説明

農薬用展着剤

【課題】作物、雑草、害虫等の濡れ難い表面への湿展性がよく、しかも低起泡性の農薬用展着剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする農薬用展着剤。


(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物、雑草、害虫等の濡れ難い表面への湿展性を増強する農薬用展着剤に関する。さらに詳しくは、前記性能に加え農薬の散布液に添加した際の起泡トラブルの少ない農薬用展着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
作物、雑草、害虫等は農薬散布用散布液をはじく性質を有している場合が多い。農薬用展着剤は、これら植物、害虫等、散布対象物への付着性及び湿展性の増大、固着性及び耐雨性の向上を目的として、液剤、水溶剤、水和剤を中心に、散布時、散布液に添加される形で用いられている。この農薬用展着剤は、主成分である界面活性剤が界面張力を低下させて上記湿展性を得るものであるが、実用上は、更に分散、懸濁、泡立ち等の性質を左右する事となる。
【0003】
従来から農薬用展着剤には、低濃度でも界面活性が高いという理由から、ノニオン界面活性剤を主成分として用いる場合が多い。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキル(オクチル又はノニル)フェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が使用されている。又、併用されるアニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩の縮合物等が知られている。
【0004】
主成分となるノニオン界面活性剤の中でも、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、界面活性に優れ、広く用いられてきたが、起泡トラブルの原因となる場合が多いことが問題となる。水和剤や乳剤等の使用場面で、農薬用展着剤が実際に使用される場合、展着剤を水で希釈した水溶液に所定量の農薬を添加し混合、または既に所定有効希釈濃度に水で希釈した農薬散布液に後から展着剤が添加され混合、若しくは所定量の展着剤と農薬を水で同時に希釈する事が考えられる。どの場合も、調整槽に水を落下導入する際や攪拌混合に伴う起泡により調整槽からのオーバーフロー、調整槽の水位が読み取りにくくなる等の起泡トラブルが発生する。このような起泡トラブルは、大型の散布機における作業では軽視出来ない重要な問題である。
【0005】
農薬用展着剤の泡立ちを抑制する方法としては、発泡時、調整槽に各種消泡剤を添加する方法が考えられるが、使用薬剤の種類、作業手順が増える事により、作業者の負担が大きくなる問題がある。また、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の低起泡性界面活性剤を用いる等の方法もあるが、農薬用展着剤としてはコストが高くなり過ぎる。また、あらかじめ農薬用展着剤にシリコーン系、脂肪酸系の消泡剤を添加しておく方法も考えられるが、これらの消泡成分は一般に他の基材との相溶性が低く、農薬用展着剤中に組み込んだ際、特に低温保存時に分離を生ずることが多い。所定の界面活性剤を組み合わせて使用することにより起泡トラブルの問題の解決が図られたが(特許文献1)、湿展性の面も含め改善の余地があった。
【特許文献1】特開2004−83540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、作物、雑草、害虫等の濡れ難い表面への湿展性がよく、しかも低起泡性の農薬用展着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはかかる従来の農薬用展着剤の問題点を解決すべく鋭意研究の結果、本発明に到達したものである。即ち、本発明は農薬を散布するに際して、下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物をを含有することを特徴とする農薬用展着剤に関するものである。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【0008】
また本発明は、さらにアニオン界面活性剤を含有することを特徴とする前記農薬用展着剤にも関する。この場合、アニオン界面活性剤の好ましい態様として下記一般式(2)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した後に硫酸化した化合物がある。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは1〜100の整数であって、m個のAOは同一であっても異なっていてもよい。Mは一価の金属原子、アンモニウム、アルカノールアンモニウムを表す。)
【0009】
さらに本発明の好ましい態様として、前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである農薬用展着剤がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の農薬用展着剤に含まれる前記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールアルキレンオキサイド付加物(以下、本発明品)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であってもまた分岐構造であってもよい。
【0011】
前記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールアルキレンオキサイド付加物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールに塩基性触媒下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることが出来る。
【0012】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品又は複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品又は複数種の混合物として存在するものもある。例えば、カシューナッツ殻等から抽出される、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノールや、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0013】
Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表すが、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。nは1〜100の整数であって、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。本願所望の性能を得る点でnは3〜50であれば好ましく、5〜30であればより好ましい。n個のAOは同一であっても異なっていてもよく、異なる場合はブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよい。
【0014】
前記一般式(1)で表される化合物を使用することにより、湿展性および低起泡性に優れた農業用展着剤を得ることができるが、水温が高い場合や水質硬度が高い場合に濁りが発生することを防止するため、アニオン界面活性剤を使用することが好ましい。アニオン界面活性剤には、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩の他、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩が挙げられるが、低起泡性の点で下記一般式(2)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した後に硫酸化した化合物であれば好ましい。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは1〜100の整数であって、m個のAOは同一であっても異なっていてもよい。Mは一価の金属原子、アンモニウム、アルカノールアンモニウムを表す。)
【0015】
前記一般式(2)で表されるアニオン界面活性剤の場合、Mは一価の金属原子、アンモニウム、アルカノールアンモニウムであり、上記で得られたアルケニルフェノールアルキレンオキサイド付加物を公知の硫酸化剤であるクロルスルホン酸、無水硫酸、スルファミン酸などによって硫酸エステル化し、次いで苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等で中和することによって得られる。なお、スルファミン酸を使用して硫酸化する場合は中和工程の必要はない。
【0016】
前記一般式(1)で表される化合物の農薬用展着剤中の配合量は、展着性能や取り扱いの容易さの点で5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。また、前記一般式(2)で表される化合物の農薬用展着剤中の配合量は、前記した場合における製剤の濁りを防止する点で1〜30質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。さらに、本発明の農薬用展着剤には本発明の効果を阻害しない範囲で他のノニオン系界面活性剤を配合することができるし、消泡剤や低温安定剤を予め配合しておくことも可能である。予め配合する消泡剤としては、例えば脂肪酸系消泡剤やシリコーン系消泡剤等の一般的に使用されている消泡剤が使用できる。これらの消泡剤は一般に他の基材との相溶性が低く、農薬用展着剤中に組み込んだ際、特に低温保存時に分離を生ずることが多く、例えば脂肪酸系消泡剤の低温保存安定性を保持する為には、イソプロピルアルコール等の引火点の低いアルコール類が従来から用いられている。しかしながら、低級アルコールの配合は低引火点の為、火災の危険性が高くなり好ましくない。引火点70℃以上の溶剤を使用すれば、火災の危険性が低減すると共に、消防法危険物第4類第3石油類以上に該当し、取り扱いにおける法規制の点でも有利である。具体的には、水溶性があり引火点70℃以上のグリコール類、グリコールエーテル類が好ましく、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。消泡剤成分との相溶性、低温での安定性を考慮すると、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明について、実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例等によって限定されるものではない。
【0018】
製造例1
(一般式(1)で表される化合物の製造例1)
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31質量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20質量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45質量%の混合物。商品名;Distilled
Cashew Nut Shell Liquid(インド、SATYA CASHEW CHEMICALS社製。以下同様))を1000mlオートクレーブに263g及び水酸化カリウム0.6gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド385gをゲージ圧力0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入しカルダノールのエトキシ化反応を行った。エチレンオキサイドを送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、冷却後酢酸0.38gで中和してカルダノールエチレンオキサイド付加物636gを得た。得られたカルダノールエチレンオキサイド付加物の、カルダノール1モルに対するエチレンオキサイドの平均の付加モル数(以下、単にエチレンオキサイド付加モル数と略称する)は10.0である。
【0019】
製造例2
(一般式(1)で表される化合物の製造例2)
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31質量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20質量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45質量%の混合物)を1000mlオートクレーブに225g及び水酸化カリウム0.6gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド165gをゲージ圧力0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入した。エチレンオキサイドを送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、引き続きプロピレンオキサイド260gを温度130℃、0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入した。プロピレンオキサイドを送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、カルダノールのエトキシ化反応を行った。冷却後酢酸0.38gで中和してカルダノールエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物637gを得た。得られたカルダノールエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物の、カルダノール1モルに対するエチレンオキサイドの平均の付加モル数は5.0であり、プロピレンオキサイドの平均の付加モル数(以下、単にプロピレンオキサイド付加モル数と略称する)は6.0である。
【0020】
製造例3
(一般式(2)で表される化合物の製造例)
製造例1で得られたカルダノールエチレンオキサイド付加物371gを四つ口フラスコにとり、窒素ガスを導入しながらクロルスルホン酸58gを30℃にて5時間を要して徐々に滴下し、その後も同様に窒素ガスを導入しながら2時間脱塩酸を行った。得られた硫酸化物を2.5%水酸化ナトリウム溶液800gで中和し、有効成分35質量%のカルダノールエチレンオキサイド(10モル)付加物の硫酸エステルナトリウム塩1220gを得た。
【0021】
製造例4
(比較化合物の製造例)
1000mlオートクレーブにノニルフェノール216g及び水酸化カリウム0.6gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド432gをゲージ圧力0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入しノニルフェノールのエトキシ化反応を行った。エチレンオキサイド送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、冷却後酢酸0.38gで中和してノニルフェノールエチレンオキサイド付加物637gを得た。得られたノニルフェノールエチレンオキサイド付加物の、ノニルフェノールに対するエチレンオキサイドの平均の付加モル数は10.0である。
【0022】
実施例1〜3及び比較例1
製造例1〜4で得られた化合物、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(東邦化学工業(株)製ハイソルブDB)、消泡剤(ミリスチン酸)、水を表1に記載の如く配合し農薬用展着剤組成物を得た。配合方法は、予め製造例1〜4で得られた化合物とハイソルブDBをプレミックスしたものに、消泡剤を完全溶解させた後、水を加え混合した。
【0023】
【表1】

