説明

農作業機

【課題】一輪の駆動用車輪を有する簡易な構造の乗用型農作業機において、作業時の直進性を確保するとともに操舵性能を向上できる乗用型農作業機を提供する。
【解決手段】乗用型水田溝切り機は、1輪の駆動用車輪と、駆動用車輪に支持される本体フレームと、本体フレームに設けられた溝切り刃40とを備える。溝切り刃40は、本体フレームに固定された上取付部材49と、溝切り刃40の前端部上面側に固定される下取付部材48を有する。上取付部材49に下取付部材48が進行方向である前後方向に沿った軸回りに回転移動自在に取り付けられている。コイルスプリング57,57の付勢力により、上取付部材49と下取付部材48とが一つの平面内にほぼ配置された状態の中立位置からの移動が制限される。中立位置から下取付部材48が移動した場合には、コイルスプリング57.57の付勢力が中立位置に戻るように作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田溝切り機、水田中耕除草機あるいは水田施肥機等の乗用型もしくは歩行型農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用型農作業機として、一輪の乗用型水田溝切り機が知られている。この乗用型水田溝切り機においては、前後方向に延びる伝動軸用パイプ(本体フレーム)の後端部および前端部にそれぞれ、エンジンおよび減速機が取り付けられている。エンジンの回転動力は、伝動軸用パイプ内の伝動軸を介して減速機へ伝達される。減速機の出力軸には1つの駆動用車輪が取り付けられている。伝動軸用パイプには、ステーを介して搭乗部(サドル)および溝切り刃(溝切板、溝切体、バイト板)が取り付けられている。搭乗部は、駆動用車輪の中心の後方斜め上方に設けられ、溝切り刃は、搭乗部の後方斜め下方に設けられている。
したがって、乗用型水田溝切り機は、地面(水田)に対して、前側の駆動用車輪と後ろ側の溝切り刃とで支持された状態となっている。
【0003】
そして、この乗用型水田溝切り機を用いて、水田等の圃場において溝切りを行うには、作業者は搭乗部に跨って乗り、エンジンの回転駆動力により駆動用車輪を回転させて、この駆動用車輪により溝切り機を前進させる。そうすると、作業者の体重が駆動用車輪と溝切り刃とにより支持されるので、溝切り刃が加圧され、溝切り刃が所定深さに保持されて溝切り機が前進する。
【0004】
また、上述のように水田において溝切りを行う装置としては、乗用型田植機等の四輪の農作業機の後部に昇降機を介して左右に並んだ複数の溝切り刃を支持するフレームを取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
このような4輪の農作業機を用いたものは、どうしても全体としてコストが高くなってしまう。また、4輪の乗用型田植機は、水田を比較的安定して直進可能でかつ操舵による進路の微調整が可能ではあるが、水田の状況によってある程度は前後左右に傾く可能性がある。
【0005】
したがって、当該田植機に前記フレームを固定的に取り付けたり、固定的に取り付けたフレームに前記溝切り刃を固定的に取り付けたりすると、溝切り刃によって掘られる溝の深さが左右の溝切り刃で異なったりする可能性がある。また、複数の溝切り刃を設けることで、溝切り刃を水田中に配置した状態では、水田中の溝切り刃が受ける抵抗により、田植機の左右への旋回が難しくなる。
そこで、特許文献1では、溝切り刃を支持するフレームを田植機に対して弾性機構を介して左右にローリング自在に接続し、フレームに弾性機構による付勢力以上の力が作用した場合にフレームを左または右にローリングして、フレームの左右に設けられた溝切り刃により形成される溝の深さが左右でほぼ同じになるようにしている。
【0006】
この場合には、田植機が傾くことにより、フレームも傾こうとすると、フレームに溝切り刃を介して水田からの抵抗力(反力等)が作用し、傾く田植機に対してフレームは傾かない状態を保つことになり、上述のように左右で同じ深さの溝を掘ることが可能となる。
また、特許文献2では、溝切り刃の先端部をほぼ鉛直方向に沿った軸回りに回動可能にフレームに接続して溝切り刃を降ろしたままの状態での田植機の方向転換を容易としている。すなわち、水田中で溝を形成している溝切り刃によって、走行機体の方向転換が妨げられるのを防止している。
【0007】
【特許文献1】特許3075672号公報
【特許文献2】特許3444960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のような4輪の乗用型田植機等の走行機体に取り付けられるフレームを備えた溝切り機では、走行機体に対して、安定した深さの溝を形成するために、水田の状況や走行機体の体勢等に対応してフレームを上下動させる機構等が必要となり、さらに、上述のような左右の溝切り刃で深さを同じにする機構や、走行機体の走行が損われるのを防止する機構等が必要となり、複雑な構造を有し、コストが高くなってしまう。
