説明

載荷試験装置及び載荷試験方法

【課題】剥離や剥落が発生する時期を的確に予測することを可能にするための載荷試験装置を提供する。
【解決手段】鉄筋の膨張が鉄筋コンクリートの表面に生じさせる現象を捉えるための載荷試験装置1である。そして、基面Fに間隔を置いて配置される複数の脚部21,21と、それらの脚部間に横架される梁部22とを有する支持フレーム2と、支持フレームの梁部に吊り下げられるコンクリート製の供試体3の下面3aから所定の値だけ上方に埋設させる中央部4aと供試体の両側から突出される端部4b,4bとを有する載荷棒4と、載荷棒の端部を押し下げる載荷手段5と、載荷棒の端部の変位を計測する変位計6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートの劣化に伴って起きる表層コンクリートの剥離や剥落などの現象を、把握するためにおこなう試験に使用される載荷試験装置及び載荷試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、時間の経過とともに鉄筋コンクリート構造物の表面に近い位置の鉄筋が腐食し、膨張することで、ひび割れが発生し、表層コンクリートに剥離又は剥落が生じることが知られている(特許文献1、2など参照)。
【0003】
特許文献1には、セメントの水和生成物である水酸化カルシウムによって強アルカリ性を示している打設直後のコンクリートが、空気中の二酸化炭素と水との反応によって生成される炭酸によって徐々に中性化されることに着目したコンクリート中性化深さ検査装置が開示されている。
【0004】
すなわち、水酸化物の酸化被膜によって鉄筋の表面が被覆されているときには腐食は起きないが、アルカリ性から中性に変化することで水酸化物の被膜が破壊されると、酸素と水が供給されることによって鉄筋の腐食が始まる。そこで、コンクリート表面から深部に向けての中性化深さを測定することで、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋が腐食する状態にあるか否かを検査する。
【0005】
また、特許文献2には、鉄筋コンクリートが老朽化して剥離や剥落が起き得る状態になった場合の補修工法について開示されている。そして、補修工法を選定するに際して、コンクリート構造物の損傷状況を的確に把握しなければならないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−145917号公報
【特許文献2】特開2009−162776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に開示されている技術は、使用中の鉄筋コンクリートに対して検査をおこない、その鉄筋コンクリートの現在の状態を把握するためのものである。
【0008】
これに対して、鉄筋コンクリートに剥離や剥落が発生する時期が事前に的確に把握できれば、メンテナンス計画が立て易いうえに、剥落による被害も防ぐことができる。
【0009】
そこで、本発明は、剥離や剥落が発生する時期を的確に予測することを可能にするための載荷試験装置及び載荷試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の載荷試験装置は、鉄筋の膨張が鉄筋コンクリートの表面に生じさせる現象を捉えるための載荷試験装置であって、基面に間隔を置いて配置される複数の脚部と、それらの脚部間に横架される梁部とを有する支持フレームと、前記支持フレームの前記梁部に吊り下げられるコンクリート製の供試体の下面から所定の値だけ上方に埋設させる中央部と前記供試体の両側から突出される端部とを有する載荷棒と、前記載荷棒の端部を押し下げる載荷手段と、前記載荷棒の端部の変位を計測する計測手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記載荷棒の上方にそれと直交する方向に向けて前記供試体の内部に埋設させる背面鉄筋と、その背面鉄筋の両側と前記梁部とを繋ぐ連結部とを備えた構成にすることができる。
【0012】
また、前記載荷手段は、前記載荷棒の両側の端部の上面に回転を拘束しない状態でそれぞれ載置させる自由回転支圧部と、それらの自由回転支圧部からそれぞれアームが上方に延伸されて前記支持フレームを跨ぐように形成される門形フレーム部と、前記門形フレーム部を押し下げ可能なジャッキ部とを備えた構成にすることができる。さらに、前記載荷棒の断面は、鉄筋が膨張した後の断面の模擬形状にすることができる。
【0013】
