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bの間にストッパー70を設けてあることから、地震による上下の揺れが発生した場合でも、上レールユニット10Aが下レールユニット10Bの上でバウンドし、棚本体3が前方に倒れてしまうようなことがない。そして、下レールユニット10Bは設置面Fに固定されているので、上レールユニット10Aの後部が跳ね上がろうとするのを阻止することができる。また、上下の揺れが大きく下レールユニット10Bが一緒に跳ね上がってしまった場合でも、上レールユニット10Aと下レールユニット10Bの後部はガイド溝72とローラ73が係合していて分離しないため、上レールユニット10Aのみが前方に移動し、棚本体3が前傾姿勢にならないようにすることが可能となる。
【0069】
なお、第二の実施の形態では、下前方レール部材20Bのレール部22は、前方に向かって上り傾斜するように形成してあったが、この傾斜は直線状の傾斜(曲率半径が無限大)には限られず、所定の曲率半径を有する円弧状の上り傾斜としてもよい。また、下後方レール部材30Bのレール部32は水平に形成してあったが、このレール部32も、前方に向う上り傾斜(直線状でも円弧状でもよい)にしてもよい。
なお、レール部材20,30のレール部22,32を、上記した第二の実施の形態と同様(前方が傾斜で後方が水平)であってラック26,36を有しない形状とし、ピニオン41の代わりに摩擦抵抗が大きめな「ころ」などを用いてもよい。
【0070】
(第三の実施の形態)
図16乃至図23は、本発明の第三の実施の形態を示すものである。なお、棚本体3や棚本体3の設置、地震発生時の動きに関しては、第一の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
転倒防止装置1は、図16に示すように、大きく分けて、上下2つのレールユニット100と、2つのレールユニット100の間に配置される回転体400とから構成されている。本実施の形態においては、レールユニット100は、棚本体3の底板3B(図1参照)を固定するためのベース2(図2参照)を兼ねるものとなっている。
【0071】
(レールユニット100)
レールユニット100は、図16に示すように、上レールユニット100A及び下レールユニット100Bから構成されている。上レールユニット100Aはその上面に棚本体3を固定可能であり、下レールユニット100Bは設置面Fに固定可能となっている。
上レールユニット100Aは、方形薄枠状の支持枠120を備え、支持枠120の下面には、前方レール部材200としての上前方レール部材200Aと、回転体400としての後方ローラ400Bを回転自在に支持するローラ支持部500とが設けられている。前記支持枠120は、水平方向に所定の間隔をあけて配置される2つの水平板121と、この2つの水平板121を正面側で連結する前板122と、2つの水平板121を背面側で連結する後枠123を有し、前記上前方レール部材200A及びローラ支持部500は、水平板121の下面に固定されている。すなわち、支持枠120の左右側方にそれぞれ、上前方レール部材200A及びローラ支持部500が前後に並んで配置されている。
【0072】
下レールユニット100Bは、方形薄枠状の支持枠130を備え、支持枠130の上面には、前方レール部材200としての下前方レール部材200Bと、下後方レール部材300とが設けられている。前記支持枠130は、水平方向に所定の間隔をあけて配置される2つの水平板131と、この2つの水平板131を正面側で連結する前板132と、2つの水平板131を背面側で連結する後枠133を有し、前記下前方レール部材200Bと下後方レール部材300は、水平板131の上面に固定されている。すなわち、支持枠130の左右側方にそれぞれ、下前方レール部材200B及び下後方レール部材300が前後に並んで配置されている。そして、下レールユニット100Bの上に上レールユニット100Aを適位置にセットすると、下前方レール部材200Bの上側に上前方レール部材200Aが、下後方レール部材300の上側にローラ支持部500が位置するようになっている。
【0073】
なお、前板132の正面両側端部には、前方に突出する直方体形状のスペーサー136が設けられている。そして、下レールユニット100Bに上レールユニット100Aを重ねた状態で、スペーサー136の正面に、支持枠120の前板122の裏面を当接させた位置(図21(A)参照)が、下レールユニット100Bに対する上レールユニット100Aの原点位置となるように設定されている。