【0009】
それに対して、一輪の駆動用車輪しか備えない農作業機では、極めて単純な構造とするとで、コストを低くすることができる。例えば、水田に溝を形成する際には、基本的に真っ直ぐな溝を形成できればよいので、操舵機能を設けない構成とすることでさらにコストの低減を図ることができる。
【0010】
しかし、このような一輪の農作業機では、溝切り作業時における水田(圃場)の状況等から農作業機に係る負荷が変動したような場合に、農作業機に対して曲げ応力が作用する場合があり、この場合に、農作業機を支持する一輪の駆動用車輪の向きと溝切り機の向きとにずれが生じて農作業機の直進性が損われる場合がある。
また、コスト低減のために簡単な構造にしたことから、操舵装置がなく、進行方向の僅かなずれを微調整することが難しかった。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、簡易な構造の一輪の駆動用車輪を備えた乗用型農作業機において、直進性を確保するとともに進行方向の僅かなずれを容易に調整することができる乗用型農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の農作業機は、1輪の駆動用車輪(4)と、地面側に配置される作業部(40)と、当該駆動用車輪(4)および作業部(40)に接続される本体部(10)とを備え、前記駆動用車輪と作業部とにより支持される農作業機において、前記作業部(40)を前記本体部(10)に対して所定範囲内で移動自在に設け、当該作業部(40)が中立位置から移動した際に、前記中立位置に戻す方向に付勢する弾性手段(57,68)を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載の発明においては、例えば、溝切り刃(40)等の作業部(40)を本体部(10)に対して所定範囲内で移動自在に設けたので、外部から農作業機に力が加わった場合に、水田中で農作業機を支持する駆動用車輪(4)と作業部(40)とのうち作業部(40)が移動(角度変更を含む)が可能となっているので、外部からの力をその部分で吸収して農作業機全体に曲げ応力がかかるのを防止し、かつ、外部から力が加わった際に、溝切り刃(40)側が移動することで駆動用車輪の向きがずれるのを防止することにより、直進性を確保することができる。
【0014】
また、基本的に駆動用車輪(4)と作業部(40)との2点で支持されていることから、二輪車とほぼ同様に農作業機を傾けることで進行方向の大まかな変更が可能となるが、従来は、固定された作業部(40)も傾くことで、例えば、溝を形成する場合に、溝が傾くなどの問題が生じるとともに、作業部(40)としての溝切り刃(40)が水田の泥中で溝を形成している状態、すなわち大きな抵抗を受けている状態で、溝切り刃(40)を好ましい角度に合わせて傾けることが困難で、農作業機を傾けて微妙な進路変更を行うことが難しい状態であった。
【0015】
それに対して、本発明では、所定範囲内で移動自在な溝切り刃(40)を傾けることなく、農作業機の他の部分(駆動用車輪(4)および本体部(40))を傾けることができるので、溝切り刃(40)が固定されている場合よりも軽い力で農作業機を傾けることが可能となり、進行方向の微調整が可能となる。また、傾けた際に、溝切り刃(40)が傾くことで溝形状が歪むのを防止することができる。
また、外部からの力により本体部(10)に対して相対的に移動した(傾いた)作業部(40)は、弾性手段により中立位置に戻されるとともに、弾性手段(57,68)の付勢力以下の力で簡単に移動してしまうのを防止することができる。なお、所定範囲内での移動には、回転移動や揺動も含まれるもので、例えば、本体部(10)と作業部(40)とを容易に弾性変形可能な部材で接続すれば、前後左右上下への揺動(回転移動を含む)が可能となるとともに、略平行的な移動も可能となる。
【0016】
ただし、強度上弾性部材だけで支持するのは難しいので、作業部(40)の支持を弾性部材と剛性のある部材とを組み合わせて用いることで、揺動を含む移動の方向が制限されているものも本発明に含まれるものである。また、この弾性部材と剛性のある部材との組み合わせにおいて、弾性部材が本発明の弾性手段(57,68)となっていてもよい。
【0017】
