説明

軽量耐熱防護服

【課題】耐薬品性及び透湿防水性に優れるだけでなく、高遮熱性と軽量性、また柔軟性を有する耐熱性防護服用布帛を提供する。
【解決手段】表地層と遮熱層の2層積層された布帛からなる耐熱性防護服であって、下記要件を満足することを特徴とする耐熱性防護服。
a)表地層と遮熱層の厚みが、下記式を満足すること。
5.0mm≧遮熱層厚み(mm)≧−0.75×(表地厚み(mm))+3.2mm
b)遮熱層が、透湿防水層の少なくとも片面にメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維のうち少なくとも1種類を含む織物、編物、不織布の群から選ばれる少なくとも1種の繊維構造体が積層されている構成であること。
c)布帛のRHTI24(ISO11613記載のアプローチAスペックにおける耐輻射熱試験(ISO6942)において、24℃温度上昇するまでの時間)が18秒以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性防護服に関し、さらに詳しくは、耐薬品性及び透湿防水性に優れるだけでなく、高遮熱性と軽量性、また柔軟性を有する耐熱性防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服を構成する繊維としては、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾールなどの難燃性の有機繊維からなる布帛に輻射熱を防止する目的から金属アルミニウム等をコーティングあるいは蒸着等により、表面加工したものが多く使用されている。近年この輻射熱も非常に重要なスペックとなり、ISO11613のアプローチAには、耐火炎試験(ISO9151)、耐輻射熱試験(ISO6942)のスペックがそれぞれ13秒以上と18秒以上と記載されている。
【0003】
また、耐熱性だけでなく夏場の作業でのヒートストレスによる熱射病を予防するため、近年では、内層にアイスパックを使用したり、縫製にて通気性を確保したりという手段が用いられている。中でも、軽量化はヒートストレスを軽減する一手段であり、従来より課題となっている。
こうした耐熱防護服として、特開2006−16709号公報に二層構造を有する防護服があげられているが、必要性能が示されていず、また十分に軽量であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−16709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、耐薬品性及び透湿防水性に優れるだけでなく、重量を変えず積層枚数を減らすことによる軽量快適性と柔軟性、また高遮熱性を有する耐熱性防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
高遮熱性と軽量性、また柔軟性を有する耐熱性防護服に関して鋭意検討した結果得られたものであり、すなわち本発明によれば、
表地層と遮熱層の2層積層された布帛からなる耐熱性防護服であって、下記要件を満足することを特徴とする耐熱性防護服。
a)表地層と遮熱層の厚みが、下記式を満足すること。
5.0mm≧遮熱層厚み(mm)≧−0.75×表地厚み(mm)+3.2mm
b)遮熱層が、透湿防水層の少なくとも片面にメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維のうち少なくとも1種類を含む織物、編物、不織布の群から選ばれる少なくとも1種の繊維構造体が積層されている構成であること。
c)布帛のRHTI24(ISO11613記載のアプローチAスペックにおける耐輻射熱試験(ISO6942)において、24℃温度上昇するまでの時間)が18秒以上であること。
好ましくは、耐熱性防護服の布帛の目付けが400〜520g/mであり、遮熱層がアラミド繊維80%以上を含み、表地層がパラ系アラミド繊維を該表地層全繊維重量に対し1〜70重量%含む耐熱性防護服、
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐熱性防護服は軽量で、且つ遮熱性、強度、透湿防水性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】RHTI24が18秒以上を満たす表地層厚み(最外層厚み)と遮熱層厚み(最内層厚み)の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、表地層、透湿防水機能を有する遮熱層からなる防護服の表地層、及び遮熱層厚みが、以下式を満足し、かつISO11613記載のアプローチAスペックにおける耐輻射熱試験(ISO6942)において24度温度上昇するまでの時間RHTI24が18秒以上であることを特徴とする耐熱防護服を提供することである。
5.0mm≧遮熱層厚み(mm)≧−0.75×表地厚み(mm)+3.2mm
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の耐熱防護服用布帛は、表地層、遮熱層ともに、パラ系のアラミド繊維、メタ系アラミド繊維を単独、もしくは混合使用して用いるが、他に混合使用耐熱性繊維として、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃レーヨン繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ウール繊維が挙げられる。
