説明

農業用シート、そのシートを使用した農作物の栽培・管理方法及び栽培した農作物

【課題】農作物の栽培環境を制御するために農作物を栽培する畝を覆うための農業用シート、そのシートを使用した農作物の栽培・管理方法及び栽培した農作物にを提供する。
【解決手段】雑草を有効利用して農作物を栽培する畝を覆うためのシートであって、通気性且つ透水性の細孔を備えた合成樹脂製の透明又は半透明のフィルム又はシートからなる。前記農業用シートによって畝を覆い、該畝に播種・定植して農作物を栽培する過程において、前記農業用シートの内側に雑草を繁茂させ、やがて枯死に至るこれら雑草を、表層地温の温度変化を抑制制御する緩衝材として利用し、且つ、枯れた後の雑草を農作物の肥料として利用することを特徴とする農作物の栽培・管理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチシート(mulch sheet)として、農作物の栽培環境を制御するために農作物を栽培する畝を覆うための農業用シート、そのシートを使用した農作物の栽培・管理方法及び栽培した農作物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業の近代化に伴い、規模の拡大、省力化、病虫害対策等、各種農業用マルチシートの果たす役割は大きい。現在使用されている無孔農業用マルチシートには、例えば、合成樹脂製シートを黒く着色した黒マルチシート、白く着色した白マルチシート、黒と白に着色した黒白ツートンマルチシート、銀色に着色したシルバーマルチシート、アルミ蒸着を施したアルミ蒸着マルチシート、グリーンマルチシートなどがある。
【0003】
前記無孔農業用マルチシートの中で、黒マルチシートは、太陽光を吸収遮断するために雑草が生えにくく除草効果が得られることと保温性を要する場合に多く使用される(特許文献1及び2参照)。また、シルバーマルチシートやアルミ蒸着マルチシートは、太陽光を反射遮断して雑草の発生を抑え、土壌の温度管理或いはダニやスリップス等の害虫忌避対策等の目的で使用される。農作業の中で最も過酷な作業と言われる除草作業をできるだけ回避するために前記無孔農業用マルチシートや除草剤の使用に頼らざるを得ない現状である。
【0004】
食糧増産が最重要課題であった第二次世界大戦の復興期に、化学肥料と農薬の果たした役割は大きく、国民生活の根幹を担う日本の農業を支えてきたことは事実である。しかし、長期に亘る化学肥料と農薬の大量使用により土壌は不溶性化合物が蓄積された結果、土壌微生物や細菌の減少、土壌養分の減少、保水力の低下、団粒構造の崩壊による酸素の保持力低下、地温の低下をきたした。このため、前年度栽培した同種作物が排出した老廃物や毒素が分解されず連作障害の原因の一つとなっている。更に、近年顕著になってきた地球温暖化により、従来の無孔農業用マルチシートの使用が、被覆された畝の表層地温を高めることから、ネマトーダ類等の各種有害線虫にとって好適な生育環境条件を招くこととなり問題であった。
【0005】
取り分け、露地栽培においては、農作物を播種ないし定植する前に、黒マルチシートを畝に被せて、シート内部の畝の中心部に土壌消毒薬を注入する消毒法が現在も一般に行われている。ところが、前記土壌消毒が長年続けられてきた結果、窒素固定菌群、放線菌群、乳酸菌群、酵母菌群、光合成微生物などの有用微生物や有用細菌が激減していることが最近の研究によって明らかになった。これら有用微生物や有用細菌は、自然環境における土壌中で太陽光と雨水によって育まれ、植物の生育と免疫力を高める役割を担っており植物にとって不可欠な存在である。
【0006】
前述のとおり、従来の無孔マルチシートを使用して、太陽光を遮断することによる除草、薬剤注入による土壌消毒を今まで継続実施され続けたことにより、有用微生物や有用細菌が激減したために、畝に播種ないし定植した農作物は根の先端の毛根を介して無窒素化合物、塩類、水などを有用微生物や有用細菌に与えて空中の窒素を固定して農作物に還元する共生が損なわれた。かかる状態の下で、無農薬栽培を実施しても充分な成果が得られず、結局、殺虫や消毒の目的で農薬に頼らざるを得ないという悪循環を繰り返すという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】実開平5−37048号公報