【0024】
次に本発明の農薬用展着剤組成物の評価方法を示す。
(起泡性試験)
農薬用展着剤組成物0.02mlを、200mlの20℃水道水を入れた250mlシリンダーに添加(10,000倍希釈)し、すぐに2秒間に1回の割合で15回倒立した後、静置直後の泡高を測定した。
【0025】
(表面張力値試験)
展着剤としての効力目安となる表面張力値をデュヌイ法(20℃、1万倍希釈)にて測定した。
【0026】
(保存安定性試験)
以下の評価基準にて低温下における保存安定性試験を行った。
○;(−5℃×3日間で変化なく透明均一)
×;(−5℃×3日間で白濁固化)
【0027】
試験結果は以下に示すとおりである。
【表2】

【0028】
表2に示す試験結果からも明らかなように、本発明の農薬用展着剤組成物は、1万倍希釈という低濃度においても濡れ難い植物を十分にぬらす目安である表面張力値39(mN/m)以下を有し、起泡の抑制の点でも優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする農薬用展着剤。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
さらにアニオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の農薬用展着剤。
【請求項3】
前記アニオン界面活性剤が下記一般式(2)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した後に硫酸化した化合物であることを特徴とする請求項2に記載の農薬用展着剤。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。mは1〜100の整数であって、m個のAOは同一であっても異なっていてもよい。Mは一価の金属原子、アンモニウム、アルカノールアンモニウムを表す。)
【請求項4】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の農薬用展着剤。