また、本発明の載荷試験方法は、上記載荷試験装置を使った載荷試験方法であって、前記載荷棒と表面との距離が所定の値になるようにコンクリートを打設して供試体を製作する工程と、前記供試体の下面が試験中に前記基面に接触しない高さで前記供試体を前記支持フレームに固定する工程と、前記供試体の両側から突出された前記載荷棒の端部を前記載荷手段によって押し下げるとともに、前記計測手段によって前記端部の変位を計測する工程とを備えたことを特徴とする。ここで、前記供試体は、試験中に曲げひび割れが発生しない形状に製作される。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の載荷試験装置は、支持フレームに吊り下げられるコンクリート製の供試体に中央部を埋設させる載荷棒と、その載荷棒の端部を押し下げる載荷手段と、載荷棒の変位を計測する計測手段とを備えている。
【0015】
このため、鉄筋が腐食して膨張した際にコンクリートを内部から押し広げる現象を的確に再現させることができる。また、載荷棒の変位が鉄筋の膨張量と等しい又は比例しているとすれば、コンクリートにひび割れが起きるときの鉄筋の膨張量を知ることができる。そして、経年による鉄筋の膨張量が予測できれば、コンクリートがひび割れて剥離又は剥落が起きる時期を的確に予測することができる。
【0016】
また、載荷棒の上方に載荷棒と略直交する方向に向けた背面鉄筋を埋設することで、背面に鉄筋が配置されている状態を忠実にモデル化することができる。そして、この背面の鉄筋による拘束の影響がある場合は、試験結果にも反映されることになる。
【0017】
さらに、背面鉄筋と梁部とを繋ぐ連結部を設けることで、連結部を使って供試体を支持フレームに吊り下げることができる。また、載荷中の反力も、背面鉄筋と連結部とからなる支持材によって確保することができる。
【0018】
また、載荷棒の両側の端部を、回転を拘束しない状態で加圧可能な自由回転支圧部を介して押し下げるようにすれば、載荷棒を傾かせることなく水平状態を維持したままで押し下げることができる。
【0019】
さらに、載荷棒の断面を鉄筋が膨張した後の断面の模擬形状にすることで、応力の作用方向についても忠実に再現させることができる。
【0020】
また、上記した載荷試験装置を使った載荷試験方法であれば、コンクリートの強度、鉄筋のかぶり厚さ又は鉄筋径を変えて多くの試験をおこなうことができ、鉄筋の膨張が鉄筋コンクリートの表面に生じさせる現象を的確に把握することができる。
【0021】
さらに、供試体を試験中に曲げひび割れが発生しない形状に製作することで、曲げによる影響を取り除くことができ、鉄筋の膨張に起因するひび割れの発生時期を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の載荷試験装置の構成を示した正面図である。
【図2】本発明の実施の形態の載荷試験装置の構成を示した側面図である。
【図3】(a)は鉄筋コンクリート構造物としての高架橋の側面図、(b)は(a)の範囲Aで示した部分のコンクリート表面付近の配筋状態を示した図、(c)は(a)の範囲Bで示した部分のコンクリート表面付近の配筋状態を示した図である。
【図4】(a)は本発明の実施の形態の載荷試験装置を使って載荷試験をおこなったときのひび割れの入り方を示した説明図、(b)は供試体の下面に支点を配置した比較例のひび割れの入り方を示した説明図である。
【図5】(a)は断面が円形の鉄筋による応力の作用方向を示した説明図、(b)は膨張した鉄筋による応力の作用方向を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の載荷試験装置1に供試体3をセットした状態を示した正面図、図2はその側面図である。
【0024】
この載荷試験装置1は、鉄筋が錆などの腐食によって膨張したときに、鉄筋コンクリートの表面に生じさせる現象を捉えるためにおこなわれる試験に使用される。
【0025】
すなわち、鉄筋コンクリートで構築された構造物は、時間の経過とともに表面に近い位置の鉄筋が腐食し、膨張することで、コンクリートにひび割れが発生し、表層に近いコンクリートが剥離したり、剥落したりする。
【0026】
図3(a)に示した鉄筋コンクリート構造物としての高架橋8を例に説明すると、高架橋8の壁状の高欄81の表面近くには、図3(b)に示すように、高架橋8の延伸方向に間隔を置いて配置される鉛直方向鉄筋81a,・・・と、高さ方向に間隔を置いて配置される水平方向鉄筋81b,・・・とが格子状に配筋されている。
【0027】
