説明

近交系動物の遺伝的安定性を維持するための方法

【課題】非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する新規の方法を提供すること。
【解決手段】この方法では、創始コロニーに由来する血統トラックされる低温保存された胚が作られ、そして適切な間隔で創始コロニーを再構築するために使用される。非ヒト動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、この方法は、以下:(a)該近交系の創始コロニーを維持する工程;(b)該創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストックを作る工程;(c)該血統トラックストックの低温保存された胚から、生きた動物を作る工程;(d)該生きた動物から、新規の創始動物対として使用される兄妹対を選択し、該創始コロニーを再構築する工程;(e)工程(c)〜工程(d)を、適切な間隔で反復し、これにより、該近交系の遺伝的安定性を維持する工程
を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本願は、2003年8月22日に出願された米国仮出願番号60/497,451の利
益を主張する;本願の明細書は、米国仮出願番号60/497,451の全体が参考とし
て本明細書に援用される。
【0002】
(政府基金)
本明細書中に記載された仕事は、全体的または部分的に、国立癌研究所、NIHからの
助成金番号R01−GM020919により資金提供を受けている。米国政府は、本発明
に特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
実験動物は、ヒトの疾患を研究するための有用なモデルとして役立つ。トランスジェニ
ック変異技術および標的化変異技術の進歩のおかげで、マウスが、ヒトゲノム分析のため
の代理の器官として成功しただけではなく、ヒトの疾患の遺伝学および病原を調査するた
めのモデル系として最も価値のあるモデル系となった。マウスの研究から得られた実験結
果の有効な解釈は、使用されたマウスモデルが遺伝的に純粋であり、十分に明確にされて
いるという保証に依存する。この理由で、研究者は、伝統的に実験に近交系を使用してき
た。なぜなら、これらのマウスは、非近交系マウスストックとは対照的に、遺伝子型の均
一性および不変性を提供するからである。近交系のマウスは、表現型が予測可能でかつ対
立遺伝子組成が定義されている均質の実験個体として反復して利用され得る。
【0004】
しかし、近交系マウスの遺伝子型の不変性は、完全に理解されることは決してない。そ
の理由は、新規の変異が生じること、および新規の変異が残留ヘテロ接合の連続的な対立
遺伝子固定とともに徐々に蓄積することの両方である。近交系マウス内の遺伝子型のこれ
らの変化は、遺伝的浮動として公知である。各世代において、新規の偶発性突然変異が生
じる可能性がある。これらの変異は、まず、ヘテロ接合の変異として生じる。一つの近交
系の両方の創始動物(founder)が、偶然、偶発突然変異に関してホモ接合性にな
る場合、この変異は、近交系に固定され、この近交系マウス系統の後の世代は全てこの変
異を保持する。
【0005】
偶発突然変異が生じた結果としての遺伝的浮動は、近交系に由来する動物に対して行わ
れる遺伝的解析に影響を与える。近交系動物を用いて作られた実験データの有効な解釈は
、遺伝的浮動により損なわれる。最近の刊行物は、この点を例証している。2001年に
は、SpechtおよびSchoepferは、C57BL/6JOlaHsdマウスに
おける染色体の欠失を発見した(非特許文献1を参照のこと)。この変異は、α−シヌク
レイン(synuclein)遺伝子座の79kbより多くの除去であった。この遺伝子
は、パーキンソン病およびアルツハイマー病の病因に関与するシナプス前終脳タンパク質
をコードする。多くの研究者が、実験のためまたは他の変異で戻し交配するために、この
問題に気付かずにC57BL/6JOlaHsdマウスを野生型コントロールとして使用
している。現在、これらの実験結果は、上記系統に存在するα−シヌクレイン欠失に鑑み
、再評価する必要がある。非特許文献2を参照のこと。
さらに、研究者は、近交系動物から得られたデータを、長期間ずっと、頻繁に比較する
必要がある。遺伝的浮動の効果のために、時間と共に、近交系マウスは、初期時点の、「
同一の」近交系マウスとは遺伝的に別個の物になる。時間の期間が長いほど、遺伝的差異
が蓄積して固定される可能性が高くなる。従って、遺伝的浮動の存在は、長期間の、有効
な比較を実行する能力を損なう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SpechtおよびSchoepfer,Deletion of the alpha−synuclein locus in a subpopulation of C57BL/6J inbred mice,BMC Neurosci.2,11(2001)
【非特許文献2】Wotjak,C57Black/Box?The importance of exact mouse strain nomenclature,Trends in Gentetics 19:183〜184(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの理由で、近交系動物における遺伝的浮動を減少させ、そしてその遺伝的安定性
を、長期間ずっと維持することが望ましい。近交系動物の遺伝的安定性を維持する方法に
ついて、技術的に差し迫った必要性がある。このような方法が、本明細書中に提供される

【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、非ヒト動物の近交系マウスストックの遺伝的安定性を維持する新規の方法を
提供する。現在、血統創始コロニーが、近交系マウス系統について維持されている。近交
系マウスストックの創始コロニーは、単一の同腹仔のオス−メス交配に由来する。1年に
2回〜4回、新規の創始動物対として新規の同腹仔のオス−メス対が、創始コロニーから
選択され、コロニーを再度回復する。このアプローチを用いれば、今日の創始コロニーは
、今から何年間も創始コロニーとは遺伝的に異なる。なぜなら、時とともに、偶発突然変
異が蓄積し、そして対立遺伝子が固定されるからである。
【0009】
本出願人は、創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストック(pe
digree−tracked stock)を作り、そしてこのストックを用いて適切
な間隔で創始コロニーを再構築することにより、遺伝的浮動を制限し、近交系マウスの遺
伝的安定性を維持する新規の方法を考案した。低温保存したストックを上記創始コロニー
のための貯蔵所として所持し、そして定期的に、この低温保存されたストックを用いてこ
の創始コロニーを再構築することで、一定の期間に継代する世代数が減少し、従って、遺
伝的浮動の有効速度が有効に減少する。このストックの各胚の血統が公知であるので、同
腹仔のオス−メス対である胚だけを選択的に回復し得る。結果として、この近交系マウス
系統は、連続した同腹仔のオス−メス交配を通して増殖し、このマウス系統の近交系ステ
ータスを無傷に保つ。このプロセスは、適切な間隔で反復され得、従って、この系統の近
交系ステータスに影響を与えずに、制限された遺伝的浮動を有する近交系マウス系統を維
持し得る。
【0010】
低温保存された胚の血統トラックストックが、創始コロニーに由来する同腹仔のオス−
メス対からの胚を取得し、そして低温保存することにより作られる。胚は、同腹仔のオス
−メス対の交配により取得され得る。胚の産生は、交尾(交接)によるもの、またはイン
ビトロの人工的な方法もしくはインビボの人工的な方法によるものであり得る。人工的な
方法としては、人工受精、インビトロでの成熟した卵母細胞もしくはインビボでの成熟し
た卵母細胞のインビトロでの受精、胎芽移植、細胞質内精子注入、クローニング、受精し
た卵母細胞のインビトロ培養、および胚の分割(embryo splitting)等
が挙げられる。
【0011】
低温保存した血統トラックストックはまた、胚幹細胞のストック、生殖体のストック、
または生殖体前駆体のストックであり得る。生殖体、生殖体前駆体、または胚幹細胞は、
近交系マウス系統の創始コロニーに由来し得る。このような低温保存されたストックは、
創始コロニーのための凍結容器として使用され、近交系の遺伝的安定性を維持し得る。本
発明は、低温保存された血統トラックストックを作る方法、およびこのストックを用いて
、近交系の遺伝的安定性を維持する方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、非ヒト動物の低温保存された胚、生殖体、生殖体前駆体、または胚幹細
胞の血統トラックストックを提供する。これらのストックの各々は、近交系の創始コロニ
ーに由来する。各系統についてのそれぞれの胚、生殖体、生殖体前駆体、または胚幹細胞
の血統が、将来の時点で選択的な回復を許容するためにトラックされ、そして記録される

【0013】
出願人は、本明細書中に記載された方法により作製された、遺伝的に安定化した非ヒト
動物近交系マウス系統をさらに提供する。非ヒト動物は、齧歯類動物(例えば、ラットま
たはマウス)であり得る。
【0014】
出願人は、遺伝的に安定化した非ヒト動物近交系を供給するビジネスを行うための方法
をさらに提供する。本発明に従って、創始コロニーが近交系について維持され、そして上
記創始コロニーに由来する胚の低温保存された血統トラックストックが作られる。適切な
間隔にて、単一の同腹仔のオス−メス対に由来する同腹仔のオス−メス胚の対が選択され
、そして生きた動物がこの同胞胚から作られる。同腹仔のオス−メス対は、作られた動物
から選択され、そして新規の創始動物対として使用され、この創始ストックを再構築する
。顧客の要求に応えて、遺伝的に安定化した近交系マウス系統の一つまたは複数の動物が
、顧客に供給される。
これらの方法の実行により、近交系の近交系ステータスに影響することなく、遺伝的浮
動が制限された近交系を維持することを可能になる。結果として、長期間ずっと、遺伝子
型が十分に規定された、遺伝的に本当に均一の近交系動物が、有効なデータの解釈および
有意義なデータの比較を大幅に補助し、動物研究者に利用可能である。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
非ヒト動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)該近交系の創始コロニーを維持する工程;
(b)該創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストックを作る工程

(c)該血統トラックストックの低温保存された胚から、生きた動物を作る工程;
(d)該生きた動物から、新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を
選択し、該創始コロニーを再構築する工程;
(e)工程(c)〜工程(d)を、適切な間隔で反復し、これにより、該近交系の遺伝
的安定性を維持する工程
を包含する、方法。
(項目2)
項目1の方法であって、ここで、生きた動物が、前記血統トラックストックの同胞胚
から作られる、方法。
(項目3)
項目2に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方法

(項目4)
項目3に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目5)
項目4に記載の方法であって、ここで、創始コロニーに由来する低温保存された非ヒ
ト動物胚の血統トラックストックを作る工程が、以下:
(a)該創始コロニーの同腹仔のオス−メス対から胚を作る工程;および
(b)(a)において作られた胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストックに
