説明

軽工品用補強シートおよびそれを使用した鞄

【課題】 必要な硬さ、コシを有し、かつ軽量性、平滑性をも高いレベルでバランスさせた軽工品用の補強シートを提供すること。
【解決手段】 繊維径が等しい合成繊維(A)および着色繊維(B)を混合して色調を調整しつつ、単一繊維成分からなり、前記(A)(B)より繊維径が細い低融点繊維(C)を必要な比率で混在させた不織布を加熱および加圧して融着させてなる軽工品用補強シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽工品用補強シートおよびそのシートを使用した鞄に関し、さらに詳しくは、軽工品の形態を補強するための補強シートとして求められる硬さと屈曲時の耐久性をバランスよく有しており、かつ軽量性、平滑性をも高いレベルでバランスさせたものであり、特に鞄本体の仕切り材に好適な補強シートおよび特に好適な用途としてこの補強シートを使用した鞄に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の軽工品用補強シートが使用される用途としては、鞄、財布や手帳などの日常的に携帯することの多い各種雑貨や、襟、ベルトなどの衣類、装飾品を入れる箱などを挙げることができるが、取り分け補強のための硬さ、それとは基本的に相反する軽さとが同時に高いレベルで求められる用途としては鞄類に代表される雑貨が挙げられる。鞄類の中でも、特に子供が通学時に使用するための学童用鞄、すなわち手提げ鞄、肩掛け鞄、背負い鞄などは、時には重い教科書やノートなどを収納するために十分な補強が必要であり、かつ体力的に未発達の子供が長時間身に付けて運ぶものなので少しでも軽量なものが好まれる。また、鞄類は身に付けることが多いので、見た目の良さも鞄を選ぶ際の大きなポイントであり、外見からは見えなくても鞄を開けたときに露出する部材であれば、例え補強シートであっても外観、すなわち色や平滑性が重要視される性能の一つである。
【0003】
軽工品用補強シートとしては、従来、天然皮革シート、天然繊維不織布シート、合成繊維不織布シート、合成樹脂シート、合成樹脂フォームなど種々のシート状物が提案されてきたが、天然皮革シートは工業製品としては品質の均一性・安定性に欠ける上、補強シートとしての硬さを求めると重量が嵩み、また合成樹脂シートや合成樹脂フォームなどは繰り返しの屈曲に対するワレが問題なので、現在好んで使用されるのは天然繊維や合成繊維からなる不織布シートを基本構造とするシート状物である。不織布シートの代表例である厚紙は、安くて容易に入手可能であり加工も容易な点で好まれているが、水や湿気でふやけてしまう上、屈曲するとワレはしないがしなやかさや復元性に欠けるので戻らないシワが入ってコシがなくなると共に外観の品位にも欠け、一方で例えば不織布シートを構成する繊維として加熱により繊維間で融着させうるような低融点合成繊維のみを使用すると補強シートとしての必要な硬さが得られ難いか、もしくは硬さは十分だがワレ易くなってしまうといった欠点がある。
【0004】
そこで不織布シートを基本構造としこれに樹脂を含浸することで、前記の不織布シートからなるシート状物の欠点を十分に解消したシート状物が各社より提案されており、これらは長期間の使用や過酷な使用などが想定される鞄などに使用可能な補強シートとして現在最も好んで使用されているシート状物である。最も古くから知られている天然繊維不織布シートに樹脂を含浸するなどして固化させたシート状物(例えば、特許文献1のp3、8〜10行目を参照。)としては、パルプを抄造したシート状物に合成樹脂を付与した「ウェブロン(特種製紙株式会社登録商標)」などがあり、また耐久性や品質安定性などの向上を目的として天然繊維を合成繊維に置き換えて合成繊維不織布シートに樹脂を含浸したシート状物としては、ポリエステル系繊維不織布に発泡性樹脂を含浸した「タッチライト(富士高分子株式会社登録商標)」やポリオレフィン系繊維不織布に樹脂を含浸した「タフテル(株式会社クラレ登録商標)」などがある。
現在最も好んで使用されているこれらの補強シートは、不織布構造にバインダーとして合成樹脂を含浸させることで、用途に求められる硬さや屈曲時の回復性などを満足させたものではあるが、それでも気温が低くなる冬季や寒い地域で使用された際に繰り返しの屈曲によってワレが発生してしまうという問題があり、さらには含浸した合成樹脂から有害物質、例えばホルマリンなどが検出されるものもあった。
【0005】
軽工品用補強シートは、鞄などの製品において表地、あるいは裏地となる布、フィルム、皮革類などの素材で覆われた状態(例えば、特許文献1を参照。)で使用されるのが通常の使用状態だが、前記したように製品の軽量化やコストなどのために一部、あるいは全体を露出させた状態で使用されることがあり、特に鞄の仕切り材などは鞄本体の容量を低下させないためにも露出させた状態での使用が多い用途である。
このような用途に供される補強シートは、シート状物自体を着色するか、あるいはシート状物表面をフィルムで覆ったり、シート状物表面にプリントしたりして所望の外観にする必要がある。シート状物自体を着色する方法としては、シート状物そのものを後から染料や顔料などで着色する方法と繊維成分またはバインダー成分に予め着色剤を含有させておく方法があるが、色斑の問題や製造コストの問題から後者が好ましく使用されている。シート状物表面をフィルムで覆う方法としては、シート状物表面に接着剤を介して所望のフィルムを貼ることのできる従来公知の種々の方法が使用可能であり、またシート状物表面にプリントする方法としては、シート状物表面に染料や顔料等を含む着色剤をプリントすることのできる従来公知の種々の方法が使用可能である。しかしながら、前者のフィルムで覆う方法を採用する場合には、シート状物表面が不均一で平滑性が不足するとフィルムの平滑性が損なわれてしまうので極めて品位に欠ける外観になってしまい、また後者のプリントする方法を採用する場合にも、シート状物表面が不均一で平滑性が不足するとプリントされた状態が不均一で欠点が多く、やはり極めて品位に欠ける外観になってしまうので、これら何れの方法おいても、得られる補強シートの外観の品位を実質的に決定するのはシート状物表面の均一性、平滑性である。