請求項2に記載の乗用型農作業機は、請求項1に記載の発明において、前記作業部(40)を前記本体部(10)に略前後方向に沿った軸回りに回転自在に取り付けることで左右に回転移動自在とし、前記中立位置から回転移動した前記作業部(40)を前記中立位置に戻す方向に付勢する前記弾性手段(57)としてのバネ(57)を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の発明においては、作業部(40)が前後方向に略沿った軸回りに左右に傾くように回動自在となっているとともに、弾性手段(57)としてのバネ(57)により傾いた作業部を元の中立位置に戻せるようになっており、上述のように外部からの応力による進行方向のずれの防止に基く直進安定性の向上と、作業部(40)を除く部分を傾けることによる進行方向の微調整を可能とすることができる。
【0019】
請求項3に記載の乗用型農作業機は、請求項1に記載の発明において、前記作業部(40)を前記本体部(10)に弾性ゴム(68)を介して取り付けることにより揺動自在とし、前記弾性ゴム(68)が前記弾性手段(68)として、前記中立位置から揺動した前記作業部(40)を前記中立位置に戻す方向に付勢することを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の発明においては、弾性ゴム(68)を介して本体部に作業部が接続されているので、弾性ゴム(68)の弾性変形により作業部を移動可能とすることができるとともに、弾性ゴム(68)の弾性力により作業部が揺動した際に元の中立位置に戻すことができる。これにより、上述のように外部からの応力による進行方向のずれの防止に基く直進安定性の向上と、作業部を除く部分を傾けることによる進行方向の微調整を可能とすることができる。なお、強度上、弾性ゴム(68)よりも剛性の高い部材を用いて移動範囲を制限することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の乗用型農作業機によれば、1輪の駆動用車輪により走行し、当該駆動用車輪と作業部とで支持される農作業機において、作業部を本体部に所定範囲内で移動自在とするとともに、弾性手段によって中立位置に戻せるようにすることで、圃場の状況により曲げ応力がかかるような状況でもこれを緩和して直進性を高めることができる。また、揺動自在な作業部に対して、その他の部分を傾けることで、進行方向の微調整を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1〜図5は、本発明の第1の実施の形態に係る乗用型水田溝切り機を示す図であって、図1は側面図であり、図2は要部としての溝切り刃の平面図であり、図3は要部としての溝切り刃の側面図であり、図4は要部としての溝切り刃の背面図であり、図5は図3のAA矢視断面図である。
【0023】
この乗用型水田溝切り機(乗用型農作業機)は、後方側が少し高くなって斜めに前後方向に延びる伝動軸用パイプ1を備えている。この伝動軸用パイプ1の後端部および前端部にはそれぞれ、エンジン(原動機)2および減速機3が取り付けられている。エンジン2の回転動力は、伝動軸用パイプ1内の伝動軸(図示せず)を介して減速機3へ伝達される。減速機3の出力軸(駆動軸)3aは、減速機3のケースから進行方向右側(後側から見て右側)に水平に突出しており、この出力軸(車軸)3aには、駆動用車輪4が1つ取り付けられている。この駆動用車輪4は、減速機3を介して減速されて伝達されるエンジン2からの回転動力により回転駆動される。
【0024】
減速機3の上部には、上側に向かって少し斜め後方に延びる前パイプ11が取り付けられている。また、伝動軸用パイプ1の後端部近傍には、上側に向かって略45度の角度で斜め前方におよび略垂直に延びる中パイプ14および後パイプ15が取り付けられている。すなわち、伝動軸用パイプ1の後端部近傍の上側に中パイプ14および後パイプ15の下端部が溶接により固定されている。中パイプ14の上端部は前パイプ11の上端部近傍に溶接により固定されている。
【0025】
また、伝動軸用パイプ1の後端部近傍には、下側に向かって斜め後方に延びる下パイプ16が取り付けられている。すなわち、伝動軸用パイプ1の後端部近傍の下側に下パイプ16の上端部が溶接により固定されている。これらの伝動軸用パイプ1、前パイプ11、中パイプ14、後パイプ15および下パイプ16によりパイプからなる本体フレーム(本体部)10が構成されている。この本体フレーム10は、前後方向に沿って上下に垂直に延びるフレーム構造となっている。なお、伝動軸用パイプ1と下パイプ16との下側には、補強板17が溶接により固定されている。
【0026】
本体フレーム10の上側には、搭乗部(サドル)20が次のように取り付けられている。すなわち、本体フレーム10の前パイプ11および後パイプ15の上端部には、板状の四角枠21が固定され、一方搭乗部20の下部には、前側の左右2箇所および後側の中央部1箇所に下方に延びる取付板22が固定されており、これらの取付板22がそれぞれ、四角枠21の前側の左右および後側の中央部にボルト23により固定されている。取付板22には、上下に間隔をおいて複数個の取付孔24が形成されており、ボルト23が挿入される取付孔24の位置を選択することにより搭乗部20の取付高さを変えることができるようになっている。
