説明

輪転印刷機の用紙走行方法

【課題】印刷開始時における損紙を少なくする。
【解決手段】給紙部1から給紙される用紙6を印刷部2の最下流部に位置する印刷部引張りローラ7にて上記給紙ローラに対して常用の引き率で引張り走行させて印刷部にて用紙に印刷する輪転印刷機の用紙走行方法において、印刷開始時の低速度状態から常用速度までの間にわたって、上記常用の引き率より大きな引き率で印刷部引張りローラ7にて引張り走行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転印刷機の印刷開始時における紙送り速度で、特に印刷部、または印刷部と加工部の最下流側部における用紙走行方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は給紙部1、印刷部2、加工部3及び折部4を有する一般的な輪転印刷機を示すものであり、これの印刷作動時には、給紙部1から給紙ローラ5にて供給される用紙6が印刷部2の最下流部に設けた印刷部引張りローラ7にて所定の張力で引っ張られて走行し、その間に印刷部2における版胴S、ブランケット胴B、圧胴Pからなる複数の印刷ユニット2a,2b,2c,2dにて印刷されるようになっている。
【0003】
また、上記印刷部2の下流側の加工部3では、上記印刷部引張りローラ7を通過した用紙6が加工部引張りローラ8にて所定の張力にて引っ張られて走行し、その間にファイルパンチ9、マージナルパンチ10、横ミシン11、スリッタ12等の加工部にてそれぞれの加工がなされ、その後折部4にて横ミシン目に沿ってジグザグ折りされるようになっている。
【0004】
そして上記したように、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8はそれぞれの上流側の用紙6に張力を与えるために、印刷部引張りローラ7の回転周速は給紙ローラ5の送り速度に対して、例えば0.07%速く、すなわち引き率がプラス0.07になっており、また加工部引張りローラ8は印刷部引張りローラー7の回転速度に対して、例えば0.01%(従って給紙ローラ5の送り速度に対しては0.08%)速く、すなわち引き率がプラス0.01になるように制御されている。
【0005】
図1において13は、上記輪転印刷機の駆動ラインを示すもので、原動機14から延設された駆動軸15が印刷部2の各印刷ユニット2a〜2d、加工部3の各加工機の各ユニットに動力伝達装置15a,15b…を介して連結されており、各ユニットはこの駆動ライン13により、それぞれが同期回転するようにしてある。
【0006】
そして上記各ユニットにおいて、給紙ローラ5と印刷部引張りローラ7及び加工部引張りローラ8のそれぞれは差動装置16a,16b,16cを介して駆動されるようになっていて、これらの回転速度が任意に変えられるようになっていて、これらにより上記したように、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8が任意に回転制御でき、他のユニットの回転速度より高くなるようになっている。
【0007】
また、従来のこの種の輪転印刷機にあっては、印刷ユニット2a〜2dのそれぞれも差動装置を介してそれぞれの回転速度を可変にして、各印刷ユニット間の用紙の張力を上流側から下流側に向かって徐々に高くして、圧胴径のバラツキによる張力の不均衡が発生しないようにしたもの(例えば特許文献1参照)や、各印刷ユニットを独立した回転制御可能にした電動機にて駆動するようにして、印刷作業中における印刷の張力変動が少なく、かつ速度変動率が少なく安定性がよい引き率を自動的に設定できると共に、一度設定された引き条件を、張力が変動した際に速度変動が起きない程度に微調整し、設定張力が維持できるようにしたもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【0008】
このような従来の輪転印刷機において、印刷開始時にはこれの用紙の走行速度が見当合わせ走行時の低速運転状態(例えば10m/min)から通常運転時の常用速度状態(例えば200m/min)に立ち上げる際に、印刷部や加工部の下流側において見当ズレが発生する。
【0009】
これは印刷部2や加工部3に、案内ローラ等、走行する用紙によって従動回転される従動ローラがあるためで、増速時にはこの従動ローラの慣性力が用紙に作用して印刷部2や加工部3の最下流側に位置する引張りローラ7,8に対する抵抗力となり、この各引張りローラ7,8に対して用紙は走行方向上流側へ相対的に移動される(ずれる)現象が生じることによるものである。なお、印刷部2や加工部3内には、従動回転するローラだけではなく、駆動回転されて積極的に紙送りを行う圧胴Pや駆動ローラ7a,7aがあるが、これらはいずれもニップが不充分であり、そのほかに印刷胴には特に図示してないが、ドブ部分があって、これらによる紙送りが不完全となって紙送りのズレを防止できない。