本実施の形態においては、回転体400として、上前方レール部材200Aと下前方レール部材200Bの間に挟持される前方球体400Aと、ローラ支持部500に軸止される後方ローラ400Bが設けられている。前方球体400Aは、第一の実施の形態における前方球体40Aと同様である。後方ローラ400Bは、回転中心軸が左右方向となるように、すなわち、前後方向に転動可能にローラ支持部500に支持されている。また、後方ローラ400Bの直径は、前方球体400Aの直径よりも小径となっている。
【0074】
さらに、本実施の形態においては、上レールユニット100Aが前方に移動した場合に、載置されている棚本体3の重みで下レールユニット100Bの後部が持ち上がり、棚本体3が前方に倒れるのを防止するための突出アーム80と、上レールユニット100Aの上下方向及び前後方向の最大移動距離を規制するためのガイド片90が設けられている。
(前方レール部材200)
本実施の形態における前方レール部材200は、第一の実施の形態における後方レール部材30と類似した形態を有している。すなわち、図17(A)及び図18(A)に示すように、側面視略三角形状の本体210に、支持板120,130に固定する面を下側にして設置したときに長さ方向の一端側から他端側に向かって徐々に高さが高くなるレール部220を形成したものである。レール部220は、レール部220を上側にして配置し、側面視したときに高さが低い方の端部側にある原点部230から、中間の位置にある中間傾斜部240を経て、前記原点部230の反対側にある終点湾曲部250に連続する面で形成されている。中間傾斜部240は、側面視したとき終点湾曲部240の方向に上り傾斜する直線状に形成されている。また、終点湾曲部250は、前方球体400Aの半径とほぼ同一の曲率半径を有する湾曲面である。なお、図示した例では、上前方レール部材200Aと下前方レール部材200Bは、同一形状のものを上下前後に反転させて使用しているものである。中間傾斜部240の傾斜角度αは、5度程度とするのが好ましい。
【0075】
前方レール部材200は、図21(A)に実線で示すように、上レールユニット100Aと下レールユニット100Bを重ね合わせ支持枠130のスペーサー136の正面と支持枠120の前板122の裏面を当接させた状態(以下初期状態という)では、上下の前方レール部材200A,200Bの原点部230が相対向する位置となり、ここに前方球体400Aが配置される。
(下後方レール部材300)
下後方レール部材300は、図17(B)及び図18(B)に示すように、楔形の本体310に、支持板120に固定する面を下側にして設置したときに長さ方向の一端側から他端側に向かって徐々に高さが高くなるレール部320を形成したものである。レール部320は、図17(B)に示すように、レール部320を上側にして配置し、側面視したときに高さが高い方の端部側に形成された上側平坦部330から、中間の位置にある中間傾斜部340を経て、前記上側平坦部330の反対側に位置する下側平坦部350に連続する面で形成されている。中間傾斜部340は、側面視したとき下側平坦部350の方向に下り傾斜する直線状に形成されている。上側平坦部330及び下側平坦部350は下後方レール部材300を水平面に設置すると略水平になるよう形成され、下後方レール部材300を下レールユニット100Bの水平板121に固定したとき、後方に上側平坦部330、前方に下側平坦部350が位置するようになっている。中間傾斜部340の傾斜角度βは、7〜10度程度とするのが好ましい。
【0076】
そして、図21(A)に実線で示すように、初期状態においては、後方ローラ400Bが下後方レール部材300の上側平坦部330に位置するようになっている。
(突出アーム80)
突出アーム80は、図16に示すように、下レールユニット100Bの支持枠130の上面であって下前方レール部材200A及び下後方レール部材300よりも支持板130の中心側(以下内側という)に、長さ方向が前後方向となるよう配置された長尺部材であり、図19に示すように、2枚の相対向する薄板部材からなる支持板81と、支持板81の間に軸止されるローラ85とを備えている。ローラ85としては、突出アーム80を支持枠130に設置したとき支持板81の前端部となる一方の端部に設けられる前ローラ85Aと、支持板81の後端部に設けられる後ローラ85Cと、支持板81の長さ方向の中央よりもやや前方寄りに設けられる中ローラ85Bの3つが設けられている。また、各支持板81の後方側の上端部には、上方に突設された舌片83が形成されている。
【0077】