【0006】
このような問題を解決しうる方法として、折れシワや軽量性の問題から不織布を基本構造とし、補強シートとして求められる硬さを付与しつつワレの問題が起きないようにするために低融点繊維のみの使用とせず、かつ後から樹脂を含浸することもせずに、不織布構造を構成する繊維の一部として、一般的には均一に混合可能なようにほぼ同程度の繊度で、低融点成分からなる低融点繊維を混合して加熱プレスすることにより繊維間でバインダー効果を発揮させる技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。このような技術は、必要な硬さ、コシ、耐屈曲性などの物性と、均一性、平滑性を付与するための基本的な技術として広く活用されているが、繊維自身の硬さや、溶融による変形などの点で低融点繊維は不織布構造としての硬さやコシへは実質的に寄与しにくい成分なので、硬さやコシを得ようとすると低融点繊維の混合比率は低くせざるを得ないが、加熱プレス後の平滑性が当然ながら極めて低くなってしまう。平滑性を得ようとして単に低融点繊維の比率を上げても硬さやコシの低下の程度に比べてそれほど平滑性が向上するわけではないので、低融点繊維の混合比率を上げつつ強く加圧するか、あるいは低融点繊維の混合比率をそれほど上げない代わりに全体を収縮させた上で強く加圧するなどしないことには平滑性を向上させることはできないが、そうすると何れにしても見かけ密度が必要以上に高くなってしまうという弊害が生じてしまう。従って、従来開示されているような技術のみでは、平滑性を求めると、鞄などの軽工品の部材に通常求められる軽量性に劣ってしまうという欠点があった。
【0007】
同様に低融点繊維を使用する技術の応用として、バインダー効果を発揮させる繊維に低融点樹脂のみからなる繊維を使用せず、芯鞘構造繊維の鞘成分、あるいはサイドバイサイド構造繊維の1成分を低融点樹脂で構成した低融点複合繊維を使用する技術について種々提案されている。これらの技術による不織布構造として、本発明が目的とするような軽工品用補強シートのみならず、クッション類や加熱成型用素材、紙おむつ等のカバーシートなど、低融点複合繊維が不織布構造に付与しうる嵩高さ、コシ、回復性、易加工性などの効果を利用する目的・用途について種々の提案がなされている(例えば、特許文献3〜5を参照。)。このような低融点複合繊維を単独で不織布構造としたり、あるいは不織布を構成する繊維の一部として混合使用したりする方法は、前記したような不織布構造の欠損を補うための高密度化は必要最小限とすることができる上、低融点複合繊維の使用比率を適宜選択することで軽工品用補強シートとして求められる硬さやコシと見かけ密度とをバランスさせうる方法としては有用な技術である。しかしながら、非低融点成分により構成された繊維成分部は相対的に細くならざるを得ないことから低融点複合繊維全体としては硬さ、コシが繊度の割には弱く、低融点複合繊維の使用比率を増やすと硬さやコシが必要以上に低下してしまうので、不織布構造のみで硬さやコシと見かけ密度とのバランスをとろうとすると、本発明が目的とするレベルの平滑性や均一性までを得るのは困難であり、平滑性を高めるためには不織布構造にバインダー樹脂を含浸する必要があることから結局は軽量性に劣るものしか得られなかった。
【0008】
また、このような従来の技術によって軽工品用補強シートに意匠性を付与する方法として、前記したように繊維成分やバインダー樹脂に予め着色剤を添加しておく方法(例えば、特許文献3のp3〜4、実施例1を参照。)が採用可能である。しかしながら、上記したような従来の技術において着色する場合として、構成成分全てを着色する方法、即ちマトリックス繊維とバインダー樹脂からなるシートであれば、繊維、バインダー樹脂共に着色する方法をとると、繊維とバインダー樹脂とで色合いや発色性が異なるので、補強シートの構造上の不均一さがそのまま色ムラとして表れてしまって外観の品位が低いものしか得られない。そうかといって、特定の構成成分のみ、即ちマトリックス繊維のみ、あるいはバインダー樹脂のみを着色する方法をとると、マトリックス繊維、あるいはバインダー樹脂への着色剤の添加量を調節することで所望の色合いのシートを得ることは可能だが、色合いの微調節をするためにはシートの原料である繊維、あるいは樹脂そのものの添加量を微調節せねばならないので、シートを製造しながらオンラインで色合いを微調節するのは困難であるという問題がある。
【0009】
また特定の構成成分のみを着色する方法として、例えば特許文献3の実施例1に開示されているようなカーボンを含む2.5デニール及び1.8デニールの2種類のマトリックス繊維、熱融着性樹脂からなる鞘成分の中にカーボンを含む芯成分を配した2デニールの熱融着性繊維の3種類を70:20:10の割合で混用してなる不織布に黒顔料を含むポリウレタン溶液をスプレーしてエンボスして補強シートを製造する場合において、仮に全成分に顔料成分を添加せずに各成分の内の何れか1種類のみとしたとしても、不織布の90%を占めるマトリックス繊維において繊維径が20%以上も異なっているので2種類のマトリックス繊維の混合状態は何れか片方のみを着色して色分けした場合にはとても均一とは言い難い状態にしかなり得ず、そもそもシート自体の力学的性質を調節するためにマトリックス繊維として2種類が混用されているのであって色合いを調節するために混用率を変更することはできない構成である。また、熱融着性繊維の芯成分のみに顔料を添加した場合には、繊維自身の色がくすんで鮮明な発色性は得られない上、バインダー効果を調節するために混用される繊維なので、やはり前記と同様に色合いを調節するために混用率を変更することはできない構成である。スプレーするポリウレタンのみに顔料を添加した場合については、後述するようにこのポリウレタンのようなバインダー樹脂を含浸、塗布等により付着させると軽工品用補強シートとしては不適格なほどの重量増を呈してしまうので、そもそも採用すること自体が問題のある構成成分であり、また仮に重量増を殆ど呈しないほどの少量のバインダー樹脂を採用するにしても、バインダー樹脂を不織布構造内に均一に付与することは技術的に困難なことなので、通常はバインダー樹脂のみに着色したものは評価に値しないレベルの色ムラを有する付与状態にしかならない構成である。