【0010】
図2、図3、図4は上記の状態を示すもので、図2は一定の速度での運転時を示す。この一定速度による運転時には、印刷部2から印刷部引張りローラ7の間、及びこの印刷部引張りローラ7から加工部引張りローラ8の間の張力が一定で安定している状態であり、印刷部2にて横ミシン加工位置を示す横ミシントンボ17が印刷されたときに、加工部3の横ミシン11により、この横ミシントンボ17の位置に横ミシン目18が加工されている。
【0011】
図3は印刷開始時の加速状態を示すもので、このときに印刷部2と加工部3の各引張りローラ7,8の上流側で、この部分の従動ローラによる抵抗力が作用して、それぞれの部分の用紙6に抵抗力F,Fが作用し、各引張りローラ7,8を通る用紙6に遅れ(見当ズレ)が生じる。従って印刷部2にて印刷された横ミシントンボ17は加工部引張りローラ8に対して用紙6は常用速度より遅れて通過することになり、この加工部3での横ミシン11による横ミシン目18は、横ミシントンボ17よりXにわたって下流側にずれた位置に加工されてしまう様子が示されている。
【0012】
図4は、上記図3に示した状態から用紙6が走行して加工された横ミシン目18がLだけ移動して折部引張りローラ8の位置に達した状態を示す。この図4の状態は、加速開始直後であり、印刷部引張りローラ7で用紙6がニップされており、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8の間での張力変化がまだ印刷部2と印刷部引張りローラ7の間の張力に変化を及ぼしていないため、印刷部2により横ミシントンボ17の印刷位置は低速運転時の位置から移動していないことを示している。そして、このときの横ミシン目18の加工位置における印刷された横ミシントンボ17の位置は2Xだけ上流側へ移動することになり、この加速状態が継続することにより上記横ミシントンボ17は、実際の加工位置より3X,4Xと徐々に移動していくことになる。
【0013】
仮に、加工部3の従動ローラの慣性力による力が500gであり、距離Lにおける用紙6の遅れ量が0.05mmであり、低速度から常用速度まで増速する間にI0Lの距離にわたって用紙6が走行されたとすると、横ミシントンボ17と横ミシン目18の加工位置のズレである見当ズレがX=0.5mm発生することになる。
【0014】
そして、常用速度の一定速度になって従動ローラの回転のための慣性力による力がなくなった後に、上記の加速時に発生した見当ズレは徐々に減少して図2に示された定速運転の場合と同様となって横ミシントンボ17の位置に横ミシン目18が加工される安定状態に復帰する。
【0015】
【特許文献1】特開平10−17186号公報
【特許文献2】特開平10−236707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように、従来の輪転印刷機にあっては、印刷部の最下流側に設けられた印刷部引張りローラ7と加工部の最下流側に設けた加工部引張りローラ8のそれぞれの回転速度は、これらの上流側の用紙の走行速度より少し高めに設定されていて、印刷部2及び加工部3において、常用運転時における用紙に適当な張力が作用するようになっているが、上記それぞれの引張りローラにおける引き率は一定になっていたため、印刷開始時の低速運転から常用運転する間の加速時に上記したように見当ズレが発生してしまい、この間における用紙が損紙となってしまう。
【0017】
特に、図1に示した輪転印刷機のように、印刷部2に給紙部1から給紙される用紙6の裏面を印刷するための裏面印刷用の印刷ユニット2a,2dがある場合、このユニットには用紙6を反転走行するための従動ローラが多くあるため、このような輪転印刷機における印刷部での低速運転時での引張りローラでの引張り力は大きくなり、各印刷ユニットでの印刷見当が合うまで長い時間がかかり、その分上記した損紙も多くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記のことに鑑みなされたもので、印刷開始時における見当ズレをなくして、このときの損紙を少なくできるようにしたもので、この輪転印刷機の用紙走行方法は、給紙部から給紙される用紙を印刷部の最下流部に位置する印刷部引張りローラにて上記給紙ローラに対して常用の引き率で引張り走行させて印刷部にて用紙に印刷する輪転印刷機の用紙走行方法において、印刷開始時の低速度状態から常用速度までの間にわたって、上記常用の引き率より大きな引き率で印刷部引張りローラにて引張り走行させるようにした。