おける各胚の血統が、低温保存された各胚が同定可能な血統を有するようにトラックされ
、これによって、低温保存された胚のストックを作る工程
を包含する、方法。
(項目6)
項目4に記載の方法であって、ここで、前記創始コロニーに由来する低温保存された
非ヒト動物胚の血統トラックストックを作る工程が、以下:
(a)非ヒト動物系統の創始コロニーから後裔を得る工程であって、ここで、該後裔は
、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)胚を同腹仔のオス−メス対から作る工程;
(c)(b)において作られた胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストックに
おける各胚の血統が、各低温保存された胚が同定可能な血統を有するようにトラックされ
、これにより低温保存された胚のストックを作る工程
を包含する、方法。
(項目7)
項目6に記載の方法であって、ここで、前記同腹仔のオス−メス対から胚を作る工程
が、以下:
(a)該同腹仔のメスと該同腹仔のオスとを交配させ、これによって、胚を作る工程;
および
(b)胚を収集する工程
により実行される、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、ここで、交配が、交尾により実行される、方法。
(項目9)
項目7に記載の方法であって、ここで、交配が、人工受精により実行される、方法。
(項目10)
項目7に記載の方法であって、ここで、交配が、インビトロの受精により実行され、
該インビトロの受精が、以下:
(a)卵母細胞を前記同腹仔のメスから収集する工程;
(b)精子を前記同腹仔のオスから収集する工程;
(c)(a)において収集された卵母細胞を、(b)において収集された精子を用いて
受精させ、これにより、受精した卵母細胞を作る工程;および
(d)受精した卵母細胞を、受精した卵母細胞が胚へと発生するのに適切な条件下で維
持する工程、
を包含する、方法。
(項目11)
項目10に記載の方法であって、前記同腹仔のメスから卵母細胞を収集する前に、該
同腹仔のメスに過排卵させる工程をさらに包含する、方法。
(項目12)
項目7に記載の方法であって、ここで、前記低温保存された胚が、各ストローが単一
の同腹仔のオス−メス対を交配することによりもたらされる胚を含むように、ストロー中
に貯蔵される、方法。
(項目13)
項目10に記載の方法であって、ここで、前記卵母細胞を受精させる工程が、細胞質
内精子微量注入により実行される、方法。
(項目14)
項目6に記載の方法であって、ここで、胚を前記同腹仔のオス−メス対から作る工程
が、以下:
(a)前記同腹仔のメスから卵巣を単離する工程;
(b)該卵巣を、卵母細胞のインビトロ成熟にとって適切な条件下で培養し、これによ
って、インビトロの成熟した卵母細胞を作る工程;
(c)前記同腹仔のオスから精子を収集する工程;
(d)(b)において作られたインビトロ成熟卵母細胞を、(c)において収集された
精子で受精させ、これにより、受精した卵母細胞を作る工程;
(e)受精した卵母細胞を、卵母細胞が胚へと発生するのに適切な条件下で維持する工
程;および
(f)該胚を収集する工程
を包含する、方法。
(項目15)
項目6に記載の方法であって、ここで、前記同腹仔のオス−メス対から胚を作る工程
が、以下:
(a)卵巣を該同腹仔のメスから収集する工程;
(b)該卵巣を断片へとさらに分割し、これによって、卵巣断片を作る工程;
(c)各卵巣断片を、卵巣除去したホストのメスへと移植し、これによって、受精能の
あるホストのメスを作る工程;
(d)卵母細胞を該受精能のあるホストのメスから収集する工程;
(e)精子を該オスから収集する工程;
(f)(d)において収集した卵母細胞を、(e)において収集した精子で受精させ、
これによって、受精した卵母細胞を作る工程;
(g)卵母細胞を、卵母細胞が胚へと発生するのに適切な条件下で維持する工程;およ

(h)該胚を収集する工程
を包含する、方法。
(項目16)
創始コロニーに由来する、非ヒト動物の低温保存された胚の血統トラックストックを作
る方法であって、以下:
(a)該創始コロニーの同腹仔のオス−メス対から胚を作る工程;および
(b)(a)において作られた胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストックに
おける各胚の該血統が、低温保存された各胚が同定可能な血統を有するようにトラックさ
れ、これによって低温保存された胚のストックを作る工程;
を包含する、方法。
(項目17)
創始コロニーに由来する、非ヒト動物の低温保存された胚の血統トラックストックを作
る方法であって、該方法は、以下:
(a)非ヒト動物系統の創始コロニーから後裔を獲得する工程であって、ここで、該後
裔は、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)胚を同腹仔のオス−メス対から作る工程;
(c)(b)において作られた胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストックの
各胚の血統が、低温保存された各胚が同定可能な血統を有するようにトラックされ、これ
により、低温保存された胚のストックを作る工程
を包含する、方法。
(項目18)
非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)生きた動物を、創始コロニーに由来する血統トラックストックの低温保存された
胚から作る工程;
(b)新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を、(a)で作られた
、該生きた動物から選択し、該創始コロニーを再構築する工程;
(c)工程(a)〜工程(b)を適切な間隔で反復し、これによって、該近交系の遺伝
的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
(項目19)
項目18に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、前記血統トラックストック
の同胞胚から作られる、方法。
(項目20)
項目19に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目21)
項目20に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目22)
非ヒト動物の低温保存された胚の血統トラックストック。
(項目23)
項目22に記載のストックであって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である
、ストック。
(項目24)
項目23に記載のストックであって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、ス
トック。
(項目25)
遺伝的浮動が制限された非ヒト動物近交系を供給するための方法であって、ここで、該
方法は、以下;
(a)該近交系に関する創始コロニーを維持する工程;
(b)該創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストックを作る工程

(c)生きた動物を、該血統トラックストックの低温保存された胚より作る工程;
(d)新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を、(c)で作られた
該生きた動物から選択し、該創始コロニーを再構築する工程;
(e)工程(c)〜工程(d)を適切な間隔で反復し、これによって、遺伝的浮動が制
限された非ヒト動物近交系マウス系統を維持する工程;
(f)非ヒト動物を、顧客の注文に応答して顧客に提供する工程
を包含する、方法。
(項目26)
項目25に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、前記血統トラックストック
の同胞胚から作られる、方法。
(項目27)
項目26に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目28)
項目27に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目29)
非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)該近交系の創始コロニーを維持する工程;
(b)該創始コロニーに由来する低温保存された生殖体または生殖体前駆体の血統トラ
ックストックを作る工程;
(c)生きた動物を、該血統トラックストックの低温保存された生殖体または生殖体前
駆体から作る工程;
(d)新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を、該生きた動物から
選択し、該創始動物コロニーを再構築する工程;
(e)工程(c)〜工程(d)を、適切な間隔で反復し、これにより、該近交系の遺伝
的安定性を維持する工程
を包含する、方法。
(項目30)
項目29に記載の方法であって、ここで、生殖体または生殖体前駆体から作られた生
きた動物が、単一の同腹仔のオス−メス対から得られる、方法。
(項目31)
項目30に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目32)
項目31に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目33)
創始コロニーに由来する非ヒト動物の生殖体または生殖体前駆体の血統トラックストッ
クを作る方法であって、該方法は、以下:
(a)非ヒト動物系統の創始ストックから後裔を取得する工程であって、ここで、該後
裔は、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)生殖体または生殖体前駆体を、同腹仔のオス−メス対から作る工程;
(c)(b)において作られた生殖体または生殖体前駆体を、低温保存し、これによっ
て、低温保存された生殖体または生殖体前駆体のストックを作る工程;
を包含し、ここで、該ストックの各生殖体または生殖体前駆体の該血統が、低温保存され
た生殖体または生殖体前駆体の各々が同定可能な血統を有するようにトラックされる、方
法。
(項目34)
項目33に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目35)
項目34に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目36)
非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持するための方法であって、該方法は、以下:
(a)生きた動物を、前記血統トラックストックの低温保存された生殖体または生殖体
前駆体から作る工程;
(b)新規の創始動物として使用される同腹仔のオス−メス対を、(a)において作ら
れた該生きた動物から選択し、創始動物コロニーを再構築する工程;
(c)工程(a)〜工程(b)を適切な間隔で反復し、これによって該近交系の遺伝的
安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
(項目37)
項目36に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、単一の同腹仔のオス−メス
対から得られた生殖体または生殖体前駆体から作られる、方法。
(項目38)
項目37に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目39)
項目38に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目40)
低温保存された非ヒト動物生殖体または生殖体前駆体の血統トラックストック。
(項目41)
項目40に記載のストックであって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である
、ストック。
(項目42)
