説明

転造用平ダイス

【課題】ダイスの全長や被加工部材の加工時間を変えることなく、被加工部材の溝深さを均一にする転造用平ダイスを提供する。
【解決手段】食付き部11と、調整部12と、仕上げ部13と、逃げ部14を備え、仕上げ部13は、第1の平行仕上げ部13aと、仕上げ逃がし部13bと、第2の平行仕上げ部13cとからなる構成とする。さらに、仕上げ逃がし部13bを第1の平行仕上げ部13aと第2の平行仕上げ部13cとの間に配置する。また、仕上げ逃がし部13bにおけるダイス歯の歯先線17、ピッチ線16および歯底線15の勾配を食付き部11および調整部12におけるダイス歯の歯先線17の勾配と逆方向として、その歯先線17、ピッチ線16および歯底線15を各々平行とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジや歯車などを転造加工するための転造用平ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ネジや歯車など部品(被加工部材)を転造加工する転造用平ダイスは、それらを通常2本1対として転造盤に左右もしくは上下に配置して、2本の転造用平ダイス間に被加工部材をはさんだ後、2本の転造用平ダイスを各々左右方向もしくは上下方向に移動することでねじや歯車などの部品を転造加工している。
【0003】
従来の転造用平ダイスは、例えば、図5に示すような転造用平ダイスが代表的である。図5において、一般的な転造用平ダイス20は、転造用平ダイス20の側面図から見て右側から被加工部材の外周面に徐々に食付いていく食付き部21、被加工部材の外周面を食付いた後に被加工部材の外周面を徐々に塑性変形するための調整部22、被加工部材を最終的に仕上げる仕上げ部23、仕上られた被加工部材を転造用平ダイス間から分離、排出する逃げ部24から構成されている。食付き部21、調整部22および逃げ部24には勾配が設けられており、仕上げ部23は転造用平ダイス20の加工時の移動方向に対して平行である。
【0004】
しかし、被加工部材の硬さや形状にバラツキがある場合には、被加工部材の各歯の仕上がりにもバラツキが生じて、結果として被加工部材の外周面が楕円形状となる不均一な加工となっていた。そこで、被加工部材が歯車の場合には、各歯の寸法や歯溝のピッチ等の歯車として要求される各諸元を満たすために、被加工部材の加工精度の向上を図ることの出来る転造用平ダイスが求められてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、転造用平ダイスの中央部に仕上げ部があり、その仕上げ部の両側に中央部から外側に向けて調整部、食付き部および逃げ部を各々設けており、仕上げ部、調整部、食付き部および逃げ部の各ダイス歯の高さが、転造用平ダイスの長手方向においてほぼ一定形状である転造用平ダイスを用いて、転造盤にて往復運動することで被加工部材の各歯の精度向上を図る旨が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、転造用平ダイスの仕上げ部から逃げ部にかけて、ダイス歯の歯先線に曲線状の勾配を持たせることで、転造用平ダイスのダイス歯と被加工部材の各歯との間のかみあい率を徐々に小さくしていき、被加工部材の加工精度を悪化したり、被加工部材の歯面にキズが発生することのない転造用平ダイスが開示されている(第1図および第2図参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3746855号公報
【特許文献2】実公平3−27704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された転造用平ダイスは、仕上げ部を中心として食付き部、調整部および逃げ部が対称に形成されているので、転造用平ダイスの全長が一定の場合には、食付き部から仕上げ部に至るまでの転造用平ダイスの勾配が必然的に大きくなり、被加工部材や転造用平ダイスに対する負荷も大きくなるために被加工部材の割れや転造用平ダイスの寿命が短くなるという問題があった。また、食付き部から仕上げ部に至るまでの転造用平ダイスの勾配を緩やかにすれば、転造用平ダイスの全長が長くなり、取り付けのできる転造盤が制限されるという問題があった。さらに、このような転造用平ダイスを往復運動することで被加工部材を転造加工することは、従来の転造用平ダイスに比べて加工時間が長くなるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献2に開示された転造用平ダイスでは、仕上げ部から逃げ部にかけて、その歯先線に曲線状の勾配を持たせる構成としているため、転造用平ダイスの曲線状の勾配が被加工部材に転写されるので、被加工部材の転造加工部分が均一な溝深さになりにくいという問題があった。また、転造用平ダイスの曲線状の勾配の寸法管理や寸法精度保障が難しいという問題もあった。