【0027】
四角枠21は、進行方向左側(後側から見て左側)において水平に前後方向に直線状に延びる部分が本体フレーム10の前パイプ11および後パイプ15の上端部に固定されており、したがって四角枠21は前後方向に沿って上下に延びる本体フレーム10より進行方向右側に水平に突き出ており、これにより搭乗部20の左右方向中心部は、駆動用車輪4の左右方向中心部から少し右側に位置している。この搭乗部20は、駆動用車輪4の後方斜め上方に位置している。
【0028】
搭乗部20には、この搭乗部20の前方上方の位置に、左右に水平に延びるパイプからなるハンドル30が次のように取り付けられている。すなわち、搭乗部20の下部中央部には、この搭乗部20の下側を前後方向に延びさらに搭乗部20の前側を上側に向かって少し斜め前方に延びるパイプからなるハンドル支持部材31が固定されており、このハンドル支持部材31の上端部近傍に支持金具32が固定され、この支持金具32にハンドル30が固定されている。
【0029】
ハンドル30には、スロットルレバー(図示せず)が取り付けられており、このスロットルレバーによりエンジン2のスロットル開度、すなわちエンジン2の出力を調整する。また、ハンドル30には、ストップスイッチ(図示せず)が取り付けられており、このストップスイッチによりエンジン2の点火プラグへの電流の流れをショートさせ、エンジン2の駆動を停止させる。
【0030】
また、搭乗部20には、持ち上げて移動するための把手部材34が取り付けられている。この把手部材34は、パイプからなり、扁平なU字状に形成されており、両端部を両手で把持することによりこの乗用型水田溝切り機を持ち上げて運搬することができるようになっている。
【0031】
前記駆動用車輪4は、複数個のラグ51が固定されている。なお、駆動用車輪4は、ラグ51が固定される外輪と、減速機3の出力軸3aが固定される円筒状のハブと、外輪とハブとを連結する複数個のスポークとを備えている。また、駆動用車輪4には、外輪とハブと複数個のスポークとにより形成される空間に作業者の脚部が巻き込まれるのを防止する板状の防護部材56が設けられている。この防護部材56は、前記空間のうち中心部の十字状の空間を除く殆どの空間を閉塞するように駆動用車輪4に取り付けられている。
【0032】
また、搭乗部20の後方斜め下方には、溝切り刃(作業部)40が設けられている。すなわち、下側に向かって斜め後方に延びる下パイプ16の下端部には、溝切り刃40が後述のように略前後方向に沿った軸回りに回転自在に取り付けられている。
作業部としての溝切り刃40は、任意の横断面において略左右対称な構造となっており、概略V字状の水田の溝の側面を形成するための左右の側板部41,41と、側板部41,41の上端から左右方向外方へ張り出した左右の張り出し板部42,42と、溝切り刃40の後端部の底部に設けられ、溝の底面を形成するための左右の底板部43,43とを備えている。左右の側板部41,41、張り出し板部42,42、底板部43,43はそれぞれ、アルミニウム合金、ステンレス鋼あるいは鋼板等からなる1枚の金属板が折り曲げられて形成されている。
【0033】
左右の各側板部41,41は、前側に向かうにつれて高さ方向の寸法が短くなるように形成されて、これらの両側板部41,41が横断面において概略V字状になるように下端部の大部分が突き当てられ、そして前側が上になるように斜めに配置されている。両側板部41,41の下端部のうち、後側部分を除いて突き当てられている部分は、一定の狭い寸法で重ねられて接合され、これにより前側が上になるような斜めに延びる接合部45が形成されている。
【0034】
左右の底板部43,43は、左右の側板部41,41の下端の後端部のみに設けられている。すなわち、両側板部41,41の下端部の接合部45の後側には、後側に向かって広がる概略三角形状の空間が形成されており、左右の各側板部43,43の下端からそれぞれ、各底板部43、43が左右内方に向かって張り出して、この空間内に位置している。各底板部43,43は、後側に向かって広くなる概略三角形状(ただし、後側の対向する角は丸く形成されている。)に形成されており、後側に向かうにつれて少し上側に位置するように少し傾斜している。両底板部43,43の間には、間隙46が設けられている。
【0035】
左右の張り出し板部42,42は、後側に向かうにつれて幅が広くなっており、両張り出し板部42,42の前端部は、左右の張り出し板部42,42に左端部もしくは右端部を溶接により固定された2枚の板状の連結部材47,47により連結されている。これら連結部材47,47のうちの左の連結部材47は、左の端部が上述のように左の張り出し板部42に固定され、右の端部がほぼ水平な状態から鉛直な状態に屈曲して形成されている。