項目41に記載のストックであって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、ス
トック。
(項目43)
非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)該近交系の創始コロニーを維持する工程;
(b)該創始コロニーに由来する低温保存された胚幹細胞の血統トラックストックを作
る工程;
(c)該血統トラックストックに由来する低温保存された胚幹細胞から生きた動物を作
る工程;
(d)該生きた動物から、新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を
選択する工程;
(e)工程(c)〜工程(d)を、適切な間隔で反復し、これにより、該近交系の遺伝
的安定性を維持する工程
を包含する、方法。
(項目44)
項目43に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、単一の同腹仔のオス−メス
対から得られる胚幹細胞より作られる、方法。
(項目45)
項目44に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目46)
項目45に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目47)
創始コロニーに由来する非ヒト動物の胚幹細胞の血統トラックストックを作る方法であ
って、該方法は、以下:
(a)非ヒト動物系統の創始ストックから後裔を取得する工程であって、ここで、該後
裔は、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)胚幹細胞を、同腹仔のオス−メス対から作る工程;
(c)(b)において作られた胚幹細胞を、低温保存し、これによって、低温保存され
た胚幹細胞のストックを作る工程;
を包含し、ここで、該ストックの各胚幹細胞の該血統が、低温保存された各胚幹細胞が同
定可能な血統を有するようにトラックされる、方法。
(項目48)
項目47に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目49)
項目48に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
(項目50)
非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、ここで、該方法は、以下:
(a)生きた動物を、前記血統トラックストックの低温保存された胚幹細胞から作る工

(b)新規の創始動物対として使用される同腹仔のオス−メス対を、(a)において作
られた該生きた動物から選択する工程;
(c)工程(a)〜工程(b)を、適切な間隔で反復し、これにより、該近交系の遺伝
的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
(項目51)
項目50に記載の方法であって、ここで、生きた動物は、単一の同腹仔のオス−メス
対から得られる胚幹細胞から作られる、方法。
(項目52)
項目51に記載の方法であって、ここで、前記非ヒト動物が、齧歯類動物である、方
法。
(項目53)
項目52に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、創始コロニーに由来する十分な数の血統トラックされる胚を作り、近交系の遺伝的安定性を維持するための低温保存される血統トラックされる胚を作るためのスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、非ヒト動物近交系の遺伝的安定性を維持する新規の方法を提供する。本明細
書中で用いられる場合、近交系動物の遺伝的安定性は、創始コロニーに由来する低温保存
された血統トラックされる胚を作ること、およびこれらを用いて適切な間隔で創始コロニ
ーを再構築することにより維持される。この方法の実行により、一定の期間に継代した(
pass)世代数が減少し、その結果、遺伝的浮動のリスクが減少する。低温保存された
各胚の血統が公知であるので、同胞(すなわち、同一の親由来)である胚のみを選択的に
回復し得る。結果として、近交系マウス系統は、このマウス系統の近交系ステータスをイ
ンタクトに保ちながら、連続性同腹仔のオス−メス交配を通して増殖する。
【0017】
(I.低温保存された胚を用いた遺伝的安定性の維持)
本発明は、非ヒト動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法を提供する。一つの実施
形態では、この方法は、以下:(1)近交系の創始コロニーを維持する工程;(2)この
創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストックを作る工程;(3)適
切な間隔で、近交系交配対である低温保存された胚を選択し、そしてこの胚から生きた動
物を作る工程;(4)この系統の動物を作るために、作られたこの動物から、近交系交配
対を選択し、そしてこの対を新規の創始対として使用する工程;および(5)工程(3)
〜工程(4)を適切な間隔で反復する工程、を包含する。この様式では、この近交系マウ
ス系統の遺伝的浮動が最小にされ、そしてこの系統の遺伝的安定性が効果的に維持される

【0018】
本発明で使用される場合、用語「遺伝的安定性」とは、現在利用可能な方法を用いて上
記近交系が維持された場合に生じたであろう遺伝的浮動と比較して、近交系の遺伝的浮動
が有効に減少することをいう。遺伝的浮動の有効な減少は、近交系の遺伝子型の変化が減
少することを意味する。この変化がゲノム中で生じる場所に依存して、遺伝子型の変化が
表現型の変化をもたらす可能性もあるし、もたらさない可能性もある。例えば、ゲノムの
非コード化領域における変異は、動物の表現型に変化をもたらさない。重要なことに、遺
伝的安定性プログラムのもとで維持された系統の創始ストックにおいて生じる変異は、そ
の系統に残存しない。なぜなら、この変異は、低温保存された胚を解凍し、そしてこれを
新規の創始ストックとして使用する際に、動物のコロニー全体から浄化(purge)さ
れるからである。遺伝的浮動は、種々の指標(例えば、被覆の色、生物化学マーカーアイ
ソエンザイムおよび免疫学的マーカーアイソエンザイム、主要組織適合遺伝子複合体(M
HC)、赤血球抗原、溶血性補体(Hc−形式的にはC5)、尾皮膚移植、および挙動の
変化が挙げられる)を試験することにより評価され得る。遺伝的浮動はまた、当該分野に
おいて利用可能な任意の技術(例えば、二次元タンパク質ゲル、PCR、SNP、遺伝子
発現プロファイリング、および配列決定)を用いて、種々の分子マーカーを試験すること
により評価され得る。
【0019】
近交系は、管理された交配計画により作られ、ヘテロ接合の減少につながる。受容可能
な交配計画としては、以下:親−子孫交配および同腹仔のオス−メス交配が挙げられる。
近交系は、代表的には、10以上の連続した世代についての同腹仔のオス−メスを交配す
ることにより作られる。近交系の第10番目の世代またはその後の世代が、単一の祖先交
配対へとトラックされ得る。好ましい実施形態では、近交系は、オスを20以上の連続し
た世代のメスと交配することにより、作られ、そして第20番目以降の世代の動物は、単
一の祖先交配対へとトラックされ得る。
【0020】
本明細書中で用いられる場合、用語「近交交配対」とは、交配がヘテロ接合の減少につ
ながる任意の交配対をいう。近交系交配対は、親−子孫対または同腹仔のオス−メス対で
あり得る。好ましい実施形態では、この近交系交配対は、同腹仔のオス−メス対であり得
る。記載の簡便のため、同腹仔のオス−メス対は、本願の間を通して、例示のために使用
され、本発明を記載する。しかし、当業者は、親子孫対は、本発明において同腹仔のオス
−メス対に代替し得ることを認識する。
【0021】
(a.近交系の創始コロニーを維持する工程)
近交系マウス系統の創始コロニーは、当業者に公知の技術を用いて維持される。本明細
書中で用いられる場合、用語「創始コロニー」とは、上記系近交系後の全ての動物が由来
するコロニーをいう。創始動物対は、近交系交配対であり、この純粋交配ストックは、特
定の系統のために次の全ての動物を生じさせる。創始動物は、創始コロニーより選択され
る。
【0022】
非ヒト動物は、好ましくは、齧歯類動物(例えば、ラットまたはマウス)である。非ヒ
ト動物はまた、ハムスター、モルモット、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、七面鳥
、霊長類またはその他の任意の非ヒト動物であり得、これらに関して、近交系マウス系統
が維持される。
【0023】
近交系マウス系統としては、129S1、129T2、129X1、129P3、12
9P1、A、AKR、BALB/c、C3H、C57BL/10、C57BL/6、C5
7BLKS、C57BR/cd、C57L、CBA、DBA/1、DBA/2、FVB、
MRL、NOD、SJL、SWR、NOR、NZB、NZW、RBF、BUB、I、LP
、NON、P、PL、RIIS、SM、C58、ALR、ALS、BPH、BPL、BP
N、DDY、EL、KK、LG、MA、NH、NZM2410、NZO、RF、SB、S
EA、SI、SOD1、YBR、およびこれらのマウス系統の各々の全ての近交系亜系(
substrain)が挙げられるが、これらに限定されない。受容されたマウス系統の
命名法の使用は、Lab Codeの付加により、この系統コードの末端にて、各系統が
さらに同定されることが必要とされ、そしてLab Codeの現在の一覧表は、Int
ernational Laboratory Code Registryを維持し、
http://dels.nas.edu/ilar/codes.aspにてアクセス
され得るInstitute for Laboratory Animal Rese
archにより維持されている。
【0024】
本明細書中で用いられる場合、用語「亜系」とは、遺伝的に互いに異なる同一のマウス
系統の範囲内のコロニーをいう。亜系は、同一の近交系の2個のコロニーが10世代より
も多くの世代の間隔てられている場合に生じ得るか、または同一の系統の別個のコロニー
間の公知の遺伝的差異が存在する場合に生じ得る。別個の亜系間の遺伝的差異はまた、分
離の際の祖先の残留ヘテロ接合の名残りの結果でもあり得、このヘテロ接合は、固定され
、そして/または後の世代の間の偶発性突然変異の結果(遺伝的浮動)である。亜系の例
としては、129S1/SvImJ、129T2/SvEmsJ、129X1/SvJ、
129P3/J、A/J、AKR/J、BALB/cByJ、BALB/cJ、C3H/
HeJ、C3H/HeOuJ、C3HeB/FeJ、C57BL/10J、C57BL/
6J、CBA/CaHN−Btkxid/J、CBA/J、DBA/1J、DBA/1L
acJ、DBA/2J、FVB/NJ、MRL/MpJ、NOD/LtJ、SJL/J、
SWR/J、NOR/LtJ、NZB/BlNJ、NZW/LacJ、RBF/DnJ、
129S6/SvEvTac、AJTAC、BALB/cAnNTac、BALB/cJ
BomTac、BALB/cABomTac、C57BL/6NTac、C57BL/6
JBomTac、C57BL/10SgAiTac、C3H/HeNTac、CBA/J
BomTac、DBA/1JBomTac、DBA/2NTac、DBA/2JBomT
ac、FBV/NTac、NOD/MrkTac、NZM/AegTac、SJL/Jc
rNTac、BALB/cAnNCrlBR、C3H/HeNCrlBR、C57BL/
6NCrlBR、DBA/2NCrlBR、FVB/NCrlBR、C.B−17/Ic
rCrlBR、129/SvPasIcoCrlBR、SJL/JorlIcoCrlB
R、A/JolaHsd、BALB/cAnNHsd、C3H/HeNHsd、C57B
L/10ScNHsd、C57BL/6NHsd、CBA/JCrHsd、DBA/2N
Hsd、FVB/NHsd、SAMP1/KaHsd、SAMP6/TaHsd、SAM
P8/TaHsd、SAMP10/TaHsd、SJL/JCrHsd、AKR/Ola
