説明

転造ダイス

【課題】アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる転造ダイスを提供すること。
【解決手段】セグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチは、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧Lcの長さを丸ダイス10の第1加工歯11の正面ピッチで除した数値aで、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さLsを除した数値b若しくはその数値bの近似値cに設定されている。これにより、セグメントダイス20における加工歯1ピッチあたりのブランクの速度と、丸ダイス10における加工歯1ピッチあたりのブランクの速度とを略等しくすることができ、第1転造歯形面11や第2転造歯形面21においてブランクに滑りが生じることを防止できる。その結果、ローレット目に傷が付くことを防止でき、アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造ダイスに関し、特に、アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる転造ダイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
円柱状の被加工部材(ブランク)の外周面に形成されるアヤ目のローレット目は、JIS規格B0951(ローレット目)に規格されている。ローレット目は、転造加工や切削加工で形成されるが、転造加工は、切削加工のように切りくずやバリを発生させないだけでなく、切削加工と比べて生産速度が高いという特徴があるため好適である。なかでも、特許文献1に記載された丸ダイスとセグメントダイスとを備えたロータリー式の転造ダイスは、ダイスの運動にロスがないため、生産速度が特に高いという優れた特徴がある。
【0003】
図4を参照して、従来のロータリー式の転造ダイス100について説明する。図4は、従来のロータリー式の転造ダイス100が装着された転造盤102の正面図である。なお、図4中の矢印Rは、丸ダイス110の軸孔101に挿入される主軸103の回転方向、即ち丸ダイス110の回転方向を示している。まず、ロータリー式の転造ダイス100の全体構成について説明する。ロータリー式の転造ダイス100は、円柱状のブランクBの外周面を塑性変形させてアヤ目のローレット目K(図6参照)を転造するための工具であり、丸ダイス110とセグメントダイス120とを備えている。
【0004】
丸ダイス110は、転造盤102に設けられた主軸103が丸ダイス110の軸孔101に挿入されることにより、転造盤102に固定されている。この主軸103は、駆動モータ及び減速機により構成された駆動装置(図示せず)により、矢印R方向、即ち反時計方向へ回転されるように構成されており、この主軸103の回転により、丸ダイス110が図4の矢印R方向へ回転駆動される。丸ダイス110の外周面には転造歯形面111が形成され、この転造歯形面111にはブランクBに転造されるローレット目K(図6参照)の第1山形K1に適合した複数の加工歯111aが設けられる。この加工歯111aは、頂部111a1を頂点とする山形状に形成され、頂部111a1から離間する谷底部111a2を有している。丸ダイス110は、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料で形成されている。
【0005】
丸ダイス110の外周面より外側には、セグメントホルダ104により保持されたセグメントダイス120が、丸ダイス110の外周面と所定の隙間を保持した状態で配設されている。セグメントダイス120は丸ダイス110と共にブランクBを挟持して、そのブランクBの外周面を塑性変形させてローレット目K(図6参照)を転造する部材であり、転造に適した合金工具鋼または高速度工具鋼等の金属材料で略円弧状に形成されている。セグメントダイス120の内周面には転造歯形面121が形成され、この転造歯形面121にはブランクBに転造される山形K2(図6参照)に適合した複数の加工歯121aが設けられる。この加工歯121aは、頂部121a1を頂点とする山形状に形成され、頂部121a1から離間する谷底部121a2を有している。
【0006】
次に、図5を参照して、従来のロータリー式の転造ダイス100の転造歯形面121について説明する。図5(a)は従来のロータリー式の転造ダイス100の側面図であり、図5(b)はセグメントダイス120の平面展開図である。丸ダイス110の転造歯形面111に設けられた加工歯111aの歯直角ピッチ(加工歯111aの歯すじに直交する方向に測定したピッチ)は、ブランクBの外径に応じて算出され、図5(a)に示すように、Pnに設定されている。また、加工歯111aのねじれ角(頂部111a1の上の一点を通る丸ダイス110の軸線に平行な直線と頂部111a1とがなす角)は、転造されるローレット目K(図6参照)の山形K2のねじれ角と同じ値(β)に設定されている。
【0007】
一方、図5(b)に示すように、セグメントダイス120の加工歯121の歯直角ピッチも、丸ダイス110の加工歯111の歯直角ピッチと同一の値(Pn)に設定されている。また、セグメントダイス120の転造歯形面121に設けられた加工歯121aのねじれ角も、丸ダイス110のねじれ角と同じ値(β)に設定されている。但し、セグメントダイス120の加工歯121aは、丸ダイス110の加工歯111aとねじれ方向が反対である。
【0008】