【0011】
まず表地層について説明する。表地層はメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維からなる布帛により構成され、布帛の種類としては、織編物、及び、不織布が使用されるが、実用的には強度の点で布帛とすることが好ましい。
また、該メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維は、フィラメント、混繊糸、紡績糸等の形で使用できるが、混紡して紡績糸の形態で使用するものが好ましい。
【0012】
パラ系アラミド繊維の混合比率としては、表地層を構成する全繊維重量に対して、1〜70重量%であることが好ましい。さらに好ましくは2〜60重量%である。該パラ系アラミド繊維の混合比率が、1重量%未満では、火炎に暴露された際に布帛が破壊、つまり穴があくおそれがあり、また、70重量%を超えると、該パラ系アラミド繊維がフィブリル化して耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0013】
該表地層はシングルプライ、ダブルプライであってもよい。
該表地層に対しては、コーティング法、スプレー法、又は、浸漬法などの加工法により、フッ素系の撥水樹脂を付与して加工することにより高い耐水性能や耐薬品性能を有する防護服とすることができる。
【0014】
本発明の遮熱層は、透湿防水層を有し、その少なくとも片面にアラミド繊維であるメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維が少なくとも1種類が含まれる織物、編物、不織布の群から選ばれる少なくとも1種の繊維構造体が積層されていることが必要である。
【0015】
アラミド繊維は遮熱層全繊維重量に対して80%以上含まれることが好ましい。アラミド繊維以外の素材としては、ポリエステル繊維、綿繊維、レーヨン繊維、ビニロン繊維、ウール繊維が挙げられる。ただしその混率は20%未満であることが望ましい。好ましくは15%以下である。20%を超える場合は、JIS L 1091 A−4法やJIS L 1091 A−1法の試験時に残炎が見られたり、また溶融する場合がある。
【0016】
透湿防水層としては、公知の透湿防水機能を有するポリテトラフルオロエチレンフィルムやポリウレタン皮膜等を挙げることができ、接着剤を用いて上記の繊維構造体を貼り付けることが好ましい。
【0017】
また表地層の厚みと遮熱層の厚みは、以下式を満足することが重要である。以下式に適応しない場合、防護服の目付けが400〜520g/mにおいて、表地層表面にアルミコーティングなし、特にネイビー色やブラック色などはISO11613のアプローチAスペックである耐輻射熱試験(ISO6942)18秒以上を満たすことが困難となる。
5.0mm≧遮熱層厚み(mm)≧−0.75×(表地厚み(mm))+3.2mm
【0018】
上記式を導く根拠として、表地層を固定し、透湿防水膜にラミネートした厚みの異なる遮熱層を用いた積層体においてISO6942試験を実施したところ、遮熱層厚みに比例して遮熱性は高くなることがわかった。その遮熱層厚みとRHTI24の比例式よりRHTI24が18秒以上を満たす遮熱層厚みを算出した。また、上記式を満たすことで遮熱性能はISO11613のアプローチAスペックを満たすことが可能であるが、遮熱層の厚みは5.0mm以下が好ましい。好ましくは1.3mm〜4.0mm、更に好ましくは2.0mm〜3.5mmである。更に好ましくは2.8mmである。厚みが5.0mmを越えると、活動性が悪くなり、また厚みを出すために製織、製編の際、経緯密度を減少させなければならず、スリップが考えられる。透湿防水層には片面ラミネート、もしくは両面ラミネートを実施している。また織物、編物については起毛加工やパイル地にして嵩性をアップしておくことが好ましい。
【0019】
防護服布帛の目付けは400〜520g/mが好ましく、400g/m未満であると、ISO11613のアプローチAスペックである、耐火炎試験(ISO9151)、耐輻射熱試験(ISO6942)のスペックのそれぞれ13秒以上と18秒以上を満たすことが厳しくなる。また520g/mを超える場合、防護服の重量を増加させ、着用者の動きを阻害するようになる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、実施例に用いた評価項目の測定は下記の方法で行った。
(1)遮熱性(耐輻射熱)
ISO6942(2002)に基づき熱流束40kW/mにおいて、輻射熱暴露開始から銅製のセンサーが24℃上昇する時間、RHTI24を求めた。
(2)遮熱性(耐火炎)
ISO9151に基づき、対流熱暴露開始からの銅製のセンサーが24℃上昇する時間、HTI24を求めた。
(3)厚み
JIS L 1018(有毛編物)用に準拠し、3g/cmの荷重をかけ測定を行った。
【0021】
[実施例1]
表地層は2層構造とし、上層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が90:10 となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/2)を用いて平織りにしたもの、また、下層にはコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)100%の紡績糸(番手:40/−)を平織りに製織したものを用いた。上層と下層の織物は下層に使用したテクノーラ紡績糸を用い格子間隔20mmでキルト加工した。表地層の目付けは205g/mであった。