Hsd、BiozziABH/RijHsd、C57BL/6JOlaHsd、FVB/
NhanHsd、MRL/MpOlaHsd、NZB/OlaHsd、NZW/OlaH
sd、SWR/OlaHsd、129P2/OlaHsd、および129S2/SvHs
dが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
近交系マウスストックはまた、任意のトランスジェニック技術、ノックアウト技術もし
くはsiRNA(小さなRNA干渉)技術または将来の遺伝子操作技術により作られる、
10以上の世代の間、同腹仔のオス−メスを交配した全てのストックを包含する。
【0026】
(b.低温保存された胚の血統トラックストックの作製)
本明細書中に記載される場合、本発明の一つの局面は、創始コロニー由来する低温保存
された動物胚の血統トラックストックを作る方法に関する。
【0027】
血統トラックストックは、ストックの各胚の血統が既知であるストックである。この胚
の血統は、この胚の系図に従い、そしてこの系図の情報を記録することによりトラックさ
れ得る。例えば、各胚は、血統の情報で別個に標識され得る。あるいは、同胞胚は、物理
的に貯蔵され、そして一緒に標識され得る。本明細書中で使用される場合、用語「同胞胚
」とは、単一の同腹仔のオス−メス対(または近交系交配対)に由来する胚をいう。この
低温保存した胚は、当業者に公知の方法により貯蔵され得る。一つの実施形態では、低温
保存した胚は、滅菌したプラスチック受精ストロー中に貯蔵される。各ストローは、同胞
胚のみを含む。ストローは、胚を一つのみを含み得るか、または複数の同胞胚を含み得る
。あるいは、低温保存された胚は、他の適切な容器(例えば、プラスチックのバイアルま
たはガラスのアンプル)に貯蔵され得る。
【0028】
本発明の血統トラックストックの胚は、首尾よく低温保存され、そして生きた動物を作
るために回復され得る任意の段階の胚であり得る。このような胚としては、全ての段階(
接合子から胚盤胞まで)の移植前の胚が挙げられる。従って、本発明の胚は、例えば、1
細胞胚(接合子)、2細胞胚、4細胞胚、8細胞胚、桑実胚または胚盤胞であり得る。桑
実胚は、1細胞胚の卵割から生じる細胞の球塊である;上記胚盤胞は、上記桑実胚から発
生し、そして胞胚腔および細胞の非対照的に置かれた房、内細胞塊を有する。
【0029】
本明細書中で用いる場合、用語「低温保存された」とは、凍結されることをいう。本発
明の細胞、胚、生殖体、または生殖体前駆体は、一般的に0℃よりも低い温度にて凍結さ
れる。例えば、−80℃が、短期の貯蔵に対して使用され得、−196℃以下の温度が、
長期の保存に対して使用され得る。本発明の細胞、胚、生殖体または生殖体前駆体が、無
期限に低温保存され得る。低温保存のための方法および道具は、当業者に周知である。例
えば、米国特許第5,160,312号、発明の名称「Cryopreservatio
n Process for Direct Transfer of Embryos
」、GlenisterおよびHall、「Cryopreservation and
rederivation of embryos and gametes」、Mo
use Genetics & Transgenics:A Practical A
pproach、第2版、(I Jackson & C Abbott編)Oxfor
d Univ.Press.Oxford,pp.27〜29を参照のこと。
【0030】
本明細書中で用いられる場合、「創始コロニー由来の胚」は、創始動物対から直接的に
得られる胚、およびこの創始動物対の後裔から得られる胚を包含する。
【0031】
低温保存されたストックにおいて必要とされた胚の数は、多くの因子(例えば、遺伝的
安定性プログラムが維持されるはずの時間の長さ、低温保存されたストックが使用されて
創始コロニーを再構築する頻度、生きた動物を低温保存された胚から作る効率)に依存す
る。これらの因子は、種々の動物種の間で異なり、そして同一の動物種の様々な系統の間
で異なる。例えば、異なる近交系からのマウスは、低温保存された胚の回復効率が異なる
ことが公知である。
【0032】
所望の数の胚を作るために必要とされるメスの動物の数もまた様々である。必要とされ
るメスの数は、各メスから得られ得る卵母細胞の数(受精した卵母細胞の比率および胚移
送に続く期間にまで発生する胚の比率)と逆の相関がある。従って、必要とされるメスの
数は、各工程の効率の関数である。各工程の効率高いと、必要とされるメスの総数が減少
する。
【0033】
一つの実施形態では、低温保存された胚の血統トラックストックが、最初に胚を、創始
コロニーの同腹仔のオス−メス対(創始動物対)から得、次いで、この胚を低温保存する
ことにより作られ得る。血統の情報がトラックおよび記録され、その結果、各低温保存さ
れた胚が、同定可能な血統を有する。この実施形態では、胚は、創始動物対を交配するこ
とにより直接的に作られる。結果として、この血統トラックストックは、同胞胚のみを含
む。
【0034】
あるいは、この創始コロニーは、最初に広げられ、適切な数の同腹仔のオス−メス対を
作る。従って、別の実施形態では、創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラ
ックされるストックは、以下:(1)後裔が十分な数の同腹仔のオス−メス対を含むよう
に、この後裔を創始コロニーから取得する工程;(2)(1)において取得した後裔の間
で胚を同腹仔のオス−メス対からの胚を作る工程;ならびに(3)(2)において作られ
た胚を低温保存する工程、により作られ得る。血統の情報は、トラックおよび記録され、
その結果、低温保存された各胚は、同定可能な血統を有する。この実施形態において作ら
れた血統トラックストックは、一つより多くの同腹仔のオス−メス対に由来する胚を含む

【0035】
一つの同腹仔のオス−メス対は、オスまたはメスのいずれかが2対の間で異なる場合、
別の対とは異なる。例えば、オスAおよびメスBは、オスAおよびメスC、ならびにオス
DおよびメスBとは異なる。本明細書中で用いられる場合、「後裔」とは、創始動物対に
由来する動物の世代(例えば、F1世代、F2世代、F3世代およびF4世代を含む)を
いう。「別個の同腹仔のオス−メス対の適切な数」は、低温保存されたストックを作り出
し、そして近交系の遺伝的安定性を維持する目的で、十分な数の胚を作る数である。
【0036】
後裔を創始動物ストックから取得する工程は、当業者に公知の交配技術(例えば、自然
交配、人工受精およびインビトロでの受精)により達成され得る。
【0037】
胚は、同腹仔のオス−メス創始動物対を交配することにより取得され得る。本明細書中
で用いる場合、「交配」は、受精が起こるような、オスの生殖体およびメスの生殖体の結
合を意味する。このような結合は、交尾(mating)(交接)により、またはインビ
トロもしくはインビボの人工的手段により生じ得る。人工的な手段としては、人工受精、
インビトロでの受精、胚の移送、細胞質内精子注入、クローニング、受精した卵母細胞の
インビトロ培養、および胚の分裂が挙げられるが、これらに限定されない。適切に熟成し
た胚を作る任意の方法が使用され得る。
【0038】
人工受精は、精子を手動注入または手動適用することにより、メスの動物を受精させる
プロセスである。このような手順では、オスの動物は、受精の時に必要とされないで、精
子がこの動物から予め取得された。Wolfe,1967、ならびに、SatoおよびK
umura,2002を参照のこと。交配が自然交配または人工受精により達成される場
合、胚は、交配または人工受精の後、メスの卵管または子宮を洗浄することにより得られ
る。Hoganら、2003を参照のこと。この胚分裂技術は、当業者に周知である。胚
分裂は、例えば、マイクロマニピュレーターを用いて、または類似の手順を用いて、正常
な胚を(2細胞から桑実胚まで)分割することにより、実行され得る。
【0039】
インビトロでの受精(IVF)はまた、当該分野で周知である。例えば、Hoganら
、Manipulating the Mouse Embryos,A Labora
tory Manual,第2版、146頁〜147頁(1994)を参照のこと。IV
Fは、一般的に、卵母細胞および精子をそれぞれメスおよびオスから収集する工程、この
メスからの卵母細胞を、オスからの精子で受精させる工程、ならびに、生じた受精した卵
母細胞が胚へと発生するのに適切な条件下で、生成した受精卵母細胞を維持する工程を包
含する。胚は、種々の段階で収集され得る。上記メスは、過排卵し得、その後、卵母細胞
がIVFのために収集される。例えば、Hoganら、2003を参照のこと。本明細書
中で用いられる場合、この卵母細胞および精子は、同腹仔のオス−メス対から取得される
。IVFは、単一のメスから取得される胚の数を増加するための有用な手段であり得る。
【0040】
細胞質内精子注入(ICSI)は、受精速度を改善するために使用され得る。このIC
SI手順は、卵母細胞の周囲を囲っている卵丘細胞(cumulus cell)の除去
およびこの精子の卵母細胞への注入(通常は、ガラスピペットを通しての注入)を伴う。
KimuraおよびYanagimachi、1995を参照のこと。
【0041】
成熟した卵母細胞をIVFのためにメスから収集する代替策として、未熟な卵母細胞が
取得され、そしてインビトロで成熟可能にし得る(「インビトロ成熟化」として公知)。
哺乳動物では、ごく一部の未熟な卵母細胞しか、成熟した卵母細胞へと発生せず、そして
残りは、退化し、そして死ぬ。未熟な卵母細胞を動物から単離し、そしてこれら未熟な卵
母細胞をインビトロで成熟させることにより、IVFにとって適切な多くのより多くの卵
母細胞を所定のメスから取得し得る。哺乳動物の卵母細胞は、インビトロで成熟すること
が公知である。マウス、ウシおよび他の哺乳動物の場合、インビトロで成熟した卵母細胞
は、インビトロで受精し、そして胚が適切な子宮へと移送された場合、正常で健康な子孫
を生じる(SchroederおよびEppig 1984 Dev.Biol.102
:493;Sirardら、1988,Biol.Reprod.39:546)。イン
ビトロ成熟技術は、当該分野で周知である。例えば、Chiuら、Effects of
Myo−inositol on the in−vitro Maturation
and Subsequent Development of Mouse Ooc
ytes,Human Reprod.18:408〜416(2003)およびO’B
rienら、A Revised Protocol for In Vitro De
velopment of Mouse Oocytes from Primordi
al Follicles Dramatically Improves Their
Developmental Competence,Biol.Reprod.68
:1682〜1686(2003)を参照のこと。
【0042】
別の代替策では、卵母細胞は、所望のメスからの卵巣の一部が予め移植された「ホスト
」メスから収集され得る。所望のメスが、創始コロニーに由来する同腹仔のオス−メス対
の同腹仔のメスである場合、IVFのために、このメスからの卵母細胞が必要とされる。
これは、同腹仔のオス−メス対の同腹仔のメスから卵巣を収集すること、この卵巣を断片
(section)へとさらに分割すること、手術により卵巣が断片化された(ovar
isectomized)ホストのメスまたは化学的にもしくは遺伝的に損なわれたホス
トのメスへと各断片を移植すること、および卵母細胞をこのホストのメスの各々から収集
すること、により達成される。このアプローチにより、所定のメスに関して取得される卵
母細胞がより多くなる。
【0043】
(c.低温保存された胚のストックから生きた動物を作ること)
適切な時点で、低温保存された同胞胚が選択され、そして生きた動物がこれらの同胞胚
より作られる。一つの実施形態では、生きた動物は、同胞胚の一つのセットから作られる
。別の実施形態では、生きた動物は、同胞胚の一つよりも多くのセットより作られる。
【0044】