【0010】
そこで、本発明においては前述した問題点に鑑みて、ダイスの全長や被加工部材の加工時間を変えることなく、被加工部材の転造加工部分(外周の各歯)が均一な溝深さとなる転造用平ダイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するために、請求項1に記載の発明においては、食付き部と、調整部と、仕上げ部と、逃げ部と、を備える転造用平ダイスであって、仕上げ部は、第1の平行仕上げ部と、仕上げ逃がし部と、第2の平行仕上げ部と、から構成している転造用平ダイスとした。また、仕上げ逃がし部を第1平行仕上げ部と第2の平行仕上げ部との間に配置した。そのため、本発明に係る転造用平ダイスは、仕上げ部における転造加工時の被加工部材に対する転造推力が、従来の転造用平ダイスを用いた場合に比べて低減する。以下、本発明に係る転造用平ダイスの仕上げ部における第1の平行仕上げ部、仕上げ逃がし部および第2の平行仕上げ部について説明する。ここで、転造推力とは、転造用平ダイスが被加工部材を転造加工する時、転造用平ダイスと被加工部材との接触位置において転造用平ダイスの移動方向に発生する力をいう。
【0012】
第1の平行仕上げ部は、転造加工時における転造用平ダイスの移動方向に対して平行なダイス歯を有し、本発明に係る転造用平ダイスの食付き部および調整部による転造加工で不均一になった被加工部材の外周の各歯の溝深さを均一に仕上げる箇所である。また、第1の平行仕上げ部のダイス歯の歯先線、歯底線およびピッチ線のすべてが、転造加工時の転造用平ダイスの移動方向に対して平行である。
【0013】
仕上げ逃がし部は、第1の平行仕上げ部にて仕上げ加工した被加工部材の外周面を更に仕上げ加工する箇所である。仕上げ逃がし部はダイス歯を有しており、そのダイス歯の歯先線、歯底線およびピッチ線の勾配は、食付き部および調整部の歯先線の勾配とは逆方向である。また、仕上げ逃がし部のダイス歯の歯先線、ピッチ線および歯底線は各々平行である。
【0014】
第2の平行仕上げ部は、仕上げ逃がし部で加工した被加工部材の外周の溝深さを再度均一に仕上る箇所である。また、第2の平行仕上げ部は、第1の平行仕上げ部と同様に、転造用平ダイスの移動方向に対して平行なダイス歯を有している。また、その歯先線、歯底線およびピッチ線のすべてが転造加工時の転造用平ダイスの移動方向に対して平行である。以下、本発明の転造用平ダイスの仕上げ部において、第2の平行仕上げ部を設けた理由について詳細に説明する。
【0015】
従来の転造用平ダイスは、図5の転造用平ダイス20にも示すとおり、転造加工時の転造用平ダイス20の移動方向に対して平行な仕上げ部23において、仕上げ加工時の被加工部材に対する転造推力が減少し続けるため、被加工部材の外周の各歯にかかる転造推力は均一とはならず、結果として被加工部材の溝深さは均一ではなかった。また、仕上げ部23から逃げ部24への移行時においても被加工部材に対する転造推力が急激に減少するため、最終的な被加工部材の溝深さを悪化させる原因ともなっていた。
【0016】
ここで、転造用平ダイスの仕上げ部から逃げ部に至る被加工部材にかかる転造推力の変化について図4を用いて説明する。図4は、従来の転造用平ダイス20および本発明に対する転造用平ダイス10をそれぞれ用いた場合の仕上げ部から逃げ部における被加工部材にかかる転造推力の変化を示す図である。図4に示すように、従来の転造用平ダイスを用いた場合は、被加工部材の転造加工が進むにつれて、その転造推力は仕上げ部から逃げ部にかけて、ほぼ同一の減少幅を保ちつつ緩やかに減少している。そして、転造推力は急激に無負荷の状態となった後に転造加工は完了する。
【0017】
これに対して、本発明に係る転造用平ダイス10を用いた場合、被加工部材が第1の平行仕上げ部13aにある間は、その転造推力の変化は従来の転造用平ダイスと同様に緩やかに減少していく。しかし、被加工部材が第1の平行仕上げ部13aから仕上げ逃がし部13bへ移ると従来の転造用平ダイスの場合よりも転造推力が大きく減少する。これは、仕上げ逃がし部13bのダイス歯18が意図的に被加工部材の外周面から逃がす(離す)設計になっているためである。そして、被加工部材が仕上げ逃がし部13bから第2の平行仕上げ部13cへ移ると、その間は転造推力がほぼ一定の状態を保ちながら転造加工が行われていく。その結果、被加工部材の外周を加工する転造推力は均一となる。被加工部材が第2の平行仕上げ部13cでの転造加工が完了した時点では、従来の転造用平ダイス20に比べて転造推力は小さいので、仕上げ部13から逃げ部14へ移る転造加工工程において転造推力が急激に無負荷となることによる被加工部材の溝深さに及ぼす影響も小さくなる。