【0036】
右の連結部材47は、右の端部が上述のように右の張り出し板部42に固定され、左の端部が略水平な状態から鉛直な状態に屈曲して形成されている。そして、左の連結部材47の右端部と、右の連結部材47の左端部とが略平行に配置されるとともに、間に後述の下取付部材48を挟んだ状態で接合されている。
そして、連結部材47および当該連結部材47により左右の張り出し板部42,42に接合された下取付部材48は、後述のように溝切り刃40を前記下パイプ16に取り付けるための取付構造の一部を構成している。
【0037】
両張り出し板部42,42の後端部は、ターンバックル50により連結されている。このターンバックル50は、両底板部43,43の間の間隙46の上方に位置しており、作業者はこのターンバックル50の長さを調整自在することにより、間隙46の寸法、すなわち前後方向に関してターンバックル50の位置における左右の張り出し板部42,42の間隔を調整することができる。
【0038】
そして、上述のように溝切り刃40は、上述の連結部材47位置で、本体フレーム10の下パイプ16に取り付けられる。
この際に、下パイプ16には、概略コ字状の支持部材61が取り付けられている。支持部材61は、下パイプ16の進行方向に右側に下パイプ16から離間した状態に配置されている。また、支持部材61は、下パイプ16に沿った方向に長く延在する矩形板状に形成されているとともに、略鉛直方向に沿った平板状となっている。そして、支持部材61の前後両端部(下パイプ16に沿った斜めの状態で前後の端部)には、下パイプ16に向かう接合部が形成され、当該接合部の先端部が下パイプ16に溶接されることで、支持部材61が下パイプ16に固定されている。
【0039】
また、支持部材61には、その長さ方向に沿って間隔をあけるとともに並んだ状態で2つのボルトを挿通するためのボルト孔が形成されている。
そして、溝切り刃40には、前記支持部材61に固定される上取付部材49と、当該上取付部材49に回動自在に連結される前記下取付部材48とを備える。
上取付部材49は、その上部が上述のように下パイプ16に沿って前から後に下り傾斜して配置された支持部材61に対応した形状を有し、当該上取付部材49は、支持部材61の長手方向に沿って上辺が前から後に下り傾斜して形成されるとともに、当該下り傾斜した上辺に沿って間隔をあけるとともに並んだ状態で2つのボルトを挿通するためのボルト孔62,62が形成されている。
【0040】
そして、上取付部材49は、前記支持部材61に前記ボルト孔62を貫通するボルトにより締結される。したがって、上取付部材49は、進行方向と平行でかつ鉛直方向に沿った状態となっている。
そして、上取付部材49の下辺は、ほぼ水平とされるとともに、2つの筒部52,52が同軸上に間隔をあけて形成されている。すなわち、上取付部材49の下端部には、2つの筒部52,52が設けられている。
また、筒部52,52の軸方向は、乗用型水田溝切り機の進行方向に沿ったもの、すなわち、乗用型水田溝切り機の前後方向に沿ったものとなっている。
【0041】
また、筒部52,52の軸方向に沿った長さは、これら筒部52,52同士の間隔より僅かに短いものとなっている。
なお、筒部52,52は、上取付部材49の下部において、帯状に2本の延出部を一体に設け、この帯状の延出部を筒状に丸めることで形成されている。
一方の下取付部材48は、その上下の中央部が上述のように連結部材47,47を介して溝切り刃40に固定され、乗用型水田溝切り機の進行方向(前後方向)に沿うとともに、鉛直方向に沿ったものとなっている。なお、下取付部材48の下端部は、連結部材47,47の張り出し板部42,42に固定された端部の反対側の下方を向く端部よりも下側に延出した状態となっている。
【0042】
そして、溝切り刃40に固定された状態の下取付部材48は、その上端部に、上取付部材49と同様に、二つの筒部53,53が同軸上に間隔あけて形成されている。また、この筒部53,53は、上取付部材49の筒部52,52と略同じサイズで、2つの筒部53,53の間隔も上取付部材49と同じとされている。
そして、筒部52,52の軸方向は、乗用型水田溝切り機の進行方向に沿ったもの、すなわち、乗用型水田溝切り機の前後方向に沿ったものとされている。
【0043】
そして、上取付部材49の下側の二つの筒部52,52の間に、下取付部材48の前側の筒部53を配置し、下取付部材48の2つの筒部53,53の間に上取付部材49の後側の筒部52を配置した状態で、これら4つの筒部52,53を同軸上に配置する。
そして、これらの筒部52,53の全てに挿通するように一本の丸棒状の芯材(回転軸)を挿入することにより、これら筒部52,53が互いに回転自在に接合された状態となる。