生きた動物を低温保存された胚から作る工程が、当業者に公知の技術を用いて実行され
得る。一つの実施形態では、生きた動物が低温保存された胚より、以下:(1)この低温
保存された胚を解凍する工程;(2)この解凍した胚を、少なくとも一つの偽妊娠のメス
のレシピエントへと移植する工程;および(3)生きた動物を作るのに適した条件下で擬
妊娠のメスのレシピエントを維持する工程、により作られる。結果として、生きた動物が
作られる。
【0045】
本明細書中で用いられる場合、用語「解凍」とは、低温保存された材料の温度を上昇さ
せるプロセスをいう。低温保存された材料を解凍する方法(その結果、これらの方法によ
り、解糖プロセス後に生きた動物が生じ得る)は、当業者に周知である。
【0046】
本明細書中で胚に関して用いられる場合、用語「移植」とは、本明細書中に記載の胚を
有するメスの動物に、一つ以上の胚を移送することをいう。偽妊娠のメスのレシピエント
は、たとえ自身が受精していない卵が退化しても、移送された胚に対して、生殖路(re
productive tract)が受容性になるメスの動物である。偽妊娠のメスの
動物が、例えば、メスを無菌のオスと交配させることにより作られる。偽妊娠のメスを移
植する技術は、当業者に周知である。例えば、Hoganら、Manipulating
the Mouse Embryos,A Laboratory Manual、第
2版、170頁〜181頁におけるRecovery,Culture and Tra
nsfer of Embryosを参照のこと。これらの胚は、子宮で発生することが
可能であり得るか、または代わりに、この子宮は、分娩前に胎仔環境から除去され得る。
【0047】
(d.作られた生きた動物から新規の創始動物対を選択すること)
工程(c)において作られた生きた動物から、新規の創始動物対になる同腹仔のオス−
メス対が選択され、創始コロニーを再構築する。このマウス系統の後代の全ての動物は、
低温保存されたストックを用いて上記創始コロニーを再構築する工程が、次の節で記載さ
れるように反復されるまで、この新規の創始動物対に由来する。
【0048】
同腹仔のオス−メス対は、創始動物対としてランダムに選択され得る。あるいは、この
創始動物対は、表現型スクリーニング、遺伝子型スクリーニング、またはこれら両方の組
み合わせにより選択され得る。表現型スクリーニングは、目視検査(例えば、コートカラ
ーおよび挙動の変化)により行われ得る。表現型スクリーニングはまた、筋肉の握力強度
の定量的な分析により行われ、呼吸速度、一回換気量、および他の呼吸指標(呼吸性チャ
レンジを伴うものまたは伴わないもの)の無制限の測定、COの生成とOの取り込み
、食物および水の摂取、運動活性(locomotor activity)および日周
期パターンの同時測定、臨床的化学試験および血液化学試験、標本化された組織の発現プ
ロファイリングにより行われる。遺伝子型スクリーニングは、種々の指標(例えば、生物
化学的マーカーおよび免疫学的マーカーのアイソエンザイム、主要組織適合遺伝子複合体
(MHC)、赤血球の抗原、溶血性補体(Hc−形式的には、C5)、ミクロサテライト
および一塩基多型(SNP)が挙げられる)を試験することにより行われ得る。遺伝子型
スクリーニングは、当該分野で利用可能な任意の技術(例えば、PCRおよび配列決定が
挙げられる)により実行され得る。
【0049】
(e.工程(c)〜工程(d)の反復)
適切な間隔で、生きた動物を血統トラックストックから作り、そして同腹仔のオス−メ
スを新規の創始動物対として選択するプロセスが反復される。「適切な間隔」は、低温保
存されたストックを用いて、創始コロニーを再構築するために使用される間隔であり、こ
の間隔が、近交系の遺伝的安定性の維持をもたらす。この適切な間隔は、系統について経
験的に(例えば、このストックの遺伝的浮動の比率を評価することにより)決定され得る
。従って、この決定された適切な間隔は、種々の近交系動物種間で、および同一の動物種
内の異なる系統の間で、変動し得る。あるいは、適切な間隔は、予め規定された間隔であ
り得る。適切な間隔は、1世代〜40世代までの間の任意の数の世代ごと(例えば、各世
代ごと、5世代ごと、10世代ごと、20世代ごと、または40世代ごと)であり得る。
【0050】
本発明の別の局面は、近交系動物の遺伝的安定性を維持する方法に関する。この方法は
、生きた動物を、上記近交系の創始コロニーに由来する血統トラックストックの低温保存
された胚から作る工程、この生きた動物から新規の創始動物対として選択された同腹仔の
オス−メス対を用いる工程、および上記手順を適切な間隔で反復する工程を包含する。
【0051】
本発明のなお別の局面は、創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックス
トックを提供する。この血統ストックは、本明細書中に記載の任意の方法により作られ得
るか、またはこれらの方法の任意の改変により作られ得る。このような低温保存された血
統トラック胚は、適切な間隔で創始コロニーを再構築するために使用され得る。一つの実
施形態では、この低温保存された血統トラックストックは、単一の同腹仔のオス−メス創
始動物対の交配により得られた胚のみを含む。別の実施形態では、この低温保存された血
統トラック胚は、創始コロニーに由来する一つより多くの同腹仔のオス−メス対の交配に
より得られる胚を含む。
【0052】
本発明のさらなる局面は、本明細書中に記載された方法により作製された、遺伝的に安
定した非ヒト動物近交系に関する。
【0053】
本発明のなおさらなる局面は、遺伝的浮動が制限された非ヒト動物近交系を供給するビ
ジネスの方法を提供する。この方法は、以下:(1)上記近交系の創始コロニーを維持す
る工程;(2)上記創始コロニーに由来する低温保存された胚の血統トラックストックを
作る工程;(3)適切な時点において、同胞である低温保存された胚を選択し、この胚か
ら生きた動物を作る工程;(4)同腹仔のオス−メス対を、上記作られた動物から選択す
る工程およびこれらを新規の創始動物対として用いて、この系統の将来の動物を誘導する
工程;(5)工程(1)〜工程(4)を適切な間隔で反復する工程、ならびに(6)顧客
の注文に応えて顧客に動物を提供する工程、を包含する。
【0054】
(II.低温保存された生殖体または生殖体前駆体のストックを用いて、遺伝的安定性
を維持する工程)
近交系の遺伝的安定性を維持する目的で、血統トラックストックを作り出すために、近
交系の創始コロニーに由来する胚、生殖体または生殖体前駆体を使用することの代替策が
使用され得る。
【0055】
従って、本発明は、近交系の遺伝的安定性を維持する方法を提供し、この方法は、以下
:(1)近交系の創始コロニーを維持する工程;(2)上記創始コロニーに由来する低温
保存された生殖体または生殖体前駆体の血統トラックストックを作る工程およびそれらか
ら生きた動物を作る工程;(3)適切な間隔で、単一の同腹仔のオス−メス対から得られ
た、低温保存された生殖体または生殖体前駆体を選択する工程;(4)上記生じた動物か
ら同腹仔のオス−メス対を選択し、そしてこれらを新規の創始動物対として使用し、この
系統の将来の動物を作る工程;ならびに(5)工程(3)および工程(4)を適切な間隔
で反復する工程、を包含する。
【0056】
本明細書中で用いられる場合、用語「生殖体」とは、新規の二倍体の個体の形成を開始
し得る、任意のオスまたはメスの生殖細胞をいう。生殖体の例は、精子および卵母細胞で
ある。生殖体は、動物から収集される流体、組織、および器官の中に存在し得る(例えば
、精子は、精液の中に存在する)。
【0057】
用語「生殖体前駆体」は、生殖体を作り得る任意の前駆体を包含する。このような前駆
体は、上記生殖体の前駆体細胞(progenitor cell)であり得る。精子に
ついての前駆体細胞としては、始原生殖細胞、精原細胞(A1型精原細胞、A2型精原細
胞、A3型精原細胞およびA4型精原細胞が挙げられる)、精原幹細胞、中間精原細胞、
B型精原細胞、一次精母細胞、二次精母細胞、ならびに精子細胞が挙げられるが、これら
に限定されない。卵母細胞の前駆体細胞としては、始原生殖細胞、卵原細胞、一次卵母細
胞、二次卵母細胞が挙げられるが、これらに限定されない。このような前駆体はまた、胚
幹細胞であり得、この胚幹細胞は、生殖体を作り得る。例えば、Hubnerら、Sci
ence 300:1251〜6(2003)を参照のこと。用語「生殖体前駆体」とは
また、生殖体を作り得る任意の細胞、組織または器官(例えば、卵巣および精巣を包含す
る)をいう。
【0058】
始原生殖細胞は、生殖細胞になり得る2倍体の体細胞である。始原生殖細胞は、例えば
、生殖隆起(genital ridge)より単離され得る。生殖隆起は、発生する胚
の公知の規定の領域であり、そして当業者に周知である。例えば、Strelchenk
o,1996,Theriogenology 45:130〜141およびLavoi
r 1994,J.Reprod.Dev.37:413〜424を参照のこと。
【0059】
本発明の一つの局面は、創始コロニーに由来する、低温保存された生殖体または生殖体
前駆体の血統トラックストックを作る方法に関する。
【0060】
遺伝的安定性を維持するために、血統トラックストックを作り出すのに必要とされる生
殖体または生殖体前駆体の数は、胚のストックを考慮する同一のセットを用いて決定され
る。同様に、このストックのために十分な数の生殖体または生殖体前駆体を作るのに必要
とされる動物の数は、上で考察されるような、胚のストックに照らして同一の考慮(co
nsideration)で決定される。従って、生殖体または生殖体前駆体は、創始動
物対から直接的に得られ得る。あるいは、胚のストックに関して、創始コロニーは、最初
に広げられ、十分な数の特徴的な同腹仔のオス−メス対を作り、そして生殖体および生殖
体前駆体は、次いで、これらの同腹仔のオス−メス対から得られ得る。
【0061】
生殖体および生殖体前駆体は、生きた動物または胚のいずれかである同腹仔のオス−メ
ス対から得られる。生殖体または生殖体前駆体を得るための技術は、当該分野で公知であ
る。例えば、OguraおよびYanagimachi,1995、ならびにKubot
aら、2003を参照のこと。
【0062】
生殖体および生殖体前駆体は、当該分野で公知の方法を用いて低温保存され得る。例え
ば、米国特許第5,758,763(発明の名称:「Methods for Cryo
preservation of Primordial Germ Cells an
d Germ Cells」)、米国仮出願20020131957(発明の名称「Cr
yopreservation of Sperm」)、Szteinら、Biol.R
eprod.58:1071〜1074(1998)およびCandyら、2000を参
照のこと。
【0063】
血統トラックされる生殖体または生殖体前駆体のストックは、ストック内の各生殖体ま
たは生殖体前駆体の血統が、既知であるストックである。この生殖体または生殖体前駆体
の血統は、血統に従い、そして血統の情報を記録することにより、トラックされ得る。例
えば、各生殖体または生殖体前駆体は、血統の情報で別個に標識され得る。別の例として
は、単一の個体からの生殖体または生殖体前駆体は、同胞群として物理的に貯蔵され、そ
して標識され得る。この様式で、将来の単一の同腹仔のオス−メス対から得られる生殖体
または生殖体前駆体のみを選択し得る。例えば、生殖体は、特定のメスからの唯一の卵お
よびこのメスの同腹仔のオスからの精子の選択のみを可能にする様式で貯蔵され得る。
【0064】
適切な間隔にて、単一の同腹仔のオス−メス対から得られる、低温保存された生殖体ま
たは生殖体前駆体を選択し、そしてこれらから生きた動物を作り得る。低温保存された生
殖体前駆体は、この生殖体前駆体が生殖体(この生殖体は、次いでインビトロの受精を経
て、そして生きた動物を作る)を作る条件下で解凍され、培養され得る。
【0065】
一つの実施形態では、卵母細胞は、過排卵されたメスから収集され、そして低温保存さ
れる。精子は、各々のオス同胞から収集され、そして低温保存される。適切な間隔で、同
