説明

輪転機用版胴の刷版クランプ装置

【課題】刷版の折り曲げ形状や寸法が異なったものでも印刷に支障なく版胴に刷版を装着できるようにする。
【解決手段】版胴1の表面近くで軸方向に設けた溝穴3内に、軸直角方向側面にクランプ爪を突設したクランプバー8を挿入し、溝穴の一方のエッジ7bにくわえ側を引っ掛けた刷版22のくわえ尻22aを、上記クランプバーのクランプ爪に引っ掛けて、このクランプバーを上記くわえ尻を引き込む方向に回動固定するようにした輪転機用版胴の刷版クランプ装置において、上記クランプバー8の両端部を版胴1側に回動可能に、かつ回動方向に固定可能にした偏心軸受9にて支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転機用版胴の刷版クランプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の輪転機用版胴の刷版クランプ装置は、図6に示すようになっていて、版胴aの溝穴bに挿入するクランプバーcに、板ばねにて鈎状に形成したクランプ爪dを固着し、溝eから挿入した刷版fのくわえ尻gを、このクランプ爪dにて引っ掛けてからクランプバーcをトグル機構を用いた図示しないクランプ作動装置にて、くわえ方向(図中左回転方向)に回動することによりクランプできるようになっている。このときクランプバーcの一部にて刷版fのくわえ部hを溝eのくわえ側壁面に押しつける。なお、上記クランプ爪dはクランプバーcに一体形成したものもある。
【0003】
刷版fを版胴aに安定的に装着するには、刷版fのくわえ部hが溝eのくわえ側壁面に浮き上がらないように押さえられていることと、クランプ爪dによる刷版fの引き込み量が適正に設定されていることが重要な条件である。
【0004】
そのため従来の刷版クランプ装置にあっては、上記クランプバーcを回動するためのクランプ作動装置には、トグル機構のクランプアームの作動方向両側に、これの回動範囲を設定するストッパが調整可能に設けられている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−66599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の刷版クランプ装置にあっては、図7に示すように刷版fのくわえ尻gの長さが、図6に示した場合より長い場合には、上記したクランプ方向のストッパを調整して刷版fのくわえ尻gを充分引き込むようにクランプバーcを回転させると、このクランプバーcの回動角が大きいため、クランプバーcが刷版fのくわえ部hの押さえ込みが可能な範囲から外れてしまい、この部分のクランプバーcによる押さえ込みができなくなるという問題が生じてしまう。
【0007】
また上記した従来の技術では、クランプ作動方向への回動範囲の調整は、トグル機構の回動方向のストロークを決めるストッパの突出長さを調整することによってなされるようになっているため、その調整ストロークをあまり大きくとることができず、自ずと作動方向への調整範囲は狭くならざるを得なかった。
【0008】
本発明は上記のことに鑑みなされたもので、刷版の折り曲げ形状や寸法が異なったものでも、印刷に支障することなく刷版を装着することができると共に、くわえ尻の形状や寸法が変化しても、このくわえ尻と共にくわえ部を重ねて押さえ込むことができるようにした輪転機用の刷版クランプ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明装置は、版胴の表面近くで軸方向に設けた溝穴内に、軸直角方向側面にクランプ爪を突設したクランプバーを挿入し、溝穴の一方のエッジにくわえ側を引っ掛けた刷版のくわえ尻を、上記クランプバーのクランプ爪に引っ掛けて、このクランプバーを上記くわえ尻を引き込む方向に回動固定するようにした輪転機用版胴の刷版クランプ装置において、上記クランプバーの両端部を版胴側に回動可能に、かつ回動方向に固定可能にした偏心軸受にて支持した構成になっている。
【0010】
そして上記構成において、刷版のくわえ尻とくわえ部を溝穴の一方のくわえ側壁面に沿わせ、くわえ尻を引き込むクランプ爪にて、このくわえ尻とくわえ部をくわえ側壁面に押しつけるようにした。
【0011】