【0010】
【特許文献1】実用新案登録第3080180号公報
【特許文献2】特開平2―41227号公報
【特許文献3】特開平4―316651号公報
【特許文献4】特開平7―216756号公報
【特許文献5】特開平9―195151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に述べた従来の技術では、軽工品用補強シートの軽量性、コシおよび平滑性のバランスや色ムラの問題があった。
本発明は、鞄や手帳などの軽工品の形態を補強するための補強シートであって、かつ軽量性、平滑性を高いレベルでバランスさせることで、特に学童鞄などの鞄類の補強材や仕切り材として好適に使用可能な軽工品用補強シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、顕著な重量増に繋がるバインダー樹脂の含浸なしに、不織布構造の基本マトリックスを担う繊維とは別にこれより細い低融点繊維を約半分程度以上の比率で混用して加熱・加圧するにより繊維同士を融着させ、また基本マトリックスを担う繊維の一部として太さを殆ど変えずに着色繊維を併用することで所望の色合いに効率的に調整した軽工品用補強シートによって上記目的が達成されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、詳細には以下の軽工品用補強シートおよびそれを使用した鞄を提供するものである。
【0013】
1.合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)が混在しており、かつ下記条件(1)〜(4)を満足する不織布を加熱および加圧することで繊維同士を融着させてなる軽工品用補強シート。
(1)少なくとも低融点繊維(C)が単一繊維成分の繊維であること
(2)合成繊維(A)の繊維径αと着色繊維(B)の繊維径βが等しいこと
(3)低融点繊維(C)の繊維径γが合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径α,β未満で、かつ該α,βの平均値の1/10以上であること
(4)合成繊維(A)および着色繊維(B)の合計質量と低融点繊維(C)の質量の比率が、1:0.5〜1:4の範囲であること
2.合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)の何れもがポリエステル系繊維である前記1の軽工品用補強シート。
3.前記1または2の軽工品用補強シートの少なくとも片面に樹脂フィルムを接着してなる軽工品用被覆補強シート。
4.前記1〜3の軽工品用補強シートまたは軽工品用被覆補強シートを本体の補強材または仕切り材に使用した鞄。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軽工品用補強シートは、硬さやコシを犠牲にすることなく所望のレベルとしつつ優れた軽量性を実現し、かつ従来にない平滑性を兼ね備えていて外観の意匠性にも優れているので、この補強シートを使用した鞄類、携帯小物類などは、日常的な使用においても快適で高い満足感が得られる。特に好適な用途としては、数年間ほぼ毎日継続的に使用され、時には重い教科書を入れた状態で走ったり、上に重いものを置いたりするといった厳しい使用環境におかれるので硬さやコシは十分以上に必要でありながら、小学1年生から使用するので軽量性への要望が極めて高い学童鞄類であり、中でも取り分けランドセルが挙げられる。この補強シートを使用したランドセルは、従来のランドセルに比べて前記したように所望の補強効果はもちろんのこと、優れた軽量効果による快適性と、補強材でありながら目に触れても優れた意匠性による高い満足感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、軽工品用補強シートを構成する合成繊維(A)としては、従来公知の何れの合成繊維も使用可能であって、製造方法に関しても公知の方法を用いることができる。具体的には、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデンなどの合成繊維が挙げられ、その他にもビスコースレーヨン、アセテート、キュプラなどのいわゆる半合成繊維も使用可能である。これらは一種を単独でまたは複数種を組み合わせて使用することができる。
【0016】
本発明において、軽工品用補強シートを構成する着色繊維(B)とは、前記した合成繊維(A)と同様に従来公知の何れかの合成繊維であって、製造方法に関しても公知の方法を用いることができる。そして、紡糸原料に着色剤を含有させる方法、あるいは紡糸後に着色剤により着色する方法等公知の方法により着色した繊維のことをいう。より具体的な着色方法としては、前者であれば紡糸原料に直接、あるいはマスターバッチを経由して顔料を添加する方法が挙げられ、顔料としては無機顔料、有機顔料、カーボンブラック、シリカなどの従来顔料として使用できることが知られる種々のものが挙げられる。また、後者であれば、前記した顔料をバインダーを介して繊維表面に付着させるか、あるいは繊維に適した従来公知の染料を染着させる方法が挙げられ、何れの方法であっても合成繊維(A)などの他の繊維と混合する前であれば何れの方法でも容易に着色が可能である。また、合成繊維(A)と混合された状態で着色繊維(B)のみ着色したい場合には、例えば合成繊維(A)は染着しないが、着色繊維(B)とするための繊維は染着するような染料を用いて染色すればよい。