【0044】
したがって、本体フレーム10の下パイプ16に固定される上取付部材49に対して、溝切り刃40が固定された下取付部材48が筒部52,52および筒部53,53とこれらに挿入された芯材とによって回転自在となる。そして、この際の回転軸は、乗用型水田水きり機の前後方向に沿ったものとなり、この前後方向に沿った軸回りに溝切り刃40が回転可能となる。なお、筒部52,52および筒部53,53のうちの一方を芯材に固定し、他方を芯材に対して自由に回転するものとしてもよい。
【0045】
また、前記上取付部材49の左右の側面のそれぞれにはアングル部材54,54が固定されている。アングル部材54,54は、一方の板部に他方の板部が直角に屈曲して接合された形状の板体であり、一方の板部が上を向いた状態で上取付部材48の側面に溶接され、他方の板部が上取付部材49に対して直角でほぼ水平に左もしくは右に延出した状態となっている。
【0046】
また、左右のアングル部材54,54の上取付部材49に対する取り付け位置は、取り付けられる上取付部材49の側面が左右で異なる以外は同じとなっており、前後方向および上下方向の取り付け位置が同じとなっている。
また、アングル部材54,54の左もしくは右に延出する板部には、ボルトを挿通する挿通孔が形成されている。
【0047】
一方、左右の連結部材47,47には、当該連結部材47,47の略水平な上面に対して直角にボルト55,55が接合され、当該ボルト55,55の上端部がアングル部材54,54の挿通孔に挿通されるとともに、ボルト55,55の上端部がアングル部材54,54の水平な板部より上に突出した状態となっている。また、アングル部材54,54の挿通孔の内径は、ボルト55,55の外径よりも僅かに大きく形成されており、上取付部材49に対して下取付部材48を介して連結部材47,47がある程度の範囲で揺動することを許容している。
【0048】
また、前記ボルト55,55の上端部には、前記アングル部材54,54より上側に2個ずつのナット58,58が螺合されるとともに、2個のナット58,58を互いに接触する状態に螺合することで、ボルト55,55に対するナット58,58の位置を固定している。
なお、後述のように溝切り刃40が揺動した場合に、ナット58,58に対してアングル部材54,54が移動するので、ボルト55,55の位置を固定した状態とする必要がある。また、ナット58,58の位置、すなわち、締め付け量は、後述のコイルスプリング57,57のバネ荷重との関係と、溝切り刃40の回転移動をどの程度の力で可能とするか等を考慮して決められる。
【0049】
また、上記アングル部材54,54と連結部材47,47との間には、左右それぞれにコイルスプリング(バネ)57,57が配置されている。また、コイルスプリング57,57内には、上述のボルト55,55が挿入された状態となっている。また、コイルスプリング57,57の上端部がアングル部材54,54に接触し、コイルスプリング57,57の下端部が連結部材47,47に接触している。なお、連結部材47,47およびアングル部材54,54のうちの少なくとも一方に、コイルスプリング57,57が接合されているものとしてもよい。
【0050】
そして、このような溝切り刃40の取付構造により、溝切り刃40は、本体フレーム10に対して、前後方向に沿った軸回りに回転移動自在、すなわち、揺動自在となっているとともに、アングル部材54,54に形成された挿入孔に挿入されたボルト55,55の干渉により、溝切り刃40の回転移動範囲が制限されている。なお、回転移動範囲の制限は、溝切り刃40が本体フレーム10に対して過度に傾くの防止するものであり、その範囲は、例えば、実験等により使用に対して適切となるように決定する必要がある。
【0051】
また、コイルスプリング57は、溝切り刃40が右に傾くと、右側のコイルスプリング57が圧縮され、左にかたくむと左のコイルスプリング57が圧縮されることになり、これらコイルスプリング57,57を圧縮するのに要する力が溝切り刃40を左右いずれかに揺動させる際の抵抗となる。すなわち、コイルスプリング57,57は、溝切り刃40が中立位置、すなわち、下取付部材48と上取付部材49とが略平行となっている状態から回転移動させる際には、コイルスプリング57,57の付勢力に抗する必要がある。
【0052】
また、コイルスプリング57,57の付勢力に抗して溝切り刃40を左右いずれかに回転移動させた際には、コイルスプリング57,57により溝切り刃40を中立位置に戻す力が作用することになる。これにより、溝切り刃40を回転移動する力がコイルスプリング57,57の付勢力より弱くなれば、溝切り刃40は弾性変形したコイルスプリング57,57の弾性力(バネ力)により、中立位置に戻されることになる。
【0053】