これにより、軸孔101に挿入される主軸103を中心として丸ダイス110が回転することにより、セグメントダイス120の加工歯121a及び丸ダイス110の加工歯111aによって、丸ダイス110とセグメントダイス120とに挟持されたブランクBの外周面に、図6に示すように、アヤ目(ねじれ角β、歯直角ピッチPn)のローレット目Kが転造される。なお、図6は従来のロータリー式の転造ダイスでブランクに転造されたローレット目の平面展開図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−221236号公報(図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のロータリー式の転造ダイス100では、図6に示すように、ブランクBに転造されたローレット目Kの山の頂、フランク又は谷底に傷Cが付く(重なりが生ずる)という問題点があった。
【0011】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる転造ダイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、請求項1記載の転造ダイスは、被加工部材であるブランクに第1山形を転造する第1加工歯が形成された第1転造歯形面を外周面に有する略円筒状の丸ダイスと、その丸ダイスの外側に所定の間隔を保持した状態で配設され前記第1山形と交差する第2山形を前記ブランクに転造する第2加工歯が形成された第2転動歯形面を内周面に有する円弧状のセグメントダイスとを備えると共に、回転させた前記丸ダイスと固定された前記セグメントダイスとの隙間に前記ブランクを送り込み、前記丸ダイス及び前記セグメントダイスの第1転造歯形面および第2転造歯形面によって前記ブランクの外周面を塑性変形させてアヤ目のローレット目を形成するものであり、前記セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、セグメント角に対する前記丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さを前記丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチで除した数値aで、前記セグメントダイスの第2転造歯形面の長さを除した数値b若しくはその数値bの近似値cに設定されている。
【0013】
請求項2記載の転造ダイスは、請求項1記載の転造ダイスにおいて、前記セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、前記数値bで前記ブランクの外周長を除した数値の小数点以下の切り上げ若しくは切り捨てによる整数を求め、その整数で前記ブランクの外周長を除した数値に設定されている。
【0014】
請求項3記載の転造ダイスは、請求項1又は2に記載の転造ダイスにおいて、前記セグメントダイスの第2加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角の少なくとも一方が、前記丸ダイスの第1加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角より大きい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の転造ダイスによれば、セグメントダイスと丸ダイスとを備えているので、アヤ目のローレット目を高い生産性で形成できる。ここで、セグメント角に対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さを丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチで除した数値aは、セグメント角に対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧に設けられた歯数に相当する。
【0016】
また、セグメントダイスはブランクを挟持できる隙間をあけて丸ダイスの第1転動歯形面の外側に配設されているので、丸ダイスの中心からセグメントダイスの第2転造歯形面の頂部までの距離は、丸ダイスの中心から丸ダイスの第1加工歯の頂部までの距離よりも大きい。そのため、セグメントダイスの第2転造歯形面の長さは、セグメント角に対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さに比べて大きくなる。従って、セグメントダイスの第2転造歯形面の長さを数値aで除した数値b若しくはその数値bの近似値cは、丸ダイスの加工歯1ピッチ(正面ピッチ)に対応したセグメントダイスの加工歯1ピッチ(正面ピッチ)に相当する。これらの結果、セグメント角に対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さと、セグメントダイスの第2転造歯形面の長さとの違いを考慮して、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチを、丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチより大きくすることができる。
【0017】