【0017】
本発明において、軽工品用補強シートを構成する低融点繊維(C)としては、従来公知の何れの合成繊維も使用可能であって、製造方法に関しても公知の方法を用いることができる。そして、補強シートに本発明で目的とする平滑性等の諸性能を付与するためには、少なくとも前記の合成繊維(A)および着色繊維(B)よりは低融点の繊維でなくてはならない。合成繊維(A)と着色繊維(B)でより融点が低い方の繊維と低融点繊維(C)における融点差としては、不織布を加熱処理する際に加熱媒体自体の温度のハンチングや温度分布、また加熱された不織布の厚さ方向や平面方向での温度分布(温度ムラ)などを考慮すると、10℃以上は必要であり、加熱媒体側の能力や加熱処理速度、不織布側の熱容量などの各要因のみならず、加工後の補強シートに求める品質(硬さや硬さの分布程度、平滑性など)のレベルが高い場合は、15℃以上の融点差とするのが好ましく、さらには20℃以上の融点差を有する組み合わせとするのが好ましい。融点差は上限が特に限定されるものではないが、実質的な合成繊維の組み合わせや、得られる補強用シートの物性、工程通過性の点で200℃以下が好ましい。
尚、本発明でいう融点とは、示差走査熱量測定(DSC)により得られる融解に起因する吸熱ピークについて、ピークの頂点位置の温度、または低温側から累積した面積がピーク全体の面積の60%になる温度のうちでより低い方の温度のことである。
【0018】
不織布内の低融点繊維(C)を溶融状態にするための加熱処理する方法としては、不織布を低融点繊維(C)が溶融状態となる温度に加熱する方法であれば従来公知の何れの方法でも採用可能であり、例えば熱風や熱水などの熱媒が不織布表面に当てられるか不織布内を貫通するようなチャンバー内で不織布を所定温度まで加熱する方法、高温の雰囲気や熱水、スチームなどの熱媒中に導入して不織布を所定温度まで加熱する方法、赤外線やマイクロウェーブなどの電磁波を利用して熱媒を使用せず非接触で不織布を所定温度まで加熱する方法、加熱した金属板や金属ロールなどに接触させて直接的に不織布を所定温度まで加熱する方法、あるいはこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。
【0019】
溶融状態の低融点繊維(C)を含む不織布を圧縮して低融点繊維(C)同士、あるいは低融点繊維(C)と他の繊維とを接触させることで、繊維同士の固定点を形成させ、また不織布表面を平滑化するための加圧処理する方法としては、前記の加熱処理と同時でも加熱処理の後でも、それらの組み合わせでもよいが、平滑な金属板同士で挟んで加圧する方法、平滑な金属板と平滑な表面の金属ロールやゴムロールなどで挟んで連続的に加圧する方法、平滑な表面の金属ロール同士や金属ロールとゴムロールとの間を通過させて連続的に加圧する方法などが挙げられるが、圧縮状態や表面平滑性を制御し易く、また連続処理が容易な方法である、金属ロール同士、あるいは金属ロールとゴムロールとの間を通過させる際に加圧する処理方法が好ましい。この方法は、前記した何れかの方法により予備的に加熱した不織布を加熱した金属ロールに接触させつつ同時に加圧して圧縮する方法や、同様に前記した何れかの方法により加熱した不織布を冷却した金属ロールやフッ素樹脂コートしたロールなどに接触させて加圧することで圧縮するのと同時に平滑面を形成させる方法など、生産効率面で非常に優れた加熱および加圧処理を可能にする。
【0020】
本発明の補強シートの構造としては、軽工品用補強シートに用いるための前提として最低限満足すべき厚さや軽量性の範囲において、求められる硬さやコシを満足しつつ、従来にない均一性、平滑性を付与することができる構造として、不織布構造が採用される。不織布構造を得る方法としては、ステープルをカードで解繊して得られるウェブ、あるいは抄造法により得られるウェブを基本構造として用いる方法、フィラメントがランダムに配置されてシート状となったウェブを基本構造として用いる方法、さらにはこれらの方法にニードルパンチ法やウォータージェット法などによる絡合を組み合わせた方法などの従来公知の方法が何れも採用可能だが、合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)との混合状態をより均一にし易い点で、ステープルを使用する方法、取り分け繊維長が150mm以下のステープルを用いる方法が好ましく、より好ましくは繊維長が30mm以上、100mm以下のステープルを用いる方法が好ましい。
【0021】
本発明では、低融点繊維(C)を含む不織布を加熱及び加圧することで、低融点繊維(C)同士はもちろんのこと、低融点繊維(C)と不織布構造内の他の繊維とを融着させる。従って、本発明の効果を得るための最も重要なポイントの1つが、この低融点繊維(C)の存在により発揮されるバインダー効果と平滑化効果のバランスである。
そのためには、合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)が下記(1)〜(4)を同時に満足する必要がある。
(1)少なくとも低融点繊維(C)が単一繊維成分の繊維であること
(2)合成繊維(A)の繊維径αと着色繊維(B)の繊維径βが等しいこと
(3)低融点繊維(C)の繊維径γが合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径α,β未満で、かつ該α,βの平均値の1/10以上であること
(4)合成繊維(A)および着色繊維(B)の合計質量と低融点繊維(C)の質量の比率が、1:0.5〜1:4の範囲であること
【0022】