この図3(b)に示した例では、鉛直方向鉄筋81aがコンクリート表面に近い側に配置され、それに直交する水平方向鉄筋81bはコンクリートの内部側、言い換えると鉛直方向鉄筋81aの背面側に配置される。そこで、矩形一点鎖線で示したモデル化範囲S1を供試体3で模擬する。
【0028】
一方、高架橋8の四角柱状の柱82の表面近くには、図3(c)に示すように、高さ方向に間隔を置いて配置される帯鉄筋82a,・・・と、柱82の幅方向に間隔を置いて配置される軸方向鉄筋82b,・・・とが配筋されている。
【0029】
この図3(c)に示した例では、四角柱状の柱82の内周に沿って配筋される軸方向鉄筋82b,・・・の外側を囲むように帯鉄筋82a,・・・が配筋されるので、コンクリート表面に近い側に帯鉄筋82aが配置され、それに直交する軸方向鉄筋82bは帯鉄筋82aの背面側に配置されることになる。そこで、矩形一点鎖線で示したモデル化範囲S2を供試体3で模擬する。
【0030】
図1,2に示した載荷試験装置1は、このようなモデル化範囲S1,S2を直方体に成形された供試体3の内部に再現させて載荷試験をおこなう装置である。
【0031】
本実施の形態の載荷試験装置1は、門形に形成された支持フレーム2と、供試体3に埋設させる載荷棒4と、載荷棒4の端部を押し下げる載荷手段5と、載荷棒4の端部4bの変位を計測する計測手段としての変位計6とを備えている。
【0032】
この支持フレーム2は、図1に示すように、基面Fに供試体3の横幅以上の間隔を置いて立てられる2本の脚部21,21と、それらの脚部21,21の上端間に横架される梁部22とによって形成される。
【0033】
この脚部21,21は、梁部22に上縁を密着させた供試体3の下面3aが、載荷試験中に基面Fに接触しない長さに形成される。すなわち供試体3は、基面Fから離隔した状態で支持フレーム2に吊り下げられる。
【0034】
また、供試体3は、モデル化範囲S1,S2に打設されるコンクリートと同じ材質のコンクリートによって、図1,2に示すように、支持フレーム2内に収まる寸法の直方体に成形される。ここで、図1で見て供試体3の横方向の寸法を横幅とし、高さ方向の寸法を高さとし、図2で見て供試体3の横方向の寸法を厚さとする。
【0035】
さらに、この供試体3の下面3aから所定の高さだけ上方の位置に、背面鉄筋7が埋設される。この背面鉄筋7は、図3(b)に示したモデル化範囲S1で言えば水平方向鉄筋81b、図3(c)に示したモデル化範囲S2で言えば軸方向鉄筋82bを供試体3中で模擬したものである。
【0036】
この背面鉄筋7は、図1に示すように、供試体3の横幅方向の両縁付近まで延伸され、上方に向けて略直角に折り曲げられた部分が、連結部としての連結ネジ棒71,71となる。また、連結ネジ棒71,71の上部は、供試体3の上面から梁部22の高さ以上の長さが突出されている。
【0037】
この供試体3の上面から突出させた連結ネジ棒71,71は、梁部22に鉛直方向に貫通された挿通孔(図示省略)に挿入され、梁部22の上面から突出されたネジ溝にナット71a,71aが螺入される。これによって供試体3が支持フレーム2の梁部22に固定されることになる。
【0038】
すなわち、この背面鉄筋7及び連結ネジ棒71,71は、供試体3を支持フレーム2に吊り下げるための支持材であるうえに、載荷時には載荷棒4を押し下げる力の反力材として機能することになる。よって、これらの力に耐えうるように、充分に剛性の高い材料によって、背面鉄筋7及び連結ネジ棒71,71を形成する。
【0039】
また、供試体3の横幅方向の略中央の背面鉄筋7の下方には、背面鉄筋7に略直交する方向に向けて載荷棒4が埋設される。この載荷棒4は、図1,2に示すように、供試体3の下面3aと背面鉄筋7との間のコンクリートに埋設される中央部4aと、供試体3の厚さ方向の両側面から水平に突出される端部4b,4bとを有している。
【0040】
この載荷棒4は、載荷時に曲げが発生しないようにコンクリートよりも充分に大きな剛性(弾性係数)を有する材料によって成形される。例えば、円柱状の鋼棒が使用できる。
【0041】
そして、この載荷棒4の下面と供試体3の下面3aとの距離がかぶりになる。すなわち、モデル化したい鉄筋コンクリート構造物のかぶりの厚さに合わせて、供試体3の下面3aから所定の値だけ上方に載荷棒4を配置すればよい。
【0042】
この載荷試験装置1では、この載荷棒4の端部4b,4bを載荷手段5によって押し下げ、載荷棒4を水平状態のまま供試体3の内部で下面3a方向に移動させることによって、鉄筋の膨張を模擬させる。
【0043】
