説明

農業用マルチシートの製造方法

【課題】 生分解しやすい安価な農業用マルチシートの製造方法を提供する。
【解決手段】 まず、落綿シート1を準備する。落綿シート1は、落綿が無作為に集積されてなると共に、落綿相互の間隙に、綿実、綿の木の茎、綿の木の葉及び綿の木の萼よりなる群から選ばれた夾雑物2が含まれているものである。この落綿シート1に、水を噴霧する。その後、落綿シート1を一対の太鼓形カレンダーロールに通し、厚み方向に加熱及び加圧する。この加熱及び加圧により、落綿相互間は密着して、強度が向上する。一方、落綿シート1中の夾雑物は圧潰され、扁平化する。以上のようにして農業用マルチシートが得られる。この農業用マルチシートは、その平面において、扁平化された夾雑物3の部位と、落綿からなる部位とが現れており、前者の部位は大きな占有面積を持っており、不均質な状態となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑草の生育防止や栽培地の保温のために、地上に直接敷設して使用する農業用マルチシートの製造方法に関し、特に敷設したまま自然環境の中で生分解し、除去する必要のない農業用マルチシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用マルチシートとしては、各種の不織布が用いられている。たとえば、フラッシュ紡糸法で得られた網状ポリエチレン極細繊維が集積されてなる不織布(商標タイベック)などが用いられている。この不織布は緻密で、遮光性及び防水性に優れており、このため、果樹や野菜などの根元の地上に敷設されると、太陽光を遮るため雑草の生育防止が図れ、また大量の降雨の場合にも肥料の流出や果樹などの根腐れを防止しうるというものである。また、不織布の他に、ポリエチレンやポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂よりなる黒色フィルムも、遮光性及び防水性に優れており、農業用マルチシートとして用いられている。
【0003】
しかしながら、ポリエチレン極細繊維などの一般の合成繊維よりなる不織布や、合成樹脂製フィルムは、使用後の廃棄処理に問題があった。すなわち、このような不織布又はフィルムは焼却によって廃棄処理するため、地球環境に悪影響を与えるということがあった。特に、農業用マルチシートは、その使用量が多いため、地球環境に過大の負荷を与えるものであった。
【0004】
このため、近年、一般の合成繊維に代えて、生分解性繊維よりなる不織布を、農業用マルチシートに使用することが行われている。たとえば、特許文献1では、生分解性繊維としてセルロース繊維が用いられている。生分解性繊維であるセルロース繊維よりなる不織布を農業用マルチシートとして用いることにより、使用中乃至使用後において、自然に分解・消失し、地球環境に与える負荷を軽減することができるのである。
【0005】
【特許文献1】特開20 0 5 −1 9 8 6 1 7 (第2頁、特許請求の範囲及び[0020])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルロース繊維よりなる不織布に防水性を付与するため、特許文献1記載の技術では、脱脂セルロース繊維と未脱脂セルロース繊維を組み合わせる手段を採用している。しかしながら、脱脂セルロース繊維は、脱脂工程を経て得られるものであるため、高価であるという欠点があった。また、不織布に遮光性及び防水性を付与するためには、セルロース繊維を緻密に集積しなければならず、緻密にすればするほど、セルロース繊維が生分解しにくいという欠点もあった。
【0007】
本発明の課題は、生分解しやすい安価な農業用マルチシートの製造方法を提供することである。このため、本発明は、高価な脱脂セルロース繊維ではなく、安価な落綿を採用すると共に、この落綿を緻密に集積しても生分解しやすくなるように工夫した農業用マルチシートの製造方法に係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、落綿が無作為に集積されてなると共に、該落綿相互の間隙に、綿実、綿の木の茎、綿の木の葉及び綿の木の萼よりなる群から選ばれた夾雑物が含まれている落綿シートに、水を噴霧した後、該落綿シートを一対の太鼓形カレンダーロールに通し、該落綿シートの厚み方向に加熱及び加圧して、落綿相互間を密着させると共に、該夾雑物を圧潰することにより、該夾雑物を扁平化することを特徴とする農業用マルチシートの製造方法に関するものである。
【0009】
本発明において、「落綿」とは、産地から供給される原綿から綿繊維を採取したり、綿糸を紡績したりする工程で発生する屑綿のことである。従来より、この落綿は廃棄物として焼却処分されていたものである。なお、原綿の中には、綿実、綿の木の茎、綿の木の葉及び綿の木の萼等の多数の夾雑物が含まれている。
【0010】