胞からの卵母細胞および精子は、解凍され、そしてIVFにより胚を作るために使用され
る。生じた胚は、子孫を作るために、偽妊娠のレシピエントに移される。
【0066】
本発明の別の局面は、近交系動物の遺伝的安定性を維持する方法に関する。この方法は
、生きた動物を、この近交系の創始コロニーに由来する血統トラックストックの低温保存
された生殖体または生殖体前駆体から作る方法を包含し、この際、上記生きた動物から選
択された同腹仔のオス−メス対を新規の創始動物対として用い、この手順を適切な間隔で
反復する工程を包含する。
【0067】
本発明のなお別の局面は、創始コロニーに由来する低温保存された生殖体または生殖体
前駆体の血統トラックストックを提供する。このような血統トラックストックは、適切な
間隔で創始コロニーを再構築するために使用され得る。
【0068】
本発明の更なる局面は、本明細書に記載の方法により作製された、遺伝的に安定化した
非ヒト動物近交系に関する。
【0069】
本発明のなおさらなる局面は、遺伝的浮動が限定された非ヒト動物近交系を供給するビ
ジネスの方法を提供する。この方法としては、以下:(1)近交系の創始コロニーを維持
する工程;(2)この創始コロニーに由来する低温保存された生殖体または生殖体前駆体
の血統トラックストックを作る工程;(3)適切な間隔で、単一の同腹仔のオス−メス対
から得られた、低温保存された生殖体または生殖体前駆体を選択する工程、およびこれら
から生きた動物を作る工程;(4)この生じた動物から同腹仔のオス−メス対を選択し、
そしてこれらを新規の創始動物対として使用し、この系統の将来の動物を作る工程;(5
)工程(3)および工程(4)を適切な間隔で反復する工程;ならびに顧客の注文に答え
てマウスを顧客に提供する工程、を包含する。
(III.低温保存されたES細胞株を用いた遺伝的安定性の維持)
胚を使用することの代替策として、近交系の創始コロニーに由来する胚幹細胞が、近交
系の遺伝的安定性を維持する目的で血統トラックストックを作り出すために、使用され得
る。
【0070】
従って、本発明は、近交系の遺伝的安定性を維持する方法を提供し、この方法は、以下
:(1)近交系の創始コロニーを維持する工程;(2)この創始コロニーに由来する低温
保存された胚の血統トラックストックを作る工程;(3)適切な間隔で、単一の同腹仔の
オス−メス対から得られた、低温保存された胚を選択する工程、およびこれらから生きた
動物を作る工程;(4)この生じた動物から同腹仔のオス−メス対を選択し、そしてこれ
らを新規の創始動物対として使用し、この系統の将来の動物を作る工程;ならびに(5)
工程(3)および工程(4)を適切な間隔で反復する工程、を包含する。
【0071】
胚幹細胞(ES細胞)は、胚から単離された多能性細胞である。ES細胞は、インビト
ロで、支持細胞有りまたは無しで、培養され得る。ES細胞は、初期胚(原理上は胚盤胞
段階の胚から単離された胚細胞から樹立され得る。ES細胞の樹立および培養の両方のた
めの方法は、当業者に周知である。例えば、WO 97/37009(発明の名称「Cu
ltured Inner Cell Mass Cell−Lines Derive
d from Ungulate Embryos」SticeおよびGolueke、
1997年10月9日刊行、ならびにYangおよびAnderson,1992,Th
eriogenology 38:315〜335を参照のこと。これらの両方は、本明
細書中にその全体が参考として援用される。本明細書中で用いられる場合、用語「胚幹細
胞」または「ES細胞」は、ES細胞株(cell line)を包含する。
【0072】
血統トラックストックのES細胞は、上記創始コロニーの同腹仔のオス−メス対を交配
することにより作られる胚から得られ得る。このような技術は、当業者に周知である。次
いで、このES細胞は、単一の同腹仔のオス−メス対から得られるES細胞のみを選択す
ることを可能にする様式で、低温保存され、そして貯蔵される。好ましくは、このES細
胞は、初期継代(例えば、3継代から20継代内)で低温保存される。
【0073】
遺伝的安定性を維持するための血統トラックストックを作り出すのに必要なES細胞の
凍結単位数は、多くの因子(例えば、遺伝的安定性が維持されるはずの時間の長さ、この
低温保存されたストックが創始コロニーを再構築するために使用される頻度、生きた動物
を低温保存されたES細胞から作る効率およびこのES細胞がこのES細胞に完全に由来
する生きた動物を作る効率)に依存する。これらの因子は、種々の動物種間で異なるだけ
ではなく、同一の動物種の異なる系統の間で異なり得る。
【0074】
ES細胞は、創始動物対の交配に由来する胚から得られ得る。あるいは、この創始コロ
ニーは、最初に広げられ、そして十分な数の特徴的な同腹仔のオス−メス対を作り、次い
で、ES細胞が、これらの同腹仔のオス−メス対の交配から生じる胚から得られ得る。
【0075】
ES細胞は、当業者に公知の方法を用いて低温保存される。例えば、Hoganら、2
003を参照のこと。
【0076】
上記血統トラックストックの低温保存されたES細胞は、解凍され、そして適切な間隔
で創始コロニーを再構築するために使用され得る。一つの実施形態では、オスおよびメス
(同腹仔のオス−メス)の胚に由来するES細胞は、別個に桑実胚段階または胚盤胞段階
の胚へと導入され、そしてこの動物の発生に関与させる。生じた子孫は、代表的には、キ
メラであり、このキメラの一部は、ホストの胚または寄与したオスもしくはメスのES細
胞のいずれかから発生した。このキメラの生殖細胞系列は、上記ホストおよび寄与したE
S細胞の両方の誘導体を含み得る。コートカラーおよび/または他の遺伝的マーカーの使
用により、使用されたES細胞に完全に由来する子孫を選択し得る。次いで、生じた子孫
は、創始コロニーを再構築するために使用され得る。
【0077】
代替の実施形態において、上記血統トラックストックのオスのES細胞およびメスのE
S細胞は、ホストの4倍体の胚で別個に凝集され(4倍体胚相補性(tetraploi
d embryo complementation))、この凝集は、例えば、電気的
パルスで、この2つの細胞段階の胚の融合により作製され得る。このようなES細胞は、
このマウス胚を首尾よく十分にコロニー化し、その一方で、この付加的な胚組織が4倍体
のホストにより供給される。これは、4倍体のホスト胚で凝集するために使用されるこの
ES細胞に依存して、オスES細胞またはメスES細胞のいずれかに完全に由来する子孫
を作る。コートカラーおよび/または他の遺伝的マーカーを用いたこのプロセスの十分な
モニタリングにより、このES細胞に由来する子孫から、任意の可能なホスト胚由来の子
孫を区別し得る。従って、各ES細胞に完全に由来する子孫を選択し得る。次いで、同腹
仔のオス−メス対は、オスES細胞(同腹仔のオス)に由来する子孫およびメスES細胞
(同腹仔のメス)に由来する子孫から選択され、創始コロニーを再構築し得る。
【0078】
このような技術は、当該分野で公知である。例えば、Hoganら、2003.Der
ivation of completely cell culture−deriv
ed mice from early−passage embryonic ste
m cells,Proc Natl Acad Sci USA.90,8424〜8
428。また、http://www.mshri.on.ca/nagy/diplo
id/diploid.htm.およびhttp://www.mshri.on.ca
/nagy/Tetraploid/tetra.htmもまた参照のこと。
【0079】
さらなる実施形態では、オスの子孫およびメスの子孫は、血統トラックストックの単一
のオスES細胞株(cell line)から作られ得る。このオスES細胞は、X染色
体およびY染色体(XY)を含む。Y染色体が、XY細胞株(cell line)のサ
ブクローンにおいて高頻度で失われることが示され、そしてこのXY ES細胞株のサブ
クローン中にXO細胞を同定することを慣用的にする。これらのXO ES細胞は、4倍
体の胚相補性またはキメラの形成のいずれかを介して出産可能なメスの子孫を作るために
使用され得る(Egganら、2002を参照のこと)。メスの子孫の一つは、創始コロ
ニーを再構築するために、オスのES細胞に由来するオスの子孫の一つと交配するために
選択され得る。
【0080】
ES細胞は、インビトロで生殖細胞を形成し得ることが公知である。Toyooka,
Yら、2003を参照のこと。従って、別の実施形態では、血統トラックストックのES
細胞は、インビトロで生殖細胞を作るために使用され、次いで、この生殖細胞は、上記E
S細胞に由来する子孫を作るために使用される。
【0081】
本発明の別の局面は、創始コロニーに由来する低温保存されたES細胞の血統トラック
ストックを作る方法に関する。
【0082】
本発明のさらなる局面は、近交系マウスの遺伝的安定性を維持する方法に関する。この
方法は、5つの工程:(1)上記近交系の創始コロニーに由来する血統トラックされる低
温保存されたES細胞株から、単一の同腹仔のオス−メス対から得られる低温保存された
ES細胞を選択し、そして生きた動物をこれらのES細胞から作る工程;(2)そのよう
にして作られた生きた動物から、同腹仔のオス−メス対を新規の創始動物対として選択す
る工程;ならびに(3)工程(1)〜(2)を適切な間隔で反復する工程;を包含する。
【0083】
本発明の別の局面は、創始コロニーに由来する低温保存されたES細胞の血統トラック
ストックを提供する。このような血統トラックストックは、適切な間隔でこの創始コロニ
ーを再構築するために使用され得る。
【0084】
本発明のさらなる局面は、遺伝的浮動が制限された非ヒト動物近交系を供給するビジネ
スの方法を提供する。この方法は、以下:(1)上記近交系の創始コロニーを維持する工
程;(2)この創始コロニーに由来する低温保存されたES細胞の血統トラックストック
を作る工程;(3)適切な間隔で、単一の同腹仔のオス−メス対から得られた低温保存さ
れたES細胞を選択し、そしてこれらから生きた動物を作る工程;(4)作られた生きた
動物から、同腹仔のオス−メス対を選択し、そしてこれらを新規の創始動物対として使用
し、この近交系の将来の動物を導き出す工程;(5)工程(1)〜工程(4)を適切な間
隔で反復する工程;ならびに顧客の注文に応えて動物を提供する工程、を包含する。
【0085】
本発明の実行は、他に示されなければ、マウスの遺伝学、発生生物学、細胞生物学、細
胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫
学の従来技術(これらは、当業者の範囲内である)を用いる。このような技術は、文献に
記載される。例えば、Current Protocols in Cell Biol
ogy,Bonifacino,Dasso,Lippincott−Schwartz
,Harford,およびYamada編、John Wiley and Sons,
Inc.New York,1999、Manipulating the Mouse
Embryos,A Laboratory Manual,第3版、Hoganら、
Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold
Spring Harbor,New York,2003,Gene Target
ing:A Practical Approach,IRL Press,Oxfor
d University Press,Oxford,1993、ならびにGene
Targeting Protocols,Human Press,Totowa,N
ew Jersey,2000を参照のこと。本明細書中に記載の全ての特許、特許出願
および参考文献が、参考としてその全体が援用される。
【実施例】
【0086】
以下に一般的に記載される発明は、以下の実施例を参照することにより、より容易に理
解され、この実施例は、本発明の特定の局面および実施形態の例示の目的で包含されるに
過ぎず、本発明を限定することを意図するものではない。
【0087】
(実施例1 胚のストックを用いて近交系の遺伝的安定性を維持する工程)