【0019】
また、他の方法として、給紙部から給紙される用紙を印刷部の最下流部に位置する印刷部引張りローラにて上記給紙ローラに対して常用の引き率で引張り走行させて印刷部にて用紙に印刷し、この印刷部引張りローラから下流側の用紙を加工部にて印刷部引張りローラに対して常用の引き率で引張り走行させて加工部にて用紙を加工する輪転印刷機の用紙走行方法において、印刷開始時の低速度状態から常用速度までの間にわたって、上記各常用の引き率より大きな引き率で印刷部引張りローラ及び加工部引張りローラにて引張り走行させるようにした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、走行する用紙によって従動される案内ローラを多く用いた輪転印刷機における印刷開始時における印刷部及び印刷部と加工部での見当ズレを少なくすることができて、このときにおける見当ズレによる損紙の量を少なくすることができ、用紙、インクなどの歩留まりを向上させることができる。
【0021】
また、印刷開始時の見当合わせ作業が容易、かつ短時間に行うことができ、機械操作において習熟性を必要とする操作を排除でき、機械操作者の負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る印刷開示時における紙送り速度の制御方法を図1及び図5以下に基づいて説明する。なお本発明方法は一例として図1に示した輪転印刷機に適用した例で説明する。
【0023】
図5は本発明方法を示すタイムチャートであり、(イ)運転信号をONにすると、原動機14が駆動されて輪転印刷機が始動され、印刷ユニット等の各ユニットは原動機14、原動軸15、動力伝達装置15a〜15kを介して駆動を開始する。
【0024】
そしてこのときの輪転印刷機の印刷速度(用紙の走行速度)は、(イ)のゼロから(ハ)の常用速度、例えば200m/minまで所定の時間、例えば15secの間にわたって上昇する。
【0025】
一方、輪転印刷機を駆動制御する制御装置から輪転印刷機の加速度を検出する加速検出パルスが出力されていて、この加速検出パルスにより(ロ)において輪転印刷機が加速中であるか否かが検出され、加速中であることが判定されるとこの(ロ)において加速制御信号がONとなる。この信号は上記機械速度の加速の間にわたって続けて出力される。
【0026】
上記加速制御信号がONとなると、この間にわたって印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8が増速度制御される。
【0027】
このとき印刷部引張りローラ7は、給紙ローラ5の周速に対する通常の引き率のプラス0.07に対して例えば2倍のプラス0.14の引き率となるように差動装置16bが制御される。一方、加工部引張りローラ8は、上記増速された印刷部引張りローラ7の周速に対する通常の引き率のプラス0.01に対して、例えば2倍のプラス0.02の引き率、すなわち給紙ローラ5の周速に対してプラス0.16の引き率になるように差動装置16cが制御される。
【0028】
所定時間の経過後、機械速度が、例えば200m/minの常用速度になると、加速検出パルスによる加速制御信号がOFFとなる。これにより印刷部引張りローラ7は減速されて給紙ローラ5の周速に対する引き率が通常の0.07になるように差動装置16bが制御されると共に、加工部引張りローラ8も同様に減速されて印刷部引張りローラ7に対する引き率が通常の0.01になるように差動装置16cが制御され、これより以降は常用運転となる。このときのフローチャートは図6に示すようになる。
【0029】
これにより、この輪転印刷機の印刷開始時における機械速度の増速時には、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8は印刷作業中の通常の回転速度より増速されて、印刷部引張りローラ7では、このときの給紙ローラ5の回転周速に対して0.14%速く回転され、ここでの用紙6は引き率0.14で引っ張られて走行する。
【0030】
従って印刷開始時における印刷部2における各案内ローラ等の従動ローラを走行に伴って駆動するため給紙ローラ5による走行速度より遅れ気味となる用紙6が、この印刷部2の最下流側に位置する印刷部引張りローラ7にて引っ張られて上記走行遅れが短時間で回復され、各印刷ユニット2a〜2dに印刷された画像、例えば横ミシントンボ17の位相が印刷部引張りローラ7の位置で一致される。
【0031】