【0022】
遮熱層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が95:5 となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/−)を用いて平織りに織成した織布(目付:50g/m)をポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス社製)の片面に接着剤を用いてラミネートした。もう片側には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)1.7dtex、繊維長51mmとコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:テクノーラ)2.2dtex、繊維長51mmとを混合比率が95:5となる割合で混綿した後カーディング後、クロスラッパーで積層し厚みが2.8mmとなるよう調整してニードルパンチ(針種FPD1−36、オルガン針株製、針深度11mm、200本/cm)を表裏2回通した不織布(目付は210g/m)を同様にラミネートした。遮熱層の目付けは290g/mである。
これらの表地層の上層を上とし、その下に遮熱層を重ねて2層を積層した布帛を作成し布帛の遮熱性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例2]
表地は実施例1と同様のものを使用した。遮熱層には実施例1と同様の織布を用いてポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス社製)の片側にラミネートし、また、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が95:5 となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手20/−)を用いて丸編みを作成し、上記のポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス社製)のもう一方の片面にラミネートした。得られた遮熱層の目付けは250g/mであった。
これらの表地層の上層を上とし、その下に遮熱層を重ねて2層を積層した布帛を作成し布帛の遮熱性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0024】
[比較例1]
表地層は実施例1と同様に行い、遮熱層にはポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が95:5となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(番手:40/−)を用いて平織りに織成した。織布( 目付:65g/m)をポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス社製)の両面にラミネートしたものを用いた。得られた遮熱層の目付けは170g/mであった。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の耐熱性防護服は耐薬品性及び透湿防水性に優れるだけでなく、軽量で柔軟性、また高遮熱性を有するので消防服、耐火服として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地層と遮熱層の2層積層された布帛からなる耐熱性防護服であって、下記要件を満足することを特徴とする耐熱性防護服。
a)表地層と遮熱層の厚みが、下記式を満足すること。
5.0mm≧遮熱層厚み(mm)≧−0.75×(表地厚み(mm))+3.2mm
b)遮熱層が透湿防水層を有し、該透湿防水層の少なくとも片面にメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維のうち少なくとも1種類の繊維を含む織物、編物、不織布の群から選ばれる少なくとも1種類の繊維構造体が積層されている構成であること。
c)布帛のRHTI24(ISO11613記載のアプローチAスペックにおける耐輻射熱試験(ISO6942)において、24℃温度上昇するまでの時間)が18秒以上であること。
【請求項2】
耐熱性防護服の布帛の目付けが400〜520g/mである請求項1に記載の耐熱性防護服。
【請求項3】
遮熱層がアラミド繊維80%以上を含む請求項1〜2いずれかに記載の耐熱性防護服。
【請求項4】
表地層がパラ系アラミド繊維を該表地層全繊維重量に対し1〜70重量%含む請求項1〜3いずれかに記載の耐熱性防護服。

【図1】
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【公開番号】特開2011−106069(P2011−106069A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264034(P2009−264034)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】