ここで、丸ダイス及びセグメントダイスの隙間に送り込まれたブランクは隙間を通過する間に転造されるため、ブランクが丸ダイスの第1転造歯形面に接触する時間と、セグメントダイスの第2転造歯形面に接触する時間とは同一である。しかし、セグメントダイスの第2転造歯形面の長さは、セグメント角に対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さより長いので、セグメントダイスの第2転造歯形面におけるブランクの転動移動量は、丸ダイスの第1転造歯形面におけるブランクの転動移動量より長くなる。従来の転造ダイスでは、加工歯の歯直角ピッチ及びねじれ角は、丸ダイスとセグメントダイスとが同一の値であった。このため、セグメントダイスにおける加工歯1ピッチあたりのブランクの速度が、丸ダイスにおける加工歯1ピッチあたりのブランクの速度より大きくないと、丸ダイス及びセグメントダイスの隙間をブランクが通過できないことになる。実際には、丸ダイス又はセグメントダイスの転造歯形面においてブランクに滑りが生じ、ブランクが隙間を無理矢理通過していたものと推察される。その結果、ブランクの外周面の同一部位の近傍が同一の加工歯に複数回接触し、ローレット目の山の頂、フランク又は谷底に傷が付いていた(重なりが生じていた)。
【0018】
請求項1記載の転造ダイスによれば、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチより大きな数値b若しくはその近似値cに設定されているので、セグメントダイスにおける加工歯1ピッチあたりのブランクの速度と、丸ダイスにおける加工歯1ピッチあたりのブランクの速度とを略等しくすることができる。その結果、丸ダイスの第1転造歯形面やセグメントダイスの第2転造歯形面においてブランクに滑りが生じることを防止して、第1加工歯や第2加工歯でローレット目に傷が付く(重なりが形成される)ことを防止できる。よって、アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる効果がある。
【0019】
請求項2記載の転造ダイスによれば、請求項1記載の転造ダイスの奏する効果に加え、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、ブランクの外周長を数値bで除した数値の小数点以下の切り上げ若しくは切り捨てによる整数を求め、その整数でブランクの外周長を除した数値に設定されているので、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチをブランクの外周長の整数分の1に分割できる。その結果、丸ダイス及びセグメントダイスの隙間に送り込まれたブランクの外周面に、セグメントダイスの第2加工歯で第2山形を等間隔に形成できる。よって、ローレット目の美観を向上できる効果がある。
【0020】
請求項3記載の転造ダイスによれば、請求項1又は2に記載の転造ダイスの奏する効果に加え、セグメントダイスの第2加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角の少なくとも一方を丸ダイスの第1加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角より大きくするという簡単な加工を施すことにより、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチを丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチより大きくさせて、美麗なローレット目を形成できる。このような簡単な加工を施すだけなので、転造ダイスの加工時間や製造コストは従来と同じくして、ローレット目の美観を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の第1実施の形態における転造ダイスの側面図であり、(b)は転造ダイスの正面図であり、(c)はセグメントダイスの第2転造歯形面の平面展開図である。
【図2】(a)は丸ダイスの第1転造歯形面の平面展開図であり、(b)はセグメントダイスの第2転造歯形面の平面展開図である。
【図3】本発明の第2実施の形態における転造ダイスのセグメントダイスの第2転造歯形面の平面展開図である。
【図4】従来のロータリー式の転造ダイスが装着された転造盤の正面図である。
【図5】(a)は従来のロータリー式の転造ダイスの側面図であり、(b)はセグメントダイスの転造歯形面の平面展開図である。
【図6】従来のロータリー式の転造ダイスでブランクに転造されたローレット目の平面展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1(a)は本発明の第1実施の形態における転造ダイス1の側面図であり、図1(b)は転造ダイス1の正面図であり、図1(c)はセグメントダイス20の第2転造歯形面21の平面展開図である。また、図2(a)は丸ダイス10の第1転造歯形面11の平面展開図であり、図2(b)はセグメントダイス20の第2転造歯形面21の平面展開図である。なお、従来のロータリー式の転造ダイス(図4及び図5参照)と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0023】
転造ダイス1は、丸ダイス10とセグメントダイス20とを備えて構成されている。丸ダイス10は、転造盤102(図4参照)に設けられた主軸103が軸孔101に挿入されることにより、転造盤102に固定される部材である。また、セグメントダイス20は、セグメントホルダ104(図4参照)により、丸ダイス10の第1転造歯形面11と円弧状の第2転造歯形面21とが所定の隙間を保持した状態で配設される部材である。
【0024】
丸ダイス10(図1(a)及び図1(b)参照)の第1転造歯形面11に設けられた加工歯11aは、アヤ目(ローレット目)のピッチ、アヤ目のねじれ角、ブランクBの外径等に応じて、歯直角ピッチ及びねじれ角が設定される。本実施の形態においては、図2(a)に示すように、丸ダイス10の第1加工歯11aの歯直角ピッチはPnc、第1加工歯11のねじれ角はβcに設定されている。これにより、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcはPnc/cos(βc)となる。
【0025】