【0018】
以上より、本発明に係る転造用平ダイスの仕上げ部においては、通常の平行仕上げ部(第1の平行仕上げ部)の後に仕上げ逃がし部を設けることで、転造用平ダイスのダイス歯を意図的に被加工部材の外周面から逃がして(離して)転造推力を大きく減少させる役割を果たす。また、仕上げ逃がし部の後に別個の平行仕上げ部(第2の平行仕上げ部)を設けることで、大きく減少した転造推力をほぼ一定の状態にしながら被加工部材の転造加工を再度行う役割を果たす。なお、本発明に係る転造用平ダイスの仕上げ部は、従来の転造用平ダイスの仕上げ部の長さを保ちながら、第1および第2の平行仕上げ部と仕上げ逃がし部とから構成する仕様に変更したものである。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明に係る転造用平ダイスは、食付き部と、調整部と、仕上げ部と、逃げ部と、を備える転造用平ダイスであって、仕上げ部を、第1の平行仕上げ部と、仕上げ逃がし部と、第2の平行仕上げ部と、から構成する転造用平ダイスとしたので、仕上げ部における転造加工時の被加工部材に対する転造推力が、従来の転造用平ダイスを用いた場合に比べて大きく減少する。よって、従来の転造用平ダイスの長さや被加工部材の加工時間を変えることなく、被加工部材の転造加工部分が均一な溝深さとなるという効果を奏するものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る転造用平ダイスの側面図である。
【図2】図1の転造用平ダイス10の仕上げ部13および逃げ部14における拡大側面図である。
【図3】図1に示す本発明に係る転造用平ダイス10を用いた場合の、(a)は転造加工開始前、(b)は調整部での転造加工時、(c)は仕上げ部での転造加工時、(d)は逃げ部での転造加工時での転造用平ダイスと被加工部材との位置関係を示す転造加工工程の模式説明図である。
【図4】従来の転造用平ダイスおよび本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いた場合の仕上げ部から逃げ部における被加工部材に対する転造推力の変化を示す図である。
【図5】従来の転造用平ダイスの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る転造用平ダイスの実施の形態の一例を図面に基いて説明する。図1は、本発明に係る転造用平ダイスの側面図、図2は図1に示す転造用平ダイス10の仕上げ部13および逃げ部14における拡大側面図である。図1に示すように、転造用平ダイス10は、転造加工時の移動方向側より食付き部11、調整部12、仕上げ部13および逃げ部14とを備えている。
【0022】
食付き部11は、転造用平ダイス10を被加工部材の外周面に食付かせる部位であり、そのためのダイス歯18が設けられており、後述する仕上げ部13に向かって徐々に高くなる勾配を有している。食付き部11のダイス歯18は、その歯底線15とピッチ線16がダイスの移動方向と平行となり、歯先線17が食付き部11と同一方向の勾配を有するように形成されている。また、食付き部11のダイス歯18の表面にはサンドブラストなどで予めその表面の面粗さを粗くしておくことで、ダイス歯18と被加工部材との間に生じる滑りを防止できる。
【0023】
調整部12は、食付き部11と同一方向の勾配を有し、食付き部11にて加工した被加工部材の外周面をさらに塑性加工するダイス歯18を有する部位である。調整部12のダイス歯18は、その歯底線15とピッチ線16が食付き部11と同様にダイスの移動方向と平行となり、歯先線17が調整部12と同一方向の勾配を有するように形成されている。また、調整部12のダイス歯18は、食付き部11のダイス歯18よりも面粗さを細かく設定することで被加工部材の外周歯の面粗さを細かくできる。
【0024】
仕上げ部13は、図2に示すように転造加工時における転造用平ダイス10の移動方向に対して平行な第1の平行仕上げ部13a、第2の平行仕上げ部13cおよび仕上げ逃がし部13bとから構成されている。また、仕上げ逃がし部13bは、第1の平行仕上げ部13aと第2の平行仕上げ部13cとの間に設置されている。