本発明では、屑綿である落綿と原綿中の夾雑物が混合されている落綿混合物を、カード機等の開繊機で処理して、無作為に集積し、落綿シートを製造する。落綿混合物を開繊機で処理すると、落綿が無作為に集積されてなると共に、落綿相互の間隙に夾雑物が含まれている落綿シートが得られる。したがって、本発明によれば、屑綿及び夾雑物を廃棄物として焼却処分する必要なく、利用しうるのである。さらに、本発明においては、これらの夾雑物以外に、従来より産業廃棄物として処理されている汚泥、食品の残渣及び/又はオガクズ等を混合することも好ましいことである。汚泥や食品の残渣等のこれら産業廃棄物は、後の加熱及び加圧工程を経ることにより、落綿相互間を結合するためのバインダーとしても機能するからである。なお、食品の残渣としては、豆腐の残渣、カツオブシの削り粕及び/又は米ぬかの残渣等を用いるのが好ましい。
【0011】
落綿シートの目付は、50〜200g/m2程度が好ましい。落綿シートの目付が50g/m2未満であると、単位面積当たりの落綿量が少なくなり、得られる農業用マルチシートが緻密なものとならず、十分な遮光性や防水性を与えにくくなる傾向が生じる。また、落綿シートの目付が200g/m2を超えると、得られる農業用マルチシートが重くなって、取り扱いにくくなる。また、厚みが厚くなる傾向となり、従来のマルチシート敷設機(黒色合成樹脂フィルム用のマルチシート敷設機)を用いて敷設しにくくなる。なお、農業用マルチシートの厚みは、0.1〜0.2mm程度であれば、従来のマルチシート敷設機を用いて敷設することが可能である。
【0012】
落綿シートを形成した後、この落綿シート表面に、水を噴霧する。具体的には、スプレー装置を用いて、落綿シートに向けて水を噴霧すればよい。水を噴霧しておくことにより、後の一対の太鼓形カレンダーロールによる加熱及び加圧処理によって、落綿相互間が水素結合によって強固に密着するのである。そして、得られた農業用マルチシートに高強度を発現しうるのである。落綿シートに水を噴霧する前、又は水を噴霧中、又は水を噴霧した後、落綿シートにニードリング処理をして、落綿相互間を交絡させておくのが好ましい。落綿相互間を交絡しておくと、落綿シートにある程度の形態安定性を与えることができ、落綿シートの搬送中に、その形態が崩れにくくなる。
【0013】
水を噴霧した後、落綿シートを一対の太鼓形カレンダーロールに通し、落綿シートの厚み方向に加熱及び加圧を施す。この加熱及び加圧によって、落綿シート中の落綿相互間を密着させて、得られる農業用マルチシートに十分な強度を付与することができる。また、一対の太鼓形カレンダーロールを用いた加熱及び加圧処理で、夾雑物を圧潰することにより、夾雑物を扁平化すると同時に、綿実の中に含まれている綿実油や、綿の木の茎や葉や萼に含まれている油分を絞り出すことができる。この綿実油や油分等が、土壌に付与されると、その肥沃度が向上する。
【0014】
一対の太鼓形カレンダーロールに通すときの条件としては、加熱温度が150〜250℃程度で、加圧圧力が線圧で150〜500kg/cm程度であるのが好ましい。加熱温度が150℃未満になると、落綿相互間に水素結合が生じにくくなり、得られる農業用マルチシートに高強度を付与しにくくなる傾向が生じる。加熱温度は250℃を超えても差し支えないが、高温度の加熱はエネルギー的に合理的ではない。加圧圧力が150kg/cm未満であると、夾雑物を圧潰して扁平化しにくくなる傾向が生じる。夾雑物を圧潰して扁平化しにくくなると、農業用マルチシートの生分解性が低下する傾向が見られる。加圧圧力は500kg/cmを超えても差し支えないが、これ以上の高圧力を負荷することはカレンダーロールの寿命と必要なエネルギーといった観点から、合理的ではない。ここで、本発明において、太鼓形カレンダーロールとは、ロール軸方向の中央部の径が最大となっており、両端に向かうにしたがって徐々にその径が小さくなる形状をしたロールのことである。太鼓形ロールを用いることにより、ロールの中央部も両端部にも、同様に150〜500kg/cm程度の高圧力を負荷することが可能となり、幅方向に亙って均一に加熱及び加圧することが可能となる。
【0015】
加熱及び加圧工程を経れば、本発明に係る農業用マルチシートを得られる。本発明に係る農業用マルチシートは、従来のマルチシートと同様に、栽培地の土上に敷設しておけば、雑草の生育防止や土壌の保温を図れるものである。なお、本発明に係る農業用マルチシートの目付は、落綿シートの目付と同様に、50〜200g/m2程度である。また、その厚みは、0.1〜0.2mm程度である。更に、本発明に係る農業用マルチシートの強度は、縦横共に、6〜30N/2cm巾程度である。
【0016】