図は、遺伝的安定性を維持するために使用される、創始コロニーに由来する低温保存さ
れた胚の血統トラックストックを作るためのスキームを記述する。これは、本発明の単な
る一つの実施形態である。図中の左側のパネルは、第一の工程:創始動物対(P世代)を
選択し、そして何回か交配されて複数の同腹仔を作る。示されたスキームにおいて、6匹
の同腹仔のメスおよび2匹の同腹仔のオス(F1世代)を、次なる工程のために選択する
。図の中段のパネルは、第二の工程を示し、この第二の工程では、同腹仔をトラックする
ために、F1世代の各同腹仔のメスを別個に籠に入れる。示されたスキームにおいては、
同一のオスを、一群の3匹のF1世代の同腹仔のメスと順番に交配する。6匹のF1世代
のメスの各々を、各々の同腹仔のオスと複数回交配し、F2世代の複数の同腹仔を作る。
図の右側のパネルは、第3の工程を示し、この第3の工程では、9匹のF2世代の同腹仔
のメスおよび単一のF1世代の同腹仔のメスに由来する1匹の同腹仔のオスが、IVFで
使用され、胚を作る。IVFを、約9匹の同腹仔のメスおよび1匹の同腹仔のオスのセッ
トの6セット以上の各々に対して実行する。54匹(6×9)のメスの各々からの胚を、
個々のストローにおいて低温保存する。これは、25年以上を網羅する、2倍より多くの
重複性を与え、そしてコントロールおよび/または予知できない偶発性のための胚を含む

【0088】
適切な間隔で、低温保存されたストックからの同胞胚を解凍し、そして偽妊娠のメスの
レシピエントへと移送し、子孫を発生させる。次いで、同腹仔のオス−メス対を、新規の
創始動物対として子孫から選択し、この創始コロニーを再構築する。
【0089】
当業者は、上に記載されたものが、本発明の血統トラックされる低温保存された胚のス
トックを作るための単に一つの実施形態を表すだけであることを理解する。明らかに、こ
のスキームの詳細の多く(例えば、この胚のストックを作製する前にこの創始コロニーを
広げるのに必要とされる世代数、1世代あたりに使用されるメスの数、および使用される
近交系交配対の類型)は、変動し得る。例えば、交配対を選択し、そしてF(x+1)子
孫(ここで、xは選択の時点での世代数である)を交配対から作り得る。その間、交配対
のオスからの精子を取得し、そしてアリコートで低温保存する。メスのF(x+1)子孫
を、IVFにより解凍した精子と交配し(親−子孫交配)、低温保存し得るF(x+2)
胚を作り、血統トラックストックを作る。
【0090】
(実施例2 生殖体ストックを用いた近交系の遺伝的安定性の維持)
一つの実施形態では、創始コロニーに由来するメスマウスを、過排卵させ、そして卵母
細胞を収集し、そして低温保存する。このメスのオス同胞の各々からの精子もまた、収集
して低温保存する。胚をIVFにより作るために、適切な間隔で、同胞からの卵母細胞お
よび精子を解凍し、そして使用する。生じた胚を、偽妊娠のレシピエントに移送し、子孫
を作る。次いで、同腹仔のオス−メス対を、新規の創始動物対として子孫から選択し、こ
の創始コロニーを再構築する。
【0091】
(実施例3 生殖体前駆体ストックを用いて、近交系の遺伝的安定性を維持すること)
(低温保存した卵巣および精子)
創始コロニーに由来するメスからの卵巣を低温保存し、同様に各々のオス同胞からの精
子を低温保存する。所望の間隔で、この卵巣を解凍し、そして移送する。一度このメスレ
シピエントの受胎能が示されると、このメスに、過排卵させ、そしてこのメスの同胞に由
来する低温保存された精子を用いてこれを人工受精させ、子孫を作る。次いで、同腹仔の
オス−メス対を新規の創始動物対として子孫から選択し、創始コロニーを再構築する。
【0092】
(低温保存した卵巣および精原幹細胞)
卵巣を、上に記載されたように収集し、そして低温保存する。精原幹細胞を、オス同胞
から収集し、そして低温保存する。精原幹細胞を、適切な間隔で解凍し、そして移植し、
繁殖性のオスを作る。一度このオスの受胎能が示されると、このオスのメス同胞からの卵
巣を解凍し、そして移植する。次いで、この動物を交配し、そして子孫を作る。次いで、
同腹仔のオス−メス対を、新規の創始動物対として子孫から選択し、この創始コロニーを
再構築する。Candyら、2000、ならびにNaganoおよびBrinster
1998を参照のこと。
【0093】
(実施例4 ES細胞株を用いて近交系の遺伝的安定性を維持すること)
オスES細胞およびメスES細胞を、近交系から単離し、血統の明らかな同腹仔のオス
−メスを交配し、そして低温保存する。適切な間隔で、同腹仔のオス−メス交配に由来す
るオスES細胞およびメスES細胞を、貯蔵から回復する。ホストの胚を、遺伝的に異な
る近交系(例えば、ES細胞とは異なるコートカラー)から調製し、そして電気パルスを
介して融合を誘導し、4倍体の胚を作る。この生存胚を、桑実胚の段階で培養する。オス
ES細胞の複数の群(1〜40個の細胞)を、4倍体のホスト胚の一つの近位部分に置く
。同様に、メスES細胞(1個〜40個の細胞)の複数の群を、他の4倍体のホスト胚の
近位部分に置く。このES細胞および各々の4倍体の胚が単一の胚へと融合し(一晩培養
物)、この胚を偽妊娠のメスレシピエントへと導入する。出生後適切なコートカラーおよ
び/または他の遺伝的マーカーが使用され得、このES細胞に由来する子孫を選択し得る
。次いで、同腹仔のオス−メス対を、これらの子孫を用いて作製し、創始コロニーを再構
築し得る。
【0094】
本発明は、本発明を行い、そして使用する当業者にとって十分詳細に記載され、そして
例証されるが、種々の代替物、改変物、および改良物が本発明の精神および範囲から逸脱
することなく明らかであるはずである。
【0095】
当業者は、目的を実行し、そして言及される目標および利点ならびにそれらに固有のも
のを得るために本発明が十分に適合されることを理解する。本方法、胚のストックおよび
生殖体のストックは、好ましい実施形態の代表であり、例示的であり、そして本発明の範
囲の限定として意図されない。これらの中の改変および他の用途を、当業者は思いつく。
これらの改変は、本発明の精神の内部に包含され、そして特許請求の範囲により規定され
る。
【0096】
種々の置換および改変が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書中
に開示される発明に対してなされ得ることが当業者に容易に明らかとなる。
【0097】
本発明は、好ましい実施形態により具体的に開示され、そして本明細書中に開示される
概念の選択的な特徴、改変および変更が、当業者により頼られ得ること、ならびにこのよ
うな改変および変更が、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内であると考え
られることが理解されるはずである。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)齧歯類動物の近交系の創始コロニーを構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;
(b)低温保存された齧歯類動物の胚の血統トラックストックを維持する工程であって、ここで、該低温保存された齧歯類動物の胚は、工程(a)において構築された該創始コロニーからの同腹仔のオス−メス対または親−子孫対から得られる、工程;
(c)工程(b)において得られた該血統トラックストックの低温保存された齧歯類動物の胚から、生きた齧歯類動物を作る工程;
(d)工程(c)において得られた該生きた齧歯類動物から、新規の創始動物対として使用される血統の明らかな近交系の交配対を選択して、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該近交系の交配対は、その後の全ての系統の齧歯類動物が由来する、同腹仔のオス−メス対または親−子孫対である、工程;
(e)工程(d)において得られた新規の創始動物対を交配して、子孫を作り、それによって、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;ならびに、
(f)工程(c)〜(e)を、1世代〜20世代の間反復することにより、該創始コロニーを再補充し、遺伝型の変化の蓄積を防ぎ、それによって、齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、ここで、創始コロニーに由来する低温保存された齧歯類動物胚の血統トラックストックを維持する工程が、以下:
(a)該創始コロニーに由来する近交系の交配対から齧歯類動物胚を得る工程;および、
(b)工程(a)において得られた齧歯類動物の胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストック中での各齧歯類動物胚の血統が、低温保存された各齧歯類動物胚が同定可能な血統を有するようにトラックされ、これによって、低温保存された齧歯類動物胚のストックを作る工程
を包含する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、ここで、創始コロニーに由来する低温保存された齧歯類動物胚の血統トラックストックを維持する工程が、以下:
(a)齧歯類動物系統の創始コロニーから後裔を得る工程であって、ここで、該後裔は、近交系の交配対を含む、工程;
(b)齧歯類動物胚を近交系の交配対から作る工程;ならびに、
(c)工程(b)において作られた齧歯類動物胚を低温保存する工程であって、ここで、該ストックにおける各齧歯類動物胚の血統が、各低温保存された齧歯類動物胚が同定可能な血統を有するようにトラックされ、これにより低温保存された齧歯類動物胚の血統トラックストックストックを作る工程
を包含する、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、ここで、前記近交系の交配対から齧歯類動物胚を作る工程が、以下:
(a)該血統の明らかな近交系の交配対のメンバーを交配させ、これによって、齧歯類動物胚を作る工程;および
(b)齧歯類動物胚を収集する工程
により実行される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、ここで、交配が、交尾により実行される、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、ここで、交配が、人工受精により実行される、方法。
【請求項8】
請求項5に記載の方法であって、ここで、交配が、インビトロの受精により実行され、該インビトロの受精が、以下:
(a)卵母細胞を前記近交系の交配対のメスから収集する工程;
(b)精子を前記近交系の交配対のオスから収集する工程;
(c)工程(a)において収集された卵母細胞を、工程(b)において収集された精子を用いて受精させ、これにより、受精した卵母細胞を作る工程;および
(d)受精した卵母細胞を、受精した卵母細胞が齧歯類動物胚へと発生するのに適切な条件下で維持する工程、
を包含する、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記近交系の交配対のメスから卵母細胞を収集する前に、該近交系の交配対のメスに過排卵させる工程をさらに包含する、方法。
【請求項10】
請求項4に記載の方法であって、ここで、前記低温保存された齧歯類動物胚のストックが、ストロー内に貯蔵された低温保存された齧歯類動物の胚を含み、その結果、各ストローが単一の近交系の交配対を交配することによりもたらされる胚を含み、ここで、該単一の近交系の交配対が、同腹仔のオス−メス対または親−子孫対である、方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、ここで、前記卵母細胞を受精させる工程が、細胞質内精子微量注入により実行される、方法。
【請求項12】
請求項4に記載の方法であって、ここで、齧歯類動物胚を前記近交系の交配対から作る工程が、以下:
(a)前記近交系の交配対のメスから卵巣を単離する工程;
(b)該卵巣を、卵母細胞のインビトロ成熟にとって適切な条件下で培養し、これによって、インビトロの成熟した卵母細胞を作る工程;