【特許文献2】特開2001−178280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、農作物の生育には太陽光が充分に路面に照射されることが重要であることと、農作業の中で除草作業が過酷な作業であり肉体的且つ経済的な負担が大きいことに着目し、太陽光を透過する透明ないし半透明の有孔マルチシートを用いて、従来の無孔マルチシートの除草効果とは逆に有孔マルチシート内に雑草を生やし、農作物と共生させて且つ充分な光と水分及び地温を制御しつつ育成することにより、除草作業から開放され、除草剤も不要となり、雑草が枯れて有機肥料として栄養源となることから化学肥料を使用せずとも成長し、且つ化学肥料や除草剤を使用しないことによって、土壌中の有用微生物や有用細菌が再生して土壌本来の自浄作用がよみがえり、無農薬の有機栽培が可能となることを見出して本発明に想到するに至ったものである。本発明の主たる目的は、従来の無孔マルチシートの欠点を解消し、路地栽培において通気性、透水性・保温性、雑草による断熱性、好気性光合成微生物の繁殖により健全な土壌を保持して、生育が良好且つ病害虫に強い農作物を栽培する農業用シート、そのシートを使用した農作物の栽培・管理方法及び栽培した農作物にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明は、雑草を有効利用して農作物を栽培する畝を覆うためのシートであって、通気性且つ透水性の細孔を備えた合成樹脂製の透明又は半透明のフィルム又はシートからなることを特徴とする農業用シートとする。
【0010】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記農業用シートは、厚みが20〜200μmの前記フィルム又はシートに、直径0.5〜5.0mm、密度2,000〜700,000個/m、開孔率6.0〜15.0%からなる細孔を前記フィルム又はシートの全面或いは部分的に設けてなることを特徴とする前記の農業用シートとすることが好ましい。
【0011】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記農業用シートは、顔料を混練りし、或いはフィルム又はシート表面の全面又は部分にインキで印刷を施し、或いは金属又はセラミックスを蒸着することによって、太陽の可視光線、赤外線又は紫外線の透過量を制御することを特徴とする前記の農業用シートとすることが好ましい。
【0012】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の何れかに記載の農業用シートで覆った畝に播種又は定植して農作物を栽培することを特徴とする農作物の栽培・管理方法とすることが好ましい。
【0013】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、雑草を有効利用して農作物を栽培する方法において、通気性と透水性を有する細孔を備えた合成樹脂製透明ないし半透明のフィルム又はシートからなる農業用シートによって畝を覆い、該畝に播種・定植して農作物を栽培する過程において、前記農業用シートの内側に雑草を繁茂させ、やがて枯死に至るこれらの雑草を、表層地温の温度変化を抑制制御する緩衝材として利用し、且つ、枯れた後の雑草を農作物の肥料として利用することを特徴とする農作物の栽培・管理方法とする。
【0014】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の農作物の栽培・管理方法に使用されるシートであって、厚みが20〜200μmの前記フィルム又はシートに、直径0.5〜5.0mm、密度2,000〜700,000個/m、開孔率6.0〜15.0%からなる細孔を前記フィルム又はシートの全面或いは部分的に設けてなることを特徴とする農業用シートとすることが好ましい。
【0015】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の何れかに記載した方法によって栽培した農作物とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の農業用シートは、前記のように通気性且つ透水性の細孔を備えた合成樹脂製の透明又は半透明フィルム又はシートからなり、本発明の農業用シートを農業用マルチシートとして用いることによって、農家にとって過酷な作業である除草作業が回避できるばかりでなく、通気性、透水性・保温性、雑草による断熱性、好気性光合成微生物の繁殖により健全な土壌を保持して、免疫力が増して生育が良好且つ病害虫に強い農作物に育つ。前記の如く健全な土壌が保持されることから、農薬の使用量を減少し除草剤も使用しないので本来の有機栽培が可能となる。また、雑草は自然に堆肥化して有効土壌微生物が繁殖するので土は年々肥沃化していく。無農薬又は減農薬栽培法によって栽培された農作物は、我々の健康を維持する食生活にとって欠かせないもであり、農作物の葉茎等残渣は食品、家畜の飼料又は肥料として有効利用され農家の収益に貢献できる。更に、生分解性シートの使用により一層の自然環境保護への貢献が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下「本発明の実施の形態」と称する)について説明する。しかしながら本願発明は係る本発明の実施の形態によって何ら限定されるものではない。図10は、有孔マルチシートで畑の畝を覆い、薩摩芋を育成している状態を示す説明図である。