各繊維の繊維径α、βおよびγとは、繊維断面の形状に応じて若干異なる方法により測定せねばならないが、基本的には繊維断面を円形状に換算した直径の平均値のことである。但し、繊維断面が極端に比率が偏った扁平形状の場合には、その短径またはこれに相当する長さの平均値ことである。繊維径を具体的に求める方法としては、各繊維を構成する樹脂の比重ρ、各繊維の平均繊度D(dtex)が測定または判明している場合には次式により計算する方法が採用可能であり、そうでない場合には各繊維の断面を電子顕微鏡で撮影することで実測される直径について平均値を算出する方法が採用可能である。尚、ここでいう平均値とは、無作為にサンプリングした20点の測定値から最大値、最小値をそれぞれ1点ずつ除いた18点について算術平均した値のことである。
繊維径(μm)=20×{D/(πρ)}1/2
【0023】
本発明においては、使用する低融点繊維(C)は単一の繊維成分からなる繊維でなくてはならない。本発明では、補強シートに求められる硬さ、コシを付与するために、複合繊維の一成分としてではなく低融点樹脂を単一の繊維成分として用いることで、不織布全体の重量を極力増やすことなく低融点樹脂からなる繊維をより多く入れることができ、これにより不織布構造を形成する合成繊維(A)および着色繊維(B)の固定点をより多くしているのである。低融点繊維(C)として、芯鞘型繊維の鞘成分、サイドバイサイド型繊維の一成分として低融点樹脂を用いた複合繊維を用いると、前記のように低融点樹脂からなる繊維を不織布構造内により多く入れようとすると、当然不織布重量に加算されることになる他方の非低融点成分は、低融点繊維(C)の一成分に過ぎないために相対的に細いことから不織布構造を補強し得るような強度は期待できず、単に重量増を招くだけの繊維成分となる傾向が強い。かといって、非低融点成分にかかる繊維径を太くすると、当然ながら低融点繊維(C)自体が太くなるので、不織布の単位重量、単位体積当たりで低融点成分が形成しうる前記の固定点が極端に減少してしまう。言い換えると、低融点繊維(C)として複合繊維を採用すると、低融点成分の重量、体積当たりの固定点が本発明の効果を得るレベルに達しないのである。従って、より効率的に固定点を増やす方法として、本発明では使用する低融点繊維(C)は単一の繊維成分からなる繊維でなくてはならないのである。
【0024】
本発明では、合成繊維(A)と着色繊維(B)はその実質的な混合状態はもちろんのこと、見た目の印象においてもより均一な状態にするために、繊維径が等しいことが重要である。ここで、繊維径が等しいとは平均繊維径の差が8%以下程度で実質的に繊維径が等しい状態を指し、好ましくは繊維径の差が5%以下、より好ましくは繊維径の差が合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径のバラツキと同程度の状態である。合成繊維(A)と着色繊維(B)の繊維径に大きな差がついている場合、製造工程中、特にカード等での解繊状態に不均一状態が生じやすくなり、当然のごとく合成繊維(A)が呈する色目の中に異なる色目の着色繊維(B)が品位の低い固まり状で混在した状態となる上、十分に解繊することで実質的には均一な混合状態を実現しても見た目の印象において必要以上に強いムラ感が感じられやすくなる。さらには、不織布構造自体の均一性、即ち見かけ密度の分布状態や表面平滑性においても、解繊が不十分な部分において不均一な状態が強調されやすいので、合成繊維(A)と着色繊維(B)の繊維径において大きな差をつけた場合本発明の効果は得られない。
【0025】
また、低融点繊維(C)が単一の繊維成分からなる繊維でなくてはならないのと同様の理由により、本発明の低融点繊維(C)は、その繊維径γが合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径α、βに対して相対的に小さい値をとる必要がある。低融点繊維(C)を細くすることで、低融点成分の重量、体積あたりの固定点をより多くすることができ、前記したように補強シートに求められる硬さ、コシをより効率的に付与することができるのである。さらには、低融点繊維(C)の繊維径γをより細くすることにより、加熱加圧する前においても不織布自体の均一性、平滑性をより高いレベルに設計可能であり、当然ながら加熱加圧後の補強シートにおける均一性、平滑性としてより高いレベルが得られるのである。具体的には、低融点繊維(C)の繊維径γは、合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径α,β未満であって、かつ該α,βの平均値の1/10以上とする必要がある。低融点繊維(C)の繊維径が合成繊維(A)や着色繊維(B)の繊維径と同等以上の太さだと、前記したように固定点を多くすることができず、一方で1/10未満だと固定点は当然ながら極めて多くできるものの、補強シートに求められる硬さ、コシを得るための不織布構造の一成分としては甚だ不十分な役割しか果たさなくなってしまう。繊維径γのより好ましい値は、固定点の多さと補強シートとしての硬さやコシとのバランスから、繊維径α、繊維径βでより値が小さい方の9/10以下、かつ繊維径α,βの平均値の1/5以上であり、さらに好ましくは繊維径α,βの平均値の1/3以上である。
【0026】
本発明では、不織布構造中に分布させる固定点の密度や基本マトリックスを担う繊維量などにより主に決定される補強シートとしての硬さやコシ、さらには加熱加圧した後の表面平滑性と、軽量性を損なわないための総繊維量とのバランスから、合成繊維(A)、着色繊維(B)の合計質量と低融点繊維(C)の質量の比率を、1:0.5〜1:4の範囲で適宜調節する必要がある。基本マトリックスを担う繊維である合成繊維(A)、着色繊維(B)の合計質量に対して低融点繊維(C)の質量が半分未満だと、いくら低融点繊維(C)を細くして固定点を増やしても低融点繊維自体の量にも依存する硬さや平滑性が不足し、本発明の目的とするレベルが得られなくなってしまう。一方、合成繊維(A)、着色繊維(B)の合計質量に対して低融点繊維(C)の質量が4倍を超えると、表面の硬さや平滑性などにおいてはより良好な補強シートが得られる傾向にあるが、実質的に基本マトリックスを担う繊維自体の量に大きく依存するコシが所望のレベルを実現し難くなり、コシを得ようとして全体的な繊維量を増やすと目的とする用途において要望される軽量性が実現できなくなってしまうなど、本発明が目的とする性能のバランスが大きく崩れることとなる。