さらに上記構成における偏心軸受にウォームホイルをこれの回転軸心Oと同心状にして設け、このウォームホイルに噛合するウォームを版胴に外部から回転作動可能にして設け、このウォームを回転することによりウォームホイルを介して偏心軸受を回転して、この偏心軸受に支持されるクランプバーの軸心を変えるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偏心軸受を回動することによりクランプバーの回動軸心を溝穴内にて変えることができて、このクランプバーに固着してあるクランプ爪のクランプ作動軌跡を変えることができ、このクランプバーの回動軸心を変えることにより、くわえ尻の曲げ形状や寸法が異なる刷版でも、印刷に支障なく版胴に装着することができる。
【0013】
そして上記のことから、標準構造の刷版クランプ装置にて複数の刷版の曲げ装置の仕様に対して広い範囲にわたって対応ができ、標準化によるコスト低減効果、及び保守性を向上することができる。
【0014】
そして本発明の請求項2に記載の構成では、上記のようにして曲げ形状や寸法が異なるくわえ尻をクランプしたクランプ爪にて、このくわえ尻と共にくわえ部を重ねてくわえ側壁面に押さえることができることにより、刷版のくわえ尻形状や寸法の変化にもかかわらず、くわえ部への押さえ込みが外れることなくクランプすることができる。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載の構成では、クランプバーの回動軸心をウォーム機構にて変えることができることにより、この回動軸心の変位を微小範囲にわたって、かつ容易に行うことができる。そして個々の版曲げ機の特性として有する微小な精度的偏向特性が存在する場合であっても、ウォーム機構による巻き込み位置調整によりこの偏向特性を相殺することができ、精度が高い安定した状態に刷版を装着することができる。
【0016】
そしてさらに、胴仕立ての変更時に刷版のくわえ尻部分の溝穴内への入り込み量の変化があった場合でも、クランプバーの軸心を微小に変えることにより調整することができて、精度の高い安定した版装着を可能とすることができる。
【0017】
また本発明によれば、クランプバーのクランク作動方向への回動範囲の調整を、このクランプバーの回転軸心の変動により対応することにより、上記回動範囲の調整を広い範囲にわたって行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態を図1から図5に基づいて説明する。図1において1は版胴であり、2はこの版胴1の両端に固着されたベアラである。3は版胴1の表面近くに軸方向に設けた溝穴で、この溝穴3の断面形状は、図2に示すように版胴1の表面に開口する溝4と、この溝4に対向する底部を円弧状にしたクランプバー受け部5と、このクランプバー受け部5の両側から上記溝4の縁であるエッジ部6a,6bに至る両側を対称の逆テーパー状にしたくわえ側壁面7a,7bとを有する形状になっている。
【0019】
8はこの溝穴3に挿入されるクランプバーであり、このクランプバー8の両端部は、偏心軸受9を介してベアラ2に支持されており、クランプバー8のベアラ2より突出した先端部にベアラ2の外側面に設けたクランプ作動装置10が連結されている。
【0020】
上記クランプバー8の両端部の構成は、軸方向で対称の同一構成となっているので、これの一方側(原動機側)について説明する。
【0021】
上記偏心軸受9は、ベアラ2に回動自在に嵌合する。これの回動中心Oに対して、クランプバー8の端部を回動自在に支承する偏心軸受穴9aの軸心OはRだけ偏心されている。偏心軸受9には、上記クランプバー8の端部が貫通するウォームホイル11が軸方向に一体にして設けてある。ウォームホイル11の外径部は、偏心軸受9の回動軸心Oと同心状になっている。
【0022】
上記偏心軸受9の回動軸心Oに対する軸受穴9aの軸心Oの偏心方向は、図2,図3に示すように、回動軸心Oに対して溝穴3の一方のくわえ側壁面7b側で、かつ後述するクランプ爪21の爪部21aによるくわえ作動側になっている。
【0023】
ウォームホイル11はベアラ2の内側に位置されており、これに噛合するウォーム12は図3に示すように版胴1に埋設されている。ウォーム12は版胴1に設けた穴13に回転自在に嵌挿され、止め輪部材14にて抜け方向に支持されている。そしてこのウォーム12の端面には六角穴15が設けてあり、この六角穴15に六角棒スパナを係合して回転することができるようになっている。ウォーム12の外側端面側には、カバー16がボルト17にて着脱可能に装着されていて、通常時にはこのカバー16を装着してこの部分にインクなどの侵入を防止している。
【0024】