この載荷手段5は、載荷棒4の両側の端部4b,4bの上面にそれぞれ載置させる自由回転支圧部53,53と、それらの自由回転支圧部53,53から上方に延伸されて支持フレーム2を跨ぐように形成される門形フレーム部52と、この門形フレーム部52を押し下げ可能なジャッキ部としての油圧ジャッキ51とを備えている。
【0044】
この自由回転支圧部53は、図1,2に示すように円弧板状に形成されており、載荷棒4の端部4bの上半面に内周を接触させるだけなので、載荷棒4の周方向の拘束がなく、載荷棒4の端部4bには真下方向の力のみが作用する。
【0045】
また、門形フレーム部52は、図2に示すように、自由回転支圧部53,53からそれぞれ上方に延伸されるアーム52a,52aと、アーム52a,52aの上端間に横架される本体52bとによって形成される。このアーム52a,52aは、載荷中に本体52bの下面が連結ネジ棒71の上端面に接触しない長さに形成される。
【0046】
さらに、油圧ジャッキ51は、門形フレーム部52を下方に押し下げるための加圧手段である。この油圧ジャッキ51は、不動枠54に取り付けられており、不動枠54から門形フレーム部52を押し下げるための反力を得ることができる。このような不動枠54は、門形フレーム部52の外周を覆うような門形形状であっても良いし、載荷試験装置1の両側に設けられた不動壁などに両端を固定するような形態であっても良い。
【0047】
また、油圧ジャッキ51の先端51aは門形フレーム部52の本体52bの上面に接合されており、門形フレーム部52は油圧ジャッキ51に吊り下げられた状態になる。
【0048】
そして、油圧ジャッキ51によって門形フレーム部52の本体52bが押し下げられると、それに接続されているアーム52a,52aも下がり、アーム52a,52a下端に取り付けられた自由回転支圧部53,53を介して載荷棒4の端部4b,4bに油圧ジャッキ51の力が伝達されることになる。
【0049】
このようにして押し下げられる載荷棒4の端部4b,4bの変位は、変位計6によって計測される。この変位計6は、バネによって伸縮する伸縮部6aの押し下げ量を変位として計測する。また、この変位計6は、端部4bの変位が計測できる位置に配置させるために、例えば図1,2に示すように基面Fに設置された架台61上に載置される。
【0050】
次に、本実施の形態の載荷試験装置1を使った載荷試験方法について説明する。
【0051】
まず、鉄筋の膨張によって鉄筋コンクリートの表面にひび割れが発生する現象を再現させたい鉄筋コンクリート構造物に使用するコンクリートを使って、供試体3を製作する。
【0052】
この供試体3には、実際の鉄筋コンクリート構造物のかぶりの厚さに合わせて、下面3aとなる表面からそのかぶりの厚さだけ上方の位置に載荷棒4を埋設する。また、背面側に配置される鉄筋の位置に合わせて載荷棒4の背面側に背面鉄筋7を配置する。
【0053】
例えば、図3(b)に示したモデル化範囲S1で言えば、鉛直方向鉄筋81aが載荷棒4で模擬され、水平方向鉄筋81bが背面鉄筋7で模擬されることになる。また、図3(c)に示したモデル化範囲S2で言えば、帯鉄筋82aが載荷棒4で模擬され、軸方向鉄筋82bが背面鉄筋7で模擬されることになる。
【0054】
ここで、この供試体3は、所定のコンクリート強度が発現するまで養生される。そして、載荷試験がおこなえる状態になった供試体3を載荷試験装置1にセットする。
【0055】
この供試体3をセットする際には、供試体3を支持フレーム2の梁部22の下方に移動させ、供試体3の上面から突出された連結ネジ棒71,71を、梁部22の挿通孔(図示省略)に下から通し、梁部22の上方に突出した連結ネジ棒71,71にナット71a,71aを螺入して締め付ける。
【0056】
このナット71a,71aの締め付けによって、供試体3の上面は梁部22の下面に密着し、支持フレーム2に固定される。また、図1に示すように、供試体3の下面3aは基面Fから離隔しており、供試体3は支持フレーム2に吊り下げられた状態になる。
【0057】
このようにして支持フレーム2に固定された供試体3の厚さ方向の両側からは載荷棒4の端部4b,4bが突出しており、図2に示すように支持フレーム2の上方から吊り下げられた門形フレーム部52の下端の自由回転支圧部53,53を端部4b,4bの上に載せる。
【0058】
この門形フレーム部52は、不動枠54に固定された油圧ジャッキ51の先端51aに接続されて支持されており、油圧ジャッキ51を伸長させることで、門形フレーム部52を押し下げることができる。なお、必要に応じて、門形フレーム部52を真っ直ぐに押し下げるためのガイドレールをアーム52a,52aに沿って設けることもできる。