【0018】
図10に示すように、本発明の実施の形態に係る農業用シート(以下「有孔マルチシート」と称する)1は、通気性且つ透水性の細孔2を備えた合成樹脂製の透明又は半透明フィルム又はシートからなり、この有孔マルチシートによって畑の畝4を覆うことにより、土壌に太陽光等の光を透過し雨水・散水を滲み込ませる機能を有する。農作物の薩摩芋を有孔マルチシート1に設けた切り込み穴7から土壌に播種・定植した後、畝4には太陽光と適度な雨水・散水によって薩摩芋とそれ以外の雑草が共に発芽し生長する。薩摩芋の蔓5は、有孔マルチシート1の外面に沿って延びて成長するのに対して、雑草3は先端が有孔マルチシート1に当たって頭が抑えられた状態で有孔マルチシート1の内側に折れ曲がって成長し繁茂する。やがて雑草3は過密状態に至り大半は結実することなく枯死する。この雑草3が外気温度の変動に対する緩衝材の役割を果たし、表層地温の上昇又は降下を抑制制御すると共に、枯死した雑草は肥料となり、薩摩芋の栄養源となると共に、表層地温を抑制制御する結果、比較的浅い土中に大きな薩摩芋6が育つ。
【0019】
本発明の実施の形態に係る有孔マルチシートの素材は特に限定されるものではないが、例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、未延伸ポリプロピレン(CPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、αオレフィンの単独又は共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル(PVC)系樹脂、熱可塑性エラストマー等の単独又は共重合体からなるシートを用いることができる。更に、共押出しシートや接着用樹脂層を介したドライラミネーション又はサンドラミネーションで貼り合わせた多層シートであってもよい。また、前記シートは、有孔マルチシートとして使用する際に雑草の生長を妨げない程度に太陽光等の光を透過する透明又は半透明シートが好ましく、雑草を繁茂させるためには、シートの全光線透過率(JIS K6714)を5%以上、より好ましくは10%以上とする。また、雑草による地温制御に加えて必要に応じて、シートに遮光性を有する例えばシルバー系顔料を混練りし、或いはシート表面の全面又は部分に同系のインキで印刷を施し、或いは同系の金属又はセラミックスを蒸着することによって、太陽の可視光線、赤外線又は紫外線の透過量を制御することが好ましい。
【0020】
また、微生物によって分解する、例えば、微生物産生系のポリヒドロキシブチレート、化学合成系のポリ乳酸系樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリビニルアルコール(PVA)、天然物系の修飾澱粉、酢酸セルロース、キトサン/セルロース/澱粉、澱粉/化学合成系グリーンプラ等を使用することもできる。更に、例えば、シートを剥がし易くするために、静電気防止剤乃至界面活性剤を添加し、銀や銅等の金属粉からなる抗菌剤乃至殺菌剤、マイナスイオン乃至遠赤外線を発生するセラミック粉、花崗岩粉乃至カーボン粉(例えば木炭等)及び消臭剤乃至芳香剤の中から選ばれる少なくとも一種を添加し又は塗布することによって、様々な機能を達成することができる。
【0021】
有孔マルチシートの厚み、孔径又は開孔率については、通気性且つ透水性を満たす限りにおいて特に限定されるものではないが、有孔マルチシートの厚みは、20〜200μm、直径は、0.5〜5.0mm、密度は、2,000〜700,000個/m、開孔率は、6.0〜15.0%からなる孔を前記シートの全面に設けるか、何れか片側に設けるか、或いは部分的に設けるかについては選択可能である。シートの厚みは、20μmより薄くなると強度不足の恐れがあり、200μmよりも厚くなるとコストアップとなる。
【0022】
孔の直径は、0.5mmより小さいと充分な透水性が得られず、一方、5.0mmを超えると雑草が外部に延出する可能性がある。開孔率が一定とした場合に細孔の直径、密度、開孔率の関係を表1に示す。適度の雨水を透過することを考慮すれば、細孔の孔径が、1.0〜3.0mmφで、且つ開孔率が、6〜15% の範囲中から選択することが好ましい。
また、開孔率R(%)は、Dを孔径(mm)、Nを孔個数(個/m)として、下式により算出する。
R=(π・(D/2)・N)/10,000
【0023】
【表1】

【0024】