【0027】
本発明の補強シートが目的とする軽工品用途に適したコシの目安としては、例えば鞄類に代表される一般的な用途であれば、後述する柔軟度(cm)が補強シートの厚さt(mm)に対して1/(t1/2)以下であるのが好ましく、より好ましくは0.8/(t1/2)以下である。また、補強が目的なので格別に柔軟度の下限が指定されるべきものではないが、例えば鞄類の補強シートであれば硬すぎるものも適さない場合がある。そのような場合の柔軟度の目安としては、前記同様に補強シートの厚さtに対して0.1/(t1/2)以上であるのが好ましく、より好ましくは0.3/(t1/2)以上である。
【0028】
本発明が目的とする軽工品用途に適した補強シートの目付は、100〜500g/mである。目付が100g/m未満であっても軽量性の点では当然ながら何ら差支えはないが、用途において素材に求められる硬さやコシが実質的には得られない目付である。一方、500g/mを超えると軽量性の点で商品価値がない。上記した本発明の構成において、本発明が目的とするレベルの各性能を得るためには、補強シートの目付は200〜450g/mが好ましい。
軽工品用途における補強シートの厚さは、軽工品の中でも具体的な用途や使用部位によって種々異なるが、通常は0.3〜3.0mm程度である。上記した本発明の構成において、本発明が目的とするレベルの各性能を得るためには、目付との関係もあるが、大凡0.5〜2.5mmとするのが好ましく、0.7〜2.0mmとするのがより好ましい結果を与える。
【0029】
外観や風合いの特異性など、何らかの目的や効果を狙うのでなければ、合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)として使用する繊維は、何れも同種の繊維であるのが好ましく、特に何れもがポリエステル系繊維であるのが好ましい。ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維などの従来公知の各種ポリエステル系繊維が挙げられ、目的や得ようとする性能等に応じて適宜選択すればよい。特にポリエステル系繊維であるのが好ましい理由としては、他の繊維と同種の繊維として低融点繊維(C)を得やすいことが挙げられる。例えば、他の繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であれば、低融点繊維(C)としてはイソフタル酸などを所望の融点差を与えることのできる比率で共重合させたポリエチレンテレフタレート共重合体繊維を使用すればよい。
【0030】
本発明の補強シートは、前記の構成をとることにより極めて平滑な表面を形成することが可能であり、従来の補強シートと同様に表面に樹脂フィルムを貼り合わせても、従来にない優れた表面の平滑感が得られ、また従来技術の範囲で軽量性を犠牲にして高密度化することで単に平滑性を上げただけのものに見られるような折り曲げた際に生じる品位の低い大きな折れシワが生じにくいので、高品位な軽工品用被覆補強シートを得ることができるのである。
【0031】
貼り合わせる樹脂フィルムとしては、ポリエステル樹脂からなるフィルム、ポリオレフィン樹脂からなるフィルム、ポリウレタン樹脂からなるフィルム、ポリスチレン樹脂からなるフィルム、ポリ塩化ビニル樹脂からなるフィルムなど、従来公知の種々の樹脂からなるフィルムが本発明の目的、効果を損なわない限りは何れも採用可能だが、貼り合わせる補強シートとの硬さやコシのバランス、外観などにおいてユーザーに違和感を覚えさせないようにするためには、補強シートに使用した繊維、特に合成繊維(A)や着色繊維(B)を構成する樹脂と同種の樹脂が好ましい。また、同種の樹脂を使用することで、後述する両者の接着に関してもより好ましい結果を与えることができる。樹脂フィルムに補強シートと貼り合わせる前、あるいは後でプリント、着色などの方法により意匠性を付与することで、軽工品用被覆補強シートとして優れた意匠性が得られる。
貼り合わせる樹脂フィルムの目付としては、補強シートの軽量性を損なわないように極力薄いものが好ましいが薄すぎると補強シート表面の微凹凸の影響を受けやすいことから、好ましくは10〜50μm、より好ましくは15〜30μm程度の範囲で選択するのがよい。
【0032】
樹脂フィルムを補強シート表面に接着する方法としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂やポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂などのホットメルト樹脂、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂などの2液架橋型や湿気硬化型、紫外線硬化型といった反応性樹脂、あるいはシリコン系樹脂、クロロプレンゴムなどを樹脂フィルムや補強シートとの接着性の観点などから適宜選択して接着剤樹脂として用いて、樹脂フィルムか補強シートの何れかに接着剤樹脂を連続的にコーティングしてそれらを貼り合わせる方法や、樹脂フィルムと補強シートの間にフィルム状または不織布状の接着剤樹脂を挟む方法などの従来公知の方法が何れも採用可能である。樹脂フィルムと補強シートとの界面における接着剤樹脂の状態としては、前記の方法によって非連続的なドット状、連続的なフィルム状、あるいは不織布状などが得られる。補強シートの用途が特に軽量性を特徴とする用途の場合には、補強シート表面に貼り合わせる樹脂フィルムは薄いものを使用せざるを得ないので補強シートの平滑性がより重要であり、その平滑性を十分に生かせるように各種ホットメルト樹脂を補強シートと樹脂フィルムの界面でフィルム状または不織布状に存在させる方法が最も好ましい方法である。