【0059】
また、載荷棒4の端部4b,4bの下方には架台61,61をそれぞれ設置し、それらの架台61,61の上に変位計6,6を載せ、伸縮部6a,6aの上端面が載荷棒4の端部4b,4bの下面に当接するように架台61,61の高さなどを調整する。
【0060】
以上のようにして供試体3を載荷試験装置1にセットした後に、載荷手段5による載荷を開始する。この載荷は、静的載荷に相当するものとし、例えば油圧ジャッキ51による載荷速度が10-4 mm/sec程度となる載荷をおこなう。
【0061】
また、載荷中は、変位計6,6によって載荷棒4の端部4b,4bの変位量(押し下げられた量)を測定する。両方の端部4b,4bにそれぞれ設置された2つの変位計6,6の計測結果は、平均してその値を鉄筋の膨張量とする。
【0062】
このようにして載荷棒4を押し下げ続けると、ある時点で図4(a)に示すように、載荷棒4から斜め下方に向けてひび割れC1,C2が発生する。このひび割れC1,C2が、鉄筋(載荷棒4)が膨張した際に、表面(下面3a)近くのコンクリートに生じる剥離ひび割れといえる。
【0063】
なお、図4(b)に示した比較例は、供試体3の下面3aを支点9,9で支持させたものである。このように支点9,9で支持させてしまうと、載荷棒4から支点9,9に向けて圧縮ストラットD,Dが形成され、それに沿ったひび割れC3,C4が発生することになる。しかしながら、実際のコンクリート表面には支点9,9に相当するものはなく、このようなひび割れC3,C4は実際の剥離ひび割れを再現したものとは言い難い。
【0064】
次に、本実施の形態の載荷試験装置1及びそれを使った載荷試験方法の作用について説明する。
【0065】
このように構成された本実施の形態の載荷試験装置1は、支持フレーム2に吊り下げられるコンクリート製の供試体3に中央部4aを埋設させる載荷棒4と、その載荷棒4の端部4b,4bを押し下げる載荷手段5と、載荷棒4の変位を計測する変位計6とを備えている。
【0066】
このため、鉄筋が腐食して膨張した際にコンクリートを内部から押し広げる現象を的確に再現させることができる。また、載荷棒4の変位が鉄筋の膨張量と等しい又は比例しているとすれば、コンクリートにひび割れが起きるときの鉄筋の膨張量を知ることができる。
【0067】
すなわち、変位計6によって計測されたひび割れC1,C2が発生した時点の変位が、剥離ひび割れが起きるときの鉄筋の膨張量であるいえる。そして、経年による鉄筋の膨張量は公知の手段によって予測ができるので、膨張量から期間を逆算することによって、コンクリートがひび割れて剥離又は剥落が起きる時期を的確に予測することができる。
【0068】
また、鉄筋の膨張量を一律な変位として把握することができれば、非線形FEM(有限要素法)解析などによる解析的検討と実験結果との比較を容易におこなうことができる。
【0069】
また、載荷棒4の上方に載荷棒4と略直交する方向に向けた背面鉄筋7を埋設することで、背面に鉄筋が配置されている状態(図3のモデル化範囲S1,S2)を忠実にモデル化することができる。
【0070】
さらに、この背面の鉄筋の有無と剥離ひび割れの発生との因果関係が明らかでなくても、実際の状態を模擬した供試体3を製作することによって、実際の現象に即した試験をおこなうことができる。
【0071】
また、背面の鉄筋を模擬した背面鉄筋7の両側を折り曲げて連結ネジ棒71,71を形成することで、供試体3を支持フレーム2に吊り下げることができるうえに、載荷棒4の押し下げに対する反力も確保することができる。
【0072】
さらに、載荷棒4の両側の端部4b,4bを、回転を拘束しない状態で加圧可能な自由回転支圧部53,53を介して押し下げるようにすれば、載荷棒4の一方の端部4bが先行して押し下げられて載荷棒4が傾いてしまうようなことが起きず、水平状態を維持したままで載荷棒4を押し下げることができる。
【0073】
また、本実施の形態の載荷試験装置1を使った載荷試験方法であれば、コンクリートの強度、鉄筋のかぶり厚さ又は鉄筋径を変えて多くの試験をおこなうことができる。例えば、コンクリートの強度や鉄筋のかぶり厚さを決める際に、この載荷試験結果と所望する耐久期間とに応じて、コンクリートの強度や鉄筋のかぶり厚さを設定することができる。
【実施例1】
【0074】
以下、前記した実施の形態で説明した載荷試験装置1とは別の形態の載荷試験装置について、図5を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0075】