ここで、上レールユニット100Aの支持枠120の各水平板121の後方側には、図16に示すように、前後方向に長い平行な2つのスリット124がそれぞれ形成されている。また、下レールユニット100Bの支持枠130の各水平板131の前方側には、角管状のガイド枠135がそれぞれ設けられているとともに、前板132には、各ガイド枠135の管内部と連通する開口部134が2つ設けられている。前記ガイド枠135の内寸は、突出アーム80の前方側を上面及び側面から覆うことができる大きさに形成されており、前記スリット124は、突出アーム80の舌片82を嵌入可能な長さ及び幅を有している。
突出アーム80は、図21(B)に実線で示すように、初期状態においては、舌片82をスリット124に嵌め入れ、支持板81の前方側をガイド枠135の内部に貫通させた状態で、上レールユニット100Aの支持枠120及び下レールユニット100Bの支持枠130の間に、前後方向に摺動自在に設置される。このとき、前ローラ85A及び中ローラ85Bはガイド枠135の内部に位置しており、前ローラ85Aの前端部は前板132の開口部134から僅かに露出しているだけである。そして、上レールユニット100Aが前方に移動した場合には、突出アーム80は、舌片82とスリット124との係合によって、上レールユニット100Aと一体で前方にスライド移動可能となっている。そして、上レールユニット100Aが最大限前方に移動した場合には、図22に示すように、舌片82はガイド枠135の後端側に位置し前ローラ85Aが開口部134から突出した状態となる。
【0078】
(ガイド片90)
ガイド片90は、図16に示すように、下レールユニット100Bの支持枠130の上面であって前記突出アーム80の内側に、ほぼ前後方向にわたって設けられた薄板部材である。ガイド片90は、水平板131の側端部を上側に折り曲げて形成したものであってもよいし、別部材を水平板131に固着したものであってもよい。そして、ガイド片90には、図20に示すように、長さ方向に形成された2つの長孔状のガイド溝91が設けられている。
ガイド溝91としては、前側に位置する前方ガイド溝91Aと、後方に位置する後方ガイド溝91Bが設けられている。前方ガイド溝91Aは、側面視したとき、溝長の後方から前方に向かって全体として上り傾斜しており、前端部付近の傾斜角度は後端部及び中央部の傾斜角度よりも大きくなっている。後端部及び中央部の傾斜角度は、下前方レール部材200Bのレール部220の傾斜角度とほぼ同一である(図21参照)。後方ガイド溝91Bは、側面視したとき、溝長の中央部が後方から前方に向かって下り傾斜しており、前端部及び後端部付近は水平に形成されている。この形状は、下後方レール部材300のレール部320の傾斜状態とほぼ一致している(図21参照)。
【0079】
ここで、上レールユニット100Aの支持枠120の左右2枚の水平板121の下面には、図16に示すように、前後方向に並んだ2個のブラケット140がそれぞれ垂下している。各ブラケット140は、断面略コ字型の金具を、相対向する2つの板部が横方向に並び前後及び下方が開放するように位置させて水平板121の下面に固定したものであり、相対向する板部の間には、ガイドピン141が横方向に設けられている。そして、このガイドピン141は、図21(B)に示すように、下レールユニット100Bの上に上レールユニット100Aを重ねた状態で、ガイド板90の前方ガイド溝91A及び後方ガイド溝91Bとそれぞれ係合し、ガイド溝91の内部を前後方向にスライド移動可能となる。そして、上レールユニット100Aが位置移動する場合には、ガイド溝91とガイドピン141の係合により、上レールユニット100Aの前後方向及び上下方向の移動距離を規制するようになっている。
【0080】
(転倒防止装置1の作動)
次に、上記構成を有する転倒防止装置1の動きについて、図21乃至図23に基づき説明する。
図21において実線で示したのは、転倒防止装置1の初期位置を示す。初期位置においては、上レールユニット100Aの支持枠120と下レールユニット100Bの支持枠130とは、上下に重なっている。つまり、二つの支持枠120,130の前端部と後端部の前後方向の位置はほぼ合致している。またこのとき、前方球体400Aは、上前方レール部材200Aの原点部230の最も高い位置と下前方レール部材200Bの原点部230の最も低い位置に挟持され、後方ローラ400Bは、下後方レール部材300の後端部にある上側平坦部330に位置している。上側平坦部330は原点部230よりも高位にあるが、後方ローラ400Bは前方球体400Aよりも小径なので、上レールユニット100Aは水平状態である。さらに、突出アーム80の前ローラ85Aは支持枠130の前板132の開口部134から僅かに突出しており、ガイドピン141は、ガイド溝91の最後部に位置している。