クランプバー8を回動するクランプバー作動装置10は、上記した特許文献1に記載されたものと略同じ公知のものが用いられており、図4、図5に示すように、クランプバー8の先端部に固着されたクランプアーム18と、このクランプアーム18をクランプ位置とアンクランプ位置とにばね力に抗して回動するトグル装置19とからなっている。このトグル装置19は、クランプアーム18に設けた係合孔にレバー20の先端を係合してレバー20を回動することにより回動されるようになっている。クランプアーム18のクランプ作動側に、クランプ方向への回動範囲を決めるストッパ18aが設けてある。このストッパ18aは、ねじに構成されていて調整可能になっている。このストッパ18aはアンクランプ側にも設けてもよい。
【0025】
クランプバー8の軸方向の複数個所にクランプ21爪が固着してあり、図2においてクランプバー8がクランプ作動(右回転方向回動)した状態で、これの爪部21aにて刷版22のくわえ尻22aに係合して、これをクランプ方向に引き込むと共に、このくわえ尻22aと重ね合わせてくわえ部22bを一方のくわえ側壁面7bに押さえ込むようになっている。
【0026】
以下に上記構成の刷版クランプ装置を用いて、版胴1に刷版22を装着する作用を説明する。
【0027】
刷版22はくわ部22bを溝穴3に挿入して、このくわえ側面7bに沿わせた状態で一方のエッジ6bに引っ掛ける。その後、版胴1を1回転して刷版22を版胴1の表面に沿わせ、このくわ尻22aを溝穴3内に挿入する。このときのくわえ尻22aは、図6に示した従来のものと同様に、くわえ部22bに沿う方向に挿入する。このときクランプ作動装置10は、図4において左回転方向に回動して、クランプバー8をアンクランプ状態にしておく。クランプ作動装置10の回動は、これのクランプアーム18を、これに設けた係合孔に先端を係合したレバー20にて行う。そしてこのクランプアーム18のアンクランプ姿勢は、トグル装置19にて保持される。
【0028】
上記した状態でレバー20を上記アンクランプ作動方向とは逆方向に回動して、クランプアーム18をクランプ状態へ回動する。これによりクランプバー8が図2においてクランプ方向、すなわち右回転方向に回動し、これに固着してあるクランプ爪21の爪部21aにてくわえ尻22aを引き込む。そしてこのクランプ状態は、トグル装置19にて保持される。このときにおいてクランプバー8は、偏心軸受9の偏心軸心Oを中心に回動する。
【0029】
図2において実線で示されたクランプバー8及びクランプ爪21は、上記したようにこれの回動中心が偏心軸受穴9aの軸心Oが図2に示した位置にある場合であるが、この実線で示された状態が、例えば上記クランプ作動装置10の作動におけるクランプ状態であるとすると、図示のようにクランプ状態であるにもかかわらず、くわえ爪21の爪部21aがくわえ尻22aに係合されておらず、これではクランプ状態とはいえない。これはクランプバー8のクランプ回動角に対して刷版22のくわえ尻22bの長さが長いことによるものである。
【0030】
このような場合は、偏心軸受9を図2において右回転方向に回動して、これの偏心軸受穴9aの軸心Oを溝穴3の奥側へ移動する。これによりクランプバー8の軸心が溝穴3の奥側へ移動され、これに固着されているクランプ爪22も溝穴3の奥側へ移動される。
【0031】
図2の鎖線で示した状態が上記した状態で、クランプバー8の軸心はOからOへ移動されている。この状態で改めてクランプ作動装置10をクランプ作動することによりクランプバー8は軸心Oを中心にして回動され、クランプ爪21の爪部21aがくわえ尻22aに係合される。そしてこの状態で、クランプ爪21の先端部にてくわえ尻22とくわえ部22aが重ねられた状態で、一方のくわえ側壁面7bに押さえ込まれる。
【0032】
上記クランプバー8の軸心の移動はウォーム12を回転して、これに噛合したウォームホイル11を介して偏心軸受9を回動することにより行う。
【0033】
すなわち、ウォーム12の端面に固着してあるカバー1bを外してウォーム12の六角孔15に係合する六角棒スパナにてウォーム12を回転し、ウォームホイル11を図3において右回転方向に回動する。これにより図3におけるクランプバー8の軸心Oは、偏心軸受9の偏心半径に沿って溝穴3の奥側へ、例えば図2に示すOの位置へ移動される。このときのウォーム12によるウォームホイル11の回転量は、クランプ爪21とくわえ尻22aとの位置関係に応じて設定される。そしてこのウォームホイル11の所定角度の回転が行われた時点でウォーム12にカバー16を固定してウォーム12を嵌合している穴13を閉じる。また、この設定においては特に図示していないが、ウォーム12及び/またはウォームホイル11を押しねじ等にて固定するようにしてもよい。