このような構成となっていることで、この乗用型水田溝切り機においては、水田における溝切り作業中に水田内の泥等の状況により、前進する乗用型水田溝切り機に外力が作用して曲げ応力が生じるようなこと、すなわち、応力変位が生じて、乗用型水田溝切り機の進行方向がずれるように作用しても、溝切り刃40が乗用型水田溝切り機の前後方向(進行方向)に沿った軸回りにコイルスプリング57,57の付勢力に抗して回転移動することで、乗用型水田溝切り機を牽引した状態の駆動用車輪4に対して溝切り刃40が追従する方向に移動し、乗用型水田溝切り機の直進性を高めるように作用する。
【0054】
また、乗用型水田溝切り機の進行方向が微妙にずれたことや、植えられた苗の列が直線からずれているようなことに基いて、乗用型水田溝切り機の進行方向を微調整する際に、溝切り刃40に対して乗用型水田溝切り機の溝切り刃40以外の部分(駆動用車輪4、本体フレーム10、搭乗部20、本体フレーム10、ハンドル30等)を傾けて、進行方向を僅かに曲げて微調整することができる。
【0055】
従来のように乗用型水田溝切り機全体を傾けること、すなわち、少なくとも一部が水田中にある駆動用車輪4と溝切り刃40との両方を傾けるよりも、前側の駆動用車輪4だけを傾ける方が、小さな力で傾けることが可能となるとともに、進行方向の微調整を容易に行うことが可能となる。
すなわち、乗用方水田溝切り機の操舵性を向上することができる。
【0056】
図6および図7は、本発明の第2の実施の形態の乗用型水田溝切り機(農作業機)の本体フレーム10の下パイプ16の支持部材61と、溝切り刃40との取付構造を示す図面であり、図6は側面図であり、図7は要部断面図である。なお、第2の実施の形態において、支持部材61と溝切り刃40の取付構造以外の部分は第1の実施の形態と同様の構成となっており、前記取付構造以外の部分の説明を省略する。
【0057】
図6に示す溝切り刃40においては、第1の実施の形態の下取付部材48および上取付部材49およびアングル部材54,54、ボルト55,55、ナット58,58等がなく、溝切り刃40には、下取付部材48と上取付部材49とが固定的に一体になった板状の形状を有する取付部材63が、下取付部材48と同様に、連結部材47,47に挟まれて固定された状態となっている。
【0058】
なお、取付部材63は、鉛直方向に沿うとともに溝切り刃40が中立位置となっている際に乗用型水田溝切り機の進行方向に沿った一枚の板状に形成され、上述の上取付部材49と同様のボルト孔62が2つ形成されている。
なお、取付部材63の取付構造は、第1の実施の形態の下取付部材48と同様である必要はなく、例えば、連結部材47を左右2枚の張り出し板部42,42に架け渡された状態の1枚の板体とし、この1枚板体に取付部材63の下端を溶接するものとしてもよいし、その他の構造としてもよい。
【0059】
そして、取付部材63は、2つのボルト孔62,62を有する第1の実施の形態の上取付部材49の上端部と同様の構造を有する部分に、同様に2つのボルト孔62を有し、ボルト65により、支持部材61に締結されるようになっている。但し、この例では、支持部材61と取付部材63との取付構造に、支持部材61の両端部の下パイプ16側に屈曲した部分を除く板状の部分と同様の矩形板状で、支持部材61と同様の位置に2つのボルト孔64を有する取付座金67と、当該取付座金67と同様の形状を有し、ボルト孔64,64を備えた二枚の弾性ゴム板(弾性ゴム)68,68と、ボルト孔62、ボルト孔64および後述のボルト孔66に挿入されるとともに、ボルト65が挿通される挿通孔を備えた円筒状の取付間座69とが備えられている。
【0060】
なお、支持部材61にも、上述の各ボルト孔62,64と同様の間隔で2つのボルト孔66を有する。
そして、これらは、支持部材61の板状部分と、取付座金67との間に取付部材63の上端部が配置され、支持部材61の板状部分と、取付部材63の上端部との間に一枚の弾性ゴム板68が配置され、取付部材63の上端部と取付座金67との間に弾性ゴム板68が配置されている。すなわち、支持部材61に取付部材63を取り付ける際の取付構造は、支持部材61の板状部分、弾性ゴム板68、取付部材63の上端部、弾性ゴム板68、取付座金67の順で、これらが重ねられた積層構造を有する。
【0061】
弾性ゴム板68の材料としては、周知の各種合成ゴム、天然ゴム、所謂合成ゴム以外のゴム状の各種合成樹脂を用いることができる。
また、積層された各部材のボルト孔62,64,69には、これらを貫通するように円筒状の取付間座69が挿入されている。
そして、取付間座69内に挿入されたボルト65と、ナット70により、これら積層した部材が一体に締結されることになる。なお、取付間座69の長さは、例えば、これら支持部材61、取付部材63、取付座金67および弾性ゴム板68を合わせた厚さより例えば僅かに短いものとなっており、弾性ゴム板68が僅かに圧縮された状態となっている。