【0081】
そして、上レールユニット100Aに正面方向への力が掛けられると、図23(A)に示すように、上レールユニット100Aが下レールユニット100Bに対して前方に移動し、前方球体400Aは、前方レール部材200に挟持された状態で上レールユニット100Aの移動に伴い回転しながら前方に移動する。また、後方ローラ400Bは、下後方レール部材300のレール部320のレール面を回転しながら前方に移動する。さらに、突出アーム80は、上レールユニット100Aとともに前方に移動し、前ローラ85Aが前板132の開口部134から突出する。そして、ガイドピン141はガイド溝91内を前方に移動する。
なお、上レールユニット100Aを後方に移動させようとしても、スペーサー136が前板122の裏面に当接して移動が阻止され、上レールユニット100Aをそれ以上後方に動かすことはできない(図21(A)参照)。しかし、上レールユニット100Aは前後のレール部材200,300により下レールユニット100Bに支持されているだけなので、上レールユニット100Aを後方に移動させる力が働いた場合には、その反動で逆に前方に移動するものとなっている。
【0082】
図23(B)は、下レールユニット100Bに対して上レールユニット100Aが前方にずれた状態、具体的には、最大突出長さの半分程度、初期位置から移動した状態を示す。このとき、前方球体400Aは、上前方レール部材200Aの中間傾斜部240の中央部分と下前方レール部材200Bの中間傾斜部240の中央部分に挟持され、後方ローラ400Bは、下後方レール部材300の中間傾斜部340の前方寄りに位置している状態となっている。また、突出アーム80は、前ローラ85Aが前板132の開口部134から完全に露出し、支持板81の前方も開口部134から露出している。そして、ガイドピン141はガイド溝91の長さ方向(前後方向)の中程に位置している。この状態では、前方球体400Aの高さ位置は初期状態よりも若干高くなっているに過ぎないが、後方ローラ400Bは初期位置よりも低い位置に移動しているので、上レールユニット100Aは、前端部が初期位置よりも上方向に回動した状態となっている。一方、突出アーム80は、水平状態を維持している。前ローラ85Aは設置面Fと接触するか、又は接触はしないものの極めて近接した状態となっている。
【0083】
図23(C)は、上レールユニット100Aが最大限前方に移動した状態を示す。このとき、前方球体400Aは、上前方レール部材200Aの終点湾曲部250と下前方レール部材200Bの終点湾曲部250に挟持され、後方ローラ400Bは、下後方レール部材300の下側平坦部350に位置している(図21(A)の二点鎖線参照)。また、突出アーム80は、前ローラ85Aが前板132の開口部134からさらに突出し(図22参照)、中ローラ85Bは開口部134からは突出していないがその近傍に位置している(図21(A)の二点鎖線参照)。そして、ガイドピン141はガイド溝91の前端部に位置している。この状態では、前方球体400Aは最高位にあり、後方ローラ400Bは最低位にあるため、上レールユニット100Aの支持板120の傾斜角がより大きくなる。そして、ガイドピン141とガイド溝91の係合により、上レールユニット100Aのそれ以上の前方への移動が阻止され、上レールユニット100Aがロックされた状態となる。このため、前方球体400Aが下前方レール部材200Bのレール部220の縁部を乗り越え、あるいは上前方レール部材200Aのレール部220の縁部が前方球体400Aを乗り越えて、レールユニット100から外れてしまうことはない。
【0084】
さらに、突出アーム80が上レールユニット100Aとともに前方に移動しているので、下レールユニット100Bの前後の長さが実質的に延長される。これにより、例えば棚本体3の高さが高い場合や棚の上部に重量物が置かれている場合など、棚本体3が手前側に倒れやすくなっている状態でも、下レールユニット100Bの後端側にかかる上方向への力を吸収し、下レールユニット100Bの後端部が浮き上がってしまうのを防ぐことができる。その結果、棚本体3が手前側に倒れるのを防止することができるものである。
なお、最大限前方に移動した上レールユニット100Aは、背面方向への力が掛かることにより元の位置に戻る。
【0085】
以上のようにして、転倒防止装置1は、上レールユニット100Aに固定される棚本体3が前後方向の力を受けた場合には、上レールユニット100Aが前方に移動することにより、棚本体3の全体を、後方に傾けることができるようになっている。このため、棚本体3が前側に倒れることがないのである。