【0034】
なお上記実施の形態では、くわえ尻22aが標準より長い場合であるが、これが標準より短い場合には偏心軸受9を上記と逆方向に回動して、クランプバー8のクランプ爪21のクランプ位置をこのときのくわえ尻22aに合わせる。
【0035】
上記したようにクランプバー8は偏心軸受9に支承し、この偏心軸受9を回転することにより、クランプバー8の偏心軸穴9aの軸心Oが、偏心軸受9の回動軸心Oに対して、クランプ爪21の爪部21a側で、かつ版胴1の半径方向に円弧状に移動するようになっている。そして上記した実施の形態では、上記偏心軸受9を回動する手段としてウォームホイル11とウォーム12からなるウォーム機構を用いた例を示したが、偏心軸受9を回動する手段としてはこれに限るものではなく、例えば偏心軸受9の外周部にスパナ等の工具が係合する工具係合部を設け、これにスパナ等の工具を係合して所定角度にわたって回動し、かつ止めねじ等にて固定するようにしてもよい。
【0036】
上記構成において、偏心軸受9によるクランプバー8の軸心Oの移動により、クランプ作動装置10におけるトグル装置19の作動長さが変化するが、これはトグル装置19にて吸収される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態を示す一部破断断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う拡大断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う拡大断面図である。
【図4】クランプ作動装置部を示す正面図である。
【図5】クランプ作動装置部を示す一部破断平面図である。
【図6】従来例を示す断面図である。
【図7】従来例の不具合状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1…版胴、2…ベアラ、3…軸穴、4…溝、5…クランプバー受け部、6a,6b…エッジ部、7a,7b…くわえ側壁面、8…クランプバー、9…偏心軸受、9a…軸受穴、10…クランプ作動装置、11…ウォームホイル、12…ウォーム、13…穴、14…止め輪部材、15…六角穴、16…カバー、17…ボルト、18…クランプアーム、18a…ストッパ、19…トグル装置、20…レバー、21…クランプ爪、21a…爪部、22…刷版、22a…くわえ尻、22b…くわえ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴の表面近くで軸方向に設けた溝穴内に、軸直角方向側面にクランプ爪を突設したクランプバーを挿入し、溝穴の一方のエッジにくわえ側を引っ掛けた刷版のくわえ尻を、上記クランプバーのクランプ爪に引っ掛けて、このクランプバーを上記くわえ尻を引き込む方向に回動固定するようにした輪転機用版胴の刷版クランプ装置において、
上記クランプバーの両端部を版胴側に回動可能に、かつ回動方向に固定可能にした偏心軸受にて支持した
ことを特徴とする輪転機用版胴の刷版クランプ装置。
【請求項2】
刷版のくわえ尻とくわえ部を溝穴の一方のくわえ側壁面に沿わせ、くわえ尻を引き込むクランプ爪にて、このくわえ尻とくわえ部をくわえ側壁面に押しつけるようにしたことを特徴とする請求項1記載の輪転機用版胴の刷版クランプ装置。
【請求項3】
偏心軸受にウォームホイルをこれの回転軸心Oと同心状にして設け、このウォームホイルに噛合するウォームを版胴に外部から回転作動可能にして設け、このウォームを回転することによりウォームホイルを介して偏心軸受を回転して、この偏心軸受に支持されるクランプバーの軸心を変えるようにしたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項記載の輪転機用版胴の刷版クランプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238523(P2008−238523A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80910(P2007−80910)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)
【Fターム(参考)】