前記実施の形態で説明した載荷棒4は、図5(a)に示した鉄筋Rのように断面視円形に成形されたものであったが、実際にコンクリートCnの中に埋設された鉄筋Rは、図5(b)に示すように表面SFに近い部分が先行して腐食し、錆による膨張部Vは表面SF側に形成される。
【0076】
すなわち、鉄筋Rの錆は、コンクリートの表面SFからの劣化因子の浸入やかぶりコンクリートの劣化により発生するので、表面SFに近い部分に先に錆が生じると考えられる。
【0077】
一方、前記実施の形態で説明した載荷試験では、断面視円形の載荷棒4を真下に押し下げるため、図5(a)の矢印で示すように載荷棒4から真下のコンクリートCnに応力が伝達される。
【0078】
これに対して実施例1の載荷棒4Aは、図5(b)に示すように膨張部Vの形状を考慮して、鉄筋Rと膨張部Vとからなる断面を模擬した断面形状となっている。
【0079】
そして、このような載荷棒4Aを真下に押し下げると、図5(a)の載荷棒4とは違って、図5(b)の矢印で示すように載荷棒4Aを中心に広がって下方周辺のコンクリートCnに応力が伝達される。
【0080】
ここで、この実施例1の載荷棒4Aで模擬するのは、応力の伝達方向(作用方向)を再現するための膨張部Vの形状であり、膨張量はあくまで載荷棒4Aを押し下げた量になる。このため、例えば鉄筋Rの膨張後の形状を模擬した載荷棒4Aの直径は、膨張前の鉄筋Rの直径と等しくする。
【0081】
このような応力の伝達される方向の相違によって、ひび割れが発生するまでの載荷棒4,4Aの変位量に差が出るのであれば、載荷棒4Aの断面を鉄筋Rが膨張した後の断面の模擬形状にすることによって、剥離ひび割れが発生する際の現象を忠実に再現できているといえる。
【0082】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0083】
以下、前記した実施の形態で説明した供試体3の寸法を決定する方法について説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0084】
前記した載荷試験装置1を使った載荷試験方法は、コンクリート内部で載荷棒4,4Aを押し抜く載荷方法であり、供試体3全体に曲げが作用することが考えられる。他方、実際に発生する剥離ひび割れは、曲げによるものではないため、剥離ひび割れが発生する前に曲げひび割れが発生しないように供試体3の寸法を設定しなければならない。
【0085】
そこで、曲げひび割れ発生時の載荷荷重PMと剥離ひび割れ発生時の載荷荷重PHを算出し、PM≧PHとなるように供試体3の寸法を設定する。
【0086】
ここで、PHはかぶりcの増加関数となるため、かぶりc=30mmとしてPHを算出した。また、PMがPHの1.2倍程度になるように余裕を見込んだ寸法を設定した。なお、供試体3の横幅方向の側面から連結ネジ棒71までのかぶりは、付着ひび割れの発生を防止するために25 mmとした。
【0087】
そして、横幅L=200 mm、厚さb=50 mm、高さh=100 mm、連結ネジ棒71,71間隔(横幅方向の芯間隔)150 mmとした供試体3の寸法について計算すると、PM=1850N、PH=1561Nとなり、PM≧PHとなっていることが確認できた。
【0088】
このように供試体3を試験中に曲げひび割れが発生しない形状に製作することで、曲げによる影響を取り除くことができ、鉄筋の膨張に起因するひび割れの発生時期を精度良く予測することができる。
【0089】
また、このような供試体寸法であれば、載荷試験装置1を大型化させなくても良い。さらに、供試体寸法を抑えることができれば、コンクリートの強度、かぶり厚さ又は鉄筋径などのパラメータを変えた多くの試験を容易におこなうことができる。
【0090】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例1と略同様であるので説明を省略する。
【0091】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0092】
例えば、前記実施の形態では、一本の鉄筋を折り曲げて背面鉄筋7と連結ネジ棒71,71とを形成したが、これに限定されるものではなく、供試体3の両縁付近まで延伸された背面鉄筋の両端に、鉛直方向に向けて埋設される連結部としての連結ネジ棒の下端をそれぞれ接合させる構成であってもよい。また、この場合は、背面鉄筋の端部ではなく、途中の上面に連結ネジ棒の下端を接合させることもできる。