(総括)
以上のように、第三の実施の形態においても、第一の実施の形態と同様の効果を得られるものであるが、下後方レール部材300を手前側に向かって下り傾斜させてあるので、後方回転体としての後方ローラ400Bが前方に転がりやすく、前方回転体としての前方球体400Aが下前方レール部材200Bのレール部220の上り傾斜を移動するのを補助し、効率よく上レールユニット100Aを前上がりの姿勢にすることができる。また、ガイド片90を設けてあるので、地震による上下の揺れが発生した場合でも、上レールユニット100Aが下レールユニット100Bの上でバウンドし、棚本体3が前方に倒れてしまうようなことがない。
【0086】
さらに、上レールユニット100Aと同期して前方に突出する移動体としての突出アーム80を設けたので、棚本体3の重心が上の方にある場合でも、下レールユニット100Bの安定状態を保つことができる。これにより、長周期、短周期の幅広い地振動に対応することが可能である。加えて、下レールユニット100Bの前後方向の奥行き寸法を無駄に大きくする必要が無くなり、設置スペースを小さくすることができる。
なお、本実施の形態では、突出アーム80を上レールユニット100Aに係止する手段として、スリット124と舌片82を用いているが、上レールユニット100Aが後傾しながら前進移動するのに伴い突出アーム80が水平に前方に移動できることを可能とするものであれば、どのような態様の係止手段を設けてもよい。
【0087】
また、本実施の形態では、ガイド片90を下レールユニット100Bに、ガイドピン141を上レールユニット100Aに設けてあるが、上レールユニット100Aにガイド片90を設け、下レールユニット100Bにガイドピン141を設けてもよい。
さらに、本実施の形態では、下後方レール部材300のレール部320を手前側に下り傾斜させているが、レール部320は水平に形成してもよく、僅かに上り傾斜させて形成してもよい。
ところで、前述した第一及び第二の実施の形態における転倒防止装置1に、突出アーム80やガイド片90を設けてもよい。このように形成することにより、装置上に載置される設置物の挙動を安定させ、設置物をより確実に後傾姿勢に至らしめることができるようになる。
【0088】
本発明は、書棚や陳列棚の他、タンスなどの家具や自動販売機などの機械装置にも利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 転倒防止装置 2 ベース
3 棚本体 3A 側板
3B 底板 3C 棚板
3D 天板
10 レールユニット 10A 上レールユニット
10B 下レールユニット 11 支持板
20 前方レール部材 20A 上前方レール部材
20B 下前方レール部材
21 本体 22 レール部
23 原点部 23A 反転傾斜部
24 中間湾曲部 25 終点湾曲部
26 ラック
30 後方レール部材 30A 上後方レール部材
30B 下後方レール部材 31 本体
32 レール部 33 原点部
34 中間傾斜部 35 終点湾曲部
35A 反返部(保持部) 36 ラック
40 球体(回転体) 40A 前方球体
40B 後方球体 41 ピニオン(回転体)
41A 前方ピニオン 41B 後方ピニオン
50 保護材 60 スペーサー
70 ストッパー 71 ガイド部
72 ガイド溝 73 ローラ
F 設置面
P 壁面 C 間隙
80 突出アーム(移動体) 81 支持板
82 舌片 85 ローラ
90 ガイド片 91 ガイド溝
100 レールユニット 100A 上レールユニット
100B 下レールユニット
120 支持枠 121 水平板
122 前板 123 後枠
124 スリット
130 支持枠 131 水平板
132 前板 133 後枠
134 開口部 135 ガイド枠
140 ブラケット 141 ガイドピン
200 前方レール部材 200A 上前方レール部材
200B 下前方レール部材
210 本体 220 レール部
230 原点部 240 中間傾斜部
250 終点湾曲部
300 下後方レール部材 310 本体
320 レール部 330 後方平坦部
340 中間傾斜部 350 前方平坦部
400 回転体 400A 前方球体(前方回転体)
400B 後方ローラ(後方回転体) 500 ローラ支持部(回転体支持部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面方向への移動が規制されている設置物に用いられる転倒防止装置であって、