【0062】
このような取付構造により、溝切り刃40の取付部材63は、2枚の弾性ゴム板68に挟まれた状態であり、これにより左右の弾性ゴム板68を圧縮するようにして揺動することが可能となっている。
なお、ボルト65および取付間座69の方向に沿って僅かながら平行移動することも可能である。また、取付部材63、すなわち溝切り刃40の移動範囲は、基本的に取付部材63の左右に配置される支持部材61と取付座金67とに制限されるとともに、弾性ゴム板68が圧縮しても厚みが0となることはありえないので、二枚の弾性ゴム板68によっても制限される。
【0063】
また、取付間座69によっても進行方向に沿うとともに、垂直面に沿った平面の面方向に沿った移動が制限されることになる。すなわち、取付間座69に垂直な方向への移動が制限される。なお、取付部材63のボルト孔64,64の内径は、当該ボルト孔64,64に挿入される取付間座69の外径より僅かに大きい必要があり、これにより、取付部材63の揺動が可能となる。
【0064】
なお、基本的に取付部材63を二枚の弾性ゴム板68,68に挟まれた状態で支持されており、支持部材61に支持された弾性ゴム板68,68と、取付間座69(ボルト65)とにより支持されているということができ、弾性ゴムを介して本体フレーム10に支持されていることになる。
【0065】
また、第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様の前後方向に沿った軸回りの回転移動とほぼ同様の揺動が可能であり、かつ、上下方向に沿った軸回りの揺動も可能となっている。
基本的には、前後方向に沿うとともに鉛直方向に沿った平面内、すなわち、ボルト65よび取付間座69に直交する平面内に配置可能な軸の軸回りに揺動可能となっている。
このような構成により第1の実施の形態と同様に、乗用型農作業機の直進性の向上を図るとともに、操舵性の向上を図ることができる。
【0066】
また、上述の実施の形態では、本発明を乗用型水田溝切り機に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、乗用型水田中耕除草機あるいは乗用型水田施肥機等にも適用することができる。この場合、作業部としての溝切り刃が除草部あるいは施肥部等に代えられる。また、上述の搭乗部を持たず、作業者が歩きながら手で支持した状態で、作業を行う歩行型農作業機に本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係る乗用型水田溝切り機を示す図であって、側面図である
【図2】前記乗用型水田溝切り機の溝切り刃とその取付構造を示す平面図である。
【図3】前記溝切り刃とその取付構造を示す側面図である。
【図4】前記溝切り刃とその取付構造を示す正面図である。
【図5】図3のA−A矢視断面図である。
【図6】第2の実施の形態の前記溝切り刃とその取付構造を示す正面図である。
【図7】図6のB−B矢視断面図である。
【符号の説明】
【0068】
4 駆動用車輪
10 本体フレーム(本体部)
40 溝切り刃(作業部)
57 コイルスプリング(弾性手段、バネ)
68 弾性ゴム板(弾性手段、弾性ゴム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1輪の駆動用車輪(4)と、地面側に配置される作業部(40)と、当該駆動用車輪(4)および作業部(40)に接続される本体部(10)とを備え、前記駆動用車輪と作業部とにより支持される農作業機において、
前記作業部(40)を前記本体部(10)に対して所定範囲内で移動自在に設け、
当該作業部(40)が中立位置から移動した際に、前記中立位置に戻す方向に付勢する弾性手段(57,68)を設けたことを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記作業部(40)を前記本体部(10)に略前後方向に沿った軸回りに回転自在に取り付けることで左右に回転移動自在とし、前記中立位置から回転移動した前記作業部を前記中立位置に戻す方向に付勢する前記弾性手段としてのバネ(57)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記作業部(40)を前記本体部(10)に弾性ゴム(68)を介して取り付けることにより所定範囲内で移動自在とし、前記弾性ゴム(68)が前記弾性手段として、前記中立位置から移動した前記作業部(40)を前記中立位置に戻す方向に付勢することを特徴とする請求項1に記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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