次に、図1及び図2(b)を参照して、セグメントダイス20の第2転造歯形面21に設けられた第2加工歯21aの正面ピッチの設定方法について説明する。本実施の形態においては、図1(b)に示すように、セグメントダイス20のセグメント角はθ(単位はrad)に設定されている。丸ダイス10の中心から丸ダイス10の第1加工歯11aの頂部11a1までの距離はRc(図1(a)参照)なので、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧の長さLcはRc・θとなる。第1転造歯形面11の円弧の長さLc(=Rc・θ)を、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtc(=Pnc/cosβc)で除して、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧に設けられた歯数に相当する数値(以下「数値a」と称す)が算出される。
【0026】
次に、丸ダイス10の中心からセグメントダイス20の第2転造歯形面21(より具体的には、ローレット目を仕上げる仕上げ部)の頂部21a1までの距離はRs(図1(a)参照)なので、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さLs(図1(b)参照)はRs・θとなる。セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さLs(=Rs・θ)を数値aで除して、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcに対応するセグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチ(以下「数値b」と称す)を算出する。図1(b)から明らかなように、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さLsは、セグメント角θに対する第1転造歯形面11の円弧の長さLcより大きいので、数値bは、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcより大きな値となる。
【0027】
次に、ブランクBの外周長(ブランクBの直径×π)を数値bで除した数値dの小数点以下を切り上げ若しくは切り捨てて近似した数値dの近似値からなる整数eを求めた後、その整数eでブランクBの外周長を除した数値fを求める。この数値fをセグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチPts(図2(b)参照)とする。このように、ブランクBの外周長を考慮して数値bを調整し、整数eでブランクBの外周長を除した数値fをセグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチPtsに設定することにより、セグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチをブランクBの外周長の整数分の1に分割できる。その結果、丸ダイス10及びセグメントダイス20の隙間に送り込まれたブランクBの外周面に、山形(第2山形)を等間隔に形成できる。よって、ローレット目の美観を向上できる。
【0028】
本実施の形態においては、図2(b)に示すように、セグメントダイス20の第2加工歯21aのねじれ角はβs(βs>βc)に設定されている。セグメントダイス20の第2加工歯21aの歯直角ピッチはPnc(丸ダイス10の第1加工歯11aの歯直角ピッチと同じ値)に設定されている(但し、Pts=Pnc/cos(βs))。このような簡単な加工を施すだけなので、転造ダイス1の加工時間や製造コストは従来と同じくして、ローレット目の美観を向上できる。
【0029】
以上のように構成された第1実施の形態における転造ダイス1によれば、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧の長さと、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さとの違いを考慮して、セグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチを、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチより大きくすることができる。これにより、転造の際、セグメントダイス20における加工歯1ピッチあたりのブランクBの速度と、丸ダイス10における加工歯1ピッチあたりのブランクBの速度とを略等しくすることができる。その結果、セグメントダイス20の第2転造歯形面21や丸ダイス10の第1転造歯形面11においてブランクBに滑りが生じることを防止して、第1加工歯11aや第2加工歯21aでローレット目に傷が付く(重なりが形成される)ことを防止できる。よって、アヤ目のローレット目を美麗に、かつ、高い生産性で形成できる。
【0030】
次に、図3を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態においては、セグメントダイス20の第2加工歯21aのねじれ角は丸ダイス10の第1加工歯11aのねじれ角βcより大きな値(βs)に設定され、セグメントダイス20の第2加工歯21aの歯直角ピッチは丸ダイス10の第1加工歯11aの歯直角ピッチと同じ値(Pnc)に設定された場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、セグメントダイス20の第2加工歯21aのねじれ角が丸ダイス10の第1加工歯11aのねじれ角と同じ値に設定され、セグメントダイス20の第2加工歯21aの歯直角ピッチが丸ダイス10の第1加工歯11aの歯直角ピッチより大きな値に設定された場合について説明する。