【0033】
被覆補強シートの目付としては、補強シートと同様の理由により100〜500g/m程度の範囲とするのが好ましい。本発明の構成において、本発明が目的とするレベルの各性能を得るためには、補強シートの目付は200〜450g/mが好ましい。
被覆補強シートの厚さについても、補強シートと同様の理由により0.3〜3.0mm程度が好ましい。本発明の構成において、本発明が目的とするレベルの各性能を得るためには、目付との関係もあるが、やはり補強シートと同様に大凡0.5〜2.5mmとするのが好ましく、0.7〜2.0mmとするのがより好ましい。
【0034】
上記のようにして得られた補強シートおよび被覆補強シートは、軽工品用として十分な硬さとコシを有しつつ、軽量性、平滑性、さらには意匠性にも優れており、また副次的な効果として補強シート同士や補強シートと他の素材を重ねて接着したり縫い合わせたりする際の加工性や補強シートの接着、縫製する部位のみを研削等して薄くする際の加工性などの後加工性においても、加工時に形態が崩れにくい、接着性に優れる、縫製時に針孔が崩れにくいなどの優れた特質を備えている。従って、特に鞄、財布や手帳などの日常的に携帯することの多い各種雑貨や、襟、ベルトなどの衣類、装飾品を入れる箱などの一般的な軽工品の補強シート等に好適に使用することができる。取り分け補強のための硬さ、それとは基本的に相反する軽さとが同時に高いレベルで求められる用途である鞄類に代表される雑貨、例えば手提げ鞄、肩掛け鞄、背負い鞄などの学童用鞄の他にもビジネスバッグやスーツケースなどの本体において、露出しない部分の補強材はもちろんのこと、優れた外観を有するので露出する部材、例えば仕切り材についても好適に使用することができる。
実施例
【0035】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、以下において、部および%はことわりのない限り質量部および質量%を表す。
本発明でいう柔軟度は、測定対象の任意の各所からタテ3cm×ヨコ15cmでヨコ方向に長く切り出した5点の測定サンプルについて、下記の測定方法により測定された値のうち最大値のことである。
【0036】
金属製で半径5cm,長さ5cm以上の半円柱形状の支持台2つを、水平な机の上に頂部間隔10cmで並行に並べて設置する。次に、2つの支持台に跨るように測定サンプルを乗せ、測定サンプル中央部(2つの支持台からほぼ等距離の位置)に50gの分銅を静かに乗せる。このときの測定サンプルの撓みとして、支持台頂部がなす水平線から測定サンプル下面の最も撓んだ部分までの距離(cm)を測定し、その測定サンプルの柔軟度とする。
【実施例1】
【0037】
合成繊維(A)として、繊維径αが24.5μmのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある)繊維(融点は250℃)を紡糸し、51mmにカットして短繊維としたものを準備した。着色繊維(B)として、繊維がオレンジ色を呈するように調合した顔料で原着した、繊維径βが24.5μmのPET繊維(融点は245℃)を紡糸し、64mmにカットして短繊維としたものを準備した。低融点繊維(C)として、イソフタル酸を共重合させたPET共重合体からなる繊維径γが20.0μmの共重合PET繊維(融点は120℃)を紡糸し、51mmにカットして短繊維としたものを準備した。
次いで、これら3種類の繊維をそれぞれ20:30:50の比率で混合した後、カードで解繊し、さらにニードルパンチ処理により絡合させて目付340g/mの不織布とした。次いで、スチームチャンバー内で125℃に加熱した後、水を導入して冷却している金属ロール間で押圧しつつ表面を平滑化することで、厚さ1.25mmの軽工品用補強シート1を作製した。
得られた軽工品用補強シート1は、柔軟度0.40cmで補強シートとして十分なコシを有し、また見かけ密度は0.27g/cmで厚さに対する重量の点で軽量性にも極めて優れており、さらには表面外観、及び表面触感において品位を低下させるような微凹凸や面の欠損等はなく平滑性に優れたものであった。
【実施例2】
【0038】
実施例1で得られた軽工品用補強シートの平滑な表面にホットメルト接着剤を溶融状態で塗布し、その上に柄がプリントされた厚さ25μmのポリエステルフィルムを貼り合わせてプレスすることで、厚さ0.72mmの軽工品用被覆補強シート1を作製した。
得られた軽工品用被覆補強シート1は、柔軟度0.70cmで補強シートとして十分なコシを有し、また見かけ密度0.53g/cmで被覆を有しながらも厚さに対する重量の点で軽量性にも優れており、軽工品用補強シートとしての基本的な諸性能に優れている上、貼り合わせたポリエステルフィルム自体の平滑性が損なわれていず、また表面の折れシワも品位に欠けるような大きなシワは殆ど見られない、極めて品位の高いものであった。この軽工品用被覆補強シート1を、大マチ部の仕切り材に使用したランドセルを作製したところ、十分な補強効果により型崩れしにくく軽量性にも優れたものであり、また冠を開けたときに見える部分に本発明の表面に柄が付いた軽工品用被覆補強シート1が使用されていて意匠性に優れたランドセルであった。
【0039】
比較例1、2
合成繊維として、繊維径13.5μmのPET繊維(融点は250℃)を紡糸し、51mmにカットして短繊維としたものを準備した。着色繊維として、繊維がオレンジ色を呈するように調合した顔料で原着した、繊維径20.0μmのPET繊維(融点は245℃)を紡糸し、64mmにカットして短繊維としたものを準備した。低融点繊維として、イソフタル酸を共重合させたPET共重合体からなる繊維径24.5μmの共重合PET繊維(融点は120℃)を紡糸し、51mmにカットして短繊維としたものを準備した。