細孔を有するシートの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系プラスチックシートを、フィルムの融点(約200℃)以上に加熱した熱針を植えた駆動ロール又は突起を備えたエンボスロールとバックアップロールの間(所定のギャップに設定されている)に挟持し、ライン速度で同調させつつ多数の孔を溶融穿孔する。この溶融穿孔の際に、フィルム片面における細孔の周縁に溶融樹脂溜まりによる比較的高い凸部が形成され、反対面側に比較的低い凸部が形成される。
【実施例】
【0025】
有孔マルチシートを用いて薩摩芋の栽培をした。有孔マルチシートは、厚み20μm、幅125cmの二軸延伸ポリプロピレン(OPP)製透明シートに、孔径2mm、孔密度40,800個/m、開孔率12.8%の円形状の細孔がシート全面に穿設してなる。実験は、宮崎県串間市大束町の圃場において、平成19年5月26日から同年9月27日までの4ヶ月間行い観察した。本実験と併せて従来の無孔黒マルチシートを用いて比較実験を行った。
【0026】
以下に写真を参照して実験について経時的に説明する。所定の有機肥料を施して5回起耕して土作りを終えた。幅75cm、高さ35cmの畝を作り、本発明の有孔マルチシートで畝を覆い、シートが風で飛ばないようにシートの両側端部に土を被せて押さえた。薩摩芋の苗は、有孔マルチシートの頂上部にカッターで35cm間隔に切り込み穴を設け、この切り込み穴に定植した(写真1参照)。
【0027】
定植して10〜14日後に、苗は活着し成長をはじめた。この頃から畝の両側脇より雑草が発芽し成長をはじめた。畝と畝の間の畦部(田圃の畦に相当する所を云う)に生えた雑草は小型耕運機で掘り返した。シート全面に穿設された孔から適度の雨水が滲み込み、畝表面の温度は昼間でもさほど上昇せず、従来の無孔黒マルチシートに比較して、約5〜10℃低く保たれていた。因みに、有孔マルチシート直下の表層地温が35℃であったのに対して、無孔黒マルチシートの場合は45℃であった。また、畝の表層地温が低いために薩摩芋の幼苗の発根の進行が無孔黒マルチシートに比較して早く、完全に活着していた(写真2参照)。
【0028】
定植して3〜4週間後に、薩摩芋の蔓は、畝に沿って30〜60cmに伸び、雑草は上方に20〜25cmに成長し、畝の両側脇に生えた雑草の先端部が有孔マルチシートに押さえられて曲がり始める(写真3参照)と共に、雑草は畝床頂上部にも繁茂し、有孔マルチシート内部は雑草で充満した状態に至った(写真4参照)。
【0029】
定植して4〜5週間後に、有孔マルチシート内部は、過密状態に繁茂した雑草が次第に弱り、雑草の一部に花ないし蕾ができるも、結実には至らず枯死をはじめた(写真5参照)。
この繁茂ないし枯死した雑草が外気温度の変動に対して緩衝材となり、有孔マルチシート内部の温度変化を和らげる役目を果たし、特に表層近くの地温を制御して農作物の育成環境が好適に維持されていることが認められる。
【0030】
定植して約2ヶ月後に、圃場全体を見渡したとき、一面に薩摩芋の蔓が生い茂り、有孔マルチシートを突き破って外部に伸びる雑草は見出されなかった。この年は、例年に比較して異常に降雨量が少ない夏であったが、前記の雑草が外気温度の変動に対して緩衝材の効果により、畝の水分は適度に保たれ、薩摩芋自体が枯れることは皆無であった(写真6参照)。これに対して、黒マルチシートの方は、芋の葉が黄色く高温障害が発生した。
【0031】
定植して約3ヶ月後に、有孔マルチシート内部の雑草は完全に枯死し変色していた。薩摩芋の蔓は、有孔マルチシートの上面に伸長し、有孔マルチシートに穿設された孔から放出される水分を含む空気を求めて蔓から生えた根が孔の近くに伸びており、葉も生き生きと育っている(写真7参照)。従来の黒マルチシートではこのような現象は見られず葉も黄色に変色し元気がなかった。
【0032】
定植して約4ヶ月後に、有孔マルチシート内部の雑草は完全に腐植し堆肥化していた(写真8参照)。因みに、堆肥化した雑草の重量は、100〜200g/mであった。これらの事実から有孔マルチシートを継続して使用し続けることにより、土壌は肥沃化し、自然界本来の姿を回復し土壌微生物の活性が保たれるものと考えられる。而して、農作物はストレスを受けないので免疫力が向上し、除草剤や病害虫対策用の農薬の使用量を減らすことができる。
【0033】
定植して約4ヶ月後の畝を掘り起こし、有孔マルチシートの薩摩芋を2株と黒マルチシートの薩摩芋を1株を比較した(写真9参照)。同写真中、右上と中央の2株が有孔マルチシートの薩摩芋であり、左下の1株が黒マルチシートで栽培された薩摩芋である。有孔マルチシートの薩摩芋は丸く且つ太く生育状態が良いのに対して、黒マルチシートの薩摩芋は細く根が長く生育状態がよくない。生育状態は、有孔マルチシートの方が黒マルチシートに比較して約20〜30%大きく成長していることが確認された。両者の苗、施肥量、管理方法は同一条件の下で栽培したにもかかわらず、薩摩芋の生長に差が生じたのは、有孔マルチシートの薩摩芋は、表層地温が低いために地面近くの浅い土中において生育しているのに対して、黒マルチシートの薩摩芋は、表層地温が高いので、より温度の低い深い土中に潜り込むことが原因の一つと考えられる。