【0025】
第1の平行仕上げ部13aは、本発明に係る転造用平ダイス10の食付き部11および調整部12による転造加工で不均一になった被加工部材の外周の各歯の溝深さを均一に仕上げる部位である。また、第1の平行仕上げ部13aのダイス歯18は、その歯先線17、歯底線15およびピッチ線16のすべてが転造加工時の転造用平ダイス10の移動方向と平行となるように形成されている。
【0026】
仕上げ逃がし部13bは、第1の平行仕上げ部13aにて仕上げ加工した被加工部材の外周面を更に仕上げ加工する部位である。また、仕上げ逃がし部13bのダイス歯18は、その歯先線17、歯底線15およびピッチ線16のすべてが、食付き部11および調整部12における歯先線17の勾配とは逆方向であり、かつ、その歯先線17、ピッチ線16および歯底線15が各々平行である。これによって、被加工部材への転造加工が進むに従って被加工部材の外周面にかかる転造推力を大きく減少し、被加工部材の寸法変化に及ぼす影響も軽減する。
【0027】
第2の平行仕上げ部13cは、仕上げ逃がし部13bにて加工した被加工部材の外周の各歯の溝深さを再度均一に仕上る部位である。また、第2の平行仕上げ部13cのダイス歯18は、第1の平行仕上げ部13aと同様に歯先線17、歯底線15およびピッチ線16のすべてが転造加工時の転造用平ダイス20の移動方向と平行となるように形成されている。
【0028】
また、仕上げ逃がし部13bは、第1の平行仕上げ部13aと第2の平行仕上げ部13cとの間に設置する。すなわち、本発明に係る転造用平ダイス10の仕上げ部13において、被加工部材が、第1の平行仕上げ部13a、仕上げ逃がし部13b、第2の平行仕上げ部13cの加工順序で転造加工される構成とした。かかる構成により、転造用平ダイスの第2の仕上げ部における被加工部材に対する転造推力の変化がほぼ一定となるので、被加工部材の外周の各歯の溝深さを均一にする。
【0029】
最後に、逃げ部14は、食付き部11および調整部12とは逆方向の勾配を有し、転造加工が完了した被加工部材を本発明に係る転造用平ダイス10からスムーズに分離する部位である。逃げ部14における歯先線17、歯底線15およびピッチ線16が各々平行で転造加工時の移動方向に対して傾斜するように形成されている。
【0030】
次に、本発明に係る転造用平ダイスを用いた場合の転造加工工程について図3を参照して説明する。図3は、図1に示す転造用平ダイス10を用いた場合の転造加工工程の模式説明図であり、同図(a)は転造加工開始前、同図(b)は調整部での転造加工時、同図(c)は仕上げ部での転造加工時、同図(d)は逃げ部での転造加工時での転造用平ダイスと被加工部材との位置関係を示す。
【0031】
図3(a)に示すように本発明に係る一対の転造用平ダイス10、10を図示しない転造盤に互いのダイス歯が向かい合うように水平方向となるよう取り付けられ、被加工部材100も転造盤に固定されている。その後、転造用平ダイス10、10は、相対的に反対方向となるように一定速度で水平方向に移動することで被加工部材100に対して転造加工を行う。その際、被加工部材100の回転と転造用平ダイス10、10の移動とは図示しない伝達機構によって同期するようになっている。以下、被加工部材100の転造加工工程を順に説明する。
【0032】
一対の転造用平ダイス10、10の相対移動によって挟み込まれた被加工部材100は、転造用平ダイス10、10の食付き部11、11の各ダイス歯によって食付かれる。その後、転造加工工程が食付き部11、11から調整部12、12に進むにつれて、図3(b)に示すように被加工部材100の外周面は塑性変形されて、転造加工される外周面の溝深さは徐々に深くなっていく。
【0033】
さらに、被加工部材100が第1の平行仕上げ部13aに至ると、被加工部材100の外周面の溝深さを均一に仕上げながら被加工部材100の転造加工が進んでいく。その後、被加工部材100が仕上げ逃がし部13bに至ると、図3(c)に示すように被加工部材100と転造用平ダイス10、10との相対的距離が徐々に離れるように転造加工が進んでいく。このとき、被加工部材100に対する転造推力を大きく減少しながら、被加工部材100の外周面の溝深さを均一に整えていく。被加工部材100が第2の平行仕上げ部13cに至ると、被加工部材100に対する転造推力を一定の状態を保ちながら、被加工部材100の外周面の溝深さを再度均一に加工して行く。最後に、被加工部材100は、図3(d)に示すように転造用平ダイス10、10の逃げ部14、14から完全に離れていくことで転造加工は完了する。
【実施例1】
【0034】