(c)前記近交系の交配対のオスから精子を収集する工程;
(d)工程(b)において作られたインビトロ成熟卵母細胞を、工程(c)において収集された精子で受精させ、これにより、受精した卵母細胞を作る工程;
(e)受精した卵母細胞を、卵母細胞が齧歯類動物胚へと発生するのに適切な条件下で維持する工程;および
(f)該齧歯類動物胚を収集する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
請求項4に記載の方法であって、ここで、前記近交系の交配対から齧歯類動物胚を作る工程が、以下:
(a)卵巣を該近交系の交配対のメスから収集する工程;
(b)該卵巣を断片へとさらに分割し、これによって、卵巣断片を作る工程;
(c)各卵巣断片を、卵巣除去したホストのメス齧歯類動物へと移植し、これによって、受精能のあるホストのメス齧歯類動物を作る工程;
(d)卵母細胞を該受精能のあるホストのメス齧歯類動物から収集する工程;
(e)精子を該近交系の交配対のオスから収集する工程;
(f)工程(d)において収集した卵母細胞を、工程(e)において収集した精子で受精させ、これによって、受精した卵母細胞を作る工程;
(g)受精した卵母細胞を、卵母細胞が齧歯類動物胚へと発生するのに適切な条件下で維持する工程;および
(h)該齧歯類動物胚を収集する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)齧歯類動物の近交系の創始コロニーを構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;
(b)低温保存された生殖体の血統トラックストックを維持する工程であって、ここで、該低温保存された生殖体は、工程(a)において構築された該創始コロニーからの同腹仔のオス−メス対または親−子孫対から得られる、工程;
(c)工程(b)において得られた該血統トラックストックの低温保存された生殖体から、生きた齧歯類動物を作る工程;
(d)工程(c)において得られた該生きた齧歯類動物から、新規の創始動物対として使用される血統の明らかな近交系の交配対を選択して、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該近交系の交配対は、その後の全ての系統の齧歯類動物が由来する、同腹仔のオス−メス対または親−子孫対である、工程;
(e)工程(d)において得られた新規の創始動物対を交配して、子孫を作り、それによって、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;ならびに、
(f)工程(c)〜(e)を、1世代〜20世代の間反復することにより、該創始コロニーを再補充し、遺伝型の変化の蓄積を防ぎ、それによって、齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
【請求項16】
齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)齧歯類動物の近交系の創始コロニーを構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;
(b)低温保存された齧歯類動物の生殖体または生殖体前駆体の血統トラックストックを維持する工程であって、ここで、該低温保存された齧歯類動物の生殖体または生殖体前駆体は、工程(a)において構築された該創始コロニーからの同腹仔のオス−メス対または親−子孫対から得られる、工程;
(c)工程(b)において得られた低温保存された生殖体前駆体の血統トラックストックを解凍および移植して、血統トラックオス生殖体および/または血統トラックメス生殖体を作る工程;
(d)工程(b)および/または工程(c)で得られた、該血統トラックオス生殖体および該血統トラックメス生殖体を交配して、血統トラック胚を作る工程;
(e)工程(d)において得られた血統トラック胚から、生きた齧歯類動物を作る工程;
(f)工程(e)において得られた該生きた齧歯類動物から、新規の創始動物対として使用される血統の明らかな近交系の交配対を選択して、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該近交系の交配対は、その後の全ての系統の齧歯類動物が由来する、同腹仔のオス−メス対または親−子孫対である、工程;
(g)工程(f)において得られた新規の創始動物対を交配して、子孫を作り、それによって、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての齧歯類動物系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;ならびに、
(h)工程(c)〜(g)を、1世代〜20世代の間反復することにより、該創始コロニーを再補充し、遺伝型の変化の蓄積を防ぎ、それによって、齧歯類動物の近交系の遺伝的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、単一の同腹仔のオス−メス対から得られた生殖体または生殖体前駆体から作られる、方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、ここで、創始コロニーに由来する低温保存された齧歯類動物の生殖体または生殖体前駆体の血統トラックストックを維持する工程が、以下:
(a)齧歯類動物系統の創始ストックから後裔を得る工程であって、ここで、該後裔は、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)生殖体または生殖体前駆体を同腹仔のオス−メス対から作る工程;ならびに、
(c)(b)において作られた生殖体または生殖体前駆体を低温保存する工程であって、これにより低温保存された生殖体または生殖体前駆体のストックを作る工程
を包含し、
ここで、該ストック中の各生殖体または生殖体前駆体の血統は、トラックされ、その結果、各低温保存された生殖体または生殖体前駆体は、同定可能な血統を有し、これによって、低温保存された齧歯類動物の生殖体または生殖体前駆体のストックを作る、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、ここで、前記齧歯類動物が、マウスである、方法。
【請求項21】
近交系マウスの遺伝的安定性を維持する方法であって、該方法は、以下:
(a)近交系マウスの創始コロニーを構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全てのマウス系統が由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;
(b)低温保存されたマウス胚性幹細胞の血統トラックストックを維持する工程であって、ここで、該低温保存されたマウス胚性幹細胞は、工程(a)において構築された該創始コロニーからの同腹仔のオス−メス対または親−子孫対から得られる、工程;
(c)工程(b)において得られた、血統トラックされた低温保存されたマウス胚性幹細胞を解凍して、該マウス胚性幹細胞をホストの胚に導入して、血統トラックオス生殖体および血統トラックメス生殖体を作る工程;
(d)工程(c)で得られた、該血統トラックオス生殖体および該血統トラックメス生殖体を交配して、血統トラック胚を作る工程;
(e)工程(d)において得られた血統トラック胚から、生きたマウスを作る工程;
(f)該生きたマウスをスクリーニングして、胚性幹細胞に完全に由来するマウスを同定する工程;
(g)工程(f)において同定された該生きたマウスから、新規の創始動物対として使用される血統の明らかな近交系の交配対を選択して、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該近交系の交配対は、その後の全ての系統のマウスが由来する、同腹仔のオス−メス対または親−子孫対である、工程;
(h)工程(g)において得られた新規の創始動物対を交配して、子孫を作り、それによって、該創始コロニーを再構築する工程であって、ここで、該創始コロニーは、その後の全ての系統のマウスが由来する、同腹仔のオス−メス対、親−子孫対、または、同腹仔のオス−メス対および親−子孫対のみを含む、工程;ならびに、
(i)工程(c)〜(h)を、1世代〜20世代の間反復することにより、該創始コロニーを再補充し、遺伝型の変化の蓄積を防ぎ、それによって、近交系の遺伝的安定性を維持する工程、
を包含する、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、ここで、生きた動物が、単一の同腹仔のオス−メス対から得られた胚性幹細胞から作られる、方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、ここで、創始コロニーに由来する低温保存されたマウス胚性幹細胞の血統トラックストックを維持する工程が、以下:
(a)マウス系統の創始ストックから後裔を得る工程であって、ここで、該後裔は、適切な数の同腹仔のオス−メス対を含む、工程;
(b)胚性幹細胞を近交系の交配対から作る工程;ならびに、
(c)(b)において作られた胚性幹細胞を低温保存する工程であって、これにより低温保存された胚性幹細胞ストックを作る工程
を包含し、
ここで、該ストック中の各胚性幹細胞の血統は、トラックされ、その結果、各胚性幹細胞は、同定可能な血統を有し、これによって、低温保存されたマウス胚性幹細胞のストックを作る、方法。
【請求項24】
請求項16に記載の方法であって、ここで、前記低温保存された齧歯類動物の生殖体が1つ以上のオス齧歯類動物から得られ、そして、低温保存された齧歯類動物の生殖体前駆体が、1つ以上の同腹仔のオス−メス対または親−子孫対の1つ以上のメス齧歯類動物から得られる、方法。
【請求項25】
請求項16に記載の方法であって、ここで、前記低温保存された齧歯類動物の生殖体前駆体が1つ以上のオス齧歯類動物から得られ、そして、低温保存された齧歯類動物の生殖体が、1つ以上の同腹仔のオス−メス対または親−子孫対の1つ以上のメス齧歯類動物から得られる、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法であって、ここで、前記得られた低温保存された生殖体が精子であり、前記得られた低温保存された生殖体前駆体が卵巣である、方法。
【請求項27】
請求項24に記載の方法であって、ここで、前記得られた低温保存された生殖体が精子であり、前記得られた低温保存された生殖体前駆体が、一次卵母細胞、二次卵母細胞、または、メス始原生殖細胞である、方法。
【請求項28】
請求項16に記載の方法であって、ここで、前記低温保存された齧歯類動物の生殖体前駆体が、1つ以上の同腹仔のオス−メス対または親−子孫対から得られる、方法。
【請求項29】
請求項16に記載の方法であって、ここで、前記得られた低温保存された生殖体前駆体が、精原幹細胞および卵巣である、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、ここで、オスの生きたマウスおよびメスの生きたマウスが、工程(b)において得られた血統トラックストックの単一のオスの低温保存された胚性幹細胞株から作られる、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法であって、ここで、メスの生きたマウスが、単一のオスの血統トラックストックされた胚性幹細胞株において同定されたXO細胞から作られる、方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−105687(P2012−105687A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−55055(P2012−55055)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2006−523923(P2006−523923)の分割
【原出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(398066918)ザ ジャクソン ラボラトリー (5)
【Fターム(参考)】