【0031】
図3は、本発明の第2実施の形態における転造ダイスのセグメントダイス200の第2転造歯形面221の平面展開図である。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。本実施の形態においては、図3に示すように、セグメントダイス200の第2加工歯221aのねじれ角は、丸ダイス10の第1加工歯11a(図2(a)参照)のねじれ角と同じ値(βc)に設定されている。一方、セグメントダイス200の第2加工歯221aの歯直角ピッチは、丸ダイス10の第1加工歯11aの歯直角ピッチPncより大きな値(Pns)に設定されている(但し、Pts=Pns/cos(βc))。これにより、本実施の形態においても、簡単な加工で確実にセグメントダイス200の第2加工歯221aの正面ピッチPtsを、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcより大きくすることができる。このような簡単な加工を施すだけなので、転造ダイスの加工時間や製造コストは従来と同じくして、ローレット目の美観を向上できる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に基づいて限定されるものではない。
【0033】
実施例における丸ダイス及びセグメントダイスの各寸法は以下のとおりである。丸ダイスの中心から丸ダイスの第1加工歯の頂部までの距離Rc:84.425mm、丸ダイスの中心からセグメントダイスの第2転造歯形面(ローレット目を仕上げる仕上げ部)の頂部までの距離Rs:100.3mm、セグメント角θ:2/3π(120°)、丸ダイスの第1加工歯の歯直角ピッチPnc:0.9549mm、丸ダイスの第1加工歯のねじれ角βc:20°。また、実施例におけるブランクの外径は15.85mmである。この条件において、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチ(Pts)を以下のようにして設定した。
【0034】
まず、以上の各寸法より、丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチPtc=Pnc/cos(βc)=1.0162mm、セグメント角θに対する丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さLc=Rc・θ=176.82mmと算出される。よって、数値a=Lc/Ptc=174.0012となる。また、セグメントダイスの第2転造歯形面の長さLs=Rs・θ=210.06mm、数値b=Ls/数値a=1.2072と算出される。
【0035】
ここで、ブランクの外周長Lは15.85・π(mm)なので、数値d=L/数値b=41.23となる。数値dの小数点以下を切り上げた42を整数eとする。よって、セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチPtsは、ブランクの外周長Lを整数eで除して、Pts=L/整数e=1.1856mmとなる。
【0036】
これにより、セグメントダイスの第2加工歯のねじれ角が20°(丸ダイスの第1加工歯のねじれ角と同一の値)の場合、セグメントダイスの第2加工歯の歯直角ピッチPnsは、Pts・cos20°=1.1141mmとなる。また、セグメントダイスの第2加工歯の歯直角ピッチが0.9549mm(丸ダイスの第1加工歯の歯直角ピッチと同一の値)の場合、セグメントダイスの第2加工歯のねじれ角βsは、cos(βs)=0.9549/1.1856を解いて、βs=36°21´となる。
【0037】
以上の結果に基づき、第2加工歯のねじれ角が20°、歯直角ピッチが1.1141mmのセグメントダイスを作成した。このセグメントダイスを、上記の丸ダイス(第1加工歯のねじれ角20°、歯直角ピッチ0.9549mm)の外側に保持した。なお、丸ダイスの中心からセグメントダイスの第2転造歯形面(ローレット目を仕上げる仕上げ部)の頂部までの距離Rsは100.3mmとした。
【0038】
丸ダイスを回転させ、丸ダイスとセグメントダイスとの隙間に円筒状のブランク(外径15.85mm)を送り込んだところ、傷のない(重なりがみられない)美麗なアヤ目のローレット目を形成することができた。
【0039】
なお、第2加工歯のねじれ角が36°21´、歯直角ピッチが0.9549mmのセグメントダイスを作成し、同様にローレット目を形成したところ、この場合も傷のない(重なりがみられない)美麗なアヤ目のローレット目を形成することができた。
【0040】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0041】
上記各実施の形態では、ブランクBの外周長を数値bで除した数値dの小数点以下を切り上げ若しくは切り捨てて近似した数値dの近似値からなる整数eを求めた後、その整数eでブランクBの外周長を除した数値fを求め、この数値fをセグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチPtsに設定する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。数値b若しくは数値bの近似値cを、セグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチPtsに設定することも可能である。この場合も、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧の長さと、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さとの違いを考慮して、セグメントダイス20の第2加工歯21aの正面ピッチPtsを、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcより大きくすることができ、傷のない(重なりがみられない)美麗なアヤ目のローレット目を形成できる。