前記設置物の下面に固定される上レールユニットと、設置面に設置固定される下レールユニットと、前記上レールユニット及び下レールユニットの間に配置される回転体とを備え、
前記上レールユニットは、前記設置物の正面側に位置し下側にレール部を有する上前方レール部材を少なくとも備え、
前記下レールユニットは、前記上前方レール部材の下方に位置し上側にレール部を有する下前方レール部材を少なくとも備え、
前記上前方レール部材のレール部と前記下前方レール部材のレール部の間には、前記回転体が前後方向に移動可能に挟持され、
少なくとも前記下前方レール部材のレール部は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記上レールユニットが前記下レールユニットに対して前方に移動した場合には、前記回転体が前方に回転移動し、前記上レールユニットの前端部が後端部よりも高位となるように形成されていることを特徴とする転倒防止装置。
【請求項2】
前記上レールユニットは、前記設置物の背面側に位置し前記回転体としての後方回転体を回転自在に支持する回転体支持部とを少なくとも備え、
前記下レールユニットは、前記回転体支持部の下方に位置し上側にレール部を有する下後方レール部材をさらに備え、
前記上前方レール部材のレール部と前記下前方レール部材のレール部の間には、前記回転体としての前方回転体が前後方向に移動可能に挟持され、
前記下後方レール部材のレール部には、前記回転体支持部に支持された後方回転体が前後方向に移動可能に載置され、
少なくとも前記下前方レール部材のレール部は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記上レールユニットが前記下レールユニットに対して前方に移動した場合には、前記前方回転体及び後方回転体が前方に回転移動し、かつ前方回転体が後方回転体よりも高位となることを可能とする形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の転倒防止装置。
【請求項3】
前記下前方レール部材のレール部は、所定の角度で前方に上り傾斜し、前記下後方レール部材のレール部は、所定の角度で前方に下り傾斜するように形成され、
前記下後方レール部材のレール部の傾斜角度は、下前方レール部材のレール部の傾斜角度よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項2記載の転倒防止装置。
【請求項4】
背面方向への移動が規制されている設置物に用いられる転倒防止装置であって、
前記設置物の下面に固定される上レールユニットと、設置面に設置固定される下レールユニットと、前記上レールユニット及び下レールユニットの間に配置される回転体とを備え、
前記上レールユニットは、前記設置物の正面側に位置し下側にレール部を有する上前方レール部材と、前記設置物の背面側に位置し下側にレール部を有する上後方レール部材とを少なくとも備え、
前記下レールユニットは、前記上前方レール部材の下方に位置し上側にレール部を有する下前方レール部材と、前記上後方レール部材の下方に位置し上側にレール部を有する下後方レール部材とを少なくとも備え、
前記上前方レール部材のレール部と前記下前方レール部材のレール部の間には、前記回転体としての前方回転体が前後方向に移動可能に挟持され、
前記上後方レール部材のレール部と前記下後方レール部材のレール部の間には、前記回転体としての後方回転体が前後方向に移動可能に挟持され、
少なくとも前記下前方レール部材のレール部は、後方から前方に向かって高さが増すように形成されているとともに、前記上レールユニットが前記下レールユニットに対して前方に移動した場合には、前記前方回転体及び後方回転体が前方に回転移動し、かつ前方回転体が後方回転体よりも高位となることを可能とする形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の転倒防止装置。
【請求項5】
前記下レールユニットには、前後方向に水平移動可能な移動体が配置され、
前記移動体は、その後端部側が前記上レールユニットに係止されており、上レールユニットが前方に移動するに伴い、その前端部が前記下レールユニットの正面から前方に突出するように形成され、前記前端部が突出したときには前端部の下面が設置面に接触又は極めて近接するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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