図2は、本発明の一例に係る農業用マルチシートの平面写真である。図2中の3は、扁平化された綿実等の夾雑物である。一方、図1は、図2に示した農業用マルチシートを得る際に用いた落綿シート1(目付80g/m2)の平面写真である。図1中の2は、扁平化される前の綿実等の夾雑物である。図1と図2を対比すれば明らかなように、当初の綿実等2は、落綿シート1中においてかすかに目視しうる程度であり、その占有面積は非常に小さい。ところが、本発明に係る方法を採用して得られた農業用マルチシート中においては、圧潰して扁平化される綿実等3が容易に目視でき、しかもその占有面積が非常に大きくなっている。たとえば、場所によっても異なるが、その占有面積は5〜50%程度となっている。そして、扁平化された綿実等3が容易に目視しうるということは、その箇所においては、落綿量が少なくなってなっており、綿実等3の周囲に落綿が移動していることを示している。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る方法で得られた農業用マルチシートは、落綿シート中の綿実等の夾雑物が圧潰され、扁平化しており、当該夾雑物の占有面積が非常に大きくなっている。すなわち、農業用マルチシートが面方向において、扁平化された夾雑物の部位と、落綿が集積した部位とが存在する不均質なものとなっている。したがって、農業用マルチシートの若干の生分解によって、扁平化された夾雑物は脱落しやすくなり、生分解の進行が速くなるという効果を奏する。
【0018】
また、扁平化された夾雑物は、綿実等が圧潰されたものであるため、油分が外部へ絞り出されており、農業用マルチシートには油分が付着している。したがって、この農業用マルチシートを土壌に敷設すると、土壌に油分が付与されることにより、土壌の肥沃度が向上するという予期しえない格別顕著な効果も奏する。また、この夾雑物は、綿実や綿の木の葉或いは茎又は萼であるため、これは堆肥となり、果樹や野菜などの肥料になるという効果も奏する。
【0019】
さらに、本発明に係る方法で得られた農業用マルチシートは、廃棄物である落綿と、廃棄物である原綿に含まれている綿実等の夾雑物よりなるものである。すなわち、全てが廃棄物で形成されているので、非常に安価なものとなる。また、それと同時に廃棄物を有効利用しているので、環境を害することがなく、地球環境に優しい商品であるという効果も奏する。
【0020】
さらに、落綿シート中に、その他の廃棄物である汚泥、食品の残渣及び/又はオガクズを含ませた場合には、それらは、落綿相互間のバインダーとしても機能するため、得られる農業用マルチシートの強度が向上するという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明で用いる落綿シートの一例を示した平面写真である。
【図2】図1の落綿シートを用い、本発明に係る方法で適用して得られた農業用マルチシートの平面写真である。
【符号の説明】
【0022】
1 落綿シート
2 落綿シートに含まれている扁平化される前の綿実等の夾雑物
3 農業用マルチシートに含まれている扁平化された綿実等の夾雑物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落綿が無作為に集積されてなると共に、該落綿相互の間隙に、綿実、綿の木の茎、綿の木の葉及び綿の木の萼よりなる群から選ばれた夾雑物が含まれている落綿シートに、水を噴霧した後、該落綿シートを一対の太鼓形カレンダーロールに通し、該落綿シートの厚み方向に加熱及び加圧して、落綿相互間を密着させると共に、該夾雑物を圧潰することにより、該夾雑物を扁平化することを特徴とする農業用マルチシートの製造方法。
【請求項2】
落綿シート中に、更に、汚泥、食品の残渣及びオガクズよりなる群から選ばれた廃棄物を含ませる請求項1記載の農業用マルチシートの製造方法。
【請求項3】
豆腐の残渣、カツオブシの削り粕及び米ぬかの残渣よりなる群から選ばれた食品の残渣を用いる請求項2記載の農業用マルチシートの製造方法。
【請求項4】
加熱温度が150〜250℃であり、加圧圧力が150〜500kg/cmである請求項1記載の農業用マルチシートの製造方法。
【請求項5】
加熱及び加圧前に、落綿シートにニードリングを施す請求項1記載の農業用マルチシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法で得られた農業用マルチシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201489(P2009−201489A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50218(P2008−50218)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000157348)丸三産業株式会社 (15)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(508112586)
【Fターム(参考)】