また、このときにおける加工部3においても同様に、加工部3においての従動ローラによる用紙6の走行遅れが、印刷部引張りローラ7に対して通常より高い引き率で回転する加工部引張りローラ8にて短時間で回復される。この加工部3における横ミシン目18の加工が、印刷部2にて印刷された横ミシントンボ17にずれることなく行われる。
【0032】
上記したように、印刷開始時には、印刷部2及び加工部3における案内ローラ等の従動ローラの慣性力による抵抗により、この各部分を走行する用紙に遅れが生じて見当ズレが生じるが、このときの各部分の最下流部に設けられた引張りローラ7,8を増速してこれによる引き率を通常の引き率より大きくすることにより、この印刷開始時における見当ズレが短時間に解消される。
【0033】
本発明者らによるテストによれば、天地寸法が12インチの印刷物の印刷において、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8の各引き率を0.07,0.01の通常の値にした場合の見当ズレがなくなるまでの損紙量が60mでるのに対して、上記両引張りローラ7,8の回転制御を上記実施のようにして、印刷部引張りローラ7の引き率を0.14、加工部引張りローラ8の引き率を0.02にすることにより始動時においての見当ズレがなくなるまでの損紙量は42mであり、明らかに損紙量が減少された。
【0034】
上記した実施の形態では、印刷部引張りローラ7と加工部引張りローラ8の双方共、始動時に回転制御するようにした例を示したが、引張りズレ量が大きい印刷部2の引張りローラ7だけを回転制御するようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施の形態では1個の原動機14を用い、これの動力を原動軸15を用いて各装置に回転動力を伝達するようにした例を示したが、これは各装置にセクショナルモータ等、それぞれの装置を独立して回転制御可能にしたモータにて駆動するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を適用しようとする輪転印刷機及びその動力系を示す構成説明図である。
【図2】従来技術における低速走行時における用紙の引張り状態を示す説明図である。
【図3】従来技術における加速時における用紙の引張り状態を示す説明図である。
【図4】図3に示した状態から用紙がLだけ走行した状態を示す説明図である。
【図5】本発明方法を説明するためのタイムチャートである。
【図6】輪転印刷機の加速時における加速判定フローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1…給紙部、2…印刷部、2a,2b,2c,2d…印刷ユニット、3…加工部、4…折部、5…給紙ローラ、6…用紙、7印刷部引張りローラ、7a…駆動ローラ、8…加工部引張りローラ、9…ファイルパンチ、10…マージナルパンチ、11…横ミシン、12…スリッタ、13…駆動ライン、14…原動機、15a〜15k…動力伝達装置、16a,16b,16c…差動装置、17…横ミシントンボ、18…横ミシン目、S…版胴、B…ブランケット胴、P…圧胴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給紙部から給紙される用紙を印刷部の最下流部に位置する印刷部引張りローラにて上記給紙ローラに対して常用の引き率で引張り走行させて印刷部にて用紙に印刷する輪転印刷機の用紙走行方法において、
印刷開始時の低速度状態から常用速度までの間にわたって、上記常用の引き率より大きな引き率で印刷部引張りローラにて引張り走行させることを特徴とする輪転印刷機の用紙走行方法。
【請求項2】
給紙部から給紙される用紙を印刷部の最下流部に位置する印刷部引張りローラにて上記給紙ローラに対して常用の引き率で引張り走行させて印刷部にて用紙に印刷し、この印刷部引張りローラから下流側の用紙を加工部にて印刷部引張りローラに対して常用の引き率で引張り走行させて加工部にて用紙を加工する輪転印刷機の用紙走行方法において、
印刷開始時の低速度状態から常用速度までの間にわたって、上記各常用の引き率より大きな引き率で印刷部引張りローラ及び加工部引張りローラにて引張り走行させることを特徴とする輪転印刷機の用紙走行方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−1655(P2006−1655A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176668(P2004−176668)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【Fターム(参考)】