前述した転造加工工程にもとづいて、従来の転造用平ダイスと本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いて転造加工を行った被加工部材の溝深さに関する加工精度結果について表1を用いて説明する。表1は、従来の転造用平ダイスと本発明に係る転造用平ダイスをそれぞれ用いて転造加工を行った被加工部材のオーバーボール径寸法(OBD)の測定結果(測定箇所数:11箇所)を示す。なお、本実施例で用いた従来の転造用平ダイスおよび本発明に係る転造用平ダイスの各部の寸法は、全長610mm、幅25mm、全歯数154山とした。また、本発明に係る転造用平ダイスの第1の平行仕上げ部、仕上げ逃がし部および第2の平行仕上げ部の歯数は、各々11山とした。さらに、被加工部材(歯車)の完成諸元は、モジュール1.058mm、圧力角30°、歯数22枚、外径24.3mm、歯底径21.6mm、ねじれ角0°、歯幅20mm、ピッチ円上円弧歯厚1.6mmである。また、被加工部材の材質は炭素鋼S45Cであり、硬度はブリネル硬さでHB200とした。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、従来の転造用平ダイスを用いて転造加工を行った被加工部材(歯車)の測定結果については、そのバラツキは15μm〜20μmの範囲であった。ここで、バラツキとは被加工部材(歯車)の外周のオーバーボール測定を測定したときの、最大値から最小値を減じた値をいう。
【0037】
これに対して、本発明に係る転造用平ダイスを用いて転造加工を行った被加工部材(歯車)の測定結果については、そのバラツキが5μm〜8μmの範囲であり、従来の転造用平ダイスを用いた場合に比べて、大幅に改善された。
【0038】
以上より、転造用平ダイスの仕上げ部が、第1および第2の平行仕上げ部と、仕上げ逃がし部と、からなる転造用平ダイスを用いて転造加工することで、従来の転造用平ダイスの長さや被加工部材の加工時間を変えることなく、被加工部材の溝深さを均一にできる転造用平ダイスとなった。
【0039】
なお、実施例で用いた転造用平ダイス10の第1の平行仕上げ部13aおよび第2の平行仕上げ部13cのダイス歯の歯数は、調整部のダイス歯による荒加工の影響等を無くし、被加工部材の溝深さを均一にする観点から被加工部材の外周面の歯数の0.5倍以上とすることができる。同様に、仕上げ逃がし部13bのダイス歯の歯数も、転造推力の急激な変化に起因した被加工部材の外周面におけるキズの発生や寸法変化を未然に防止する観点から0.25倍以上とすることができる。さらに、図2に示す第1の平行仕上げ部13aと第2の平行仕上げ部13cとの高低差dは、被加工部材の寸法バラツキを矯正して寸法精度を高める観点から、食付き部または調整部にて被加工部材が半回転する間にダイス歯が被加工部材の外周面に対して行う溝深さの加工量の0.1倍以上0.3倍以下とすることができる。
【符号の説明】
【0040】
10 転造用平ダイス
11 食付き部
12 調整部
13 仕上げ部
13a 第1の平行仕上げ部
13b 仕上げ逃がし部
13c 第2の平行仕上げ部
14 逃げ部
15 歯底線
16 ピッチ線
17 歯先線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
食付き部と、調整部と、仕上げ部と、逃げ部と、を備える転造用平ダイスであって、前記仕上げ部は、第1の平行仕上げ部と、仕上げ逃がし部と、第2の平行仕上げ部と、から成り、前記仕上げ逃がし部が前記第1平行仕上げ部と第2の平行仕上げ部との間に配置されており、
前記第1および第2の平行仕上げ部は、前記転造用平ダイスの移動方向に対して平行なダイス歯を有しており、前記ダイス歯の歯先線、歯底線およびピッチ線のすべてが、前記転造用平ダイスの移動方向に対して平行であり、
前記仕上げ逃がし部は、ダイス歯を有しており、前記ダイス歯の歯先線、歯底線およびピッチ線の勾配が、前記食付き部および前記調整部におけるダイス歯の歯先線の勾配とは逆方向であって、かつ前記仕上げ逃がし部のダイス歯の歯先線、ピッチ線および歯底線が各々平行であることを特徴とする転造用平ダイス。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−152560(P2011−152560A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15485(P2010−15485)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)