次いで、これら3種類の繊維をそれぞれ20:30:50の比率で混合した後、カードで解繊し、さらにニードルパンチ処理により絡合させて目付420g/mの不織布とした。次いで、スチームチャンバー内で125℃に加熱した後、水を導入して冷却している金属ロール間で押圧することで、厚さ1.0mmの補強シート2を作製した。得られた補強シート2は、柔軟度0.55cmで補強シートとして不足のないコシを有しているが、見かけ密度は0.42g/cmで厚さに対する重量の点で軽量性においてとりわけ優れたものではない上、表面外観、及び表面触感において品位を低下させるような微凹凸や面の欠損等が多数存在しており平滑性に劣るものであった。
【0040】
そこで、前記と同様にして作製した不織布について、前記より強い条件にて金属ロール間で押圧することで、厚さ0.80mmの補強シート3を作製した。得られた補強シート3は、柔軟度0.70cmで補強シートとして十分なコシを有してはいるものの、見かけ密度が0.52g/cmで厚さに対する重量が被覆を有しないものとしてはかなり重い部類であることから軽工品用補強シートとしては軽量性に劣ると判断されるものであり、また補強シート2との比較では表面平滑性の向上はみられるが合成繊維や着色繊維のザラザラ感が強く残っており、依然として平滑性に劣るものであった。
【0041】
補強シート2,3の表面に、実施例2と同様にして柄がプリントされたポリエステルフィルムを貼り合わせて厚さがそれぞれ0.75mm、0.68mmの被覆補強シート2,3を作製したところ、柔軟度は十分使用に足るものであったが、厚さに対する重量が被覆を有するものとしても重い部類であって軽量性に劣ると判断されるものであり、さらには表面品位の低さがより強調された形でポリエステルフィルムの平滑性が大きく損なわれている上、表面の折れシワも品位に欠ける大きなシワが見られるなど、何れも極めて品位に劣るものであった。
【0042】
比較例3、4
合成繊維として、繊維径18.0μmのPET繊維(融点は250℃)を紡糸し、51mmにカットして短繊維としたものを準備した。着色された低融点複合繊維として、芯成分がオレンジ色を呈するように調合した顔料で原着したPET繊維(融点は245℃)、鞘成分がイソフタル酸を共重合させたPET共重合体からなり、重量比50:50で複合された、繊維径21.5μmのPET/共重合PET芯鞘複合繊維(鞘部の融点は120℃)を紡糸し、64mmにカットして短繊維としたものを準備した。
次いで、これら2種類の繊維をそれぞれ20:80の比率で混合した後、カードで解繊し、さらにニードルパンチ処理により絡合させて目付415g/mの不織布とした。次いで、スチームチャンバー内で125℃に加熱した後、水を導入して冷却している金属ロール間で押圧しつつ表面を平滑化することで、厚さ1.0mmの軽工品用補強シート4を作製した。得られた補強シート4は、柔軟度0.60cmで補強シートとして十分なコシを有しており、見かけ密度は0.42g/cmで厚さに対する重量の点で軽量性においてとりわけ優れたものではない上、表面外観、及び表面触感において品位を低下させるような微凹凸や面の欠損等が多数存在しており平滑性に極めて劣るものであり、さらに不織布の発色性においてオレンジ色がくすんでいて色合いも不均一であることからも品位が低いものであった。
【0043】
そこで、前記と同様にして作製した不織布について、前記より強い条件にて金属ロール間で押圧することで、厚さ0.78mmの補強シート5を作製した。得られた補強シート3は、柔軟度0.70cmで補強シートとして十分なコシを有してはいるものの、見かけ密度が0.54g/cmで厚さに対する重量が被覆を有しないものとしてはかなり重い部類であることから軽工品用補強シートとしては軽量性に劣ると判断されるものであり、また補強シート4との比較では表面平滑性の向上が一応はみられるが繊維のザラザラ感が強く残っており、依然として平滑性に劣るものであった。
【0044】
補強シート4,5の表面に、実施例2と同様にして柄がプリントされたポリエステルフィルムを貼り合わせて厚さがそれぞれ0.76mm、0.66mmの被覆補強シート4,5を作製したところ、柔軟度は十分使用に足るものであったが、被覆を有するものとしても重い部類であって軽量性に劣ると判断されるものであり、さらには表面品位の低さが一層強調された形でポリエステルフィルムの平滑性が大きく損なわれている上、表面の折れシワも品位に欠ける大きなシワが見られるなど、何れも極めて品位に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)が混在しており、かつ下記条件(1)〜(4)を満足する不織布を加熱および加圧することで繊維同士を融着させてなる軽工品用補強シート。
(1)少なくとも低融点繊維(C)が単一繊維成分の繊維であること
(2)合成繊維(A)の繊維径αと着色繊維(B)の繊維径βが等しいこと
(3)低融点繊維(C)の繊維径γが合成繊維(A)、着色繊維(B)それぞれの繊維径α,β未満で、かつ該α,βの平均値の1/10以上であること
(4)合成繊維(A)および着色繊維(B)の合計質量と低融点繊維(C)の質量の比率が、1:0.5〜1:4の範囲であること
【請求項2】
合成繊維(A)、着色繊維(B)および低融点繊維(C)の何れもがポリエステル系繊維である請求項1に記載の軽工品用補強シート。
【請求項3】
請求項1または2の何れか1項に記載の軽工品用補強シートの少なくとも片面に樹脂フィルムを接着してなる軽工品用被覆補強シート。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の軽工品用補強シートまたは軽工品用被覆補強シートを本体の補強材または仕切り材に使用した鞄。