【0042】
なお、数値bの近似値cは、数値b±30%の範囲、好ましくは数値b±20%の範囲内で適宜設定することが可能である。ここで、±20%の範囲を超えるにつれ、アヤ目の歪みが大きくなる傾向がみられ、±30%を超えるとこの傾向が著しくなる。
【0043】
上記各実施の形態では、セグメントダイス20,200の第2加工歯21a,221aのねじれ角または歯直角ピッチのいずれかを大きくする場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。設定された第2加工歯21a,221aの正面ピッチPtsに応じて、ねじれ角および歯直角ピッチを共に大きくすることも可能である。この場合も、傷のない(重なりがみられない)美麗なアヤ目のローレット目を形成できる。
【0044】
上記実施例では、数値d(41.23)の小数点以下を切り上げた「42」を整数eとする場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。数値dの小数点以下を切り捨てた「41」を整数eとすることも可能である。この場合も、セグメントダイス20,200の第2加工歯21a,221aの正面ピッチPtsをブランクBの外周長の整数分の1に分割できる。その結果、丸ダイス10及びセグメントダイス20,200の隙間に送り込まれたブランクBの外周面に、第2山形を等間隔に形成でき、ローレット目の美観を向上できる。
【0045】
上記各実施の形態および実施例では、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcを基準にして、セグメントダイス20,200の第2加工歯21a,221aの正面ピッチPtsを大きな値に設定する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。セグメントダイス20,200の第2加工歯21a,221aの正面ピッチPtsを基準にして、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcを小さな値に設定することも可能である。この場合も、セグメント角θに対する丸ダイス10の第1転造歯形面11の円弧の長さと、セグメントダイス20の第2転造歯形面21の長さとの違いを考慮して、セグメントダイス20,200の第2加工歯21a,221aの正面ピッチPtsを、丸ダイス10の第1加工歯11aの正面ピッチPtcより大きくすることができ、傷のない(重なりがみられない)美麗なアヤ目のローレット目を形成できる。
【符号の説明】
【0046】
1 転造ダイス
10 丸ダイス
11 第1転造歯形面
11a 第1加工歯
20,200 セグメントダイス
21,221 第2転造歯形面
21a,221a 第2加工歯
B ブランク
Ptc 丸ダイスの正面ピッチ
Pts セグメントダイスの正面ピッチ
Pnc 丸ダイスの歯直角ピッチ
Pns セグメントダイスの歯直角ピッチ
βc 丸ダイスのねじれ角
βs セグメントダイスのねじれ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工部材であるブランクに第1山形を転造する第1加工歯が形成された第1転造歯形面を外周面に有する略円筒状の丸ダイスと、その丸ダイスの外側に所定の間隔を保持した状態で配設され前記第1山形と交差する第2山形を前記ブランクに転造する第2加工歯が形成された第2転動歯形面を内周面に有する円弧状のセグメントダイスとを備えると共に、回転させた前記丸ダイスと固定された前記セグメントダイスとの隙間に前記ブランクを送り込み、前記丸ダイス及び前記セグメントダイスの第1転造歯形面および第2転造歯形面によって前記ブランクの外周面を塑性変形させてアヤ目のローレット目を形成する転造ダイスにおいて、
前記セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、セグメント角に対する前記丸ダイスの第1転造歯形面の円弧の長さを前記丸ダイスの第1加工歯の正面ピッチで除した数値aで、前記セグメントダイスの第2転造歯形面の長さを除した数値b若しくはその数値bの近似値cに設定されていることを特徴とする転造ダイス。
【請求項2】
前記セグメントダイスの第2加工歯の正面ピッチは、前記数値bで前記ブランクの外周長を除した数値の小数点以下の切り上げ若しくは切り捨てによる整数を求め、その整数で前記ブランクの外周長を除した数値に設定されていることを特徴とする請求項1記載の転造ダイス。
【請求項3】
前記セグメントダイスの第2加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角の少なくとも一方が、前記丸ダイスの第1加工歯の歯直角ピッチ又はねじれ角より大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の転造ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−20167(P2011−20167A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169628(P2009−169628)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)