【0034】
本実施例においては、農産物である薩摩芋を例にして説明したが、本発明の有孔マルチシートは、薩摩芋以外の野菜や果樹類等にも広く適用され、薩摩芋を含むじゃが芋、里芋、山芋、落花生、大根、人参、牛蒡等の根類の農作物にあっては特に好ましい結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る有孔マルチシート、そのシートを使用した農作物の栽培・管理方法は、今までに見られない全く新規な栽培・管理方法であって、農家にとって過酷な作業である除草作業が回避できるばかりでなく、無農薬又は減農薬栽培法によって栽培された農作物は、国民の健康を維持する食生活にとって欠かせないものであり、自然環境保護の観点からも極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例に係る有孔マルチシートで畝を覆い、薩摩芋の苗を定植した状態を示す写真である。
【図2】定植して10〜14日後の状態を示す写真である。
【図3】定植して3週間〜4週間後の状態を示す写真である。
【図4】定植して3週間〜4週間後の状態を示す写真である。
【図5】定植して4週間〜5週間後の状態を示す写真である。
【図6】定植して2ヶ月後の状態を示す写真である。
【図7】定植して3ヶ月後の状態を示す写真である。
【図8】定植して4ヶ月後の状態を示す写真である。
【図9】定植して4ヶ月後の状態を示す写真である。
【図10】有孔マルチシートで畝を覆い、畝に薩摩芋を育成している状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1:有孔マルチシート、2:細孔、3:雑草、4:畑の畝、5:薩摩芋の蔓、6:薩摩芋、7:切り込み穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑草を有効利用して農作物を栽培する畝を覆うためのシートであって、通気性且つ透水性の細孔を備えた合成樹脂製の透明又は半透明のフィルム又はシートからなることを特徴とする農業用シート。
【請求項2】
前記農業用シートは、厚みが20〜200μmの前記フィルム又はシートに、直径0.5〜5.0mm、密度2,000〜700,000個/m、開孔率6.0〜15.0%からなる細孔を前記フィルム又はシートの全面或いは部分的に設けてなることを特徴とする請求項1記載の農業用シート。
【請求項3】
前記農業用シートは、顔料を混練りし、或いはフィルム又はシート表面の全面又は部分にインキで印刷を施し、或いは金属又はセラミックスを蒸着することによって、太陽の可視光線、赤外線又は紫外線の透過量を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の農業用シート。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の農業用シートで覆った畝に播種又は定植して農作物を栽培することを特徴とする農作物の栽培・管理方法。
【請求項5】
雑草を有効利用して農作物を栽培する方法において、通気性と透水性を有する細孔を備えた合成樹脂製透明ないし半透明のフィルム又はシートからなる農業用シートによって畝を覆い、該畝に播種・定植して農作物を栽培する過程において、前記農業用シートの内側に雑草を繁茂させ、やがて枯死に至るこれらの雑草を、表層地温の温度変化を抑制制御する緩衝材として利用し、且つ、枯れた後の雑草を農作物の肥料として利用することを特徴とする農作物の栽培・管理方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の農作物の栽培・管理方法に使用されるシートであって、厚みが20〜200μmの前記フィルム又はシートに、直径0.5〜5.0mm、密度2,000〜700,000個/m、開孔率6.0〜15.0%からなる細孔を前記フィルム又はシートの全面或いは部分的に設けてなることを特徴とする農業用シート。
【請求項7】
請求項4又は5の何れかに記載した方法によって栽培した農作物。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−153398(P2009−153398A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332162(P2007−332162)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(390003160)ニダイキ株式会社 (6)
【出願人】(394022141)アイプラス株式会社 (2)
【出願人】(506033414)有限会社シラキハラ食研 (2)
【Fターム(参考)】