【0093】
また、前記実施の形態では、背面鉄筋7とそれに連続する連結ネジ棒71,71とによる支持材によって供試体3を支持フレーム2に吊り下げ、反力を確保したが、これに限定されるものではなく、背面鉄筋7とは別にアンカー部材を埋設させてそれを使って支持フレーム2に供試体3を吊り下げさせることもできる。
【0094】
さらに、前記実施の形態では、供試体3の上面を梁部22の下面に密着させたが、これに限定されるものではなく、供試体3の上面と梁部22の下面とは離隔していてもよい。
【0095】
また、前記実施の形態では、門形に形成された支持フレーム2について説明したが、これに限定されるものではなく、供試体3を吊り下げて支持できる形態であれば、脚部の数や梁部の数などは限定されない。
【0096】
さらに、前記実施の形態では、バネ式の変位計6について説明したが、これに限定されるものではなく、例えばレーザー変位計とターゲットとによって計測手段を構成してもよい。
【0097】
また、前記実施の形態又は実施例1では、載荷棒4,4Aの変位量を鉄筋の膨張量としたが、これに限定されるものではなく、実現象との比較により載荷棒4,4Aの変位量にある係数を掛けた値を鉄筋の膨張量とすることもできる。
【符号の説明】
【0098】
1 載荷試験装置
2 支持フレーム
21 脚部
22 梁部
3 供試体
3a 下面(表面)
4,4A 載荷棒
4a 中央部
4b 端部
5 載荷手段
51 油圧ジャッキ(ジャッキ部)
52 門形フレーム部
52a アーム
52b 本体
53 自由回転支圧部
6 変位計(計測手段)
7 背面鉄筋
71 連結ネジ棒
81a 鉛直方向鉄筋(鉄筋)
82a 帯鉄筋(鉄筋)
R 鉄筋
V 膨張部
SF 表面
F 基面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋の膨張が鉄筋コンクリートの表面に生じさせる現象を捉えるための載荷試験装置であって、
基面に間隔を置いて配置される複数の脚部と、それらの脚部間に横架される梁部とを有する支持フレームと、
前記支持フレームの前記梁部に吊り下げられるコンクリート製の供試体の下面から所定の値だけ上方に埋設させる中央部と前記供試体の両側から突出される端部とを有する載荷棒と、
前記載荷棒の端部を押し下げる載荷手段と、
前記載荷棒の端部の変位を計測する計測手段とを備えたことを特徴とする載荷試験装置。
【請求項2】
前記載荷棒の上方にそれと略直交する方向に向けて前記供試体の内部に埋設させる背面鉄筋と、その背面鉄筋の両側と前記梁部とを繋ぐ連結部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の載荷試験装置。
【請求項3】
前記載荷手段は、前記載荷棒の両側の端部の上面に回転を拘束しない状態でそれぞれ載置させる自由回転支圧部と、それらの自由回転支圧部からそれぞれアームが上方に延伸されて前記支持フレームを跨ぐように形成される門形フレーム部と、前記門形フレーム部を押し下げ可能なジャッキ部とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の載荷試験装置。
【請求項4】
前記載荷棒の断面は、鉄筋が膨張した後の断面の模擬形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の載荷試験装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の載荷試験装置を使った載荷試験方法であって、
前記載荷棒と表面との距離が所定の値になるようにコンクリートを打設して供試体を製作する工程と、
前記供試体の下面が試験中に前記基面に接触しない高さで前記供試体を前記支持フレームに固定する工程と、
前記供試体の両側から突出された前記載荷棒の端部を前記載荷手段によって押し下げるとともに、前記計測手段によって前記端部の変位を計測する工程とを備えたことを特徴とする載荷試験方法。
【請求項6】
前記供試体は、試験中に曲げひび割れが発生しない形状に製作されることを特徴とする請求項5に記載の載荷試験方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172975(P2012−172975A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31773(P2011−31773)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)